現時点で投稿している三話を一つに纏めてみたという遥かにくだらないものです。
内容は全て同じなので読んでも読まなくても結構ですが、ラストにかるーい辻井君の紹介が載ってます。
「いってきます、母上、父上」
「えぇ......元気でね」
「おう、いってこい!」
誇らしそうに俺を見つめる母と、俺の背中を押して軍へと行かせた父を見たのはいつのことだったろうか。
安物のベッドの上で横になりながら、そんなことを考える。
ぺんだこを沢山作りながら、ただ只管に勉強していた幼少期の頑張りは泡と化した。
死にたくない。その一心で作法は勿論のこと、様々な勉学、言語にも手を伸ばして大学に合格した、はずだったのに。
「.........ハァ。どうしてこうなった.........」
幸運が逃げるとかもクソもあるか。
現時点で、俺のラック値はマイナスを天元突破しているのだから。
-プロローグという名の記憶の遡行、その残酷さ-
輪廻
仏教やヒンドゥー教などといったインド哲学、東洋思想で信じられている考え方。
例としては、ヒンドゥー教やそれの元となったバラモン教では死んだ魂は月へと登り、雨として地に降り注ぎ作物となり、精子となるとされている。
輪廻転生の中にも転生型、輪廻型、リインカネーション型なども存在するらしいが、そこの説明はまた長くなるのでまたの機会にさせていただこう。
俺は20××年に生きていた少年だった。
だった、と言うのも、きっとこの前置きを呼んだ人からすれば「あぁ」と納得するだろう。
「俺」という人格は、2気づいたら第二次世界大戦直前の大日本帝国の一市民として生まれていたのだ。
輪廻転生の考え自体は知っていたが、存在するなんて露にも思っていなかったし、なんだったらまさか過去に生まれ変わるだなんてことも考えていなかった。
前世の十数年間の記憶と、現世の数年間の記憶。
そして、本来だったら物心がつく前の時期だと言うのに完全に出来上がっていた人格。
これら全てを統合して転生と言わずに何と言うのか?
非科学的なことは信じない質だったが、非現実的なことをこうして体験してしまった今では信じる他ない。
勿論、初めは俺が死の狭間で生み出した妄想かとも思ったが寧ろ大戦前世界に生まれ変わるなんて妄想するなんて俺の思考を疑う。
何より、俺は自分が死んだ時のことを鮮明に覚えているのだ。
たった十数年間しか生きられなかった前世。
今では生まれつきのハンデなどはなく、例え妄想だったとしても新たな人生を楽しまずにどうする。
そう開き直った俺は、まずペンを持った。
再度言おう。
俺が生まれ変わった世界は、「第二次世界大戦直前の大日本帝国」だ。
俺の生まれた家、辻井家で俺は次男だった。しかもハンデもない至って健康的な体だ。
戦争、次男、健康的。この三つが揃えば、二十歳で徴兵されることは逃れられない。
折角生まれ変わったのに人間魚雷だとか神風特攻隊だとか、そんなの絶対に嫌だ!!
痛いのは嫌いだし死ぬのもごめんだ。
それだったら死ぬ気で勉強をして大学へ行ったり、会社を設立して賄賂とか握らせて徴兵を免れたい。
そんな甘く温い考えで、俺は家が裕福なことを活かして勉強をしまくった。
五つ年上の長男よりも頭がいいぐらいには、頑張ったのだ。
だが、そんな俺が受験した高等学校高等科からの合格通知を待っている時。
母から嬉しそうに渡されたのは、大日本帝国陸軍からの手紙だった。
いつの間にか、俺は受験が取り消されて両親の手によって軍への志願兵となっていたのだ。
手紙を握り潰し、父の元へと直訴しに行った俺に父が言った一言は何とも残酷なもので。
後にも先にも、父を殴り飛ばしたのはあの時だけだったと思う。
結局、逃れられずに陸軍へと入り、幾つか修羅場をくぐり抜けて気づけば少尉になってしまっていた。
恐らく、このまま俺は軍に使い潰されて戦争で死んでしまうのだろう。
数年間、軍で鍛えておきながら同年代と比べると上背だけがあって粗末な体を見下ろして溜め息を吐いていた時だった。
参謀本部からお呼びがかかった。
もしや頑張りが認められてーーー!などと誘惑に釣られて向かった先にいたのは陸軍内でも噂が囁かれる佐久間中尉と無能大sおっと、武藤大佐。
そこで伝えられたのは、「佐久間中尉と共に新しく設立されるスパイ養成学校ーD機関へ出向け」という命令だった。
連絡係という建前で地位を横取りされたくない参謀本部のスパイとして行かせられるのか......まぁ、戦地に赴くよりも全然マシだな。
そう思い、二つ返事で頷いた俺はその養成学校へ行くために、髪を伸ばしている最中だ。
え、何で髪を伸ばすかって?
その養成学校を設立した結城中佐とかいう人が一目で軍人とわかるような奴をウチに出入りさせるわけにはいかないとかほざきやがったそうで。
こうして俺は翻訳や通訳やらのバイトで何とか食いつないでいる。
「辻井少尉、いるか?」
「はい」
扉がノックされ、慌てて立つと佐久間中尉が顔を出した。
前に見た時は丸刈りで如何にも軍人らしかったが、髪が伸びた今では少し体格の良いエリート会社員みたいな感じだ。
「準備はいいみたいだな。では、D機関とやらへ赴こうか」
「はい」
はてさて、漸く養成学校とやらに行けるのか......一体どんな奴らが待ち受けているのかが想像できずに恐ろしいな。
そして、養成学校へと赴いた俺と佐久間中尉を待っていたのは十癖ほどもありそうな捻くれ者共と、魔王だった......!?
ーーーーーーーーーー
「馬鹿か、貴様」
痩せぎすと言っていいだろう、身長に対して脂肪などと言った無駄な肉が何もない体の男が唸るようにそう言った。
男が杖をつきながら、俺の横にいる佐久間中尉に耳元で何かを囁くとパッと佐久間中尉が敬礼を解く。
大方、背広姿で敬礼なんて自分が軍人だと言っているようなものだ、とか言われたのだろう。
佐久間中尉は嫌いではないが、わざわざ髪が伸びるまで待機させられていた理由を忘れてしまったのか、彼は。
俺と同じぐらいの背丈の男ーー結城中佐は、片足を引き摺りながら椅子へと座る。
鋭い眼光に睨みつけられて、反射的に攻撃する物を目で探してしまった。
あんな真意のわからない視線を向けられて、恐ろしさを感じない軍人はいないだろう。
しかし、結城中佐はそんな俺の視線や戸惑いに気付いているのだろう、クッと口角を上げた。
ヤッベ、流石に上官にこれはダメだよな......まさかここで首とか切り捨てられないよな? ほら、スパイとも言うから結城中佐が持つその杖の中は実は剣でしたー、とかありそうだし......
