「さとり結界」:いわゆるファイヤーウォール。任意に例外アクセス設定が可能
「オーガとトロール」:通りすがりのモンスター。オブ●ビオンからゲスト参加
「太陽の畑」:本来は竹林より東側と言われますが、本作は湖との間にあります
本作に登場するキャラは「味方」「敵」「中立」を明確に位置付けています。
可能な限りイメージ通りの采配ですが、一部奇抜な立ち位置もあります。ご了承。
それでは、どうぞ
前略、ママ上様
私は大きなお花畑のど真ん中で、オーガやトロールを素手で殺すお姉さんから全速力で逃げ回っております。絶賛、風前の灯 真っ最中です。
てゆーかナニあの人! お手手が真っ赤!
可愛い日傘を持ってるなぁ~とか思ったら、それすら返り血まみれとか!
もはや人間のやる事じゃねぇ!
しまったコイツも人間じゃねぇッ!!
『待~て~♪』
後ろからは楽し気な声と、眩い笑顔を咲かせた殺人鬼が追ってくる。ふよふよと宙に浮いていて、速度はあまり早くないくせに、こちらが方向転換をすると直ぐさま追従してくる。
背の高い花たちのお陰で姿は見えていないはずなのに、まるで”あちこちに目が有る”かのようにピタリとついてくるのだ。これはもしかしなくても─
『気付いていると思うけど、貴女の周りのお花さんは私の味方。どこに居てもすぐに判るわ』
やっぱりかー!
そりゃ花の妖怪って言うくらいだもの。できても不思議じゃないわ。
でもそうなると厄介だ。この花たちを手折って行こうにも数が多すぎるし、姿をさらけ出すような行為は得策じゃない。それに故意に花を傷つけようものなら、火に油どころじゃなくなるだろう。
時間にして10分は走っているような気がするのに一向に花畑を抜けない。
遠目から見たときは、大きいとは言っても端が見えないほど広大ではなかったはずなのに。
『この花畑はあいつの結界なのさ。どれだけ走ろうと抜け出すのは無理だぞ』
「そういうのは先に言ってよね!」
─ん?
聞き覚えがあるような声が耳に届き、走りながら隣を見た。
全力で走るこちらと並行して飛ぶ、金髪で黒いジャンパースカート、赤いリボン。
「ルーミャっ!?」
『おー、そう呼ばれたのは初めてだなー』
幻想郷に来た初日、魔理沙の箒に乗せられていた時に襲ってきた人喰い妖怪が、何故か花畑の中を私と並走していた。確か木っ端微塵になったずだけど…。
『ついさっき体が再生したのさ。そうしたら面白そうな事をやってるのが見えたから─』
「追いかけてきたって訳? ちっとも面白くないんだけど!」
『あの風見幽香から追いかけられてるんだよ。ヒトが聞けば爆笑ものさ』
こっちの事などお構いなしに腹を抱えて笑い出すルーミア。初対面の時より随分落ち着いた性格をしているような気がするが、すぐ後ろに迫る”死”の存在のせいでソレどころではない。
さっきから花弁が四方八方から飛んできては、体の至る所にぶつかってきて地味に痛いのだ。
まさか幻想郷は草花でさえ凶器のようになっているのだろうか。つくづく生きにくい世界だと痛感する。はよ帰りたい。
ルーミアはと言うと、その花弁を上手くかわして飛んでいる。そういえば魔理沙と戦っているときも似たような弾の撃ち合いをしながらギリギリ避けるという事をしていた。この世界ではポピュラーな攻撃手段なのだろうか。
試しに目に見えている花弁を体をひねって避けてみるが、別方向から飛んできた色違いの花弁が脇腹に直撃した。くっそ痛い。
『不器用すぎひん?』
「今初めてやったんだから仕方ないでしょう。あと何で関西弁なのよ」
『談笑とは随分余裕みたいね。
必死に逃げ回っているのに喋りまくってるのが気に障ったのか、どこかで見た事が有る極太レーザーまで撃ってきた。結界効果なのか周囲の花たちは無傷という特別仕様。
