風邪やインフルエンザに掛かったりなど、色々な事があり投稿に当てる時間がありませんでした。
これからもぼちぼち時間ができ次第、投稿して行くつもりなので宜しくお願いします。
クワガーモン、トータモンの二体のデジモンが、士道たちの前に現れる数十分前に遡る。
「状況は?」
真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女は、艦橋に入ると最奥の席に歩み寄り、現在の状況の確認を取る。
「司令」
席の隣に控えていた男が、綺麗な姿勢で敬礼を寄越してきた。
司令と呼ばれる少女はちらりと視線を向けると、敬礼を寄越す男の足の脛を自身の爪先で蹴りつける。
「おうっ!」
「挨拶はいいから、状況を説明なさい」
足の脛を蹴られたにも関わらず、恍惚とした表情を浮かべている男は少女の言葉に我に返り、表情を引き締めて、即座に姿勢を正した。
「はっ、精霊の出現と同時に攻撃が開始されました」
「AST?」
「そのようですね」
艦橋のメインモニター画面に、繁華街から離れた広めの道路の上で、十香と鳶一の二人の少女が剣を構え、今にも殺し合いが始まろうとする雰囲気が漂っているのが映像に映し出される。
「まっ、精霊相手じゃどうしようもないでしょ」
「確かにその通りですが、我々が何もできないのもまた、事実です」
「言われなくても分かっているわ。見ているだけというのにも飽きてきた所よ」
体重をかけるように背もたれに身体を押し付け、足を組み、口の中にチュッパチャプスを咥えながら画面を見つめる。
すると少女は画面を見ていると、精霊とASTの近くに他の人影がある事に気付く。
「ねぇ、精霊の側の映像を拡大してくれないかしら」
少女の要求通りに精霊の側の映像を拡大すると、士道が二人を見つめて立ち尽くしていた。
少女は士道の姿を見ると大きく溜息を吐き、右手で頭を抱える。
「全く・・・・何やってるのよ」
「どうします?」
「どうもこうもないは。すぐにあの馬鹿を回収して頂戴」
少女は再度映像に視線を戻すと、避難勧告を無視してあの場にいる士道の馬鹿さに呆れ果てる。
「司令っ!緊急事態です!」
「あら、どうしたの?」
頭を悩ませていると、円卓に着くクルーの一人が額に汗を垂らしながら甲高い声で叫ぶので、何事かと思い状況説明を進言させる。
少女はクルーの慌てぶりの姿にただ事ではないと察し、心構える。
「精霊の近くから高エネルギー反応が確認されます!」
「まさか、新たな精霊の出現?」
「いえ!精霊とは波形が違っていますが、精霊の力に勝るとも劣らないエネルギーが検知しています!」
クルーの叫び声と共に、十香と鳶一が交戦する近くでクワガーモンとトータモンの二体のデジモンが雄叫びを上げて現れる。
「何よあれ⁉︎」
突如現れた二体の怪獣に少女は椅子から勢いよく立ち上がり、目を見開かせて映像を見つめる。
他のクルーも唖然としており、言葉が出なかった。
「一体あれは何なの」
「ッ⁉︎少し離れた場所から同じエネルギー反応を確認!映像を出します!」
「なッ⁉︎」
艦橋のモニターに表示された映像には赤い真紅の怪物が士道の目の前に立ち、顔を見合わせていた。二人の距離は手を伸ばせば届く程に近く、もし怪物が襲い掛かって来れば逃げようが無かった。
少女はすぐにも士道を救出すべく、行動を移そうとクルーに指示を送ろうとした時、信じられない光景を目にする。
目にした光景は怪物が士道に襲い掛かって来るのでなく、士道が怪物をその身に抱き締めていたのだ。何がどうなっているのか艦橋にいる者達は頭の中が混乱する。
(あれは何なの?どうして士道はあの生物を恐れていないの)
涙を流して抱き締めるその姿は、ただならない関係がある様に感じさせられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は戻り、士道はグラウモンの背中に乗りながら暴れ回るデジモン達の下に向かっていた。
「で、どうする士道。デビモンの時と同じ様に倒す?」
「いや、出来れば倒すのは最後の手段にしたい」
