こうして小説を投稿するのは初めての経験です。
頭の中で色々妄想していたことをどうにかして形にしてみたくて、書いてみました。
読みにくい文だとは思いますが、どうか最後までお付き合いください。
高浪春は、古い喫茶店でただ時間を潰していた。
今日は土曜日で本来ならば仕事があるのだが、高浪には職場にいったところでやる仕事がない。
かといって家にいてただ寝て過ごすのも不健康だ。
だからいつもこうして町をほっつきあるいて、昼頃にこの喫茶店に入る。
今日は既に食事を終えて、新聞を読んでいた。
"竹島問題 国際司法裁判所に共同提訴"
政府は、10日の李明博大統領の竹島上陸への対抗措置として、竹島の領有権問題について国際司法裁判所に共同提訴することを韓国へ正式に提案した。同様の提案は過去にも3度あり、今回は初めて実際の提訴に至ると見られるが、韓国の拒否により日本の単独提訴となって裁判そのものは実現しない見通し。
"新型新幹線 浜松でお披露目"
東海道新幹線の新型車両N700Aが浜松工場で公開された。現行の主力車両N700系と外観はほぼ変わらないが、ブレーキ改良による災害時の急停車への対応、照明にLEDを採用することによる環境・快適性への配慮、定速走行装置を搭載することによるダイヤの効率化など、各種の改善が施された。
新聞に書かれた出来事をすべて頭に叩き込む。
高浪の職業柄、些細な事柄が命取りになりえる。
だから常に勉強をして新しいことを覚え、忘れないようにする。
子供のころにそう教わった、いや、そう教え込まれたというべきだろうか。
どちらにせよ、高波はただ黙々と目の前の文字を知識に変換していった。
喫茶店の入り口からカランカランと音が聞こえた。
ふと入り口を見ると、20代後半くらいの男が店内を見渡していた。
高浪と男の目が合った。
すると男は高浪とは反対方向へ歩き、空いている席についた。
「マスター」
男が少し大きな声で店主を呼び出し、店主が席に近づくと「玉子サンドとコーヒーを」と短く注文した。
店主が無言で奥へ引っ込むと、高浪は席を軽く片付け、そそくさと店を出てすぐに走り出した。
喫茶店のある裏路地を走り抜けて少し開けたところにある空き地に止まったトヨタ メガクルーザーの後席に乗り込んだ。
既にエンジンはかかっていて、前には私服の若い男が二人のっていて、隣の席には前の二人より少し年を取った男が座っていた。
「出せ」
隣の男が低い声で言う。
ルームミラー越しに高浪がシートベルトをしたことを確認した運転手が、車を発進させる。
「なぁ、普通に携帯で呼び出せばいいだろ?」
高浪が隣の男に話しかける。
木村一等海曹、高浪の上官の男がめんどくさそうに「俺に言うな」と答えた。
「で?どこで何があった?」
高浪が聞く
「東海道新幹線の車両がジャックされました、犯行グループは小銃などを所持しているようです。」
助手席に座っていた男が答えた。
「要求は?」
高浪が返す。
「去年起きた警察官の不祥事についての謝罪と賠償だそうです」
「警察の不祥事?」
警察官が不祥事を起こすことは別に珍しいことではない。
しかし、それらはほとんど大規模な問題になるほどの事ではない。
ましてやテロ行為を誘発するほどの事件であればマスコミが真っ先に嗅ぎ付けて、大炎上させていることだろう。
だが、高浪には思い当たる節がなかった。
「3月の震災の時に混乱に乗じて警察官が女性に集団暴行したとのことです」
「そんな事件あったか?」
「いえ、ありません、どうも良くできたブログ記事が原因のようで……それが正義感に燃える大学生を動かしたのでしょう」
運転手が答える。
少し走ったところで高速道路に乗り、若干速度超過気味に走り抜けて行く。
こんな運転で覆面パトカーに捕まらないか?自衛官が任務中に交通事故何て洒落にならんぞ、などと考えていると木村が膝にのせたノートパソコンで、問題のブログを見せてきた。
「またか……日本の大学生はみんな馬鹿なのか?」
