第5話 五年の年月
あのデビモンとの戦いの後、デビモンに破壊された建物や消えた人達は元に戻っていた。しかも誰も街中で戦いがあった事に気付いておらず、騒ぎは起きなかったのは幸いする。
だが全てが元通りになったと思われた中で、一つだけ失ったものがあった。それは士道にとって掛け替えのない友––––––ギルモンがいなくなったこと。
ギルモンがいなくなってからずっとギルモンを探し続けたが、ギルモンは見つかる事はなく、五年の年月が過ぎ去る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
五年の年月が過ぎ去り、士道は身長も伸び、顔つきも子供から大人の顔つきに変わっていた。
「さて、今日の朝食は何にするか」
士道は家の台所で朝食は何にするか考え込んでいる。
度々仕事で家を空ける両親の代わりに、ほぼ毎日朝食を作っているのだ。士道は考えがまとまると、冷蔵庫の中から食材を取り出し、料理を作り始めた。
「おにーちゃんっ!今日の朝ご飯はな〜に?」
朝食作りを進めているとカウンターテーブルから身を乗り出す様に覗き込む少女がいた。
「今日のは豚そぼろとニラのスクランブルエッグを中心にした朝食だな。それよりも飯の前にお菓子を食べるなっていつも言ってるだろ・・・・琴里?」
口に咥えるチュッパチャプスを美味しそうに食べている少女は、士道と三つ歳が離れた妹、五河琴里。
「え〜ッ⁉︎一個だけだから良いでしょ、おにーちゃん?」
「・・・・はぁ〜分かったよ。ただし、一個だけだからな」
「うん!ありがとね、おにーちゃん‼︎」
嬉しそうに微笑んでリビングに戻り、毎朝の日課である星座占いと血液型占いを見る為にテレビの電源を入れる。
『––––––今日未明、天宮市近郊の』
「ん?またあのニュースか」
朝食を作り終え、料理を運んでいるとあるニュース番組を目にする。画面には、無茶苦茶に破壊尽くされた街の様子が映し出されていた。建物など様々な物が崩壊し、瓦礫の山が幾つもある。それはまるで五年前にデビモンが暴走した時に見た同じ光景。
「また起きたんだな・・・・空間震」
空間の地震と称される、広域振動現象。
発生原因や発生時期などが一切分からず、被害規模不確定の爆発、震動、消失など様々な現象の総称とされている。
この現象が初めて確認されたのは三十年前のユーラシア大陸のど真ん中––––––当時のソ連、中国、モンゴルを含む一帯がくりぬかれたかの様に消失したのだ。
死傷者はおよそ一億五千万人。人類の歴史の災害の中で類を見ない最大最悪の災害である。
(しかもそれは半年間も、世界のあちこちで起きたんだよな)
災害が起きて約半年、空間震は地球上の至る所で起きたのだ。勿論の事だが、この日本も例外ではなく東京南部から神奈川県北部、士道が住んでいる地域も空間震の被害で、その地域は円状に焦土と化した。
(ギルモン)
被害地域の映像を見ると、今はいないギルモンの事を思い出す。
「・・・・ちょっと予定よりも早いわね」
「えっ、今何か言ったか?」
「ん〜何でもないよー。それより今日のお昼は何にする!」
「まだ朝飯も食ってないのに、もう昼飯の話かよ。何かリクエストとかあるか?」
「デラックスキッズプレート!」
琴里が言ったのは、近所のファミレスで出しているお子様ランチ。
「一人で行ってこい、って、言うつもりだったけど。今日は琴里の中学も始業式だったよな?」
「そうだよー」
「なら今日は外で食ってやるよ」
「おー!本当かー!」
「あぁ、お互い始業式が終わったらいつものファミレスに行ってやるよ」
それを聞いた琴里は興奮した様子で士道の手を激しく振るう。
「絶対だぞ!絶対約束だぞ!地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」
「はいはい、分かったよ。それより早く食べようぜ。折角作った朝飯が冷めちまうよ」
そう言って琴里と一緒に朝食を取り、和気藹々とお喋りをしながら朝食を食べた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
