東方水辰閣 ~巫女が二人で幻想入り~   作:ビーグル

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前話における解説を書き殴るコーナー
「激怒霊夢」:自分の扱いと、蘭菊の扱いに差がある事についての憤り
「あの霊夢」:100年前まで生きていた原作霊夢
「飛ばない萃香」:蘭菊を連れてる事、分身体である事が主な原因

草稿は作っているのですが中々形にならないため投稿に至らない。
あるあるだと思います。
それでは、どうぞ


第拾弐話 「合掌」

 

 

今の事態を率直に述べるとするならば、"停滞"が妥当かもしれない

かつて在った喧噪は滅びを迎えたように姿を消し、あの者たちの声は聞こえなくなった

木々の声が、動物たちの声が、彼女たちよりも聞こえるようになってから随分と久しい

 

愚直なまでにニンゲンである事を誇っていた巫女が

素直なまでにニンゲンである事を悔しがっていた魔法使いが

いつしか声を無くしていた

 

それを憂うべきであったのだろうか

今となっては誰に問うこともできない  だれにも─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペットの内の一匹が行方を晦ました。それだけで異常事態が起こっている事は明白だった。

事態発生の原因は分からない。しかし、それを引き起こした犯人には心当たりがあった。

 

この地底というエリアは特殊だ。幻想郷という決して広くない枠内に属しながら其の実態を

把握している者は極僅(ごくわず)か。外界からも、地上からも忘れ去られた者達の終着点。

それがこの旧地獄なのだ。

 

しかしその概念を崩したのが、山の神社の神々。

 

彼女達が私のペットの一匹を「半神」に改造し異変を起こさせた事を皮切りに、妖怪の山の

エネルギー開発に着手。それに伴い地下間欠泉センターの建造。目まぐるしい変化だった。

確かに地上は豊かになった事だろう。だがそれはあくまで地上(、、)に限った話。

地下には相変わらず陽の光は差すことなく、扱き使われた地獄烏は他の者達と居られる時間

が減り、事ある毎にそれを嘆いていた。

 

 

そう、あの時から既に 地底には守矢の神々の影があった。

 

 

 『さとり様! 火焔猫燐、只今戻りました!』

 

お燐が威勢の良い声と共にエントランスに入ってきた。他にも多くのペットは住んでいるが

特にこのお燐と相方のお空は私の為に良く働いてくれる。

今もお空(相棒)が連れ去られたというのに、それでも気丈に振舞っている。

それでもその心の内は焦燥感と猜疑心(さいぎしん)と憎悪で溢れ返っていた。

 

お燐を連れて私室に移動し、今回の「お空誘拐」についての考察を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 「今回の件について、貴女はどう思っている? お燐」

 

(ようや)く荒々しい呼吸を整え、ゆっくりと考える時間を与えた所で私は率直に尋ねた。

飼い主である私よりもずっと長い時間を共に過ごしたこの娘ならば、彼女が陥った事態を

より真実に近づきながら推測することが出来るはず。

 

 『あたいは・・お空が自分で勝手に居なくなったなんて思っていません。

  アイツは絶対に攫われたんです』

 

やはり、か。

どうやら彼女の中では、お空が誘拐によって姿を消した事は明白のようだ。

次なる問題は、"誰が"攫ったかと言う事だが・・。これは既に目星が付いている。

お燐の思考を読む限り、この子もそれは勘付いているようだ。

 

 「そうね、恐らくあの(、、)者達の犯行で間違いは無さそうだわ」

 

 

地上のニンゲンたちが挙って地底にやって来る原因となった異変。

その首謀者たる、守矢の神々。

彼の者の傍若無人ぶりは認識していたつもりだが、今回のそれは看過できないものだ。

 

 『お空を勝手に改造しただけでなく、これ以上扱き使うって言うのか・・!』

 

お燐の心がみるみる内に怒りで満ちていく。彼女の性格を考えればここまで怒り心頭なのは

珍しい事でもある。しかしその原因を問う必要などない。

私だってタガを外せば、罵詈雑言を撒き散らしかねない程には怒りを感じている。

そうならないのは、或る一つの「疑問」が在ったからだ。

 

 - 何故、今頃になって?