そのブログは確かに良くできたものだった。
事実の中に巧妙に紛れ込ませた嘘の文に、おそらく合成であろう写真数枚。
高浪にはこの文体に見覚えがあった。
先月の事だ、大学構内でオウム真理教に影響された学生が拳銃と手製の爆弾で政府に麻原彰晃の開放を求めた。
すぐに警察が鎮圧したらしいが、それも事の発端はブログ記事だった。
事件直後に新聞に載っていた文体に非常によく似ていたからだ。
「俺達も調べてる途中だが、どうも子供に危ないおもちゃを配ってる連中がいるらしい、全く勘弁してくれ」
木村が心底困った様子で、ため息混じりに答える。
「で?なぜ俺が呼ばれた?」
本来であれば先月の事件のように警察が解決するべき問題で、高浪が呼ばれるような事件ではない。
「反抗グループが小銃を所持していることと、トレインジャックの性質上突入が困難であることから、警察力では対処できないとのことです」
「特戦群で何とかならないのか?」
特殊作戦群、通称特戦群は陸上自衛隊の特殊部隊で、対テロ作戦であれば通常この部隊が対応する。
警察が対処できなくても、本来高波が出向く案件ではないのだ。
「走行中の新幹線だ、大規模の部隊が突入するには車両を停止させる必要がある……とにかくだ、仕事なんだから文句垂れるな」
文句の多い高波にいら立ったのか語気を荒くした木村。
「はぁ……わかった、で?作戦は?」
そう聞いた時、上空を迷彩柄のヘリがその回転翼と二つのターボシャフトエンジンから町中の窓ガラスが割れそうなほどの爆音を放ち、猛スピードで飛んで行った。
「細かいことはあん中でヤツに聞け」
「久しぶりだなぁマジシャン」
ヘリコプターの機内では、そのエンジン音でほとんど会話が聞こえない。
それはこのUH-60JAに詰め込まれた男たちも同様で、高浪のヘッドセットからは向かいに座る男の、よく知った声がしていた。
「高橋一佐、やっぱりあんたか」
高浪が悪態をつきながら答えた。
ヘリに乗っていたのはよく見知った顔だった。
「まあまあ、そう嫌な顔をするな」
高橋銀次郎、階級は一等海佐。
飄々として、真面目なのかふざけているのかわからないような男だ。
高橋のせいで何度も危険な目に遭っている高浪はこの男が気にいらなかった
「で?今回はどんなスンバらしい作戦に参加させてくれるんだ?」
高波が皮肉たっぷりに聞く。
「最近仕事がなくて退屈そうだったからな、今日は飛び切りエキサイティングな作戦だ、おいあれを持ってこい」
高橋が隣の男にパソコンを持ってこさせて、高波に渡した。
「最近マックブックからタフブックに変えたんだ、かなり高かったが」
高橋が渡されたパソコンを眺めるように掲げ、高浪に自慢する。
「いいから作戦を説明しろ」
それにイラついた高波が食い気味に聞いた。
「話は最後まできくもんだぞ、作戦開始地点は浜松駅を過ぎて二つ目のトンネルだ、今はそこに向かってる」
渡されたパナソニックのタフブックの画面に表示されたマップに赤いピンが刺さっている
「そこから線路にベニヤ板が敷き詰められている」
「ベニヤ板?」
マップがズームして、下り線路に赤い矢印が上り方向に引かれる。
「そうだ、新幹線が来たら君にはバイクでそれを追いかけてもらう」
「……は?」
嫌な予感がした。
「ちょっと待て、まさかバイクで新幹線を追走して飛び乗れとでも?」
回答は聞くまでもなかった。
この男はいつもそうだ、毎回無茶な作戦を立案してくる。
「その通りだ、理解が早くてたすかる」
「……………………はぁ」
高浪が心の底からため息をはく。
「続けるぞ、現地に着いたら君はラぺリング降下、新幹線が来たらバイクで並走、ドアを破壊し先頭車両に飛び乗ってくれ、心配するな切符は要らん」
この男は淡々ととんでもないことを言ってきた。
「で?敵を全滅させればいいのか?」
「いや、それは特戦群にやらせる、君は車両を止めるだけでいい」
マップに黄色の丸が付けられた。
