ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

50 / 50
大分長くなった上に色々重なって遅れました、すいません……



《第48話》幼馴染との再会はステイツで

「間もなくジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港に到着します」

 

 楓野総合財閥グループが所有する自社製プライベートジェットに乗って、俺はアメリカ合衆国の北東部に位置するマサチューセッツ州に来ていた。

 

「分かった。降りる準備をするよ」

 

 間もなくプライベートジェットは滑走路に無事着地し、パイロットに礼を言ってから俺はアメリカに降り立った。

 

「久しぶりだな、星と自由の国よ」

 

 俺は久しぶりのアメリカの空気を精一杯吸いながら入国審査の列に向かう。空港は観光客でごった返しており、自分の番が回ってくるには大分時間がかかった。30分ほど待たされた後、ようやく順番が回ってくる。

 

「Hello, May I see your passport?」

 

 ガチっとした体格のいい入国審査官がパスポートの提示を求めてくる。俺はポケットからパスポートを取り出し、それを提示した。

 

「Here you are.」

 

 入国審査官はパスポートに不備がないかチェックした後、入国の目的を求めてきた。

 

「What's the purpose of your visit?」

 

「I'm here to visit for meet friend.」

 

「OK, and how long will you stay in the country?」

 

「I’m here for just two days, but I really wish I could stay longer!」

 

 俺が残念そうに言うと、入国審査官は少しニコッとしながらパスポートを返してくれた。

 

「OK, have a nice trip.」

 

「Thank you!」

 

 入国審査官と握手をした後、俺は迎えが待っているらしき待合室に向かう。指示された場所に向かうと、知った顔の少女がちょこんと座っていた。彼女は俺に気が付くと立ち上がり俺の方に向かってくる。

 

「久しぶりだな、アル。元気にしてたか?」

 

「プリヴィエート、柃君。うん、まぁ最初は慣れるのに苦労したけど、今は何とか元気にやってるよ。今日はごめんね、急に呼び立てたりして」

 

 少女、セブンこと日本が誇る天才科学者にして俺の幼少期からのパートナーであった七色・アルシャービン博士は俺に握手を求めながら答えた。

 

「ごめんねと思うならもうちょっと先に言って欲しいものだったけどな……」

 

 俺は彼女の手を握り返しながら小言を言う。帰還してからパスポートをすぐに更新してよかった。

 

「それに関して本当に申し訳ないよ。教授がすぐに呼んで来いっていうもんだから。まさかこんな早く飛んできてくれるとは思わなかったけど、それくらい私に会いたかったってことで納得しておくよ」

 

「その言い方大分誤解生むからなぁ……」

 

「あら、私に"愛してるよ"なんていうメッセージを送ったのは柃君の方よ。すこーしだけ私も期待したりしたんだから」

 

「勘弁してください……」

 

 確かにSAO内でそういうメッセージを送ったのは事実だし実際SAOに入る前は周囲から許嫁にもらえだの言われてたりしたし実際彼女のことは可愛いとおも……ゲフンゲフンこれ以上は木綿季に怒られるのでやめておこう。

 

「大学の人は木綿季ちゃんのことなんてさらさら知らないからずっとくっつけくっつけって言って来るけどね。あ、もちろん私()木綿季ちゃんから略奪するつもりなんて全くないけど」

 

「そうしてくれ。木綿季は中々嫉妬深いんでな、こっちでアルと変な気でも起こそうもんなら始末されることは必至なんだ」

 

「それはフリってことでオッケー?」

 

 アルが悪戯っぽい笑顔になる。こういう時のアルは本気かからかっているのかが分からない。

 

「お好きな解釈でどうぞ……」

 

「既成事実さえ作れば木綿季ちゃんも納得するよ」

 

「そうはならんだろアルよ。流石に俺は抵抗するぞ」

 

 俺は手を振る。というかアメリカで日本語解する人間が少ないからといって空港でなんて話をしてるんだ俺たちは。

 

「ムキになるなんて珍しいね柃君、昔私がキスしようとしたときは軽くあしらってたくせに」

 