「それで、貴様らが参謀本部から派遣されてきたスパイというわけか」
「違います。自分は、スパイのような卑劣な行為など......」
結城中佐の言葉に、咄嗟に反論した雰囲気の佐久間中尉。
おいおい、嘘だろ......ここはスパイ養成学校で、結城中佐自身も過去はスパイだったというのに本人の前で卑劣な行為って......
「ほう、スパイは卑劣か」
結城中佐の口角が再度上がり、ゾクリと背筋が凍った。
怒っている、雰囲気ではない。
どちらかと言えば嘲笑っているような、馬鹿正直な佐久間中尉を無能だと判断したのか、それとも、結城中佐本人の前でスパイは卑劣だと言い放った佐久間中尉をそういう意味で評価したのか。
影と一体化した結城中佐の目が俺を貫いた。
「貴様は、スパイについてどう思う」
「あ、えっ私ですか」
「貴様以外に誰がいる」
突然の問いかけに、つい吃ってしまった。
いやでも、スパイについてどう思うって言われてもなぁ......
早くしろ、と急かすような視線に、渋々口を開いた。
「......佐久間中尉の言葉を否定するようではありますが、少なくとも私は卑劣な行為だとは思いません。ただ、スパイをするような人間は一体どんな人間なのか、という興味はあります」
「.........ほう? 興味か」
横から佐久間中尉の、「お前は一体何を言ってるんだ」っていう視線が痛い......いやだってスパイって別に卑劣な行為だと思えないんだけど.........まぁ、それも俺が転生者だからなんだろうけど。
真意はわからないが、さも愉快だと言うようにニヤリをする結城中佐に空恐ろしさを感じつつ、俺は今後の生活で受難が待ち受けていないことをただ祈った。
-ジョーカー・ゲーム、その娯楽性。そして日本人の無能さについて-
「貴様ら!」
くぐもってはいるが、ハッキリと耳に届いたその声に目を擦った。
何だ、佐久間中尉の声だ。
こんな夜中にあの人は一体何を怒鳴っているんだ。
今すぐにでもベッドに戻りそうな体を叱咤して、声が聞こえた食堂へと向かう。
「貴様ら、一体何を......何という不敬なことを.........!」
食堂では怒りに打ち震える佐久間中尉を白けた表情で見るd機関生たちがいた。
「可能性を議論しているだけですよ。天皇制における
三好がスラリと述べたのは今の日本ではまず議論しようものなら首を物理的に切られるようなことだった。
興味が湧き、食堂内へ入って福本から水を貰う。
現代日本で生きていた俺は確かに生涯、片手で数える程度しか病室から出たことはなかったがその分、本やテレビなどは飽きるほど見ていたためにそういうことに疎かったわけではなかった。
だからこそ、現代日本を知っているからこそ、天皇制云々の正統性などといったことは馬鹿げているとしか思えない。
一呼吸を置いて、佐久間中尉が口を開く。
すぐに言い返さなかっただけ、佐久間中尉もこの機関に慣れてきたのだろう。
「すると貴様らは、畏れ多くも現人神であらせられる天皇陛下の正統性を議論しているというのだな?」
「及び、合法性の問題ですね」
機関生の一人が平然と頷いた様子を見て、頬杖をついた。
こりゃ、佐久間中尉ブチ切れるな。
「そもそも、今日の天皇制に見られる特殊性は他のアジア諸国においては到底受け入れられるものではないですからね。美濃部教授の天皇機関説に立ち返って、もう一度根本原理かた組み立て直した方がいい、というのが僕の主張です。佐久間さんのご意見は、」
「貴様、そこに直れ!!」
三好の言葉を遮って、背広姿でありながら抜刀しようとした佐久間中尉に溜め息が出そうになるが、咄嗟に飲み込んだ。
というか、佐久間中尉の反応がこんな日本では正しいものだ。
俺や、正統性などを考える機関生が異常なだけで。
「まあそう興奮なさらず。一緒に話し合いましょうよ。折角、辻井少尉もいるのですから」
「馬鹿め、これ以上貴様らと話しあうことなど何も無い!! このことは明日、参謀本部に報告する。貴様らの処分は追って通達するからそれまで首を洗って待っていろ!」
「佐久間中尉、落ち着いてください」
「辻井、これが落ち着いていられるか! お前も陸軍軍人であるならば、なぜ奴らに反論しない!!」
佐久間中尉が俺に噛みつき、機関生の注目が俺に集まる。
面倒なことになったなぁ......俺は単に彼らの議論に興味があっただけだったのに。
「今、佐久間中尉が怒って何になるのですか。佐久間中尉も見たでしょう? D機関の選抜試験を。それを突破した彼らを化け物だと言ったのは中尉自身ではないですか。彼らの思考や脳の仕組み自体が我々と違うのです」
「だがっ」
「どうした」
いつの間にか佐久間中尉の背後に結城中佐が立っていた。
えっ、うっそ気配感じなかったぞ......?
