ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
大分遅れてしまいました
《第44話》再会
東京都世田谷区 自衛隊中央病院
「やぁ柃君、お客さんを連れてきたよ」
菊岡に木綿季の居場所を探してくれるよう頼んで早2時間。すぐに彼は戻ってきた。
「……どうぞ」
「さ、入って入って」
菊岡に促されて病室に入ってきたのは―――
「……
菊岡の横に立っていたのは俺の妹、楓野桧音だった。
「お兄ちゃん……」
「……ただいま」
俺はそう言うことしか出来なかった。俺と桧音の間にしばし沈黙が流れる。すると―――
「うぐっ……ひぐっ……」
俺が横たわるベッドの側に来た途端、桧音は泣き出してしまった。
「どっどうしたんだ?」
俺は慌てて駆け寄ろうと体を起こそうとする。しかし、背骨が弱っており起き上がることが出来ない。
「……お帰り……お兄ちゃん……お帰り……!!」
桧音は泣きじゃくる顔で何とか俺の方に向けると、精一杯の笑顔を見せて言った。
「……ただいま。桧音」
俺はベッドの上から桧音を抱き締めた。2年ぶりに会う妹の体温を体で感じ、一気に生還したんだという実感が湧いてきた。……別にシスコンとかじゃないぞ。
「……今まで心配掛けてごめんな」
「…ううん。お兄ちゃんが帰ってきてくれただけで十分だよ……」
桧音は涙を拭い、顔を上げた。
「お母さん、迎えに行ってくるね」
「母さんも来てるのか?」
「うん、ちょっと時間掛かるけど、お父さんと一緒に来てるって」
桧音はそう言い残すと病室を出ていった。
「柃君、話は終わったかい?」
桧音と入れ替わりに入ってきた菊岡は、何かの書類を手に持っていた。
「ええ、それで頼んでいたことは?」
「バッチリだよ。紺野木綿季君は神奈川県横浜市の横浜港北病院に入院している。後、これはついでにだけど、君の弟の梓君は横浜市立市民病院に入院しているよ」
優秀だわ……
「ありがとうございます。助かりました」
ベッドの上から礼をする。菊岡は「どういたしまして」とだけいい、退出していった。
「……寝るか」
俺は、明日からのリハビリに若干嫌気が差しながら、再びベッドに体を臥した。
――――――――――
生還から2か月後、神奈川県横浜市北区楓野邸
「おはよう」
俺は寝室から出て、横の部屋にいる梓の部屋まで行き、朝の挨拶をする。
「おはよう兄さん」
2人とも、病院でのリハビリを無事済ませて家に戻ることが出来た。
「柃兄ちゃん、梓兄ちゃん、おはよう」
2人揃って一階に降りると、先に降りていたらしい桧音が手を振ってきた。
「3人とも
兄妹揃ってダイニングに入ると、母のレーナが俺たちを出迎えてくれた。帝政ロシア時代の貴族の血を引くロシア人で、外交官として日本に来たときに父と出会い、一目惚れしたと聞いた。昔気質な祖父も何故か反対しなかったらしい。
「ありがとう母さん。俺は今日用事があるから、御飯食べたら出かけるね」
俺は食事を取りながら言う。レーナは思い出したように手を叩いた。
「そうだったわね!貴方の
間違ってはいないんだけど、やっぱなんだか恥ずかしいな。
あの後、リハビリを
『もし柃が良いなら……ボク……柃の家に住んでみたいな』
『……はい?』
流石に戸惑ったし双方の親が許さないと思ったが……なんと俺の家と木綿季の家は500mと離れていないことが分かり、更に木綿季の両親はまさかの娘の居候を許ししかも母のレーナは『全然構いませんよ』と宣う始末、というわけで何故か木綿季が俺の家に居候することになった……ので今日、木綿季の退院日であるこの日に俺は彼女を迎えに行くことになったというわけだ。なお父親や楓野家の絶対権力者たる祖父の許可がもらえてないので暫定、ということになるのだが。
「……うん」
「私たちも行っていいかしら?」
「……もちろん」
俺がそう言うとレーナは笑顔で頷いた。
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ」
