幼馴染を愛した結果   作:鹿島修一

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幼馴染を愛した結果

 

自分には所謂前世とやらの記憶がある。

なんで前世だと断言しないかと言うと境界線が酷く曖昧なのだ。

前世の顔は思い出せない、辛うじて今世と同じ男だって事は覚えている。

名前は分からない、何の特徴も無い名前だった事しか分からない。

知識を覚えているか分からない、数式とかなら分からなくてもまるで元から知っていたかの様に理解している時がある。

 

分からない人の記憶の断片を写しながら、恰も自分が出来ていると周りの人が褒めるのが堪らなく嫌いだった。

これが自分で蓄えた知識だと胸を張って言えたならもしかしたら違かったかも知れないけど、自分では無い誰かの知識かも知れないと思うと借り物の知識を見せびらかしている様で嫌になった。

 

そんな時だろう、俺はあの日、運命に出会った。

 

 

両親が友人の家に遊びに行くと言うからついて行った家で、俺は彼女と出会った。

 

「ふじまる りつかです。よろしくね!」

 

橙色の髪色をした小さな女の子の名前を聞いた瞬間、俺は稲妻の様な物が頭を駆け抜けたと錯覚して、次々と湧き上がってくる得体の知れない知識に頭を痛めてその場で意識を失った。

 

 

 

次に目が覚めた時には知らない病室に寝かされていた。

 

藤丸立花、人理焼却、そして俺は運命を知った。

ヒロインを知った、あの日出会った女の子の果てしない旅路の先と辛い物語を知ってしまった。

 

 

だから俺に一体何が出来るのか考えみたけど答えは出てこない。余りにも手の離れた所で起こる出来事で、無力な自分には何も出来ないと分かってしまったから。

スケールが違い過ぎる、英雄達と共に戦えってか、土台無理なお話しでは無いか。何も出来る筈が無い。

 

だから俺は、藤丸立花に優しくしてあげようと思った。

 

立花が生きたいと思える様に、折れてしまわない様に優しくしてあげようと考えていた。

自分という物が分からないのに死にたく無いからそう考えてしまった俺が嫌いで、藤丸立花と言う女の子と比べて余りにもチッポケな自分を殺したい。

 

未来を知っている俺が、未来を知らない女の子に何も出来やしないのだから。

 

 

 

 

 

立花と出会って5年くらいだろう。

お互いに小学生になった頃の事だ。

 

俺と立花は普段から一緒に過ごす事が多かった。幼馴染と言う関係からしたらそうなるのは当たり前なのかも知れない特に小学生の内は。

 

 

立花は何と言うか、とても世話の焼ける奴だった。

 

「おい、何やってんだ?」

「えっ、空を見ていたんだよ」

「何やってんだか」

 

その行動一つが何処か変わっていて俺からしても見ていて飽きない人間だと分かった。呆れる事も多かったが確かに俺は立花と楽しく過ごせて居たんだと思うよ。

 

 

立花の世話を焼き始めてから俺は少しだけ変われたんだと思う。

前世かも知れない記憶と鈍色だった風景に少しだけ色が戻った気がして、少しだけ楽しかった。

 

そう思うと、もしかしたらこの記憶の持ち主は余り人と関わらなかった奴なのかも知れないと思う様になっていた。

それはなんて寂しい事なんだろうか、思えば俺が思い出す事は全て知識に関係する物であり人との関係なんかでは大した事もなかった。

挨拶から始まって、家族と話す時。

そんな些細な所でも勉強で起きた既視感は何も起きなかった、そう知ってしまうとこの記憶の持ち主はとても可哀想になってきてしまう。

 

だって当たり前の会話が、人として大切な人との繋がりをこいつは感じる事が出来て居なかったんだから。

なあ、どんな前世だったんだ?

親に縛られていたのか自分からそうなったのか、知識だけを詰め込んだ頭だと寂しかったんじゃないのか?

 

本当に満足していたのかな?