現れた結城中佐に三好が状況説明をすると、中佐は軽く手を振って「続けろ」と言った。
愕然とする佐久間中尉に、結城中佐は俺たちの時代では当然の考えを説明し始めた。
それは、いつの間にかスパイについての話になっている。
と、結城中佐が佐久間中尉に向かい合って、突然尋ねた。
「もし貴様がスパイだったら、敵に正体が暴かれた時はどうする?」
「その時は、敵を殺すか、さもなければその場で自決します」
武士道とは死ぬことと見つけたり。
名を惜しめ。
見事に花と散ることこそ、武人の誉れ......なんて、軍隊で叩き込まれたことを佐久間中尉は思い出してるんだろうなぁ。
呆れ半分、言い切ったという尊敬半分で佐久間中尉を眺めていると機関生たちからクスクスと笑い声が立つ。
「辻井。貴様はどうする」
「......そうですね。私の場合、ですか」
佐久間中尉へ質問し、答えを聞いた後に俺へと同じ質問をする。
その流れに慣れてしまった自分が悲しい......しかし、俺がスパイだったら、なぁ。
スパイは敵国の情報を自国へ齎すのが仕事だ。
自分が死んでは元も子もない。
「敵は殺し、その死を偽装します。最悪、情報だけでも自国へと送り、敵と相討ちにしますかね」
そう答えると、結城中佐は口角を上げた。
うわぁ、結城中佐が笑っちゃうぐらい間抜けな答えしたかな、俺。
「なぜ、そう考えた」
「なぜ、と言われても......スパイは秘密情報を自国へ齎すものです。その情報を持ったまま自らが死ぬのは、その.........」
言い淀む。佐久間中尉の目の前でこれを言うのははばかられるが.........結城中佐からの視線が怖い。
「......愚策、としか思えません。それに、戦場なら兎も角平時で人が死ねばその国の警察隊などが動くでしょう。そうなると、隠密もクソもないです」
「なっ.........」
わなわなと佐久間中尉の握られた拳が震えるのが視界の片隅に見える。
言っちまったー......遠回しに佐久間中尉が馬鹿だって言っちゃったよ.........
「ふん。答えは佐久間よりかはマシだが、それでもまだ足りんな。いいか。殺人、及び自決はスパイにとっては最悪の選択だ。説明は今、辻井がしたため不要だろう。貴様の答えはおよそ周囲の詮索を招くだけの、無意味で、馬鹿げた行為でしかあるまい」
ついに頭を抱えてしまった。
どうしてこう、機関生といい結城中佐といい、佐久間中尉の血管を切らせるようなことしか言わないのか......
「それは、死を恐れる卑怯な考えです! 自分には、やはりスパイは卑劣な存在だとしか思えません」
「それなら聞くが、貴様が自決してそれでどうなる?」
「死ねば.........靖国で、胸を張って同期に会えます」
「ほう、すると貴様は靖国で同期に会って自慢するために死ぬわけか。だが、もしも会えなかったらどうする?」
「会えないはずはありません」
結城中佐と佐久間中尉の問答は、まるで復唱のようだ。
佐久間中尉は恐らく、結城中佐の問いに同じことしか答えない。
「三好、どう思う」
「
馬鹿の一つ覚えのようなものだ。
三好は新興宗教のようなものだ、と説明するがまさにそうだろう。
いや、新興宗教は結局、身内で破滅していったりするからそれでいいが今の日本帝国はそれを国としてやってしまっている。
日本は、日本人は何とも間抜けなものか。
根本から、日本はきっと間抜けの集まりで、間抜けな人間が自らの粗末さに気づけず、トップに立ってそれを下の人間共が鵜呑みにしてしまう。
これは現代日本にも言えたことだった。勿論、俺は学校に通えれるような体ではなかったから両親や先生に勉強を教えてもらってテキストとかをやる程度の脳しかなかったから、彼らや大日本帝国の軍のお偉いさんたちは俺以上に頭はいいのだろう。
だが、そこじゃないんだ。
単にテストや成績と言ったもので幾ら点を取れたって、事象や思想に対する脳がなければそれは無能と言ってもいい存在だと、俺は考える。
だってそうだろう? 上や尊敬する人間から言われたことをただ鵜呑みにしたり、それに疑問を持たなければそれは洗脳と言われるものになる。
洗脳にも様々な種類があるが、偏に洗脳を受けた人間が全て被害者というわけではないのだ。
そして、日本人に限ったことではないが、特に日本人に顕著なのが、洗脳が解けた時にそのことを他人のせいにすることだ。
生まれた時から、それが当然だと育ってきた日本人も当然いる。
だが、その洗脳から目覚める機会はあったはずなのだ。
それを蹴り、盲目に浸る。
それこそが日本人の悪い癖であり、今の日本人のことではないのだろうか。
「辻井さん、辻井さん?」
「......悪い」
気づくと食堂に佐久間中尉の姿はなかった。
実井が俺の肩を揺さぶってくれたおかげで、思考の海から意識が引き上がった。
「どうしますか、辻井さん。僕たちはポーカーをしますが」
「.....いや、今日は遠慮しておこう」
残っていた水を飲み干し、食堂を出た。
彼らが「ジョーカー・ゲーム」なるものをしていることを知ったのはいつだったか。
俺には到底突破できないであろう試験を突破した彼らがカードゲームをしているということで、興味が出て観戦したことがあった。
その時、当然のようにイカサマしていること、そしてそのイカサマを隠そうともしていないことにーー彼らにしてはイカサマの誤魔化し方が粗末だったーーついて、ゲームが終わった後に問いたことがあった。
その時、聞かされたのがジョーカー・ゲーム。
仕組みやルールを聞いて、俺は絶他に参加するものかと誓ったものだ。
自然な動きで味方をつけたり、裏をかいたりなんて高度な技は俺にはできない。
彼らのゲームの結果がどうなるかを見ているのは面白いが、食堂にいるということはジョーカー・ゲームへの参加表明ともなる。
味方にも敵にもプレイヤーにもなる気がない時は、さっさと寝たほうが効率的だ。
部屋にあるベッドに横になり、少しばかり思考を巡らせた。
彼らについて。
D機関はスパイ養成学校だ。
そして、彼らは結城中佐に訓練やスパイとしてのノウハウを学んでいる最中だがその途中でありながら、スパイとして任務に赴くこともある。
彼らは先程のこともあったが、普通の人間では至らない考えをしている。
まさに、天才。その存在は闇に隠され、未来の歴史にも見られないが、きっとあの現代日本が存在したのは彼らの存在も大きかったのだろう。
けれど、一番疑問なのはどうしてあのような天才が生まれたのか。
そして、現代日本に彼らのような天才が存在しないのか。
甚だ疑問だ。
「(きっと、彼らのような天才が存在していれば、政治も腐敗せずにマシだったのだろうな)」
そんなことを考えていると、再び睡魔が襲ってきた。
こういう時は欲に溺れるのが正解だ。
目を閉じて、心地よい眠りに体を明け渡した。
ーーーーーーー
Q.俺は今、どこにいるでしょーか
A.アメリカ人技師ジョン・ゴードン宅、今にも切腹しようとしている佐久間中尉の前にいます
待ってえええええええ!!!!!!? 佐久間中尉、お願い貴方に今死なれたら連絡係を外されるまでの期間、俺が機関生たちの玩具にされちゃうから!!!! 生贄の貴方に死なれたら困るんですううう!!!!!!