朝食を食べ終わった後、俺は外行きの服に着替え家を出ようとする。すると、この家の執事である冷泉さんが声を掛けてきた。
「柃様、桧音お嬢様、お出かけでしょうか」
「うん、港北の方に行ってくる」
「左様でございますか。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
見送ってくれる冷泉さんを後に、俺と桧音はエレベーターを下って駐車場に向かう。
「お待ちしておりました、楓野一佐。どうぞこちらへ」
地下の駐車場には、俺の警護役兼運転手の宗守一尉が待っていた。
「うん、ありがとう」
俺は桧音と連れ添って専用の防弾車両に乗り込む。見た目は一般的な乗用車と変わらないが、車内には小銃等不測の事態に備えて最低限の武装が確保されている。
「どちらまで?」
「横浜港北病院までお願いする」
「了解しました」
宗守一尉はそう言うと車を発進させた。
――――――――――
「到着しました」
目的地である横浜港北病院に無事到着し、俺は宗守一尉に礼を言って車を降りた。
「お帰りは?」
「母が迎えに来ます。大丈夫です」
「了解しました。では」
宗守一尉はそう言うと来た道を戻り車を走らせていった。
「……さて」
俺は眼前に聳える病院を見据え、入口に向け歩き出した。桧音も後ろから付いてくる。
中に入り、スマホを取り出す。そう言えばどこにいるのか聞いていなかった。
「………」
待合室の端っこで目立たないように電話を掛ける。
『はーいもしもし』
木綿季の声が聞こえた。
「木綿季、俺だ。どこの病室にいるんだ?」
『あ、柃か。ボクは前と同じ601号室にいるよー』
「リハビリ病棟じゃなくてか?分かった。すぐ行くよ」
「桧音、行くぞ」
「はーい」
電話を切ると、俺はどことなくうきうきしてそうな妹を連れ、エレベーターの昇降口に向かい、エレベーターが降りてくるのを待つ。
ポーン
降りてきたエレベーターに乗り、6階にたどり着くと、601号室に向かう。
「木綿季、入るぞ」
一応ノックをしてから病室に入る。すると、いきなり木綿季が抱きついてきた。
「柃、久しぶり!待ってたよ♪」
木綿季に絞め殺されんばかりの力で抱き締められ、俺は必死に助けを訴える。
「木綿季、息が、息が出来ないn」
「あっ」
慌てて木綿季は腕を離した。俺はなんとかぶっ倒れるのを防ぎ立ち直った。
「ふう。もう体は治ったのか?」
俺が聞くと、木綿季はこくりと頷いた。
「うん、バッチリさ!」
木綿季はピョンピョン跳ねながら言う。
「ところで……柃の隣に居る人は誰かな」
俺と桧音の関係を、木綿季がいきなり黒いオーラを出して聞いてきた。そう言えば会わせたことなかったわ。
「ストップ、ストォップ!!妹!!妹の桧音!!」
俺が必死の形相でそう言うと、木綿季の黒いオーラは収まった。
「初めまして、柃の妹の楓野桧音です」
「初めまして、紺野木綿季です」
二人は、ほぼ同時にぺこりと頭を下げた。
「可愛い人だね―、木綿季さんって」
「えへへ~、ボクのこと可愛いだってさ」
木綿季は俺が座っている方向に顔を向け、俺の顔を覗き込んできた。
「……何で俺を見るんだ」
「えっ、ボクのこと可愛いと思っていないの??」
「あっえっと……世界で一番可愛いと思っているよ」
「あ、やっぱり!?嬉しいなー」
そんな会話を続けること十数分。
「木綿季、入るわね」
再びノックの音がし、女性が入ってきた。
「あら、柃君も一緒だったの。そちらのお嬢さんは……」
入ってきたのは、木綿季の母の紺野茜さんだ。『お嬢さん』といわれた桧音はすくっと立ち上がって言った。
「楓野柃の妹、楓野桧音です。以後お見知りおきを」
ペコリと頭を下げた桧音に、茜さんも頭を下げる。
「礼儀正しい妹さんですね」
茜さんが感心したようにそう言う。俺は肩を竦めた。
「失礼します」
少し会話を交わしていると、ロシア生まれロシア育ちの生粋のロシア人とは思えない流暢な日本語を操りながら、レーナが入ってきた。後ろには梓もいる。
「茜さん、ご無沙汰しておりました」
「いえいえこちらこそ。……今日ここに来る予定なのはこれで全員でしょうか?」
