「蘭菊の両親は麓に住んでいる」:死別はしていません。ただし出番もありません。
「養子なのに違う苗字」:血筋を区別するため敢えて別のモノを与えられました。
「新聞が手書き?」:正確に言うと作中の新聞は草稿です。写真が付いてたのが証拠。
「幻想入りの条件」:オリジナル設定です。”その世界の物を持っている”のが条件。
この場合は、古新聞・紙切れ・写真の3つです。
それ以外は追々書いて行きましょう。想像するのもまた楽しみの一つ。
それでは、どうぞ
──急に耳鳴りがした。
まるで強風が吹いたように頭が激しく揺すぶられる。
苦しくはないのに、身体が動かない。そんな感じだ。
隣にいる辰魅の方を見ようと薄っすら目を開く。
しかし、先程までとは全く違う風が吹いたかと思うと
目の前の風景が違っていた。
森の中ではない。
滝も竜舌岩も無い。
自分は今、一本の道の上に立っていた。
「麓の村、かな?」
周りを見渡すが、全く見覚えの無い風景だった。
そこで気付く。
すぐ近くにいたはずの幼馴染が居ない。
「辰魅?!どこなの、辰魅!!」
足跡も無い。
しかしどこかに隠れている様子でもなかった。
「はぐれちゃったのかな・・・。
もしかして私だけ着ちゃったとか……」
まさか、今もあの子は大岩の前に?
自分の手には、やはり新聞の束があった。
その湿っぽさも、触り心地の悪さも変わらない。
「違う・・・やっぱり辰魅も来てるはずなんだ
だとすると、あの子…違う場所に着いたのかな」
再度周りを見渡す。
水音が騒々しい大岩の前とは打って変わって、
鳥の声さえ遠い、大きく開いた場所。
どんなに目を凝らしても人家が見当たらない。
ただの一軒すらも。
元々自分たちがいた場所は、確かに人が住む環境としては劣悪だった。
しかしいくらド田舎とは言え、きちんとした道の傍に家が一軒もないのはおかしい。
──どうしよう・・・ 早く合流しないと
そう思ったとき、遠くで激しい爆発音が聞こえた。
あまりの爆音に思わず耳を塞ぐ。
「な、なに?!」
目を向けた空に、何か影が見えた。
二つの小さな影が空中を飛び回っている。
──鳥か・・・?
そう呟いたのも束の間、その影は互いに"何か"を放出しだした。
色の付いた光。
それを相手に向けて撃ち合っている。
「え・・・・・・ は?」
訳が分からなくなっていた。
一体何が起こっているのか。
不可解な光景を目の前にしながら、
そこで思い出したのは、あの祖母の言葉。
──幻想郷では何時もどこかで抗争が起こっている。
「あれが、戦い?」
まるで魔法のような光の弾を打ち合う影たち。
互いに出し合った光であたり一面は鮮やかな一枚絵のように光り輝いている。
そのうち片方の影が消えると、もう片方はすぐにどこかへ去っていった。
辺りは元の静けさを取り戻したものの、自分の心臓は未だ高鳴り続けている。
「ヤバイ…
これ・・・相当危ない所じゃない?」
マズイ・・・。
本格的に生命の危機といった感じだ。
今更になって、自分の軽率な行動に後悔した。
祖母のあの話は本当だったのだ。
「早く辰魅を見つけて帰らないと・・」
今一度、道の方へ振り返ると
「…っ!?」
何時の間にか誰かが立っていた。
余りに急な登場に、思わず後ずさる。
─どこから現れた・・・?
