眼に見えぬ裏切り。 作:伊江村 八十千和
「地に堕ちたか、藍染!!」
隠せぬほどの悲痛さと、怒りの含まれた言葉が私の耳に届いた。
(あぁ、この退場がもっと早かったのなら……こんな気持ちを抱えずに済んだのか)
ゆっくりと高度を上げていく足場を煩わしく思いながら、私は声のした方へ視線を向ける。
「驕りが過ぎるぞ浮竹」
私の口から出るのは、予め決められていた台詞。
この世界に産まれる遥か昔に読んだ漫画の台詞は、何故か私が望まずとも頭の中に浮かんでくる。
私はそれを読み上げるだけだ。
「最初から誰も、天に立ってなどいない」
朗読の様に、演劇の様に。
ただ、淡々と。
「君も、僕も、神すらも」
罪の意識に押しつぶされそうになる心を維持しながら、私は眼鏡に手を掛ける。
そこから見える景色は惨憺たる物だった。
血を流し地に倒れ伏す者、驚愕に顔を歪める元同士達。
此処には居ない大切な副隊長。
私の後ろを歩き、私に憧れ、役に立ちたいと必死に勉学を重ねた可愛く愛おしい副隊長。
彼女も……私が刺した。
死んではいない。
臓腑を傷つけぬ様、細心の注意を払った。
彼女の幼馴染。
才能溢れる十番隊隊長、日番谷君も私が斬った。
二人が硬い地面に倒れ伏す様子が、手に残る感覚が、脳裏に焼き付いて離れない。
許されるならギンの様に、私もこの場で謝罪の一つでも溢したいくらいだ。
しかし、此処でそんな事をしてしまっては今までの犠牲は無に還る。
「だがその耐え難い天の座の空白も終わる」
此処で過ごした、暖かく輝かしい日々が心を締め付ける。
寒空の下、彼等と交わした、たわいもない会話が……私の口を閉ざそうとする。
できる事なら死ぬまで君達と一緒に過ごしたかった。
そんな想いは、遥か昔から私の後ろでずっと尾を引いている。
だが、その想いを。
この日を以て、全て断ち切らねばならない。
「これからは…私が天に立つ」
声は震えていなかっただろうか。
涙は枯れたままでいてくれているだろうか。
今は大切な場面だ。細心の注意を払え。
彼等に、私が敵だと認識させなければならない。
捨てきれなかった余計な感情は、邪魔なだけだ……ここで殺せ。
「さようなら、死神の諸君」
済まない。
「そしてさようなら、旅禍の少年」
本当に済まない。
「人間にしては、君は実に面白かった」
これは必要な裏切りなんだ。
黒崎一護……君が成長し、世界を救う為に必要な。
そんな何度繰り返したか分からない言い訳を、心の中で呟く。
「…………さようなら」
そんな決別の意を込めた言葉と共に、私はその身を闇に沈めた。
駄文失礼しました。
続くか未定です。