暑くて頭がだれます。
衆目の中で人というのは視線を感じ、中々に眠れないものである。周囲の変化に疎くとも鋭くとも、大昔の自己防衛本能を刺激されるのである。
つまり、寝辛い。
「うぅーん、あと3世紀………」
「だそうだ、3世紀後の神無月ここ集合でよいか?」
「馬鹿者!それでは今回の会合は意味をなさいですよ!」
「……儂は早く鉄を打ちたいのだが?」
「私は
………彼女の中でしばらくの沈黙が生まれる。
暫く頭はフリーズしたまんまだったが、徐々に正気を取り戻していく。
「え、えぇぇえぇええぇ!?」
今まで眠っていたことが嘘のような驚愕の叫び。
たしか、私は殺されたハズっ!?
現状が理解できず、自分が覚えている情報の中で、彼女は現状を理解しようとするも失敗。
自分が死んだという事実が、頭から離れずドンドン思考の深みへと引きずっていく。
「お、起きたぞ。」
『おぉー!』
そんな彼女の頭の中の許容量超過に拍車をかけるように、感嘆の声を上げる群衆。その誰も彼もが(一部を除いて)圧倒的な美貌を持っている。
が、そんなこと彼女の頭には到底入ってこない。
意識が復活してすぐの頭には、彼女がヒマティオンや着物、丈の短く豪奢なクラミディオンや甲冑などを着ている美男美女に囲まれている理由が全く見えてこない。いや、まともな時でも理解不能だろうが。
「さぁ!良くぞ来た、哀れな宿命を背負いし人間よ!まずは我が神命に応じ、馳せ参じたこと、礼を言うーーーーーーーーとか、堅苦しいの嫌であろう?」
ちょうど覚醒した時に真正面にいた豪奢なヒマティオンを着た、ダンディでそこはかとなく神々しい男性が厳かに口を開いた、と思ったら急に口調が砕ける。
全然意味がわからない、頭の上のクエスチョンはさらに数を増やす。
「あのですねぇ……全然意味がわかっていないと思いますよ?いきなりここに召喚されて困惑しない人間なんてどこにいるんですか?」
「しかしだな、堅苦しい中やったら、ほら、なんか、ヤじゃないか?」
「あー、もう!解りました、私が説明します!あなたは引っ込んでいてください!」
不審に思っているのもそっちのけで、全身に甲冑を纏ったキリリと引き締まった女の人が、先程までしゃべっていた人と口論をはじめ出す。が、子供のようにダレる男性にうんざりした顔を浮かべ、周りの人達の輪から私の方に一歩出る。
「長々と説明をしても混乱を招くだけでしょうから簡潔に説明しますね。」
「は、はい。」
「当惑しているかと思いますが当然ですよ。貴方は先ほどまで死んでいましたので。なので、今の状況は何なのかを説明しますね。」
死んだことを再確認させながらも、スラスラと説明の言葉を述べる女の人の話を聞く。なぜこんな状況の中で冷静になれたのか、それは彼女の話を聞かねば根本的な理解はおろか、自分の状態さえも把握できないと考えたからである。
会話は途中周りがうるさくなったりとかしたので省略、要約をすると。
まず此処はギリシャ神話に出てくる神様達の本拠のオリンポス山らしい。つまり私の周りにいた貴族のようないでたちの人は全て神様だったようだ。それは先ほどの男性が手に雷光を携えたことから立証された。てかあの人が
次に自分のこと。やはり私は両親に殺されてしまっていたようだ。つまり此処にいるのは死後の自分、アテナさんが言うには魂のみを此処に飛ばしたらしい。
そして、なぜ此処に日本の神様(着物を着ている神様がそうだ)がいるのか。理由は簡単、今月が神無月だからだ。日本の神様達が毎回同じ場所だと飽きたようで、10世紀前から世界中の神様の本拠地で神無月を過ごしているらしい。それがごく最近の神様事情。神様だってiPhone持つし、パソコンだって動かせる。アポロンさんは太陽の馬車を自動運転にしたそうだ。
そしてなぜ私が此処に呼ばれたかだが、
「貴方には神々が世話を見きれなくなった動物や、歴史から消されてしまった伝説上の動物、絶滅してしまった動物などの保護を行って欲しいのです。」
真剣に頭を上げてくるアテナさんに、いえいえと手を横に振る。
