ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
では、どうぞ。
2023年9月1日AM10:30第40層転移ゲート前
sideレイ
「準備はいいかな」
俺は目の前で装備や回復アイテムの確認を行っているUCSF、つい先日設立された攻略組の対犯罪者合同対策組織の《攻略組対犯罪者特殊討伐部隊》のメンバーに言った。参加しているメンバーは30名弱、俺の率いるRSPからは指揮官として俺とセブン、前衛の部隊としてアズサとスメラギの4人が参加しており、キリトやアスナを始めとした見知った顔もちらほら見る。今回の捜索作戦は1週間という短い準備期間しか無かったにも関わらず、これだけのメンバーが集まったのには正直驚いた。
「さて、どうするの?レイ君?あまり時間はないわ」
KoB代表として参加しているアスナが訊いてくる。全員が準備を終えたらしく、俺にじっと目線を向けてくる。
「まず、この作戦の概要だけど、今回情報屋や諜報班から得た情報をもとにすると、ディスペアやその他の《
後ろの方で挙手があった。
「もし、全てのポイントで発見出来なかった場合は」
「その際は一度捜索を打ち切り、情報を集め直した後もう一度捜索しようと考えている」
そう言うと、発言者は納得したように頷いた。
「他に質問はないですね?ではまず1つ目のポイントの第25層に移動します。準備はいいですか?」
俺がそう問い掛けると、全員が強く頷いた。
――――――――――
AM11:30第25層フィールド
「いないな」
俺は
「確かにね、まあ最初で見つかるとは思っていないけど」
隣のユウキが言う。俺の班は一応司令部と言う事で、俺、ユウキ、セブン、キリト、アスナと部隊の中で最強とも言えるメンバーで構成されている。司令部でありながら実戦部隊の中核という矛盾している班で、その分他の小隊の戦力が落ちているのも事実だが、司令部が崩壊すると部隊全体が瓦解し兼ねないので、仕方がないともいえる。まあ他の班のメンバーも全員が攻略組の中でも対人戦闘に優れたメンツなので、余程の事がない限り死者が出ることはないだろう。
「でもなんでディスペアは攻略組を裏切ってラフコフに入ったんだ?あいつは今まで軽微な犯罪を犯したこともないし、
キリトが言う。もう3ヶ月前の事件からある程度立ち直り、最近では以前のように普通にメッセージのやり取りもするし、一緒に食事に行くこともある。RSPのメンバーと一緒に攻略に行くこともあり、俺は少しほっとしている。
「そう言われればそうね。レイ君、何か心当たりはないの?」
セブンが俺に訊いてきた。彼女は最近アスナと仲が良いらしく、ユウキを交えた3人で買い物に行ったりすることもしばしばあるそうだ。
「さあな、俺には心当たりはないし正直知らなくてもいい。そんなのはあいつを捕まえてから聞けばいい話だし、どんな事情があろうが罪のない人を
「すっごい割り切っているわね。私はそんなに割り切るのは無理だわ。しかも、彼はレイ君の友人だったんでしょ?どうやったらそんな境地になるのか…」
「団長にも同じ事を言われたよ。でもこれは自分の私情で動いてはいけないしな。仕方がないさ」
『こちらA班、ターゲットを発見できず』
A班リーダー、DDA代表のクルスが通信してきた。基本的に友好的ではないRSPとDDAだが、DDAの前衛隊長を務めるクルスとは例外的に仲が良い。しかし、そのせいでDDAの上層部から不平因子だと思われている節があり、彼のDDA内での立場が悪化しているとの情報もある。
『B班、発見できず』
『C班も同様』
すぐにB・C班のリーダーからも連絡が来た。やはりこの村にはディスペアはいないようだ。
「了解。一度集合地点に集合せよ」
『『『了解』』』
5分後、全メンバーが集合地点である村の入り口に集結した。人数が出発時と変わってないのを確認してから俺は口を開いた。
