東方水辰閣 ~巫女が二人で幻想入り~   作:ビーグル

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前話における解説を書き殴るコーナー
「公開処刑」:殴った理由は萃香の八つ当たり。殴られた理由は永琳の罪の意識。
「霊夢さん」:勘は鋭いですが、察しは悪いようです
「消えた空」:案の定、攫われました。主に蛇の神様に。
「クレスタさん」:焦熱地獄の管理代行。オリキャラです。メガネっ子です


悪には悪なりの事情がある。全てが憎くて破壊する訳ではない。

それでは、どうぞ



第拾話 「無何有ニ消ユル」

 

 いつ見てもこの世界の夜明けは素晴らしい。

 昨日の終わり。

 今日の始まり。

 宵闇が天明で浄化されていく。

 その光景に心まで清められ、あらゆる穢れが祓われた錯覚さえ抱く。

 流石は幻想郷と謳うだけの事はある。

 

 だが ここは「理想郷」ではない。

 ここに理想は無かった。

 いや、そもそも 私の理想とは何だったのか?

 此処へ来て、「私達」がやりたかったことは 一体何だ?

 

 梅雨も終わり、彼ら(、、)は厳しい季節に備えて忙しなく鳴いている。

 気持ちが沈むばかりだ。

 自分が何処を向いているのか分からない。

 これから何処へ向かおうとしているのかも・・

 

 

 

 

 

 昔は何だってやった。

 自分が好きな事をして、自分が好む者に手を差し伸べ

 自分が嫌う者は片っ端から殺して回った。

 その生活も、アイツによって変えられてからは また違う楽しさが生まれた。

 己が愛した民が末永く生きていく為の国創り。

 荒れた大地を実り在る物へ変えていく。

 余所の神でありながら民を想う気持ちに偽りは無く

 また民も信仰という形で以ってそれに応えてくれた。

 

 早苗(あの子)が生まれてからは、さらに生活は変化した。

 多くを見守ることから、只一人を見守ることへ。

 若き巫女は非常に多感に生き、多くを求め、多くを学んだ。

 そしてあの日。

 生まれ育った世界に別れを告げる事を迫られた時も

 あの子は笑ってこう言った。

 

  ─どこへでも お供致します

 

 

 私たちの選択は 正しかったのだろうか

 

 

『おはようございます』

 

 澄んだ空気に割り込むことなく響いた声。

 聞き慣れているはずなのに、いつも初めての様な感覚に襲われる。

 声の主は、直ぐ近く。

 自分が腰掛けている縁側より離れた位置から此方を見上げていた。

 

「おはよう。もう終わっている?」

『はい、朝餉の準備は出来ています』

 

 その言葉を聴き、体を浮かせ土の上に着地する。

 仰々しく手を広げていたのが可笑しかったのか

 娘は口元に手を当てて笑っていた。

 昔は此方の腹ほども無かった背が、今は直ぐ近くにある。

 整った眉をしていながら幼さを残す顔立ちは、今でも少々頼りなく映る。

 

『では、準備が整い次第御越し下さい 八坂様』

 

 優しくも律儀な挨拶を残し、愛しい巫女は母屋の方へ歩いていった。

 

「"八坂様"は止せと言っているのに」

『くひひ・・

  頑固な所は、さてさて誰に似たんだろうねェ』

 

 縁側に座る影ひとつ。

 頭よりも大きな帽子を傾けて立ち上がるのは、見目愛らしき少女。

 土着神の頂点であり、かつて死闘を繰り広げた強敵(とも)。

 その偉大なる肩書きに頓着しない神は、口元を覆いもせずに笑っている。

 

「蛙が出歯亀とは洒落が利いてるな。"諏訪子様"」

『怒るな怒るな。

 それ以上シワを増やすつもり?』

 

 口を開けば憎まれ口を叩く。

 今も昔も変わらない。

 ムカつく女だ。

 しかしこの性格故に、私たちは一緒に居る。

 私は最早思い知ったのだ。

 自分の相棒はコイツだけなのだと。

 

『お早う。神奈子』

「ああ、お早う」

 

 挨拶もそこそこに、庭先へ目をやる諏訪子。

 その視線の先。

 未だ数メートルも進んでいない早苗の姿があった。

 こちらに言葉をかけてから数分は経つというのに、歩く距離が常人よりも遥かに短い。

 軋む間接を無理やり曲げて一歩ずつ一歩ずつ。

 まるで老人が歩いているようだ。

 立ち上がる際も長い時間を要するため、起床は夜明けよりも早いときがある。

 その原因を知っている諏訪子も、言いようのない表情をこちらに向ける。

 それも数秒。

 視線を戻し、すぐに早苗の後を追った。

 