「ドウシタノデスカ? サァ、ハヤクハラキリショーヲミセテクダサイヨ!」
片言のヘッタクソな日本語で話すゴードンに唾を吐きかけてやりたい。
何時ぞやの天皇制云々かんぬんの話からどれ程経っただろうか。
無能たいs.....無能大佐もとい武藤大佐から、D機関を使ってスパイ容疑がかけられているジョン・ゴードンから証拠を見つけてこいとの指令が出た。
佐久間中尉は馬鹿正直にそれを結城中佐に報告し、こうしてd機関を偽憲兵隊に仕立ててジョン・ゴードンのところへ来たわけだが、なぜか証拠は出てこなかった。
いつの間にか三好が、証拠が見つからなかった場合に佐久間中尉が切腹をするなんていう約束を取り付けていたために、中尉は切腹しようとしているが.........流石無能大佐。そして、流石鰯の頭。
初めは外見だけならイケメン将校だし陸軍士官学校卒業してるからエリートだー、なんて佐久間中尉を尊敬していたが、D機関で機関生たちと過ごしている間に、日本の異常性を再確認し、佐久間中尉の阿呆さにも気づいてしまっていた。
実際には佐久間中尉は結構観察眼も鋭く、切れ者ではあるけども、これは鰯の頭だと言われても仕方ない気がする.........暗号コードだかなんだかが盗まれたのなら、コードを変えればいいだけの話だろうが。
まぁ、きっと上はスパイに出し抜かれたという間抜けなことを露見させてくなかっただけなのだろうけど。
と言うか、そろそろどうにかしないと佐久間中尉がマジで腹を切ってしまう。
はてさて、どうあの人を助けるか......
そんな風に思考を巡らせていると、佐久間中尉が刀を収めた。
「Back of the imperial portrait」
「っ!?」
それなりに流暢な英語で指示を出した佐久間中尉に、短く返事をして御真影へと手を伸ばした。
後ろで小田切たちに押さえられたゴードンが英語で罵ってくるが知るもんか。
目的のものがその裏にあり、口角が上がった。
はてさて、どうやってあの無能大佐を詰ろうか.....
ーーーーーーーーー
「貴様、うちで訓練を受ける気はないか?」
結城中佐からの言葉は俺ではなく、佐久間中尉へと向けられたものだった。
今し方、佐久間中尉は結城中佐の義手や偽りを暴いたばかりだ。
「自分はあくまでも軍人です。必要とあらば、自分はいつでも腹を切る覚悟があります。ただーーーーー」
散っていく桜花を眺めながら、止まった言葉の先を俺はわからない。
彼は、きっとこれからも宣言通りに軍人として生きて、軍人として散っていくのだろう。
彼は、そういう人間だから。
「辻井。貴様はどうする」
「.........は、私、ですか?」
つい、そう返してしまった。
あれ、D機関に誘われたのって佐久間中尉だけだよね?
俺はどうするか、か。
「......私は、」
「答えはいい。来い」
「は、」
佐久間中尉を置いて歩き出してしまった結城中佐を追う。
答えはいい、とはどういうことなのか。
「貴様は歪な人間だ」
独り言のように話す結城中佐。
「この国で生まれ、軍人としての教育や訓練を経ておきながら三好たちと同じような考えを持つ。それどころか、自分の思考が当然であり正しいものであるとすら思っているだろう」
「......勿論です」
全て見抜かれていたのか。
結城中佐の言葉に頷き、返事をすると雰囲気で中佐が笑ったことがわかった。
「佐久間もそうだが、貴様は軍などで駒にするには惜しい」
..................嫌な予感がする。嫌な予感がするぞぅ......今の内に断った方がいいかもしれない......
「結城中佐、私はっ」
「貴様をD機関の教材にしよう」
あっ、そっちですかー............っていうか、えぇ........? 教材..............? 俺が、あの化け物共の?
困惑する俺を振り返り、口角を上げる結城中佐は確かに、魔王のような姿だった。
ーーーーーーーーー
「ふっ!」
「っ!!」
キィンッ、と高い音が鳴り、右腕が痺れる。
これは、手加減なんてしたら一瞬で殺されてしまう。
やるからには相手の首を、一撃で。
相手を睨みつけながら目は動かさずに隙を探す。
さて、ここでクエスチョンです。
俺は今、何をしているでしょーか。
1.戦場で敵を切りあっている
2.なぜか暗殺者を仕向けられて戦っている
3.陸軍で訓練をしている
.........はい、答えはーーー
「そこまでだ。辻井、波多野」
中佐の声に、正常な思考が戻ってきた。
俺の手にある刀は波多野の首に触れ、血が垂れている。
はい、答えはD機関で波多野と戦闘訓練をしている、でしたー!
「辻井、貴様は貴重な機関生を殺す気か」
「いえ、波多野が強くて、つい......」
「つい、で俺は殺されかけたのかー.........」
「辻井さん、意外とお強いんですね。流石は軍人だ」
実井の褒めるような言葉に何となく空恐ろしさを感じる。
明日の戦闘訓練は実井だ。俺、殺されるんじゃないのかな......?
手加減してくれよ、という意味を込めた視線を実井へ送ると、何とも可愛らしい爽やかな笑顔が返ってきた。
あ、これ全力で叩きのめされるパターンだ。
-黒髪に緑の目の男、その異常性と思考回路について-
辻井少尉。それが彼の名前と肩書きだ。
身長は目測で181cm。身長に対して肩幅はそこまで広くなく、筋肉のつきも薄く見えるために背広を着ていれば到底、軍人には見えないような男。
のらりくらりとしており、たまに見せる笑顔は柔和と言ってもいいだろう。
女学生などに人気の出そうな彼の内面を一言で表せば、『異常』。これに尽きる。
「どうしたんだ、神永」
「辻井さん。いや、辻井さんはどうして軍へと入ったのだろうか、と思って」
「高等学校高等科の試験を受けたはずだったのにいつの間にか父親が俺を志願兵として陸軍に色々と手を回して逃れられずに軍に入った。以上」
「......それは、何とも.........」
親に無理矢理入れられた、というわけか。ご愁傷様と言えばいいのか、なんと言うか......