「あしらえなかったけどな」

 

「そうだったね。っと、こんな下世話な話をしにわざわざステイツまで来てもらったわけじゃなかったね。取り敢えず大学まで案内するよ」

 

 アルは踵を返すと俺の手を引きながら歩き始めた。俺より身長が低いアルに手を引かれるってなんか屈辱的な何かがあるな……と思いながら俺はかつての学びの場であった場所に向かうのだった。

 

 

――――――――――

 

 

「はい、柃君にとっては何年ぶりかな……?3年ぶりくらい?」

 

「そんくらいだな。しかし、改めてデカいな」

 

 俺とアルはかつて共にVRの研究を行った母校、マサチューセッツ工科大学(MIT)の前に立っていた。当時の俺たちを担当してくれた教授がまだ同じ研究室にいるとのことで、そこに向かう。

 

「どう、久しぶりのMITの空気は?」

 

「どう、といわれてもな。むしろ好奇の目線が痛いよ」

 

「それもそうか。柃君を知る人は大体卒業しちゃったもんね」

 

 構内を歩きながら思い出話に花を咲かせる。目的の研究室まではそう時間はかからなかった。

 

「『VR Applied Science and Technology Research Laboratory No.1(仮想現実応用科学技術研究第一研究室)』、古巣に帰ってきたな」

 

 俺はプレートを見て感動のため息を漏らした。SAOに囚われていた頃はまるでここに戻ってくることがあるなんてことは想像できなかったものだ。

 

「じゃ、開けるわね」

 

 アルが二回ノックをしてからドアを開ける。扉の先には様々な電子機器が所せましと置かれており、そこに2人の白衣を着た研究者が座っていた。見覚えがあるのは一番奥にいる恰幅のいい初老の男性のみだ。

 

 

「Sorry for the wait, but as you can tell, I've got the coolest and nicest boyfriend.(お待たせ、仰せの通り最高にクールでナイスな私の恋人を連れてきたわよ)」

 

「So, you're the genius partner Dr. Seven was talking about.Or, Nice to meet you, I'm Jack Gerald, you can call me Gerald.(君がドクターセブンが言ってた天才パートナーか。初めまして、僕はジャック・ジェラルド、ジェラルドと呼んでくれ)」

 

 白衣をラフに着こなした大柄な赤毛の男性が俺に握手を求めてくる。俺はその手を握り返し、簡単に自己紹介をした。

 

「Nice to meet you too, Dr.Gerald.I'm Hisagi Kaedeno, you can call me Kaedeno.(初めましてジェラルド博士。僕は楓野柃、楓野と呼んでください)」

 

 その言葉を聞き、奥にいた初老の科学者が立ち上がり俺に対し心外だというポーズをする。

 

「Have you become a slippery geezer before you've seen him for a while, Dr Kaedeno? I'm not going to let you say you've forgotten me.(しばらく見ないうちに耄碌したかね?私を忘れたといわせるつもりはないのだが)」

 

 俺は彼に向き直り、口を開いた。

 

「No way.It's been a long time, Prof Kondoraki.(まさか。ご無沙汰しておりました、コンドラキ教授)」

 

 マサチューセッツ工科大学仮想現実研究課のトップにして幼き頃の俺とアルの師、そして現在の仮想現実研究の第一人者と目されるフィッツ・コンドラキ教授はフンっと鼻を鳴らした。

 

「I hear you've cleared the Death Game. So you're saying you're the one who did the wrong thing.(君が例のデスゲームをクリアしたそうだな。自分の不始末は自分でしたという訳か)」

 

「Yeah, well... Something like that.(まぁ、そんなとこです)」

 

 俺は若干引け目を感じながら言う。まだSAO事件の全容は一般には知られていないが、どうやら『ヒースクリフを倒したのは痛々しいグリーン色の銃ぶっ放してた奴』ということはネット上にある程度広まっているらしいが、別に俺はデスゲームをクリアしたという自恃もなければヒースクリフこと茅場博士に打ち勝ったとも思わない。まさしくコンドラキ教授の言うように自分の不始末を処理した程度でしかない。

