東方水辰閣 ~巫女が二人で幻想入り~   作:ビーグル

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前話における解説を書き殴るコーナー
「魔法の箒」:魔理沙の相棒その2。そろそろ付喪神になりかけてます
「不意打ち」:数年前の出来事以来、ルールが不定化した結果です。札宣言が無くなってます
「亀仙流奥義」:ガン○ム世代ではない蘭菊はでかいビームをこう呼びます。先代の得意技だとか
「八雲燈」:現職の結界管理者。天才だった主達に比べると努力で何とかするタイプです

今回、零話振りの彼女の登場です。じゃあもう終話が近い?・・・どうですかね;
それでは、どうぞ


第参話 「虎穴に入らずんば」

魔理沙と共に降り立ったのは深緑の生い茂る山の中腹。

その中で一際異彩を放つ、神社の境内に足を下ろす。

 

『おや?これは珍しいお客だ。今日は賑やかだねぇ』

 

現れたのは、巨大な注連縄を抱える女性。

一見すると風変わりな格好にも見えるそれが

その身に纏うオーラにより一層力強さを放っている。

 

『巫女より先にお出ましとは、よっぽど暇らしいな』

『まぁね。静かな方が好きっちゃ好きだが、こうも人がいないとな』

 

遠慮も躊躇もない目がこちらに向けられる。

わずかに視線を送っているだけなのに

その目がまるで獲物を狙う蛇のようにも見えた。

 

「あ、その・・・初めまして竜舌蘭菊と申します」

『ふふ、そんなに慌てて名乗らなくてもいいんだよ。久しぶりの外の人間なもんだから

 ついあの子と比べてしまった。失敬』

 

軽く笑って、こちらに向き直る。

 

『私は八坂神奈子という。風か山か、割と中途半端だが神を冠する者さ』

「か、神様でしたか!失礼しました!」

『ははは、大丈夫だって。ただの肩書きってやつさね』

 

な、なんてことだ・・

幻想郷ニ妖有リ、ということは判っていたが

まさかこうもいきなり神を目にすることになるとは・・。

どうしよう・・心臓がフルスロットルのエンジン状態。

 

『元気にしてるか?早苗のやつ』

『今、身清めをやってる頃さ。行ってみると良い』

『ああ、分かった。行こう、蘭菊』

「え?・・う、うん」

 

本当は話もしたいと思っていたが、

いざ面と向かうと何を口にして良いか判らず、

結局会釈を交わし、魔理沙の後を追いかけ社の中に入った。

 

 

『さて、貴女はどんな厄災を運んできたんだい。蒼い巫女』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢のところと良く似ているのね」

『神社だしな。造り方が決まっているんだろ』

 

縁側から靴を脱いで上がる。

広さから言うとこちらの神社の方がやや広いような気もするが、

大まかな形に関してはそれ程の違いはないようだ。

どこへ行ったものかと考えていると、

 

「わっ!?」

 

急に何かが背中に触ってきた。

く、曲者じゃ!出会え!出会え!!

振り向いたそこにいたのは、目玉のオバケ・・

ではなく、目玉の付いた帽子と、それを被った女の子。

簡素な造りのツーピースには

蛙が数匹くっ付いたような刺繍が縫いこまれている。

 

『にひひ、ビックリした?』

「はう・・」

 

突然の奇襲になんとも素っ頓狂な返事を返してしまった。

背丈からして萃香と大差はない。

その印象もあってか、カラカラと笑う顔はとても幼い。

 

『よっ、神様。邪魔するぜ』

『何も獲らないでねぇ』

『さぁな』

 

互いに笑う合う二人。

というかこの人も神様なの?!

なんかあまりに自然に居過ぎじゃない?

あれ、そういえば霊夢の所にはいなかったような。

まさか鬼が奉り神ってワケじゃ・・ないよね。

 

『久しぶり!どうしてたの?』

『家に籠りっきりさ。一人居候が増えたけどな』

『弟子を取ったって聞いたけど、まさか本当だったなんてね』

 

大きなお世話だと返す魔理沙。

しかし随分なフランクな神様だ。

幻想郷では誰しもがこうなのだろうか?

 

ふと小柄な神様がこちらに目を向けてきた。

 

『お初だね、蘭菊。私は洩矢諏訪子。一応、守矢神社(ここ)で神様やってるよ』

「はじめまして・・・って、あれ?

 何故私の名前を・・・」

『今まで何回自己紹介してきたと思ってるの?もういい加減見てる人も聞き飽きてるよ』

「みてるひと??」

『まぁあれさ。どこぞの天狗のお陰ってことにしておきなよ』

 

どういうことか・・。

まさか早速号外的な物が出回っているのか?

天狗じゃ!天狗の仕業じゃ! というやつか。

なんとも複雑な気持ちになる。

自分のあずかり知らぬところで名が知れ渡るのはこんな気分か。

 

『こいつの友達は?』

『辰魅なら奥で寝かせてある。早苗のアレが終わったら案内してもらってよ』

 

やはり辰魅はここにいるようだ。

諏訪子という神様が辰魅のことを知っているのは、

何かしら神がかりな力によるものだろう。

先程から聞く「サナエ」とう人が、

どうやらこの神社の巫女さんのようだ。

 

諏訪子も連れ立って廊下を歩いていると、丁度部屋のひとつから女性が顔を出した。

 

『あ、早苗。おわった?』

 

魔理沙より少々低いぐらいの身長の女性は

予想通りに早苗という人物だったようだ。

良く梳かれた髪には、・・・蛙?と白蛇の髪飾りを付けていた。

幻想郷ファッションというものだろうか。

 

