Fate/Grand Order ~隻眼の弓兵~ 作:カルパン
パチパチと、どこかで肉と油がフライパンの上で舞い踊る。肉の焼ける匂いが、辺り一面に充満し、匂いだけは一級品のものである
「おはよう皆」
そんな匂いが立ちこめるなか、森の少し奥から歩いてきたギャレッドは、その場にいる全員に声をかけた
「あ、おはようございます、ギャレッド先輩」
「おはよ!もうちょっとでご飯ができるから待っといてって!だからほら、準備はボク達に任せといて二人でお喋りしてなよ」
食器を用意していたマシュが一足先にギャレッドに反応し、続けてテーブルの上の準備をしていたアストルフォが挨拶を返した
「らしいですよ?どうしますか?ギャー君」
「……ま、少しばかりはその言葉に甘えさせて頂くとしよう」
ギャレッドの腕に抱きつきながら、ジャンヌは彼に動向の方針を聞いた
積もる話もあるのだろうか、彼はその言葉を甘んじて受けることにした
突然ではあるが、ジャンヌはギャレッドが膝枕から起き上がってからずっと彼の腕に抱きついていた。まるで端から見れば、付き合いたてのカップルのようであろう
しかし彼は、やめろと言ったのだが、言っても聞かないので、半ば諦めすら覚えていた
彼女のアピールも相当な物だが、その行動の真意に辿り着いていない彼も彼である
とは言え、腐っても男であるのだろう。押し付けられ、形を変える自己主張の強いモノが腕に押し当てられ、さらにはその感触まで伝わっているのだろうか、本人は冷静を装っているが、耳だけは真っ赤である
まぁそれも当然フードに隠れて見えない訳であるが
二人は、テーブルの近くの木の切り株に腰を落とし、思い出話に花を咲かせていた
「ギャー君、私の相談、聞いてくれますか?」
「どうした、藪から棒に」
「私というサーヴァントの召喚が不完全だった、或いはこの時代の私が数日前に死んだばかりだからでしょうか……なんだか、サーヴァントの新人のような感覚なのです」
「新人ね……」
突如打ち明けられたジャンヌの告白に少し慌てながらも、真摯に聞き、彼は相槌を打った
「はい。英霊の座には過去も未来もない。ですが今の私にはその記録に触れる力すらない。故にサーヴァントとして振る舞うことが難しいのです」
「ふむ……感覚的にはどういったものなんだ?」
「そうですね……例えるなら、生前の初陣のような……あなたは私を救国の聖女と紹介しましたがその名に期待されるような力を持っているわけでもありません。なので、その……足手まといになるのではないかと……」
「……バカかお前は……」
「え……?」
「バカかと言ったんだ初陣というのなら俺だって同じだ。それに、覚えている限りではあるが、俺は聖杯戦争に全く参加した記憶がない。実質、サーヴァントとしては恐らく初めて戦うことになる。
言い終えると、不安を宥めるようにジャンヌの頭をゆっくりと、壊れ物を扱うかのような優しい手つきで撫でた
「……ありがとうございます。気が楽になりました。この時代のことは私たちがよく知っていますから、皆さんを上手く引っ張って行けるよう、共に頑張りましょう!」
「おう」
笑顔を向けるジャンヌに、ギャレッドは静かに微笑んだ
「おっとそう言えば、ジャンヌ、この事はまだ誰にも言ってないのか?」
「はい、恥ずかしい話だったので……」
「なら、これは二人だけの秘密、だな?」
「おやおや、君達は見るに付き合いたての恋人同士かな?男女の二人だけの秘密など、怪しさしかないではないか」
藪から棒にかけられた声に肩を一瞬震わせた二人であったが、直ぐに声の主を割り当てた
「べ、別にそうではないのだが?」
「そうか?私からは、思い出話とかこつけてイチャイチャしようという何処かの聖女の目論見がーー」
「わー!わぁぁぁぁ!!!!な、なんでもないですから!本当に!変な下心なんてありませんから!!!!」
「わかったわかった。わかったから落ち着け」
必死になってエミヤの口を両手で防いだジャンヌは、ギャレッドに必死に弁明を解いていた