「あれって魔理沙が使ってた奴でしょ」
『黒白が真似したって話らしいよ。詳しくは知らない』
「やっぱり当たると痛い?」
『当たってみれば?』
「ノーサンキュー」
『だろうね。ホラ、また来たよ』
日傘をまるで砲口のように向けてくる。前動作があるだけ有情というべきか、今のところは服の端が焦げ付く程度で済んでいる。直撃でもしたらどうなのか、考えたくもない。
そろそろ走り始めて30分は経とうかとした頃、不意に花妖怪が足を止めた。
視線を外さないようにしながら何とか呼吸を整える。自分の体を確認する余裕ができてから、肌が露出した部分に無数の切り傷が付いているのに気付いた。服もかなり傷めつけられているため、妙に涼しい。
ルーミアは何発目かのレーザーで消し飛ばされた。あれは好きでやってるのか。
肩で大きく息をしながら、花妖怪の様子を確認する。さっきまでニコニコと妖しい笑顔を浮かべていたのに、今は無表情だ。オフザケを止めたという意味にも取れる。正直声をかけるのも嫌だ。
でも私は・・・
「ごめんなさいっ!」
その場で勢いよく頭を下げた。
元はと言えば、私がお花を踏んだのがいけなかった。きっとこの妖怪が大切に育てていたんだろう。だからあれだけ怒りを露わにして追いかけてきていたんだ。ここは素直に謝罪する方が吉なのだ。…散々逃げ回っておいて今更だけど。
『散々逃げておいて、虫がいいわね。 怒らせたいの?』
もう怒ってるじゃん! というツッコミはとてもじゃないが口から出なかった。心臓もけたたましく鳴り響き、耳の後ろがジンジンと痛くなってくる。頭を下げた姿勢から動く事もできず、こちらに近づいてくる靴音が風になびく草音よりも大きく聞こえた。
既に花妖怪は目の前まで来ている。地面をまっすぐ見つめる視界に、彼女の赤い靴が映る。
意外と可愛い。
そんな呑気な事を考えている私の首に、ヒヤリとした物が宛がわれた。あの
見た目はただの可愛らしい傘なのに、まるで日本刀でも当てられてるような気分だ。それがペタペタとリズミカルに首を叩いている。
『あの肉共だけじゃ足りなかったの。ちょうどニンゲンが一体追加になって助かるわ』
「な・・何になるんでしょうか」
『あら、決まってるじゃない♪』
恐ろしい速度で、妖怪の顔が真横に迫ってきた。
『 ”肥料”よ 』
◆ (30分前)
「あーもうっ クソ!」
あの馬鹿、あれほど気を付けろと言ったのに。秒で虎の尾を踏みつける奴があるかっての。
何が有っても花畑の中には逃げ込むな、と注意する前に飛び出していきやがって。
既にあいつの気配が感じ取れなくなっている。これは結界に取り込まれたと見て間違いない。
こうなると厄介だ。私は結界に関しては明るくない。こういう事は専らあの二人に任せてたからな。分身体だと霧状になって探すには無理がある。さすがに広すぎる。
「・・待てよ。結界って事はアレが有るはずだよな」
以前に物の弾みで
可能な限り霧状の体を広げ、花畑に散らばる妖力の差分を測った。数分の時間は要したが、何とか見つけ出すことに成功した。
「これか。蘭菊だと見つけられなかっただろうな」
一見何の変哲もないひまわりだが、明らかに込められた妖力は他の花の比ではなかった。
迷う時間も惜しいため一息に引き抜く。
すると、すぐそばに蘭菊と幽香の姿が現れた。
「蘭菊! 無事か!」
案の定、奴に捕まっていたらしい。蘭菊は幽香の手の中で力無く倒れ込んでいた。
怪我の具合を確かめるためにもそばに駆け寄る。
『あら、鬼がこんな所で何の用?』
「連れを探しに来たんだよ。そいつを放しな」
『ふぅん。わざわざ結界を解いてまで探しに来る、か。』
警戒しながら近づくも特に妨害の意思は無いらしく、すんなりと蘭菊を救出できた。
