ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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 更新が遅れました……
 それでは番外編第二弾、お楽しみください!!


《番外編2》アバターイン・リアル

2024年4月23日AM11:00

side桧音

 

 深い青色の輝点が三つ、並んでいた。

 

 (かえで)()()(おん)は、それらの光点に触れてみた。

 

 フルダイブ型VR(仮想現実)マシン《ナーヴギア》の稼働状態を示すLEDインジゲーター。それらの内の左端の光点が赤色に変わった時――それはギア使用者の脳が破壊シークエンスによって破壊された事を意味している。

 

 ギアの主、桧音の一歳上の兄である楓野(ひさぎ)は、病室に設えられたシェルベッドの上で、醒めない眠りに就いていた。否、彼の魂は遥か遠くの異世界で日夜戦っている。己と、数千人に上る虜囚プレイヤーの解放を賭けて。

 

「お兄ちゃん…」

 

 桧音は柃に呼びかけた。正直な所言うと、桧音はこの兄が少し嫌いだった。怜悧、秀才、神童、100年に1人の天才、楓野財閥が生んだ奇跡等々、様々な異名を取る。様々な能力を持ち、《もはや人間ではない》とまで言われる。特殊過ぎる身体を持つ柃を桧音は嫌い、同じく秀才ではあるものの柃のような特殊能力は持たずにあくまで《普通の人間》である柃の双子の弟、つまり桧音の次兄にあたるもう1人の兄・(あずさ)と一緒にいるようにしていた。

 

「もう1年半経つんだね……私、もう中学3年だよ…ってお兄ちゃんはあまり関係ないか…」

 

 桧音は1人呟いた。柃は10歳の時にMIT(マサチューセッツ工科大学)を次席で卒業しているので、中学に行っていない。ただ、MITに共に留学した七色・アルシャービン博士とアメリカやロシアの大学に研究しに行くことはたびたびあるが。

 

「おや、楓野さん、来られていましたか」

 

 後ろから不意に声がして桧音ははっと後ろを振り返った。そこには黒縁眼鏡の上に長い髪を垂らした男性が立っていた。

 

「……菊岡二佐」

 

 男、総務省《SAO事件対策チーム》のメンバーの1人でありながらその実は陸上自衛隊統合情報本部に所属する二等陸佐である菊岡誠二郎二佐は少し笑った。

 

「今日は自衛隊の代表として来ました。と、言うのも……柃君、いや、楓野柃特殊作戦群第1群長補佐は、5月7日をもって統合情報本部統合幕僚会議事務局副局長兼陸上幕僚長補佐に異動。階級は1等陸佐に昇格。という本部からの辞令を持参しました」

 

 菊岡は懐から辞令を取り出し、ベッドのそばのテーブルに置いた。

 

「私にそんなこと言われても分かりませんよ、菊岡二佐」

 

 桧音はおどけて言った。

 

「それは失礼いたしました。しかし……今でも信じられないですね。戦闘能力、指揮能力、()()()()。自衛隊員に求められる能力を全て兼ね備えている彼が、かの楢樹会長の孫とは……」

 

 菊岡は言った。そう、桧音・梓、そして柃は、資本金28兆円・従業員120万人を抱える世界ランク第7位の超巨大企業、《楓野総合企業グループ》通称楓野財閥の総帥、楓野楢樹の孫だ。

 

「兄は片手で数えきれない意味で変ですから。一番は……《アインツ》のキャリアであることですよ」

 

 桧音は言った。《アインツ》とは柃のように一種の天才性を示す原因不明の脳症だ。その確率はおよそ4億人に1人、つまり0.000000000025%という恐ろしいもので、日本でこの症候群に罹患しているのは柃と七色・アルシャービン博士のみだと言われている。

 

「何故彼が陸上自衛隊に入隊したのかよくわからないほどですね」

 

 菊岡は不思議そうに首を傾げる。

 

「兄は………自衛隊に入れば公的な身分が保証される、さらに大学では学べない色々な事を学ぶ事が出来る。そう言ってました」

 

「なるほど。おかげ様で防衛省は楓野財閥のバックアップを得られ、予算は非常に潤沢になったので、まさにwin-winといったところでしょうか」

 

「さすがに家に基地が作られれたのには驚きましたけどね」

 

 そう、横浜市にある楓野家の広大な敷地内にAH-64D戦闘ヘリ2機を主力とする陸上自衛隊横浜北部即応航空部隊が2年前に配備されたのである。ちなみに、予算は全額楓野財閥持ちだ。

 

「あれは彼が希望しましたからね。遠方への移動は基本的にAH-64Dで移動してますから。要人警護と言う意味では戦闘ヘリほど適した移動手段はないですからね」

 

「そうですね……」

 

「では、この辺りでお暇させて頂きます。よろしければお送りいたしますが?」

 

「大丈夫です。ここから家まではすぐなんで」

 

 そういうと、菊岡は「そうですか」とだけ言って退出していった。

 

「大変だね………お兄ちゃんも」

 

 桧音は呟いた。彼が現実世界(こっち)に帰って来てからも、色々とすべきことはまだまだ無くならないだろう。

 

 桧音は柃が仮想世界に囚われてから彼のことを少しづつだが理解し始めた。特殊過ぎる体を持つことは必ずしも喜ばしい事では無い事。公的な立場があるが故の苦労。前までは反発しかしてなかったが、今では兄の事が少しは理解できるようになったと思う。

 

「祈ること……だけだね。私が出来るのは」

 

 桧音はそっと柃の頬に触れた。その体温が、かすかに、しかし確かに伝わって来た。




 移動手段が戦闘ヘリ……もはやチートですね。
 次は本編に戻ります。次回もお楽しみに!!
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