 

「It's because of God's blessing.(神の御加護があったからですよ)」

 

 何せ俺がヒースクリフに打ち勝てたのは彼が俺のナーヴギアに仕込んでいたワクチンコードが土壇場で発動したからなのだ。言わば自ら望んでいないとはいえ開発者チート(ワクチンコード)開発者チート(システムアシスト)をぶっ倒したという茶番でしかないからな。いやこのことは俺とアルと木綿季しか知らないことなんだが。

 

「All right. By the way, Kaedeno, do you have any intention of returning to MIT?(そうかい。ところで楓野君、君はMITに戻ってくる気はないかね?)」

 

「Hmm,it's a tempting proposition, but I'm afraid I'll have to decline it now. In a few years, if Dr Nanairo stays, I'll consider it.(ふむ、それは確かに魅力的な提案ですが、今は遠慮しておきます。近くない将来に七色博士がここに残っていたら検討しますよ)」

 

 俺が肩を竦めながらそう言うと、コンドラキ教授は残念そうに頭を抱えるポーズをした。

 

「It's a shame, but it can't be helped. We'll always be waiting for your return.(実に残念だが、仕方ない。我々はいつでも君の帰還を待っている)」

 

「Thanks Pro.Kondoraki.(ありがとうございます、コンドラキ教授)」

 

 俺は簡単な自己紹介を済ませると、研究室内を案内してもらった。VR技術の応用はアメリカではどんどん進んでおり、医学工学分野でVR技術者の奪い合いも既に起こっているようだ。ここMITはアルを始めとする優秀な若いVR研究を志す工学生が多く志望しており、コンドラキ教授の講義は連日超満員の大人気なのだそうだ。そんな学生とも少し話をし、およそ5時間かけて学内を見回った後、一旦アルと共に学外に出て、カフェに向かった。

 

 

――――――――――

 

 

「で、私と2人っきりで話したいことって?」

 

「平たく言えばこれからについて、だな。俺はまぁまだ日本でやらないといけないこともあるからしばらくアメリカ(こっち)に戻ってくることはないが、アルはどうするんだ?」

 

「私?私は研究もあるししばらくこっちに残るよ。でも、研究がある程度進んだらデータを取るために実際にVRゲームに行かないといけないしね。もちろんこっちにもそう言ったゲームはあるんだけど、まだまだ日本には追い付いていないから、どの道そう遠くない未来に日本に帰国することになるよ」

 

「そうだと思ったよ。そこで、だ。俺たちに問題が発生した」

 

「問題?」

 

 アルが首を傾げる。

 

「俺たちの最終学歴は現時点でマサチューセッツ工科大学工学部卒だよな?」

 

「そうだね。おっそろしい飛び級してるから日本でどう扱われるのかは微妙だけど」

 

「そこなんだよ。日本の教育制度だと義務教育が義務付けられているというのはもちろん知ってるな?」

 

 アルは頷く。

 

「んで、俺たちは義務教育を一切受けずに渡米してMITにいた訳だから、もちろんこの義務を果たしていない」

 

「えーと、もしかして――」

 

「多分そのもしかしては当たっているだろうな。帰国した瞬間に義務教育を受ける義務が発生する」

 

 俺が言うとアルはずいっと身を乗り出した。

 

「ちょっと待って、もしかして私帰国したら小学校からやり直さないといけないの?」

 

「本来ならそうなるな。ランドセル背負ったアルも可愛いと思うぞ」

 

 俺が冗談交じりに言うとアルは本気で嫌そうな顔でこちらを見た。

 

「えっ柃君そんな趣味があったの……最低、私に近づかないでくれるかな」

 

「待ってごめん謝る。冗談のつもりだったんだ」

 

「今の発言だけで私の中で柃君の好感度は地に墜ちたよ。今まで私のことをそんな目で見てたなんて」

 

