エヴァンジェリンの選択   作:平山空海

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この作品のタイトルは投稿の直前に変更しました。投稿前に元々のタイトルを念のために検索したところ、全く同じタイトルの面白い作品が存在したためです。


第二話

 

 

二週間前と同じログハウスのリビングでは、ドロシーとエヴァンジェリンが向かい合っていた。ドロシーは熱いお茶を美味しそうにすすっている。エヴァンジェリンはドロシーが手土産に持ってきた、焼き印の入った小判形の大福を目を細めながら食べていた。

 

ボブとタカミチは今日もエヴァンジェリンの別荘で鍛練をしている。二週間前から始めた別荘での鍛練はのべ三千時間をとうに超え四千時間に迫ろうとしていた。エヴァンジェリンも時々気晴らしに参加する鍛練は、仕上げの段階に入っている。

 

さっきまで別荘で高畑をしごいていたエヴァンジェリンはドロシーに問いかけた。

「何か話があるとボブから聴いたが、別荘の中ですれば良かったのではないか」

ドロシーは首を振ってとんでもないといったしぐさをするとエヴァンジェリンに訴えた。

「エヴァちゃんには関係ないでしょうけど、私みたいな盛りを過ぎた女にとってはあそこは恐ろしい場所なのよ」

ドロシーはブルブル震える真似をした。

「何を大げさな、一日余計に歳をとったからと言って何が変わるというのだ。それと『エヴァと呼べ』とは言ったがちゃん付けはよせ」

エヴァンジェリンは呆れ返った顔をしていた。

 

「別にそんなこと気にしなくて良いじゃない。それよりも本題に入りましょう。前に言いそびれたことがあるのよ」

ドロシーは強引に話を変えた。

「解除の条件はあれがすべてではなかったのか」

「あれとは別件と言うか。関係がまったくないわけじゃないのよ。エヴァちゃん、新月の時とか体調が悪くなるんじゃないかしら。どうなの?」

ドロシーはイタズラっぽい表情を浮かべている。

エヴァンジェリンはちゃん付けを直すことを諦めて問い掛けに答えた。

「呪いのせいで魔力がほとんどないからな。お前が言うように月が欠けてくると体が段々ダルくなってくるし、最近は花粉症にまで苦しめられている。それがどうかしたのか?」

エヴァンジェリンは面白くなさそうに答えた。

 

「麻帆良に強力な結界が張られているのは知ってるわよね。結界内に入った闇や魔に属するものの力を半分に抑える、世界樹の魔力と学園都市の電力の複合型結界のことよ。実はエヴァちゃんは電力だけを使った専用の結界で残りの魔力も吸われているのよ。登校地獄の術式の維持に使われているのは微々たるものなの。呪いの強制力に逆らわなければの話だけどね」

ドロシーは隠し事を話せてスッキリした顔をしている。逆にエヴァンジェリンは、憤懣やる方のない怒りの表情を浮かべていた。

「なんだそれは、そんなことは聴いていないぞ。気がついたときには魔力が無くなっていたから、てっきり呪いのせいだとばかり思い込んでいた。しかし私が来ることをじじいは知らなかったはずだ。そんなに簡単に新しい結界が張れるものなのか?」

エヴァンジェリンの疑問にドロシーは嬉々として答えた。

「そんなわけないじゃない。いざという時のために用意してあったのよ。高位の魔族とか真祖の吸血鬼が麻帆良に侵入してきたときのためにね。実際に役に立ってるんだから先見の明があると言うべきなんでしょうね。でも次に闇の福音クラスの強敵が現れたときはどうするつもりなのかしら。それこそエヴァちゃんを縛る鎖を解き放ってぶつけるしかないわね」

ドロシーはクスクスと笑った。エヴァンジェリンはむすっとしてドロシーに尋ねた。

「結局、お前は何が言いたいんだ。私をからかいに来たのか?」

 

ドロシーはエヴァンジェリンの問いには答えず、ショルダーバッグから四角いネックレスケースを取り出した。

「これは知り合いに作ってもらった、魔力量をごまかせる魔法具なの。組紐は私が作ったのよ」

そう言ってドロシーはケースから組紐のネックレスを取り出した。魔方陣が刻まれたメダル型のペンダントトップが付いている。

 

「これを着けると世界樹が騙されて、エヴァちゃんの魔力を抑える力がほんの少し減るのよ。そしてそれに連動して専用の結界の吸収量も減るから、新月の時でも満月並みの魔力量を確保できるわ。ごまかす量をこれ以上増やすと気づかれるからこんなものでしょうね。登校地獄の解除の条件は分かったけど解除そのものには協力できそうもないからその代わりよ。ほら、着けてあげるから髪を上げて」