目立った外傷は無いが随分と体力を消耗しているらしい。呼吸もやや荒くなっている。
念のため永遠亭から渡された丸薬を用意して、容体を確認する。
「おい、大丈夫か」
『あぁ・・萃香・・。わたし・・』
「喋るな。永琳からもらった丸薬を飲ませてやるからな。」
水がないのはこの際仕方ない。多少無理やりにでも飲ませてやる事にする。
飲み込み辛そうにしていたが、なんとか喉を通ったらしく、呼吸はすぐに正常に戻った。
さすが効き目に関しては言うだけの事はある。
「話せるか? あいつに何をされた」
事情を知らないとはいえ、悪戯に攻撃を受けたんだ。本当なら仕返してやりたい所だが、相手が相手だからそれも容易とは言えない。せめて何が有ったかだけでも確かめないと。
『め・・』
「め? 目がどうかしたのか?」
既に具合は良くなっているはずだが、どうにも歯切れが悪い。何を迷ってるのか。
仕方なく蘭菊の顔のそばに耳を近づけ、話すように促す。
『滅茶苦茶 撫でられた・・』
それを聞いた途端、
◆-◆-◆
紅黒い廊下に靴音が一つ。 他の誰でもない、自分が発した音。
既に足に馴染んで久しいレザーソールが、どこを切り取っても深紅なカーペットを叩く。
窓の外を見れば、僅かに縁の欠けた月が浮かんでいる。月は爛々と輝いているが、廊下には一切の光が差し込んでこない。この館に住まう魔女の手により、紅き悪魔の居城 紅魔館には窓は並みの建物の数に等しく存在すれど、その全ては光を遮断する力が働いている。
その理由は到ってシンプル。
我が主は、日光と縁遠き種族に在らせられるからだ。
誇り高き吸血鬼の末裔 レミリア=スカーレット
容姿も、思考も、幼い見た目に違わない愛らしさを持ちながら、その身から発せられるオーラは凄まじく、相手が人外であろうと萎縮せざるを得ない。
有り余る力と遊戯心に溢れた、私たちの主。 それが、レミリアお嬢様だった。
常に傍若無人に振る舞い、己のしたい事を優先し人を振り回す。かと思えば、自分を負かした巫女に対し種族を超えた想いを抱き、お嫌いな日光にも傘を向け、足繁く神社の巫女に会いに行く。
宴会にも積極的に参加しては、よく後ろ指で笑われたりしていた事を覚えている。
そんな我侭な主人に仕えつつ、幻想郷の住人として暮らす毎日が
私は、堪らなく好きだった。
─あの悲劇が起こるまでは
「お嬢様、咲夜です。 失礼致しますわ」
館の一角に位置する主の寝室に足を踏み入れる。
魔法を施した窓がついた廊下と違い、ここには一切の窓は無い。そのため灯りとなるものは所々に設置されたランプから発せられる、橙色の仄かな光のみ。炎の揺らめきにより形成された影が、壁を、天井を這いまわる。
部屋の奥に接壁する形でクイーンベッドが置かれ、真白いシーツが僅かな膨らみを形作っている。
数枚のタオルを備え付けのテーブルに乗せ、主の様子をうかがった。
「おはようございます。 本日のお世話に参りました」
相変わらずお美しい。出会った頃と、百年前とも、お顔は変わっていらっしゃらない。
シーツに負けぬ白い肌は、ともすればアリスの人形たちよりも人形らしくある。生物であれば必ず有るといえる瞬きなどの生体反応も、今のお嬢様には見られない。故に人形と言われようと、否定することは難しい。
「
ベッドに施された術式を発動させ、お嬢様の体をわずかに宙に浮かせる。
パチュリー様が”ご自分用”に発明された軽微浮遊術。お陰で背を拭く時にも体勢を変えて頂く必要がない。発明された経緯はどうあれ役に立っている事には変わりないため、いつもこのタイミングで彼女に礼を述べている。
お嬢様の体は、生命維持に必要最低限の要素だけを残されただけであり、ニンゲンでいう病人よりむしろ死人に近い。
