ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
では記念すべき第10話、お楽しみください!!
2023年8月24日第27層《ロンバール》
sideレイ
俺は27層にある居酒屋にいる。この店はちょっとしたパーティーや祝杯の時に使う俺のお気に入りの店で、その分他の店より値段は0が2つか3つ多い。
カララランッ!
鈴の音に反応して俺がドアの方を見ると、待ち合わせていた人物が入ってきた。俺は手を上げ、相手に位置を知らせた。
「プライベートの場で会うのは初めてかな?レイ君」
待ち合わせの相手、《聖騎士》ことギルド《血盟騎士団》のヒースクリフ団長は俺の顔を見据えて言った。
「えぇ、多分。で……要件とは?」
「そう急ぐ必要はないであろう。…取りあえず何かを食べながら話そうではないか」
ヒースクリフはメニュー表を一瞥した。
「それもそうですね。じゃあ、僕は……《オパールフィッシュの香草焼き》と《ラクリーエール》をお願いします」
「私も同じ物を頼もう。ところで、ここのメニューは他のとは桁が違うが、何故かね?」
そのヒースクリフの言葉はこの店を初めて訪れた俺も思ったことだ。始めは「何だこの値段!?」と思ったが、料理を食べて納得した。ちなみにユウキと一緒に来たところ、ユウキがあれもこれもと食べた為、その日の出費が恐ろしい額になったのは内緒だ。
「まあ、ここは一種の穴場でして、ちょくちょく来ているんですよ」
「なるほど……取りあえず乾杯と行こうではないか、レイ君」
料理が運ばれて、俺とヒースクリフはグラスを交わし、話を始めた。
「まず、ギルド結成おめでとう、レイ君。攻略組の大きな戦力として活躍してくれることを期待しているよ」
「ありがとうございます、ヒースクリフ団長。でも、正直そこまで活躍できるかは分からないですがね」
俺はオパールフィッシュの香草焼きを口に運びながら言った。もちろん全員攻略組の平均レベルは超しているし、バランスもいい。後はもう少し人数が欲しいが、それはないものねだりだ。
「リーダーとサブリーダーがユニークスキルを持っているギルドが強くない訳はない。1頭の獅子に率いられた羊の群れは1頭の羊に率いられた獅子に打ち勝つ、ともいう」
「それはうちのメンバーが羊だとも受け取れますね……」
俺がそう返すと、ヒースクリフは微笑した。
「それは失礼。で、本題に入ろうか……」
そう言うとヒースクリフは真剣な表情になった。
「レイ君の耳にも入っていると思うが、この頃暗躍しているあるギルドについて攻略組の代表としてちょっと話をしたい」
「……《
《ラフィン・コフィン》。SAO初の
「彼にも後々話をしようと思っているが、今は出来るだけ少ない人数でこの問題を話し合いたいと思っている」
俺はなるほど、と思った。少数の方が情報が漏れにくいのは常識だ。その点、2人のみの話し合いというのは一番秘密裏に事を進められる。そのことをヒースクリフは分かっている。
「そうですか……。で、今のところ《ラフィン・コフィン》による被害は30人近いと聞きましたが、そのことですか?」
「いや、そのこともそうだが、もっと問題なことがある」
「……?何ですか、その問題とは?」
「攻略組の中に、《ラフィン・コフィン》のメンバーと通じている者がいる、というのだ」
「………!!」
俺は絶句した。しかし、その可能性がない訳でもなかった。3層で当時の攻略ギルド《ドラゴンナイツ・ブリゲード》と《アインクラッド解放隊》の衝突を図った片手直剣/片手斧使いのPKer、モルテのことは今でも覚えていた。
「で、疑わしい人物はいるんですか?」
俺がそう言うと、ヒースクリフは一瞬逡巡するような表情を見せたが、言った。
「君のギルドのメンバー、ディスペア君だ。目撃証言によると、その人物は黒に近い赤いコートを着て、一撃で相手を殺害したそうだ。そんな色の服を着ているのは攻略組の中で彼だけだ」
「あいつが……ラフコフに……?」
ディスペア、またの名を《煌剣》。彼は攻略組の中でも相当な腕で、俺とは6層からの付き合いだ。俺がギルドを立ち上げると、すぐに入団したいとギルドホームに来て、ギルドのメンバーになった。そう言われれば、2週間前のある日を機に、彼は1人で出掛けることが多くなった。まさかあの時間にラフコフに……?
