「今の早苗さん」:齢百余年。体中にお札を貼っているため厚着をし、気温も分からない。
この禁術の中には「見た目を若く見せる」作用も含まれている。
「稗田阿都<あと>」:十代目御阿礼の子。準備期間が長かったために、年齢はまだ10才未満。
「今の白玉楼」:紫が居ないせいで引篭もった幽々子様。妖夢は冥界の仕事で留守が多いです
「アリスの弟子」:魔理沙のこと。正式に魔法使いとなった後で弟子入りし、直ぐに卒業した
「通信人形」:にとりから多くのアイデアを得て、アリスが作り出したマジックアイテム。
精度の良さから愛用者は多い様子。見た目以上に結構頑丈。
親が子を想うのは当たり前ですが、その気持ちがそのまま伝わるとは限りません。
これくらい大丈夫、この程度は良かれ と思っている時に、事故は起こるのです。
それでは、どうぞ
永遠亭を出てから、私と萃香は只ひたすらに竹林を歩いていた。
見渡す限りの緑の柱。
「迷いの竹林」の異名をもつこの竹の海を、人間と鬼が歩く。
元々住んでいた土地では広葉樹が主流だったため、竹には馴染みが無い。
そのせいも有ってか、初めは妙に見入ってしまった。
人の手の入っていない自然の竹は、太さも色もしっかりしており
竹細工には持って来いと言った程に出来が良い。
だが、それも今は関係の無い話だ。
「ねぇ、萃香。
あのまま帰しちゃって良かったの?」
『いいだろ。別に何かあるわけじゃないし』
「そうかもしれないけどさ・・霊夢だって、萃香と帰りたかったかもしれないじゃない」
『あいつが? はっはっはっ!
そこまで可愛げがあれば嫁の貰い手があるのにねぇ。
残念だけど、霊夢はそんな”おセンチ”な奴じゃないさ』
「・・・おせんちって何?」
『辞書引け』
軽くあしらわれてしまい、また黙々と歩みを進める。
涼しげなこの風景も、これだけ長く見せられれば流石に嫌になる。
おまけに舗装されていない道だから歩きにくいの何のって・・
対して萃香の方は、落ち葉や落ち枝など物ともせずに進んでいく。
「あの、てゐっていう兎さんが悪戯好きって言うのは聞いてたけど・・。
まさかこの歩き難さもあの子の仕業?!」
『蘭菊が鈍臭いだけだよ』
途中、竹の切り株に躓いて盛大に転んだ私を笑いながら
鬼娘はその切り株ごと踏み潰して突き進んでいった。
お前はロードローラーか。
先程まで一緒だった霊夢は今この場に居ない。
と言うのも、萃香がたった一人で帰らせてしまった という経緯がある。
まずは一悶着があった診察室まで半刻ほど遡ろう。
◆
霊夢が待っていたと言う和室に移動して、とりあえずの一服。
既に3リットル余りのお湯を使い切った彼女の言い分は
『味はいまいちだったけど、何も無いよりマシだったわ』
流石は霊夢。
己の基準を崩すことなく適度なラインで妥協してみせる。
そこに痺れる、憧れる。
でもお腹は大事にしてください。
『それで、蘭菊はいつ帰るの?』
「えっ?」
帰る・・?
一瞬、其の言葉の意味する所が分からなかった。
それは、「帰れ」という意味なの?
辰魅が見つかったのだから、早く帰ればいい と言う・・
霊夢の顔が余りに素っ気無いものだったために
首筋辺りの血が一気に引く気がした。
『神社よ。私の』
「わた・・ああ、博麗神社ね」
何だ。
そうか。
うん、そうだよ。
私は霊夢に、泊まらせてくれる約束をしたじゃないか。
途端に安心感が沸いてきて深く息を吐いた。
『大丈夫? やっぱりまだ本調子じゃない?』
「いや、これはそういうのじゃないけど・・。
でもまだ行かなくちゃいけない所があるみたいなの」
『何処に?』
「詳しくは分からない・・。
魔理沙が呼んでいるそうなのよ。
だから、帰るのは用事を済ませてからになりそう」
あえて魔理沙の名を出す事で、それ以上の深入りをさせない。
これは萃香の言った事だった。
魔理沙を苦手と感じている霊夢にとって彼女の居る環境には
たとえ私や萃香が一緒であっても、躊躇するものらしい。
案の定、霊夢の顔がやや残念そうに曇る。
折角お持て成しをしてくれると言うのに
別に宿を取ろうとしているのだから無理も無い。
『いいわ。それが終わってからで良いから、戻ってきなさいよ』
「うん、分かった。 約束する」
『萃香はどうするの? 一緒に帰る?』
『うんにゃ、私も帰らない』