『はい、今しがた・・・ あら?』

『元気だったか、早苗』

『魔理沙さん!お久しぶりです。まさかわざわざ来られるなんて。

 私から伺おうと思っていましたのに』

『そう言って何年待たせるんだよ』

 

魔理沙の言葉に早苗も笑っている。

というかドンだけコネあるんですか魔理沙さん・・。

ここまで全員と面識のある魔理沙が

この世界で相当の人物なのだと再認識させる。

もはや羨ましいというか、脱帽の域だ。

 

『あ、こちらは初めまして。東風谷早苗です。この神社で巫女を務めています』

「あ、どうも・・・」

 

頭を下げる早苗に、慌てて返す。

ほとんど対等な態度で接してきた霊夢や他の者達と違い

とても腰の低い。

どうやら悪い人ではなさそうだ。

しかし、その早苗の服装には妙な違和感を覚えた。

確かに巫女装束のようなのだが、極端に露出が少ない。

(そもそも腋を丸出しにしているほうが変ではあるのだが)

出ている部分と言えば顎から上の部分のみ。

それ以外の部分には何かしらの布を巻きつけている。

指にも包帯のようなものを巻いており、首にはこの季節には似つかわしくない

厚手のマフラーを巻きつけている。

・・暑くないのだろうか?

 

『ところで諏訪子様』

『ん、なに?』

『今日はとても良いお天気ですね、暑いですか?』

 

早苗は、急にそんなことを口走った。

 

 

 ─この人は一体何を言っているのだろうか・・?

 

 

『どちらかと言えば、温かいかな。ぽかぽかして良い天気だよ』

 

それに何の気兼ねもなく応える諏訪子。

早苗の服装は、誰の眼から見ても暑いはず。

なのに、それを敢えて他人に聞いた。

風邪でもひいているのだろうか?

それならばあの厚着の理由にも納得できる。

もしくは、何かこちらの窺い知れぬ事情があるのだろう。

私はそれ以上聞く事はできずただ黙って後に続いて歩く事しかできなかった。

早苗が先立って歩く廊下が、何故かとても長く感じる。

 

 

やがて一つの障子の前に止まった早苗は、間を置かずに開いた。

そこには、

 

「・・!? 辰魅っ!!」

 

部屋の中央に寝かされていたのは、紛れもなく辰魅だった。

見たところ怪我も無く、静かな寝息を立てている。

 

「よかった・・・無事で。

 心配したんだからね・・・」

 

こっちの気も知らないで暢気に眠る幼馴染。

全く、さっさと起こして早く元の世界に帰らないと。

ああその前に霊夢たちにも挨拶をしておかないと─

 

『良く眠っていますね、都合が良いです』

「え・・・?

  それは、どういう」

『待て早苗、何をするつもりだ』

 

早苗は柔らかな笑みを湛えたまま、懐に手を入れていた。

魔理沙が言葉でそれを制する。

 

『決まっていますよ。"異変"を解決するんです』

「いへん・・?」

『馬鹿言うな。まだ何も起きちゃいないだろ。

 確かに外の世界からニンゲンが二人もやってきた。だがそれだけじゃないか』

『これから起きるんですよ。この人・・・いえ、』

 

早苗の笑顔が一瞬妖しく映る。

 

『"神"の力によって』

 

 

 

 

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驚いた

いや、違うな

私はこう思っているのか、・・「やはり」と

蘭菊が探しているという友人は意外にあっさりと見つかった

あの時マヨヒガに行かずとも、恐らくその知らせはすぐに耳に入っただろう

だがまさかの結果だった

 

『この方は紛れも無く神。とある水神の一柱なのです』

 

こうして見ても確かに普通の人間だ

私としても力の解析なんかが得意というわけじゃないが

魔力の有無くらいは判る

結論から言えばこの娘にはそれらが感じられない

 

『そんなっ・・・有り得ないです!

 だって辰魅は私の幼馴染で、小さい頃からずっと一緒に居て・・・

 この格好だって、私が竜舌の神様に憧れて作って着させたものでっ・・・!』

 

蘭菊は激しく動揺している

無理もないか

これまで外の世界で一緒に暮らしてきた幼馴染が

まさか自分とは違う種族、それも神だったなんて聞かされたんだ

 

『外の世界から急にこちらに入られたせいで波長が狂ったのでしょう。

 幸い、気を失う程度で済んでいますのでご安心下さい』

 

神のことは神が一番よく分かっている

早苗のいうことは恐らく本当なのだろう

見たところ外傷はなく、体力の衰退も見られない

 

「なら大丈夫じゃないか。二人が元の世界に帰れば、その異変とやらも起きなくて済むんだろ」

『今、この場に居ても感じますよ。わかりませんか?

 大気を震わし、天を割らんとする"神気"が』

 

蘭菊と顔を見合わせた

こいつにもそれは感じられないようだ

 

 

『まだ眼が醒めないんだね、早苗』

『ええ』

「お前達から見てどうなんだ。そんなに危険なのか?」

『力自体はそこまで大きくないよ。水神と言っても割りと下のほうみたいだし』

『土着神みたいなもんさ。そこでのみ息づき、限られた範囲でその力を発揮するっていうね』

 

やや大げさにため息を漏らす神奈子

 

『外の神も、随分みみっちくなったもんだな。

 この調子じゃ自我があるかどうかも妖しい。

 目が醒めても襲われたんじゃ堪ったものじゃない』

『・・・ッ!』

 

蘭菊が神奈子を睨みつけている

おいおい、言い方が失礼だったとは思うがそんなに食いつくなよ

 

『おや、何か不満かい。水神の巫女』

『・・私は辰魅を信じています。

 たとえ目が醒めたとき正気を失っていても、

  絶対に誰かを傷つけたりしないって』

『根拠の無い自信だな』

『それでも結構です。

 貴女のこと、多分好きになれそうもありません』

 

 

こいつ、いきなり神に喧嘩売りやがった・・

その度胸は認めるがこの場でその発言は不味いだろう

仮にも”戦神”を異名を持つ神に対して─

 

『はっはっはっ!!