「この丸の位置に特戦群が待機している、特戦群は車両が停止したらドアを破壊して乗り込み、各車両を制圧する。」
マップウインドウが閉じて、新幹線の詳細が表示される。
「作戦時間は30分、新幹線に乗ってからは25分しかない、それまでに君は先頭車両を制圧し運転手を確保、指定した位置で車両を停止、失敗は許されないが……まぁ君なら余裕だな」
「はぁ……で?あとどれくらいで着く?着いてからはどれくらい余裕があるんだ?」
「そうだな、あと8分くらいで着くだろう、ついてからは……20分程度じゃないかな、カップラーメンを作るなら今のうちだぞ?」
高橋が腕時計を見ながら答えた。
「わかった、装備はどこだ?着替える」
「そうしてくれ、おい高波に装備を」
さっきタフブックを渡してきた男が黒いジャケットを渡してきた。
「装備一式です、アーマーは拳銃弾まで耐えます」
高波が上からジャケットを羽織ると今度はボディーアーマーを渡してきた。
「武器は消音拳銃、閃光手榴弾、コンバットナイフが入ってます、あと現地で九ミリ機関拳銃を用意してます」
「スタームルガーMk2だ、サプレッサー内臓式でモデルガン位の音しかしない、それからファーストエイドキットとブリーチングツールはそこのバックパックに入ってる」
高橋が顎で奥にあるバックパックを指しながら喉の振動を拾うスロートマイクと、それに繋がった無線機を渡してきた。
「我々はこれで君をサポートする」
無線機を受け取って背中のラジオポーチに突っ込み、喉にスロートマイクを巻く。
若干の息苦しさを感じながらマイクと同じコードから伸びたイヤホンを左耳へ押し込む。
「一佐、トンネルが見えました」
ヘッドセットからコパイ声がした。
外を見るとトンネルから線路が二本伸びていた。
そのうち片方はベニヤ板が敷かれていて、その周りを緑の男たちがせわしなく動いていた。
「うむ、よし高波、ようやく出番だ、しっかり働いてこい!」
高橋が席を立って勢いよくドアを開けた。
高波がドアの前に立ちロープをつかんだ。
「ボーナスは弾んでもらうぞ」
高橋をにらみつけた後、高波は眼下に消えて行った。
ヘリに乗った男の一人が機体のドアから身を乗り出して下を確認する。
男はそのまま外に足を投げ出すようにヘリの床に座りドアガンとして取り付けられた七四式車載機関銃のハンドルを握った。
それを見た高橋が高浪が異常なく現地入りしたことを確認し、ヘッドセットのマイクに呼び掛けた。
「マジシャンがステージに上がった、観客は席につき、来賓はVIP席に行く。」
それを聞いたパイロットは機体を上昇させ、来た方角とは逆の方角へ舵を切った。
「マジシャンだな?俺はセレリオだ、早速だが準備をしてくれ」
着地するとすぐに目出し帽をかぶった男が歩いてきた、腰には9ミリ機関拳銃がぶら下がっている。
こっちだと言って歩き始めたセレリオに続いて、ベニヤ板の上を歩く。
「車両はn700系、十六両編成だ、敵の数は不明、乗客は一部解放され残りは女と子供しか居ないらしい」
東海道新幹線の座席数は1323席ある、それだけの人数がいれば犯行グループだけでは目の届かないところが出てくる可能性がある。
降ろした客を男だけにしたことも、脅威度の高いものを排除することと、政府やマスコミに対する心理的効果を期待してのことだろう。
なるほど、きちんと考えられている作戦だ。
「奴ら、頭はいいようだな」
「どうかな、本当に賢いヤツなら俺たちに喧嘩を売ったりしない」
セレリオが鼻で笑うように言う。
「コースは約1890メートルある、ただし、1194メートル地点から280メートル緩やかな左カーブがある、そこを抜けたらまた直線だ」
説明しながら歩くセレリオがトンネルに入って行く。
いくつかの簡単な照明に照らされたトンネルにはセレリオと同じような格好をした男が五人ほどいて、そのうち三人ほどがオートバイを囲んでいた。
「マジシャン、これで車両を追いかけてもらう」
マッシブなタンク回りに巨大なダブルアップマフラー、そして後付けのスーパーチャージャー。
