頭痛が痛い、とは間違った表現である。
大体、『が』というのがこの格助詞の後ろの動詞などの動作の主体を表すので、この文においていたいという形容詞の主体が頭痛となる。
頭痛というのは頭の痛みのこと。よって、これは頭の痛みが痛がっていると捉えれる。しかし、実際に痛むのはそれを患っている生命であり、痛みではない。非生命体が痛みを催すわけがない。
よって、『頭痛が痛い』という言葉は意味的に適切でない表現となるのだ。
しかし、その痛みを強調させる表現としては使えるのではないか?
なぜなら今私が置かれているこの状況こそが『頭痛が痛い』状況だからだ。
「大体!ヤマタノオロチさんは大雑把すぎるんですよ!うさたちの仲間になりたいんだったら、まずその性格を治してきやがれです!」
「えぇ〜、だって叶華が我についてきて欲しいって言ったんじゃも〜ん。お主は叶華に治療された身でありながら、叶華の意思に背くのかの?」
「蘇生された身で何言ってんだー!」
一方はおちょくり、また一方は罵倒、糾弾する。
なんでこんなことに、と私は天を仰ぎ、頭を抱える。
不満をぶつけるイナバノシロウサギに的確な言葉で返すヤマタノオロチ。
朝の食堂はそれはもう騒がしいことになっていた。
「あ、はは……、ねぇ、叶華ちゃん、これ大丈夫かなぁ?」
「……ま、家族の中でも喧嘩はあるし、友達とも喧嘩は起こるものだから、大丈夫?」
「そう、なのかなぁ……?」
ファーストコンタクトから失敗するのは、結構大丈夫でない気はするけど。と不安げなサーバルの横顔を見ながら思う。
なんでこんなことになったのか、先程までのことを思い出す。
祝杯をあげた私とヤマタノオロチは、そろそろサーバルとイナバノシロウサギが起きると思い、さっさと家に戻ることにした。
昨日、サーバルとイナバノシロウサギには起きたら準備して食堂に来てと言ってあったので、食堂には寝惚け眼の2人が椅子にぐだーっと座っていた。
が、私たちを見ると2人は血相を変えた。正確にはヤマタノオロチを見てだが。
サーバルのように全く予備知識無しだと、新しい友達が来た、という感覚なのだろうが、イナバノシロウサギはちょっとわけが違った。
イナバノシロウサギはヤマタノオロチを知っていたのだった。隠岐の島で向こうの島には8本の頭と尾をもった大蛇がいて、人を喰らっているという恐怖の権化として。
イナバノシロウサギは怯えて顔が真っ青になってしまった。
それなら何故、今こんな怖れず喧嘩しているのかって?
理由はその後にある。
怯えるイナバノシロウサギを宥めて、なんとか自己紹介した後、取り敢えず朝食を済ませることにした。
朝食はフレンチトースト、野菜の油炒め、スクランブルエッグ、アップルパイ、ドリンクは野菜ジュース(無加糖)だ。今回は
イナバノシロウサギは箸などを駆使して、器用にそして綺麗に食べていた。
私はサーバルが箸などを使えない様子だったので、手伝いながら食べていた。それでもスクランブルエッグのケチャップでお口の周りが吸血鬼みたいになっていた。WRYYYYYYYYYYとか言ってたらさぞかしにあっただろう。
問題はヤマタノオロチだ。
ヤマタノオロチも箸などを扱うことはできた。
ただマナーが悪かった。
寄せ箸はするし、アップルパイは犬食いするし、口開けたまま食うし、色々ひどかった。
私は十分耐えれたのだが、几帳面で真面目なイナバノシロウサギはそれが気に障ったらしい。
例えるなら猛火、そんな怒り方だった。食べ方1つでそんな怒らないであげてよぉ、と言いたくなるぐらい怒っていた。
そして今に至るというわけだ。
「それにヤマタノオロチさんは尻尾癖が悪いんですよ!ずっと私のアップルパイ取ろうとしてましたよね!?」
「そりゃ、普段から制御してたらやってられんからの。我の場合は16本だし、というか蛇頭なのに尻尾でいいのかの?」
「うわぁ、イナバちゃんこわーい……」
「あはは………はぁ」
イナバノシロウサギの迫力にビビるサーバルに、さすがに貫禄のあるヤマタノオロチに苦笑する私。
普段なら両方とも宥めるんだけど、これもいい人生経験だ。ヤマタノオロチの食事のマナーも結構目に余ったし、イナバノシロウサギには妥協と寛容さを覚えて欲しいからね。
「それに暫くすれば、仲直りしているでしょ。」
「だよねー!私が心配しすぎだったかも!」
