「人間とニンゲン」:意味は同じです。発言者によって表記が違います。
「蘭菊のテンション」:おかしいです。幻想入りの弊害です。今のうちはそういう事に・・・
「萃香と紫」:この内、霊夢と面識のあるのは萃香だけです。理由は追々。
「赤毛の少女」:正真正銘の人間です。人里とは別の山村の出身です。
解説キャラが出るまで、まだまだ首をかしげる展開が続いていきます。
それでは、どうぞ
草の道が途切れ、開けた場所に出た。
さながら森の中にできたミステリーサークル。
なにか呪術的なものが働いているのか、ほぼ円形状に草木が生えていない。
その中心には一軒の家が建っていた。
見た目はまるで御伽噺に出てくるような木造の家。
この女の子の服装からして、きっとここがお師匠様の棲家だろう。
禍々しく曲がった枝を持つ木や、カボチャのランタンは見当たらないが。
煙突が一つじゃないのも特徴的だ。
『コレを裏においてくるから、さきに入ってるといいよ』
そう言うと、ふよふよと低空で飛んでいくちびっ子魔法使い。
まるで酔っ払いが自転車に乗ったかのように、左右に揺れている。
見ているコッチが肝を冷やしかねない。
「大丈夫かな・・・」
言われた通りに戸の前まで来てみたものの、やはりすぐ入るのは躊躇した。
―この中には"魔女"がいる。
恐らくあの子とは桁違いの魔法使いが。
・・・あんなチビッ子と比較するのはさすがに間違っているとは思うが。
少し帰ってくるのを待ってみたが、戻ってくる気配がない。
意を決して戸を開いた。
中は思いのほか明るかった、が。
「うわぁ、何これ・・・」
まず出迎えてくれたのは、足の踏み場も無いほどの本の山。
それに留まらず、水晶玉のようなものや造花に人形などなど。
俗に言うマジックアイテムと呼ばれるものが、あちこちに散乱している。
というか、ここ玄関じゃないの?
「これは酷過ぎじゃない・・・?」
持ち主の感性を疑いたくなる光景だ。
何とかそれらを踏み避けて、奥へと進む。
物置のような部屋の隣から、なにやら音が聞こえた。
何かを煮る、もしくは茹でる音。
大鍋を火に掛け、ぐつぐつと響くあの音である。
案の定、そこはキッチンがあり、誰かが立っていた。
黒頭巾を被り、なにやら妖しげな鍋をかき混ぜている。
すらりとした体躯とわずかに覗く金色の髪から、それが女性だとわかる。
"物置"の影から様子を見ていると、その女性は唸りながら頭を掻いた。
『何か違うなぁ・・・』
女性にしてはやや低めな声だが、魔女というイメージを吹き飛ばすほどに軽い口調だった。
てっきり、
―ヒッヒッヒ・・・これであの娘の魂もいただきだよ・・・
的な独り言が聞こえてくるとばかり思っていたため、少々呆気に取られてしまった。
すると、黒頭巾の魔女は鍋から引っ張り出したおたまをくいっと横へ向ける。
『ちょっと、そこの本取って』
周りを見渡した。
あの子の姿も無く、自分以外誰もいない。
もしかして、こちらに気付いている?
『はーやーくーしーろ!』
「は、はいっ」
とりあえず考えることを止め、回りを再度見回す。
見ると、読みかけの辞典のような本がテーブルの上にあり、それを手渡した。
『ん、サンキュー』
本を受け取り、視線を動かしたときに目が合った。
『誰だ、お前?』
今更かよ!