その姿は女の子。
背はとても低く、空のように青いワンピースを着ている。
その風貌もそうだが、何よりも背中に羽の様なものが見え、少し身構えた。
やや低い視点ながら、じぃっとこちらを見つめる少女。
「な、なにかな?」
言葉が通じるか不安だったが、とりあえずそう尋ねた。
『あんた、見かけない顔ね』
予想に反して、帰ってきたのは聞き取れる言葉。
"おてんば"という言葉が合いそうな声が、幼い顔についた小さな口から発せられる。
怪しいものを見るというより、珍しいものを見ているという表情だ。
余所の土地の子供なんかはこんな反応をしても可笑しくはないだろう。
それが、"人間"であればの話だが・・・。
背中の羽のようなもののせいで、それが酷く誤った認識であると思い知らされる。
心なしか先程から妙に肌寒い。
「さ、さっき"ここ"に着たばかりなの。
よ、よろしくね」
さりげなく右手を出した。
世界共通と言えるか定かではないが、友好を示すボディランゲージ。
予想外にも、握手を求めるとすぐに握り返してきた。
しかし、その手は異常なほどに冷たい。
『あたいはチルノ、こおりのヨウセイよ。
いっとくけどサイキョーだぞ』
チルノと名乗った女の子は、正真正銘の妖精だった。
氷のような羽を持つ彼女の周囲は常に冷気で覆われているため肌寒く、手も冷たかったのだ。
自己紹介を終えると、チルノはフワフワと浮かびだし、空中遊泳を始める。
「あんな羽で飛べるんだ・・・」
妙なところに感心してしまった。
目の前にいるのは本物の妖精。
御伽噺や漫画の世界では定番と言える、ファンタジーの申し子。
しかしこちらの言葉が通じると判った以上、この子を手がかりに
他の人間のこと、強いては辰魅のことを聞き出すチャンスだった。
「ねぇ、チルノちゃん。 この辺で人が住んでるところってある?」
こちらの問いかけに反応し、
氷の妖精は飛ぶのを止めて降りてきた。
『ニンゲン?』
”ヒト”というワードをあえて”ニンゲン”と置き換える辺りに、妖精らしさを覚える。
「そう、ニンゲン」
『ここからだとミコのところがちかいわね』
「巫女?ひょっとして神社があるの?」
『そう。ハクレイっていうジンジャがある。ここをまっすぐいけばすぐよ』
チルノが指差した方には確かに小高い山が見える。
妖精にも馴染みのある神社とは、いよいよ幻想染みていると関心せざるを得ない。
出来ればもう少し聞きたいことがあったのだが、最強を名乗る氷の妖精は
それだけ言ってどこかへ飛んでいってしまった。
「とことん妖精だなぁ。やりっぱなしの所とか」
またも変なところに感心してしまった。
「でも神社か・・・どんな神様を奉ってるんだろう
巫女さんがいたら是非ともご挨拶しておかなきゃ」
とりあえず目の前の道を歩くことにする。
やはり人家は見えなかったが、悪鬼、妖怪の類に遭わなかったのは幸運だったかもしれない。
少し歩くと道の途中に鳥居が見えてきた。
「あっ、あった」
人の倍はあろうかという石柱には、「博麗神社」という名が彫られていた。
そのすぐ横からは紅い鳥居を境に長い石段が続いている。
背中にあたる日の光は、なだらかな丘に沿って造られた石段を明るく照らしている。
眺めるのも良かったが今は時間が惜しい。
すぐさま石段を登りだした。
年代を感じさせる石の欠け具合の割りに、掃除が行き届いているのがよくわかる。
苔や雑草はある程度生えてはいるが、目に見えて塵などは一切落ちてはいなかった。
自分がいた神社のあのクソ長い石段に比べれば、まだ良心的な段数だと言えよう。
石段を登り終え、境内の入り口に立つ。
その姿が、すぐさま目に入った。
「綺麗・・・」
そう、素直に口に出た。
博麗神社の大社。
新品な造りとは違う美しさがそこにある。
まさに幻想郷らしい、神々しさを感じさせる社。
一見どこにでもありそうな風貌ながら、厳かな雰囲気を全面に醸し出している。
「水盤舎はあるけど、社務所が無いところがまた・・・」
自分がいた世界とのズレが、より幻想郷という存在を認識させる。
ここまで誰一人として人と会わず、また人家を見つけられなかったが、
それでも人間が住んでいるという安心感を得られたことは大分に大きかった。
しかし、
「問題の”ニンゲン”が全然見当たらないんだけど…」
母屋と思しき建物を横目に、真っ直ぐ社へと向かう。
間近で見ると、さらに年季の入った木目の馴染み具合や、
擦れた賽銭箱の文字などがより感動を呼んだ。
「こんなところで巫女をやっているなんて、どれだけ高格な方なんだろう・・・」
何百年と建ってそうな神社の割りに、やたら目に付く賽銭箱に少し親近感が沸いた。
ほかのところに比べて賽銭箱の蓋が真新しいのも気になる。
せっかくなので御参りをして行こうと思い、大きな賽銭箱の前に立つ。
神社に在りがちな鈴は見当たらなかった。
「お賽銭・・・と、"あっち"のお金でも大丈夫かな?」
装束のポケットを漁ると、辛うじて小銭入れに使っているガマ口が入っていた。
中はあまり潤ってはいないが、缶ジュースが三本くらいは買える額はあった。
謙虚な方に奢るには、いささか心もとない額だが。
そこから100円玉を取り出す。
「幻想郷と言っても一応日本だから大丈夫よね」
変な心配をしつつ、もう10円玉を追加してみた。
これで御利益は倍率ドン!さらに倍!
