やはり面倒臭い私と捻くれ者の彼とはあまりにも共通点が多すぎ…… 作:無念の非リア
由比ヶ浜さんの作ったクッキー? はギリギリで食べる事が出来ました。
●ロを食べた瞬間に吐き散らして倒れたり、滝のような汗を流して顔面や全身が変色して倒れる等の漫画やアニメ見たいな事は無く、むしろ気絶できる事が以下に幸せなのかを噛み締める程に現実的な不味さでした⋯⋯。
本当に⋯⋯意識さえ無くなってくれたら⋯⋯これ以上苦行を続けずにすむのに。
あれ?
即効性の猛毒ではありませんでしたが遅効性の猛毒の疑いが出てきましたよ⋯⋯。
「うぅ〜、苦いよ不味いよ〜」
ボリボリ音を立てて齧りながら涙を流す由比ヶ浜さん。泣きたいのはコッチですよと私は睨む中、そんな彼女に雪ノ下さんは直ぐ様ティーカップを彼女に差し出しました。
「なるべく噛まずに流し込んでしまったほうがいいわ。舌に触れないように気をつけて。劇薬みたいなものだから」
うわぁ⋯⋯さらりと毒を吐きますねこの人⋯⋯。
雪ノ下さんはケトルからコポコポとお湯を注いて紅茶を淹れてくれます。
それぞれが何とか受注されたクエストをこなし、ようやく人心地が付いたので、紅茶で口直しをしつつため息を吐きました。
そんな弛緩した雰囲気の中、それを引き締めるように雪ノ下さんが口を開きます。
「さて、じゃあどうすればより良くなるか考えましょう」
「由比ヶ浜が二度と料理をしないこと」
「かねがね同意ですね⋯⋯」
「全否定された!?」
「二人とも、それは最後の解決法よ」
「それで解決しちゃうんだ!?」
驚愕したり落胆したりと、相変わらず感情の浮き沈みの激しい由比ヶ浜さん。深くため息を吐き出しながらがっくりと肩を落としました。
「やっぱりあたし料理に向いてないのかな⋯⋯。才能ってゆーの? そういうの無いし」
由比ヶ浜さんの呟きに何か気に触ったのか⋯⋯琴線に触れたのか⋯⋯雪ノ下さんは僅かに眉をピクリと動かすと、ふうっと短いながらもため息をつきました。
私はそんな雪ノ下に何か嫌な予感を感じ目を彼女から逸らします。
「⋯⋯なるほど。解決方法がわかったわ」
「どうすんだ?」
「努力あるのみ」
「それ解決方法か?」
やっぱりかと私は嫌な予感が当たった事にうへぇと顔を顰めます。
何せ私が思う限りでは努力と言うのは最低の解決方法⋯⋯。
もう気合いでどうにかするしかないとか、頑張る以外に方法は無いとか、それは逆説的に捉えればもはやそこで積んでると言う意味でしかないわけで、ハッキリ言うなら無策と言ってると同義なのです。いっそこれ以上頑張っても意味無いから諦めろ言われた方が楽なまであります。
無駄でしかない努力ほど虚しいものは無い⋯⋯。だったらせめてものここでトドメとばかりに終止符を打ってやり、その分の時間や労力のリソースを他に回した方が効率的なまであります。
「努力は立派な解決方法よ。正しいやり方をすればね」
雪ノ下さんはそんな私の考えを読み取ったかのように言います。あなたはサトリ妖怪か何かですか。
「由比ヶ浜さん。あなたさっき才能が無いって言ったわね?」
「え。あ、うん」
「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積上げた努力を想像できないから成功しないのよ」
雪ノ下さんは辛辣にそう言いました。そして、反論が出来ない程にただただ正しい⋯⋯。
由比ヶ浜さんはうっと言葉を詰まらせます。その顔には恐怖と戸惑いが浮かんでて⋯⋯まぁ⋯⋯ここまでマジレスされる経験何て普通は無いでしょうしね⋯⋯。