 

 

お空があの力を持ってからは、散々色んな事に駆り出されていた。

これまでも用があれば私やお燐を通して、地上に派遣もしてきた。

それがエネルギー供給の安定化に伴い、暫く音沙汰も無くなり、お空も他のペット達と共に

のんびりと地底で暮らしていた 今頃になって、だ。

 

何故にわざわざ、"誘拐"と言う形で以って お空を連れ出したのか。

それが 私には判らなかった。

 

 - 地上で何か起こっているのか?

 - そう言えば、巫女が死んだとは聞いていた

 - それから何年が経った?

 

 

時の流れや世情に疎い地底では噂程度に舞い込んでくる地上の情報は余りに不確かな物だ。

それが本当なのかどうかさえ、確める術が無い。使いの者を出して探りを入れさせれば良い

─が、それをやりたがる者が居ないのが現状だ。

 

故に「命令」と云う形で以って実行させる。しかしそれによって彼らには不満や不信感が

生まれる。だから私がやりたがらないのだ。

或る意味で自業自得な気もするが、致し方ない。

 

ここは別の手段を講じることにしよう。

 

 

 「お燐、扉を閉めてくれる?」 

 『え? あ、はい』

 

大広間から各方面への廊下に通じるいくつかの扉を閉ざす。

この地霊殿はある種の結界を成したものであり、こうして密室に近い状態を作り出す事で

外界との繋がりを遮断する。さとりとしての能力の応用の為、如何なる術を用いても干渉

は不可能。それはかのスキマ妖怪や神代の者とて例外ではない。

 

扉が閉められ、結界が発動した事を確認する。

これで善し。

 

「まさかこれを使う事になるなんてね」 

『人形・・ですか?。

 あれ? この人形どこかで見たような・・』

 

お燐がしげしげと私の手の中にある人形を見つめる。

 

 『ああっ! あの魔法使いのおねえさんが持っていたやつだ!

  一つだけ見つからなかったって、探しに来たりしてたけど・・ まさか、さとり様』

 「ええ、わたしが隠したのよ。

  何でそんな事 って、それは今から説明するわ」

 

率直な疑問の"声"を聞き、テーブルの上に人形を乗せる。

 

 

 

 

 

かつてペットの内の一匹、お空が地上征服を名目とした異変を起こした際

その調査に来た二人組の片方 -魔法使い 霧雨魔理沙が所持していた魔法人形。

 

この人形を介して会話をする事が可能であり、遥か遠方の相手と連絡をとる通信手段に

使われていたことは、実際に見ていた事もあり私も知っていた。

そのメカニズムがこの中に仕込まれていた霊玉であった事は解体してから知った事だが。

 

部屋に展開された結界に対して、一つの細工を施す。

こうする事でこの人形を介して行う通信のみを遮断の対象から外す事ができる。

 

 「始めるわ・・」

 

 

 

第三の瞳を人形に向け、意識を集中させる。

この人形はもともとエネルギー供給のため、魔力の糸を繋げられていたらしく

その糸が途切れた今でも”当時の状態”を想起させる事で疑似的に復元できる。

 

魔力の糸が部屋から館の外へと伸びた頃、私の意識は地中をすり抜けて行き

明るい陽の差す地上へと飛び出した。こちらの逡巡を意に介さぬように、まるで糸を

手繰り寄せるが如く景色が移り変わっていく。

 

 

 

やがて深い森に入ったかと思うと、一軒の西洋屋敷に向かって意識が吸い込まれていく。

移動が終わったことを確認すると目の前には一人の魔女が立っていた。

彼女こそがこの人形の作り手で間違いはなさそうだ。この状態であれば聞こえるはず。

 

 「あー あー 聞こえている?」

 

案の定、姿の無い声に対して警戒し始めた。

しかしすぐに"糸"を介した通信であると分かったようで、目を閉じて返答をしてきた。

 

