「士道〜お腹空いたよ」
「今、おやつ持って来るから待ってて」
ジャリモンに出会ってから一週間が過ぎ去った。
あの後ジャリモンを連れて家に帰り、一緒に過ごしている。家族にはジャリモンをぬいぐるみとして通している。
「はい、ジャリモンの好きな黄粉パンだよ」
最初ジャリモンがお腹空いた時、何を食べさせれば良いのか分からなかったが家に置いてあった黄粉パンをあげると美味しそうに食べ、それ以来ジャリモンは黄粉パンが大好物になったのだ。
「わ〜いっ!黄粉パンだ!」
ジャリモンは士道が持って来た黄粉パンに目を輝かせ、美味しそうに食べる。
(それにしてもジャリモンって、どこから来たんだろう?)
「もぐもぐ、ん?どうしたの士道?」
「なぁ、ジャリモン。お前ってどこから来たんだ?」
初めて会った時は不思議な生き物に会った興奮で、ジャリモンがどこから来たのか気にしなかったが、一緒に過ごすにつれ気になり始めたのだ。
「デジタルワールドから来たんだよ」
黄粉パンを全部食べ終えたジャリモンが士道の質問に答える。
「デジタルワールドって?」
「デジタルワールドは、デジタルワールドだよ。僕はそこから生まれたデジモン」
デジタルワールドやデジモンと言った単語に聞き覚えがなかった。
士道は再度ジャリモンに聞いてみるのだが、ジャリモン自身も良くは分かっていなかった。
(考えて見れば普通タマゴから生まれたばかりの生き物が知ってる訳ないよな)
寧ろ自分の名前や生まれた故郷の事を知っているだけでも驚くべき事だ。
「まぁっ、いっか。ジャリモン今日も一緒に外に出掛ける?」
「うん!行きたいっ!」
「良し、じゃあ今日は商店街に行こうか。ちょっと着替えて来るから待ってて」
士道は自分の部屋に戻り、寝巻きから着替える。
着替え終えた士道はジャリモンのいるリビングに戻ろうとすると、玄関に置いてある電話が鳴り出す。
「はい、五河です・・・・あれ?」
受話器を取って、電話に出るのだが受話器からノイズの様な音しか聞こえず、少しすると電話が切れる。
「何だったんだろう・・・・お待たせジャリ、モ、ン」
リビングに戻るとそこにジャリモンがいなかった。
いや、正確に言うならジャリモンの他に別の生き物がいた。
「どうしたの士道?」
「お、お前ジャリモンか?」
「そうだよ?」
何を言っているのだろうと不思議に思う。
だが士道は聞かずにはいられなかったのだ。何故ならジャリモンに似ているが、足がなかった筈なのに小さいが尻尾や足が四本生え、身体も前よりも少し身体が大きくなっていた。
「ジャ、ジャリモンの姿が変わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ⁉︎」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もう、いきなり大きな声を出すからビックリしたよ」
「だってしょうがないじゃん。戻ったら姿が変わってたんだもん」
現在、姿が変わったジャリモンを抱いて商店街を通っている。
「しかし何で急に姿が変わったんだろ。それに・・・・」
士道はポケットの中に手を入れ、中からある物を取り出す。
手にしたのはポケベルにも似た機械。ジャリモンの姿が変わった側に置いてあった物だ。
「これって何だろう?ジャリモンの姿が変わったのと何か関係があるのかな」
少し怖かったがポケベルに触ってみるとポケベルの画面から映像が3Dの様に飛び出す。いきなりの事でビックリし、足を滑らせ腰をぶつけて涙目になったのは士道とジャリモンだけの秘密。
「ねぇ、ギギモン。お前は何か知ってる?」
ギギモンと言うのは姿が変わったジャリモンの名前。
ポケベルから出た映像にジャリモンの姿や名前があり、今の変化した姿の名前もそこに映し出されていた。
「分かんない」
「そっか」
「それよりも士道は琴里のプレゼントは買えたの?」
「あぁ、ちゃんと買えたよ」
琴里と言うのは士道と少し歳が離れた妹の事である。
その妹が明日誕生日を迎えるのだが、何を渡したら良いのかずっと悩み続けてしまい、誕生日の前日ギリギリに決める事になってしまった。
「喜んでくれると良いんだけど」
買ったは良いものの、妹が喜んでくれるか不安で仕方なかった。
「きっと喜ぶよ!家族からのプレゼントは嬉しい物だって、昨日テレビで見たよ!」
「そうだよな。喜ぶにしても、喜ばないにしても、ちゃんと渡さないとな」
––––––そうと決まれば早く帰らないと、と家に帰ろうとした時
突如ポケベルが鳴り響く。
そして次の瞬間、士道の真上の空が歪み出し、ギギモンのタマゴが現れた時と同じ様な現象が起こる。
「士道っ!避けて⁉︎」
突然のギギモンの言葉に分からなかったが、ギギモンは力一杯に士道の身体を押す。
「何すんだよ、ギギ、モン」
いきなり何をするのかと言おうとした時、目の前に黒い槍が地面に突き刺さる。その衝撃に士道とギギモンは風圧で転げ回る。
「え、えっ⁉︎」