そう自分を落ち着けて、思考を現実から引き離す。旅路の話をしよう。
このままいけば、日本の獣系統の妖、獣神を捕まえていくだけでもかなりの時間がかかる。それに私の仕事範囲は全世界だ。日本だけでも50年はかかりそう。全世界となると考えたくもない。それに神話とのスケジュールも合わなくなる。ヘラクレスさんとはいつか折り合いをつけて話し合わなければ。
ここは大妖やある程度の力を持った獣神にターゲットを絞る。
弱い妖ならある程度区切りをつけた後に
よって今私たちが目指すのは、近畿地方。
とある神からの待ち合わせ場所にもなっているのでちょうどいい。
よって、現在の地図的にルートを設定すると、
島根県→鳥取県→兵庫県→京都府→大阪府
みたいな感じになる。
どんな妖がいたのかまだ曖昧だが、取り敢えずルートはこれでいいはず。
それまでにイナバノシロウサギとヤマタノオロチが仲直りしてくれるといいけど。
微かな希望を胸に、私たちは準備を済ませさっさと旅立つことにした。
鳥取県 山中の獣道
旅路は間違いなく順調、天気も雲はある程度出ているものの晴れ晴れとしている。時間にして2時ほど。
確実に東に進んでいる。
しかし、確実に悪くなっていくものがある。
「シャーシャーうるさいんですよ!そのマナーのなってない尻尾!ろくに手入れのしてない牙を向けないでください、汚らわしい!」
「お主こそギャーギャーうるさいぞ!耳から丸呑みにするぞ!」
二人の仲だ。
実はこの二人、家を出てからずっとこの調子だ。ひと時も罵倒をするのをやめないでここまで、ペースを落とさずについてきている。
しかもずっと耐え凌いでいたヤマタノオロチも遂に我慢の限界を超え、眦を吊り上げイナバノシロウサギとの口論に身を投じている。
だんだん口汚くなり、子供っぽくなっている。
脅しじみているというか、なんともみっともなない。
「まぁまぁ、イナバちゃん落ち着いて。」
「ふえぇ、怖いですぅ……」
「なんなんだコイツら……」
そして、スタート時点より二匹ぶん増えている肉声。この子たちについての説明もしよう。
鳥取県に伝わる妖怪、赤頭、石見の牛鬼、大坊主、死人憑きなどがいる。この娘たちもご察しの通り妖怪だ。
サーバルを抜かして、最初に喋った方を
ショウジョウの見た目は、大雑把に言えばポンチョの上着に制服のミニスカを穿いたJKだ。
赤茶色の癖のあるベリーショートの頭髪、暗褐色の大きな瞳。
頭髪と同じく赤茶のポンチョにはエメラルドやルビーの刺繍が入っていてとてもおしゃれだ。
そしてサルやオラウータンのように長くくねる尻尾。
人間のような耳にはガーネットのイヤリング。
が、口調性格共に気弱なようだ。
海沿いを歩いていたところ、海から出てきたので、気づかれないうちにサンドスターで狙撃した。
次にライジュウ、こっちは口調からも予測できるように、かなり男勝りというか、ボーイッシュというか。
浅蘇芳色の夜に見る稲妻のような眼はツリ目気味、黄金の稲妻のようなメッシュの入ったミディアムの黒髪、頭からは狼の耳がピンと突き立っている。
ところどころ破けた黒色の制服のブレザーに、ネックレスやブレスレットをジャラジャラとつけるその姿は不良生徒といった感じか。
突然天気が悪くなったかと思えば、落雷と共に襲いかかってきたので、これまたサンドスターで偏差射撃し確保。
「なんですか、その口の聞き方は!2度と人参を食べれない体にしてあげましょうかぁ!?それが嫌だったら自分の尻尾とお話しして躾けておくことです!」
「なんじゃとぉーーーーーー」
「そこまでだよ、二人とも。」
さすがにこれ以上、聞くに耐えない罵倒合戦に皆を付き合わせるわけにはいかない。自分の家族が喧嘩しているのを聞くのは、やはりあまりいい気分はしない。確かに朝の7時半からこれを始めてまだ冷めないのは逆にすごいが、そろそろ止めなくては。
今まで口出ししなかった私の方に視線が向けられる。
「朝から止めなかったら、まさかここまでやってるとはね……。いい加減に収めなさいよ。」
「ですけど!」「だが!」
「あのねえ、まさか食べ方のマナーのことでここまで喧嘩がひどくなるとは思わなかったけど……。イナバノシロウサギは少し言い方があっただろうし、ヤマタノオロチだってすぐに謝れば済んだことでしょ?」