……な訳にもいかないが、まぁ気持ちの問題である。
「よし、とりあえず安全祈願でも」
多少勢いのついた110円を賽銭箱に シュゥゥゥーッ!!
超!エキサイt
コツーーーン
「・・・・・・予想外の効果音だわ。まさか空っぽだったとか?」
期待していた音とは違うものの気を取り直して
一礼をし、拍を打とうと手をかざす。
『いい音が聞こえたかと思ったら、珍しいお客ね』
すぐ背後から声が聞こえた。
振り返った先にいたのは、一人の女性。
いや、かなり若い。
見た感じは10代の女の子だった。
赤と白を基調とした装束を身に着けている。
「は、初めまして・・・貴女はこの神社の」
『見ての通り巫女よ。と言っても他に誰も勤めていないから総括管理人とも言えるわね』
思っていたよりもずっと若い。
巫女といえば祖母のイメージが強かったため、もっと壮年の人物を想像していたこともあり
その自己紹介に少々呆気にとられてしまった。
巫女装束自体はそこまで奇抜なものではないが、そのせいもあって頭の大きなリボンが目に付いた。
「巫女にしては変わってますね」
『貴女も負けていないと思うけど?』
…言葉を失くした。
この人は、自分を巫女だと見抜いている!
いやまぁ、確かにこんな格好した一般人はいないけれど。
脇丸出しだし。
「さすが幻想郷・・・格が違ったわ」
『その口振りだと外の人間ね。
いらっしゃい、歓迎するわ』
まだ名も名乗っていない巫女は早速、突然現れた人間を家の中に招待しようとしていた。
「あ、いえ。そんなお気遣い無く」
『お賽銭をいれてくれたのに御持て成しもしないなんて巫女の名が廃るわ。 ─え?そうなの?
それに貴女は”外の”人間だもの。変な妖怪とか妖精に見つかると厄介だしね』
もうすでに一匹会っているんですけど・・・。
苦笑と入れ違いにその言葉は呑みこんでおいた。
てっきり先程見た母屋の方かと思ったが、案内されたのは社の中だった。
裏手に回り、土間で靴を脱ぐ。
入ってみて分かったが、生活スペースは全て社の中に設備されていた。
竈が綺麗に整理されているところを見ると、それなりに使用されているようだ。
埃も無い廊下を歩き、辺りに目を向ける。
幾つかある襖の向こうは、純粋に和風な佇まいをしている。
その内やや広めの部屋に入り、ここで待つように言われた。
恐らく居間であろう。
その空間には、小振りなちゃぶ台、腰辺りの高さのある物入れ、それに…
「あれ?これって、テレビ・・・?」
何故ここにあるのか
畳の上のテレビは全く使われること無く横向きに寝かせられていた。
実際に使っていたら、酷く首を痛めそうな設置角度である。
これが噂のシャ○度?
謎である。
『ああ、その箱?