「すまない」

 

 こちらの声が届いていたのか。

 それを確認するまでも無いと言う様に、帽子に付いた目玉が微かに動いたように見えた。

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 この世界の夜明けは、嫌いだ。

 一日が終わりそれまでの積み重ねが消え失せる。

 一日が始まりまた無味蒙昧な時間が流れ始める。

 この幻想郷はあらゆるモノを受け入れる。

 創造も破壊も、誕生も死滅も、希望も絶望も 何もかも。

 故に、理想郷に非ず。

 外の世界で消え去り、この世界に息衝いていた幻想でさえ最早、幻。

 

 「神」と言う存在は、自分にはとても身近なものだった。

 何てことは無い。

 実際に見えているのだから。

 それが当たり前となっていた自分にとって

 周りの人間が抱く、「カミサマ」のイメージは矛盾に満ちていた。

 

  ─神は全能ではない

 

 いや、語弊が有った。

 総ての神が全能ではない、と言う事だ。

 直接は知り得ないがきっと全能の神も御座す事だろう。

 しかし私が良く知る神は、少なくとも其の限りではなかった。

 

『信仰を得るために旅に出る』

 

 神の存在意義は信仰だ。

 それが無くなれば存在が無になり、権化を成す事も叶わない。

 詰まる所、神も人も同じなのだ。

 

 誰だって 死にたくはない

 

 

 

 

 

 ようやく炊事場に着き、置いてあった水差しを取る。

 縁側からの距離は僅かに八メートル弱。

 しかし私の肺は必死に酸素を取り込もうと、横隔膜を酷使する。

 それが治まるまで数分を有した。

 ようやく、マグカップに一杯分の水を注ぎそれを飲み干す。

 ゆっくり じっくり。

 固まった皮膚を伸ばすように静かに屈伸し

 乾ききった血肉を潤すように隅々まで水が行き渡るのを待つ。

 たったこれだけ。

 これだけの為に長い時間を掛け、気がつけば一日が終わる。

 

  ─自分は 一体何をやっているんだろう

  ─これが 私の望んだ事?

  ─辛うじて動く身体を引き摺って

  ─人間であり続けるために禁術にまで手を出して

  

 これではまるで  妖怪ではないか

 

 

「そろそろ・・限界かな」

 

 嘲笑も込めた言葉を吐く。

 しかしそれが、自分の本心からの言葉だと

 口に出して初めて思い知った。

 ああ・・駄目だ。

 あれだけ固めてきた、言い聞かせてきた 決意が壊れてしまう。

 久しく忘れていたこの疼き。

 目頭が熱い。

 涙が頬を流れ、鼻先に雫を作る。

 

  ─私がやってきた事は何だったのか

  ─何も意味が無かったと言うのか

  ─もう、これ以上続けても

 

  

 頬を、二つの小さな手が触れた。

 

『もう、休む?』

 

 良く見知った顔が直ぐそこにあった。

 自慢の帽子も置き去りにして切り揃えた前髪から

 細くなった目がこちらを見つめている。

 その屈託の無い笑みの中には、知る者にしか判らない寂しさがあった。

 

  何を甘えている

  自分が言い出したことだろう

  最後まで責任を持て

  

 そうは口にしなくとも、柔らかい笑顔が物語っていた。

 だから私は、決まってこう締め括る。

 

「まだ、勝負は付いていませんから」

 

 

 

 今から百年前、幻想郷を襲った最後の異変。

 "博麗之忘却"

 古来より結界を守る巫女の後継者であり、越えるべき相手だった博麗霊夢。

 あの人よりも高く、より強く。

 それをモットーに日々を生きてきた私にとって、その異変はあまりに残酷に過ぎた。

 

 多くの者に愛された博麗霊夢は実に様々な立場にあった。

 ある者にとっては、"好敵手"。

 またある者にとっては、"最高の遊び相手"。

 多くの者には、"幻想郷のバランサー"としても認識されていただろう。

 しかし私にとって彼女は、少なくとも"生きがい"だった。

 ひたすらに守矢の名を広めて走る毎日を、より過激にしてくれる。

 彼女が動くたびにざわつく幻想郷。

 一度その力が真価を発揮すれば、あっと言う間に異変は鎮圧される。

 この幻想郷で唯一の「絶対」。

 そんな人物、そんな存在。

 

  それがある日 消滅した

 

 何の前触れも無く。

 何の根拠も無く。

 その後、振って沸いた結界に関する問題。

 それを解消すべく取られた措置により、別の巫女が生み出された。

 

 だから何だ?