確かにヤマタノオロチの食べ方が汚かったのは事実だ。しかしイナバノシロウサギが最初から罵倒混じりの注意をしてしまったことも悪いし、ヤマタノオロチがすぐに認めずにしばらく屁理屈言ってたのも尚悪くしている。
そのことに多少自覚があった二人は何も言えずに口をつぐむ。
「それに、この旅は明るく楽しくサクサクと、がモットーなの。周りを見てみ、みんな怯えちゃってるぞ。」
私の言葉にハッとし、ほかの三人の顔を見回す二匹。サーバルはイナバノシロウサギの普段とのギャップに驚いて、ショウジョウは生来の臆病な気質でさっきから顔が蒼白だ。ライジュウは一見余裕そうに見えるが、ヤマタノオロチの潜在能力の高さを感じているのか、若干手の先が震えている。
「…………………………むぅ、すまなかった。確かに我の行動にも問題があった。詫びよう。」
ヤマタノオロチは素直にその場で皆に頭を下げ、自分の行いについて詫びる。
良くなかった点を自覚していたのか、バツの悪そうな顔だ。
「ほら、イナバノシロウサギも。」
「…………」
ヤマタノオロチが謝ったので、あとはもうイナバノシロウサギが謝れば万事解決だ。
が、なかなかうつむいて顔を上げない。何か具合でも悪いのかと疑うほどだ。
「?イナバちゃんどうしたの?早く仲直りしようよー?」
「………」
サーバルも心配して声をかける。
私と同じように俯いたままのイナバノシロウサギを不審に思ったようだ。
が、中々顔を上げてくれない。
「途中参加のオレから言うのもあれだが、早く仲直りしたほうがいいぞ。」
「はわわわわわ……、ショウもイナバさんと仲良くしたいですぅ……」
新たな旅のメンバーもイナバノシロウサギを慮って声をかける。
が、やはりイナバノシロウサギは顔を上げない。
本当にどうしたのだろうか?
「イナバノシロウサギ、本当にだいじーーーー」
「ッ‼︎‼︎」
私がその頭を慰めるように、手をかけた瞬間、顔を上げ、しかし背けるようにして後方に駆け出す。
あたりにも突然の行動に周りはおろか、私も反応できない。
「えっ、ちょっ、待って!?」
面食らった私は、逃げようとするイナバノシロウサギを捕まえようとするも、行動が遅れたためか手はかすりもしない。
「頭を冷やしてきますッ!後で合流するんで、待っててくださいッ!」
「は、はっ?」
顔を背けて、そう端的に言い切り、雑木林に消えていく。
私たちはその後ろ姿を呆然と眺めることしかできなかった。
side イナバノシロウサギ
嗚呼、馬鹿ッ馬鹿ッ!馬鹿ッッ‼︎
耳朶に響く自分の声を押し切り、うさは雑木林の中をウサギの脚力で駆けていきます。
うさが謝れば済むことだったのに、『ごめんなさい』そうひとこと言えば済む話だったのにっ!
確かにヤマタノオロチさんは食事のマナーが悪くて、癪に触ったけど、注意だけすればその場で済む話だった。
二人だけの喧嘩で済ませようと思えども、それがどうだ。結局、新しく入ったショウジョウさんとライジュウさんにまで迷惑をかけて。
しかも逃げるようにここまできて………
「ゔざは最低です"っ"!」
先程から自己嫌悪に陥って、言葉が詰まる。
目は真っ赤に泣き腫らして、きっとうさは今酷い顔をしている。
仲間の前でも素直になれないなんて、家族に甘えられないなんて、自分自身がひどく惨めに見えてきます……
多分踵を返して、皆を追いかければすぐに追いつくと思う。けど、うさの足はなぜかそれを許してくれません。
何故かはうさ自身わかっています。
それは、喧嘩の原因の行動がある
「うさは
自信なさげに消えていく言葉は、それはヤマタノオロチさんとのいざこざは正しかったのか疑っているからです。
私は目から流れる涙を止めることなく、さらに森の奥へと走っていきます。
暫く走り、息の切れる感じがして、立ち止まり深呼吸をします。
随分遠くまで走ってきました。
ウサギ種は時速約八十キロで走る瞬発力も、ミオグロビンという遅筋の元になる物質もあります。遅筋は瞬発力というよりも持久力に秀でた筋肉なので、そうそう疲れることはないです。
しかし、そんな体質で疲れるほど走ったのですから、みなさんから相当離れてしまったのでは、と思うも時すでにタイムアップ。
とりあえず喉が乾きましたよね。
あれだけ走ったのですから、当然と言えば当然の結果でしょうが。
ダメ元で耳を澄ませてみます………
「………!これは水の音!」
なんたる幸運か、近くに水の音を感知です!