「まだ可能性の範囲を越えてはいないがね。しかし、攻略組に殺人ギルドの内通者がいるとなると、被害が攻略組に及びかねない。もし本当にディスペア君が《ラフィン・コフィン》と通じていた場合、君にはどんな手を使ってでも彼を止めて欲しい。彼は攻略組にとって必要な人材だ。ここで失いたくはない」
「……」
信じたくはなかった。親友が殺人ギルドと通じ、あまつさえもう既に殺人に手を染めていたなんてすぐに信じられる方がおかしい。
「もちろん、酷な頼みをしている事は重々承知している。しかし、この問題は扱いを間違えるとゲームクリアへの影響も心配されるような物だ。《レインボー・スピリッツ》リーダーであり、ユニークスキル《狙撃》を自由自在に操る《神銃》レイ君、君にしか頼めないのだ。了承して貰えないか……?」
そのヒースクリフの言葉に俺はしばし逡巡した。しかし、どのみち避けては通れない道だ。ならば―
「分かりました。ただし、これを引き受ける上でいくつか条件があります」
「ほう……その条件とは?」
「まずディスペアがラフコフと通じており、その上彼が投降した場合。この場合は身柄は《レインボー・スピリッツ》の所管とし、他ギルドからの一切の干渉及び制裁を禁止する。で、二つ目は彼がラフコフに通じ、そして捕捉及び身柄の確保に失敗した場合。この場合は《血盟騎士団》・《聖竜連合》・《レインボー・スピリッツ》の三ギルド合同の捜索隊を組織し、彼を発見した場合は警告の後、それに従わない時には武力鎮圧する。ただし、生きたまま身柄を押さえる。三つ目、もし彼が通じていなかった場合。その際にはこの会談自体を無かったものとする。この三つの条件を承諾して頂き、盟約に捺印して頂けるのならば、僕を含めた《レインボー・スピリッツ》は総力を挙げてこの問題の解決に努力する……。こんな所でどうでしょう?」
と言いながら俺は《ギルド間外交盟約書》というアイテムを実体化させる。このアイテムは文字通りギルド間の外交に効力を与える為の物で、両ギルドのリーダーがギルド名と自分の名前をサインすることで発効し、どちらかのギルドが約束を破った場合はペナルティーが課せられる。俺はその盟約書にさっき言った事項を素早く記し自分の名前とギルド名をサインするとそれをヒースクリフに回した。
「ふむ、良かろう。それでは君はこの問題を解決してくれるのだね?」
その盟約書にサインしながらヒースクリフが言った。彼がサインし終わった瞬間、盟約書は青く光り、2つに分離した。
「もちろん、と言いたい所ですが、正直解決できる可能性は相当低そうですがね。多分ディスペアがラフコフと通じているのは確実、しかもあのディスペアがそう易々と投降するとは思えないし、すぐに見つかるような場所に隠れるとも思えない」
「では、どうするのかね?」
「決まってるでしょう。《ラフィン・コフィン》ごと叩き潰すまでです。いくら友人といえども犯罪者に堕ちた奴に情状酌量の余地はありません。まあ、それはかなり後の事になるでしょうし、そんなカタストロフを起こさせたくもないですがね」
「前から思っていたが、君は公私をきっぱりと分けられる人物のようだ。普通なら友人を処断するのを躊躇う事が多い。しかし君はすぐに決断した。相当現実では地位のある人物ではないか、と私は思うがどうかね?」
ヒースクリフのその発言に、俺は心の中を見透かされた気分だった。しかし、俺はこの人物と
「どうでしょうかね。そういう団長も、そう見えますがね。まぁ、それはこの問題、いやこのゲームがクリアしてからゆっくり考えましょう」
そうはぐらした俺にヒースクリフは意味深な微笑を一瞬浮かべたが、すぐにいつもの感情を読みにくい顔に戻った。