 汚らわしいものを見る目が、ものすごく痛い。違うんだ、確かに見たいか見たくないかで言えば見てみt……じゃなくて本当に冗談で言ったことがマジの地雷になるとは夢にも思わなかった。

 

「……本当にすいません」

 

「もう、本当にやめてよね。下手したらセクハラだからね」

 

 アルは椅子に身を預けながら言う。空港で思いっ切りアウトな発言をしていた彼女からそう言われるのはなかなか納得がいかないものがあるがこればっかりは言い訳出来ないので何も言い返さないでおく。

 

「それで、私の義務教育の話ね」

 

「ああ。本来ならアルの言う通り初等中等教育9年間を受けないといけない。そしてアルは"SAO帰還者"なので専用の帰還者学校にも行かないといけないわけだ」

 

「帰還者学校?」

 

「あぁ、総務省だかが設置を構想しているSAO事件を経験した児童生徒の学習機関だそうだ。普通の学校はSAO帰還者を受け入れるつもりなんてないところがほとんどないそうだからな。国がそれを保障するってわけだ」

 

 俺は菊岡二佐から聞いた話を伝える。

 

「国が保障、ね。裏があるようにしか思えないわ」

 

「ご名答。本当の狙いは国によるSAO帰還者の一括管理だ。相手が人であれモンスターであれ殺し合いの世界で生きてきた人間をそのまま社会に放り出すなんて危なっかしいにもほどがあるからな。そこで人格矯正、もといカウンセリングしていつ暴発するか分からない地雷を処理してから送り出そうという訳さ」

 

「危険人物扱いされるなんて癪に障るけどまぁそこはいいわ。で、私の貴重な十数年間はどうなるのかしら?」

 

「文科省の人間と交渉してな、もしアルが帰国しても帰還者学校で一定年数"在籍"していればそれだけで要件を満たすように取り計らうという答えを頂いたよ」

 

 俺は首を振りながら言う。教育族の議員にちょいと根回しをした甲斐があった。最初は難色を示していた父もアルのことと知るとすぐに動いてくれたし。

 

「お爺様の力を借りたのかしら。まぁ感謝ね。在籍ってことは幽霊でも問題ないんでしょ?」

 

「あぁ、帰国してからの研究場所はこっちが用意するよ。寝泊まりする場所は……」

 

「柃君の家に居候させてもらうわ」

 

「やっぱりそうなるのか……虹架の家にも行ってやれよ……会いたいって言ってたぞ」

 

 俺は少し呆れながら言う。こっちに行く寸前にレインことアルの姉である枳殻虹架から早く帰ってきて顔を見せて欲しい旨の言伝を預かってきたので伝えておく。

 

「それはそうなんだけど……色々と事情がね……」

 

「あーうん分かったこれ以上触れないでおく」

 

 触れてはいけなさそうな話題の予感がしたのですっと引く。人の家庭問題について聞くと本当にろくなことがないんでね。

 

「そうしてもらえるとありがたいかな。そういえばさっきの話を聞いて思い出したけど、柃君はどうなのよ」

 

「俺か?前みたいに自衛隊に隠れるつもりだったけどどうもそれが通じないっぽくてさ。俺は今普通の自衛官じゃなくて特任自衛官っていう若干特殊な立場に置かれてるもんでね……」

 

「じゃ柃君もその帰還者学校に行くんだ。なんか問題起こしそうだね」

 

「中々に失礼な物言いが気になるけど、まーその通りだ。MITではないが俺にも研究というかVRに関するある計画へ参加してくれとの要請が来たんでね。それとの二足の草鞋になりそうだ」

 

 俺は口を曲げながら言う。

 

「計画?また自衛隊絡みで何か言われたの?」

 

「これ以上喋ると機密保持規定に引っかかるんでな。いくらアルと言えどもこっからは俺はノーコメントだ」

 

「機密保持しないといけない時点でそっち絡みだっていうことは分かったよ」

 

「ノーコメントで」

 

 俺は手を振って何も言わないことをアピールする。

 

