ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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 疲れた…


《第16話》竜使いの少女との出会い

2024年2月16日PM4:00第35層《迷いの森》

side シリカ

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 もし、私が癇癪(かんしゃく)を起こしてパーティーを抜けなかったら、こんな事にはなってなかったかもしれない。

 私は、このダンジョン《迷いの森》に地図なしで彷徨っていた。このダンジョンで地図をなくせば、最悪脱出には高価な転移結晶を使用しなくてはならない。

 

 そして、今の状況に陥っていた。今私は《ドランクエイプ》3体と交戦している。

 

 最初は簡単に戦闘を終わらせられると思っていた。しかし、私は気づけなかった。ドランクエイプの特殊能力を。

 その特殊能力とは、奴らが壺の中の液体を飲むと体力が回復することだ。そのせいで、1体を倒そうとしても後ろから他の個体が強引に戦闘に割り込んで、その間に攻撃していた個体が体力を回復させ、それをループさせている。 でも、勝機はあるはずだ。何故なら私は独りではなく相棒のピナと戦っているのだ。きっと―

 そう思った時、私は気づいた。すぐ後ろが木だということに。さらに、HPは危険域(レッド)に突入している。ピナが回復させてくれるが、その量は微々たるものだ。

 そんな追い詰められた私をドランクエイプの棍棒が襲う。

 

 しかし、その攻撃が私に届くことは無かった。ピナが私を守るために、ドランクエイプに突進したのだ。ピナの体力はどんどん減っていき、最後はゼロになりポリゴンの欠片となって消滅した。

 

「嘘……」

 

 私の頭は即座に怒りに染まった。そして、ピナの命を奪ったドランクエイプに飛び掛かり、短剣ソードスキル《ラピッドバイド》放つ。しかし、私の怒りを込めたその一撃は運悪く避けられてしまった。私の頭の中に《死》という単語が浮かぶ。ドランクエイプが放った一撃が私に襲い掛かるその瞬間―

 

 ドランクエイプ3体の体を薄緑色と紫色の光が一閃し、その直後にドランクエイプがポリゴンの欠片として消滅した。

 

 私はソードスキルを放った人を見た。

 

 全身を翠玉(エメラルドグリーン)色に統一した少年と、それと対比するように同じデザインの紫色の装備に身を包んだ少女がいた。見た目から、私は自分とあまり年が離れていないな、と思った。

 

 その2人は左右に剣を振った後、その剣を腰の鞘に納めた。

 

「…すまない」

 

 翠玉色の少年が発した第一声がそれだった。その声は少年らしい倍音もあったが、感情をぎりぎりまで削ぎ落としたかのような冷たい印象だった。

 

「えっ!?」

 

 その言葉に私がびっくりして言うと、その少年はさらに言った。

 

「君の友達を…助けられなかった。すまない」

 

 その言葉に、私はまた涙が溢れ出た。その様子を見て、紫色の少女が言う。

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です……うっ」

 

 私はそう言いながらも、涙を止めることは出来なかった。

 

「…最近分かったことなんだが、その《形見》というアイテムが残っていれば、使い魔を蘇生させることが出来るかましれない。3日以内なら形見アイテムに第47層にある《思い出の丘》というダンジョンで取得できる《プネウマの花》というアイテムの粉を振り掛ければ蘇生は可能だ。第47層は君には少々難易度は高いとは思うが」

 

 少年のその一言に、私は目を見開いた。ピナを蘇生できるかもしれない。しかし、47層はもう安全マージンを優に超えている。手段はあるのに実行できないという矛盾した状況が、私の心を苛んだ。

 

「でも…私のレベルじゃ…」

 

 私がそういうと、少年はいくつかのアイテムを実体化させた。《シルバスレッド・アーマー》、《イーボン・タガー》……どれ1つとして見た事が無い。

 

「あの…」

 

 途惑いつつ少年に声を掛けた。

 

「この装備っで5、6レベルは底上げできる。俺達が一緒に行けば…なんとかなる」

 

 トレードウィンドウにそれらの装備が表示される。私は今持ち合わせている全財産をそれに乗せようとした。

 

「あの…これ少ないですが…」

 

「いや、構わない。俺達の()()にもかぶってくるんでな」

 

 少年はさっさと金を受け取らずにOKボタンを押してしまった。

 

「俺の名前はレイ。よろしく」

 

「ボクの名前はユウキ。よろしくね」

 

2人が名前を言ったので、私も慌てて名前を言う。

 

「私の名前はシリカです。よろしくお願いします」

 

 そして、私たちは街に向かって歩き始めた。

 