いや、満足なんてしなかったんだろうさ。

 

だってーーーー

 

「違えよ。掛け算を教えてんのになんで割り算が混ざって来るんだよ。変に考えないで素直にやってみろって、物事ってのは意外と単純なんだ。どんなに難しく見えても大体の事は簡単に答えが出て来るもんなんだよ」

「だって言ってる事が複雑で余り分からないんだもん」

「・・・あー、悪かったよ。多分教科書の先のページを読んだんだろうけど、やってる事は違うから考えなくて良いんだよ。素直に此処に書いてある事をやれ」

「了解!」

 

そう言って敬礼みたいなポーズをする立花におかしくて笑ってしまう。

こうやって小さな事を教えている時が一番楽しいんだから。

 

なあ、前世かも知れないあんた。もしかしてお前って、教師がやりたかったんじゃないのか?

その知識を活かして、せめて人と関わりたかったんじゃないのか?

不器用な言葉でも、人と話していたかったんじゃないかよ?

 

隣に座ってうんうん悩んでいる立花を見ながら、次はどうやって簡単に教える事が出来るのかを無意識の内に俺は考えている。

ほら、やっぱりだーーー。

 

 

俺が教師で立花が生徒。

その関係はかなり長く続いている。

 

中学に入ってからもそうだった。

 

立花の奴は成績も悪くは無いけど、やっぱり分からない所という物がやはりある。

そんな時、何時も俺は立花達に勉強を教える。

立花達、そう立花達だ。

気が付けば小学生高学年辺りの頃から俺と立花が勉強を始めると他の奴等も混ざって来る様になって来ていた。

 

同じく勉強が分からない様な奴等ばっかりだけど、そんな奴等に物を教えるってのは良い事だと思う。

 

「はい、それでは勉強を始めます」

「先生、口調がおかしいです」

「立花さん、俺は今教師です」

「はーい!」

 

それから放課後に集まった奴等に懇切丁寧に分からないと所を時間をかけて教えていくのだ。

夕暮れの射し込む放課後の教室で勉強しながら笑う奴等を教師役として黒板の前から見渡す景色という物は心を優しくしてくれる。

不思議と嬉しい様な感情が湧いて来て、誰かが満足そうに笑う様な気さえもする。

ああ、人に物を教えるってのは難しいなぁ。

 

そう言って笑う誰かを幻視して、気が付けば頬を冷たい雫が溢れて行く。

それは誰かが流した涙なのか、俺が流した涙なのか今では分からない。

 

「先生私達に混ざらなくて泣いてるの?」

 

そんな俺に気がついた立花が心配そうに聞いて来るが、アホかと笑って返してみせる。

そんなんでは無い、そんなんじゃ無いんだよ。

 

今やってる勉強がなんだか言ってみろよ、受験の勉強だぞ。なあ、未来を知ってる俺にどうしろって言うんだよ。

こんな時間は、何時迄も続きはしないって分かってるだろうが。

 

「欠伸が出たんだよ。泣いてる訳じゃない。俺の事を気にするんだったらサッサと勉強して俺を安心させてくれ」

「・・・うん、分かった」

 

本当に泣いていなかったのか。

気にするななんて嘘なんだよ、今にも俺は泣きそうだ。

死にたくは無い、でも立花を黙って見送る事が出来るのかと、今更になってそんな気持ちが出て来る。

 

死にたく無いからこうやって関わったなんて今更そんな事を言うつもりかよ俺は、助けられた恩を仇で返すのかよ。

なあ、気づいてないと思うけどさ。

俺はお前に救われたんだ、俺が勝手に救われたって思っているけど俺はお前と会えて良かったと本気で思ってるんだよ。

俺の知らない世界をくれたお前が、俺を教師にしてくれたお前が、好きなんだ《愛してるんだ》。

 

 

 

受験が終わって、進学先が決まった後の事だ。

急に立花に呼ばれた所で

 

「ねえ、私さ・・・海外に行く事にしたよ」

 

そんな話を聞いた。

 

「そう、か。別にずっと海外にいる訳じゃないんだろ」

「うん。詳しくは話せないけど一年くらいは帰って来れないんだ」

 

やっぱり、そうなるんだな。

もしかしたら無いかも知れないって可能性もあったけど、やっぱりこうなるんだな。

 