話を振る霊夢だったが、肝心の萃香は全く別の方向を向いていた。
彼女達の付き合いの長さを鑑みればそれも自然なことなのだろう。
しかしこの時だけは、霊夢の表情がやや硬いものに見えた。
『どうしたのよ、まだ飲み足りないの?』
『んな訳あるかい。
蘭菊を送らないといけないからね。
空も飛べない娘っ子を独りで竹林に放り出す訳にはいかないさ』
それもそうだ。
思い返せば、これまでずっと魔理沙の箒に乗って移動していたのだ。
彼女と別れてからの移動手段について、正直全く考えていなかった。
私とした事が、とんだお間抜けっぷりである。
「じゃあ兎さん達にお願いするとか」
『悪いけれどこちらにも事情があるのよ。
見送りは出来ても送り届けることまでは出来ないわ』
永琳が事務的な口調で説明してくれた。
其の件については萃香も承知しているらしく、何も口を挟まない。
『まぁまぁ、霊夢は独りで大丈夫だが、お前さんはそうもいかないだろ。
あっちについてからはまた白黒にでも運んでもらってよ』
「そういうことなら、言う事を聞くしかないんだけど・・」
『蘭菊も災難ね』
霊夢が労いの言葉をかけてくれる。
本当に彼女は優しいな。
同じ巫女だから、と言うわけだからか。
それとも・・同じ素体を持つもの同士で無意識にそうしているのだろうか。
霊夢は、私達が同じ遺伝子を持つもの同士と言う事は知らない。
永琳と萃香、両名が私に対して口外禁止を言い渡したからだ。
それは幻想郷の守護者たる霊夢とて例外ではない。
主な理由は、萃香が霊夢のことを想ってのことだが
精神的にまだ未成熟である霊夢に、この内容は理解の範疇を超えてしまう
危険性があるというのだ。
・・私も未成熟だと思うんですけどね
今回の異変についての情報を与えないのもそのため。
まだ戦力として十分でないこと、試合ではなく本当の戦闘に対して
精神が対応しきれない可能性が高いこと。
この二つを考慮し、萃香も必要以上の会話を避けている。
それは傍から見ていて心苦しいものが有った。
『ご飯はどうするの? それまでに帰ってくる?』
「えーと・・多分、帰れると思うけど」
『ほらほら霊夢、巫女が何時までもここに居ちゃ行けないよ。
早く神社に戻って、掃除して祝詞でも挙げてきな』
萃香はかなりぶっきら棒に吐き捨てた。
普通通りに聞けば、何気ない皮肉にも聞けるのに
今はもう、無理に霊夢を追い返そうとしているのが良く分かる。
霊夢はどう感じているのだろう。
願わくば、どうか萃香の想いを感じ取って欲しい。
彼女は貴女の事を想って、こんな言い方をしているのだ。
『そう、判ったわ。 じゃあ先に帰ってるわね』
意外なほどに素直に踵を返す霊夢。
彼女の、物事に拘らない性格がそうさせたのだろうか。
何にせよ 良かった。
霊夢が強い人で本当に良かった。
私なら居た堪れない気持ちで癇癪を起こしてしまいそうだ。
『気をつけてね、蘭菊』
「うん、貴女も」
紅魔館での用事が片付いたら、絶対に神社に帰ろう。
霊夢ともっと話がしたい。
彼女の事を、もっと知ってあげないと。
別れの言葉の後で 思わず俯いていた。
-------------------------------------------
ああ、何でこうなったのかしら。
確かにね、あの患者に事情を話したらきっと揉め事になるって
師匠から聞かされてはいたけども、まさかここまで酷いとは・・。
入念な血液検査の結果、外界からの来訪者と新しい巫女の
遺伝子情報がほとんど差異無く一致したという事実は少なくとも衝撃だった。
私は勿論の事、師匠も暫くは思考に没頭した事からその驚愕の程は計り知れない。
互いに当事者以外への口外を厳禁とし、防音処理のされた診察室で
患者への報告を行っていた所に それは起こった。
小さな百鬼夜行 伊吹萃香の奇襲。
(いや、最初から来ているのは分かっていたけれど)
神社から此処へ患者を運んでからは熟睡していた鬼が
師匠の話を耳にして起きたのか、診察室の扉を破壊して入ってきた。
・・なんて地獄耳なのよ。
部屋に入ってきた鬼は、そのまま師匠に歩み寄ったかと思えば
問答無用の右ストレート
相手は死ぬ
・・・
いやいやいや!
オカシイでしょ?!
ただ話をしていただけじゃない。
何でいきなり殴り殺されなくちゃいけない訳?
