〜パールス視点〜
「ここが……アカデミー……」
僕は、目の前にそびえ立つ立派な建物を見上げる。
様々な美しい彫刻がびっしりと彫られた白い壁。一番高い尖塔には、アナスタシアのシンボルマークである剣を携えた乙女の横顔があった。凛と前を見つめるその彼女の眼差しに、僕は自然と引き込まれてしまう。まるで彼女の中にある強い意志を体現しているような、そんな威厳を感じた。
「やぁ、ここの新入生かい?」
「ふぇっ!?」
いきなり声を掛けられて、僕はびっくりしてそっちを向いた。そこにいたのは、優しそうな雰囲気の男の人。明るい茶髪に、黒縁眼鏡の奥には、思わず引き込まれてしまいそうな、綺麗なターコイズブルーの目を持っている。
「あの……あなたは?」
僕が恐る恐る聞くと、その人は困ったように笑って言った。
「ああ、すまない。僕はここの教官をしている、アレンって言うんだ。君は?」
「えぇっと……僕は、今日からこのアカデミーに入学する、パールスです」
「なるほど、そういうことか。じゃあ、早速大講堂に案内するよ。ついてきて」
そう言うと、アレンさんはゆっくりと歩いて僕を案内してくれた。周りの人達も、それぞれのペースで大講堂へと向かっている。僕は緊張してキリキリと痛むお腹を押さえて、不安な気持ちをどんどん強くしていく。
《大丈夫かな……。この力を、ちゃんと使えるようになるのかな?》
アレンさんに案内されて入った大講堂には、既に大勢の人達で溢れかえっていた。所々で会話を交わし、握手をする。楽しそうに笑い合っている人達もいて、僕はますます緊張してしまった。お腹のキリキリした痛みも強くなって、顔を歪める。
「うぅ……。ダメだ……これ以上は、保たないかも……」
椅子に座って前かがみでお腹を両手で押さえていると、誰かがトントンと僕をつついた。
ゆっくりと顔を向けると、アレンさんが心配そうな顔で僕を見ていた。
「大丈夫かい?さっきから顔色が悪いみたいだけど……」
「実は僕……不安になるとお腹が痛くなるんです……。今もすごく痛いです……」
ようやくそれだけ言うと、 僕はゆっくり顔を前に向き直してから、小さく唸った。あぁ、早くこの緊張感から解放されたい……。そうすれば、後は痛むこともなくなる。スッキリできる。だから早く……!!
「どうしても無理そうなら、医務室に行くこともできるけど……どうする?」
アレンさんが、僕の背中を優しくさすって提案してくれた。僕はそれを受け入れて、医務室に行くことにした。ここで見ず知らずの人達に迷惑を掛けるよりも、少しでも安心できる場所で過ごしたい。
僕がそう言うと、アレンさんは笑って僕の背中を支えてくれた。大講堂を出るだけでもやっとな僕の歩幅に合わせて、根気強く歩幅を調節して歩いてくれる。その心遣いが優しくて、僕は申し訳なくて泣きそうになるのを必死で堪えて、何とか医務室へと辿り着いた。
「リーファ先生。生徒さんが一人、体調不良なんですが……寝かせてくれませんか?」
アレンさんが白衣を着た女の人に声を掛けると、その女の人はニコリと笑って「ええ、構いませんよ」と言ってくれた。
「あらあら、あなたは緊張感やストレスを感じると、お腹が痛くなるみたいね。無理せずに、ゆっくりベッドで休んで行くといいわ」
「あ、ありがとうございます……先生」
どうやら、このリーファ先生と言う人は、見ただけで内部の異常を感知できる能力を持っているみたいだ。さすが、医務室の先生。感知タイプの能力者なんだなぁ……。
内心感心しながら一番奥のベッドに行って横になると、緊張感から解放されたことでお腹の痛みが取れ、次第に楽になっていくのを感じた。
「良かった。どうやら、だいぶ楽にはなったみたいだね」
「はい……ありがとうございます、アレンさん。僕のせいで……」
アレンさんは静かに笑って、ゆっくりと首を左右に振った。
「いいんだよ、気にしなくて。それに……これから宜しくね、パールス君」
「……え?それって、どういうこと、ですか?」
僕が状況を飲み込めずにキョトンとしていると、彼は笑顔を崩さずにこう言った。
「君の担当は、僕だからさ。これからの三年間、僕が君の担当教官になったんだ。キチンと能力を使いこなせるように、頑張ろう」
この人が、僕の……?
三年間のアカデミー生活を支えてくれる教官は、アレンさん。これは、偶然なんだろうか?
そう思いながらも、僕は「よ、宜しく……お願いします……」としどろもどろになりながらも、何とかその一言を言った。
また優しく笑ってくれたアレンさんの顔を見て、僕もはにかみ笑いを浮かべる。
ベッドに横になって安心したのか、温かいアレンさんの笑顔を見てようやく緊張が解けたのか、僕はそのままゆっくりと、意識を闇の中へと沈めていったーー。