二色のグレーで迷彩塗装されているそのオートバイ、"B-king"は高波がよく知るものだった。
「……おい、このバイクどっから持ってきた」
「ん?作戦立案者が用意したと聞いたが……このバイクじゃまずいのか?」
深刻な顔で食い入るように見る高波にセレリオが聞いた。
「いや、少し自分の上官を殴りたくなっただけだ」
高浪が今の率直な気持ちを表に出した。
「は?」
「いや?別にこのバイクが俺の私物だとか、そんなことは決してないぞ?」
高浪がまたもあの男に嫌味たっぷりに吐き出した。
無線機の電源はまだ入っていないので、高橋には一切聞こえていない。
「……そうか、まぁ、時間がない、とにかく準備してくれ」
そういったセレリオは「お前の分だ」と九ミリ機関拳銃を渡して、トンネルの外へ出て行った。
渡された九ミリ機関拳銃は大型のサプレッサーが取り付けられていて、本来ならば銃身下部にあるフォアグリップが切り飛ばされていた。
一緒に渡されたマガジン三本のうち二本をアーマーのポーチに入れ、残ったマガジンを九ミリ機関拳銃にさしてチャージングハンドルを引いた。
弾が正常に薬室に入ったのを確認してホルスターに突っ込んだ。
「異常は?」
B-kingを囲んでいた一人が聞いてきた。
「ない」
「わかった、ターゲットが豊橋駅を通過した、そろそろ来るぞ」
「わかった」
それを聞いた高浪は高浪はグレーのフルフェイスヘルメットを被ってB-kingに跨がった。
サイドスタンドをはらって特戦群の指示する場所へ移動する。
「消灯!」
セレリオの号令でトンネル内の全ての証明が落ちた。
背中につけた無線機のスイッチを押して電源をいれる。
「あー、マジシャン エノク、聞こえてるか?オーバー」
喉のマイクに向かって自身のコードネームと高橋のコードネームを吹き込む。
(エノク マジシャン、良好だ、送れ)
左耳のイヤホンから若干のノイズが混じった高橋の声がする。
ヘルメットのスモークシールドを閉めて、大きく深呼吸を、そして目をつぶって集中する。
新幹線に並走して飛び乗る、たったそれだけだ、俺とB-kingなら出来る。
大丈夫だ、いつも通り落ち着いてやればいい。
ゆっくり目を開いて、前を見る。
「マジシャン エノク、B-kingの修理費はお前に出してもらうからな、アウト」
セルスイッチを押してエンジンに火を入れて、少しあおる。
背後からブォオオオンというまさにキングにふさわしい低い咆哮が聞こえる、エンジンは快調だ。
「ターゲット接近!状況開始!」
後ろからセレリオの怒号が聞こえる。
ギアを一速に入れてクラッチレバーを握る
B-kingのスロットルを一気に捻る。
タコメーターの針がが一気にレッドゾーン手前まで移動し、ひときわ大きな咆哮を放つ。
「ターゲット視認!」
サイドミラーに新幹線のヘッドライトが写った。
次の瞬間、轟音と共に強い風が吹き、車体が左にあおられる。
それを合図にクラッチを繋ぎ、後輪に動力を伝える。
前輪が浮き上がるのを無理矢理押さえ込んで発進、すぐにトンネルを抜けて外に出る。
一気に吹け上がるタコメータに合わせて、ギアを二速、三速とあげて行く。
スーパーチャージャーのキュイーンとい爽快な音と共に、スピードメーターが100、150、200と目まぐるしく数字を変える。
ちらっと横を見る。
まだ五両目に追い付いたところだ。
B-kingはまだ加速している。
だが前方にはすでにカーブが迫っていた。
アクセルを少し戻して、体を左に加重し、車体を寝かす。
左足を出して、膝を地面に擦り付けるように曲がる。
しかしレーシング走行をすることを想定していないB-kingでは深く寝かし込むことができずに、右へ大きく膨らんでしまう。
カーブを抜けた時にはすでに二車両分も離されてしまった。
残る直線は400メートルも無い。
アクセルを一気にひねり、タコメーターの針がレッドゾーンを示した。
エンジンとスーパーチャージャーが巨大な唸りをあげる。