 嬉しいね。そう言ってくれる奴は少ないから、有り難く受け取っておくよ。

 憎しみは、好意と同じくらい相手を想う事にあるからね』

 

愛することと憎むことは似ている

神の口はそう述べた

どうやらそこまで気にしていないようだ

とはいえ、世間知らずには後でよく言って聞かせる必要がありそうだな

 

「もうその位にしてやれ」

『分かってるわよ。

 でも今回は私たちがどうこうする訳じゃない。仮にも同じ神だしね』

『早苗には封力符を付けるようには言ったと思うけど』

『ええ、今から付けようと思っていたのですが

 魔理沙さんに止められましたので』

 

また、わざとらしく笑顔を見せながら

一枚のお札を取り出す早苗

その貌の厭らしいこと・・

 

「お前・・・さっきのワザとだったろ」

『何のことです?』

「ここ数年で性格悪くなったな、早苗」

『長く生きていれば、悪くもなりますよ。一応おばあさんなんですから』

 

全くこいつは良い根性してやがる

本当に、”ニンゲン”にしておくには惜しい奴だ

 

 

 

 

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何とか気持ちが落ち着くのを待って

再度、辰魅の顔を見た。

今まで一日も欠かさずに見てきたはずなのに

まるで初めて見るかのような錯覚を抱いてしまう。

そんなはずはない。

辰魅は私の幼馴染だ。家族だ。

でも・・あまりにショックだった。

辰魅自身は知っていたのだろうか?

仮に知っていたとしたら、何故それを話してくれなかったのか?

根拠もない疑念が湧いては心を蝕んでいく。

 

・・駄目だ、私が信じると言ったんじゃないか。

信じてあげなくちゃ。

 

 

 

『辰魅は眼が醒めるまでここで預かってあげるよ。

 一番とは言わないけれど、安全だからね』

 

現状に区切りをつけるべく、もう一柱の神様が静かに口を開いた。

もし先程の話が本当ならば今辰魅を動かすのは得策じゃない。

それに・・私自身も気持ちの整理をつける必要があった。

その言葉に、無言で頷く。

 

『神が三人も居れば、確かに安心だ』

 

魔理沙ももたれていた体を起こす。

彼女が居てくれて本当に良かった。

もし私一人だけだと、どうして良いか分からずに

先走った行動を取っていたかもしれない。

それこそ神様の制止を振り切り

寝ている辰魅を抱えて霊夢の所に走っていったり。

そうしなかったのは魔理沙という支えがあってのことだ。

感謝しなければいけない。

 

 

『蘭菊さん、神奈子様も悪気があったわけではないんですよ』

「はい・・・」

 

分かっている。

これは私の一方的な感情なんだ。

相手は仮にも神様だ。

万物に対して平等な物の見方をしただけに過ぎない。

たまたまその対象が自分の家族だったから、蔑んだような言い方に

過敏に反応してしまい、結果牙を向いてしまった。

今更ながら己の行動を恥ずかしく思う。

これでは神職者失格だ。

 

『人の子は感情が豊かなほうが可愛いってもんだよ。お前の生き方だ、誰も否定しない』

 

こちらの気持ちを汲んでか、神奈子は優しく語り掛けてくれた。

ああ、やはり神様なんだ。

誰に対しても平等であるが故に与える情も平等なのだ。

 

「神奈子さ・・」

『それにっ、こんな”若い巫女”も久しぶりだから

 ついからかいたくなっちゃうのよね』

「ちょ、ちょっと?!」

 

ちょっと待ってくださいな神様?!

ああ、悪いことしたなぁ・・謝らないとなぁ

とか考えていた矢先に積極的なハグニケーションですと!

よろしいっ

ならば こちらも竜舌神拳の伝承者として 奥義を尽くさねばならぬようだな!!

とか考えていたら後ろからドス黒い負のオーラが漂ってきた。

 

『今のお言葉・・聞き捨てならないのですが

  ”若い”、何ですって?』

 

その手には大量の符が握られていた。

 

『や、やだ早苗ったら!ほんのジョーダン・・・』

 

そういいつつ、すすっとこちらから離れ、部屋を出て行く神奈子。

ため息をもらす早苗の横で、諏訪子は苦笑いだった。

 

『これなら大丈夫だな。蘭菊はどうするんだ?』

 

魔理沙がやれやれといった感じに話しかけてきた。

本当は辰魅のそばにいたい。

しかし、ずっと姉妹のように接してきた幼馴染が、実は神様だったという真実は

まだまだ脆い心に動揺を芽生えさせるのには十分だった。

今はまだ近くには居られない。

 

「今日は・・そっとしておいてあげたい」

『そう。

 蘭菊はどこで寝泊りするつもり?』

「あ、霊夢のところです。神社の」

『ふぅん』

 

諏訪子はちらりと魔理沙のほうを見ている。

その顔は、どこかえもいわれぬ表情をしていた。

思えば先程の早苗と諏訪子のやり取りの時もこんな貌をしていた。

ここまで知り合いの多い彼女には、内情にも詳しいのだろう。

霊夢のことも知っているようだし

一度魔理沙にも聞いておいてもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

『日没まで時間がある。そっちがよければ、どこか連れてってやるけど』

 

境内まで出てきたところで、そんなことを言い出した。

先程とは違う、楽しそうな笑顔だ。

この調子ならこちらも気にする必要はなさそうだ。

 

「うん、お願い」

『よし!』

 