硬直のない遺体。これ程、お嬢様を表現するのに相応しい言葉もない。
─そう
お嬢様は死んでしまった あの巫女と一緒に
----
その生活の崩壊は 何の前兆も無く訪れた。
幻想郷の英雄、博麗霊夢の能力消失。そして徐々に衰えていく彼女の身体。
大して医学に精通などしていない私の目から見ても明らかだった。
─霊夢は死ぬ
私は人間である以上、何時か訪れる"死"を 恐れる事は無いと思っていた。
それは運命であり、逃れることも出来ず、逃れる必要もないからだ。
でも彼女が死ぬかもしれないと判った途端、私は怖くなった。
人間としての自分を
悲しむだろうか。怒り狂うだろうか。虚無感にとらわれてしまうだろうか。
─私が死ぬ時も 同じように感じて頂けるだろうか
霊夢の容体を確認するよう仰せつかった私は、いつもその報告に頭を悩ませた。
理由は言うまでもない。真実をそのまま伝えるのは悪手以外に無いからだ。
しかし何時までも隠し通せるはずもない事は判っていた。
八意永琳や八雲紫が出張るほどの病気であり、免疫のない者は種族に関わらずに近づくべきではない。ある程度は真実とは言え、そんなカバーストーリーをでっち上げ、お嬢様をだまし続ける事に私の心は擦り切れていった。
実際に対応に当たっていたパチュリー様や、事情を把握していた美鈴さえも同様に接してくれた事には感謝した。そして幸運だったのは、一番の事情通であった魔理沙が紅魔館に近づくことがなかった事だ。そうしてお嬢様は霊夢に迫る運命を、その瞬間まで知ることは無かった。
ある日の夕暮れ時だった。
突然、お嬢様は椅子を吹き飛ばすように立ち上がり、バルコニーに向かった。
何事かと思うと同時に、とうとう訪れてしまった運命を迎える覚悟に迫られた。
館の中に戻ってきた主の顔は、これまで見たこともない程に憤怒の色に染まっていた。
妖精メイドだけでなく、私も、パチュリー様も、小悪魔も、美鈴も 動ける者は居なかった。
巨獣の如き咆哮が轟いた。辛うじて聞き取れたその言葉は、私が最も恐れていたものだった。
─誰が 私を騙した
耳が痛かった。心も痛かった。
主の事を一番に想うがあまり、その主を騙し続けたのは私なんだ。
私です、と。そう名乗り出た瞬間を最後に 意識が途切れた。
混濁した意識を引き戻したのは、地面を揺るがすほどの衝撃だった。
館の一室にいたはずの私は、気づけば敷地内と思しき地面に倒れ伏していた。全身の痛みと、痺れと、倦怠感のせいで体が動かせない。どれくらい気を失っていたのかも分からない。
視線だけを動かすとすぐそばに見覚えのある足が見えた。
絞るようにして声を出し、門番の名を呼ぶ。しかし返事がない。また寝ているのか、もしくは気絶しているのだろうか。顔を見ようにも首がそれ以上動かないため確認できない。それほどに重傷なのだろう。
やはりあの時、自分はお嬢様に襲われたのだろう。無理もない。だが
悲しみに満ちながらも涙を流す資格はない。せめて事情だけでも話すことが出来れば。
不意に頭上から名を呼ばれた。
こちらの聞き間違いでなければ図書館の主だ。しかし聞いたこともない程に疲れ切っており、ひどく咳き込んでいる。こちらの質問にも大して答えてくれなかった。
「移動するから」と言って、魔法で体を浮かせられてから、初めて辺りの様子に気付いた。
焼き尽くされた廃墟。もちろんそれがかつての紅魔館である事は判った。しかし信じたくない気持ちもあった。
改めて美鈴を確認しようとして眼下を見下ろすと、彼女の”足”だけがそこに転がっていた。
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お嬢様のお召し物を脱がせ、ゆっくりとお体をお拭きする。