水を飲む辻井を観察する。
焦げ茶色が混ざった、日本人によくある黒髪に、それなりにしっかりとした目鼻立ち。
彫りが深く、恐らく外国人の変装ができるであろう。
だが、彼の一番の特徴はその瞳だった。
緑青のような、いや。緑青よりも発色の良い青緑の瞳。
日本人どころか外国人にも見られないその瞳が、辻井の特徴だろう。
「辻井さんは目が緑なんですね」
「あぁ、これか。辻井の家は代々、外国人と結婚しているらしくな。たまに金髪の子供も生まれることもあるらしい。一般的な瞳の色は二十数色だが極稀に緑色や紫色の目もあるんだ」
「へぇ......」
瞼の上から目を触る辻井は、いつも通りの様子だ。
だが、恐らく俺は今後忘れることができないような光景を今朝、目にしたばかりだった。
戦闘訓練。刀を持った相手を殺さずに無力化するという訓練で、なぜか辻井少尉が教材となっていた。
初戦の相手は波多野。
小柄な体格を生かして、何とか少尉の懐に入った波多野は一瞬にして辻井から飛び退いた。
瞬間、波多野の首があった場所を振り抜いた刀。
本来であれば、勢い良く振り抜いたその隙を突いて波多野は辻井に峰打ちをするべきだった。
しかし、奴はその場を動かずに刀を構えるだけ。
振った勢いのまま、両手で刀を握った辻井は波多野へと切りかかった。
普段は柔らかな光を映す緑の瞳。
波多野を眺めるその目つきは獲物を捉えた鷹のようだった。
剣戟が鳴り響く中、隣にいた三好が小さく呟いた。
「.......結城さん」
「............そこまでだ」
波多野の首に、辻井の刀が食いこんでいる。
そう深いものではないが血が垂れ、それと同様に波多野の頬には冷や汗が流れていた。
結城さんを見る緑の瞳は、まるで殺せという合図が出るのを待つ狂犬のそれ。
終了だ、という結城さんの声で、漸く彼は刀を収めた。
まるで軍人ではない、戦えないだろうと思っていた辻井に対し、畏怖を抱いた戦闘訓練。
それが、つい今朝のことだった。
「......そろそろ寝るかな。明日も早いし」
「そうですか。おやすみなさい」
軽く手を振り、食堂を出ていく辻井。
彼は、間違いなく異常だ。
俺たちD機関の人間も、凡そ普通ではないと思っていたが上には上がいる。
つい先月に連絡係を外され、戦地へと赴いた佐久間中尉は俺たちを化け物だと評し、部下である辻井を信頼しているような感じであったが、きっと中尉の頭は花畑なのだろう。
辻井少尉。
アレを異常だと言わず、何と言うのか。
ーーーーー
「天皇制は別に廃止すべきではないだろう」
「まさか、辻井さんも天皇を本当に現人神だと思っているので?」
「現人神など存在しない。別に天皇を担ぎ上げろというわけじゃないんだ。佐久間中尉がまだ連絡係だった時、お前たちが天皇制の正統性などについて話していた時に中佐が仰っただろう? 今までは京都の人間しか天皇の存在を知らなかったのに、いきなり現人神などと言われていい迷惑だ、と。普通に天皇は人間なんだから人間として扱えばいい。だが、天皇家は由緒正しいものだからな。謂わば、伝統や生きる歴史のようなものだ。政に関わらせなくても神の血を継ぐ家系だ、ということで少し丁寧に接しておけばいいのではないのか、と俺は思う。と言うかそもそも、天皇が現人神として担ぎ上げられたことが俺には疑問でしかない。まぁ恐らく、新興宗教のようなものとして都合の良い神を作ろうとしたのだろうが......」
佐久間さんのような軍人や、一般市民が聞けば怒り狂いそうな辻井の言葉。
それは俺たちD機関の中では当然の考えだが一般的には異常な考えだ。
そして、辻井の異常性を説明する上での大きな事柄。
彼は、一般常識からかけ離れたことを「当たり前」、「当然」として考えている。
まるでその思想の世界の中で生まれ育ったかのような。
「日本人の頭は凝り固まっているんだ。折角、人間に与えられたある程度高い知能と思考をドブに捨てている。何が神だ、何がお国のために、だ。結局は上の人間が考えた都合の良い筋書きに沿って駒になっているだけだろう。それに気づいていないか、それを気づいていながらも愛する人間を守るために自らの命を粗末に扱うという綺麗な話に酔っている人間が多すぎる。無論、今後行われるであろう徴兵令も無意味、愚策だ。志願兵や陸軍士官学校卒の人間を鍛え、少数でありながらも大国を打倒する方法を考えた方がいいに決まってる。と言うか世界大戦などという戦争自体が無意味他ならない。どうして日本はこれほどに馬鹿の集まりなのだろうか......頭が痛くなる。どうせ全ての人間は似たり寄ったりの考えしかできないのに、なぜ思想が違うから、考えが違うから人種が違うからなどとという理由で戦争をするのか全くわからん。日本の古事記やアメリカの聖書を読め、宗教の世界の成り立ちを知れ。全て、二柱の神が世界を創り人間や生物を創ったのだろうが。哲学もそうだ。ギリシアの人間は
「さて、飯行くか」
「だな」
「あれ、もうそんな時間か?」
辻井の長い長い自論が終わり、席を立ち上がる。
時計を見た辻井は持っていた本を閉じると、そそくさと部屋を出る。
やはり、彼の思考回路は異常だ。
何度でも言うが、辻井の考え方は俺たちの中では一般的ではある。
だが、結城さんが試しに嘘をついて辻井にD機関の試験を受けさせた結果は、まず最初の試験で落第。
その後、ほぼ全ての試験で落ちた。
つまり、一般では天才なのであろうが結局、彼は凡人に過ぎない。
にも関わらず、俺たちと同じような考えを持ち、それをさも当然のように常識であるとーーー彼の中では、それが通常なのだ。
知識は機関生には及ばない。
しかし思想やその考え、自論はたまに俺たちを驚かせるような突飛なことだったりもする。
まるでチグハグだ。
だからこそ、俺たちは彼を「異常」であると胸を張って答える。
初めは、なぜ辻井がd機関の教材として結城さんが連れてきたのか不思議でならなかったが、今では機関生全員が彼を教材も一つとして認めている。
彼の存在は、まるで別世界から魂だけが飛んできたかのようだ。
「(......それが本当だったら、どれほど面白いことか)」
福本の料理に舌鼓を打つ彼を眺めて、そんなことを思った。
ーーーーーー
最近、神永が俺をジーッと見てくる。
俺なんかしたかなぁ......? あっ、もしかして俺の弱点とか調べて遊びに使おうとかしてんのか?