という突っ込みは口には出さなかった。
「あ~、えと・・・森の中で女の子に会いまして、家に来ないかと誘われて・・・それで」
まさかオバケと間違えて殴り倒したとは言えず、それらしく説明をしてみた。
その間もまじまじと体中を凝視されている。
まずい・・・、バレたら鍋の具にされてしまう。
『外の人間か、なるほどな。こいつは珍しい』
「は、はぁ・・・」
何も会話したわけでもないのに、あっと言う間にこちらの正体を見破る魔女。
一目で分かる辺り、この女性もかなりの実力者なのだろう。
黒頭巾を外すと、束ねていた長いブロンドの髪が腰元まで降りた。
ただ髪を下ろしただけの動作。
正直に見惚れてしまうその姿に、思わず言葉を失ってしまった。
口調は少々荒いが。
『で、お前さんを誘った張本人はどこだ?』
「確か、裏の方に向かったような」
『む・・・』
どこから出したのか、麻縄で下ろした髪を乱雑に結ぶ。
あまり髪の毛を労わったりとか考えていないのか。
女性はどこか宙を見上げるように顎を上げる。
まるで歯茎に刺さった小骨を捜すように。
『めい!そんなのはいいから早く戻って来い!』
天井に向かって叫んだかと思うと、キッチンと反対側の戸が開いて、
あの女の子が顔を出した。
どうやら居場所を探知していたようだ。
さすが魔法使い、人間にできないことを平然とやってのける。
『ただいま、お師匠様』
『はいはい、おかえり』
顔を見ることも無く出迎える女性と、それが当たり前といった感じに部屋に入ってくる少女。
『調合中だったんだが、客とあっちゃ話は別だ。
めい、茶を注いでくれ』
『はーい』
どうやら、"めい"という名らしい小さな魔法使いは、先程と打って変わって可愛らしい返事で準備を始めた。
師匠の前では性格が変わるのだろうか。
なかなかに可愛いとこもあるではないか。
『さて・・・、じゃあお前のことを話してもらおうか』
「あー・・はい、わかりました。
私は竜舌蘭菊。少し前にここ(幻想郷)へ来た者です」
『参道を通ってきたってことは、あそこの連中には会ったのか』
「連中・・・霊夢たちですか?ええ、会いましたよ」
『・・・ま、相変わらずなんだろうな。あいつらも』
付けていた前掛けを外す。
こうして面と向かうと、思ったよりもずっと年上に見える。
霊夢や萃香、めいのような”少女”の姿に見慣れていたので
彼女のような大人の女性を見ると、なんとも違和感を覚える。
『私は魔理沙。ただの魔法使いだ』
手を差し出され、握手を返した。
しっかりと握られた手は、女性のものとは思えないほどに固かった。
『何をしているかと聞かれると困るから先に言うが、普段は魔法の開発を行っている。
本当は飛び回るほうが好きなんだが、出歩くと必ず何か壊すからって釘を刺されてな』
聞いてもいない事まで教えてくれた魔法使いは、手を触れることなく動かした椅子に腰掛けた。
丁度、めいが運んできた茶を受け取る。
魔女という割りにかなり気さくな性格のようだ。
幻想郷の住人は皆こうなのだろうか。
『それで、ここにきたのは?迷い人か、はたまた侵略目的か』
後者ならば容赦なく潰すといった視線が向けられる。
あれ・・・?なんかいきなり脅されてる・・・?