 『(一体だれかしら。私の人形を盗む輩には間違いなさそうだけど)』

 「それについては先に謝っておくわ。しかしその甲斐は大いにあった─」

 『へぇー すごいですねさとり様! 人形遣いのお姉さんの声がちゃんと聞こえてますよ』

 

色々なことを後悔したが、すぐに諦めた。

お燐には手刀を一発入れておこう。

 

 『(古明地さとり…。そう、確かに貴女なら地底にいながら人形を得る機会があったわね。

  魔理沙が人形を無くした上に見つからないって言うもんだから、嘘も休み休み言えと

  軽蔑したのを思い出したわ)』

 「こちらとしては貴女たちの痴話喧嘩に興味はないので、本題に入りたいと─」

 

言い終える間もなく人形がぴくぴくと動き始めた。

どうやらあちらから操作しようとしているらしい。

 

 『(ちょっと・・何をしてくれたのよ。全然動かないじゃない)』

 「仕組みを調べるために解体したからでしょうね」

 『(WTF)』

 

綺麗な顔に似合わず、とてつもない暴言を吐く魔女。これは彼女の印象を改める必要がありそうだ。お燐がハテナを浮かべている内に進展させた方が良い。

 

 「人形はいずれ私が責任をもって返却に参ります。それまではどうかご容赦を」

 『(それはいつまでよ)』

 「少なくとも、異変が終えるまでは」

 

あちらの雰囲気が変わる。かの異変について率先して対処に当たっているという話は

どうやら本当であったようだ。

 

 『(貴女はどっち側なの?)』

 「どちら側とは?」

 『(禅問答をするつもりは無いわ。その人形を今すぐ爆破させても良いのよ)』

 

怒気を多分に含んだ脅しにお燐が小さく声を上げる。

無暗に怖がらせるのはどこの魔女も同じようだ。

 

 「出来もしない事を言うものではありませんよ。ちなみに守矢に付くつもりは毛頭ありません」

 『(・・・随分とハッキリ言うのね。理由を聞いても?)』

 「貴女の口が堅い事を前提にお話すると、うちの地獄烏が一羽攫われまして。山の神に」

 『(それって、まさか霊烏路空のこと?)』

 「残念ながらそのまさかです」

 

人形を介して彼女の舌打ちと口汚い呟きが聞こえた。

お空が敵側に回ったとすると、非常に厄介なのは理解済みらしい。

しかし、アリス=マーガトロイドに対する認識は改める必要があるようだ。

 

 『(それはいつ頃の話?)』

 「お待ちなさい。こちらの内情を話しました。一方的に話すのはフェアではありません」

 『(とは言っても私が明かして良いかは判断しかねるわ…。蘭菊の事とかはどうかしら)』

 

ランギク? 初めて聞く名だった。

人形の糸を介してからでは、人形遣いから思考を読むこともできない。

有益な情報かは不明だが、ここは素直に聞くことにする。

 

 「私は存じませんね。それはどなたですか?」

 『(・・しまった)』

 

その呟きに私は口角が吊り上るのを我慢できなかった。

案の定、お燐が嫌そうな顔をしている。相当酷い形相なのだろう。知ったことではない。

 

 「へぇ~ランギクさん。ランギクさん。可愛らしいお名前ですね。女性ですか?

  それとも少女でしょうか? もしくはお花の妖精さん? 是ェ非知りたいですねェ、えぇ。

  ・・勿論話して下さるのでしょう?」

 『(話してもいいけれど、一つ約束しなさい。絶対に手を出さないって)』

 

ほぅ…随分と溺愛されている。この人形遣いだけなのか、黒白も一緒なのか。

これは興味が尽きない。

 

 「約束しましょう。本音を言えば色々と聞きたい所ですが、それ所ではないのが現状なので」

 『(・・・)』

 

疑惑の無言。まぁ無理もない。これが私に対する評価であると再認識できる。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 「外の世界のニンゲン、ですか・・」

 

珍しくはあるが物足りない。そこまでして庇い立てする必要があるのか。

しかしウッカリ口を滑らせた事を悔やむくらいの価値はあるのだろう。

 

 「しかし貴女がそこまで言うのです。この異変にとって必要なのでしょう?」

 『(えぇ・・。絶対に必要になるはず)』

 