「あはは。そう言ってる柃君が何をやっても口を割らないのは知ってるからこれ以上は何も聞かないよ」

 

「そうしてもらえると助かる。……取り敢えず俺もアルも帰還者学校は形式的に行くことは決まったな」

 

「そうね。木綿季ちゃんや梓君たちとも会えると思うとわくわくしてきたわ」

 

「随分と丸くなったな、アル」

 

「ん?」

 

 俺がボソっと言うとそれを聞いたアルが首を傾げた。

 

「こっちで引きこもってた頃は大学関係者と俺と虹架くらいとしかまともに喋れないコミュs……内向的だったのに、人付き合いを楽しむようになって幼馴染としては嬉しいよ」

 

「今コミュ障って言おうとしたでしょ。まぁそうね、やっぱりあの人……茅場博士の『君たちにも、私が作った世界を目で見てもらえると嬉しい』という言葉に従った甲斐はあったわ」

 

「そうだな。嫌なことや忌まわしい記憶こそあれど、あの世界での経験は貴重の一言では済まないな」

 

 俺はしみじみと言った。罪を背負ったことになった世界、そして一時期はVR自体の存続を危機に陥らせた世界ではあるものの、あの世界は間違いなく人々の何かを変えた。

 

「せっかくだから乾杯でもするか」

 

「そうね、じゃあ……VRの未来に、乾杯!」

 

「乾杯!」

 

 もちろん両方未成年なので、俺はカフェラテを、セブンはミルクティーを軽く掲げ、乾杯をする。早く酒を嗜める年齢になりたいものだ。まぁこのマサチューセッツ州は21歳にならないと飲酒が出来ないアルコールに厳しい州なのだが。

 

「そう言えば、空港で既成事実云々って話をしたよね?」

 

「そうだな、そんな事されたら俺が死ぬんだが」

 

 カフェラテを味わいながら俺は言う。

 

「やっぱり言った方がいいかなって思ったから言うけど、つい先日柃君のお爺様から電話が届いたの」

 

「爺さんから?なんて言われたんだ」

 

「柃君の婚約者になってくれないかって」

 

「はい????ちょっと待って????」

 

 俺は一回混乱する頭を落ち着け、聞き直した。

 

「えっと、爺さんからなんて言われたって?」

 

「だから柃君の婚約者になってくれって」

 

「えっと、あの、その。俺には木綿季がいるんですがあのその……いや確かに爺さんに木綿季のこと知らせていないけどさ。で、どう答えたんだ!?」

 

「考えときますって。まさか柃君には別に婚約者がいるから無理ですなんて言うこと出来ないよ」

 

 それは一理ある。というか俺自身木綿季のことをどう報告しようか迷っていたんだし。

 

「ちょっと待って爺さんには流石に逆らえないぞ……」

 

 俺は頭を抱えた。いや再三言うが別にアルのことが嫌とかそういう訳ではなくSAO(あっち)に行く前は真剣に許嫁としてもらうことも考えていたわけなのだが、今の俺には木綿季がいる以上、そう易々と頷くわけにはいかない。

 

「私に言われてもどうしようも出来ないわ。それこそ柃君のお爺様に意見できるのは柃君くらいだろうし」

 

「だよなぁ……」

 

 いや、本当に祖父に逆らえば真面目に日本どころかアメリカ、ロシアですら生きていけない可能性があるので、強く言われれば首を縦に振らざるを得ないのだが、流石に木綿季にそんなことは言えない。困ったことになった……

 

「いやいやちょっとマズいことになってきたぞ……」

 

「これに関しては何度も言うけど私も表立って無理ですなんて言えないからね……流石に世界の楓野財閥の会長にはっきり無理ですなんて言ったらそれこそ柃君でも立場が危ないでしょ」

 

「全く持ってその通りだよ。自衛隊の中にすら影響力があるし、戦間期の財閥を凌ぐ勢いで拡大し続けてるからな」

 