「その言い方だと、乗り込んでくる者が多いように聞こえますが」
『昔は多かったよ。やれ事件だ、異変だってね。
私もあの巫女と張り合って出かけたもんだ。尤も、それらも今じゃ丸く収まって暫く起きてないがな』
やや含み笑いを漏らしながら話す魔理沙。
「私は確かに迷い人ではありますが、ここへは自分の意思で来ました」
『うん?』
「実は、かくかくしかじか」
私は、ここまでの経緯を軽く説明した。
『まるまるうまうまというわけか』
なかなかにノリのいい魔女のようだ。
『なるほどな。お前の婆さんは、ずっと前にここ来たことがあるわけか。
ちょっとその遺留品って奴を見せてもらえるか?』
「はい」
懐からあの古新聞を取り出す。
すると、躁鬱だった顔が一気に変わった。
『うわっ、懐かしい!これ随分前の"文々。新聞"だ。 へぇ~』
まるで少女のように目を輝かせる様を見て、めいも少々面食らっていた。
どうやら弟子の彼女でさえ初めてみる表情だったようだ。
「やはりここで書かれた物だったんですね」
『ああ、烏天狗の射命丸って奴が書いたものでな。
手の込んだ作りなのはいいんだが、如何せん内容が・・・』
そこで言葉を区切る魔理沙。
先程とは違う、真剣な面持ちで一枚の記事を見つめている。
「あの、どうかしました?」
『ああ・・・悪い、返すよ』
そう言って紙の束を戻してきた。
魔理沙は横目で部屋の隅を見つめていた。
手をつけていなかった紅茶を始めて口に含む。
『もう、そんなに経ったんだっけか・・・』
どこか寂しげに話す。
その表情を見て、物憂げに話す鬼を思い出した。
『そうそう。友達を探してるんだったな。なんなら手伝ってやろうか?』
「えっ?いえ、そんな」
『気にするな。どうせ暇だったし。
めい、その薬片付けといてくれ。あと掃除もな。遅くなったら飯を食って先に寝てろ』
『わかりました』
粗雑な物言いの師匠に対し、甲斐甲斐しく動くめい。
実は素直な性格のようだ。
あの変な言葉使いは師匠を真似ているのだろうか。
ともあれ、魔理沙の提案で辰魅を探す事になった。
来て間もない身としては、協力者の存在は非常に有難い。
何とか速く見つけて、この危険な世界から脱出しないと・・・。
そんなことを考えながら連れ立って戸へ向かう途中で、ふと魔理沙が立ち止まった。
『そう言えば飛べないよな、蘭菊』
「えっ?!はい、全く」
『ははっ、そんなに畏まらなくてもいいだろう。
確かに歳は違うが、私はお前の親でもなければ師匠でもない。
友人と思ってくれていいんだぜ』
さも当たり前のように言う魔理沙。
強大な力を持つであろう魔法使いなのに、どこか親しげなお姉さんのように思える。
こちらの返事を待つように、顔を覗き込んでくる。
「お、オーケー。判ったわ」
『よし!』
すると、やはりどこからか箒を取り出す。
ことごとく物理法則を無視する魔女っ子師弟。
どうやらこの世界の魔法使い特有の能力らしい。
うわ、微妙な能力・・・。
『何か言ったか?』
「イエ、ナニモ?」
危うく考えを口に出しかけて、口を固く噤んだ。
『これを使うのも久しぶりだな』
「普段は使わないの?」
『昔は使ってたが、今はそのまま飛んでる。手が塞がるのが面倒でな』
そう言いつつ、ひょいと跨る。
格好も相まって、全く違和感がない。
『よし、乗れ』
当然のように言う魔理沙。
やや躊躇したものの、乗らないことには始らないため、
彼女に習って後ろに乗る。
『あーもう、ほらっ!』
どこを掴めばいいのか迷ってると、右手を掴まれ、腰の前まで引っ張られた。
そのまま彼女の腰の前に手をまわすと、
ボリュームたっぷりの髪に顔が埋まり、薬品交じりの石鹸の香りがした。
『速かったら言ってくれ。尤も、落ちてもちゃんと拾うからさ』