残り300メートル。
エンジンはさらに回転をあげて、タコメーターが振り切った。
スピードメーターはすでに299の表示をだし、数えることをやめている。
残り200メートル。
このままではまずい。
その事は容易に判断できた。
B-kingのエンジンはすでに最大出力に到達していて、これ以上は加速できない。
しかし隣を走る新幹線との距離はじわじわとしか縮まらず、おそらく追い付くにはあと800mは必要だ。
残り100メートル。
隣にあるのはまだ四両目。
作戦では乗り込むのは一両目だ。
しかしそもそも乗り込むことができなければ、それ以上何もすることが出来なくなる。
残り50メートル。
高浪は左腰のホルスターから左手で九ミリ機関拳銃を抜き、四両目のドアに向けて乱射した。
ドアに九ミリパラベラム弾がカン、カン、と音をたてながら吸い込まれて行き、ミシン目のように穴が開いた。
そのままハンドルを切らずに体重移動だけでB-kingをドアに寄せ、持ちうるすべての力を右足に込めてドアを蹴破る。
ガランガランと音をたててドアの一部が吹き飛び、なんとか人が通れるほどの穴が開いた。
残り10メートル。
蹴った反動で大きくよろめいたB-kingを立て直す暇もなく、高浪は両足でB-kingを蹴り飛ばす様にとんだ後、背中を丸め体育座りのような体制で背中からドアの穴に飛び込んだ
景色がコンクリートと緑が混じった炎天下から、無機質なグレーや白に変わるのを見ながら、空中で体を捻って向きを変える。
ゆっくりとスローモーションのように回っていく車内の景色の中で異質な人間を見つけた。
五号車と四号車を繋ぐ通路に立っていた目出し帽を被った男が額に驚愕の二文字でも書いてあるかのような驚いた目でこちらを見ていた。
男と目があった高浪はそのまま男の首もとをつかみ、顔面から床に叩きつけながら着地した。
高浪はすぐに引き倒した男が起き上がれないように足で組敷き、弾のきれた九ミリ機関拳銃の代わりに右のホルスターからルガーMk.2を引き抜き、四号車を見る。
走行中に突入してくる事を考えてすらいなかったであろう目出し帽の男達が二人、混乱した様子で立っていた。
高浪がルガーMk.2を横にかまえ、引き金を引く。
それに連動して作動したファイアリングピンが.22ロングライフル弾の底部を叩き、炸裂した火薬が弾頭を瞬時に、かつ静かに銃身の外に吐き出した。
ストレートブローバック方式のボルトが後退し、銃の右側面から空薬莢を飛ばす。
それと同時に反動で銃口が左へ跳ね上がる。
ボルトが再び前進し、カチャンと軽い金属音をたて、次の弾が装填される。
銃口の跳ね上がりを利用してもう一人の男の頭に照準をあわせて、もう一度引き金を引く。
後ろを振り返る。
五号車の端に右腕でAK-47自動小銃を構えた男が見える。
男が持ったAKが安全装置がかかっていることが見えた高浪は、素人だな、などと考えている内に右腕が自然に男の頭を撃ち抜いていた。
男がドッと鈍い音を立てて床に倒れる。
急に視界が加速して、今までスローモーションだった景色が元に戻る。
四号車の男たちは目出し帽を真っ赤に染めあげ、床に水溜まりを作っていた。
「くそっ、離せ!」
脚の下で男がもがく。
「黙れ!」
高浪が普段出さない低い声で威嚇し、背中にルガーMk.2を押し付ける。
男は「ひっ」と小さな声をあげた後、怯える犬のようになり動かなくなった。
高浪は左手にもっていた九ミリ機関拳銃を一度ホルスターに戻し、マガジンを引き抜く。
それを腰のダンプポーチに投げ込み腹部につけたマガジンポーチから新しいマガジンを抜き、口を開けた九ミリ機関拳銃のグリップ部に差し込んだ。
小指と薬指で銃上面のチャージングハンドルを引き、初弾を込める。
暑苦しく動きにくいヘルメットを脱ぎ捨て、腰の無線機に手をかけて通話スイッチを押す。
「あーエノク、突入は失敗した、お前の用意した切符は4号車だったみたいだな、オーバー」