「じゃあ次のポイントに移動する。各員、警戒を怠らずに移動せよ」
「「「了解」」」
次々に村から出発するメンバーを見ながら、俺は次のポイントでディスペアを見つけられるか、と考えていた。
――――――――――
PM4:00第30層フィールド
「ここで見つかるか…」
俺は狙撃銃を構え、臨戦態勢を取った。これまでの3つのポイントは全て外れだった。だとするとこの30層にいることになるが、はたしてここにディスペアがいるのだろうか。
「いるんじゃないか?さすがに諜報班の情報がそんなに不正確だとは思えない」
隣で抜剣して同じように臨戦態勢を取っているキリトが言った。俺達の司令班は隊の最後尾で、前衛のA班が最前列、B・C班がそれに続き、俺達は後方の警戒と指示を出す役割だ。
「そうだといいが、何せ相手は最凶の
「それに、罠だという可能性もあるでしょ?」
セブンが口を挟む。
「ああ、まあその事を承知した上での今回の作戦だけどな。まさか連中も俺達を超える戦力は投入してはこないだろうし、もし待ち構えていたとしたら正面から叩き潰すだけだしな」
「それ、どう考えても死者が出るでしょ。主にあっちに。というか平和的な解決というのは…」
「考慮に入れている訳ないだろ。そもそも対話ができる相手だったらこんな大掛かりな部隊を組織して投入するわけないし、その点で俺を含めた4人はすでに了解してるのさ。
俺が言うとセブンが顔を俯かせる。2人を含めたRSPのメンバーにはこの事をもう伝えたが、その時には結構な反対があった。しかし、対話できるなら二桁に上る犠牲者を出してなお活動を止めようとしないのはおかしいというのは俺、ヒースクリフ、リンド、グヴァイスの4人、つまり攻略組の四大ギルドのトップの共通見解だった。
「でも、死者は出したくないな…」
キリトが言う。俺もそうあって欲しいのはやまやまだ。もし今回の作戦で死者を出してしまえば、もうDDAとDoDは対ラフコフでの協力をしなくなる。
「ああ、でもそれはあくまで俺達サイドの話だ。超法規的解釈になるが、先の会談で身を守るために他に方法がない際は殺人者に対する現実での政府に代わる処罰としてラフコフメンバーの殺害は許可されている」
「それ、法律的に大丈夫じゃないだろ…」
「まぁな。でもUCSFを
俺がそう言うと今度は全員が眉をひそめる。めちゃくちゃなことを言っているのは重々承知しているが、攻略組プレイヤーを守るためには仕方がないのだ。
『こちらA班。目的の村を視認。十数名の存在を確認』
最前列を歩くA班から連絡が入った。俺は指示を出す。
「カーソルの色を確認しろ」
『了解。……!!カーソルは12名がオレンジ、2名がグリーン!!』
「何……。一時停止、他の班が到着するまで指示を待て」
俺は狙撃銃のスコープを覗いた。何人かのプレイヤーが見える。そしてその体には、笑っている棺桶から手が出ている紋章のタトゥーがあった。間違いない、あれはラフコフの紋章。
「総員戦闘準備。ラフコフメンバーを確認。警戒しつつ接近し、攻撃を受けた場合は迅速に反撃し、これを鎮圧せよ」
と言いながら俺はスコープの倍率を上げた。このスコープは最大2km先まで見通せる。
「………っ!!」
俺は唾を飲み込んだ。倍率を上げたスコープ越しの俺の視界に写ったのは、血に近い紅色のコートを着た片手直剣使い、つまり……ディスペア。
「…急ぐぞ」
「えっ!?どうしたの、レイ君!」
言うなり走りだした俺を慌てて追いながらセブンが訊いてくる。後ろからキリトやアスナもついてくる。
「レイ君、まさか…」
「ああ、ディスペアだ。あいつは前衛の奴らだけでは勝てない」
キリトの問いに疾走しながら答える。最前列との距離はもうすでに100mを切っている。
「A班、ターゲットの存在を確認した。今、そちらに向かってる。臨戦態勢を崩すな」
『了解』