もはや何の反応も返さない主を見つめる度に、一層の罪の意識が襲い掛かる。
この世界と、私たちと、ご自身に絶望されたお嬢様は 生きるのをお辞めになった。
本来吸血鬼が死を迎えるときは、灰となるか、完全に消滅するかのいずれかと言われている。しかしお嬢様はその”死”すらも手放した。結果的に残ったのは魂の抜けたような人形。
それはまるで、魂が失われ、仮初の人形となり果てた 博麗の巫女を見ているようだった。
袖から覗く、歪な傷跡の残る自らの右腕を見ながら、使い終わったタオルを籠に詰め込んだ。
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連れてこられたのは辛うじて破壊を免れた図書館の一角。天井と壁も残っており、本棚の代わりにベッドが数個集められた、さながら野戦病院のような所だった。そのベッドの一つに、先ほど見た足の持ち主が寝転がっていた。
やはり片足だけとなっていた彼女に、あっちに足が転がっていたと伝えると、いつもの調子でお礼を言いながらひょこひょこと探しに向かった。
未だに体は動かせなかったため、空いているベッドに寝かせられた。
パチュリー様は妹様の様子を見てくると言い残し、どこかへ飛び去った。確かにまだ見かけていない。
周囲を慌ただしく動き回る小悪魔に気付き、彼女を呼び止めて事の顛末を問いただした。小悪魔は少々言葉を選びながらではあったが、静かに話し始めた。
その内容は予想をはるかに超えるものだった。
私はお嬢様から渾身の一撃を頭部に受け、その時点でほぼ半死状態にあったらしい。その後、怒りの収まらないまま私の右腕に食らい付き捩じり切ったという。
眼だけを動かして腕を見ると、赤黒い斑点と、ひび割れのような黒筋が走った右腕があった。腕は確かにある。パチュリー様の魔法で再生してもらったかと言えば、そうではないらしい。
曰く、”勝手に再生した”という。
腕に噛みつかれた時点で吸血鬼となる要素が体内に混入されたが、すぐにその腕が切り離されたことで中途半端な状態で留まっていたのだ。体中が痺れたように動かなかったのは、館の崩壊と共に外に投げ出されてから、長時間陽の光に晒され続けたためだと小悪魔は話した。
-私が 吸血鬼の体に…
以前、お嬢様から「噛んであげようか」と話された事が有った。人の寿命を超え、末永く仕えるようにという意味を込めた冗談だった。そう、冗談であったはず。
しかしお嬢様の中ではある程度本気に思っていた事だったのだろう。
霊夢が倒れたと聞き、一向に治らない事に不安と苛立ちを抱きつつも、私の「大丈夫です」という言葉を信じて待っていて下さった。だが霊夢が死に、自分が蚊帳の外に追いやられていた事を知った時、理性が破裂した。
霊夢の死はもちろん悲しい事だ。それはお嬢様も感じていたはず。だが自分の従者や友人から
私は最善の方法を取ろうとし、最悪の結末を招いてしまったのだ。
視界が涙でぼやける。もう恥も体裁もない。声を出さないように口を
嗚呼・・どうかお許し下さい。罪を犯した身で涙する事を、どうかお許しください。
髪に触れられた感触に、目を開いた。
お嬢様によく似た手つき。しかしこの状況でそれは有り得ない。目元にたまった涙を拭ってくれたのは、妹様。フランドール様だった。
衣服は所々が焼け焦げ、白い肌に付いた裂傷は未だに再生が終わっていなかった。
-ごめんね。 お姉様を
寂しそうな顔をしながら、妹様はそう話された。
本来であれば許されない事だった。だが仕方のない事だったのだと、今なら判る。彼女は私たちを守るためにその能力を使ったのだ。私は小さく、礼を述べた。
紅魔館が再建された後、身体機能のほとんどを破壊されたお嬢様は寝室に運び込まれ、自己修復されるのを待つことになった。