ドロシーはエヴァンジェリンの首にネックレスを掛けた。

「おっ、確かに魔力が少し戻って来たぞ。これなら武装解除ぐらいは触媒なしで撃てるな。満月の夜なら氷爆もいけるかもしれん」

エヴァンジェリンは嬉しそうに手のひらに魔力を集めている。ドロシーはその様子を慈母のような微笑みを浮かべて眺めていた。

 

エヴァンジェリンはひとしきり喜んだ後、表情をがらりと変えてドロシーを睨んだ。

「ドロシー・ハミルトン、貴様何を企んでいる。別荘を使う対価は十分だと言ったはずだ。私の魔力の件も箝口令が敷かれているのではないのか?」

ドロシーはその豊かな胸元からペンダントを引き出した。それはエヴァンジェリンに贈ったものとそっくりだった。

 

「私の身の上話を聴いてくれるかしら。今この国にいる魔法使いで、本来最も魔力が多いのは間違いなくエヴァちゃんだわ。魔法具で隠してるから分からないかもしれないけど二番目はおそらく私なの。エヴァちゃんと違って戦闘力は大したことないけどね。私の旧姓はアンダーソンて言うんだけど、アンダーソン家で生きているのはもう私一人しかいない。その日は私とダーリンの結婚が間近に迫って親戚一同が集まっていたわ。そこに魔法使いの集団が私を拐いに来たのよ。私以外はみんな殺されてしまったわ。私になついていた五歳になったばかりの姪のエマまですべてよ。私はギリギリでダーリンが助けに来てくれたの。ハミルトン家の人たちも駆けつけて、リーダー格の男を訊問しようとしたんだけど、無詠唱の魔法を自分に使って自害しちゃったわ。捕まえた他の魔法使いも全員それに続いたのよ。結局真相は分からなかった。分かっているのは私の魔力を必要としていたことと、彼らが口にしていた『世界のために』『平和のために』『人々の幸せのために』という三つの言葉だけだったわ。それ以来私はその言葉を口にする人を信用できなくなってしまった…………」

ドロシーはその当時を思いだして言葉に詰まった。

 

「高位の存在の召喚や広範囲に影響する儀式魔法には大量の魔力を必要とする。そういったときに魔力の高い生け贄を使うのは昔から良くあることだ。私は闇の眷属だということで敬遠されたがな。生け贄は清らかでなければいけないのだそうだ。お笑い草だよ」

エヴァンジェリンは何でもないことのように呟いた。

 

ドロシーは雰囲気を変えようと、ことさら軽い調子で話し始めた。

「話は変わるけど、私が嫁いだハミルトン家には変わった家訓があるのよ。それは【世界平和より家内安全】というものなの。冗談みたいな家訓だけど、私がダーリンとハイスクールに通っていた頃、義祖父様が『ハミルトン家の男子は愛する女性を守ることが第一義だ。自分の女に“世界を救うためには仕方が無いんだ。分かってくれ”などと寝惚けたことを本気で言うような奴は、半殺しにしてすべての力と記憶を封印した上で放り出す』そう言っていたのよ。だからダーリンは出来る限り力を他人に見せないようにしていたんだけど、性格的に隠しきるのは難しいわね。ダーリンが学園長と結んだ契約には麻帆良の防衛も含まれているのよ。エヴァちゃんは麻帆良の最高戦力だわ。その力を高めることはダーリンの負担を軽くすることに繋がるのよ。それに私は関東魔法協会に入っていないし、学園の職員でもないわ。学園長の指示に従う必要はないのよ。これで納得できたかしら」

 

エヴァンジェリンはしばらく考え込んでいたが、ドロシーに疑問を呈した。

「理由については一応筋が通っている。だがなぜそんなお前たちがこの麻帆良に来たのだ。ここには元老院の老害どもに踊らされている正義病患者が大勢いるぞ。そのことを知らなかった訳ではあるまい」