「確かに。では、そろそろギルドの例会なので失礼する。会計はどうするのかね?」
その言葉に時刻を見ると、既に会談が始まってから2時間が経っていた。
「ここは僕が持ちます。ここを指定したのは僕ですので」
「そうか、それでは良い知らせを期待しているよ、レイ君」
そう言ってヒースクリフが店を出ると、そこには俺の憂鬱と不安しか残されていなかった。
――――――――――
2023年8月24日第24層《パナレーゼ》《レインボー・スピリッツ》ギルドホーム
「……ただいま」
俺がそう言ってホームの扉を開けると、中で待機していたメンバーが一斉にこちらを向いた。
「お帰り(なさい)、リーダー!!」
メンバーのその言葉にようやく慣れてきたが、その事を実感する前に人数を確認する。ユウキ、セブン、スメラギ、レイン、アズサ、フィリア、ファルス……。やはりディスペアの姿はない。
「団長との会談はどうだった?レイ君」
セブンの最もな質問に対する返答に俺は一瞬躊躇した。ここで、ディスペアがラフコフのメンバーの可能性があると言ってもいいのだろうか。
「率直に言う。この会談の主な目的は《ラフィン・コフィン》の対策だ」
「!!!」
《ラフィン・コフィン》の名前を聞いた途端、全員の顔がかすかに強張った。そして、次の俺の言葉を聞くと全員が絶句した。
「そして、そこで本来ならあってはならない事実を言われた。……この《レインボー・スピリッツ》のメンバーがラフコフと通じている、と」
「う、嘘でしょ……」
「……それは誰なんだ、レイ?」
スメラギの質問に俺は正直に答えた。
「今ここにいない、ディスペアだ」
「まさか、ディスペアが夜に1人で出掛けていたのは……」
ファルスのその言葉に俺は頷く。
「ああ、多分ラフコフと接触するためだと思う。だから今日、俺はあいつが外に出た後を尾けようと思う。皆はここで俺からの連絡を待っていて欲しい」
「だめだよ、レイッ!!もし相手が待ち伏せしていたりしたりしていたらどうするの!!」
ユウキのその言葉は最もだ。しかし、ディスペアは攻略組の中でも指折りの、しかも対人戦闘に非常に長けた剣士だ。《煌剣》の二つ名が示すように非常に速く、動きの残像が赤い服と相まって流星が尾を引いているように見えるレベルだ。多分速さの上で対抗できるのは反応速度がバケモノなキリトと反射神経が常人離れしているユウキだけ、攻略組の中でもトップクラスの実力があると言われている俺でも銃をフルに活用した遠距離戦に持ち込んでようやく勝てるほど。そんなディスペアを追跡できるのは実力の上では現状俺とユウキだけ、しかも彼女を危険にさらすわけにはいかない。なら俺が1人で行くしかない。
「そうだよレイ君。ユウキちゃんの言う通り、1人で行くなんて危険過ぎる!!」
レインもユウキの意見を首肯した。緋色に近い色で装備を統一していることと容赦なく敵を斬り捨てることから《緋斬姫》なんていう二つ名が付いている。
「皆が俺を心配してくれているのはよく分かっている。でも、ディスペアの対人戦闘の腕は桁が違う。だからこそ、俺はここで誰か1人でも失いたくないから1人で行く。大丈夫、絶対に生きて帰ってくるさ」
「レイ……。絶対に生きて、帰ってきてくれるんだよね?」
ユウキが真剣な目つきで訊いてくる。
「ああ、絶対にだ」
「全く、兄さんはムチャをするんだから……。」
アズサがため息交じりにそう言った。その顔には微笑が浮かんでおり、俺のこの行動を支持してくれているということが分かる。
「絶対に死ぬなよ、レイ」
「死んだら許さないからね!!」
「死なないでね、レイ君」
「……死ぬなよ」
「絶対に生きて帰ってきてね!!」
上からファルス、フィリア、セブン、スメラギ、レインの言葉だ。