変でしょう。
知り合いが持ってきたのはいいんだけど、何に使うのかさっぱり分からないし。
近いうちに物好きな妖怪にでも引き取ってもらうつもり』
「へぇ~」
やはり幻想郷には、元の世界の常識は通用しないらしい。
妖精とかいる時点でうすうす感ずいてはいたが。
というか妖怪が機械好きとは知らなかった。
「何でまたここに?」
『外から色々入ってくることがあるのよ。それを集めてる奴もいるらしいけど私には只のガラクタね。
飯の種になるのなら話は別だけど』
ちゃぶ台に乗せてあった急須と湯飲みをカチャカチャと弄りながら
時折含み笑いを漏らしながら話す巫女。
初対面だと言うのにやたら親しげな態度が、逆に妙な違和感を抱かせる。
私よりも2,3歳若いように見えるはずだが、発せられるオーラは壮年のものに近い。
何時までも立っているのが気になったのか、
巫女に諭されて、ちゃぶ台の傍に腰を下ろした。
『そう言えばきちんと名乗っていなかったわね。
私は博麗霊夢。この神社で巫女をしながら妖怪退治なんかも・・・やる予定よ』
そちらは?という代わりに、片目を閉じて返答を促す。
その仕草が女の子らしく思わず噴出しかけた。
「竜舌蘭菊と言います。それで霊夢さんは─」
『待った』
いきなり発言を止められた。
『そんな呼び方は止めた方がいいわ。
ここ(幻想郷)は自分こそが一番だと言う連中が腐るほどいる所。
敬称を口にしている者は、それだけで誰かの下人の証よ。
アウトローなら、それ相応の態度でいることを勧めるわ』
巫女として半人前な自分に対し、一人でこの幻想郷の巫女を務める霊夢。
その言葉の重さはどこかの高僧よりも重いものがあった。
「・・・ええ、憶えておくわ。霊夢」
私の返事に柔らかく微笑み返してくれた。
あ、結構かわいい…。
『でも本当に珍しいわ、外の人間なんて。私が巫女になって初めてじゃないかしら』
「そうなの?
もっと沢山来ているものかと」
祖母の話もあったため、思わず疑念の声を上げてしまった。
改めて考えてみれば祖母の年齢と、目の前の少女の年齢を比較すれば
お互いが遭遇するはずもないことは十二分に理解できたはずだ。
『昔はいたそうだけどね、最近は知らないわ。
"スキマを操る妖怪"っていうのがその原因らしいけど、私はまだ会ったことがないの』
「ふ~ん」
そのとき、表で人の声が聞こえた。
お金を投げている所を見ると、どうやら参拝客のようだ。
「あ、お客さん来てるんだね。さっき賽銭箱が空だったからてっきり……」
こちらの発言に、少しむっとしたように眉をゆがませる霊夢。
どうやら触れてはいけなかったようだ。
まぁ経済問題なんて、今も昔もあることだから幻想郷もそうなのかもね。
『あれはタイミングが悪かっただけよ。「一日の始めは賽銭確認」
これは前の代からの習慣って、すい・・・知人に教えられてね。私もそれに習っているのよ』
「なるほど。
でも大丈夫なの?普通の人がここまで来ても。この辺りって妖怪とか多いんでしょ?」
『それなら心配ないわ。
見ての通り道はそこそこ歩きやすいし、人里から参道までは
かなり強力な結界が張られててその安全は保証してる。
そのお陰もあって、こうしてお参りに来る人もいるの。
昔は閑古鳥くらいしか来なかったらしいけど』
カラカラと笑う霊夢。
どう見ても無理をしているのは素人目の私にもよくわかる。
そのとき、ドスドスと板張りの廊下を踏みしめて走る音が聞こえた。
重量感がありながら、まるで小さな子供がふざけて走り回るような
そんな音が。
「ん?」
始めは犬か猫の類かと思った。
そうでなければ、"座敷童"か何か。少なくともここは幻想郷である。
妖怪なんてきっとそこらじゅうにいるのだろう。
その音は、だんだんこの居間に近づいてくる。
そして突然障子が開けられ、
『お客人だって!? おー、本当に人間だ!!』
声の主はいきなりそんなことを言い放った。
現れたのは身の丈がこちらの顎辺りくらいまでの女の子。
しかしおおよそ少女の服装とは言いがたい程に裾の破れた装束に、これ見よがしに下げられた装飾具の数々。