ドロシーは少し迷った様子を見せたが話すことにしたようだ。

「あれは魔法使いを統制して犯罪を抑止する効果が高いし、自国民に誇りを持たせるのは政治家として必要なことよ。確かに魔法を使えない人を見下したり、人間以外の種族を差別するところなんかは私も嫌いだわ。だから学園長からダーリンに誘いがあった時、ハミルトン家は昔から陰陽師との繋がりがあったし、最初は断るつもりだったの。だけどダーリンも私もなぜか妙に気になって、念のために私の実家に伝わる特殊な占い方で占ったら、行くべきだって出ちゃったのよ。それで散々迷った末に来ることに決めたの。そんなことより、学園長との交渉は少しは進んでいるの? 学園長が必要な書類にサインをしないと呪いは解けないのよ。私とダーリンが立ち会えれば良いんだけど、さっきも言ったように私たちは関東魔法協会に入っていないから言い難いのよね」

 

とたんにエヴァンジェリンの顔が苦々しげに歪んだ。

「やめておけ、ボブの能力がじじいにバレたら、もっとややこしいことになる。それが分かっているから、タカミチに秘匿契約を結ばせたのだろう。しかしじじいの奴、私が自力で解呪の目処を立てたと言ったとたんに、後十年は居てくれないと困るとか言い出してな。呪いの話をしようとすると、話を逸らして交渉に入ろうとせんのだ。以前から呪いの解けない私に同情したり、呪いを解く方法を探しているなどと言っていたのは、単なるポーズだったということがはっきりした」

 

ドロシーは学園長の変節に憤慨するエヴァンジェリンをなだめた。

「私の人を見る目が間違っていないのなら、彼も自分の都合だけで引き留めているわけじゃないと思うわ。エヴァちゃんにとって麻帆良で平穏な学生生活を送ることが、一番幸せなことだと本気で思っているのよ。それに自力での解除には最短でも六年以上、卒業課題によっては十年以上かかってもおかしくないわよ。学園長が初等部の卒業資格認定をすれば三年+卒業課題で済むけどね。それで他には何も要求されなかったの?」

「私はあいつの娘ではないぞ。それを決めるのは私だ。それは良いとして、他にも何か要求されたかな? そういえば、いままで通り中等部に通い続けることをしきりに勧めていたような気がするな。初等部の卒業資格がなければ何の意味もないというのに、それは認める気がないのだから話にならん」

 

ドロシーは顔を伏せて深く考え込んでいたが、しばらくして顔を上げると、エヴァンジェリンに自分の考えを話した。

「実は高畑さんが鍛練半ばで飛び出して行こうとしていた理由が判明したのよ。ナギ・スプリングフィールドには息子がいたの。彼の耳に入ったのはその子の存在が元老院に漏れたかもしれないという情報だったみたいね。恩人の息子に危険が迫っているかもしれないと早合点した高畑さんは焦っているのよ」

 

ドロシーはそう言ってからエヴァンジェリンの様子をうかがっていた。

「そうか。しかし、それがどうして私を引き留める理由になるのだ」

エヴァンジェリンは落ち着き払っていてまったく慌てた様子がない。

「驚かないのね。息子がいたということは、そういう関係の女性がいたということなのよ」

ドロシーは不思議そうな顔をして言った。

「奴はあれでも英雄と呼ばれるほどの男なのだぞ。複数の女がいても不思議でも何でもないではないか。何を驚くことがあるというのだ」

「あぁそうか、エヴァちゃんってそういう時代の人だったわね」

ドロシーは納得したとばかりにうなずいた。

 

「それで本題はどうした」

エヴァンジェリンは話を促した。

「英雄の息子ということになれば、元老院の連中が放っておくはずがないわ。御輿に担ごうとか、操り人形にしようとする者が必ず出てくるでしょう。でも魔法使いには卒業課題を達成して初めて、一人前として認められるという伝統があるわ。だからある程度は干渉を防ぐことができるこの麻帆良で修行をさせるつもりなのよ。そしてここには不死の魔法使いとして当代随一の実力を持ってるんじゃないかと言われているエヴァちゃんがいるわ」

「何が『持ってるんじゃないか』だ。実際に私こそが史上最強の魔法使いなのだ」

エヴァンジェリンは誇らしげにそっくり返った。

「じゃあなぜ、登校地獄に掛かったの?」

「あ、あれはちょっと油断していただけだ」

「まあ、惚れた弱味じゃしょうがないわよね」

 

「それでじじいは、その息子を鍛えるために、私を引き留めたと言うのか」

エヴァンジェリンは都合が悪い方向に進み出したので話を逸らした。ドロシーもこれ以上からかって怒りだしても困るので、話を先に進めることにしたのだった。

「そうね。その子には生まれたときから過酷な運命が約束されているのよ。甘い言葉ですり寄ってくる者もいるでしょう。そういったものを跳ね返せるように指導するのは、普通の魔法使いには無理なのよ。どうしてもエヴァちゃんが必要だと、学園長は判断したのでしょうね」