とか何とか言いながらも、こちらの返事も待たずに飛び立つ箒。
あっという間に、先程の家と見送りに出ていためいが小さくなっていく。
始めこそ上昇する際に発生する風圧と、恐怖心から目をつぶっていたが
冷たい風を受けて改めて目を開けると、
「ふわぁ・・・」
そこには幻想郷の全景が広がっていた。
生まれて初めて見る、翼あるものたちの視点。
しかし目の前にあるものが全てではないと分かるように、地平線のかなたまでずっと世界が続いている。
「すごい・・・」
『私も初めて飛んだときはそう思ったさ。でも、そうも言ってられないのがここ(幻想郷)だからな』
「え?」
魔理沙の言葉に疑問の声をあげた直後、
突然、上空から何十発もの"弾"が飛んできた。
それを見えているかのようにギリギリでかわす。
私は必死に背中にしがみつくしかなかった。
『不意打ちとは頂けないな』
その言葉に前を見てみると、そこには一人の少女がいた。
翼も箒も無しに空中に浮かんでいる。
白いブラウスに黒のスカート、頭につけた小振りのリボンが風に靡いている。
うっすらと笑う表情が、逆に恐ろしさを増長させる。
『久方ぶりで悪いんだが、通してくれないか。これでも忙しいんだ』
『そーなのかー』
妙に間延びした口調で答えた少女は、おもむろに両手を広げる。
容姿も相まって、非常に可愛らしい仕草だったはずなのに
彼女が纏うオーラがそれをより禍々しいものへ連想させた。
『その人間が食べたい。渡してもらおうかな』
『嫌だね。まだ会って間もないんだ。あと100年は待ってくれたら考えてもいいぜ』
『なら、"もう100年経った"あんたなら、食べてもいいんだ?』
少女の口元が妖しく釣りあがる。
「ね、ねぇ・・・あの子、人食いか何か?」
『ん?ああ、ルーミアっていう真っ黒妖怪だ。
良かったな、最初にアイツに会ってたら五体満足じゃなかったかも知れんぜ。
実際に奴に食われた外来人も、昔はいたらしいからな』
意地悪く言う魔理沙。
とても冗談には聞こえないところが恐ろしい。
『じゃあ、ちょっと戦ってくる。そこで待っててくれ』
そう言うと、箒を離れる魔理沙。
あまりに自然なノリだったため、いま自分が置かれている状況を
うっかり忘れかけた。
「え?!ちょ、ちょっと!!」
慌てて柄の部分をつかんだが、どうやらすぐには落っこちないようだ。
魔力か何かが込められているのか。
こちらが見つめるなか、幼い人食い妖怪と
幻想郷が誇る(かもしれない)魔女の一騎打ちが始った。
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ああ、今日はいい日だな
朝起きたときから何となくは気付いていた
今日は今までと違う何かが起こる日なのだと
そうしたら案の定、外来人が目の前に現れた
しかもその服装にも驚いた
巫女装束をきている
外の世界からの来訪者、それも巫女とは!
アイツも色々拾ってくるようになってるとは気付いていたが、
まさかこんなレア物を拾ってくるとは
ただ、前まで幻想郷に流れ着いていた奴らとは少し違っていた
『私は自分の意思でここに来ました』
聞けば祖母の形見を持って、自分の神社にある”竜舌岩”とかいう
大岩の前から幻想郷に入り込んだらしい
幻想入りすることはそんなに珍しいことじゃなかった
それこそ「またか・・・」とついつい毒を吐く程に多かった
だが、ここ数年は全くその動きがなくなっていた
それもそうだ、”原因”が無くなったからな
だからこそ私は期待した
この巫女は、きっと何かをしでかすのだろうと
無駄に延びたこの命、いまこの瞬間の道楽のために費やそうと
罰は当たるまい
変に悦に入ったところで、早速のお仕事だ
まぁ精々、この御客様を死なさない程度には頑張るとするか