残念だったな、俺に弱点は(ほぼ)ない!
しっかし、今日の講義も楽しかったなー。
前世は先生も母さんも宗教家だったから俺がああいうこと言うと逆に言い返してきていた。だからこそD機関は結構居心地がよかったりする。
戦闘訓練がなければ、痛いこともないし夜遊びできるし楽にも程がある。
ただ、不思議なのがなぜ俺が機関生の教材に選ばれたのか、だ。
戦闘訓練に関してはある程度弱い雑魚な軍人を相手にっていうシミュレーションだから俺を使ってるんだろうけど、思想やこの時代の政治とか宗教に関しての講義にどうして俺が当てはめられたのか......本当に不思議だ。
俺の言うこととか全て機関生たちは当然だ、という風に頷くし何だったら論破されることもあるっていうのに.........どう考えたってD機関で俺は無能だろ。
なぜ結城中佐は俺を教材なんかに選んだのだろうか......ハァ。講義自体は楽しいけれど、明日の講義でまた論破されるかもしれないと思うと胃が痛い。しかも戦闘訓練はあの実井様が相手だ。怖すぎる。
ベッドで横になりながら、何となく思考を切り替えた。
俺が教材に選ばれたのも不思議だが、純粋な疑問が残っている。
輪廻転生では死んだ時点で記憶が消えるはずだ。
だが、俺には前世の人格と記憶がある。転生するのは業があったりだとか様々な諸説があるが本来、誰も前世の記憶なんて持っていない。
俺の前世でも、その前の記憶はなかった。
では、なぜ?
何らかミスで消し損ねたなんて、それこそ神がいるわけでもなかろうにシステムがミスを起こすわけなんてない。
一体、なぜーーーーーーーーー
ーーーーーまぁ、いいか。俺は死んだ人間だ。それを再度生き直すことができる。それだけで十分だ。
そう、考えを締めくくって眠りへと誘われた。
結局、それは自分を騙すちゃちな虚言であったのだが、それを俺が知る日はまだ遠い。
ーーーーーーーーーー
「貴様、やる気はあるのか」
「僭越ながらっ、申させていただき、ますっ、と! 私は、一軍人でっ、うおぁっ!? あ、あり、決してっ、D機関の一員でっ、はないっのです、がああああああああっ!!!!!?」
「ちょこまかとっ!」
「やめろマジ本気で来んなあああああっああああああああああああ!!!!!!!?」
俺は激怒した。必ず、かの結城中佐を倒すと決意した。
「......実井、仕留めろ」
「了解しましたっ!」
「ひいぃっ!!!」
「どうしたんだ、辻井。お前から話したいだなんて」
「佐久間中尉ぃ.....俺、佐久間中尉の隊に行きたいです.........もうあんな魔王の下嫌だァ......」
「はは。苦労してるんだな。まぁ、頑張れ。あの結城中佐が半月も交渉してD機関に引き抜いたぐらいなんだから、相当お前が欲しかったんだろう」
佐久間中尉の慰めが心に染みる。っていうか、俺そんなに結城中佐に気に入られてたの......? 嫌すぎる。
酒を片手に佐久間中尉に頭をガシガシと撫でられ、揺られる。
苦笑する佐久間中尉はまるで兄のようだ。
兄と言っても、今世の兄ではなく前世の。
顔立ちとか体格自体は全く似ていないけれど、俺の愚痴や文句を聞いてくれて、慰めてくれる。
あの人もよく、こうして俺の頭を撫でてくれたなぁ......
「しかし、実戦は負けナシとも言われたお前がそんなにボロボロとはな。一体何があったんだ?」
「戦闘訓練です。普段の戦闘訓練は、軍人を相手にした刀での無力化なんですが、機関生の奴らの殺意に釣られてついつい本気出しちゃって......そしたら、情報を持って逃走する敵国のスパイ役にされてしまって。銃だとか薬だとかを使って俺を捕らえようという訓練に変わって、俺が捕まった場合は決して安くない罰金を払わせられる約定に......うぅ........そうしたら、実井が本気で捕まえに来て.........」
はは、あれ、おかしいな? しょっぱい水が目から出てきたぞ?
「そ、それは何とも言えんな......すまないが俺にはどうすることもできない」
「わかってはいるんですけどね.........俺が機関生を倒すのもありなので、いっそのこと情報を餌にしたり、D機関の掟である『死ぬな・殺すな・とらわれるな』を盾にしてしまおうかな、って」
「実井や波多野相手には効かないんじゃないのか? 福本や小田切にはいいかもしれないが」
「そこなんですよねぇ.........波多野は兎も角、実井様や三好にはどう考えても効かない気がします」
でも、やるしかない。これ以上罰金を取られたら俺の唯一の楽しみである煙草と酒が買えなくなってしまう......!