此処での私の選択範囲はごく限られている。
まず、『いいえ』を選択したとしよう。
まず確実にあの世送り。願っても無い復活のチャンスを棒にふる。それか、後ろのゼウスさんに『無礼者ッ!』みたいな感じで消滅させられそう。はい、完全に死んでいる選択肢ですね本当にありがとうございます。
それに対し『はい』は、メリットが大きい。
義務付きとはいえ、現世に復活。今までできなかったことや、本でしか知らない大昔へとタイムスリップ。それに動物を前々から飼いたいと思っていたのだ、非常に丁度いい。
簡単な損得勘定だ。けど、理由だけは聞いておきたい。
「もちろん、受けさせてもらうつもりですよ。ですがその前に理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「解りました、と言っても簡単です。誰でもかたちあるものが消えてしまうのは虚しいのです。永遠を生きる神なら尚更。それに、星座にするにもスペースが足りませんし。」
要するに創造物に限りがあるのは、永遠を生きる神にとっては淋しいものなのだということ。普通の人間の観点からでは、あまりに無謀か愚かと断言されるだろうが、しかし神の目線では違うのだろう。
「成る程、分かりました。では、早速……」
「あ、待て待て。儂らとて素の人間を伝説の幻獣探しに繰り出させるわけなかろう。おぬしには何か能力を授けてやろう。」
転生を促す私を後ろに控えていたゼウスさんが呼び止める。
なんでも、何か能力を授けてくれるらしい。
私はちょっと期待で興奮してしまう。え、神様からの能力?チート?チートなの?
「取り敢えず、寿命解放じゃろう。肉体も精神も強くしてと。あー、構想しても割と思い浮かばんもんじゃのう、誰か意見は?」
「大抵なんでもできる魔法でももたせとけばいいんじゃない?」
「あ、それさんせー。」
「なんでも生成できる能力はどうでしょう?幻獣を捕まえても管理できなくちゃ意味ないでしょう?」
「成る程!それ採用。」
「はいはーい!厨二病っぽい技名を叫んだら、それにちなんだ技が発動するとか!」
「「「「「「「「そ・れ・だ」」」」」」」」
改造される本人そっちのけで、私の能力に関する議論は白熱して行く。その目には火が灯っており、もはや取り返しのつかないところまで来ていた。
「あ、あの。」
「無駄です、諦めなさい。ああなった神々はもはや誰にも止めることができないのです。」
「はい……」
約一時間後。
飼いすぎたレシートのようなメモ用紙を腕に抱えた最高神がそこにはいた。紙の長さは大体、一メートル半と言ったとこか。……非常にまずい予感がする。
「で、まぁそんな訳で、便利なものからそうでないものまで色々あるんだが、特筆してあげるとすれば、成長補正とか魔術とか生成能力かのう?」
「………ありがとうございます。」
凄い複雑な顔をしているが、目の前の神物は気にした様子もなく、唐突に告げる。
「じゃ、早速いってみるとするか!あっちにはもうポセイドンとヘファイストスが島を作ってある。自由に使うのじゃ!」
「え、まだ心のじゅーーー」
「待ちなさーーーー」
「「「「いけー!」」」」
次の瞬間、少しの浮遊間ののちに、すぐに彼女の意識は途切れてしまう。
今更ながら、大変なことになってしまったなぁ。そういえば、死後の世界でも妹は元気かなぁ?天国に行ってるだろうと思うけど、さすがに心配だなぁ。と最後に思ったのは、時代が進んでも決して忘れることはなかった。
爽やかな風が頬を撫でる。
それを知覚すると同時に、鼻には草原のえもいわれぬ様な心が穏やかになる優しい香りが吹き抜ける。
春の眠りから覚めるが如く、目はとても開けづらい。もう少し寝ていたい、あと少し寝てもバチは当たらない……、と頭の中で二度寝する理由を浮かべる。
「!ーー!?」
生きてる!?私生きてる!?という叫びが脳に響く。口はあまりにもショックが大きく、うまく舌が回らない。脈をとる……生きてる。心臓を抑える……うごいてる!あぁ、ありがとう神様。ありがとう地球!