「何十年振りかだな。錆付いてなきゃいいけど」
懐から多角形の道具を取り出す
もう随分と使っていなかったが、私の代名詞たる相棒だ
そうしている間にも、ルーミアはあの光弾を放ってくる
それをわずかな重心移動による軌道で動き回り
全てを紙一重でかわしていく
「相変わらずの弾道だな。もっと捻ったほうがいいぜ」
『余裕を見せてると抱え落ちするよ?』
心なしか楽しそうな顔をしている
実際考えてみれば、本当に喰う喰われるの関係かと問いたくなるほどに、高揚した表情だ
それがこの、幻想郷に住まう者達が持つ在り方と言うか、まぁ生き様みたいなものなんだろうな
横目で見れば、蘭菊が目を見開いたまま口を閉じる事も忘れて見上げている
あぁ・・そういう顔されると、ついつい見栄張っちゃうだろう
そうしているうちにルーミアの攻撃が一旦途切れる
その隙に距離をとる
『もっと遊んでいたいが、残念。コイツの時間だ』
八卦炉を前にかざし、お決まりのセリフを口にする
『恋符・・・』
カードと身体が光に包まれる
『「マスタースパーク」!!!』
渾身の叫びと共に現れたのは、とてつもなく巨大な光
方向性を持ち、溢れんばかりの魔力の束となった光は
その先にいたルーミアを跡形もなく消し飛ばした
久しぶりの遭遇だったとはいえ、いきなり撃墜したのは
流石に可哀想だったか
次に会ったらもう少し長めに付き合ってやるとしよう
しばらく辺りを震わせていた波動が収まり、元の静けさが訪れる
まぁ何はともあれ、
『ざっと、こんなもんかな』
軽く放り投げた相棒を、右手でキャッチする
あぁ・・流石にキザったいな 私・・・
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あ、ありのまま今起こったことを話すぜ・・・
人食い妖怪が現れたと思ったら
魔女が亀仙流奥義をぶっぱなして蹴散らしてしまった
とかいう思考はとりあえず置いておいて、
魔理沙があっと言う間に妖怪を倒してしまったことに
私は内心、呆気に取られてしまった
あれは人間の命を脅かすモノ、そういう認識だった
それをまるで競技に興じるが如く戯れ合い、
挙句に直径数メートルはある光線を発射してそれを退けた
あの人本当にニンゲン?
あぁ、魔法使いか・・・ナットク。
『お待たせ』
「な、な・・・」
『ん、どうした?』
当の本人は当たり前と言わんばかりに落ち着いている。
それこそ日常茶飯事の事なのだろう。
「なに・・・・・いまの」
『何・・・か、まあ簡単に言えば魔法の類かな。それをスペルカードで発動させたんだ』
「スペルカード?」
『要するに魔法の発動に必要な物といえば、話は早いかもしれないな』
再度、あの物体を取り出す。
『これが"八卦炉"。小さいが威力は折り紙つきだ。昔はフルパワーでぶっ放してたんだが
今じゃ壊れないように力をセーブするのが面倒で使ってなかったんだ』
見ると、確かにあちこちが欠けてしまっている。
かなり年代を感じさせるアンティークのようだ。
こんなものから、あんな破壊光線が飛び出るなんて・・・
”強力な魔法でモンスターを倒す”
ゲームではありがちなその展開を、いま目の当たりにした。
「勇者って・・・本当に凄かったんだ」
世界が期待するわけが、少し分かった気がした。
『さて、とりあえずどこへ行くかなぁ』
戻ってきて箒に跨った魔理沙は、うんうんと唸りながら上空を見上げている。
「ここに詳しい人っていないの?そういう人なら簡単に探せそうだけど」
『詳しい人、ねぇ。居るには居るが・・・・いや、"居た"という方が正しいか』
「いた?」
『今はどこかに行ってしまってる。数年前から姿を消してソレっきりさ。
一応、ここの長って感じだったんだけど、全く無責任だよな』