そして極め付けが、禍々しささえ漂わせる、二本の角。
『あら萃香、起きてたの』
『お客が来たって言うのに寝ていられるかい!』
ぶんぶんと両手を振り回す様からは、とても自分の頭に浮かんだイメージとは合わない。
その実態は昔話と呼ばれる、伝承の中のみにだけ語られ、
多くの恐怖の逸話と、幾人かの勇猛な武士(もののふ)の武勇伝に登場する。
おそらく彼女は、"鬼"と呼ばれるものだろう。
思ったよりも背は低いが、頭の角が何よりの証拠。
……それに何だか酒臭い。
『初対面だね、青い巫女。私は伊吹萃香』
「あ、私は・・」
てっきり握手を求められるかと思いきや、
『むふふ』
いきなり杯を渡された。
霊夢の顔を見ると、付き合ってやれと言っているような顔つきだ。
どうやら飲めと言うことらしい。
そんなわけで、駆けつけの一杯。
小さめの杯に注がれた酒は摺りきりまるまる一杯。
もともとお酒は多少飲めたため、それを一気に飲み干す。
・・・考えてみれば度数もわからないお酒を一気飲みするのは自殺行為だ。
しかし、二人から感嘆の声が上がる。
『いいねぇ、いいねぇ!気に入ったよっ!』
萃香と呼ばれた鬼娘は、嬉しそうに己の膝を叩き、
腰に下げていた瓢箪を勢い良く傾ける。
勢い余って一気飲みしてしまったが、
あまり飲めないはずの私でも、正直に美味しいと思えるお酒だった。
やはり鬼の持つ酒というのは特別なのかもしれない。
「改めて、私は竜舌蘭菊。
本当についさっきここ(幻想郷)に来たばかりで・・・」
そこでふと気付く。
「さっきのお客人って、私のこと?」
『他に誰がいる?』
「でもまだ霊夢としか話をしていないのに・・・」
またも、ヌフフと笑う萃香。
笑い方がイヤらしいよ、鬼ェさん。
『ここは千里先のことまですぐに知れ渡る所だからねぇ。
天狗の目に留まったことが幸か不幸か・・・』
そこでもう一杯ついでくる。
そうか、天狗というのは噂なんかが大好きな妖怪だったのか。
人よりも話題を攫うことが、幻想郷での天狗のあり方なのだろうか。
ついでに枡を手に取った霊夢も交えて二杯目を飲む。
『私たちは日々を平穏それなりに生きちゃいるけどね、それだけじゃ飽き足らない連中もいるのさ。
そういうところさね』
萃香はそういうと、ぐいぐいと飲んでから大きなため息をついた。
『幻想郷も変わったからなぁ・・・』
「え?…」
小さく、ただそれだけを呟いて、萃香はちゃぶ台に突っ伏した途端に何も話さなくなった。
いびきとも取れるうなり声だけが聞こえてくる。
私は急に同行人のことを思い出して、杯を台の上に置いた。
何事かというように、霊夢が見つめている。
「えーと…せっかくだし色々と見て回ろうと思うけど、参道沿いなら安全なんだよね?」
『絶対とは言い切れないわね。滅多に無いだろうけど、近い所で強力な妖怪が暴れだしたら
巻き添えを食らうかもしれないわよ』
「…それは穏やかじゃないなぁ」
『まぁ、そうなる前に退治にいくわ。それが仕事だし』
霊夢は控えめな胸を張ってそう言った。
したり顔が、何とも心強い。
『で、もういくの?』
「そのつもり」
『なら、日が暮れる前にここに戻ってきなさい。夜に出歩くのは死人ぐらいよ』
「え、でも・・・」
『他に行く当てがあるの、アウトローさん?』
傍から見れば嫌味に聞こえるそれは、私には十分過ぎるほど優しかった。
「そうさせてもらうよ。ありがとう」
まだ卓袱台に突っ伏したままの萃香をそのままに、
笑顔で手を振ってくれる霊夢に軽く手を振り
そのままの足で神社の外へ出た。
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驚いた
まさか本当に会えるなんて
萃香から、昔は"外の世界"の人間が迷い込んでくることがあった
なんて聞かされていたから、そのうち来るだろうと思っていたら
待てど暮らせど全然来なかった
鬼が嘘をつくはずはない、それは判っていたけど
外の人間なんて来ないじゃない、そんな事をぼやいていたら
本当にやってきた
今まで参拝にきていた人里の住人たちは何度も見てきたけれど