 

 そんなことは、私にとって何の意味も無かった。

 日々積み重ねてきたものを、想いをぶつける相手がいなくなったのだ。

 この心は既に行き場を失った。

 

  ─私の相手はどうした

  ─まだ勝負は終わっていないぞ!

  ─博麗霊夢はどこにいるッ!!

 

 

 声にならない叫びが心に沸いては消える。

 あんな姿形が同じだけのマネキンに何の意味がある?

 同じ服を着せ、同じ声で喋らせ、同じ様な生活をさせる。

 あれを造った者達は富んだ我侭だ。

 集団で自慰行為に耽る事と何ら変わらない。

 

 それに加担した者、していない者らでも多くの変化が有った。

 主人の兇牙により人としての生を捨て去った悪魔のメイド。

 あの霧雨魔理沙でさえ、半妖の道を選んだのだ。

 気付けば、"人間"は自分だけになっていた。

 あの者達は自らの意思のみで行動したわけではない。

 巫女の死による絶望、もしくはそれによって狂い猛った者による結果。

 

 ─では私は?

 

『お前には神としての道がある』

 

 守矢神社に住まう神々から言われた言葉。

 元来あった、人に非ざる異能の力を増幅させ

 人間としてのカテゴリを脱し、果てに神となる道。

 しかし私は首を縦に振らなかった。

 あの博麗霊夢は、最後まで"人間"であり続けた。

 やろうと思えば出来た延命措置も不滅の策も蹴って。

 なのに、私はそれに甘んじるというのか。

 

  ― 否

 

 私は戦わずして負けることが、何より許せなかった。

 彼女は人間として生き、死んだ。

 自分が人間でなくなれば、それはすなわち 無戦の敗北。

 そんなこと

  誰が認めるか!!

 

 

 そして、己の体に掛けた"禁術(キセキ)"。

 "ニンゲン"として、生き永らえる限界まで生き続ける。

 だが例え奇跡により長寿を得ようと、人の身には限度があった。

 次第に衰えていく神力を補うために、身体の至る所に霊符を張り付け

 長く定着させる様に、常に布で締め付ける。

 その副作用のため、肌で感じるはずの物の温度や気温が分からなくなった。

 札を替える為に二日に一回は禊が必要にもなった。

 

  だがこれで 私は人間でいられる

  少しでも長く あの巫女と同じ舞台に立っていられる

 

 

 

 しかしそれも着実に意味を成さなくなっていた。

 人の寿命は以って百余年。

 そう、これ以上の年月を生きると、私は人として看做されず

 人間たちの目からは「妖怪」、もしくは「魔女」と映ってしまう。

 私を"人間"としてて意義付けるのは、自分では無い者の目。

 異能の力を持っていようと、病や飢え、加齢での衰弱によって死ぬ。

 それこそが人間足る由縁。

 つまり私の奇跡もそこまで。

 後に待つのは、老衰による衰弱死。

 なんと残酷で、非情な幕引き。

 恒久なる生への執着と、人間としてありたいと云う願い。

 その狭間に起こる矛盾、事実の摩擦。

 その果てに在る 不動の死。

 

  ─それでいいのか・・?

  

  

  ─いいだろう

  ─もう、いいだろう

  ─十分に生きたんだ

  ─もう十分に、意地を貫いたんだ

  ─・・

 

 

 

 

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 一体、如何すれば良いのだ。

 

 早苗はあの日から人として生きると言い出し

 自ら禁術を使ってまで、生身の人間であろうとした。

 あの子の力を以ってすれば命を伸ばす術等いくらでもあるのに。

 敢えて矛盾する願いを、奇跡によって成し遂げた。

 しかしそれも、もう限界を迎える。

 

  ─あの子は 死んでしまう

 

 もちろん完全に消えてしまう訳ではない事は分かる。

 俗世の鎖から外れ、彼岸の向こう側へ行ってしまう。

 それだけだ。

 だが、それはもう"今の早苗"ではない。

 肉体を持たず、ひょっとすると心まで失っているかもしれない。

 死者は記憶を宿さない。

 それは他でもない、あの冥界の管理人や麓の巫女が実証している。

 例えそれでも、あの子は己の生き方を変えようとはしないだろう。

 あの娘は私達が思っている以上に、芯が強く、頑固者だから。

 でも─

 

「どうすればいい・・・」

 