あらゆる幻想が息づくこの世界を管理する。
それは私程度の人間が想像するには、あまりに大きな次元の話だ。
だからこそ、その管理者が不在というのは
流石に不味いのではないだろうか。
「そんなことで大丈夫なの?」
『心配はないさ。秩序を守るだけなら妖精でもできる。問題は、"異変"が発生したときにどうするかなんだが
"あれ"以来、これといって起こっていないから今のところは安全だ』
「そうなんだ」
『そうだ、丁度話にも上がったしそいつの所に行ってみるか?家は残ってるしな』
とりあえずは問題無いらしい。
何となく魔理沙の言っていたことに引っかかるものがあったが
その管理者の住処というのも気になる
「うん、行ってみたい」
私は二つ返事で答えた。
真っ直ぐに幻想郷の空を突っ切る、空飛ぶ箒。
やがて景色が一変したかと思うと、大きな屋敷が見えてきた。
端が見えないほど巨大というわけでもないが、並の武家屋敷を遥かに凌駕した大きさに圧倒された。
「大きいなぁ」
『これでも普通な方さ。ここの主人は欲が無いからな』
「そうなの?」
立派な門の前に着陸する。
やはり屋敷の規模に合わせて、立派な門構えだ。
其処に掛かっていた表札を見る。
「ヤクモって書いてある」
『そう、八雲一家。まぁ今は、その下の下しかいないがな』
観音開きの大戸を押し開く魔理沙。
手入れがされているのか、さほど音もせず開いてゆく。
しかしその手が止まる。
『おい、何してんだ?』
何事かと思い、肩口から前を覗き込むと、
魔理沙の前には一体の地蔵様が立っていた。
どこからどう見てもただの地蔵様だったが、その立っている場所があまりに不自然だった。
『ここに何用で来たか』
「うわっ、喋った?!」
口を動かさずに話す地蔵様。
そもそも口が動くはずも無いが。
『主人に会いに来たんだ。居るんだろ?』
その問いに反応は無い。
渋い顔をする魔理沙を横目に、
地蔵様の裏側まで回ってスピーカーか何か無いか探してみる。
しかしそれらしい物が見当たらない。
「これどこから声が?」
その時、屋敷の奥の方から足音がした。
『こらっ、碧!お客人に失礼でしょう!』
『はわわっ、ごめんなさいっ・・!』
ぽんっと煙が出たかと思うと、さっきまであった地蔵様の代わりに小さな女の子が座っていた。
見た目で言うと10歳にも満たない。
頭には大きくてふさふさした耳と、腰からは柔らかそう尻尾が伸びていた。
今度は疑いようも無く妖怪のようだ。
『お許し下さい、かの大魔法使い殿にとんだ御無礼を』
門の奥から現れた女性は
こちらを見るなり、深々と頭を下げてきた。
『お堅いのは主人譲りか、橙。いや、今は燈(トウ)様だったか?』
『お好きな方で構いませんよ。
私にとってはどちらも意味のある名ですので』
燈と呼ばれた女性は、魔理沙よりも多少若く見えるものの
淑女と呼ぶに相応しい物腰の柔らかさだった。
そもそも魔理沙が歳相応でない気もするのだけど・・・
ちらりと覗く二本の黒い尻尾が、彼女の正体を連想させる。
『そちらは?』
『竜舌蘭菊嬢。外からのお客様だ』
『・・・なるほど』
「はじめまして、えと・・・」
こちらが言葉に詰まったのを見て柔らかく微笑む。
『呼び方はお任せしますよ。出来れば、燈とお呼び頂ければ幸いですが』
「判りました。
それで、貴女がここ(幻想郷)の管理者なのですか?」
こちらの言葉に、少々ばつの悪そうに顔をしかめる燈。
『我が八雲の者達は、この幻想郷の治安を任されてきました。
しかし我が主とそのさらに主も、現在は居りません。確かに実質上、私が取り仕切ってはいますが
何分若輩者ですので・・・』
どうやらこの燈という妖怪が、幻想郷の管理者で間違いはないようだ。
しかし若輩者とは、前任者に対し能力的に劣るという意味なのだろうか?
