Anchor   作:クラウンローチ

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第二話 雨と記憶

どこか遠くでヘリコプターでも飛んでいるのだろうか、バラバラバラという音がずっと鳴り止まずに耳に飛び込んでくる。

回りを見渡す、町はすべて砂におおわれていた。

ここは何処だ?体はまるで石像のごとく動こうとしない。

道路も、建物も、商店も車も、人々の顔や動きに至るまで、すべて日本のそれとは違っていた。

遠くで爆発音がする。

急に右腕に痛みが走る。

まるで"電流を流した万力で押し潰されている"かのような痛みだ。

右腕を見る、二の腕から先が赤黒く汚れていて、手のひらにはリボルバー拳銃が握られていた。

再び爆発音がする、いつの間にか銃声まで聞こえるようになっていた。

小さな子供を連れた女が、逃げて行く。

それとは反対方向に、AK-47を持った男達が全力で駆け抜けて行く、その一団には十五歳くらいの少年も混じっていた。

また爆発音がする、上空には黒いヘリが何十機も飛んでいた。

いくつかのヘリからはロープが垂れ、砂色の迷彩服の男達が降りてくる。

男達は着地した後、回りを見渡していた。

一人の男がこっちを見る、するとそれに共鳴するかのように他の男たちも皆、こっちをじっと見てくる。

遠くに聞こえる銃声、悲鳴のようなものも聞こえる。

男達はこっちに近づいてきた、しかしそれは一瞬だった、すこし目を離したすきに、100メートルほど前進してきた。

爆発音。

男達がまた近づいてきた。

彼らは、何をするでもなくただこっちをじっと見ている。

明らかに異常な光景だ、しかし異常なのはそれだけではなかった。

彼らには顔がなかった。

ヘルメットの下は加工した写真のように真っ暗だった。

真っ暗な中に、生気の無い目が二つだけ浮かんでいる。

気がついたときには、男達に半包囲されていた。

気が狂いそうだった。

百は下らない数の真っ暗達に、息のかかるほどの距離で囲まれていた。

すぐ目の前にある生気の無い目に、心の奥底まで覗かれているようだった。

右腕の痛みはまだ消えない。

また爆発音、今回のはひときわ大きかった。

右腕が動くようになる。

迷わず、握っていた拳銃で目の前の男を撃った。

男達は一瞬でどこかへ消えた。

しかしまた遠くに現れ、目を離したすきに距離を詰めてきた。

 

 

 

 

 

また酷い夢を見た。

人では無いなにかが、ただこっちをじっと見ている夢。

場所は毎回まちまちだった、研究所のような場所、砂漠の町、東京の町並み。

汗でじっとりと濡れたタオルケットを剥ぎ、上半身だけ起こす。

大粒の雨が窓ガラスをバラバラと、強く打っているのが聞こえる。

ベッドの上で携帯電話が鳴っている。

画面には夕夏、とだけ書かれていた。

右腕を携帯に伸ばす。

しかし、その手は携帯を掴むことができなかった。

ああ、そういえば昨日は久しぶりに右腕を外したんだった。

高浪は左腕で携帯を取る。

(あ、春?)

携帯をスピーカーから若い女性の声が聞こえた。

それを聞きながら高浪はベッドから這い出し、肩と頭で携帯を挟み、空いた左腕で床に転がっていた"機械の腕"をつかみ、自分の右腕にはめる。

「どうした?」

(あのさ、今学校なんだけど傘忘れちゃって、今から迎えに来てくれない?)

スピーカーの声が、困った声で助けを求めてくる。

窓の外を見ると、見慣れた町並みを土砂降りの雨が爆撃していた。

だらんと力なく垂れる鋼材の右腕から伸びたコードを、右耳の裏と襟首に空いた穴に差し込む。

死んでいた右腕が、息を吹き替えしたかのようにピクリと反応する。

脳からの出た信号が、銅の神経を伝って指先の形状記憶合金が指を曲げ、鋼材の手のひらを握っては開いた。

右手で携帯を取り「今から行く」と短く返事をする。

「うん、お願い」とスピーカーが返し、携帯のスピーカーがツー、ツーと音を出し、雨の弾幕を潜り抜ける作戦会議が終了する。

ベッドの縁にのせた腰を両足で持ち上げ、側のテーブルにおかれた飲みかけのエビアンを喉に流し込み部屋を出る。

タンスから適当な服を出して手早く着替え、外に出てスズキ キャリイバンのエンジンをかける。

使い古しのエンジンから鳴る弱々しい鼓動を聞き、車庫から出すとドカドカと殴り付ける大粒の雨を、お世辞にも新しいとは言えないおんぼろな車体が受け止める。

それでもちゃんとと手の入ったキャリイバンは、高浪の操縦にきちんと反応し雨の中を走って行く。

視界の悪い前方を無理やりくっつけたLEDで照らし、道を進む。

カーステレオ流れるラジオが流行りの歌を流し、メールやら手紙やらを読み上げている。

(えー八月十日、時刻は午後4時30分を回りました、ここでニュースをお伝えします、昨日午後1時頃、大阪駅を出発した東海道新幹線が、小銃等で武装した大学生二十人らによる犯行グループによってトレインジャクされました)

何気なく聞いていたラジオから、昨日の事件のニュースが流れる。

(その後、警察及び自衛隊の出動により午後2時50分ごろに鎮圧され、犯行グループの内8人が死亡、12人が逮捕されました、また、この事件で同列車に乗っていた……)