 背の注連縄が重く伸し掛かるように傾く。

 古くから語り継がれた神でありながら、人一人救う事ができない。

 並み居る侵略者達を蹴散らしてきた神力であっても

 あの子を助ける事は叶わない。

 

『人里に"稗田"という者が居る』

 

 何時の間にいたのか、奇妙な被りを揺らしながら"相棒"が立っていた。

 その顔は何時ものそれとは違う、何処か憂いのある色をしていた。

 

「ひえだ? あの幻想郷縁起を編纂しているという家の」

『そう、今は十代目で名は阿都(あと)。まぁ、見た感じは可愛い女の子だけどね

 この人間が転生を繰り返している"同一精神体"なのは知っていた?』

「聞いたことはあったけど・・、まさか」

『そう、転生なんだよ。

 あの娘のように逐一記憶を持ち越すみたいな芸当は無理だろうが

 死んで解放された魂を別の器に移すよりも、余程人格を保てる』

 

 それは分かる。

 確かに考えてみれば、神でも妖怪でもない一人の人間が

 ああも完全に近い形で代々の記憶を有することは不可能だ。

 諏訪子の口振りからするに、その方法を行使する様だが・・

 

「人格形成に問題はないの?」

『九代目の時に、ちょっと"頭の中"を見せてもらってね。

 そしたらどうだ、あの小さな頭の中には九人分の知識と歴史が詰まってた。

 所々破損はしていたが、確実に人格を保っている』

「あの人間特有の能力が後押ししている事が前提だろう」

『ならばそこを補うのが、私達の神徳じゃあないのか?』

 

 そう言われては、グウの音も出ない。

 幼子姿に似合わない神妙な顔つきをした洩矢諏訪子は

 こちらの目の前に鎮座した。

 

『その手段は閻魔が知っているようだ。

 頼んでどうにかなる相手かわからないけどね』

 

 幻想郷の閻魔 ─四季映姫・ヤマザナドゥ。

 片田舎と呼ばれるこの世界を、文字通り裁く権限を持つ人物。

 その力は時に神をも凌駕する。

 

 一筋縄ではいかない相手の登場に一瞬は躊躇した。

 しかし・・待てよ。

 考えてみよ、八坂神奈子。

 今の幻想郷に自分達を抑え込むほどの勢力があるだろうか?

 吸血鬼も為りを潜め、亡霊の姫も籠りきり。

 月人は我関せずを徹し、その他については有象無象の寄せ集め。

 なんだ。

 可能ではないか。

 たった一人の閻魔等、我らの力で

 

「なるかじゃない、させるのよ」

 

 途端に沸き起こる"支配欲"。

 そうこれは何年も、何百年も前から自分に根付いているもの。

 

  ─何人も私に逆らわせない

 

 ようやく、早苗を助ける手段が見つかった。

 しかもそれは嬉しい事に、自分が"最も得意とする方法"で実現できる。

 そう、出来るのだ。

 あまりの歓喜に手が震えた。

 

『悪い顔だね、相変わらず』

「アンタ程じゃないわよ、祟り神」

 

 お互いに顔を突き合わせて、嗤った。

 性格の悪さがこの時ばかりは有難い。

 何時以来か、ここまで高揚した気分になったのは。

 

「諏訪子、私は やりたい事が決まったよ」

『へぇ、そいつは良かった。 言ってみな?』

 

「幻想郷を 支配(おと)す」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 厄介といえば厄介な事になった。

 とうとうこの幻想郷で"戦争"が起こるという。

 

 切欠は外の世界の来訪者。

 名は蘭菊、我が家に上がった数年振りの「ニンゲン」のお客様。

 これもまた数年振りに顔を見せた"馬鹿弟子"の連れとしてやって来て

 彼女がこの世界に来た理由と、原因を聞いた。

 とは言え、直接的な原因とされる物が何なのかまでは分からなかった。

 キーとなったのは、彼女が持っていた"かつて幻想郷で作られた物"。

 それらがまるで、故郷に残した片割れと引き合うように彼女と幼馴染を連れ込んだ。

 全く、お互いにとっても迷惑な話だ。

 

 その彼女が呪いによって重傷を負い、永遠亭に搬送されたことを耳にした。

 

「大事には至らなかったそうだけど、瀕死だと言ってたわね。

 ・・大丈夫かしら」

 

 つい成り行きで話してしまったとは言え、結果としてこの異変に彼女を巻き込んだ。

 その責任の一端は自分にあると言っても過言ではない。

 私が魔理沙に無理矢理に話を振らせなければ良かった話なのだ。

 歯切れの悪い魔理沙と、それによって立つ瀬の無くなった蘭菊が 観るに堪えなかった。

 と、口に出そうものなら 鬼の拳が飛んできそうだ。

 