 

ランギクとかいうニンゲンの事は一応記憶しておこう。しかし今知りたいのは

そんな不確定要素の情報などではない。守矢の動向に関する事だ。

 

いくら頭が少し弱いお空でも、無理やり連れ去ろうとすれば抵抗はする。

(そそのか)して言う事を聞かせようとしても他人の目に触れずに

移送する事が果たして可能か。他に協力者が居れば方法はいくらでも有る。

 

 「それよりも守矢に関する情報は無いのですか」

 『(・・無いわ)』

 「無い? 少しくらいは有るでしょう。どこかに出没したとか、攻撃を仕掛けたとか」

 『(さっき話したでしょ、聞いてなかった? 蘭菊が襲われて呪いを─)』

 「いえ、そのニンゲンの話は結構ですから。私はあの二柱の動向を伺いたいんですよ」

 

 

何ともやりづらい。この人形遣いは変に理屈っぽい所がある。

しかもやたらと件のニンゲンについて話したがっている。無駄な時間だ。

いい加減に堪忍袋が限界を迎えそうになっている。

 

 『(結構って何よ。少し自分勝手が過ぎるんじゃないの)』

 「あの、ですね。こちらも今は形振(なりふ)り構っていられない状況でして…」

 『(盗人風情が…)』

 

 

あー 面倒くさい。

こういう手合いの相手は 本当に面倒くさい。

 

 「ふぅぅ~~。・・形振り構っていられないってェ言いませんでしたっけ?

  貴女は■■■■なんですか? それとも腐れ■■? まだ言いましょうか?

  私としてはこれ以上汚い言葉を言いたくないんです。ペットに嫌われますからね。

  判るでしょう?判りませんか? 判れよ」

 

 

隣で閉口するお燐が何か五月蠅(うるさ)く”考えている”。多分、落ち着けとかそう言う事。

あんまり五月蠅いから、2、3回深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

鼻から吸い、口から吐き出す音をわざとらしく大きくする。

怒ってますアピールって? とんでもない。私は常に怒っている。

 

 『(珍しいわね、貴女がそんなに取り乱すなんて。それだけあの子が心配ってわけ?)』

 「”家族”を持つ貴女になら判ると思いますけどね」

 

向こうで小さく舌打ちが聞こえる。気味が良い。

 

 『(…目立った動きがまだ無いのは本当。被害者についても蘭菊だけ。目撃証言もない。

   だから私達も下手に動けない。紅魔館の者と小規模のチームを今日立ち上げた位だもの。

   今は各人ができる範囲での準備を進めているに過ぎないわ)』

 「ありがとうございます。それだけ聞ければ今は十分でしょう」

 

最初からそれだけ素直に話せば良かったのだ。これだから陽の元暮らしは─

なに? 人形遣いの方がオトナの対応をしているって? 面白い冗談よ、お燐。

後でご褒美をあげないとね。

 

 

 

 

 「そういえば次の定例会が迫っていたと思いますが、開催するのですか?」

 『(私は出てないから知らないわ。魔理沙に直接聞いて頂戴)』

 

テーブルの上の人形が両手をクロスさせているのが辛うじて判る。

成程、お互いコミュ障気質って訳ね。確かに今日は少し喋りすぎた。

 

 「であれば伝言をお願いします。”地霊殿は出席する”と。それ位は頼んで良いでしょう」

 『(…人形、ちゃんと返しなさいよ)』

 

その言葉が聞こえた途端、視界がクリアになった。向こうから強制的に接続が切られたのだ。

第三の瞳を待機状態に戻したことで、お燐にもそれが伝わったらしい。

 

 『さとり様ぁ・・』

 「言わなくても良いわ。分かっているし、聞きたくない」

 

大人気なかったとでも言うのだろう。何を言うか。こっちが先輩である。

後輩の態度を戒めるのは、年上として当然の振る舞いであろう。そこに種族は関係ない。

 

 

 『見た目だけならさとり様の方が年下ですよね』

 「っ破ァ!!」

 

他の者なら見逃しちゃう失言に対し、恐ろしく速い手刀を見舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