妖怪は生まれながらにして強大、もしくは
全能に近しい力を持っているものだと思っていたのに。
『まさか揃って居なくなるなんて思ってなかったからな。スキマはともかく狐まで』
『藍様はきっと、紫様の身を案じていかれたのだと思います。全てを私に任せる、と』
魔理沙は後ろ首を掻きながら周りを見回す。
『で、今はこの子狐一匹か』
未だ座りこんだままだった女の子が、ぴょこんと立ち上がった。
『碧(たま)です!よろしくおねがいします!』
先程までのシュンとした態度と一変し
可愛らしい笑顔で頭を垂れた。
『私もようやく式を付けられるようになりました。
この子は山の化け狐の中でも特に秀でた力を持っていますので』
『でも、まぁ、良く似合ってるじゃないか。その帽子』
碧が被っているのは、まるでナイトキャップのようなおおきな帽子だった。
所々に張ってある御札が、ただの装飾品でないことを彷彿とさせる。
『この子には藍様のような偉大な妖獣になってもらいたいのですよ』
『いい師に恵まれた、主の切な願いと言うわけか。・・・私も似たようなものだが』
うん、何て言うか
言おうか言わばか迷ってたんだけどね。
私ってば・・超空気ね!
何だか込み入った話をしていると思ったから黙ったら、
二人して勝手に話進めちゃってるし。
あ、あの子も入れるから三人か。
いや一人と二匹?
違う違う、そうじゃない。
このしんみり仕掛かったムードを変えるため、
もとい目的を果たすために、一際大きな咳払いをする。
その意味を察したのか、燈はハッとしてこちらにも視線を送った。
『それで、本日はどういった用件で?』
『と、そうだった。蘭菊の友達が行方不明らしくてね。探している所なんだ』
ようやく本題に入ったところで、こちらも口を挟む。
「一緒に来ていたはずなんです。その、絶対とは言い切れないですが」
『ふむ・・・』
しばし顎に手を当て考える燈。
『最悪の事態から考えるのなら、どこかに迷い込んでしまっているか、
捕まっているということもあります』
何かいきなり最悪の事態とか言っちゃってるよ、このヒト。
あ、やっぱりダメだ此処。
早く帰りたい・・。
『山の方にも協力を要請しましょう』
『大丈夫か?あそこの連中がおいそれと手を貸すとは思えないが』
『そうでもないですよ。見返りさえ渡せば大抵の事はやってくれます』
『それを良しとする奴には打ってつけだろうが、私にはどうも厚かましくて好きにはなれないな』
『無償で首を突っ込んでくれる方は、魔理沙さんくらいですよ』
「へぇ、優しいのね」
またも首筋を掻く魔理沙。
どうやら魔理沙のお節介は元々の地の性格のようだ。
燈はおもむろに指を咥えると高らかに音を響かせた。
よく鷹匠やドッグトレーナーがやる、一種の合図のようなものだろう。
すると山の頂の方から一羽のカラスが飛んできた。
どこに行くのかと思いきや、そのカラスは真っ直ぐに飛んできて碧の頭に留まった。
そのあまりのシュールさに、思わず笑いを漏らす。
『ちょっ!どこにとまってるのよ!』
「ははっ 凄いね!」
これも妖怪烏か何かだろうか。
碧がいくら頭を振り回そうと、決して離れようとしない。
『伝書烏って奴か?』
『はい、この子で連絡を取り合っています』
何時の間に書いたのか、燈は小さな手紙のようなものを烏の足に結び付けた。
手紙を付けられた烏は必死に追い払おうとしていた子狐を嘲笑うように、
颯爽と山の方へ帰っていった。
息を荒げる碧の頭をポンポンと叩く燈。
その数秒後・・
『射命丸様からの伝言です』
そんなに間も空けずに、真白い毛を持つ女性が山から下りてきた。
形式ばった身なりと、頭の烏帽子のようなものから容易に”天狗”の一種だと推察できる。
使い慣らされた剣と盾が違和感なく似合っているのも、彼女の戦歴を物語っている。
元々この二人とは知り合いのようで、軽く挨拶を交わしている。
『珍しいですね、直接いらっしゃるなんて』
『直に伝えてくれるよう仰せつかったものですから。
あの方も何分多忙な身ですので』