私の返事を待って飛び立つ。

かなりの高さから飛んでいるにも関わらず、私も最初ほど怖がらなくなっていた。

人間、慣れってのは怖いものだ。

 

『随分落ち着いてきたな』

「まぁね。でも凄く上手ね。

 一人でびゅんびゅん飛んでいるものかと思ったら」

『これでも人を乗せて飛ぶのには慣れてるんだ。

 どちらかと言うと、大荷物抱えて飛ぶことのほうが多かったけどな』

 

何となく先程の諏訪子の言葉に納得がいった。

なるほど、その道の方でしたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのうち大きな湖が見えてきた。

 

『あの向こうにある館に行くんだ。まぁ、それなりに世話になってるしな』

 

丘の上にやたらと紅い、城の様な建物が見える。

和風な佇まいの家屋の多いこの幻想郷にはあまり似つかわしくない風貌だ。

幻想郷って、和風妖怪だけじゃなくて西洋モンスターとかもいるの?

 

『紅い悪魔の館と書いて、紅魔館』

 

そう呟く魔理沙の眼が、ちらりとこちらを向いた。

その手には何時の間に持っていたのか、ちゃっかり懐中電灯まで。

いや良く見るとあの八卦炉だ。

そんな機能まであるんだ、そのビーム兵器。

 

「わざと怖い言い方しないでよ・・」

『でもそのままの意味なんだ。ま、行けば分かるさ』

 

 

 

 

 

館の周りに高く長い塀が続いている。

ざっと見積もっただけでも三メートル以上あり、

並の人間の跳躍では掴まることさえ難しい高さだ。

てっきりそれを飛び越えて行くかと思いきや、やや離れた位置に降りる。

 

「なんでわざわざ」

『歩いていくか?

 門番に挨拶しないとな。頭上を飛び越えると撃墜されかねない』

「あながち嘘に聞こえない所が変な感じね」

 

にやりと笑う魔理沙。

ぬう・・含みのある笑いをしなさる。

どうもここ(幻想郷)には不適な笑みを浮かべる女子が多いようだ。

 

木々を抜け、大きな塀と門が見えてきた。

その前には一人の女性。

濃緑色のチャイナ服に身を包んだ、長身の女性だった。

 

『よっ、精が出るな美鈴』

『これはこれは、珍しいですね。堂々と歩いてこられるなんて』

 

腕を組んでいた姿勢から一転、パッと明るい笑顔を見せると

まるで幼い女の子のように見えた。

 

『新しい連れがいてね、挨拶がてら紹介しようと思って』

「は、初めまして・・」

『ああ、貴女が竜舌蘭菊様ですか。お初にお目にかかります。

 紅魔館の門番を務めております、紅美鈴、紅美鈴です』

 

二回目にやけに力が入っていた。

まぁ、中国人ぽい名前って割と覚えにくいものが多いしね。

・・・ってそれは偏見か。イカンイカン・・。

 

「その・・・本当にここには"悪魔"が?」

 

突然の質問に眼を丸くする美鈴。

不味い、幾らなんでもド直球過ぎたか?

 

『その質問の意図は?』

「あ、その・・」

 

ですよねー!!

そら当主のことをいきなり聞こうとする輩ですもの。

警戒しない方が可笑しい。

 

「えと・・さっきここの事を魔理沙に教えてもらったんです。

 悪魔の館だって・・。もしそうだとしたら私なんかが入ってもいいのかと」

『全く見当違いと言うわけではありませんが・・』

『あまり”悪魔”ってのに馴染みが無ければ、変に勘ぐっても仕方ないとは思うけどな。

 百聞は一見にしかず、とはよく言ったもんだ』

『ここの住人を見てどういう印象を受けるかで、館全体のイメージも変わると思いますよ』

 

確かにそれはいえることだ。

印象はそこを構成する人員の態度で決まり、

さらに組織のトップは、大抵その全体を象徴している。

 

「少なくとも、貴女を見ていると悪い印象はありませんが」

『賞美の御言葉、有り難く頂戴致します。小姐蘭菊(シァオチー)』

 

恭しく頭を下げる美鈴の口元は笑っている。

何とか最悪の事態は回避できたらしい。

人間、危うきに近寄らず とはよく言ったものだ。

・・よく言うんだっけ?

 

 

『それではどうぞ。扉から先は別の者が案内致しますので』

 

ゆっくり開いた巨大な鉄扉を潜り抜ける。

悪魔の館という割には、綺麗に整えられた庭園のような通路が真っ直ぐ館まで伸びている。

程なくして大きな扉の前まで来た。

間近で見るとその豪華なつくりに思わず見とれる。

しかし、心なしか真新しいような印象を受ける。

 

「何だか、ここだけ新品みたいね」

『ああ、よくブチ破られているからな。その度に直してるんだろ』

 

誰が?という問いは出ることなく終わった。

張本人がすぐ隣に居たからだ。

やっぱりこの人、問題児なんじゃない・・。

そりゃあ外出自粛を食らうわけだ。

そうしてると、手を触れることなく扉が開いた。

その先には一人の女性。

 

『ようこそ、永遠に紅き紅魔館へ』

 

軽く会釈してきたのは、タイトスーツが似合う執事のような格好をした女性だった。

年齢は魔理沙と同じか、もしくはまだ若いような印象も受ける。

しかし、

 

『ニンゲンがここに来るのは久しぶりですから、歓迎いたしますわ。蘭菊様』

 

笑う瞳は、血の様に紅かった。

 

『私は十六夜咲夜。この紅魔館の・・・使用人ですわ』

『いつからメイド長じゃなくなったんだ?』

『他のメイド達が全員逃げ出してからよ。

 ・・・

 それで、本日はどういったご用件で?』

『ま、久しぶりに寄らせてもらったんだ。他の連中は元気か』

『美鈴とパチュリー様はいつもどおりよ。

 妹様も・・・まぁ、さほど変わらないわ』

 