どうにかして逃げ切らないと......でもあいつら化け物だしなぁ
フツッ
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
『◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼』
ーーーーーーーーー
「あれ、佐久間中尉何か言いましたか?」
「え、いや? 何も言っていないが、どうした?」
突然、何かが聞こえた。
言葉のようで言葉ではない、ノイズだらけの音声が。
飲み過ぎたか、とマスターに水を頼む。
「ストレスから来る幻聴かな......?」
「無理はするなよ? 何だったら、俺がなんとか上層部に掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。現時点で大分無理はしてるんですが、取り敢えずもう少し頑張ってみます」
「そうか......俺はお前がこちらに来るのをいつでも待っているからな」
「はい」
何だったんだろうか、さっきのは。
ただの空耳だったら良かったんだろうがそれにしてはあまりにもハッキリし過ぎている。
でもまぁ、大丈夫だろう。
「マスター、サンフランシスコを一つ」
取り敢えず飲んで愚痴って、また明日からの仕事を頑張れば大丈夫だ。
あんな幻聴、すぐに忘れる。
-◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼について-
「おはよう、ーーー君。今日の体調はどう?」
「おはようございます、先生。体調は頗るいいですよ。これなら外で走って遊べるかも、」
「ダメだからね?」
「うっ......少しぐらいいいじゃないですかー」
苦笑し、その瞳に悲しみを見せた先生に罪悪感が募る。
違うんだ、先生が全力を出し尽くしてくれてるのはわかってる。だからこそ、明るく振る舞って彼らを安心させたいのに、
「さ、朝ご飯を食べようか」
「はーい!」
どうして僕がやること成すことは全て裏目に出てしまうのだろうか。
「ーーーーーー政治家って、どうしてバカな人ばかりなんですか?」
そう問うた僕に、先生はギョッとした。
メガネの奥の形のよい瞳が開かれるのが珍しくてジッと見つめてしまう。
「それは、どういうことなのかな?」
「全員は全員、バカとは言いません。勿論、皆さん頭がいいから政治家となって国を支えてくれています。でも、その割にはお粗末な気がしてなりません。なりたくてなった職業に、どうして全力を尽くさないんでしょうか......確かに政治家の方々も人間です。過労になるほど力を出せとは思いませんし言いません。けれど、今の政治家の方々は国の現状や問題を掲げるだけでそれをどうやって解消するのか考えていないように思えるんです。例えば、いじめによる自殺問題なんかもそうです。マスコミやメディアにも問題がありますが、いじめなんてそこら中にあるじゃないですか。勿論、いじめをする側、される側にも問題はあります。何故そんな非効率的で生産性のない行動を取るのか疑問でなりませんが......分担して解決策を見つければいいじゃないですか。経理は誰が担当して、という形で。ダメなんですか? 総理大臣は兎も角、この人はこれを担当して、この政治家はこれを担当して、と。その人たち全員が解決策を出してそれを練ればいいじゃないですか。モラルやプライバシーなんて関係ないでしょう? だって、いじめという事象がある時点でいじめられている人のプライバシーも尊厳もクソもない。道徳の授業もそうです。道徳であれはダメこれはダメ、なんて大人の都合や理想を押し付けるだけの無駄な授業。不必要だと思います。すみません、論点がズレましたが、」
「いいよ、ーーー君。一度ここでお話を止めようか」
僕はただ、不思議に思ったことを、疑問を口に出しただけなのに。
どうして、彼はいつに増して悲しそうな表情をするんだろうか?
「.......君は、あの人によく似ているね」
「あの人?」
「ーーー君はこんな箱の中で生きるには頭が良すぎる。テレビや本、僕なんて人間しか傍にいないなんて......ーーー君は不思議に思っていることが沢山あるんだね」
「......でも、僕は疑問に思っても、それを解消する答えがわかりません。今し方、政治家の方々をバカだと言いましたが仮に僕が彼らの役割を果たせと言われたら、何もできません」
「何もできないことはないよ。ーーー君。僕からノートと鉛筆をプレゼントしよう。ノートに自分が疑問に思ったこと、不思議に思ったことを書くんだ。そして、それをどうすれば解決できるのか。考えてみよう」
「書いて、ですか?」
「うん。きっと、僕はーーー君の疑問の解決策を見つけることができない。だから、ーーー君の書いた疑問とその答えを、一緒に探そう」
先生の提案はまさに目から鱗だった。
考えてもみなかった。
けれど、それはどうして。
とてもとても楽しそうなことで、新しいゲームを買ってもらった時よりも、
面白く感じたんだ。
「あれ、辻井さん。何を書いてらっしゃるんですか?」
「実井か。いや、少しな」
後ろから覗き込まれ、ノートを閉じた。
まずったなぁ......隠すような行動をしたら、尚更こいつらが食いつくだろうに。
やってしまったことは取り返しがつかない。
ゾロゾロと神永や甘利まで食いついてきてしまった。
「何々、日記?」
「そんなマメには見えませんけど」
「うっせ。日記ではないけど、まぁ習慣だな。お前らからすれば当然のことで全く面白みもないぞ」
「俺たちには、当然?」
「あぁ」
それだけ言って、ノートを持って食堂を出る。
誰もいないしいいやー、なんて食堂でこれを書いていた俺がバカだった。
自室、と言っても機関生と同じ部屋だが寝室へと戻ってランプを点ける。
さて、続きを書くか。
「(D機関生の、化け物っぷりについて)」
ペンを走らせて頭を回転させる。
俺は現代で生きていたため、当たり前のように民主主義寄りの考えだ。
だが、奴らは違う。
帝国主義であるこの大日本帝国のこの時代に生まれて、どうしてあのような考えができるのか?
答えは彼らが天才であり、尚且つ化け物であるということに他ならないのだが、そうじゃないんだ。
ついこの間、ドイツに軍の仕事で行ったことがある。
その時、知り合ったドイツ軍人に聞いたのが「魔術師」について。
何でも、数十年前に日本軍に売られたというスパイが腕を犠牲にしながらも情報を奪い、逃走したという到底、作り話のような噂だ。
恐らく、その「魔術師」の正体は結城中佐なのだろう。
結城中佐は存在を周りに知られてはいけないーとか言っていたくせに自分は杖をついていたり手袋をしていたりする。
きっと、敵を欺くには味方から、というような感じなんだろう。
そうなった場合、多分手袋をしていないほうが爆弾で吹き飛んだはずの腕。
この時代にそれほどまでに性能もよく、周りの人間を騙せる義手があるとは思えないが、根本的にこの時代の大半の人間は義手や義足なんて見たことがないだろうから、普通なら騙せるのだろう。
そうしてまで生き残り、仮に後世にスパイとして名とその功績が残ったとしたらまさに伝説となるだろう中佐。その名はマタ・ハリと並ぶほどに有名になるだろうが......彼のことだ。きっと、誰にも知られずに死ぬのだろう。
そして、そんな結城中佐が手掛けたスパイたち。
彼らは一体、どんな家の生まれでどのように育ちどんな教育を受けどうして結城中佐は彼らを見つけ出したのか。
謂わば、彼らのプライバシー、プライベートに関わる面が知りたいんだ。
きっと、それを知ることができたのならば、僕は機関生の全てを知ることができる。
彼らという《化け物》がどうやって生み出されたのかを、理解できる。
そのためには一体どうすればいいのか?