"この人"は違った
まず服装もそうだが、その身から感じる"力"が段違いだ
見たところただの人間のようなのに、並みの妖精なんか相手にならない位の霊力を感じる
得体の知れない人物は疑うべきと、良く教えられてはいた
だが、私は目の前の人物は、疑いようもなく良い人だと確信した
何故ならば
今、目の前で、お賽銭を入れようとしてくれている!
これを善良なる人間と呼ばずしてなんとする!
思わず歓喜の声を上げようとする心を落ち着かせ、
相手に聞こえないようにすぐ後ろまで回る
そして服装を正し、至極尤もらしい口調で話しかけた
「珍しいお客さんね」
案の定、相手は驚いた表情をしていたが
こちらは内心したり顔が止まらなかった
ごめんなさい、外来人
だってめちゃくちゃ嬉しいのよ!
その上がりきったテンションのまま、いきなり社の内にご招待
しかも相手は何の警戒も抱かずに着いて来てくれた
これはチャンスじゃないかしら
今後も参拝に来てくれるように、約束を取り付けるチャンスなんじゃないかしら?!
よし、一旦落ち着きましょう
私は博麗の巫女
由所正しいかどうか知らない神社の巫女なのよ
相手をもてなす心、これを忘れてはいけないわ
少しばかり良いお茶を出したって、今後のことを考えれば安いものよね
『お客人だって?!』
とか考えていたら、神社の同居人が帰ってきた
意外にもまだ素面だったらしく、襖も壊すことなく開けていた
よし萃香、貴女がそのまま大人しくしてくれていれば
何も問題は起きないわ
せっかく来てくれたこの外来人の機嫌を損ねるような真似だけはしないでちょ、
ちょ、待ちなさいよ
何でいきなり杯を渡してるの?
え? いきなりお酒?
なに考えてるのこの鬼娘は?
初めて参拝に来てくれた女の子に、突然お酒振舞う神社が一体どこにあるのよ!?
はいここですよチクショー!
もはや後の祭り
仕方ないのでこの子には付き合ってもらうことにした
というか随分豪快に行くのね・・・ 一気飲みてアナタ・・・
まぁそのお陰で萃香とは一気に打ち解けてくれたみたいだし
なんか辺りをうろつくとか言ってるけど
お宿を提供する感じに、ここへ戻ってくるように言ってあげれば
案外素直に聞いてくれるんじゃないかしら
本当は誰かと来たのかもしれないし
これは一度きちんと訳を話してもらった方が良さそうね
ふふ、帰ってきてからが楽しみだわ
とりあえず、この鬼は後で〆ておかないと
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境内の端にある大きな鳥居の下まで来た。
上を見上げると、少し上空の方を数匹の妖精が飛んでいる。
規則性を持たない動きをしながら、ふわふわとじゃれあうように空の向こうへ消えていった。
「見るだけなら綺麗なんだけどなぁ」
殆ど草の取り払われた参道を歩く。
不意に吹いた柔らかい風がそっと髪を撫でていく。
「辰魅・・・無事かな」
正直、あの二人に捜索を依頼しても良かった。
しかしそれを言えなかったのは、どこかで信用していない所があったからだ。
自分はほんの数分前に来たばかりの余所者。
そんな者の我侭など聞いてくれるはずも無い。
「いい人たちなんだろうけど・・・、辰魅を見つけたらちゃんと紹介しないとね」
やがて、二手に分かれる道に出た。
左はそのまま参道が続き、遠くに町らしきものも見える。
対して右は、鬱蒼とした森が生い茂り、見るからに妖しげな雰囲気が漂っている。
なんというか「ヒュ~どろどろ」といった効果音がピッタリ当てはまる感じの。
「森か・・・危なくなったら、ここまで走って戻れば大丈夫よね」
妖怪の中でも取り分け強力な部類に入るであろう鬼でさえ、あれだけ人懐っこいのだ。
他の妖怪もきっと話せば分かる者ばかりなのだろう。
決してフラグなどではない。
私の心は妙に落ち着いていた。
そんな"慢心"があったのか。
自然と、かすかに陽の光が差し込む程度の深い森に足を踏み入れていた。
違和感ならあった。
入る前からも感じていた。
─誰だ、こんな森に入ろうなんていった奴は!