デジモン達の下に向かっている途中で、暴れ回るデジモン達を倒すべきか否かをずっと話していた事だ。
士道は倒すのは最後の手段として、暴れるデジモン達を止めたい。何故なら二体のデジモンはデビモンとは根本的に違う所がある。それは今暴れているデジモンは動物の闘争本能で戦っているという事。
そこにあるのはただ目の前の敵を倒す事しか頭にない。それならば何も倒す必要はない。
「何とかあのデジモン達を下いた場所に送り返せたら一番良いんだけどね」
「そこ何だよ、一番の問題は」
グラウモンが言う様に、下いた場所に返せれば良いのだが、その手段がない。
(やっぱり倒すべきなのかなぁ・・・・いや!まだ他に何か方法がある筈だ)
士道は顔を顰めて、悩んでいるとある事を思い出す。
「そう言えば、デジモンが現れる時はいつも歪みの様な現象が起きていたな」
初めてデジモンの卵を見つけた時も歪みの様な現象からだった。
「なら逆にその歪みの場所に戻せば、元いた場所に返せるんだね!」
「確証はないけど・・・・やってみる価値はある」
だがそれをやり遂げるには三つの条件がある。一つ目は歪みがある事が前提に成り立つ。既に歪みが消えていれば作戦は白紙に戻る。
二つ目は歪みがまだ消えていなかったとしても、その歪みがどこにあるのか正確に見つけないといけない。
そして最後の三つ目の条件はグラウモンの体力が最後まで持つかどうか。同じ成熟期が相手とはいえ、二体を相手にするのはグラウモンの体力の消耗や負担が大きい。
「かなり無理をさせるけど行けるか?」
「任せてよ士道!」
「よし、俺も出来る限りのサポートをする。一緒にあいつらを元いた場所に返そう!」
「うん!あっ、でも歪みをどうやって見つけよう。当てもなく探していたら時間が掛かるよ」
「それなら考えがある・・・・」
互いに頷き、最初の作戦と共に歪みを見つける手段を耳打ちし、確認すると二体のデジモンと十香が激しくぶつかり合っている光景を視界に捉える。辺りの建物は形なく崩れさり、周りには平地と化していた。
「行くぜグラウモン!」
「おう!」
グラウモンは雄叫びを上げ、二体のデジモンにこちらの存在を知らせる。デジモン達は突然の雄叫び声に動きを止め、声が聞こえて来た方向に目を向ける。
動きを止めた隙を見逃さなかったグラウモンはその巨体で、トータモンに目掛けて突進する。不意を突かれたトータモンは身体のバランスを崩し、すぐ近くにいたクワガーモンを巻き込んで横転する。地響きが鳴り、土埃がもうもうと立ち込めた。
「また出たか⁉︎」
突然の出来事に呆然とした十香だったが、新手の存在に意識を戻して手にしていた剣を握りしめる。
「待った!待った!十香‼︎」
敵と勘違いされて焦った士道はグラウモンの背の上から顔を出して、今にも襲い掛かって来そうな十香を制止させる。
「シドー⁉︎」
「よっ!」
士道はグラウモンの背中から滑る様に降りる。突然現れた士道に驚いた十香は士道の下に駆け寄る。
「驚かせて悪かったな十香」
「それは構わん。だが其奴は一体」
「あぁ、こいつは俺の友達だ」
「友達?」
「そうだ、俺の掛け替えのない友達だ。敵じゃないから安心してくれ」
「グラウモンだよ。宜しくね」
「ふむ、シドーがそう言うなら信じよう。私は十香だ。宜しく頼む」
「よし、話はついた事で十香に話があるんだ」
「何だ?」
「今から俺達はあそこで倒れている二体のデジモンを元いた場所に返そうと思ってる。そこで十香にも力を貸して欲しいんだ」
「殺すのではなくか?」
殺すという物騒な単語を出てきたが、それは十香にとっては当たり前の事だった。十香の話を少しだが聞いていた士道には胸を締めつられる気持ちになる。
「それは最終手段だけどな。出来ることならあいつらを殺したくない。でも・・・・あいつらを返す手段がなかったらやるしかない」
「・・・・そうか」
十香は表情を暗く曇らせ、自身の剣を握り締める。
(やはりシドーも同じなのか)
初めて自分を殺さないと言われた時は嬉しかった。
今まで自分に会った者は有無を言わずに殺そうとする者や自分は存在してはならないと言う者ばかりだった十香には士道の言葉は堪らなく嬉しかったのだ。