 

第35層主街区《ルーザスベール》

 

 あれからすぐに私たちは第35層主街区の《ルーザスベール》に来ていた。ここには私が気に入っている宿屋があり、そこのチーズケーキをレイさんとユウキさんに奢るためだ。

 

 しかし、問題が1つあった。私がフリーになったという情報を聞き、勧誘しようというパーティーがたくさんいたことだ。しかし、今はピナの蘇生が最優先だ。私は嫌味にならないように断る。

 

「あの…お話は有り難いのですが、今はこの方達とパーティーを組んでいるので…」

 

 勧誘してきた男性プレイヤーにそう言うと、彼は後ろのレイさんに詰め寄った。

 

「あんたら、見ない顔だけど…抜け駆けはやめて欲しいな。俺達はずっと前からこの子をパーティーに誘っているんだからな」

 

「断る。というか俺達と組むというのがこの子の自由意思である以上、第三者に過ぎないあなたがそれに口出しする権利はないはずだ」

 

 レイさんが事務的な口調でそう言うと、そのプレイヤーは苦々しそうな表情を浮かべて去っていった。

 

「すみません、迷惑掛けっちゃって」

 

「いや、構わないさ」

 

 私がそう謝ると、レイさんは特に気にする風もなくそう言った。

 

sideout

side レイ

 

 全く、依頼の件もあってシリカという女の子とパーティーを組んだのはいいものの、さっきから俺に何人ものプレイヤーが詰め寄ってきて対処に困る。ていうかなんで俺だけでユウキは何も言われないんだ?

 

 最後のプレイヤーを追い払い、シリカにお礼を言われていると、ユウキが声を掛けて来た。

 

「レイ、宿はどうするの?」

 

「あっ…」

 

 完全に宿の事忘れていた…どうしよ…

 

「えっと、レイさんホームはどこに…」

 

 シリカが訊いてきた。どう答えたらいいんだ、コレ?虹紫館(ギルド本部)だと49層になるし、個人のホームだとユウキと同じ50層になるし…まあ個人のホームでいっか。

 

「ああ…いつもはユウキと同じ50層なんだけど、面倒だから此処に泊まるよ。ユウキもそれでいいよな?」

 

「うん、ボクはそれで問題ないよ」

 

「了解。という訳で此処の宿屋に泊まることにしたよ」

 

 と俺が言うとシリカの目が心なしか明るくなったような気がした。

 

「ホントですか!ここのチーズケーキ、結構いけるんですよ」

 

 それを聞いた瞬間ユウキの顔が輝く。こいつは食べるの大好きだからなあ。

 

「それボクも食べてみたいなあ」

 

「ということで道案内をお願いしてもいいかな?シリカさん」

 

「はい!あと、シリカでいいですよ」

 

 そんな会話をしながら歩いていると、シリカが今日から組んでいたパーティーと偶然会ってしまった。その中の最後尾にいた女性プレイヤー、ロザリアが前に出て来た。

 

「あら、あのトカゲ、どうしたのかしら?」

 

 シリカは唇を噛みながらロザリアの言葉に応えた。

 

「ピナは死にました!でも…きっと生き返らせて見せます!」

 

「へぇ、ってことは《思い出の丘》に行くのね。あんたのレベルで大丈夫?」

 

 ロザリアが言う。俺とユウキはシリカを庇うように前に出た。

 

「そんなにレベルの高いダンジョンじゃない。3人で行けば問題ない」

 

 ロザリアはあきらかに好奇の目線で俺を見ると、紅い唇に再び嘲るような笑みを浮かべた。

 

「そう。まあせいぜい頑張ることね」

 

 そう言い残し、ロザリアたちのパーティーは去っていった。

 

「レイ…もしかして…」

 

 ユウキが俺に訊いてくる。

 

「ああ、多分標的(ターゲット)だ」

 

俺はシリカに聞こえないように答える。昨日俺達は最前線でとある依頼を受けていた。

あのロザリアという赤髪のプレイヤーは多分その依頼のターゲットだ。

 

「な、何の話ですか…?」

 

 俺達の話を訝しんだシリカが声を掛けてくる。俺は慌ててごまかした。

 

「いや、なんでもないさ」

 

「うん。なんでもないよ。それより、大丈夫?」

 

 ユウキがシリカに声を掛けた。

 

「…大丈夫です。ありがとうございます、ユウキさん」

 

「気にしなくていいよ。じゃあ行こうか。ほら、レイも」

 

「はいはい」

 