とはいえ由比ヶ浜さんはそんな雪ノ下さんの言葉から惚けるかのようにへらっと作り笑いを浮かべました。
「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。⋯⋯やっぱりこういうの会ってないんだよ、きっと」
そう言って由比ヶ浜さんのへへっといったハニカミ笑いが消えそうになった時でした。カタッとカップが置かれる音がしました。それは透き通った氷のようにとても物静かな音色で⋯⋯有無を言わせないとばかりにその音を立てた人物に視線が引き寄せられます。そこには冴え冴えとして怜悧な雰囲気を放つ雪ノ下さんの姿⋯⋯。
「⋯⋯その周囲に合わせようてするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
雪ノ下の口調はかなりキツかった。ハッキリとした嫌悪が滲み出ていて、これには私も「う、うわぁ」と
「⋯⋯」
由比ヶ浜さんは気圧され俯いたまま黙ってしまいました。表情こそ分かりませんが、そのスカートを握りしめる手が、私からは読み取れない彼女の心境を表してるようでした。
クラスでも派手なグループに属す彼女はきっとコミュニケーションの能力は高いのでしょう。グループでも派手なものは高い協調性や単純な容姿が必須となりますし、ただ、それは言い換えれば人に合わせてイエスマンに徹するのが上手い、つまり、他人に依存している状態だと言うことでもあります。
逆に雪ノ下さんはそれこそ頑なに自分を貫き通すタイプの人間です。その進撃は折り紙つき。孤高である事を誇りとすら振る舞う。
全くと言っていい程に正反対の二人⋯⋯。
この場でのパワーバランスで言えば雪ノ下さんの方に軍杯が上がります。正論ですし、なによりも由比ヶ浜さんが涙目ですし⋯⋯。
「か⋯⋯」
これは帰るとでも言うのでしょうか。泣き出してもおかしくないか細い頼りなげな声を漏らしながら、方を小刻みに震わせてました。
「かっこいい」
「「「は?」」」
由比ヶ浜を覗くこの場にいる全員の声が重なり、3人して顔を見合わせてしまいました。多分この瞬間だけは
「建前とか全然言わないんだ⋯⋯。なんて言うか、」
雪ノ下さんは表情を強張らせ二歩ほど後ずさりしました。そんな雪ノ下さんを由比ヶ浜さんは熱っぽい表情で雪ノ下さんをじっと見詰めていました。
「な、何を言ってるのかしらこの子⋯⋯。話聞いていた? 私、これでも結構きついことを言ったつもりなのだけれど」
「そうですね⋯⋯私も由比ヶ浜さんがドMなのではと思うくらいですし⋯⋯」
「ううん! そんなことない! あ、いや確かに言葉は酷かったし、ぶっちゃけ軽く引いたけど⋯⋯てかヒキタンドMって酷いし!」
うん、まぁそうですね。何となく雪ノ下さんは言うとは思いましたが、あそこまで過激になるとは思いませんでしたし⋯⋯。私もかなりドン引きしてましたしね⋯⋯。とはいえ由比ヶ浜さんはそれでもただ引いてた訳では無かったようで⋯⋯。
「でも、本音って感じがしたの。ヒッキーやヒキタンと話してる時も、かなり酷いけどちゃんと話してる。あたし、人に合わせてばっかだから、こういうの初めてで⋯⋯」
由比ヶ浜さんは逃げなかった。
「ごめん。次はちゃんとやる」
謝ってからまっすぐに雪ノ下さんを見つめ返す⋯⋯。
逆に雪ノ下さんは予想外とばかりに言葉を失った。
「⋯⋯」
まぁ仕方は無いとは思う⋯⋯マジレスされて、それを受け止めた上で謝罪してくる人間なんてかなり希少だ。普通は腹立てて逆ギレしますしね。