私は無意識に手を上げていた
森に入ってまず働いたのが、嗅覚。
「う、何この匂い・・」
不思議な感覚だった。
鼻腔の奥に突き刺さるその刺激臭のせいで、嗅覚どころか視覚までもが狂い始めた。
やがて聴覚も狂いだし、森の中とは思えない音まで聞こえてきた。
「これ、本格的にやばいんじゃない・・?」
体も重い。
まだ数分しか歩いていないのに既に体力の限界を感じる。
身の危険を感じて、森の外へ引き返すことにした。
しかし、
「あれ?」
何かがおかしい。
見たことの無い道だった。
確かに自分は、開いた参道から森に入り、まっすぐ歩いてきた。
ならば少なくとも遠くに森の入り口が見えるはずだ。
しかしどこを見ても、目に入る光景は樹海のような木々の海。
「ど、どうなってるの?!」
そこで思い出した。
そうだった。
私は今、恐ろしい妖怪や妖精の潜む森に来ているのだ。
姿を現したら走って逃げればいいと、簡単に考えていたのが失敗だった。
妖怪や妖精が、バカ正直に突っ込んでくるはずがない。
術に嵌めた後でじわりじわりと追い詰めてくるのがセオリーなのだ。
急に恐ろしくなって走り出した。
未だ体の調子は戻らないが、構ってなどいられなかった。
しかし行けども行けども景色は変わらない。
─くすくす・・・
不適な笑い声が聞こえる。
木々の間から、地面の中から、どこからとも無くその声は聞こえる。
─ひさしぶりのエモノ・・
間違いない。
この声は、自分を狙っている!
私は力の限り走った。
「はぁっ、はぁっ!冗談じゃないわよ!こんな所で食べられて死ぬもんか!!」
大木を避け、低い草木を飛び越え、さらに走る。
果たして自分は森の外へ向かっているのか
それともさらに奥へ進んでいるのか
ソレすらもわからなかった
ただあの声から少しでも遠ざかるため、ひたすら走った。
「も、もう大丈夫か・・・
直後、目の前に黒い影が落ちてきた。
赤い瞳
一抱えもある身体
顔一杯に避けた大きな口
「う・・・・」
私の足は止まっていた。
今目の前にいるのは、間違いなく恐怖。
そして私を食らわんとするモノ。
だからこそ、本能は判断した。
全力でぶん殴れ と
「うわぁぁぁああッ!!!」
咄嗟に出した右拳が、その怪物の眉間に突き刺さる!!
『ふぎゅっ?!』
予想外にもジャストミート。
奇声を発した後、ゆっくりと森の中に倒れる怪物。
「・・・・あれ?」
倒しちゃった?