そこで言葉を区切る咲夜。

言い淀んでいる、そんな感じに言葉を詰まらせた。

 

「どうしたんですか?」

『・・・我が主は、もう”人間”には会いたくないと』

『まだ引きずってるのか』

『皆同じよ。私も・・・

 貴女もじゃない?魔理沙』

 

両者の間に微妙な空気が流れる。

 

 (ヤバイ・・またこのパターンか

  なんともここに来てからというもの、魔理沙が率先して話すと

  こちらが口を挟めない空気になることが多い

  そりゃあ、事情なんてしらないし

  無理矢理首を突っ込もうとは思わないけどさ

  立つ瀬が無い、とは正にこのことだ・・・)

 

さきにそれを崩したのは咲夜だった。

 

『図書館くらいなら行っても平気よ。それ以外は、身の安全を保障しかねるわ』

『ああ、覚えとく』

「ありがとうございます」

 

咲夜に軽く頭を下げ、早速館の中へ向かう。

紅い瞳に見送られながら。

 

 

 

 

 

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咲夜のやつ・・あんなこと言いやがって

アレは絶対分かってて言ってるんだろうな

こっちの気持ちなんて百も承知だろうに

久々に顔を見せたと思ったらあの態度

これだから碌に友達も出来ないんだよ

ああ・・駄目だな、変にへそを曲げるのは悪い癖だ

せっかく連れ出したコイツに警戒心を植えつけないためにも

私が心を乱してどうする

こうしてる間もきょろきょろと辺りを眺めながら後ろをついてくる

外来人ってのはこういうのは慣れている物だと思ったから

こうも物珍しそうにしている様は、見ていて何だか嬉しいな

 

「ちょっと前まではこの館もえらく広かったんだが、今はご覧の通り歩いて回れるんだ」

『歩いてって、まさか前はこの廊下も飛び回ってたの?』

「当然さ。歩いて行こうもんなら、日が暮れるどころか年が暮れる」

 

遠慮も無く感嘆の声を上げる蘭菊

まぁ、まだ子供なんだ

こういうものを沢山見て、今後の人生に役立てればいい

ニンゲンの一生はあまりに短いのだから

 

 

 

 

やがてやや黒ずんだ扉の前にたどり着く

私にとって見ればもはや見慣れたものだ

どちらかといえば窓の方が見慣れていたかもしれないと

思い出してから少し笑ってしまった

早速扉を開けようとして、手を止めた

 

「本当に陰湿だな。ま、わかっちゃいたけど」

 

分かり安すぎる歓迎方式

これだから七曜の魔女様は悪い印象しか持たれないというのに

懐から小枝を取り出す

何の変哲も無い、ただの木の枝

先程道すがらに拾っておいたものだ

 

『それどうするの?』

 

蘭菊の問いに行動で示す

 

「こうするんだよ」

 

ひょいと投げた小枝は、扉にぶつかる少し手前で黒い煙と共に粉々に散った

 

『えぇっ!?』

「"焼殺壁"。発火を促したり、対象に熱を当てるものじゃなく

 ただ単純に、相手を"焼き殺す"障壁だ。

 それが生き物ならさっきの枝みたいに、あっという間に炭になるわけだが」

 

ただのネズミ避けのつもりらしいが

生憎とこちらは知恵のあるネズミでね

こう、"お手を触れることなく吹き飛ばしてください"、っていうトラップが

大好きなんだよな

私もお前も

 

『ちょ、ちょっと待って!』

 

慌てて蘭菊が私の手を抑えてくる

この道具から何が飛び出すか知ってしまった蘭菊は、

それでこの館が崩れてしまうのではないかと危惧したのか

他に方法が無いのかと問いただしてきた

どれだけ壊しても次の日には直ってるっていうのが、ここの良いとこだったんだけどな

まぁ

 

「確かにお前の言い分も最もだ」

 

代わりに小ぶりな木槌を取り出し、それを扉のほうへ向かって振り下ろす

直後、パキンと言うまるでガラスの割れるような音が響いた

簡単な結界であればこれで解除できるはず

以前に自分で試した時は問題なかったから

きっと大丈夫だろう

たぶん

いや、きっと

 

「じゃ、確かめてみてくれ」

 

大丈夫とは言ってもやはり結果が気になるのは魔法使いの性分

ついでに言えば、自らの手を汚さないのもまた魔法使い

思わず見とれていた蘭菊の手を引っ張り、扉に向かって突き飛ばす

アディオス、蘭菊

失敗していたら済まん

 

『ちょっ!?・・・待っ、て・・・!!』

 

条件反射で左手を出す蘭菊だったが

案の定、左手は黒くなる前にトンっと扉に触れて終わった

な? 大丈夫だっただろう?

何だか滅茶苦茶睨まれているんだが

特に怪我はないのだから気にする事も無いだろう

初心者ネズミは、腰を抜かす事が仕事だからな

 

 

 

 

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前略、ママ上様

私は大きな赤いお屋敷で危うく暖炉の燃えカスの如く

命を散らしかけました。

つか何してくれてんのこの非常識魔法使いはっ!!

先に枝っきれを炭にするデモンストレーションを踏まえて

そこに突き飛ばすとか、もはや人間のやることじゃねぇ!

しまったコイツ人間じゃねぇッ!!

