転生者はやる気のないチート野郎 作:名前?何でも良いよ
屋上から飛び降りてから暫く経ったが未だに痛みは襲ってこない。即死だったのか?だがそれなら意識がハッキリしているのはおかしい。俺は不思議に思いながらも閉じていた目を開くとそこは地面でもなく空中でも無い。
和室だった。
「.....どうして?」
ふと疑問に思った言葉が出た。俺は死んだ筈だ。全てが嫌になり全てを投げ出して屋上から飛び降りた筈だ。なのに今は和室の座布団の上に正座で座っている。おかしいのは目を閉じていた時は座布団に座っているという感覚が無かった事だ。6畳ほどしかない狭い部屋には小さいちゃぶ台と俺が座っている座布団の他にもう一枚座布団が敷かれていた。入口は一ヶ所なのか襖がある。窓が一つもないので外の景色も分からない。
だが心には何処か余裕があった。ここが何処なのかそんな些細な事はどうでも良かった。仮にあの場所から飛び降りて無傷で済みここに連れてこられたなら誰か連れてきた人がいる筈だ。身代金目当てなら殺してもらおう。もし助けてくれた人なら悪いと思うがここを出てもう一度自殺しに行こう。
死ぬのが怖くない。むしろ死にたいと思っている時がこんなにも冷静でいれるなんて思ってもみなかった。
すーっと襖の開く音がして襖を見ると優しそうな白い髭を生やしたお爺さんが立っており静かに入ってきて空いていた座布団の上に座った。
「どうじゃった?」
いきなりの質問で何の意図があるのか全然分からなかった。俺が答えないでいるとお爺さんは笑みを浮かべながら言った。
「死ぬのはどういう感じじゃったか?と聞いたんじゃよ」
お爺さんのこの言葉に目を見開くがやはり俺は死に損ねたのかと思いため息を吐く。
「そうですね....死に損ねたみたいですが。悪くありませんでした」
「何を言っておるんじゃ?」
お爺さんは心底不思議そうに言ってきた。
「お主はちゃんと死んだんじゃよ」
「は?」
死んだ。ちゃんと死んだ、と言われてもはいそうですか。とはならなかった。痛みは感じなかったし。何より自分の体は無傷でここに存在している。右手を動かそうとすれば動くし左手を動かそうとすれば動く。俺は生きているじゃないか。
「理解できていないようじゃな...まぁ当然かの」
お爺さんは先程までの笑みを浮かべた顔から一気に哀愁をただ寄せる顔をして俺に言ってくる。
「お主。生き返りたいとは思わぬか?」
「思いません」
言葉の意味は分からなかったし理解もしていない。自分が死んでるなんて思えないが仮に本当に死んでいるのならあんな世界に生き返りたいとは思えない。
「そんな腐った目をしよって....」
お爺さんはポケットから手鏡を出し俺に自分の顔を見せてくる。いつもと同じ顔だった。目以外は。
中肉中背でイケメンではないが不細工でもない。普通の顔だった筈の俺の顔は目が腐っていた。目玉がドロドロに腐っているという意味ではなく目に光がなく以前までの俺の目とは違っていた。
「お主自身も今気付いたようじゃの...」
お爺さんはため息混じりに言ってくる。だが別に目が腐っていようと良いじゃないか。お爺さんが言うには俺は死んでいるのだろ?死人に口無し。死人は喋れない。そして死人に対して態々悪口を言う奴もいないだろう。そもそも死んでいれば目は瞑っているしな。
「別に構わないと思います」
「そうじゃな....じゃがお主には生き返ってもらうぞ?」
しつこいお爺さんだ。俺は嫌だと自分の意思を伝えた筈なのに何故こうも生き返らせたがるのか分からない。
「無理です。むしろ殺してください」
「じゃからお主は死んでおるって...はぁ...めんどくさいの~」
お爺さんは心底めんどくさそうに言うと、ヨシっと言いながら立ち上がった。
「そんなにこの世界に生き返りたくないのなら別の世界に生き返れば良いじゃろう」
急に言葉がSFチックになってきた。もう付き合っていられないと座布団から立ち上がろうとするが何故か立ち上がる事が出来ない。
「どうして...」
「その答えはこれじゃ」
お爺さんが先程俺に見せてきた手鏡をもう一度見せてくる。だが手鏡に写っていたのは鏡に写っていた俺ではなく屋上から飛び降りて頭から地面に激突して頭が割れ脳みそが飛び散り頭を打ったショックで漏らして死んでいる俺の姿があった。この映像を見て初めて俺は死んだんだと納得できた。
「分かってくれたかの?」
「....」
無言のまま俺は頷いた。俺は死んだんだ。しっかりと死ねたんだ。それじゃ今こうして存在している俺は誰だ?一瞬にして身の毛がよだち自分自身に恐怖心を覚える。
体が震え呼吸が荒くなる。
「いきなり現実に直面したようじゃの」
お爺さんは俺の額に手を当てた。するとお爺さんの手が光だして徐々に体の震えが止まり呼吸も良くなる。
「何をしたんですか?....」
お爺さんはまた笑みを浮かべながら言ってきた。
「何ほんの餞別じゃよ。お主の死には同情するでの」
同情なんてしてほしくなかった。自分が惨めになるだけだ。弱くて愚かな自分が。
「さて...お主には所謂異世界に行ってもらう」
「異世界....?」
「そうじゃ。異世界では魔法の文明が発達しており化学は迷信だと信じられておる。そんなこっちの世界とはまるで異なる世界じゃ」
こっちとは違う世界...興味がないわけじゃない。だがもうこれ以上人と関わりあいになりたくなかった。もう陥れられるのも信じてもらえないのも御免だ。
「俺は行きたくありません」
「俺は行きたくない、のー。それならお主自身を辞めれば問題ないんじゃな?」
お爺さんがまた俺の頭の上に手を置くと俺の体は光だしてあまりに激しい光に目を瞑ってしまったが直ぐに目を開けると手鏡が既にお爺さんにより俺が写されていた。否。俺の方に向けている筈なのに手鏡にはモテそうなイケメンが座っていた。目を腐らせて。
「これでお主はお主であってお主ではない」
見た目は完全に俺では無くなっていた。だが感情は俺のものだ。今迄の記憶は残っているし死にたいと思う欲求もある。
「おかしいの....お主の感情が強すぎてどうやら目だけは変えられないようじゃ」
まぁ問題ないじゃろと続けるお爺さん。
「さてお主に先程くれてやった餞別は力と知識も魔力じゃ」
「何を言ってるんですか?...」
最初から言っている意味が分からないお爺さんだ。お爺さんは最後だと言わんばかりに笑顔で言ってきた。
「お主にはわしから呪いもかけさせてもらったからの。“死を求められない”という呪いじゃ」
「何をいっt「さあ行くがよい。そして願わくば幸せにの...」」
俺の言葉を遮ったお爺さんが右手を上げると光に包まれ目を閉じた。
がやがやと和室ではあり得ないくらいの人の声が聞こえる。俺が聞きたくない人の声が。俺は閉じていた目を開けるとそこは。
頭から角を生やした鬼みたいな生き物と耳が尖っているまるでエルフのような生き物がいる町にいた。