「みたいですね」
レーナと茜さんの間でそんな会話が暫く続く。そして――
「さて、本題に移りましょうか」
「ええ、そうですね」
少し姿勢を正し、楓野家と紺野家の両者が向き合う(とはいえ両方父親がいないのでやや変な形だが)。
「木綿季さんの希望では、私たちの家に来たいとのことでしたね」
「ええ、そうですね。ね、木綿季?」
「うん!」
元気よく木綿季がそう答える。
「柃や梓、桧音はどう?木綿季さんがうちに来ることに異論はない?」
「俺は……言うまでもないか」
「僕も兄さんがいいなら全然いいですよ」
「私も賛成かな」
俺たちをゆっくりと見回した後、レーナは茜さんの方に向き直った。
「そういうわけで、
「良かったわね木綿季」
レーナの返答を聞いた茜さんが木綿季に言う。木綿季はアホ毛をぴょこぴょこさせながら頷いた。うーんレーナさんそれはちょっと分かんないんだよなぁ。祖父は厳格な人だからVRで知り合っただけという木綿季を受け入れるかは微妙というのが正直なところだが……まぁ説得すれば何とかなる……はず。
「では、今後ともうちの木綿季をよろしくお願いいたしますね」
茜さんは頭を下げた。
「こちらこそ。木綿季さんが我が家に来るのを楽しみにしています」
レーナも頭を下げた。
「では私はこれで失礼します。またね木綿季」
「うん!お母さん、またね!」
茜さんはそう言って病室を退出していった。
「私たちもそろそろ家に帰るわね。柃は木綿季ちゃんともう少しいるかしら?」
「うん、そうするよ」
「分かったわ。また後でね」
「私はお母さんと一緒に帰るわ。じゃあねお兄ちゃん、また後で」
そう言ってレーナと桧音は退出し、病室には俺と木綿季だけが残った。
「久しぶりに2人きりになったね、柃」
木綿季ははにかんだように笑った。
「だな。退院の時間まであとどれくらいだ?」
俺がそう言うと、木綿季は「うーん」と周りを見回し言った。
「今が10時で退院するのが10時半だから、あと30分くらいだね」
「なんだ、すぐじゃないか。これなら母さんたちも待っていてもらった方が良かったな」
「そうかもね」
木綿季はぴょんとベッドから降りると、カーテンでさっと身を隠した。
「……?」
俺は不審に思い、特に何も考えずにカーテンをめくっ(てしまっ)た。そこには――
「柃のエッチー!!」
一糸まとわぬ……とまではいかないが服を脱いでいた木綿季がいた。そして彼女の拳が飛んできてようやく状況を理解した。退院するから服を着替えてたのね……
「す、すみませんでしたー!!」
第二撃が飛んでくる前に慌ててカーテンを閉める。心臓バックバクした、マジで。
「………」
「………」
木綿季が着替え終わり、出てきてからも若干の沈黙が続いた。
「その……本当にすいませんでした」
「今回は初犯だから許すけど、次はないからね!」
「はい……」
私服に着替えた木綿季は一瞬だけムッとした顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「もう……デリカシーは持ってよね」
「ごめんって」
その時、誰かが病室の扉を叩いた。
「……はーい」
木綿季が答えた。その返答を聞いて扉を開け、入ってきたのは白衣姿の男性だった。
「木綿季君、失礼するよ。退院の許可がたった今降りたよ」
「分かりました。倉橋先生、ありがとうございます」
「うん、何かあったらまた来るんだよ」
木綿季に倉橋先生と呼ばれた白衣姿の男性は去っていった。
「木綿季……今の先生は……?」
「ボクが昔病気にかかった時にお世話になった先生だよ」
「なるほど。じゃあ行くか」
「うん、そうしようか」
木綿季が荷物を纏めたのを確認し、俺は彼女の手を取り病室から出る。一階まで降り、受付で退院手続きを済ませようとした。
「……お母さんが終わらせてくれていたみたいだね」
木綿季は受付からすぐに戻ってきてそう言った。
「そうか。じゃあ行こうか」
「うん、そうだね」
俺と木綿季は病院を出て、俺の家に向かって足を踏み出した。
次回からALOですかね