ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
某S○P財団というところで仕事をしてまして。
ともあれ、ようやく本格的にALO編開幕です。キリトたちとは別にALOにログインした柃と木綿季、そして柃の妹である桧音がメインキャストになる冒険譚、どうぞお楽しみ下さい!
明日奈の病室に見舞いに行った数日後、俺は和人からのメールを受け取った。内容は……
『明日奈の居所の手掛かりが掴めたかもしれない』
そして、そこには一件の画像ファイルが添付されていた。俺はそれをダブルクリックし、ファイルを開いた。そこには……
「解像度悪すぎるだろ」
相当解像度が悪い、ゲーム内と思しき画像があった。その中心にいるのは……
「なるほど、これが明日奈の可能性があると」
解像度の悪さも相まって相当分かりにくくなってはいるが、確かにそれらしき人影がいた。
「何のゲームか調べるか」
専用のコンピューターに転送した画像を解析に掛け、解像度を変更した後に検索させる。この画像の背景と一致するゲームは……
「アルヴヘイム・オンライン、か。よりにもよってレクトが開発運営してるゲームじゃないか」
俺はため息をつきながら言った。どんどん状況証拠が詰まっていくことはいいことだが面倒ごとが増えることも同時に意味しているので正直勘弁してほしい。
「取り敢えず木綿季を起こしに行くとするか」
俺は椅子から降り、まだベッドの中にいる木綿季を起こしに行く。木綿季は気持ちよさそうに眠っていたので、若干起こすのは気が引けるが、ぐずぐずしても仕方ない。俺は木綿季の体を軽くゆすった。しばらく木綿季は目を覚まさなかったが、1分くらいゆすり続けると、ようやく起きた。
「うーん……。おはよ、柃」
「おはよう木綿季。よく寝れたか?」
「まぁまぁって感じ。ていうか最近同じような日常ばっかで飽きちゃった」
まぁそんなもんかなと思う。SAOから解放され早2ヶ月が経過しようとしているが、帰還者たちには厳しい箝口令が敷かれ、家族及び帰還者同士の例外を除いてSAO内部で起きたすべての事項に関する口外を厳禁され、よほどの事情がない限りは外出を控えるようにとの命令が出ているためだ。
「まぁそうだろうな。そんな木綿季にビッグニュースだ。明日奈が閉じ込められているゲームが見つかったかもしれないぞ」
「えっ!?ホントに?」
寝ぼけた目をしていた木綿季の目が一気に覚める。
「アルヴヘイム・オンライン、というゲームだそうだ。行くか?」
「もっちろん!と言いたいけど……柃はナーヴギアを持ってるからいいけど、ボクの分はどうするの?」
木綿季が若干ムスッとしながら言う。俺が木綿季のナーヴギアを回収し忘れていたことを未だに根に持っているようだ。
「それがあるんだな。ここに」
部屋の中の物置から木綿季のナーヴギアを取り出す。それを見た木綿季は怪訝そうにこちらを見た。
「あれ?柃、ボクのナーヴギア、回収できなかったんじゃなかったっけ?」
「まぁそうなんだがな。とあるルートで回収してきた。それじゃ、早速ダイブするとするか」
「ソフトはどうするの?」
あー……完全に忘れてた。
「今は便利な世の中だからな。ボタン一つでソフト2本くらいならさくっと調達できる」
俺はパソコンを操作し、アルヴヘイム・オンラインを2つ注文する。30分もしないうちに届けてくれることだろう。一応冷泉さんに一報を入れておき、来たら教えて欲しいと伝えておく。
「じゃあちょっと待つだけだね。……柃は明日奈がその……アルヴヘイム・オンラインにいると思う?」
「今までで一番可能性が高い説だとは思う。当たってみる価値はあるさ。それに……」
「それに……?」
俺は一瞬二の句を継ぐのをためらったが、口を開いた。
「あのデスゲームを経験してもなお、少なくとも俺はVRMMOに愛着を持っている。もちろん自分があの世界を作った一員だっていうこともあるんだけど、それ以上にあの世界は新鮮さに溢れてた。それは今でも変わらない」
「……うん」
「だから俺は、まだまだ広がっていくVRの世界を見ていきたい。そのきっかけになったと考えればラッキーだよ」
「なんだ、そんなことか。柃が急に真顔になるから、てっきりもっと重い話なのかと思ったよ」
真顔で聞いていた木綿季の顔がほころぶ。
「まぁそんなわけだから、正直嫌な感じはしない。木綿季は?」
「ボクも、かな。嫌なことがないことはなかったけど、それでもボクにとってあそこで過ごした時間はかけがえのないものだったし」
俺は木綿季と少し思い出話に花を咲かせながら、ソフトが届くのを待った。
――――――――――