士道は琴里と家の外で別れ、自分が通う都立来禅高校に向かう。
空間震で更地となった一帯は様々な最新技術のテスト都市として再開発が進まれた。勿論、士道が通う来禅高校もその一つだ。
都立とは思えない程の最新設備が導入されている。それに加え、学校の地下にシェルターが備わっている。
「俺の教室は・・・・四組か」
士道は高校に着くと、廊下に貼り出されたクラス表を確認する。
クラス表を見て回り、二年四組のクラス表に自分の名前があったのを確認すると、四組の教室に向かう。
「俺の座席は」
「五河士道」
「ん?」
後方から声を掛けられ、振り向くと肩に触れるか、触れないかくらいの髪に、まるで人形ではないかと思わせる無表情の少女がいた。
「え〜と、俺に何か用?」
「私の事、覚えてないの?」
不思議そうに首を傾ける少女に、士道は自分の記憶の中を辿る。だが記憶を辿ってみるが彼女の事は出て来る事はなかった。
「ごめん、多分初対面だと思うんだけど」
「・・・・そう」
その一言だけ言うと、彼女は窓際の席に向かって、そのまま椅子に座り、机の中から分厚い本を取り出して読み始める。
「どこかで会ったのかな?」
「とうッ!」
「うげっ⁉︎」
再び記憶を辿ろうとすると、背中に平手打ちが叩き込まれた。
「いってぇ〜、何しやがるんだ殿町!」
背中をさすって背後を見ると、そこには一年の時に同じクラスの友人、ワックスで逆立てられた髪が特徴の殿町宏人がケラケラと笑っていた。
「元気そうじゃないかセクシャルビースト五河」
「セクシャル・・・・何だって?」
「セクシャルビーストだ。この淫獣め、どうやってあの鳶一と仲良くなったんだぁ?」
「鳶一って、もしかしてあの窓際で本を読んでる子の事か?」
「そうだよ。で?いつ鳶一と仲良くなったんだよ?」
「いや俺、あの子の事知らないんだよ」
「はぁ?冗談はよせよ〜あんなに楽しくお話してたのに、知らないって事はないだろ?」
「あれをどう見てそう思ったのかツッコミたい所だが、俺は本当にあの子の事を知らないんだ」
「マジで?」
「マジで」
殿町は信じらないとばかりに目を見開く。大きく溜息を吐き、頭をボリボリ掻きながら呆れる。
「本当に知らないみたいだな。彼女の名前は鳶一折紙、ウチの高校が誇る超天才。成績は常に学年主席で、運動神経も抜群に加え、美人ときてる」
「へぇ〜凄い有名人なんだな。知らなかった」
「全く、五河くんの無知ぶりに流石の殿町さんもびっくりです」
「無知で悪かったなー」
と、話し合いをしていると予鈴が鳴り響く。
殿町は自分の席に向かい、士道も黒板に書かれた座席を確認すると、窓側から数えて二列目の席に向かう。そして、そこで鳶一と隣の席だと気付く。
「あっ」
「・・・・」
流石にさっきの事もあり、少し気不味くなってしまう。気不味いので席に座って、視線を黒板の方に向ける。
それに合わせるようにして、教室の扉がガラガラと開き、縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓につく。
「タマちゃんだ・・・・」
「ああ、タマちゃんだ」
「マジで、やったー」
生徒の好意的な呟きがちらほらと聞こえる。
「はい、皆さんおはようございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせて頂きます、岡本珠恵です」
間延びしたような声でそう言って、社会科担当の岡本珠恵教諭、通称タマちゃんが頭を下げた。頭を下げた拍子に、サイズが合っていないのか、微妙に眼鏡がずれ落ちそうになり、慌てて手で押さえる。
(はは、眼鏡のサイズを変えてない所は相変わらずだな)
「・・・・」
「ん?」
左隣から視線を感じ、気になり横を向いて見ると、鳶一がじっと士道の方に視線を送っていたのだ。
「ッ⁉︎」
目が合い、士道は慌てて視線を前に逸らす。
(一体、何なんだ?)
色々と気になる事はあったが、取り敢えず今は珠恵の話に集中することにした。