くそぅ・・マジで腰が抜けて立てない・・

本当に左手が「ジュッ」とか言う効果音と共に焼け落ちるかと思ってたから

心臓もなりっぱなしだし、汗も凄いことになってる。

 

「し、死に掛けたわよ・・・」

『安心しろ、まだ生きてる。

 それにここじゃ死に掛けるなんて、箪笥の角に小指をぶつけるより多い』

「・・・微妙な頻度ね」

 

本当は一発くらい殴っておきたかったが

多分殴ったコッチが無事じゃすまないような気がして踏みとどまった。

割とガチで。

未だ足元がおぼつかないこちらを他所に、魔理沙は扉を開いた。

というかなんでこの人自分で試さなかったの?

ソコの所小一時間問い詰めたい。

 

『ほら、早く来い』

 

 コノヤロウ・・

 

 

 

 

 

中は酷く暗い。

部屋の暗さに目が慣れる暗順応というものは、どうしても時間がかかる。

ソレだと言うのに何の躊躇も無く歩いていく魔理沙。

ああもう、本当にこの魔女様は案内する気なんてあるのかしらね!

 

『その辺は何もないから大丈夫だ。ネズミが居るわけじゃないし』

『ネズミがそれを言うのかしら』

 

魔理沙ではない声が聞こえた。

 

『わざわざ弟子を連れてくるなんて、とうとう本棚ごと盗む手法に変えたの?』

『悪いがこいつは弟子じゃない。ただの観光客だ』

 

物騒な会話を続ける魔理沙と闇の声。

自分が観光客だという点も十分ツッコミどころだったが、

今は何か掴めるモノが欲しくて未だに腰を曲げて手を動かしている。

ようやく硬い、木材のようなものに触れたときに目が慣れてきた。

それは太い手すりであり、自分の目の前には広大な空間が広がっていた。

 

「うわぁ・・・」

 

広大という表現では生易しい空間を望むように、やや横広い階段の最上段に私たちはいた。

そこから階下を覘くと、まるで墓石のように四角い物体が整列している。

鼻に付く古雑誌のような独特の匂いから、収められているものが全て本であると判る。

つまりここは、

 

「図書館?」

『そう。我が書斎にようこそ、竜舌の巫女』

 

その声の先に目をやる。

図書館のある一角がぼんやりと明るいことに気付く。

それはランプの灯。

机に乗った篝火に照らされて一人の少女が見えた。

女性と呼ぶにはあまりに線の細い体をしている。

そこへ向かって階段を下りる。

 

『よっ、久しぶり』

『珍しいわね。扉の修理が必要になると思っていたのに』

 

魔理沙は肩をすくめてこちらを見た。

やはり確信犯であったか。

呼んでいた本を閉じ、掛けていた眼鏡を詰まれた山の頂上に乗せる。

 

『パチュリー=ノーレッジ。紹介は名だけでいいかしら』

「あ、はい」

 

咲夜のそれとはまた違った刺々しさを含む話し方。

必要以上の物事には固執しないという性格があまりに現れている。

この書籍の量と、独特の雰囲気を鑑みるにやはりこの人も魔法使いなのだろうか。

思考を巡らすこちらを差し置いて、やはり会話に没頭する魔理沙とパチュリー。

予想通りに手持ち無沙汰になり周りを見回していると

何かがフワフワと飛んでいるのが目に見えた。

初めは鳥かと思ったソレは、明らかに人の形をしていた。

 

『ごきげんよう、お嬢さん』

 

パチュリーのすぐ後ろに降り立った人型は、蝙蝠を思わせる翼と尾を持った

まさしく悪魔の姿をした女性だった。

こちらへ目をやると、スカートの裾をつまんで軽く頭を下げた。

つられて返す。

って、何も同じようにスカートをあげる必要なんてなかったのに!

不味い・・恥ずかしい・・。

案の定、翼を持った赤毛の女性は口元に手を当てて笑っている。

 

『久しぶりだな、こぁ』

『はい、お久しぶりです』

 

翼と尾の禍々しさとは裏腹に、小鳥のように綺麗な声で話す悪魔ぽい人。

人は見かけによらないとは言うけれど、

妖怪などにもそれは当てはまるようだ。

 

『その呼び方何とかならないの?

 お陰で妙に定着しちゃったじゃない』

『"小悪魔"なんて分類の呼び名だろう。猫が"ねこ"って呼ばれて喜ぶと思うか?』

 

小さくため息をもらすパチュリーに反して

小悪魔は嬉しそうだ。

パタパタと動く羽が非常に可愛い。

・・触らせてもらえないかしら。

 

『それで、今日は何が欲しいの?』

『本棚をひとつ』

 

いやちょっと。

何を言ってんですかマリササン?

あれ一体何キロあると思ってんですか。

本もあわせたら軽くトン超しますよ?

 

『重量変換を掛けてるから大岩より重いわよ』

 

ほら主人もああ言ってるじゃないですか!

私まで泥棒扱いされたくないんです!はやくあやまっテ!!

 

『それとも、その子がすごい力持ちなのかしら』

 

なんか既に共犯認定されてるじゃないですか!やだー!

魔理沙のカバッ!!え~ん・゚・(ノД`)・゚・

くそぅ・・なんて時代だ・・

 

『それじゃあ、この本もか?』

『そう。脚に落とすと折れるわよ』

 

こちらのトリップをお構いなしにやり取りを続ける魔法使い共。

……泣いてやるぅ。

魔理沙はテーブルに積んである本の表紙をトントンと叩く。

材質は間違いなく紙のようだ。

 

「ねぇ・・・、本当に本棚ごと持って行くつもりだったの?」

『まさか、・・・ふ~ん。おっ、本当に重い』

 

あ、やっぱり冗談でしたか。

デスヨネー  ちくしょう・・

本を両手で抱えるようにして持っているが、

まるで鋳鋼を持つような仕草だ。

 

「そんなに重いの?」

『持ってみるか?』

『ちょっと、普通の人間に持てる様なものじゃ・・・』

 

魔理沙から本を渡されて持ってみる。

確かに、本と言われないと分からない位に重い。

 

「あ、本当だ。ちょっと重いね」

 

本当に材質は紙なのだろうかと疑いたくなる。

これじゃあウッカリ足に落としでもしたら骨折は免れそうに無い。

裏の方も見てみるが特に変わった所は無い。

やはり魔法か何かで重さだけを変えているようだ。

そうすると本棚一つにしても、何トン位になるのだろう。

考えるだけで恐ろしい・・

って、あれ?

