交物語 作:可不可
003
「で、球磨川くんは何に困ってるんだよ」
浪白公園。数々の因縁があるその公園のベンチで、大変遺憾なことに、かつて戦場ヶ原とそうしたのと同じような横並びで、僕はそう聞いた。
『うん、本当に困ってるんだよ。流石の僕も、困り事に困り顔で困り眉で因り目になっちゃうぜ』
「字でしか伝わらないボケをするな」
しかも誤字だし。正しくは寄り目である。
球磨川くんは変わらず、何の感情もないような
『何に困ってるか、ね……そうだね、強いて言うなら
「気の利かないレトリックみたいな物言いだな」
わからないことが、わからない──出来の悪い生徒が、勉強などでありがちな状態を想像する。
幸い僕は、あまりそういった状態に陥ったことはないが──たしかに、現国の文章題などで、その坩堝に嵌ったことがある。
何を問われているかが、わからない。
作者の意図が、わからない。
『そうそう、まさにそんな状態さ。手も足も出なくて嫌になっちゃうぜ』
「とはいえ僕も、出来のいい教師ではないからな。そこまで詳細が分からないと、八方塞がりだよ」
『全然関係ないけどさ、「手も足も出ない」って要は四方が塞がってるわけだけど、八方塞がりの場合って残り四方何で塞がってるんだろうね?』
「単純に方位の話じゃないか? 東西南北と北東西南西東、合わせれば八方だろ」
『おいおい、北北東とか南南西だとかは仲間はずれにするのかい? 僕はそういうのが一番許せないな!』
「恵方くらいでしか聞かないよ、その方角」
自衛隊とか、軍事関連の場では使うんだっけ? あまり詳しくはないが。
だが今回に限っては、球磨川くんの発想だとしても、間違いではなかった。両手両足で四方なら、二人合わせれば八方なのだから。
『じゃあ、一方分空けられそうな情報を開示しようかな』
「そういうのがあるなら先に言ってほしいんだけど……」
一方分って、そんな単位はない。
球磨川禊という人間は、思った以上に適当なことしか言わないらしい。
いつか会った戯言遣いのことを、少しだけ彷彿とするが……しかし、球磨川禊の言葉は戯言と斬り捨てるには高尚過ぎるし、空言と切り上げるには物足りない。
『切り札は、最後まで切らないから切り札なんだよ』
彼は、キメ顔ならぬドヤ顔でそう言った。それには同意したい部分もあったが、これから話されることがそのレベルで大事なことだとは、とてもではないが思えなかった。
『それじゃあ話すぜ。僕をこの街に送り込んだ、平等なだけの人外の話を──』