「ありがとう、皆。絶対に生きて帰ってくるから、ここで待っていてくれ」
俺はそう言うと2階にある自室に向けて歩き始めた。
――――――――――
2023年8月24日第19層フィールド
「さて、始めるか」
俺は黒いコートに着替えると、《隠蔽》スキルを発動した。俺の視界の先25mには黒に近い赤に装備を統一した剣士、つまりディスペアがいる。彼の行き先と目的を突き止めること、それが今回の
ただっ広いフィールドを尾行すること15分。ディスペアが方向を変えた。慎重にその後を追うと、彼が向かっているのが通称《圏外村》だと分かった。その事実に気付いた瞬間、俺のかすかな希望は儚く砕け散った。
圏外村とはその名の通り《アンチクリミナルコード圏内》、通称《圏内》ではない拠点のことで、カラーカーソルがオレンジ、つまり犯罪者プレイヤーも立ち入ることができ、彼らの活動拠点や補給拠点として使われることが多く《ラフィン・コフィン》もこの圏外村を拠点にしているとされている。圏外村はその機能において主街区やその他の圏内村に劣ることが多く、また先述のように犯罪者が跋扈しているので普通ならこんな夜間に行く場所ではない。つまり、ディスペアにはどうしても圏外村に行く必要がある、ということだ。
「……」
俺は内心舌打ちしたい気持ちだった。こうなった以上、ディスペアがラフコフの内通者である可能性は限り無く100%に近づいた。つまり、彼を俺は捕縛しなければいけない。その難易度に俺が歯ぎしりしていると—
ディスペアの動きが止まった。後ろを振り返り、俺がいる方向をじっと見つめた。まるで、そこに俺がいることが分かっていたように。
「そこにいるんでしょ、リーダー」
「!!!」
俺は
「どうかしたんですか?メンバーである僕を尾行するのは、相当な理由があると思うんですが」
「とぼけるな。お前は《ラフィン・コフィン》と通じている、違うか?」
その言葉を聞いたディスペアの表情が一気に暗くなる。
「へぇ……よく気付きましたね。さすがはユニークスキル使いですね、油断も隙もない。でも、肝心なことを忘れていますね」
そう言うとディスペアは背中から血のような緋色をした片手直剣、その名も《
「なんだ?」
「それは、僕は対人戦闘に通じているということと……」
と言いながらディスペアは俺に向かって斬りかかってきた。俺は銃身で咄嗟にガードするが、防ぎ切れずダメージが入り、ディスペアのカラーカーソルがグリーンからオレンジに変わる。
「僕がその可能性を検討していること、です」
と言われ俺が索敵スキルを確認するとこちらに向かって来る光点、つまりプレイヤーが10、いや15人。しかも全員オレンジ。つまりラフコフのメンバー。
「っ……!!」
いくらユニークスキル持ちでもこの数を1人で相手をすればとても耐え切れない。リーダーの強制召喚権限を使ってギルドのメンバーを呼び出して迎撃するという手もあるが、ユウキ達を危険にさらすことになるため、その手は使いたくない。つまりここでの最善の選択は戦術的撤退。ディスペアがラフコフと通じていることは確認できただけでも大きな収穫だ。
「なら、逃げるしかないな」
と言いながら俺は転移結晶を手に握り締める。
「そんなことはさせない、と言いたい所ですがここは仕方ないですね。じゃあまた会いましょう、リーダー。その日まで死なないで下さいよ?」
「……」
俺はその言葉には応じず、第24層に転じるコマンドを唱える。次第に光に包まれていく自分の体から目線を外し、ディスペアに目を移すと、彼はかすかに笑っていた。
今回は少し気分が重くなるような話だったかもしれません。次は10話記念ということで番外編を出そうと思います。
感想、評価をどしどしお待ちしています!!!(切実)