 俺はため息をつきながら言った。過度経済力集中排除法だの財閥同族支配力排除法といった進駐軍による財閥解体法令攻勢に対してGHQと極東委員会加盟国に対して資金提供という名で莫大な金をバラまいて法令に穴を開けて解体を逃れたほどの巨大財閥の総帥の影響力は流石にデカく日本国内の枠を超えてアメリカにまで影響力が及ぶほどだ。

 

「なんでこっちに来て本家のことで頭悩ませないといけないの……?」

 

「由緒正しき家に生まれた宿命として諦めるしかないよ、柃君。それに、柃君はまだマシでしょう。梓君なんて跡継ぎ候補の最有力者なんだからもっとキツイんじゃないの?」

 

「今はまだ横浜にいるからそこまでだろうな。まー高校……というか帰還者学校を出てしかるべき進路に進めば仙台に移される可能性があるが」

 

 俺は腕を組みながら言った。俺は確かに本家の嫡流の長男だが、家督相続の優先順位から真っ先に外されている。具体的に言えば俺以外の楓野家の相続権を持つ人間が全員死んで初めて番が回ってくる。

 

「そういう点で行けば俺の頭の中にある()()()()も役に立ったというべきか」

 

「時限爆弾なんて言い方、やめてよね。それを何とかするために私たちはVRの未来を求めてるんだから」

 

「……そうだったな」

 

 俺とアルが罹患している脳症、先天性知的能力異常活性脳症候群――俗にINTS(アインツ)と呼ばれる――は罹患者に常人をはるかに上回る才能を与えるが、代償として脳の異常発達の影響で寿命が著しく短くなることが過去のアインツ患者だったと思われる人物の共通点から予想されている。俺とアルもその例に漏れず、長くて30歳前半までには脳が機能を停止、要は脳死状態になるわけだ。このせいで俺は真っ先に相続権を外された。いや、仮にも楓野家の人間なのでそれなり以上の財産分与はあるんだろうが少なくとも会社の経営権その他は一切相続できない。その代わり祖父や父は俺に相当便宜を図ってくれる節がある。

 

「VR技術によってこの不治の病(アインツ)の治療法を見つける。これは柃君が掲げた目標だったはずよ。キミがそんな風に自嘲してどうするのよ」

 

「それもそうだ」

 

 従来なら脳にメスを入れるなんてものは言語道断だった。脳にメスを入れた患者の人格が変わった、いわゆるロボトミー手術の惨状が伝わると一度は進みかけた脳科学も停滞した。しかし今は違う。脳に電子のメスを入れる、つまりVR技術を応用した医療が実用化に向けて進みつつある。これをさらに進めて脳外科手術に応用できればこの脳症の治療が可能になるかもしれない。

 

「そう考えればちょっと木綿季との付き合いも考えないといけないかもしれないのか……」

 

「え?どういうことよ」

 

「いや、もちろん治療法は見つかるって俺は信じてるわけだけどさ、もしもの話だけどこのまま治療法が見つからないままタイムリミットが来たとき、仮に俺が木綿季と一緒になっていたら彼女は孤独になるわけだよな?」

 

「そうなるわね」

 

 アルは頷く。

 

「なるほどなぁ……だから爺さんはアルに俺の許嫁になってくれって言ったのか……」

 

「と、言うと?」

 

「いや、アルも会ったことがあるから知ってるだろうけど、爺さんはめちゃくちゃ昔気質な人でさ。男たるもの妻を残して死ぬなどならんっていう考えを持ってるんだよ。つまり、俺が言い方は悪いけど普通に健康な木綿季と結婚すると……」

 

「よっぽどのことがない限り柃君が先に死ぬことになるわね。というか同じ罹患者の私くらいしか先に逝かないわね」

 

 アルが合点したように言う。そもそも(多分)未来ある少年少女がする話じゃないんだよなこれ……

 

「そういうことだ。ただなぁ……そんなこと木綿季に言う訳にはいかないし……」

 

「そこら辺は柃君がどうお爺さんと話を付けるかにかかってるわね。あ、私はいつでも柃君が許嫁にくださいって言ってきても大丈夫なようにしてるから大船に乗ったつもりでいるといいと思うよ」