数十分後、冷泉さんに知らせてもらってソフトを受け取った俺は、木綿季と一緒にソフトの説明とにらめっこしていた。
「種族を選ぶ必要があるのか、木綿季は何にするんだ?」
「あっちで合うまでの秘密。そういう柃こそどうするのさ」
「
俺はナーヴギアを起動しながら答える。木綿季は久しぶりのナーヴギアの起動だからか少し手間取っているようだ。
「オッケー、ボクも準備が出来たよ」
じゃあ行こうか、とベッドに2人で横になった瞬間――
「お兄ちゃーん、木綿季ちゃーん、ちょっと待ってぇ」
部屋の外から桧音の声が聞こえてきた。それを聞いた俺と木綿季は目を見合わせ一旦起き上がった。
「どうしたんだ桧音?」
部屋に入ってきた桧音に俺は話しかける。最近妙に俺に優しい妹は、部屋に入るなりナーヴギアをびしっと指さしてきた。『デスゲームで凝りたでしょ!』とか言われるんだろうか。
「えー……と、お兄ちゃんたち今からALOの世界に行くんだよね?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
若干当惑しながら俺は言葉を返す。まさか桧音の口からそのワードが出てくるとは思わなかった。
「実は私はALOをやってるの。2年間ずっと向こうの世界で戦ってきた2人にはきっと敵わないけど、少しでもサポート出来たらいいな―……って思って」
驚いた。てっきり桧音はこういうのにあんまり興味がないタイプだと思っていたから。
「ふーん、桧音お前ゲームするタイプだっけ……?」
「男子三日会わざれば刮目してみよ、とはよく言ったものだけど別に女の子でも2年間も会わなかったら趣向もそれなりに変わるもんだよ、お兄ちゃん」
桧音は指を振りながら言う。まぁそれもそうか。未知の大地で信頼できる道先案内人がいるのはありがたい。
「そんなもんか。分かった、俺たちからしても案内人がいるというのはありがたい。よろしく頼む」
「オッケー。じゃあちょっと時間がかかるかもしれないけど、私は
そう言って桧音は自分の部屋から戻っていった。
「2年も会ってないから趣向も変わる……ねぇ」
俺は桧音の言葉を復唱しながら考えた。ゲーム嫌い、というほどではないが殆どそういうことに興味を持たず余暇の殆どを読書に費やしていたThe文学少女という感じの妹の変貌に、俺は正直困惑を隠せないままでいた。
「柃と仲直りしたいから始めたんだよ、きっと」
木綿季が俺の発言に返すように言う。
「俺と仲直りしたいから?」
「うん。桧音ちゃん、前に一緒にお風呂に入った時に言ってたよ。柃のことを知ろうと色々努力したんだーって。その一環として柃が過ごしたVR世界を知ろうとしてALOを始めたんじゃないかな」
「なるほど」
彼女なりの努力がしてるみたいだ。俺もそれに寄り添えるようにならないとな……
「じゃあ行くか。落ち合う場所はどうする?」
「桧音ちゃんと3人で集合することにしようよ」
「オッケー。じゃあ先に行くぞ」
そう言って俺は今度こそナーヴギアを被り、実に数年の時を経てあの呪文を再び唱える。
「《リンク・スタート》」
――――――――――
懐かしさすら覚えるVR世界に舞い戻った俺は、まずIDとパスワードを設定するように求められた。何故か今なお覚えているSAO時代のそれを打ち込む。それを終えると、やたらと無機質な空間へと転送された。どうやらここで基本的なステータスを決定するようだ。
「《Rei》様、ようこそアルヴヘイム・オンラインの世界へ。まず種族をお決めください」
精巧に作られた人工知能が俺に問いかける。木綿季と見た説明書に載っていたから詳細は分かってる。
・火属性の魔法が得意で、戦闘の適性が高い《
・水属性の魔法と回復魔法が得意で、支援魔法の適性が高い《
・風属性の魔法が得意で、機動性に長ける《
・土属性の魔法が得意で、力が強い《
・全種族中、唯一《テイミング》が可能な、《
・全種族中、唯一《
・全種族中、唯一洞窟などでの飛行が可能な《
・全種族中、唯一音楽魔法が使用可能な《
・幻惑魔法が得意な《
俺はシルフを選ぶことにした。SAOでのイメージカラーがエメラルドグリーンだったのと、機動性を活かして戦うのはスタイルに合っている。
それから大まかな設定を終え、チュートリアルを完了する。『では、幸運を祈ります』という音声が終わると同時に、所属する種族の首都に転送――されるはずだった。
「え?」
転送された先に地面はなかった。というか空中に転送され急降下していた。えっいやちょっと待ってこのまま落下して墜落死とか絶対嫌だよってか初見殺しにもほどがある。
「おいおいおいおいおいーーー!?」
ズドン!