雪ノ下さんはふいっと視線を横に流して、手ぐしで髪を払う。何を言うべきか分からないと言った感じだ。雪ノ下さんって、アドリブがものすごくヨワヨワなんですね⋯⋯。
「⋯⋯正しいやり方ってのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんと言う事を聞け」
そんな二人の無言を壊すように
「1度お手本を見せるから、その遠りにやって見て」
そう言って立ち上がると雪ノ下さんは手早く準備を始めます。
ブラウスの袖を捲り、卵を割って、掻き混ぜる。ちゃんと分量を測った上で小麦粉をふるいにかけてダマにならないように溶いていく。さらに、砂糖、バター、バニラエッセンス等の材料を加えていきます。
ハッキリ言って由比ヶ浜さんと比べられないレベルです。
気が付けばあっという間にオーブンの鉄板には既にシートを引いて、生地は出来あがり、星や丸やハートと言った型抜きで抜いたのを慎重にのせ、予熱してあったオーブンにIN。
しばらくすれば、クッキーの良い香りがしてきました。
下準備も完璧なので結果はもはや見えていると言っても過言では無い。
そして焼きあがったクッキーは素晴らしいの一言に尽きた。
それをお皿に移すと、雪ノ下さんはすっと差し出して来ました。
綺麗なそれはまさにお店に出しても違和感が無いほどで⋯⋯私達はありがたく頂戴する。
1つ手に取って口に入れれば、自然と頬が緩みました。
「「うまっお前《雪ノ下さん》何色パティシエールだよっ《なんですかっ》!?」」
正直な感想が盛れました。
てか
「本当に美味しい⋯⋯雪ノ下さんすごい」
「ありがとう」
雪ノ下さんは毒を吐くでも無く微笑みました。
「でもね、レシピに忠実に作っただけなの。だから、由比ヶ浜にもきっと同じように作れるわ。むしろできなかったらどうかしてると思うわ」
「もうこれ渡しときゃいいんじゃねーの」
「それじゃ意味無いでしょう。さ、由比ヶ浜さん。頑張りましょう」
「う、うん。⋯⋯本当に出来るかな? あたしにも雪ノ下さんみたいなクッキー作れる」
「ええ。レシピ通りにやればね」
雪ノ下さんはしっかりと忘れずに、釘をさします。
そして、由比ヶ浜さんによるリベンジが始まりました。
先程の雪ノ下さんの焼き直しのように同じ挙動、同じ工程を取り、焼き直しをしますクッキーだけに⋯⋯。
できあがるクッキーもそれなりに美味しい事でしょう⋯⋯うまいこと言いましたし。
それなりに⋯⋯ですが⋯⋯。
「由比ヶ浜さんそうじゃなくて粉を振るう時はもっと円を書くように。円よ円。わかる? ちゃんと小学校ッで習った?」
「掻き混ぜる時にちゃんとボウルを押さえて。ボウルごと回転してるから、全然混ざってないから。回すんじゃなくて切るように動かすの」
「違うの、違うのよ。隠し味はいいの、桃缶とか今度にしましょう。そんな水分入れたら生地が死ぬわ。死地になるわ」
雪ノ下さんが、目を回すと形容出来るレベルで混乱して、疲弊しました。
それも⋯⋯どうにか生地をオーブンに入れた当たりで額等から汗を流し、息絶え絶えになる程に⋯⋯。
やがてオーブンが開かれ、先程とよく似た匂いが立ち込めました。ですが⋯⋯。
「なんか違う⋯⋯」
食べ比べてみればそれは雪ノ下さんとは一目瞭然で、由比ヶ浜さんはしょんぼりと肩を落としました。
ですが先程の
とはいえそれでも由比ヶ浜と雪ノ下さんはどこか不服なようで⋯⋯。
「⋯⋯どう教えれば伝わるかしら?」