案の定、最初の一撃で首の骨が捻じ折れた師匠は壁にもたれながら"死んだ"。
直ぐに
待てど暮らせど、師匠は起き上がらない。
鬼の力は強力だ。
単純な力だけを言えば、師匠や姫様でも敵わないかも知れない。
それでも一切、反応しないのはオカシイ。
居ても経っても居られなくなり、私はとうとう声を荒げて制止した。
そして、首を圧し折られ掛けた。
しかも師匠は敢えて攻撃を受けていたらしく、其の後には普通に起き上がっていた。
蘭菊が駆け寄ってきて、背中を擦ってくれたのが唯一の救い。
ありがとう、結婚して
その後、何やかんやあって和解した鬼と師匠は
ダブル巫女を伴って部屋を移動。
漸く意識が正常に回復した私に、部屋の掃除を言い渡して戸を閉めた。
今に至る。
「理不尽だ・・」
今更過ぎる。
この台詞だって此処に来てからの「私の口癖・ベストファイブ」から
未だに脱落していない常連ワードだ。
そろそろ無くなってもいいのよ?
じゃないと悲しくなるわ、私が。
既に何回目になるか分からなくなったバケツの水換え。
始めの方こそ、「ああ、これ師匠の血なんだよなぁ」とナーバスになっていたが
今ではもう真っ赤な水を排水溝に流す事に違和感も無くなった。
あれだけ血塗れだった診察室は床以外はすっかり綺麗になり
後はモップで拭き取れば完了という所まで漕ぎ着けた。
『やっほぃ、終わった? なんだ未だじゃない』
今この瞬間で、絶対に聞きたくない奴の声を聞いた。
「そう思うんなら手伝ってはどうでしょうかね、てゐさん?」
『嫌よ。自慢の純白のお耳と心が汚れてしまいますわ』
タール並みにどす黒い心を持った兎が、三文役者ばりにハンカチで顔を覆う。
うざい。
皮を剥いで吊るしたい。
何で鬼はコイツも殺さなかったのだろう。
『あー、いま良からぬ事を考えてるでしょ』
「イエ、メッソウモナイ」
しかし今回の事で分かった事がある。
最近、竹林の周りでも妙に妖怪達が騒いでいるのを耳にした。
師匠が一切外に出なくなったことで、私が情報収集も兼ねた薬売りを行っているが
昨日から、周りの騒ぎがより顕著に見られるようになった。
兎達の情報だと、蘭菊と一緒に入ってきた女の子がその原因らしい。
しかも噂によれば彼女は外の神であるらしく、既に守矢神社に捕らえられてると。
「ねぇ、てゐ。あれから新しい情報は入ってきていないの?」
『なぁんも無し。
私の知る限りでは、あの水神がまだ目を覚ましていないっていう事くらいだね』
「進展は無し、か」
師匠の読みが正しければ、山の神たちは近日中に
しかもそれは、幻想郷に数ある組織の拠点を
可能性が非常に高いという。
そうなればここだって安全とは言い難い。
しかし師匠が戦えなくとも、私や姫様も付いている。 (てゐは・・保留)
私達の永遠亭は、絶対に潰させない。
ようやく床の掃除も終わり、師匠に報告するべく
部屋の戸を開けた。
「うわっと!」
直ぐ目の前を紅白の巫女が通り過ぎようとしていたらしく
ぶつかりそうになる手前で慌てて上体を起こす。
ああ、
『どこに目ェ付けてんのよ!! 兎鍋にされたいの?!』
いきなり怒鳴られた。
こちらが言い返すまもなく、巫女はこちらを押し退けて過ぎ去り
そのまま入り口に続く戸を力任せに抉じ開けて出て行った。
「何・・あれ」
『さぁ・・鈴仙、何かやらかしたんじゃないの?』
「やってないわよ! ・・たぶん」
触らぬ巫女に祟り無し。
あの状態の霊夢には無闇に手を出さない方が身のため。
・・・ん?
「霊夢ってさ・・あんなに怒鳴り散らすような性格だったっけ?」
『あんなもんじゃない? 私も詳しくは知らないけどさ』
「妖怪相手だと問答無用で襲い掛かるニンゲンなのは知ってたけど
あそこまで直情的じゃなかった気もするのよね・・」
『気にしたって仕方ないさ。
第一 "あの霊夢"は、昔とは違うんだからさ』
「・・・それもそうか」
蘭菊「鹿の角が縁起が良いってよく飾って在るけど、萃香の角ってどうなのかしら?」
霊夢「少なくとも妖怪は近寄らないんじゃない? 一応鬼なんだし」
蘭菊「敢えて座らせて置くのも有りかもねww」
霊夢「お客さんに持ち逃げされたりしてww」
萃香「テメェら
・・・人間じゃネェ!!」
永遠亭を出るまでのやり取りのみという、非常に短い回でした。
しかしここで見せたかったのは「霊夢が抱く感情」がどういったもので、
萃香や蘭菊に対し、どんな気持ちで接しているのかということ。精神が未熟というのがミソなんですね。
何処からとも無くパルパルしい人とかやって来そうです・・
(良ければ次もドウゾ。)