「死者はなるべく出さないようにしたいね…」
アスナが言う。
「まあ難しいとは思うがな……はぁっ!!」
最前列が見えると、俺は跳んだ。敏捷力パラメータの限界ギリギリまで跳躍し、前に出る。キリト達も同じ様に跳び、俺達4人がA班の前になった。
「クルス、連中と交戦した時は俺達がディスペアを足止めするからA班はC班と他のラフコフメンバーの捕縛に動いてくれ」
俺のすぐ後ろで両手剣を構えるクルスに言う。
「…分かりました。B班はどうしますか?」
「B班には連中の退路を封鎖させる」
俺の指示を聞くとクルスは他の班に指示を伝え、再び前を向いた。
俺は通信アイテムの周波数を全メンバーに通じるそれに変え、言った。
「総員、準備はいいな。それでは作戦を開始する。A・C班はラフコフメンバーは捕縛、B班は退路を封鎖しろ。突入の合図は発砲音だ。……作戦開始!!」
言い終わると、俺は狙撃銃を空に向け、1発撃った。その音に気付いたラフコフのメンバーがこちらを振り向く前に、UCSFのメンバーが村に次々と突入する。あちこちで白兵戦が始まる中、俺はディスペアを探した、すぐに村の外れで紺色の結晶を取り出していた紅色のプレイヤーを見つけると、そいつに1発銃弾をぶち込む。パンッという音と共に弾は奴の手に向かい、そこにあった
「へぇ、狙撃銃の銃弾って結晶アイテムも破壊できるんですね。…1週間ぶりですね、リーダー」
「生憎お前は
銃をライトディフェンサーM4CRに持ち替え、銃を向けながら俺が言うと、ディスペアは抜剣しながら答えた。
「そうでしたね、レイさん。……二つ名持ちの4人とは、随分豪華な布陣ですね。それほど僕のことを評価して頂けるなら光栄ですね」
「決して死者を出すなと言われてるんでな。ついでに、お前を生きて捕らえろ、ともな」
と俺が言うと、ディスペアはニヤリと笑った。ユウキは俺の横で剣を抜いているし、キリトとアスナも囲う様にしてディスペアに剣を向けている。心配なのはこの中で一番近接戦闘力が低いセブンだったが、しっかりと片手槍と楯を構え、攻撃に備えている。
「1対4は厳しいですねー。でも、やれるだけの事はやりますかっ!!」
シュンッ!!
「っ!!」
ディスペアがこちらに突っ込んできた。ダーククリムゾン色に光る剣閃が俺の体に照準を合わせている。凄まじい速度だ。俺はステップで回避しようとしたが間に合わない。ダメージを覚悟し、俺が目を瞑ると—
キィィィンンン!!!
「せぃっ!!」
キリトが放った片手直剣単発技《シングル・フラッシュ》がディスペアのソードスキルを迎撃した。結果、軌道をずらされたディスペアの剣は俺の頬を掠め、そのまま空を切った。
「くぅ、やっぱ対多人数戦はニガテなんですよね。こんな風に邪魔されるんで。でも…これで、どうですっ!!」
「はぁぁ!!」
ディスペアの体ごと剣が回転し、360度を薙ぎ払った。虚をつかれた俺達5人はそれをモロに食らってしまう。楯を構えていたセブン以外の3人は大きく吹っ飛ばされる。
「くっ…なんだ、そのスキル?見たことがないぜ、そんなの…」
俺が立ち直りながら言うと、ディスペアは口元に微笑を浮かべながら言った。
「…さぁ?」
そうはぐらかしながらディスペアはポーチから転移結晶を取り出し、コマンドを唱えようとする。
「させるか……っ!!」
俺は銃の引き金を引こうとした。しかし、出来なかった。いや、
「あ、そうそう。言い忘れていましたが、こソードスキルを直撃で食らうと、ランダムでデバフが付く効果もあるので。……では、いつかまた会いましょうね、レイさん」
と言ってディスペアはポリゴンの欠片を残しいずこかに消えた。
村ではUCSFとラフコフの白兵戦が終わったらしく、クルスが俺達を呼ぶ声が聞こえた。しかし、俺はただ茫然としていた。
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