「まぁ、ジャンヌがギャレッドのことをどう思っているかは手に取るようにわかるがな。例えばそうだな……膝枕をしてみた感想はどうだったかな?」
「ひぇっ!?な、なんでエミヤさんがそんなことを知っているんですか!?」
「いや何、マスターが撮った写真を少し見せてもらっただけさ」
「よし待っていろマスター。主と言えど今回は容赦せんぞ」
顔を近場に生えているイチゴのように真っ赤にさせるジャンヌに、真顔で立香の下へと走ってゆくギャレッド。そしてその二人を見て初々しいと感じ、ニヤニヤと二人を見守る
「さて、ジャンヌ。単刀直入に聞くが、君はギャレッドが好きなのであろう?」
「え?あ、はい、大好きです!愛しています!ずっと傍に居たいと思っていますし好きって愛を伝えて欲しいですし、私にだけあの笑顔を向けて欲しいです!それからそれからーー」
「わ、わかった。君がどれだけ彼を愛しているのか理解できたから取り敢えず落ち着こう……ともあれ、まぁ何、頑張るといい。私も応援しているし、いざとなったら手助けもしよう」
「……!あ、ありがとうございます!エミヤさんの応援に応えて、絶対ギャー君と付き合ってみせます!」
「よし!よくぞ言った!」
こういう余計なお節介を焼くからエミヤはカルデアではオカンと呼ばれるのだ
ギャレッドを変に怒らせると怖いので、応援はするが下世話な真似は控えめにしようと心の中で呟いたアストルフォであった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……さて、では今から軽いブリーフィングを始めるとするか。とは言っても、昨日の状況説明の軽いおさらいとこれからの方針についてだが」
エミヤが投影したホワイトボードを、これまたエミヤが投影した指し棒と黒ペンを片手に、ギャレッドはブリーフィングの司会を務めることにした
「……ギャーさんって結構美形だよね……」
「先輩、それには同感しますが今この場では関係ないかと」
「……えっと、現在、ジャンヌは
「はい、その認識で間違いありません」
「よし、続けるぞ。それに関してだが、ジャンヌは急遽用意された聖杯からの
「成る程……聖杯からの抑止力か……しかし、そうだと言い切れる根拠はあるのかね?」
「正直、これといった大きな理由なんてもんは無い。ただ可能性として一番濃い物を言っただけに過ぎない。何故なら、急遽用意したという言葉に目がつく。そもそも、万全の用意さえ出来ていれば、ジャンヌは本来の能力を持って現界しているはずだ。しかし、聖杯もこの事は予想外だったのだろうと俺は思う。でなければ、ステータスが軒並みダウンした状態で現界など、あり得ない話だろう?」
手早く描き上げた聖杯とジャンヌの絵を指し棒でカツカツと指しながらギャレッドはそう言った
「?でもそれだったらさー、抑止力として呼ばれてるサーヴァントもジャンヌ以外に居るの?」
「恐らく、俺の立ち上げた仮説が正しければそうなんだろうな。とはいえ野良として呼び出されていそうだがな。……待て、ふとした疑問だが、ジャンヌ、お前はルーラーとして呼ばれたんだよな?」
「はい、ですが先ほども言ったのにくわえて敵感知も……しまった!盲点でした!」
「クソ、不味いな……もう一人のジャンヌ……仮に黒ジャンヌと呼ぶが、そいつももしかすればルーラーの可能性が大いにある。全員、何時でも即座に戦闘準備にうつれるようにしておけ」
「じゃ、次に移って黒ジャンヌについてだ」
クルッとホワイトボードを反転させ、もうひとつの疑点に移った
「さて、もう黒ジャンヌは竜の魔女と呼ばれているのは既に周知の事実だと思う」
「ええ、そのようですね。認めたくはありませんがその人もまた
「確かに、先日所在していた砦にて、あの姿こそまさにジャンヌ・ダルクだと、まるで本当に見たかのように言っていたのを聞いた。つっても、似てて精々
ぶつぶつと小言を漏らすギャレッドだが、その言葉には、本人も気付かず、ジャンヌを思う感情が籠っていた