 

「そいつの歳は今いくつなのだ」

「確か、後二ヶ月程で三歳になるんじゃなかったかしら」

エヴァンジェリンは呆れて、しばらく開いた口がふさがらなかった。

「何だそれは、そんなに幼くては、奴の才能を受け継いでいるかどうかも分からんではないか。大体そいつはここに来るまで生きていられるのか? 奴には敵も多いぞ。奴を憎んでいる者だって相当いるはずだ。私はお前の話を聴いたとき、魔法学校を優秀な成績で卒業間近なのだとばかり思っていたのだ。本当にそいつの指導をさせるのが理由なのか? 私はぼんくらの面倒を見るなどごめんだぞ」

エヴァンジェリンは疑わしそうにドロシーを見た。

 

「才能については分からないけど、生存についてはそのためにダーリンをアメリカから招いたり、情報を吹き込んだりしてまで高畑さんの鍛練を急がせたんじゃないの。それも大分進んだみたいだし、ダーリンがOKを出せばその子の様子を見に行かせるんじゃないかしら。暗殺の計画があれば高畑さんに潰させるつもりなのよ。それに肝心なことを忘れているみたいだけど、元々この話は登校地獄の解除に学園長のサインが必要だからその対策を考えていたんじゃなかったかしら」

 

エヴァンジェリンは所在なさげにドロシーに頭を下げた。

「すまん。途中からすっかり忘れていた。しかしそうなるとじじいは、そのガキが来るまでのらりくらりと言い逃れて、そいつを弟子にすることを呪いの解除の条件にしかねんぞ」

ドロシーは頬に手を当てて思案していたが、エヴァンジェリンの顔を見てため息を吐いた。

 

「そうねまずは交渉の席に着かせるためのカードが必要だわ。エヴァちゃんは自分の身代り人形は作れるかしら」

エヴァンジェリンは嫌そうな顔をして答えた。

「作れはするが、私は自分の呪いを人形に押し付けて、自分だけが逃げ出すような無様なまねは絶対にせんぞ! 第一それをやるには、今の名前を人形に渡さねばならんのだぞ」

 

ドロシーは少し悩ましげに返した。

「そうなのよね。それは学園長も良く分かってるはずだわ。だからこれをカードとして使うには、それでも呪いを解きたいという強い動機が必要なのよ。ところでエヴァちゃん、もしもナギ・スプリングフィールドが生きているという噂を聴いたらどうする?」

 

エヴァンジェリンは即座に立ち上がってドロシーに問い質した。

「なに! そんな噂があるのか。それは確かなんだろうな」

ドロシーはエヴァンジェリンを慌ててなだめた。

「エヴァちゃん落ち着いて、『もしも』の話よ。エヴァちゃんがそこまで反応するとは思わなかったわ。ようするにエヴァちゃんが『どんな手段を使ってでも呪いを解きたい』ということが学園長に伝われば良いのよ。そうなれば彼もうかつに交渉を引き伸ばせなくなるでしょう」

 

エヴァンジェリンはようやく落ち着いてドロシーの策に感心していた。

「なるほど、それでじじいとの交渉はどうするのだ」

ドロシーは女教師風の細いファッショングラスを胸元から取り出して掛けると話始めた。

「まずは学園長の望みを良く知っておくことが大事よ。彼が絶対に譲れないのは、英雄の息子が麻帆良に来るまであなたが学園に留まっていることよ。そしてできれば麻帆良にずっと留まって欲しいとも思っているでしょうけど、それが難しいことも分かっているはずだわ。その子の指導をエヴァちゃんに任せることについては何年も先のことだし、その子の才能や性格もまだ分かっていないから具体的な計画はまだ立てていないはずよ」

 

ある疑問を抱いたエヴァンジェリンはドロシーに尋ねた。

「英雄の息子を指導したいという者ならいくらでもいるだろう。じじいはなぜ私が指導することにそこまで固執するのだ。こう言ってはなんだが、私は悪の魔法使いで真祖の吸血鬼だぞ。他のやつらも納得せんだろう」