ラジオのパーソナリティーが死者、重傷者の名前を読み上げる。

どれも女性の名前で、全部で15人ほど挙げられた。

(警察は動機や武器の入手経路について詳しく調べるほか、ここ数ヵ月頻発する人質事件との関連性を調べています)

最初の事件は三ヶ月前に起こった。

そのときはまだ犯人は一人、武器も拳銃だけの希にあるただの人質事件だった。

次に起こったのはそれから二週間も経たなかった、その事件もそこまで過激ではなかったものの回を重ねるほどに武器は高度化していった、中にはC-4可塑性爆薬やP-90ライフルなどどう考えても一般人では入手できない物もあった。

その度に警察の特殊部隊が出動し、自衛隊が動員されたことも何度かあった。

死人が出るなんてことはほぼ毎回だ。

右の路地へ入る。

ここからは高橋や木村に聞いたことだが、それらの事件にはすべて共通点があった。

一つは皆何者かにそそのかされて犯行に及んだこと、それともう一つ、武器や道具、場合によっては計画すらも、その何者かに提供されたものだったこと。

当然、警察はその何者かを片っ端から調査しているが、一向に見つからない。

大きな暴力団などをしらみつぶしに調べてもすべて空振りだった。

電話の主、高浪 優香が通う高校に到着し道路の脇へ止める。

携帯を取り出して簡潔に到着したことを伝えてシートに深く座り込む。

バラバラバラバラと雨の音。

まるで機関銃のようにいつまでも止まない制圧射撃をし続ける。

気のせいだろうか、遠くで銃声が聞こえる。

銃声は次第に増えていった、聞こえる銃声は単発やバースト射撃、大口径やら小口径やらさまざまだ。

迫撃砲の独特な発射音も聞こえる。

後ろからは怒号や悲鳴。

頭の上で独特な音、空飛ぶイボイノシシ。

ヴヴヴヴという低い音。

バラバラバラバラと機関銃。

左から一際大きくバコッと聞こえた。

驚いて左を向く。

驚いた顔をした夕夏。

「え、どうしたの?」

「あー、いや急にドアが開いて驚いただけだ」

「なにそれ?大丈夫?」

夕夏が訝しげに聞きながら、乗り込んで来た。

前に向き直り、ハンドルをつかむ。

シフトノブを握るその左腕は、直前まで腰に隠し持ったコルト アナコンダに触れ、反射的に引き抜こうとしてていた。

ゆっくりとキャリイバンを発進させる。

雨はさっきより強く屋根を叩いている。

「ねぇ、次の取材はどこ行くの?」

唐突に夕夏が聞いてきた。

「しばらくはどこも行かない」

夕夏の中で、高浪は戦場カメラマンとなっている。

だがそれはあくまでも表向きの話で、実際の職業とは異なる。

「ふーん」

夕夏が返す。

そもそもカメラマンではないので、当然本職のように取材に出向くことなどない。

"取材"をしたのは一年ほど前に"夕夏と出会った時"の一回だけである。

それどころか本業の海上自衛官としての仕事もあまりしていない、それを見ている夕夏は、薄々「何か言えない仕事をしている」と気づいているようであまり深く聞いてくることはない。

「ねぇ、私来週の土曜で16なんだけど」

夕夏が少しの沈黙の後、唐突にそんなこと言い出した。

「知ってる」

夕夏が何を言いたいのかは理解していたがあえてそっけなく返す。

「あ、そういうことじゃなくて…」

「土曜は一日中暇だ」

「え、じゃあ行きたいところがあるんだけど!」

 

 

 

 

 

「バルチャーは?」

「さあな、また道に迷ってるんじゃないか?」

ドアが勢いよく開かれ、25歳くらいの女が入ってきた。

「ごめんなさい、遅れた」

「遅かったじゃないか、迷子のお嬢ちゃん?」

「やめて……サーバルは?」

女がいつものメンバーから一人足りないことに気づき、椅子に座ってた男に聞いた。

「で?フォックス、なんで呼び出した」

奥から黒人が出てきた。

「ああ、これだ」

フォックスと呼ばれた男がパソコンをいじって途中で止められていた動画を再生する。

映し出されたのは新幹線の車内映像、目出し帽の男が女性を撃ち殺していた。

「昨日のか」

「そうだ、ここからだよく見てくれ」

後方の車両につながるドアから男が入ってきて、目出し帽をホールドアップしていた。

目出し帽が抵抗しようと後ろから拳銃を引きぬいた、が即座に男の拳銃に弾き飛ばされた。

「上手いな」

黒人がそうつぶやいた。

男が目出し帽に一気に詰め寄り、男の首を絞めた。

「止めて!」

女が少し声を荒げた。

「ああ、俺もここを見せたかった」

フォックスが動画を止めた。

「この男……」

女が画面を指さした。

「まだ確証はないが、サーバル、どう思う?」

「マイクに連絡してくる」

黒人が携帯電話をもって再び奥に消えていった。

「これで国に帰れる?」

女がフォックスに聞いた。

「さあな、だが陽動は成功したんだ、少なくとも今よりは楽になるさ」

フォックスが椅子に背中を預け、デスクのぬるいコーヒ-を飲む。

「俺だ」

奥から黒人の声が聞こえた。

「オーストリア人を見つけた、今は公務員をやってるらしい」




はい、第二話でした。
ほんとはもう少し続く予定でしたが、それだと投稿までにかなり時間がかかりそうなのでここで一旦切りました。
陽動の意味、分かりましたか?
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