溜息、ただただ溜息。周囲に浮かぶ半自立型人形たちが何事かと見つめてくる。

今はそっとしておいて欲しい。先程、腹いせに蹴り飛ばした椅子の残骸を横目に気持ちが落ち着くのを待った。

 

結局、机の中から「怨嗟の麻布人形」を取り出し、ありったけの罵倒を吐き出して今に至る。ちなみにこの人形は、どうしても愚痴りたい時など日頃の鬱憤を晴らすために作った簡単なモノだ。怨念が籠りすぎて何時か動き出さないか心配していたりする。

 

 「お茶のも」

 

椅子の片づけを人形に指示し、キッチンへ向かう。最近使っている茶葉の缶を手に取りながら蘭菊の事を思い返していた。今考えてみれば、古明地さとりの反応は至極当然のものだったのだろう。一人のニンゲンに対して、なぜ自分はこれだけ気にかけているのだろうか。

 

─魔理沙が連れてきたから、信頼できると判断した?

─何の(しがらみ)もなく神社に出入りできる、都合のいい人物だから?

─単に話しやすくて、物分かりのいい子だから?

 

抽出を待つ間に色々と考えてみるも、明確な答えは出なかった。

そもそも魔理沙は何故あの子に気を許せたのか。自分の事より以前にそちらの方を疑うべきだろう。あれだけニンゲンの事は嫌いだと言っていたのに─ そういえばニンゲンの弟子を迎えたのも解せなかった。心の変化が有ったと云うのだろうか。

ならば私の心にも変化があった、と? 我が事ながら釈然としない。いっその事、シナプススキャンでもすべきか。

 

 

ようやく紅茶をカップに注ぎ終えた頃には気持ちも落ち着ききっていた。

甘い香りを楽しみつつ、一口だけ喉を通した。

 

 『キーマンなんて飲んでるのね』

 

今この場において、聞こえてくるはずのない声にカップを取り落とした。しかし床に落ちるより早く人形の手に収まり、事なきを得た。それよりも─

 

 「な、なんでアンタがここに…」

 『美味しそうな香りに誘われて来ちゃったのよ。いけなかったかしら』

 

知っているか知らないかで言えば、よく知っている顔。しかしこの顔をここで、この森で目にする事はほとんど無い。むしろ初めてかもしれない。現在が非常事態であろうと、この人物にはまるで関係がないと言わんばかりに、テーブルに座っている。

指示したわけでもないのに人形たちがお茶を出しているのは、この際無視しよう。

 

 「せめて扉から入ってきなさいよ」

 『あら、扉から入ったのよ』

 「ノッカーの音が聞こえなかったんだけど」

 『趣味が悪すぎるわ。アレは誰も使おうと思わないでしょうね』

 

失礼な。それなりに選んで購入したというのに。

そんな事をわざわざ言いに来たわけではないだろう。

 

 

 「一体何の用よ。風見幽香」

 

切れ長の赤い眼が、一層細く、こちらを見つめてくる。

 

 『さっき話していた、”ランギク”ってニンゲンの事。 教えて?』

 

私は 心の中で手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「萃香、萃香! いま悪寒を感じたんだけど!」

 『病み上がりなんだから気を付けなよ』

 「なんか違う気がするけど、ありがとう」

 

もう竹林の出口が見え始めた頃、原因不明の不安が頭をよぎった。

というか今の自分にとって不安ではないことを探す方が難しいと気づき、すぐに気にならなくなった。

 

治療内容は想像を絶するものであったものの、その腕前は確かだった様で今では痛みも怠さも感じない。怪しさ満載である事を除けば良いお医者さんであるのは間違いないようだ。

今回の異変においても中立的な立場をとると言っていたようで、例え守矢の関係者が来ても治療は施すらしい。その点に関してはこちらから言及することは出来ないため、あえて口を挟む必要はないだろう。ただ鉢合わせになるような事態はご遠慮願いたいものである。

 

 『さぁて…どうしたものかな』

 

視界が開けた所で先導していた萃香が腕組を始めた。何か良からぬことになっているのは確かなようだ。…私の前途ってば多難過ぎじゃありませんかね。

 