 

「なに?どうしたの?」

 

三人ともが私のほうを見ていた。

あんまり一人であれこれと考えていたのが不味かったのか。

それとも、ダンベル代わりに片手で上下運動してたのがいけなかったのか。

パチュリーに至っては何かジト目で睨んでいる。

やはり持ち主の目の前で

 

 HAHAHA!見てよこの辞典型ダンベル!

 読書しながらでも運動が出来る、正に日陰少女のミ・カ・タ ♪

 

みたいなことをしていたのが癪に障ったのか。

とりあえず本の山の上にそれを乗せておく。

机ごとつぶれないのはそこにも魔法が掛かっている証拠だろう。

 

『・・・貴女、”解いた”?』

『いや・・・何もしてないぜ』

 

てっきり滅茶苦茶怒られるかと思ったが

予想に反して図書館の主は堪忍袋が丈夫らしい。

意味不明な会話はもはや慣れているので、内容は一切聞かないで置こう。

小悪魔に至っては目を丸くして見つめているがこちらも見ないフリだ。

 

『蘭菊・・・お前本当にニンゲンだよな?』

「え? そうだけど・・。何よいきなり」

『確かに彼女からは魔力もそれに類するエネルギーも一切感じないわ。

 超能力だとしても、この空間じゃまともに働かないはず』

 

何だか妙なことを聞かれてしまった。

てめぇの血は何色だ?! という事なのだろうが

何処をどう切ろうとも紅い血しか出ないのです。ごめんなさい。

パチュリーは魔力だか何だかの話をしているが

そもそもそんなものはあるはずがないし

神社の巫女として、魔力とかあるのは流石に不味いのではと心の中で突っ込んでおく。

 

『小悪魔、”サクリファイス”を持ってきて。大至急』

『は、はいっ』

 

返事一つ。

こぁはパタパタと羽音を立てて飛んでいった。

 

『サクリファイス…、ゴーレムか?』

『ええ、それも魔法実験用に造った、かなり頑丈な奴』

 

やがて重々しい足音と共に高さ三、四メートルはあるかという

人型の金属の塊が歩いてきた。

始めは岩かとも思ったが、やけに光沢があるのでやはり金属だろう。

 

「うわぁ・・・」

『ご感想をどうぞ』

「すごく・・・大きいです」

 

って何言わせるのよ。

しかし流石の私もこの大きさには驚く。

先程みたこの館の塀よりも大きな金属人形─ゴーレムは

四人から少々離れた位置にありながらその異様な存在感を放っている。

 

『擬似ヒヒイロカネ製。とは言ってもその強度は並じゃないわ』

 

不意にイスを立つパチュリー。

 

『さぁ、それを破壊してみて頂戴』

「え?」

 

ちょ・・え? ごめん、もう一回言ってもらっていいでしょうか?

これを破壊しろ?

オーケー、幻聴だ。

聞こえないフリをしよう。

 

『おいおい、いくらあの重たい本を持てたからって

 コイツを砕けるような超人と決め付けていいのか』

『モノは試し。魔法使いなら目の前に興味心をくすぐる物があるというのに見過ごせないわ。

 それに例え間違って拳が砕けても、すぐに元には戻せるもの』

『悪趣味だな、本当に・・・』

『魔理沙も興味はあるでしょう?』

『・・・・』

 

 

 

 

---------------------------------

 

 

 

 

こいつの性格の悪さは今に知ったことじゃない

知り合ったその時から感じていた

それは今でも変わらない

まさか連れてきた客をいきなり人体実験に使おうというのだから

いよいよ性根が腐っているといっても良い

だが、確かにそれは私だって興味があった

さっきの本はグラム換算で言うと、ゆうに五十キロはあった

ある程度人間よりも力があるとは言えこの私でも両手がやっとの重さだ

それをあいつは、軽々と持ち上げやがった

それだけじゃなくまるで健康器具かの如く片腕でも振り回していた

だから思わず聞いてしまった

 

「お前、本当にニンゲンか?」

 

確かに蘭菊の身体からは、特別な力は感知されなかった

私の解析不足かとも思ったが、パチュリーの目からみてもそれは見つからなかったようだ

ならばあの異常な腕力の原因は?

それを確かめるべくパチュリーはゴーレムを持ってこさせた

私からしてみれば好都合だった

恐らくあいつの拳だと並の石なんかはたちどころに砕いてしまうだろう

それならばより能力の上限を知るため、硬度が著しいものが必要になってくる

だがもし、アイツの拳がただのニンゲンのものだったら?