「……少し脱線したが、ワイバーンの使役は最上級の魔術のはず。この時代でもそれはかなり難しい。実際、俺が戦争に参加していた時もいなかったな。もし仮に居たとしてもどちらかの軍が見逃す筈がない。で、話を戻すが、その高難度の魔術を軽々と使える代物、つまりは……ま、言わずともわかるだろう。あ、もういいぞ、エミヤ」
ギャレッドはホワイトボードから離れると、胡座をかいて座った
「でだ、これからの方針だが、ジャンヌ、お前の元々の方針を聞かせてくれ」
「はい、元々の目的は、首都オルレアンに向かいもう一人のジャンヌ・ダルクを討ち取ることで首都の奪還をと。主の啓示はありませんが、ここで逃げてはフランスの英霊の名折れですからね。あ、ただ暫くは斥候に徹しましょう。目的はシンプルですが難しいものですから」
「相変わらず一人でも戦うってか……戦う者としては立派な心構えだが無茶過ぎだ。勇敢と無謀ってのは全く違うんだぞ。俺が言えたことじゃないが、一応お前は女の子なんだからもう少しくらい自分の体を大事にしろ」
「ギャー君……!」
「もういいか……?口の中がジャリジャリしてきたのだが……」
「……とにかく、これからの方針はジャンヌに協力してオルレアンを目指すということになるがいいか?マスター、ロマニ」
「うん、それでいいと思う。任務関係なしでも助けるつもりだったから」
「ああ、大丈夫だよ。それに彼の聖処女と肩を並べて戦えるなんて光栄じゃないか」
「成る程……お前達も特に意見が無いと言うのなら満場一致ということで構わないな?」
ギャレッドはカルデアのサーヴァント三人と顔を見合わせたが、三人とも首を揺らすだけであった
元より彼らは基本的には主の意向に従うつもりであるのをギャレッドはふと思い出した
愚問であったかと呟き、次の目的地を決めることとなった
「さて、次はどこに行くかなのだがジャンヌ、ここからの近場は何処だったか?」
「ラ・シャリテですね。まだ訪れてもいませんので行くのには丁度良いかと」
「ああ、あそこか。まったく、どうしてここまでフランスは平原が広がっているのだか……一度先程の砦に戻って馬を借りれないか打診してみよう」
そう言った途端、強烈な風が吹いた代わりにギャレッドの姿が消えた
それから五分か経った頃、ギャレッドが消えた方向からは複数の蹄の音が近付いてきた
「待たせた。これでマスターの負担も少しは減るだろう。さぁ乗るといい」
三匹の馬の手綱を持って馬を引いてきた
「よし、全員乗ったな。じゃ、発つぞ」
一頭にマシュと立香、一頭にアストルフォとエミヤ、一頭にギャレッドとジャンヌといった編成となった
「ふふ、昔と変わらずギャー君は動物を手懐けるのが上手ですね」
「さぁな。目を見て話してたらいつの間にか懐いただけだ。ほら、しっかり捕まってろ。でないと落っこちるぞ?」
「えぇ、わかっています。それでは行きましょう!」
「……だな」
ジャンヌの手を取り、自分の腰に腕を回させたギャレッドは、彼女の言葉に笑みを溢した
「アレ、一応まだ付き合ってないんだよね……?」
「……にわかには信じ難いが、本人は付き合っていないと言っているのであればきっとそうなのだろう」
ロマニの尤もな疑問に答えたのは、二人に訝しげな目線を送るエミヤであった
どうやら立香たち五人の目には、ギャレッドとジャンヌの二人の空間にハートが飛びまくっている幻覚が見えているのだろう
「どうした、皆?早く行かないといけないと思うんだが……」
「ギャーさんの言うとおりだね。マシュ、お願い」
「了解です、先輩。見事馬を乗りこなしてみせます!」
「大丈夫か?なんなら私が変わるがどうする?」
「それ、軽くボクを怪しんでるって見ていいんだよね?まぁ安心してよ。いくらポンコツと言えどライダーなんだから、馬くらいちょいちょいのちょいさ!」
各々が騎手である相方に声をかけた
「よし、準備ができたようだな。では、行くぞ」
ギャレッドが踵で軽く叩いて合図を馬に送ると、馬は勢いよく走り出した
To be continued.