何が起きたのか分からない。突然ポケベルが鳴り出し、ギギモンが急に大声を出して身体を押したと見れば、目の前に黒い槍が降り落ちて来る。何が起きているのか分からない。
––––––ただ一つ分かった事はギギモンが身体を押して、あの場から動かしてくれなかったら自分を降り落ちて来た槍に突き刺さり死んでいたこと。
「チッ、外したか」
突然の出来事に頭がついて行けない士道に、上から声がした。
見上げるとそこには漆黒の衣に身を包んだ堕天使が羽を広げ、こちらを見下げていた。堕天使は地上に降りると士道と両手で抱いているギギモンを見つめる。
「見つけたぞギギモン」
「し、知り合い?」
士道は震える声でギギモンに尋ねる。
「知らない。でもあいつからは嫌な感じがする」
ギギモンは士道の腕の中から離れ、士道を守る様に前に立つ。
不気味な威圧感を放つ堕天使を睨みつける。すると堕天使はギギモンから視線を士道に移す。
「何故この結界の中に人間がいるのだ」
えっ、と呟いて周りを見渡すと先程まで人集りであった人達が消えていた。
「まぁ良い、一緒に始末すれば良い事よ」
不敵な笑みを浮かべ堕天使に士道の身体は動き出す。
ギギモンを抱いてこの場から、堕天使から逃げ出す。兎に角、走り続けた。止まったら死ぬと、幼いなりに本能が叫んでいたからだ。
「はぁ、はぁ、はぁっ!・・・・あっ!」
息を切らしながらも全力疾走で走り続けていたが、途中で足を挫き、地面に転ぶ。
「士道!大丈夫っ⁉︎」
「あ、足が」
右足首を押さえ込む士道を心配するギギモン。
そんな二人に絶望が近づいて来る。先程の堕天使がゆっくりと歩きながら歩み寄って来た。
「くっくっくっくっ、飛んで捕まえるのが早かったが、やはり絶望し、恐怖した者を見ると狩りたくなってしまう。私の悪い癖だな」
「あ、ああ」
「良いぞその顔。怯えきった表情はいつ見ても楽しい」
堕天使は自身の長い爪を舐め、悪魔の笑みを見せる。
「士道は僕が守るっ!」
両手に抱かれていたギギモンは士道の手を振り解き、一人堕天使に挑む。
「ホットバイトッ!」
ギギモンは堕天使の腕に飛び掛かり、噛み付く。噛み付かれた箇所は高温の熱が発生する。
「ふん。効くかそんな技っ!」
しかし堕天使には効かず、軽くあしらわれ、腕に噛み付くギギモンを地面に叩きつけた。
「がぁっ⁉︎」
「ギギモンっ!」
叩きつけられたギギモンに駆け寄ろうとする。
だが堕天使の鋭い目付きから来る威圧感に襲われ、恐怖で身動きが取れなかった。
「わぁぁっ!」
ギギモンは猛攻な勢いで再び堕天使の腕に飛び掛かり噛み付く。
だがそれでも堕天使には効かず、地面にまた叩きつけられてしまう。ギギモンは何回も噛み付き、そして叩きつけられる度に身体をボロボロにするが、攻撃を止めなかった。
「ギギモン逃げて!」
そんな光景を何度も見ていた士道は悲痛な思いで叫ぶ。
勝てる相手ではない。それはギギモンも良く分かっていた。だがギギモンは諦める訳にはいかなかった。
(絶対に士道を守るんだ!)
大切な友達を守る為に勝てないと分かっていても挑み、勝たなくてはいけない気持ちがギギモンの心を占めていた。
(どうしたら、このままじゃギギモンが死んじゃうっ⁉︎)
士道もまた大切な友達が傷つけられる姿を見るのは嫌だった。
だがここにはギギモンやあの堕天使の他にいるのは自分だけ。誰も助けなど来るはずもない。
「ええい、鬱陶しいっ⁉︎」
何度もしつこいギギモンに流石の堕天使も嫌気が指し、ギギモンを遠くの地面に力一杯で叩きつける。
「もう痛めつけるのも飽きた、終わりにしてやる」
またしつこく来ない様に自身の長い爪に力を集中させる。
ギギモンも反撃しようと動こうとするが、今までの蓄積したダメージで動けなかった。
「ギギモンっ!」
ギギモンが殺されると悟り、恐怖で動けなかった身体を引きずりながらもギギモンの倒れる位置まで這って行き、ギギモンを身体で守る様に包み込む。
「し、士道?何して、るの。早くここから、少しで、も、逃げて」
「嫌だ!ギギモンを置いて逃げたくない!今度は俺がギギモンを守る番だ!」
もっとギギモンと一緒に色んな場所に行って遊びたい。いつか家族にギギモンの事を紹介したい。
––––––もっと楽しい思い出を作りたい。だから
「一緒に死ぬが良い!デスクロウっ‼︎」
堕天使が士道とギギモン達に向かって、腕を伸ばす。
––––––こんな所で、死んでたまるかぁぁぁぁぁぁッ⁉︎
士道の心を叫びに持っていたポケベルが黄金の輝きを放つ。
「な、何っ⁉︎」
堕天使が放たれた技が士道の身体から放つ光に阻まれ、弾き返される。
(何だ、これ、温かい。それに力が漲ってくる)
光に包まれるギギモンはその優しい光に今まで受けた傷が治っていく。それに加え今までに感じた事がない力が身体に流れ込んできた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ⁉︎」
ギギモンは雄叫びを上げ、叫ぶ。
「ギギモン進化––––––ギルモン‼︎」
雄叫びを上げるとギギモンの姿は変わり、戦闘に特化した恐竜の姿になった。