『大天狗の側近だろ。出世したなあの盗撮魔も』
苦笑を漏らす白毛の天狗。
何やら、空気になりそうな予感がビンビンするので
心持前の方へ立ち位置を変えてみる。
『と、そちらが件の』
「蘭菊です」
『お話は聞き及んでおります。それに、もう解決致しました故』
『えっ?!どういうこと?』
おいおい、幾らなんでも早すぎるでしょう。
『おいおい、幾らなんでも早すぎないか』
見事なシンクロです、本当に有難う御座います。
『それはそうですよ。彼のお方が発見されたのは守矢神社の領内だったのですから』
『また酷いところに・・』
吐き捨てるように言う魔理沙。
神社とか言っていたようだが、博麗神社以外にも神社があるようだ。
これは是非とも挨拶しておかないとねっ!(フンスフンス)
『私はてっきり魔理沙さんのお知り合いの方かと』
『どうしてだ?』
二人の会話を聞き、ふとあることを思い出した。
「もしかして、写真のことじゃないかしら」
『写真?』
『ええ、その通りです。御客人は魔理沙さんの写真を持っていらっしゃいました。それもとても古い』
そうか、やっぱりあの写真のお陰で辰魅も幻想郷に来れたんだ。
ただこちらが持ってた新聞の束に比べて、物量が少なかったから
きちんと来れているか心配だったのは此処だけの話。
ん? ちょっと待って?
「ってことは、あの写真に写っていた女の子って・・・」
『魔理沙さんですよ。およそ数十年も前・・・』
『行こうぜ、蘭菊。友達が待ってる』
魔理沙は話を区切るように言った。
やや強引な気がしなくも無いが、何か事情があるのだろう。
ここは素直に従っておくに限る。
『私も行きましょうか』
燈が申し出る。
その表情と声からして、興味本位というより心配しての言だろう。
今日始めて会ったばかりだというのに、彼女の人の良さが十分に伝わった。
”人”ではないけれど。
『いや、大丈夫だ。ありがとうな』
流石の魔理沙もそこまでさせるつもりも無かったようで
それだけを言うと、箒を浮かせる。
対する相手も素直に引き下がってくれた。
『御苦労だった、椛。 またな』
あっという間に山の中間辺りまで飛んでいく箒。
って、いきなりトップまで加速するんじゃない!
半場意識を失いかけながら、そう 心の中で叫んだ・・・
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二人を見送った後、椛は頭襟を脱ぎ山の方を仰ぎ見た
妖怪の山の中腹、外来の神二柱によって護られた守矢神社
その領内で今朝一人の外来人が発見された
外見からして人間だったこともあり、哨戒天狗から報告を受けて
現場に駆けつけたが、
『この娘は我らが預かる。余計な詮索は不要だ』
と、注連縄の神から追い返されてしまった
もとより神社内でのことならばこちらは不可侵
まさに神のみぞ知る領域には手を出せない
哨戒天狗の報告を無碍にも出来ずに出張ったいいが
見事な肩透かしを食らい、天狗でありながらトンボ帰りする破目になった
そんな中にマヨヒガからの伝書を受けたということもあり
報告もそこそこに、我先にと飛び出したのだった
また、「小隊管理不届き」で始末書を書かされることは予想するに難くない
結果として、外来人の片割れを発見することができ
あの写真の件についての疑問も解消された
だが、予想通りというか意外というか
”彼女”は、あまりに判りやすい反応を見せた
『やはり引きずっているようですね』
不意に出たことか、意図して出したものか
直ぐ隣に立つ幻想郷の管理者は、こちらの気持ちを代弁するが如く
その言葉を口にした
『そう言えば、もうすぐで
丁度、百年になりますか』
不意に吹いた風が、三人の傍を通り抜けていく。
『博麗霊夢が、死んだ日から・・・』
あーん!巫女様が死んだ!
と茶化しておけばシリアスは回避できると慧音先生も仰っていました。
あれ?でも壱話で霊夢出てたよね?
ちょっと読み返して来よう。きっと 【日記はここで終わっている】
『おかわりいただけただろうか・・』
(良ければ次もドウゾ。)