(ああ、こちらでも確認している、車内の現状は?送れ)
「今四号車と五号車の間にいる、敵の数は四、内三人を殺し、一人を無力化した、人質の姿は無い、武器は、あー、ガバメントだな、それとAK-4……いやAKMだ」
回りを見渡して現状を報告する。
床に転がっている武器を報告し、脚の下の男が着ている服のポケットを漁る。
「所持品は……特に無いな、特小と替えのマガジンが数本だけだ、オーバー」
(わかった、敵の人数と人質の場所はわかるか?送れ)
「聞いてみよう、アウト」
無線のスイッチから指を離し、通話を終了する。
今まで話していた右手の人差し指をルガーMk.2の引き金に掛けて立ち上がり、脚で男を仰向けに転がす。
「おいお前、仲間は何人いる?」
高浪が殺気を丸出しにした低い声で聞く。
男はこっちを見て薄ら笑いを浮かべ、「さあな」と答えた。
それを見て、まあそうだろうなと思いながら、とりあえず高浪は男の腹を右足で強く踏みつけた。
男が「おえっ」と悲鳴をあげた後、ごほごほとむせながら腹を抱え込み横向きにうずくまる。
それを高浪は再び脚で仰向けに押さえつけて、さっきよりも冷たい目で男に「仲間は何人だ」と聞く。
「おいお前、警察がこんなことしていいのか?お偉方の不祥事を隠すために三人も殺して、挙げ句暴行ときた正義の味方が聞いてあきれる、後で警視総監が土下座するはめになるぞ」
男が、苦しげな笑みを浮かべて答えた。
それを興味無さそうに聞いた高浪は、しゃがみこみ男に顔を近づけた。
「悪いが俺は警察官でも正義の味方でもない」
左胸に吊るしてある鞘からコンバットナイフを引き抜き、男の左足に突き刺す。
男が悲鳴をあげて暴れる。
しかし暴れれば暴れるほど傷は広がり、ズボンを血で染め上げる。
「俺は殺し屋だ、お前ら専門のな」
高浪が冷たく吐く。
「じゅ、二十人だ、各車両に一人づつ、余ったヤツは全体の巡回だ、そこで死んでるやつらもそうだ」
容赦の無い高浪には抵抗するだけ無駄だとようやく気づいたのか、男がペラペラと喋りだした。
「一人足りないぞ」
「運転席だ、そこで運転手を見張ってる」
「人質は?」
「三号車と十号車、あと十六号車にまとめてる」
男がさっきとは違う青ざめた顔で冷や汗をかきながら答えた。
反抗期の若者を素直にさせるならこの手に限る。
高浪は男の胸ぐらをつかんで座らせたあと、男の背後に回った。
そして、「協力感謝する」とだけ告げた後、両腕を使って男の首を絞めた。
男が腕の中で苦しげにわめき、腕や脚を振り回して抵抗するが、やがて動かなくなった。
だらんと垂れた男の腕を背中に回し、背中のバックパックから簡易手錠を取り出し、男の腕にはめて、そこらに適当に転がしておく。
右手でポーチの蓋を絞めながら無線のスイッチを入れ、高橋に今聞いたことを伝える。
「あーエノク、敵は十九人、今四人倒したからあと十六人だ、人質は三、十、十六号車にまとめて居るらしい、オーバー」
(わかった、作戦はこのまま続けてくれ、君は一号車を目指すんだ、そこで運転手を確保して、あとは特戦群だ、できるな?送れ)
無線の向こう側の高橋の声を聞きながらそういえば「敵は出来るだけ殺すな」と言われていたことを思い出す。
「了解、アウト」
短く返事をして交信を終わり、ルガーMk.2を一度ホルスターに戻す。
再びバックパックを開き、メディカルポーチを取り出す。
中から止血剤を取り出し、袋を破っていまだ血を吐き続ける男の脚に振りかける。
袋のごみをダンプポーチに放り込み、脚に刺さったままのナイフを引っこ抜き、適当に包帯を巻き付ける。
血がべっとりとついたナイフの刃を、男の服で拭い鞘に戻す。
再びルガーMk.2に手をかける。
ルガーMk.2の装弾数は十発、そのうち三発を使用したので残りは七発、戦闘継続には問題ないが、念のためとマガジンを引き抜き、新しいマガジンを挿入する。
薬室にはすでに弾が入っているので、スライドを引かずにルガーMk.2を引き抜き、三号車のドアに向かう。