機関生は絶対に教えないだろう。寧ろ俺がそれを調べていることが知られたら結城中佐に首を切られてしまう。
無理なことなんだから諦めたいんだけどなぁ......ここまで深く関わってしまったのだから、全てを知りたい。
というか、結城中佐に一泡吹かせてみたい。こんな俺を此処に留めたことを後悔、とまではいかないでも、彼の心に俺の存在を刻みつけてみたい。
「(......生まれ変わって、自由に行動できるようになって俺も望みがでかくなったなぁ)」
自分自身の考えに苦笑する。
でもまぁ俺は疑問を持つことしか脳のない人間だから、きっとそんなことはできない。
けれど、足掻くことだけでもやってみたい。
......と言うか、何で俺はこんなムキになってD機関生のプライバシーを侵害しようとしてんだ(´・ω・`)?
「辻井さん、何書いてるんですか?」
「っ!!!?」
気配もなく、背後から覗き込まれる。
ウッソだろお前!?
「......へぇ、僕たちのプライベートについて、ですか」
「.........普通気になるだろ、
「辻井さんは僕たちに興味がおありで?」
あまりの気配のなさに、体は硬直してしまってノートが閉じれなかった。
化け物にとってはたった一瞬でも書かれている全容を把握するには充分らしい。
実井の声はいつもと変わらないが、怖すぎて顔を見れない。
背中は冷や汗でダラダラだ。
こんなことを知られたら俺、殺されるんじゃないか......?
「......まぁ、な」
「ふぅん......」
ひいぃぃ......! 殺されるっ!!
内心ガタガタと震えていると、フッと笑うような気配がした。
それは俺が恐怖を覚えるようなものではなく、パッと振り向いてしまう。
「怯えてるのがバレバレですよ、辻井さん。今日の戦闘訓練で少しいじめすぎちゃいましたか?」
「なっ、少しだ!!? あれのどこが少しだよ!!!」
あっ、やっべいつもの感じで言い返しちまった。
だが、実井の表情は裏のあるものではなかった。
寧ろ、まるで微笑ましいものを見るような目線で。
「ふふ。だって辻井さん、ちょっと殺気を出せばこちらを食い殺しそうな気迫を出すくせにそうでないとただ逃げるだけなんですから。つい虐めてしまいます」
「このサディストめ......」
「辻井さんに言われたら褒め言葉ですね。それで、僕の何を知りたいんですか?」
「......え?」
椅子を引き摺ってきて俺の隣に腰掛けた実井の言葉に、つい問い返してしまう。
何を、知りたいって......
「教えられる限りですが、教えてあげますよ」
「.........え、ええと、じゃあ、好きな人間とかっていたのか?」
「おや、いきなりどストレートな質問をしてきますね。出身地とかではないんですか?」
「どうせ事実は話さないし話せないだろ? 勿論、そことかも知りたいが本人が話してくれるのならそこら辺も知りたい」
「......そうですねぇ。いませんでしたよ。親類に対する情は、きっと過去にはあったんでしょうけど今はありません」
「いませんでした?」
実井の言葉を聞き返すと、彼は肩を竦めた。
「えぇ。今はいるかもしれないですし、いないかもしれません」
「つまりはいないんだな」
「おっと、何を根拠にそう決めつけるんですか?」
「死ぬな・殺すな・とらわれるな、なんだろ」
「..........まぁ、どちらかかどうかは辻井さんが決めてください」
それじゃあ意味ないじゃーん......実井さんマジ実井様。
じゃあ、次の質問はどうしようか。
「なら、実井の好物は?」
「好物、ですか」
長い足を組み、顎に手をやる実井。
その姿が様になっていて腹が立つ。
「ーーーーーーーーー」
「.........え?」
「どうしたんですか、辻井さん」
「......いや、何でもない」
窓へと目を滑らせる実井の姿が、何かに被った。
明るい日差しに包まれて外を眺める、僕からすると背の高い姿。
男のくせにやけに童顔で中性的な顔立ちをした彼は、よく思えば実井に似ている。
「◼◼◼◼◼くんーーーーーー」
「......................あ、れ?」
彼は俺を振り返って、何かを言った。
なんて言ったんだっけ? あの人は、一体誰だ?
誰だよ、◼◼◼◼◼って。一体、誰だ、俺は、なんなんだ。
「辻井さん、辻井さん? 少し休憩しましょう、辻井さん」
「......実井.........」
眉を下げ、心配そうな表情の実井に支えられてベッドに横になった。
やっぱり今日の戦闘訓練という名の俺イジメが祟ったんだ。
早く寝たほうがいいかもしれない。
「ノートのことは僕が皆さんには内緒にしておきます。もうお休みになった方がいいですよ」
「あ、あぁ......そうだな。悪い、実井」
「いえ、僕も無理させたという自覚はありますから」
苦笑し、ノートを持った実井。
こうしてベッドから眺めると、更にあの人に似ているなぁ......
待てよ、あの人って、誰だ?
ヤバイ、頭が混乱している。思考回路が乱雑になっていくのが手に取るようにわかってしまう。
少し、落ち着けないと。
俺は、転生した人間だ。
第二次世界大戦前の大日本帝国に。
そして、父親に軍に入れられて、佐久間中尉とD機関の連絡係になって、気付いたらなぜか教材になってて.........
少し、状況を整理しよう。
いや、転生した人間であるのはいい。
でも、生まれ変わったのはわかっていても、
どうしてだ? 確かに文明の利器やら現代日本の社会や政治、世界については覚えているのに、一体いつから前世の自分についての記憶を忘れていた?
最初の頃は確かに覚えていたはずなのに、どうして自分が死んだのか、自分が一体どんな人間だったのか、記憶が、データがない。
なぜ、どうして
俺は、一体なんなんだ?
どうも、作者です。如何でしたでしょうか、総集編は(((
はい、前書きにも書いてある通り投稿してあるものと全く変わりません。
ではここで軽い辻井さんの紹介文を。
主人公
辻井
焦げ茶色が混ざった黒髪。先祖返りかなんかで緑の目。
身長は181cm。結城中佐よりでかいよ!
筋肉がつきにくい体質(前世の影響)のせいで優男の印象がつく。
以上です!
こちらの設定は私がこのお話を書き始めた時に書いたのをまんまコピペしただけですので短いです。
完全なる無駄なものではありますが、ここまでお読みいただきありがとうございました!