俺は神谷さんと二人で登校していた。まぁ、あの流れならこうなるよね。
「ふーん……じゃあ、あたしと同じで一人暮らしなんだ?」
「はい。………けど、料理が思ったより難しくて……」
「まぁ、最初はそういうもんだろ。あたしも一人暮らし始める前は苦労したなー」
「そうなんですか?」
「ああ。ま、一年一人暮らししてれば、料理も出来るようになるけどな?」
へー。じゃあ俺も頑張れば料理できるようになんのかな。いや、まぁ別にならなくても良いんだが。
あ、そういや昨日のカレーのお礼言わないと。
「あの、神谷先輩」
「えっ?」
「え?あ、いや神谷先輩」
「も、もう一回呼んで!」
お、おう。急にどうした。
「? 神谷先輩?」
「か、神谷先輩………」
え、何で感動してんのこの子?どうかしたの?
「あの、神谷先輩?」
「あ、ああ、いや悪い。あたしの周りにあたしを先輩と呼んでくれる歳下いなくてさー」
「そうなんですか?」
「そうだよー。まぁ、後輩というより年下の同僚だから別に良いんだけどさー」
同僚?ああ、バイト先とか?そういや、俺もバイトしようかなぁ。一人暮らしだし。
「だから、先輩って呼ばれんの少し新鮮っていうか……あ、いや別に嬉しいとかそういうんじゃないからなっ」
「は、はぁ。そうですか」
何を照れる必要があったのか。ていうか、こっちは何も聞いてないし。この人、割と照れ屋なのか?
って、そんな事良いからお礼だお礼。
「……あ、そういえば、昨日カレーありがとうございます」
「ん、いや良いって全然。ほんと、作りすぎたってだけだし」
「でも、昨日は本当に助かったんですよ。………作った炒飯が本当にもう……アレはもはや、斬新なデザインのモンスターで……」
「す、少し見てみたかったかもな……」
いや、やめておいた方が良いだろ。俺、マジでどうやってアレ作ったんだろうな………。
そんな感じでなんか色々話してると学校に到着した。二年生と一年生は昇降口が違うので、校門に着いた時点で別れてしまう。
「じゃ、あたしはあっちだから」
「はい」
小さく胸前で手を振って、神谷先輩は二年の昇降口に向かった。俺はその背中を眺めながら、一年のクラス分けを見に行った。
………さて、高学年の知り合いはできた。これなら一年の知り合いも出来るだろう。
「………よし、頑張ろう」
なんか変な気合を入れて、俺はクラス分けを確認して、自分の教室に歩みを進めた。
ー
中学の時、俺はカマちょだった。そして、頭のおかしいキャラだった。なんか「バカじゃん?」「変わってるね」「なんでだよ!」と言われて笑われるのが嬉しくて楽しいガキだった。
だが、中学三年に上がった時、クラスの女子にすごい「黙ってりゃモテる顔してるのに、勿体無い」と言われた。これは使える。当時は俺の正体は周りにバレていたので意味ないが、東京の高校なら知り合いなんていない、ゼロから始める高校生活だ。てなわけで、俺はとりあえず、今日一日話しかけられるまで黙っていようと思った。
結果、誰からも話しかけられずに1日目が終わった。
「……………」
………やらかした。これは終わった。まさか、誰からも話しかけられないとは………。黙ってりゃモテる顔、ということは少なからずイケメンということである。だから、キリッとした顔を作って、とりあえずスマホをいじっていた。
結果、誰からも話しかけられずに1日目が終わった(2回目)。
高校デビュー、いや金髪にするとかじゃなて、根本的な高校デビュー失敗……これは非常にまずいぞ。俺の高校生活、一発で暗いものになる。
いや落ち着け。まだ諦めるような時間じゃない。明日だってあるんだ。友達作りはこれからだろ。
「………帰ろう」
とにかく、明日席が前後の人に声をかけてみよう。
………とりあえず、TS○TAYAでなんかDVD借りよう。映画見るの好きなんだよね、俺。クラスメイトが早速カラオケの約束してたのは記憶から消して、映画見よう映画。
TS○TAYAに到着し、DVDコーナーの方へ行く。最近、引越しの準備で映画とか見れなかったからなー。さて、何を見ようか……テキトーにラピュタでも良いかなぁ。
そう思って、アニメコーナーに向かった。神谷さんが真面目な表情でアニメのDVDを見ていた。
「……………」
思わず隠れてしまった。え、しかもあれどう見てもセーラームーンだよな……?俺は見てないし詳しくないけど、子供向けアニメだよな……?
「………うーむ、どうしようか」
おい、何を真剣に悩んでんだ。歳いくつですかあなた。
つーか、どうしよ。ラピュタを借りるにはここを通らないといけないんだけど……。
いや、どうせお隣同士だけの関係だし、顔を合わせたのも昨日今日の二回だけだ。気付かれない可能性だってある。
とりあえず、アニメコーナーに足を踏み入れた。直後、神谷さんはハッとなってこっちを見た。俺はフッと気付いてないフリをして、DVDを探し始めた。ていうか、誰かが来た瞬間にこっちを見るあたり、多分誰かにアニメコーナーにいる所を見られたくないんだろうなぁ。
「あれ?佐藤くん?」
全然違った。普通に声かけてきた。
「………あっ、神谷先輩。何してるんですかこんな所で」
「えっ?あー、いや……」
あ、やべっ、って感じで目を逸らす神谷先輩。いや、これ隠してるのか?知り合いと会ったから声掛けましたーって感じか。
「お、お前こそ何してるんだよ、こんな所で」
「俺はラピュタ借りに来ただけです」
「そ、そっか……。実はあたしもなんかそういうジブリ借りようと思ってたんだよなー」
嘘つけ。そういう事は、手に持ってるセーラームーンを隠してから言えよ。俺はそこから視線を逸らして、ジブリコーナーを見上げた。えっと、ラピュタラピュタ……あった。
ラピュタを手に取ると、神谷先輩もジブリシリーズを選び始める。ああ言った手前、俺のいる前ではジブリ以外選びにくいんだろう。まぁ、こっちも一緒にいる理由ないし、さっさと帰ろう。
「………じゃ、俺帰りますね」
「お、おうっ。またな」
俺が帰り始めると、神谷先輩は少女向けアニメに戻った。俺がいなくなるのを確認してから戻れよ。
ちなみに、俺は引っ越ししたばかりでプレ2もDVDプレイヤーもパソコンもない事を忘れていて、ラピュタを見る事は出来なかった。