生命維持などその他様々な補助は全てパチュリー様が施術されたらしい。かなりの悪態をつかれていたが、お二人の関係の深さを改めて知ることが出来たのは思わぬ収穫だったと言える。
そして半人半吸血鬼となった私は、フランドール様を師事し、パチュリー様のサポートを受けて、再び紅魔館の従者として仕えることになった。やろうと思えば完全な治療も可能であるらしい。しかしそれには応じなかった。
これは己の罰である。我が主の心を傷つけ、裏切った罪に対する罰。本人にそのつもりが有ったかは定かではないが、お仕えできる時間をたくさん頂いた。
この身がいつまで保つかは判らないが、せめてお嬢様の目が覚めるまで。あの時の事を、自分の言葉でお伝えするために。私はお嬢様にこの身を捧げる決心をした。
----
清拭、部屋の清掃を手早く済ませ、ティータイムの準備に取り掛かる。
二人分のカップを用意し、エンドテーブルにお嬢様の分を置いて、静かなお茶会を始める。
美鈴からは、お嬢様の寝顔を
ただ一人で飲むのは寂しいと思い、寝息すら立てないお嬢様に語り掛けるようになった。
最近あった事や、つい愚痴りたい事など。こういう状況になってから、より距離が縮まったようにすら思える。
心は既に死んでいるとパチュリー様は仰ったが、こうして話しかけることは無駄ではないはずだ。大病を患ったり、重体に陥った患者に対して語り掛けることで、意識を取り戻した例を聞いた事が有る。ニンゲンと同じ尺度で測って良いものかと、甚だ疑問は残るが、意味はあるはずだ。
目を覚ました時に、煩くて眠れなかったと 口を尖らせて怒る顔を想像しながら
毎日他愛のない無駄話を一方的に語り掛けていた。
そして 今日話す内容は決まっていた。
「きっとお嬢様がここに眠るようになってから、一番の珍事だと思いますわ。
外界からの来訪者の話です」
竜舌蘭菊。外の世界で巫女を務め、幼馴染と一緒に幻想郷にやってきたというニンゲン。
「図書館ではパチュリー様が彼女を使って、いきなり実験を行ったりしていました。
今にして思えばほとんどお客様扱いされていなかった気がしますわ」
思わず笑みがこぼれた。自分でも気付かないくらい気持ちが乗っていたらしい。
まるで友人の事を話すように、お嬢様へ語り掛けていた。
不意にベッドの側に魔法陣が現れる。パチュリー様が連絡時に使うものだがこの時間には珍しい。
「如何なさいましたか、パチュリー様」
『(なかなか厄介で、面倒なことになったわ)』
その内容は、まさに今話していたニンゲン。蘭菊が洩矢諏訪子の呪いに倒れたというものだった。
そのため魔理沙と伊吹萃香が図書館に集まるため、私と美鈴も来るようにとの事。
すぐに魔法陣が消え、元の静寂が訪れた。
私は持ち込んだ道具類を整理しながら、彼女の顔を思い浮かべた。はっきり言えば頼りない。幻想郷で生きていくには足りないものが余りに多いという印象。
だが会ったその日の内に死ぬとは、誰が思っただろうか。*1 あまりに哀れだ。
「お嬢様、申し訳ありません。今宵はこれまでと致します。また参ります」
急ぎ足で扉を開けた時、ふとシーツが擦れるような音が耳に届いた。
しかしベッドに横たわる主に変化はなく、風で揺れたものと思い、図書館へと急いだ。
オーガ 「危ないわトロちゃん。お花を踏んじゃう」
トロール「あら本当。気を付けて歩かないとね」
オーガ 「ねー♪」
幽香 「踏めよ」
蘭菊が紅魔館に着く前に、紅魔館過去エピソードをぶっこんだ結果
変に歪な感じになってしまいました。構成力の無さを痛感しております…。
レミリアの性格については書き手によって結構振れ幅ができてしまうため
”今作ではこんな感じ”と見て頂けると有難いです。
(良ければ次もドウゾ。)