込める力の具合にもよるが、間違いなく腕の方が破壊されるだろう

ゆっくりゴーレムに触れる蘭菊

木やレンガやコンクリートではない

まして鉛や鉄でもない

決して錆びず、頑丈さを売りにした超金属ヒヒイロカネの模造品

人間の手では、たとえ武器を用いたとしても傷一つ付けられない

だから、これはあくまで奴の道楽だった

全く・・本当に趣味が悪い

やや深めに息を漏らす

蘭菊に向かって手をかざすと、当てられた両手が淡く光る

 

「神経に作用する術をかけた。少しの間なら痛みは全く感じなくなる」

 

本来ならば怪我の治療などに使うための麻酔術

例え瞬時に怪我を治せる術があろうと、その間に訪れる痛みには抗いようが無い

それを考慮した行動だった

つまりこうだ

潰れてもいいから安心して殴れと

・・何時から私は、こんなに性格悪くなったんだろうな

 

『安心しろ、もしグチャグチャになってもすぐに治してやる』

「う、うん」

 

多少は躊躇するかと思っていたが、予想外に実験に付き合う蘭菊

その姿勢は有り難いがやはり後ろめたさがあった

 

『貴女も大概ね、魔理沙』

『五月蝿い』

 

そちらには目を向けなかったが

含み笑いで話しているのが判る

こんなのと同じ次元で生きる自分を今更ながら呪いたくなる

半歩ほどゴーレムから距離をとる蘭菊は

右手を腰の辺りに構え、やや腰を落した

そして、

 

 ガンッ!

 

鈍い音を残し、蘭菊の手が止まる

ゴーレムにはもちろん傷一つ無い

 

『当てが外れたわね』

 

軽く首を振りつつ椅子の方へ戻るパチュリー

私はとりあえずホッとした

いくら痛みを感じず、治療もすぐに出来るとは言え

へしゃげた腕を見せられるのは夢見が良いとは思えない

 

『手は大丈夫か?』

「うん、平気」

 

それはそれで十分凄いんだけどな

恐らく小悪魔の方もそう思っているのだろう

とは言え実験は失敗

パチュリーはあからさまに落胆していたが

私も少なからず残念な気持ちを抱いているのは確かだ

すると思いがけない言葉が飛んできた

 

『もう一回やっていい?』

 

蘭菊は再挑戦を申し出てきた

本気で言っているのだろうか?

保障のある実験とは言え、こいつが無茶をする必要は無いというのに

だがその目は好奇心で満ち満ちている

幸いにも、先ほどの術はまだ効いている

私は起こり得る”奇跡”に賭けてみたくなった

 

「私は構わないぜ」

 

横目で本の賢者を見る

勝手にやれと言わんばかりの表情で、椅子に手をかけている

それを見てから蘭菊は再度、ゴーレムの前に陣取った

先程よりもやや距離が離れているような気がする

トントンッとニ、三回ジャンプした後、先程よりも深く構える蘭菊

音がなるほどに握られた拳

大きく捩じられた上半身

そして、鋭い視線

 

 ─ ・・・っ?!

 

空気が、変わった?

 

 

 

『ッッはぁあアッ!!!』

 

 

 

少女のものとは思えないほどの”咆哮”が図書館に響いた

波動がこちらまで伝わり思わず顔をしかめる

続いて響いたのは、在ろうことか巨大な落下音

そこには胴体の真芯を打ち抜かれ、上半身が分離したゴーレムが

大音響と共に床に沈んだ光景があった

 

 

 

 

----------------------------

 

 

 

 

 

「よしっ!」

 

どうやら思ったとおりだったらしい。

一発目は単に拳を振り上げて殴っただけ。

これはとりあえず強度を確認したくて行ったもの。

だから、それで中止しようとしたパチュリーの反応は

当たり前だった。

しかし、私はまだ本気を出していない!

まぁある程度は本気だったのだけど。

魔理沙の魔法のお陰で痛みは全く無い事は判った。

それに何となくだが、”どこをどう殴れば良いか”分かった気がする。

再挑戦の申し入れが受け入れられた事を確認し

もう一度ゴーレムの前に立った。

狙うは一点。

人形のくせにやたらと括れている、あの腹部を撃つ。

空手はやったことが無いから正拳突きなんて芸当は出来ない。

それ以外の格闘技についても同じ事。

だから私に出来ることは

とにかく力一杯、目標をブン殴ることだけ!

構えなんて知らないし、体重移動なんて何それ美味しいの?みたいなもの。

深く腰を落とし込み、半身を捻りに捻った状態で跳躍。

体重の全てを乗せた一撃を、人形のド真ん中に叩き込む!!

 

 ドスゥゥン

 

結果、人形は真っ二つになり、上部分が床にめり込む様に倒れた。

予想したわけではないけれど、イメージ通りにはなった。

そして、満面のドヤ顔で三人の方へ振り返る。

 

『まさか・・・本当に破壊するなんて』

『強度間違ってるんじゃないのか?』

『そう思うなら殴ってみなさいよ』

『いや、悪かった。遠慮する』

 

あれ?

何だか、また蚊帳のお外?

倒したの私だよ?

何で放置されてるワケ?!

もうやだこの幻想郷・・

 

『言っておくけど、この砕け方は美鈴とほぼ同じよ

 最も彼女は本気じゃなかったと思うけど。

 並の人間をはるかに凌ぐ力なのは、誰の目にも明らかね』

『確かに・・・』

 

門の前に立っていた中国娘。

あの人もさっきのゴーレムを破壊できるのだという。

やはりあっちは拳法か何かを駆使するのだろうか。

まさか本場の酔拳が見られるの?!

やばいわ、興奮してきた・・。

 

『やっぱり何か起きるわよ。魔理沙』

 

パチュリーが意味深な発言をしているが

今の私には関係ない。

そちらは魔理沙と楽しく会話でもしていて下さい。

 

私は傷一つ無い手を見ながら、にんまりと笑っていた。

 

 

 

 





ゴーレム「もしかしてオラオラですかーッ!?」
蘭菊  「YES!YES!YES!」

あえて使わなかったのは正解だったと思う・・。
辰魅も見つかり、後は帰るだけになった。
しかし謎は残ったまま。
しかも異変のイの字も見当たらない?  

・・果たして、誰が「嘘をついている」でしょう
                    (良ければ次もドウゾ。)
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