 

「アル、そんなキャラじゃなかっただろ」

 

「気心知れる幼馴染なんだから少しくらいからかってもいいじゃない」

 

 アルは少しため息をつきながら言う。まぁ彼女も帰還したら即大学に呼び戻されて研究室に缶詰めにされて日夜研究に励んでいるのだから、それこそ息の詰まる生活をしていることは想像に難くない。それにあの濃い研究室の人たちを考えれば……うん、まぁストレスマッハだろうなと。

 

「もし俺が本気にしたらどうするんだ?」

 

「その時は覚悟を決めるって言ってるじゃない。半分冗談だけど、逆に言えば半分私は本気よ」

 

 アルはいつになく真剣な眼差しでこちらを見てきた。思わず俺は息をのむ。

 

「本気か。まぁ、それは神……いや爺さんのみぞ知ることだ。あまり期待しないで待っておけばいいんじゃないか?」

 

「そこはビシッて決めなさいよ。カッコ悪いわ」

 

「そもそも俺はカッコいい人間にはなれないんでね。英雄にはなれないたちなんだ」

 

「むー。ずっと柃君がそんなヘタレだったら私がロシアにでも連れ去っちゃうよ」

 

 アルがちょっとムスッとして言う。可愛い。

 

「シベリア送りは勘弁だ。死ぬ前にもう一つの祖国に帰ってみたい気持ちはあるが立場が立場だからもし連れ去ったら亡命だ」

 

「あ、いいこと聞いたね。ロシアに行くと帰国できないんだ」

 

「そうなるな。そうならないことを祈るが」

 

 アメリカに渡る前にアルの父親とレーナとに連れられてアルと一緒にロシアに行ったことはあるらしいが、陸上自衛官、それも国家機密に関わってる以上ロシアに亡命しようもんなら最悪警務隊に拘束される未来しか見えない。

 

「それこそVRだといくらでも日本にいる人とも会えるけど聞いた話だとロシアはVR環境の整備が全然進んでないらしいからね」

 

「だな。それこそ10年後には各国が続々参入して一大競争分野になりそうだ」

 

 話はまたVRについてに戻り、俺は心の中で面倒事が増えたとため息を吐きながらもアルの興味深い研究についてしばらく語り合ったのだった。

 

 

――――――――――

 

 

「お部屋は17階でございます」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 アルと別れた後、父が前もって手配してくれた日本人旅行者向けの系列企業ホテルに向かい、部屋のキーを受け取る。アルは「寮に泊まっていったら?私の部屋なら泊めてあげるよ」みたいなことを言ってたが流石にドタキャンは迷惑が掛かるし同衾なんて何が起きるか分かったもんじゃないので丁重に断っておいた。

 

「ロシア……か」

 

 ベッドに身を預けながらボソリと呟く。母国……と言っていいか分からんが現状は少なくとも渡る予定はない。

 

「いい刺激にはなったな」

 

 帰還して早々自衛隊の蓑に隠れて自由な生活を送っていた俺とは違い、すぐに大学に戻って研究の日々を送っていたであろうアルには頭が下がる。後々彼女が言ってた『計画』についても聞くことになるんだろうが……

 

「にしても、許嫁、ねぇ……」

 

 最大の懸念点はそこだった。法的にはまだ木綿季と婚約しているわけでもないので問題なんだが……まず一人の男として木綿季を泣かせるのはあまりにも忍びないし何を言われるか分かったもんじゃないんだよな、周囲から。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 帰国してからは明日奈の救出のために動かないといけないし爺さんにどう説明するかも考えないといけないし自衛隊上層部のために証拠集めもしないといけない……タスクが多くてしんどい。

 

「寝るか」

 

 俺は考えるのをやめ、静かに目を閉じた。




はい、個人的に書いてて楽しかったアメリカ編でした
ロリコンではないんですが七色博士が大好きなもんでして……
次回はまたALOに戻ります。お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。