「ふむぐ!」
自分でもよく分からない声を出しながら俺は地面に激突した。幸い痛みはないが不快感がすごい。いや死ななかっただけマシかもしれないが。
「来て早々こんな目に合うとは思ってなかったぞ……」
ぼやきながら立ち上がり、周囲を見渡す。全体的にどこか暗い空気に山に囲まれた森、これは多分……
「
説明書に書いてあった領地図を思い出しながら言う。少なくとも俺が所属するシルフ領の首都スイルベーンではないことは確かだ。流石に一国(?)の首都がこれでは寂しすぎる。
「うーん?もしここがインプ領なら桧音のいるウンディーネ領とは隣り合っていたよな……?」
俺の記憶が正しければそうだったはずだ。シルフ領内から行くよりも大きな時間短縮になるし僥倖というべきなのか。それに――
「多分木綿季はインプだろうしなぁ……」
彼女もイメージカラーで種族を決める(多分)ので、木綿季との合流も早くなる。まぁ最初に高速で地面に叩きつけられたこと以外は幸運だったと割り切るのが吉か、などと考えてると、傍らに人の気配がした。
「ッ――!?」
そういえばこのゲームは種族間での争いがメインテーマらしい。ということは白昼堂々インプ領に侵入してる俺はお尋ね者扱いなわけだ。つまりここでインプのプレイヤーに見つかることは、それすなわち攻撃の対象になることを意味する。
しかもログイン直後、武装なんて当然装備してないわけで。更にこの手のゲームはログイン地点が
「えーーと……」
気配がする方向を見て、人の姿を見た瞬間両手を挙げて交戦する意思はないアピールをする。迷い込んだということにしてさっさと退散できる可能性に俺は賭けるぞ。
「柃……?」
「え?」
すると、そのプレイヤーからは、聞き覚えがある声が聞こえた。俺は恐る恐る顔を直視する。
「もしかして……木綿季?」
SAOの時は少し違うが、明らかに木綿季の面影を残した少女がそこにはいた。俺が聞くと、その少女は頷く。
「そうそう。やっぱり柃かー。SAOの時とそっくりだからすぐ気づいちゃった」
「あー……木綿季はその……普通にここに来れたか?」
すると木綿季は首を振った。
「ううん。いきなりここにポーンと放り出されて真っ逆さま。怖かったぁ……」
木綿季も一緒らしい。よく見ればちょっとガクガクしてる。
「うーん?なんでそんなことが起きたんだろうか」
「もしかしてほぼ同時にログインしたからとか?」
木綿季が言う。確かにそれは一理ある。座標がこんがらがってインプ領よりに転送してしまったというなら筋は通っている……が。
「もしそうならバグだとして修正済みな気がするなぁ……」
俺たちしかない特徴……特徴。もしかすると――
「ナーヴギア?」
「あー……そうかもね。確かにナーヴギアで接続する人なんて殆どいないだろうしその為の仕様が用意されてなかったのかな?」
木綿季がポンっと手を叩く。いちいち仕草が全部可愛い。
「多分そうじゃないかな。見た感じバグは特に見当たらないみたいだから良かった」
「まだ分からないよ。取り敢えず色々確認しよっか。多分操作方法はSAOとほぼ変わらないから試してみない?」
「そうだな」
俺はかつて何万回も繰り返したように左指をさっと振る。すると、効果音と共にウィンドウが開いた。本当に懐かしい光景の連続でノスタルジックになってしまうな。
「お。どれどれ」
まずはログアウトボタンがあるかの確認だ。桧音が戻ってきてるから大丈夫だと思うが、SAOの前例があるせいでどうしても気になってしまう。
「おーちゃんとログアウトボタンがある」