まさかの初戦闘で妖怪を一発KOとは・・・
いや、よく見るとそれは作り物だった。
黒いマントに、接着剤のようなもので付けられた紅いビー玉。
口のように見えたのはただの赤いペンキだった。
見るからに幼稚園のお遊戯にでも出てくるようなオバケだ。
「な、なんだビックリした・・・」
倒れたままのオバケをみる。
確かに手ごたえはあった。
よく見ると黒いマントから小さな足が二本出ている。
ちゃっかり靴まで履いている。
「ヒト・・・かな?」
しかしこんな妖しげな森の中に人間。
それも子供とは。
いや待て、これは妖怪の罠かもしれぬ。
そうしていると、マントが動き出しもそもそと立ち上がった。
『うう~・・・』
うめき声を発する。
どうやら相当のダメージだったようだ。
「お、おはよう」
私がそう言った直後、オバケは思いっきり足を踏んづけてきた。
「痛っ!何するのよ?!」
『それはこっちのセリフだよ!いきなり殴ってくるなんてどうかしてるんだぜ!』
妙に話し方がおかしいオバケ。
マントをはずすと、それは人間の女の子だった。
多分。
しかし、髪が火のように紅い。
『見てよ、瘤になっちゃった』
涙目のまま額に手を当て、前髪を持ち上げる。
その表情は中々かわいかったが、
なるほど確かに、ぷっくりと腫れている。
「あっと、ごめんなさい・・・。
でもそっちが脅かしてきたからでしょ?お相子じゃない」
女の子は聞こえない振りをしてそっぽ向いた。
前言撤回、可愛くないかもしれない。
『せっかくいいカモが来たから、からかってやろうと思ったのに』
さも当たり前のように話す少女に、もはや怒る気にもなれない。
気付くと、森は入る前のときと同じように静かで、あの匂いもしなくなっていた。
「やっと楽になった。あの匂いは何だったのかしら?」
『これ』
ずいっと前に出されたのは、七輪とキノコ。
しかし、どこをどう見ても食べられそうに無い毒々しい色のキノコだ。
『これを火で炙ると、幻覚を見る煙をだせるんだ。思ったとおり、効果はバツグンだ!』
親指を立てる少女。
妙に様になっている。
というか森の中で七輪を使わないでよ、危ない。
「ねぇ、お譲ちゃん。お家はどの辺り?近くにあるの?」
『ん~?来たいの?』
なんだか随分端折った返答をされてしまった。
その間にも、いそいそと道具を大きな袋に詰め込む赤毛の魔女っ子。
というより、ただ押し込んでいるだけな気もする。
「私は今日、幻想郷にきたばかりなのよ」
『幻想郷にきた・・・?どういうこと?』
「どう・・って、外から来たって言えばいいのかな」
『外の人間?!それはすごいね!』
思いっきり驚く少女。
あれ、何だか少し嬉しい。
『よし、付いてきて。お師匠様に会ってみれば色々教えてくれるよ!』
そう言うと、どこから出したのか自分よりも大きな箒を取り出し、それに跨る。
御譲ちゃん、質量保存の法則と言うのがあってね
・・・まぁいいか。
「ねぇ、それでまさか・・・飛ぶの?」
『飛ぶ!と言いたいけど、まだ上手くないの。でもこれ引きずるわけにもいかないし』
サンタクロースよろしく、大きな袋を肩に担ぐ。
箒にまたがるサンタクロースというのも、これまた乙なものだ。
『よし、いこう!』
かけ声は大きかったがやはり飛行速度はそれに反比例していた。
これあれだね。
ジ○リ映画に出てきてた、プロペラ付き自転車の男の子みたいなシチュエーションだ。
坂道だと速くなるのかな?
とはいえここは森の中。
速さは一向に変わらないため、私はその後に続いて歩いた。
前回の第零話にコメントを下さった方、ありがとうございます!
まさかその日のうちに頂けるとは思いませんでした・・
しかし、まさかおばあちゃんの正体に焦点が当たるとは
まさしく予想Guyです。
これは祖母のお話も用意した方が良さそうですね・・ヌフフ
既に作者の中でのラストは決まっていますがその途中過程はまだまだスカスカです。
もし「こうした方がいいんじゃね?」的な意見やアドバイスなどあれば
ドゥシドゥシ仰って下さい。 (良ければ次もドウゾ。)