 「次はなんなの?」

 『そう腐るなよ。ただ判断に困るってだけさ』

 「萃香にとって?」

 『どちらかと言えば、お前の方だな』

 

あらヤダ。予想通り。

とはいえこのまま時間を浪費するのも得策ではないため、萃香に訳を聞いてみる。

 

 

 「─つまり私に危害を加える可能性がある奴の所を通るか

  そこを迂回して遠回りに紅魔館に向かうか、ってこと?」

 『そういうこった』

 「それは人喰いって事? ルーミアみたいな?」

 『あいつを知ってるのか。だが少し違うな。人喰いというより”人壊し”の方が合ってる』

 

何ソレ、初めて聞く単語。パワーワードにも程があるでしょう。

オーガとかトロールとかの類かしら。

 

 「話は通じる感じ? 萃香の知り合いだったりしないの?」

 『話は通じる。もちろん知り合いだ』

 「それなのに危険ってこと?」

 『危険だな』

 

意味が分からない。知り合いなのに危険とか。相当のサイ●パスって事かしら。

聞いている感じじゃ団体ではなく一人っぽいし、萃香が頑張れば逃げることも可能ではないだろうか。鬼なんだし。

急ぐ旅である事は確かなため、最終的にはこのまま直進する事になった。

 

 

 『いいか、奴に何か言われても無視しろ。お前は口下手なんだから変に怒りを買いかねない』

 「そこまで酷くはないと思うけど」

 『八坂神奈子に啖呵切っておいて良く言うよ』

 「キオクにゴザイマセン」

 

やがて眼下に広大な花畑が見えてきた。風に乗って香りが漂ってきていたから何となくは気付いていたが、ここまで大きいとは思わなかった。思わずうれしくなってしまう。

遠目からでも咲いている花が余りに綺麗に見えたため、自然と足がそちらに向いてしまう。だが角っ娘の一睨みでピタリと足が止まった。

 

 『お前は地獄烏か。忠告したのも忘れたとか言ったらデコピンだからな』

 

鬼のデコピンとか首が飛ぶわ。そもそものどかな田園風景なのに何を警戒する必要があろうか。件の危険人物がこんな綺麗な所で襲ってくるはずもないだろう。

 

 『蘭菊が考えてる事はだいたい判る。まずそれを否定してやろう。あれを見ろ』

 「んー?」

 

萃香が指さしたのは花畑を外れた茂みの方。岩が二つほど転がっているのが見える。

 

 「岩がどうしたの」

 『よく見てみろっての』

 

呆れ返ったように吐き捨てるものだから、半ば意地になってその岩を凝視してみた。するとさっきは気付かなかったが、岩の表面には赤黒い染みのようなものが見受けられた。また凹凸部分の先には指のようなものも見える。

 

 「えっ あれ生き物?」

 『オーガとトロールの死骸だよ。連中、うっかり花を踏んじまったみたいだな』

 「花? お花を踏んで、それで殺されたわけ?」

 『ああ、嬲り殺されるには十分な理由だな』

 

その危険人物って花の妖精か何かなのか。

 

 『惜しい、花の妖怪だ』

 「あっそう」

 

もう突っ込む気も起きない。こんな危険な場所は沢山だ。私は紅魔館に帰らせてもらう。

哀れな肉塊を眺めながら歩き始めた私の耳に、クシャリと乾いた音が聞こえた。

 

血の気が引くのが はっきりと分かった。踏み出した右足に、微かな感触があった事も。

自分の背後に 誰かが立っている事も。

 

 

 『こんにちわ  死ね』

 

 

私は 心の中で手を合わせた。

 




お燐 「随分と口が悪い気がするんですが…」
さとり「他の作品と違いを出すためよ」
アリス「メタいわね」

気づけば数年ぶりの更新となっていました。色々と申し訳ありません。
見ている方はそんなに居ないと思いますが、今後も続けていきたいと考えています。
二度目の紅魔館に向かい、改めて住人達との絡みもある予定。
そして紅い主人も…。

                            (良ければ次もドウゾ。)
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