ドロシーは即座に答えを返した。

「文句を言う人たちには、その子がこの先戦って行かなければならない、悪の魔法使いについて良く知ってもらうためだとでも、言うつもりじゃないの。本音は元老院の息のかかった者には関わって欲しくないということと、エヴァちゃんほどの実力、知識、経験を兼ね備えた魔法使いはめったにいないということだと思うわ。そしてあちこちから狙われるその子には、魔法使いの負の側面についても教える必要があるのよ。普通の魔法使いには無理なことだわ。そして学園長はエヴァちゃんを人格面においても高く評価しているのよ」

 

エヴァンジェリンはそっぽを向いて鼻で笑った。

「ふん、じじいなんぞに評価されても嬉しいはずがなかろう」

エヴァンジェリンの頬はかすかに赤らんでいた。

 

「話を戻すけど、まずは私たちの伝を使ってナギ・スプリングフィールド目撃の噂を流すわ。そしてそれが学園長に伝わった頃に、エヴァちゃんが自分の人形を持って交渉に臨むのよ。あなたの覚悟に真実味を持たせるには人形は必要だわ」

「別に本物の身代り人形じゃなくても良いのだろう。あれは作るのに結構手間が掛かるのだ」

「それは構わないけど、彼は陰陽師の大家の近衛家の血筋だし、極東最強の魔法使いとも言われているんだから絶対に見破られないようにね」

「私を誰だと思っているのだ。ドールマスターの名は伊達ではないぞ。人形作りに手を抜いたりはせん」

 

ドロシーは少し疑わしそうに肩を竦めた。

「まあいいけど、エヴァちゃんの最大の弱点は、自分の力に自信がありすぎて油断することよね。それで次にすることだけど、初等部の卒業資格認定証を含めた解除に必要なすべての書類を要求するのよ。書類だけじゃ契約の精霊は認めてくれないけど、そんなことは学園長には分からないわ。たとえ分かっていてもエヴァちゃんが本気だということは伝わるから無駄じゃないのよ。彼は間違いなく拒否してくるでしょうけどそこですぐに引いちゃだめよ。黙って相手の顔を見つめるのよ。我慢できなくなった彼が、承諾できない言い訳を口にしてからしぶしぶ譲歩したように見せ掛けるのが大事よ」

エヴァンジェリンは顔をしかめた。

「なんでそんな面倒な駆け引きをせねばならんのだ。もっと簡単な方法はないのか」

 

ドロシーは呆れた顔をして構わずに話を続けた。

「たったそれだけのことで年単位で縮まるかもしれないんだから頑張らなきゃ。そしてその次の要求は初等部の卒業資格認定と中等部への再入学よ。修学旅行で麻帆良の外に出る際の許可証の発行も忘れちゃだめよ。中等部を卒業した時には出席証明書、卒業成績証明書、卒業証書の発行。その後卒業課題を達成したら達成証明書を発行させるのよ。当然すべての書類は魔法契約書に準じた書式で作成するように念を押すのを忘れないでね。卒業課題についてだけど、どうせ拒否されるでしょうから修行場所は麻帆良の外にする方が良いわ。そうねえ、京都で占い師なんてどうかしら」

「京都かぁ、それだったら本当にやっても良いんだがなあ。それは無理なのだろう?」

エヴァンジェリンはどこか遠くを見るような目をして言った。

 

「その時英雄の子はまだ六歳ぐらいだから学園長は承諾できないわ。そして本命の要求だけど彼が妥協案を出してきても、気にいらなかったらすべてを言う必要はないわ。交渉はねばりが一番大事なの。呪いを本気で解きたいのならここが踏ん張りどころよ。彼が疲れて根負けするまで引いちゃだめよ。そして交渉がまとまったら魔法契約を必ず結ぶのよ。契約を渋るようなら約束を守る気がないとみて良いわ。それともしも妥協案さえも出さないようなら即座に席を蹴って良いわよ。その時は私たちが責任を持って何とかするわ」

 

 

 

その後エヴァンジェリンは初等部二年に編入学することになり、ドロシーが高畑から預かっている神楽坂明日菜と同じクラスに入った。非行に走る者はもとより、時には教師や学園長も叱りつけるエヴァンジェリンは、学園の生徒たちからは麻帆良の小さな御意見番と呼び慕われている。

 

卒業課題は中等部の卒業だったが休みの日には麻帆良の外に自由に出る許可が出ていた。魔法使いとして見聞を広めるというのが名目だった。そのため中等部に上がったエヴァンジェリンは長期の休みの度に日本の名所・旧跡を巡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初はチラシの裏にひっそりと投稿するつもりでした。しかし良く考えたら、自分では分からなかった悪いところを指摘してもらわないと、投稿した本来の意味がないことに気づいたのです。
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