おかしいな。当たり前のことなんだがな。
「さて、ステータスはっと……んんん?」
次に俺はステータス画面を開き、表示された数字を見た瞬間目をひん剥いた。スキル欄に、《狙撃》だの《片手直剣》だのといったSAO時代のスキルがこれでもかと詰め込まれている。一部のスキルは削除されているが。
「ねぇ柃、これって……」
横で自分のステータス画面を開いていた木綿季が聞いてくる。恐らく彼女のステータス画面も同じような状態なのだろう。
「あぁ……多分SAOのデータは完全に消えてなくて、ナーヴギアで接続したのがトリガーになってそれが不完全な状態で復元されてしまったんだろうな」
「でも、アイテム欄は殆どぐっちゃぐちゃだね。意味不明な文字の羅列になってるよ」
俺は木綿季に言われてアイテム欄を確認する。確かにプログラムで見るようなエラー字列で一杯になっている。
「うへぇ……確かに」
アイテム欄を指でスクロールしながらため息をついた。SAO時代の努力の賜物がいとも簡単にデータのゴミと化すのは少し悲しいな。
「ん――?」
文字化けしていないアイテムを見つけた俺は、それをクリックする。そこには、かつてあの浮遊城で共に戦い続けた愛銃・ライトディフェンサーがあった。つまり、この世界でも銃が使える……?このファンタジックな世界で銃撃戦でもすんのか?
「この世界でも銃で戦うの?」
「そもそも撃てるか分からないな。間違えてコード消し忘れてただけかもしれないし」
言いながらライトディフェンサーの説明を見る。カテゴリは……
「魔法杖?銃なのに杖?」
予想に反して魔法杖となっていた。一度実体化させて装備してみる。外見は殆ど変わっていないし異常はなさそうだ。
「うーんよく分からないな」
俺は慣れた手つきで銃弾を
「なんか引かれたぞ?」
表示されている"MP"というステータスの数字が減少する。MP、多分マジックポイントだろうか。つまりこの世界の銃は魔力を消費して撃つ仕組みになってる?とすれば銃口から出てくるのは鉛玉ではなく魔法なのか。ファンタジックでいいじゃないか。
「少なくとも撃てる数は有限みたいだね。じゃあSAOみたいなチート武器にはならなさそうだね」
「確かに。多分剣と魔法の世界だから魔法を使ってるプレイヤーばっかだろうし、ただ魔法の撃ち方が違うだけか」
俺は試し撃ちをすべく引き金に指を掛けようとする。しかし、引けない。なんど引いてもカチカチという音が響くだけだ。
「まだ魔法自体が撃てないんじゃないかな?」
「あーそういえば魔法を撃つには
「みたいだね。慣れないうちに変な武器使って目立つのも柃的にはマズいでしょ」
それも一理ある。というかVR世界で本名呼ばれるのむず痒い何かがあるな。木綿季は多分一緒だから何ともないんだろうけど。
「だな。そういえば木綿季ってプレイヤーネームはSAOから変わってないのか?」
「うん、そうだよ。どうかした?」
「いや、俺が呼ぶには問題ないけど俺はこっちの世界だと《レイ》だからさ……」
「あーごめん、忘れてた!プライバシーも何もなかったね……」
木綿季、いやユウキが思い出したように言う。
「いや今から変えてくれたらいいよ、別にここは2人っきりなわけだし」
「分かったよ!じゃあ、今から桧お……カオンちゃんの下に向かう感じかな?」
「だな。幸いここはあいつのいるウンディーネ領から近いみたいだし、それなりにすぐ着くだろう」
「オッケー、じゃ、行こうか!」
俺とユウキは再び訪れたVR世界で、新たな一歩を踏み出したのだった。