「で、なんで俺に話そうとしたんだよ?」

「綾人は心配してくれないの?」

「心配して欲しいか?」

「ううん。綾人がそう言う事はしないって分かってたからさ」

 

本当は気が狂いそうな程に心配だよ。

今だって無理矢理引き止めてやりたい、でもそうしたら人類が滅びるかも知れない。

でもよ、立花に人類を背負わせるなんてしても良いのかよ。たった一人の肩に何万人もの命を背負える訳が無いだろ、彼女は普通の人間なんだぞ。

 

「お前が決めた、ならそれで良いさ。何を思って海外に行くかなんて知らんが、お前がそう思って決めたなら少なくとも俺は何も言わん。黙って背中を押してやる」

「そう、だよね。綾人は引き止める事なんてしないよね。うん、私決めた」

「ーーーーー」

 

待てよ、まさかーーー。

 

「まだ返事は返して無かったけど。私向こうでも頑張るからさ!」

 

なら、なら今なら止めれたのか?

俺が行くなって言えばお前は止まってたのか、なあおい、なら俺の言葉がお前の決心を付けてしまったのかよ!

ふざけんな!ふざけるなよ、なんだそれは!

 

「じゃあ、今度会う時も笑顔でね!」

「ーーーあっ」

 

そう言って笑う彼奴が遠ざかって行く。

おい、声を出せよ。

行くなって、本当は行って欲しく無いって言えよ。

 

「立花っ!」

「っ!?びっくりしたぁ、綾人がそんな大きな声出すなんて思ってなかった」

「身体に、気を付けてな。何かあったら、直ぐに電話するんだぞ・・・」

 

言えって、そうじゃないんだよ・・・。

 

「あはは、本当は心配だって、素直に言えば良いのに。ありがとう、綾人」

「あ、ああ、悪かったよ・・・」

 

 

 

はっ、はははは。

ああ、遠ざかって行く。

本当の事は何も言えずに、彼奴の教師としてなんの言葉も送れずに、俺はただ遠ざかって行く背中を泣きそうな顔で見送っていた。

 

 

 

 

立花が日本から旅立った日に、俺は意を決して立花の家にお邪魔した。

立花の母親からカルデア天文台と言う表向きの電話番号を手に入れる事に成功した。

 

 

「・・・・死ぬかもな」

 

後ろで誰かが恐怖に顔を歪めているのが分かる、やめろよ俺も泣きそうなんだからよ。

 

 

『はい。カルデア天文台です』

「そちらで一年間学ぶ藤丸立花の友人ですが、レフ・ライノールさんはいらっしゃいますか?」

『レフ教授に本日はどの様なご用件でーーー』

 

そこで一度会話が途切れる。

電話の向こう側では『レフ教授』、『何かあったのかな?』

なんて会話が聞き取れる。どうやらレフ本人が運よく近くにいて反応してくれたらしい。

 

『ああ、そう言う事なら私が出るよ。私がレフ・ライノールですが』

「ああ、忙しい所ご容赦ください」

『いやいや、それで今日はどんな要件で?』

「少しだけ確認をーーー」

 

俺は、彼奴の背中を押してしまった。

なら、立花にだけ危ない橋を渡らせるなんて、したくないよな。

だって、大好きだから

 

「ーーー人理焼却」

『・・・いやはや、何を言ってるのか』

「惚けるなよ、裏切りのユダ。それとも魔術王の事も言えば良いのか?」

『ユダとはまた、何処で知ったのかな?』

 

その声は変わらなく丁寧なままだが、電話口だと言うのに此方の背中には既に汗が噴き出ている。

 

これでもう、後戻りは出来ない。

 

「もう爆弾は仕掛けたか?それともレイシフトするコフィンに細工か?まあ、オルガマリーに心底依存されてるあんたなら何方も容易く出来そうな事だな」

『どうやら私が直接話しをしないといけないお客さんの様だね。近日中に会いに行くよ』

「そうかい、楽しみに待ってるよ」

 

 

そう言って無理矢理電話を切る。

 

そしてベッドに身体を沈み込ませる。

特大な溜息と目に浮かぶ涙。

 

「本当に、死ぬかもなコレは」

 

 

 

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