取り敢えず、喉を潤わせてからみなさんの元に向かいましょうか。
今度はしっかり真摯に謝れるように。
まずは気分を入れ替えなくては。
そんなことを考えながら、音のする方へ寄っていこうとすると、
「うわうっ!?風?妙に唐突な……」
突然一陣の風が、うさの足元を掬おうとします。
が、不審に思う間も無く、すぐに体制を立て直します。
「ま、気にするほどでもないですが……」
別に少し強い風ぐらいどうってことないし、それより今は喉の渇きを癒して、みんなに合流するとこが先決だ。
side ???????
「お仕置対象、転倒失敗です。どうですか、カマジ。」
「上腕部に一発薄くはいった。多分標的は気づいていないが、薬は上手くぬれたか、カマミツ。」
「オッケー、出血する前に塞いだから、あっちも知覚できてないはずだよん。移動したけど、次の作戦はどうするのカマイチ?」
「川の方に移動するようです。丁度、岩場も多いですし、奇襲ならぬ奇お仕置きにはもってこいでしょう。」
「なるほど、水の流れであいつの耳を鈍らせるのか。」
「ウサギって視力は弱いから、逃げることも、抵抗することもできないはずだよん。」
「早速、尾行しましょうか。」
「………まったく、ワニの依頼も楽じゃないな。」
「体の毛皮はいどいて、『腹の虫がおさまんない』って、気性荒すぎだよん……」
「………文句言ってないで、移動しますよ。」
side ヤマタノオロチ
「………はぁ…………………」
………我じゃ、ヤマタノオロチじゃ。
イナバノシロウサギが走り去ってから20分、我らは彼奴が戻ってくれることを信じて、その場の木を伐り開き小野営地を開設した。
叶華は『イナバノシロウサギが帰ってきたら、きっとお腹が空いてるだろうし、オムライスでも作ろっかな?』と言い、携帯料理セットを取り出してしまった。多分、精神安定のためだろう。目に見えて落ち込んでいた。
サーバルも例に漏れず落ち込んでいた。落ち着きなく、あたりを行ったり来たりしている。
ショウジョウは周りの雰囲気に侵されてきているようで、最初のうちは狼狽えていたものの、今現在は己を落ち着かせるように踊っている。……聞けば、踊りが得意な妖怪だったらしい。
ライジュウは苛だたしそうにするのかと思えば、思ったよりおとなしく、腕をさすっている。パチパチとなっていることから、あれが発電行為なのだろう。
………イナバノシロウサギのことを疑っているわけではないが、本当に帰ってくるか心配だ。彼奴の性格上、言ったことはきちんと守るが、どうしても心配だ。
叶華の割と生真面目な性格ゆえ、イナバノシロウサギが帰ってくることを信じ、この場に留まっているが、どうも胸騒ぎがする。
それにイナバノシロウサギのことは嫌いじゃない、むしろ好ましく思っている。行動や発言などが、全て1つの理念でまとめられている、そう感じる。
国津神の娘の血肉を貪っていた我がウサギの心配をするとはなんとも奇妙だ。
人を思うどころか、物に関しても特に感情が湧かなかったのにの……
「探しに行くか………仕方ない。」
木からスタッと降りて、大きく伸びをする。
「初めての人助けだが、まぁなんとかなるか……」
誰かになんか言っておこうかと考えるが……めんどくさいのぅ、という結論に至り、さっさと森の奥に消えることにした。
全部書いた時に少し長くなったので、分割しました。ホントはもっと短めにスパッとまとめるつもりでしたが……