ギルド受付嬢も楽じゃない! ーー私が幸せを掴むまでーー 作:おもちさん
あっはっはっはっはー、誰なんでしょうね宵闇の美魔女って。
街の人がですねー、私を見るとそう呼ぶんですよねー、ハッハッハァ!
……はぁ、今回の噂は手強いですよ。
静まる気配が見えないんですから。
子供の命を助けたからか、噂の広がるスピードもイジられる回数も前回の比じゃないです。
ちなみに私に魔法の知識なんか欠片もありはしません。
魔法を扱うどころか、魔法の予備知識も医療知識もなーんもなし。
極々平凡な受付嬢なんですから。
あの子が助かったのも偶然が重なっただけだと思いますよ、ほんと。
でも最近ちょっと嬉しいことができました!
跳ねウサギちゃんたちと仲良くなれたんですよー。
めちゃんこ可愛いですよ、毛並みなんかモッコモコ!
ちなみにあれから毎日、律儀に魔術媒体を持ってきてくれてます。
そんなもの要らないから断りたいんですけど、意思疎通ができないんですよね。
なので貰いっぱなしにならないように、ご飯をあげるようにしました。
最初は驚いてたみたいですけど、今はもう慣れたもんです。
頭や背中を触れるくらいになりました。
モコモコスベスベのたまんねぇ身体してやがりますよ!
貰ったマジックアイテムですけど、それは今もポッケにギッチリ詰まってます。
家に置いてくりゃいいんですが、毎回忘れちゃうんですよねぇ。
超不審者ですけど、カウンター越しだったら見えませんし。
今日の夜には忘れずに置いてきますとも。
「おぅい、アリシア」
「あ、マスター。なにかお仕事ですか?」
「領主様からご指名だ。これから館に行ってきてくれるか?」
「え、私がですか? マスターじゃなくて」
「どうやら依頼のようだが、詳細はまだ聞けてない。とりあえずお前を寄越すように頼まれた。すぐ終わるだろうから、宜しく頼むわ」
「イエス、マスター!」
領主様に直に会うなんておっかねえですが、上司の命令にノーはないのです!
せっかく手に入れたこの仕事を無くすわけにはいきませんからね。
領主様の館は街をまるで見下すように、丘の上にデェンと建ってます。
ポツンじゃなくて、デェンって感じの。
遠目から見てもその尊大さは伝わってきます。
良い噂を聞かない事も無関係じゃないでしょうね。
それにしても、もっと街中に建ててくれりゃ楽なんですがね。
あそこまで小一時間くらい歩かなきゃいけないんですよ、クッソゥ。
館に着くと、すぐに奥に通されました。
窓が多くて明るく輝く廊下を通りましたが、心は不思議と和らぎませんでした。
緊張しているせいでしょうかね。
さて、案内されたここは応接室でしょうか? 何やら悪シュミな調度品がゴロゴロしてますが。
毒々しい柄の皮が張られた椅子やら、不揃いでバランス感が気持ち悪い彫刻やら、何が良いんだか理解できない程歪んだツボとか。
それらが無造作に置かれているから、自然と不安定な気分になってきます。
それらに気を取られてしまって、しばらく気づきませんでした。
椅子には既に領主様らしき人が座っていたんですね。
毎日旨いもん食ってそうな見た目の。
「お呼びとの事で参上いたしました。冒険者ギルドのアリシアです」
「……ん」
「ご用命はご依頼と伺っておりますが、詳細の程をお聞かせいただけますでしょうか」
「……うむ」
「ご領主様?」
「街に不思議な娘がいると聞いていたが、見た目も悪くない。連れていけ」
「ハッ!」
ガシリッ
え、ちょっと!
いきなり捕縛ってなんですか。
私罪人かなにかですか、何か失礼な事やらかしました?!
あ、痛い痛い!
兵士さん、私の腕肉を挟んじゃってますって!
痛い痛い!
逃げないから離してぇー!
_______________
________
「ここで大人しく待て!」
バタン。
なぁーんか、とんでもないことになっちゃいましたね。
連れてこられたのはどこかの一室で、奥には女性の人形が3体置かれていますね。
こんな部屋を作るなんて、とことん悪趣味ですな。
この人形の精巧さと言ったら! なんてもん作らせてんですか。
お金持ちの考えることはわかんないですねー。
「あら、新しい子が来たのね」
「ハゥァアッ!」
し、心臓止まるかと思いましたよ。
人形かと思ったら生きてる人でしたか、そうですか。
無表情な上に身じろぎすらしないってだけで、みなさん人間だったんですね。
「あなたもアイツに目をつけられてしまったのね、可哀想に。もうここから出られないわよ」
「え、出られないって……どういうことですか?」
「あなたはこれから、領主に飽きられるまでお相手して、捨てられたらこんな風に監禁されるの」
「え、お相手? 監禁?」
「私たちはあの男のコレクションとしてここに飾られるの。外を出歩くことも、家族に会うことも、死ぬことすらも許されず、ただのインテリアとして」
え、酷い!
酷くない!?
酷いっすよねこれ!
「ささやかな抵抗として、みんな感情を殺しているのよ。こうでもしないと気が狂うだけだから」
「こんな、こんな事が許されるなんて!」
「馬鹿げた話だとは思うけど、現実なのよ。権力には誰も勝てないのね」
この人、凄くきれいで、そして悲しそう。
これまでにどれだけ酷い目に合わされたのか、聞かなくても察しがつきます。
あまり良い噂のない領主様でしたけど、陰でこんな事していただなんて!
そんな会話をしていると、背後のドアがガチャりと開きました。
「アリシア、領主様が御呼びだ。出ろ!」
そして私にも死刑宣告がやってきました。
これからどうなっちゃうのか、分かりきってますが考えたくありません。
私は抵抗することもなく兵士さんの後ろに続いていきます。
廊下の窓から注ぐお日様の光は、私の足元までは照らしてくれませんでした。