ドアを静かに開け、三号車との通路に入り、ドアの窓から中の様子を伺う。
向こうを向いた椅子の群れに座る黒髪の頭たち。
その頭たちに挟まれた通路には、やはり目出し帽を被った男が居た。
腰にはリボルバー拳銃が挿してある。
男は奥にもう一人居る男に命令しているようだった。
閃光手榴弾を投げ込み、一気に制圧したいところだが、きょうれつな音と光で麻痺させる閃光手榴弾は、人質の子供や老人の前では迂闊に使えない。
ドアの向こうでは子供の泣き声が鳴り響いている。
突然ダンッと音が聞こえた。
ひときわ大きな悲鳴が木霊する。
そのなかには女性の名前を呼び、泣き叫ぶ声も聞こえた。
「腐った体勢の犬よ、お前達のご主人のせいで尊き命が失われた」
男がそう言ったあと、鈍い音と共に女性が床に投げられた、腹部には血がにじんでいる。
「10分後にまた連絡する、懸命な判断を期待する」
男は冷たい声で告げる。
(マジシャン、人質が一人撃たれた、送れ)
左耳のイヤホンから高橋の声が聞こえた。
男たちは今の出来事を政府に向けて発信していたようで、奥の男がノートパソコンのようなものを持っているのが見えた。
「こっちでも確認した、突入がばれたか?オーバー」
(いや、その様子はない、今人質を撃ったのがリーダーのようだ、あいつは殺すなよ、送れ)
「善処する、オーバー」
(予定したポイントまであまり時間がない、急いでくれ、終わり)
高橋が交信を終わる。
ドアの窓からは、奥に居た男がこっちに歩いてくるのが見えた。
まずい、高浪は近くのトイレに逃げ込み、男が通るのを待った。
男がカツカツと靴をならしながら歩いてくる。
トイレのドアの隙間から、男が一瞬だけ見える。
その瞬間にトイレから飛び出し、後ろから男の首にナイフを突き刺す。
血がびちゃびちゃと吹き出すのを見ながら、男をトイレに隠す。
再び三号車へのドアに張り付き、中を覗く。
男はまだ向こうを向いている。
いまだ、高浪はドアを勢い良くあけ、三号車へ入る。
「動くな!」
男にルガーMk.2を向ける。
男は驚いた顔でこっちを見た。
男の左足にナイフがくくりつけてある。
「武器を捨て、両手を頭の後ろに回せ!」
男はこっちを睨み付けながら、肩に釣ったAKMをゆっくりと下ろす、足元にAKMを置き、男は頭に手を回す。
「ナイフもだ!」
男は両手を下げ、左手でナイフを抜き、床に置く。
両腕がゆっくりと上がっていく。
が、腰辺りにきた所で右手が背中に回った。
男は背中から拳銃を引き抜き、腰の横で構え引き金に指をかけた。
その事を想定していた高浪は、冷静に狙いをつけ、M29をルガーMk.2で弾き飛ばす。
キューンという金属音の後、拳銃はガチャと音を立て床に落ち、男が「なっ」と声をあげ右手を押さえる。
「ダーティハリーでも見たか?M29は素人が使うもんじゃない、次は"お前の頭をきれいに吹き飛ばすぞ"」
男は放心したような顔でこっちを見ていたが、すぐに発狂したかのように叫びだした。
「正義だ!俺たちは正義だ!正しいことをしている!そうだ!悪いのはお前たちだ!お前達せいで理恵は!」
高浪は自我を失い暴走した男に、今だとばかりに飛び込み、背中から羽交い締めにする。
「正義?こんなに人を巻き込んで良くそんなことが言えるな!」
高浪が首を絞めながら男に問いかける。
「正義に犠牲は付き物だ」
男が苦しそうに答える。
「じゃあそのリエとやらも正義の犠牲なんじゃないのか!?」
高浪が反論する。
男はそれに答える前に気絶していた。
はい、どうでしょうか?
ちなみにこれ書き上げるのに相当時間がかかってるので、第二話が投稿できる頃には皆様の記憶に一話が残ってないかもしれません(笑)
話の大筋はもう既に出来ているのですが、肉付けにいつも時間がかかってしまいます。
ちなみに、タイトルの「陽動」ですが、二話を読めば意味がわかるかと思います。
第2話が投稿されるまで、タイトルの意味を考えてみてくださいね(笑)