ばっと飛び起きて、そして周りを見回す。
背の低い草が生い茂る、ただただ広いサバンナ。視界の中にはたった二本の木が生えている。
生き物は………いや、特に気配が感じられない、私一人の様だね。その事実に安心と少々のもの寂しさを感じる。
いや、襲われないけどさ、それ少し寂しくない?
しかたない、少し見て回ろう。
一時間後、
「………いない。」
さらに一時間後、
「……………………いない。」
それから二時間後
「………………………いなぁ〜〜い!?」
結局動物の姿はおろか生息の痕跡すら見つからずに、四時間も経過してしまった。
サバナ気候の草原を抜け、ジャングルと砂漠はひとっ飛びし上から眺め、森林では木々のアーチをくぐり、そして今、豊かに緑色の草が生い茂る温帯の草原までやってきた。
「うん、これきっと、動物一匹もいないパターンだね。」
そう己の中で結論づける。
あれだけ探しても存在の痕跡すら見つからないのだ、決して一匹もいない訳ではないのかもしれないが、いたとしてもかなり少数しか生息していないだろう。
「……まず、家でも作ろ。」
日曜大工の枠を超えた発言で、聞く人が聞けば目をひん剥くような発想は、しかし能力とやらの調査に比較的ちょうどいい。
「あ、だけどどうやったらできるんだろ………?」
しかしながら、そんな夢のような能力の使い方なんて誰が教えてくれるのだろうか、いや教える人もいない。
んーー、と色々思案した結果、それっぽいことをすれば出来るだろうと、やや投げやりな答えをひねり出す。
「えーっと?……ふん、ふぐぐぐぐぐ……!」
両手を前に突き出し、力を込めてみる。はっきり行ってこれでいいのかと疑問に思う。
さすがに何も起こらないだろ、と思っていたが、神の恩恵というのは凄まじいのである。
シャン、シャン、と錫杖の鈴のような音が鳴り出す。
それに気づき、手を見てみれば青い燐光が手から放出されている。
「お、おお、おおーー!」
人類には起こし得ない現象を起こした感激で、腕の力が抜けそうになるが、ここでミスしては勿体無いと急いで力を入れ直す。
で、ここから家を作る訳だが、この時の彼女はとてもハイテンションだった訳で、少しばかりやり過ぎてしまう。
「家、でろーー!」
迸る青い魔力光、顕現し光溢れる魔法陣、空間が歪むように光が捻じ曲げられる。
「うわっ!?」
唐突な閃光、熱波を伴ったそれは容赦なく彼女の肉体を焼こうと迫る。が、幸運にも彼女の身の安全を第一に考えた神によって考案された、核の爆風を食らってもビクともしない64層の結界が身を守る。
太陽が現れたような大閃光は暫く、周囲を蹂躙していたが、10秒ほど続いたのち、唐突に消え去る。
「ふぁぁ、危なかったぁ〜」
土煙が舞い上がる中、傷ひとつない彼女は今の閃光に恐れ戦き、それでいて落ち着いた様子で、土煙が収まるのを待つ。
暫く待てば、土煙も次第に収まりを見せ、段々と作り出したものの姿が露わになっていく。
それと同時に彼女の顔も青白くなっていく。
何故なら、現れたシルエットがあまりにも
口を開けて固まる彼女に気にした様子もなく、土煙は完全に晴れ、その巨大建築物はその全貌を明らかにする。
「……………………」
彼女はただ、その場で固まって目の前の巨大で和風な城を眺めることしかできなかった。
書きだめはまだありますよぉ〜!