それだけに士道が自分を殺そうとしてきた者達と同じ行動を取ろうとする言葉は、十香には悲しかった。
「でもな十香。俺達はそんな手段を取らない為にも・・・・誰も死なない未来を掴む為にも全力で動くっ!・・・・だけど俺とグラウモンだけじゃ実現できるか分からない。だから俺達に十香の力を貸してくれ‼︎」
(あっ)
何故私はシドーをあの者達と同じだと思ったのだろう。
私を殺そうとしてきた者達は最初から殺しに掛かって来た。だがシドーは殺したくない道を行く為に力を尽くそうしているではないか。
「シドー・・・・うむ分かった!私も力を貸そう!」
「ありがとう十香!」
「で、私はどうすれば良いのだ?」
「まずグラウモンと一緒にあのデジモン達を足止めしてくれ。後できるだけ派手な攻撃は避けて欲しい。まだ街に人がいるかも知れないからな」
「それは構わないがシドーはどうするのだ?」
「俺はこれからあいつらがこの場所に来てしまった歪みに向かう。幸い探す為の手はある」
自身の持つデジヴィスを取り出す。
デジヴィスは歪みが起きた時、いち早く知らせる機能がある。そこで士道はここに来る途中である事を考えた。知らせる機能があるのならば、歪みが起きた場所を見つける事ができるのではないか。
(頼む。反応してくれ)
デジヴィスに望みを託しながら操作していると、幾つかの反応が画面に表示された。
そこには一箇所に集めた三つの反応と、反応と離れた場所にもう一つ別の反応が記されていた。三つの反応にはデジモンの名称があり、離れた場所にある別の反応にはunknownと表示されている。
「三つの反応にはグラウモンの他に二体のデジモンの名前がある。それ以外で反応があるこのunknownは・・・・」
「きっと歪みの反応だよ!やったね士道!」
士道達の頭上から覗き込んで見ていたグラウモンに満面の笑みを浮かべてはしゃぐ。士道も楽観的に決め付ける訳にはいかなかったが、少しでも可能性が出た事に心を滾らす。
「他のデジモンの可能性もあるけど、今はもうこれに賭けるしかない!」
「ならばシドーは早く行け!ここは私達に任せろ!」
十香が剣先をデジモン達が吹き飛ばされた場所に向ける。士道達もその先を見ると、そこには闘争心に満ちた二体のデジモンがこちらに敵意を向けていた。先程まで争っていた二体はすぐ隣の相手に構わず、戦いの邪魔をした十香とグラウモンに目を向けている。
「急いで反応があった場所に行く。だから二人ともそれまで耐えてくれ‼︎」
その場を二人に任せ、士道はデジヴィスが表示される反応のある場所に走り去る。
士道がこの場からいなくなったのを確認した十香とグラウモンは横に並ぶ様にして立つ。
「僕は亀の方を相手するよ。十香はあっちの虫の方をお願い」
「分かった」
剣を握り締め直すと十香は笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
「名前があると言うのは嬉しい物だと思ってな」
今まで自分を前にした者達は幾度となく殺そうと襲い掛かって来た。気が遠くなる程に思えるくらい同じ繰り返しの日々だった。だが初めて自分を殺さないと言ってくれた者が現れた。
最初に聞いた時は自分を油断させるつもりだと思ったが、その者は怯えながらも自分を見てくれた。その瞳からは殺意はなかった。ただ自分を否定せず、見てくれた。
––––––––そして名前が無かった自分に名前をつけてくれた。
他人が聞いたら下らないと吐き捨てるが、自分にとってはそれが何よりも嬉しかったのだ。ずっと否定され続け、心にぽっかりと空いた穴を・・・・士道は埋めてくれたのだ。
「そうだね。誰かに名前を呼んでくれると何だか嬉しい気持ちになるよね!」
「あぁ、だからこそ・・・・こんな気持ちにしてくれたシドーの為にも絶対に彼奴らを止める!」
グラウモンも十香の言葉に頷き、共に士道が目指す未来の為に戦う決意を強める。
十香は素早い動きで、グラウモンは地響きが轟く様に地面を踏みしめてそれぞれが相手するデジモンに向かって行った。