 俺達は宿屋《風見鶏亭》に向かった。ここの1階はレストランのようになっている構造だ。俺達は一番奥のテーブルにつき、料理が来るのを待った。

 

「なんで、あんな意地悪言うのかな…」

 

 シリカがポツリと呟いた。俺はそれを聞き、シリカに言った。

 

「君は、MMOはSAOが…?」

 

「はい、初めてです」

 

「そうか…。どんなゲームでも、自分から犯罪者や殺人者になる連中は少なからず存在する。それを、役割演技(ロールプレイ)と呼んでいたし、そういった奴らが発生するのは従来のMMOでは普通だったし、時にはそこから文化が生まれることも少なからずあった。でも、このSAOではHPが消えれば生身の生命(いのち)も吹き消される。にも拘らず、一定数人の足を引っ張り、最悪死に至らしめる奴も存在する…俺も、人の事は言えないんだがな」

 

「いえ…レイさんはいい人です。私を助けてくれたんですもん」

 

「そうか、ありがとう」

 

――――――――――

 

 俺達はレストランを出た後、2階の部屋に向かった。んで、別々の部屋を取って明日に備える。

 

 

「ねえレイ、明日は犯罪者(オレンジ)ギルドと戦うことになるかもしれないね…」

 

「ああ、シリカを囮にする形になっちまうだろうな…」

 

 まあ、情報によると中層のギルドらしいからシリカに危害が行く可能性は低いが…

 

「それは仕方ないね。だってボク達はUCSFのメンバーだよ。犯罪者を捕まえるのが任務だし、()()()も殺さずに黒鉄宮に送ってくれって言ってたし、ね」

 

「確かにな。だから、明日はシリカの護衛をお願いな」

 

 俺がユウキに言うと、ユウキは頷いた。

 

「了解。…キリトは呼ぶの?」

 

「そうだったな。取りあえず呼んどくか。連中が逃走した時に退路を塞がないといけないしな」

 

 と俺が言った瞬間、“コンコン”というノック音が聞こえた。

 

「誰だろう?多分、シリカちゃんだと思うけど…」

 

「俺が開ける。ユウキ、警戒よろしく」

 

 俺は腰のホルスターから自動拳銃を抜いてドアに近づく。念のため、煙幕手榴弾(スモークグレネード)も装備してからゆっくりドアを開ける。そこにシリカの姿が見えた瞬間、拳銃をホルスターにしまう。この時点で彼女に俺達の正体がバレるとまずい事になる。

 

「あっあの、レイさん、ユウキさん、こんばんわ。明日の第47層について話を聞きたくて…」

 

「ああ…1分ほど待っていてくれるか?」

 

 シリカが頷いたので、一度ドアを閉める。俺は完全にドアが閉まったのを確認してからウィンドウを開き、キリトに協力を頼む旨のメールを送信し、再びドアを開けた。

 

「待たせたな。じゃあ入って」

 

「はい、お邪魔します」

 

 シリカは椅子につくと、俺に訊いてきた。

 

「それで、明日はどんなルートで行くんですか?」

 

「うん、今から説明する」

 

 そう言いながら俺は説明に使うアイテムを実体化させた。

 

「綺麗…。そのアイテムは何ですか?」

 

「これは、《ミラージュ・スフィア》っていうアイテムだよ。シリカちゃん」

 

 俺の代わりにユウキが答えた。

 

「それじゃ、説明始めるな。ここが第47層の主街区で、こっちが思い出の丘。この橋を通るとちょっと厄介なモンスターが出始めr」

 

 俺はそこで会話を止め、ユウキと同時に言った。

 

「「誰だっ!!」」

 

 俺はドアを開け、廊下に出る。そこにプレイヤーはいなかったが、階段を慌てて駆け降りる足音が聞こえた。

 

「どうだった?」

 

 部屋に戻ると、ユウキが訊いてきた。

 

「姿はいなかったが、索敵(サーチ)には掛かった。グリーンが1人」

 

「そうか…多分聞かれたね」

 

「えっ…でもドアを閉じていれば声は聞こえないんじゃ…」

 

 シリカの疑問は最もだ。

 

「聞き耳スキルを上げているとその限りじゃないんだ。そんなスキルを上げてる奴はよっぽどの物好きなんだが」

 

「でも…なんで会話を…?」

 

「これは俺の予想だが…明日になればわかるさ。俺はメッセを打つから待っててくれ」

 

 俺がとある人物にメッセージを打ち、横を見るとシリカとユウキが仲良く寝ていた。

 

「はあ、俺は床で寝ますか…」

 

 そして、夜は更けて行った。




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