 あの萃香が怒りを顕にしている様を観るのは、私も初めてだった。

 その理由はと言えば、何時まで経っても煮え切らない魔理沙の性根にあったわけだけど・・

 魔理沙と神社に置いていた通信人形の通話内容で大よその事情は知っていた。

 だからこそ私はすぐさま作業に取り掛かった。

 パチュリーや河童と違い、私の場合は殆どが手作業。

 今は少しの時間も惜しい。

 

『(アリス・・・起きているなら、悪いが紅魔館に来てくれないか)』

 

 案の定と言うか、期待通りの台詞が人形から発せられる。

 

「私は行かないわ。直ぐに取り掛からないといけない作業があるの」

『(まさか・・もう奴らに対する策に取り掛かっているのか?)』

 

 既に卒業したとは言え、流石は我が生徒。

 大した洞察力。

 でもまだ甘いわ。

 対抗するのは紛う事無き神。

 それも粒揃いのキワモノ達。

 ならば今せずに何時やるというのか。

 

「その人形を会合の場に持って行って。

 こっちでその内容を記録しておくから、手が空いてから聴くわ」

『(途中でアリスの意見も聞きたいんだが・・)』

「そのまま話せばいい。音量調節はその都度行うから、違和感無く話せるはずよ」

 

 尚も道具類をあちこちから出しては、その数を確認する。

 やはり少し足りない。

 "あの子たち"の手を借りたとしても、道具が無ければ意味がない。

 ・・・・

 仕方ない。

 「作る」か。

 

 人形を作るために、他の人形たちが使う道具を作る。

 ややこしい事この上ない。

 だが自分が使う裁縫道具はそこいらの代物とは訳が違う。

 作り出す人形はマジックアイテムとして機能しなければならない。

 ならばそれを生み出す道具たちも、やはり魔力増幅機構が無ければ無意味だ。

 糸、針、ミシン、鋏、鑢。

 どれ一つ取っても、既製品では代用できない。

 私の魔力を十二分に蓄え、余す事無く活かし切る人形を作るには

 素材と道具から揃えなければいけない。

 あの神たちが何時頃、事を起こすかは定かではないが

 少なく見積もってもこの五日間の間に、何処かしらに甚大な被害をもたらすはず。

 

 

 紅魔館では本当にわずかな人員での会合が行われている。

 これが只の異変であれば、集まった面子でも戦力的に申し分ない。

 だが今回は違う。

 神二柱とそれに仕える巫女。

 そして確実に増えるであろう信者の増援。

 そのほとんどが山の妖怪と聞くが、とても一筋縄で行かない戦力を誇る。

 だとすればこちらの執る策など明白。

 

「目には目を、歯に歯を。数には数で対抗してあげるわ」

 

 ─幻想郷に猛者居れど、其の多くは孤軍也。

 

 部下を従える者は居ても、それらを手足のように扱う事など到底不可能。

 だが、私は違う。

 手足の比喩は誇張ではなく、部下よりも誠実で、忠臣よりも忠実。

 それを総て同時に動かす。

 すなわち─

 

  「軍」を操る  

 

 それこそ、"人形遣い"アリス・マーガトロイドの本領である。

 

『(アリス)』

 

 魔理沙の声が聞こえる。

 只、名だけを口にした「問いかけ」。

 聞く者が聞けば、不可解な掛け合い。

 話の内容だって勿論聴いていない。

 しかし私には分かっている。

 貴女が、私に求めているのは つまり、こう云う事でしょう?

 

「任す」

 

 それだけで良い。

 今の私達にあるのは、「信じる」こと。

 

 それだけで 今は良い。

 

 

 

 

 




魔理沙「何時も思うが、大江戸人形の調整してて事故ったりしないのか?」
アリス「無いわけ無いじゃない」
魔理沙「なんで生きてるんだ?」
アリス「彼岸を渡ろうにも、誰もお供えしないから運賃不足で送り返されているのよッ!」
魔理沙「・・・そうか」


そんなわけで第十話です。あんまりだらだらやってるせいで、もう十話。・・えっ?
(それでも過去話のストックがまだテンコ盛りという・・orz)
守矢勢、主に神二柱が異変に乗り出した訳が語られましたが何処からどう見ても身内びいきの傍迷惑な犯行です。 しかし古今東西、悪役の犯行動機なんてそんなものでしょう。
                            (良ければ次もドウゾ。)
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