その様子を見ながらふと思ったんですが⋯⋯もしかし雪ノ下さんは、人に教えるのが滅茶苦茶下手くそなのでは⋯⋯。
簡単に言ってしまえば、雪ノ下さんは完璧超人過ぎて、自分が出来るんだから相手も出来ると考えてしまう⋯⋯。
だから相手が何で出来ないのかが分からないのです。
レシピ通りに作ると言うは、例えるなら数学で言う所の公式に当て嵌めるようなもの⋯⋯。
ですが数学が全く分からない人から見ればその公式そのものがまず理解出来ない、どうしてこの方程式でこの答えになるのか、そもそも方程式のπ、√、χ、γ等の記号の意味すら分からないまである。
雪ノ下さんから見れば、由比ヶ浜さんがなぜ分からないのかが分からないのでしょう。
とはいえこう言うと雪ノ下さんが悪いように見えますが、あえて言わせてもらいますがそうではありません。
むしろ雪ノ下さんは頑張った方です。
問題なのはむしろ由比ヶ浜さんの方⋯⋯。
「なんでうまくいかないのかなぁ⋯⋯。言われた通りにやってるのに」
心底不思議そうな顔で由比ヶ浜さんはクッキーを取ります。
本当に頭がいい人なら教えるのも上手い何てのは、正直いって間違ってます。
何故なら本当に残念な人は、どんなに教えるのが上手い人でも無理なものは無理⋯⋯。
何度繰り返してもその溝は埋まらない⋯⋯。
いや⋯⋯まぁ数十年単位で毎日欠かさず地道に努力したり、学校に来ることをやめて、数ヶ月間、一分一秒の時間も惜しまずただひたすらその作業のみに捧げれば埋まるかも知れませんが⋯⋯。
まぁ⋯⋯常人じゃほぼ不可能でしょう。
「うーん、やっぱり雪ノ下さんのと違う」
由比ヶ浜さんが落ち込み、雪ノ下さんが頭を抱える中、私と
「あのさぁ、さっきから思ってたんだけど、何でお前らうまいクッキー作ろうとしてんの?」
「はぁ?」
口を開こうとしてたら|比企谷さんが私が言いたかった事を先に言ってしまいました。
とはいえ由比ヶ浜さんは「コイツ何言ってんの? 童帝」みたいな顔で
「お前、ビッチの癖に何も分かって無いの? バカなの?」
「だからビッチ言うなっつーの!」
「男心がまるで分かって無いのな」
「し、仕方ないでしょ! 付き合った事なんてないんだから! そ、っそりゃ友達にはつ、付き合ってる子とか結構いるけど⋯⋯そ、そういう子たちに合わせてたらこうなってたし⋯⋯」
由比ヶ浜さんの声は見る間に小さくなっていき、もう微かにしか聞き取れない。乙女か! てか拗らせすぎじゃないですか?
「別に由比ヶ浜さんの下半身事情はどうでもいいのだけれど、結局、
や下半身事情って。その単語⋯⋯最近の電車の中吊り広告でも見かけないですよ⋯⋯。本当に高校生ですか?
「いや⋯⋯私もよく比企谷さんと思考が似通ってる言われてるだけあって何となく分かる気はしますが⋯⋯一応聞いても言いでしょうか?」
私もそんな風に
対する比企谷さんは勝ち誇ったようなドヤ顔をして来ました⋯⋯何ですかそのウザッたい顔⋯⋯マジで腹立つわぁ⋯⋯。
「フゥー、どうやらオタクらは本当の手作りクッキーを食べた事が無いと見える。10分後、ここえきてください。俺が〝本当〟の手作りクッキーって奴を食べさせてやりますよ」
「何ですって⋯⋯。上等じゃない。楽しみにしてるわ!」
由比ヶ浜さんは自分のクッキーが否定されて腹を立てたのか、そう言って廊下へと私と雪ノ下さんを引っ張って行きました。
いや⋯⋯まぁ⋯⋯比企谷さんの事ですし⋯⋯ここから勝負は俺のターン。つまり究極の悩み相談と至高の悩み相談の頂上決戦だとか考えながら、由比ヶ浜さんのクッキーを皿にでも並べ直してるんでしょうが⋯⋯。