私は、鬼。
嘘をつくことも、つかれることも、嫌いだった。故に私は嘘をついたことなど一度も……一度――いや、一回はあるかなぁ?
鬼、ここ幻想郷では何故か大酒呑みというレッテルを貼られているが……
あえて言おう私は酒が苦手であると!!
私が今いるのは博麗神社。霊夢はいつもと変わらないお茶を飲んでいる。
そしてお茶も切れたあたりで、霊夢はもう一度お茶を淹れに台所へと足を運ぶ、そして物足りないのか煎餅をついでに持ってくる。
そこから見計らったかのように白黒の魔法使い魔理沙が来るまでが、私の日常の一セットだ。
…………そして、私の見立てではそろそろなのだ。
「なぁ霊夢?」
「なによ魔理沙?」
…………
「今気づいたんだが、そういや宴会がご無沙汰じゃないかなーと」
「それもそうね」
……宴会。と聞いて、幻想郷中の妖怪妖精一部の人間は二つ返事で了承してしまう。それが、幻想郷の良い所でも悪い所でもある……お前らは宴会するぜーって言われたら敵の本拠地にもズカズカと入っていきそうなんだよ。
と、話が少しそれてしまったが要約するとこうだ。
「宴会する」「じゃあやろう」……これで、幻想郷の殆どの奴等が集まるんだ……冷静に考えて欲しい、例え同じ地区の人でも「パーティーしようぜ」って知らない――ことは無いか、あまり面識の無い人に言われたら行くかどうか躊躇してその上行かない。私なら
この幻想郷の害とも言える風習は誰が考案したのだろうか。私はソイツをぶん殴ってやりたい。
「……萃香?」
「ふぇ!? な、何?」
「いや、アンタなんて顔してるのよ。今魔理沙が宴会の準備に出ていったわよ?」
あ、ああ、って……宴会をしようと言われて皆が皆喜ぶと思ったら大間違いだ霊夢……って、ああ。そうだそうだ
私は、鬼。
嘘をつくことも、つかれることも、嫌いだった。しかし、私には原罪とも言える大嘘を、過去から今まで、つき続けてきたのである。
「霊夢。大事な話があるんだけど――」
「どうかしたの?」
霊夢は流すように聞き入れる。どうせ私のことだから酒関連の何かだと思ってるんだろう……まああってるけど。
「私、実は――」
……なぜだろう、言うべき事は頭の中にしっかりとあるのに口にすることが出来ない。
これを口にしてしまうと、自分が自分じゃなくなるような不安に襲われる。
「ごめん、何でもないや」
実際、私の個性の一つ……いや全てを否定するような事だ。簡単に口にすることは出来ないかもしれない。
宵の口、魔理沙発案のいきなり宴会にも関わらず幻想郷の面々がここ博麗神社に集まった。
さてと、私は奥の方で一人さびしく宴会を眺めるとしよう……
そう言えば、私の秘密。酒が飲めないという事をどう隠し通して来たか、ということだが……まあ能力を使えばなんとかなった。
私の『密と疎を操る程度の能力』。簡単に言おうとすれば密度を操る能力で、口に入れた酒を片っ端からうすーくして外へ飛ばしているのだ。どこまでも、どこまでも。
そうすれば酒の中身は減って、私の体内には何も残らない。完全犯罪達成ってわけさ。
とまあこんな感じで数年ちょっと、皆の目を欺き私自身を偽ってきた。
説明をするように過去を振り返っていると、どこからともなくお値段以上があらわれた。
「あるるうぇ? 大鬼の伊吹萃香さんじゃないダスかぁ」
コイツは酒癖が悪いようで、酔うとバカになる。
あっ、元からか。しかし大鬼とはディスってきてるのか? バカに馬鹿にされているのか? ちなみに濁していたがにとりのことだ。
「にとり……どうしたんだい?」
にとりが肩に腕を回してきた、酒臭い酒臭い!
「聞いてますか? どうやら最近、博麗大結界が緩まってるらしいんすよぉ」
それは少しだけ噂が耳に入ってきた……というか紫が嘆いている様を屋根の上から眺めていた。
「そのせいでぇ……外の世界の有名なお酒も一杯幻想郷入りしているようでっせぇ」
なんで酔ったらこうなるんだろう。やっぱり酒の力は凄いんだなぁ……よく分からんが。
しかし、幻想郷に外の世界の酒が入ってくるとなると厄介である。何故かと言うと私は酒が苦手だからである。それだけじゃ理由にならないかもしれないが、それだけが理由だ。
「あっそ」
私はにとりの話を興味無いように切り捨てる。
「あるぅえ?? 萃香さん興味ないんスかぁ?」
しかしにとりは引き下がらない、何故だ。興味無いし聞いた所で何の意味もないのだからさっさとどっか行けよ。
「分かった分かった。興味あるから、もういいよ」
どっかいけよ、私は宴会の時は一人でゆっくりしたいんだ。
ここにいる殆どが酒臭いから。
「そうっすか! そんな萃香さんに朗報ですよ、朗報! 今ならなんとこの外の世界から来た超聖水とか言う酒(?)が五割引きで二百円でどうっすかぁ!?」
「いらない」
にとりは「そうっすかぁ」とまたハイテンションで帰っていった。
あいつの酒癖は直した方がいいと思うんだが……どうだろう?
お値段以上が去り、やっとゆったりとした時間を過ごせる。
私は酒は飲めないが別にこんな宴会とかが嫌いな訳ではない、眺めるのは好きだし参加することも嫌いなわけじゃない。酒の匂いでいつもノックダウンしてしまうのだ。
ということで私はいつの日からか、博麗神社の隅っこでこうして宴会の様子を眺めながら水を飲んでいる。
でも……水だけってのは味気ないよなぁ。
「そうだ!」
私はある作戦を思いついた。
あの宴会から数日、あのお値段以上の話の殆どは不要なものだったが一つ面白そうな内容があった。
『外の世界の有名なお酒も一杯幻想郷入りしている』博麗大結界が緩まっているため、外の世界から酒が次々と降ってくると言っていたが、その降ってくる物が酒だけとは限らない。
つまり、酒以外の……外の世界の飲み物が拾えるんじゃないか、と思い立ち、ここ無縁塚に来た所存でございます。さあさあ探索開始――!!
―――
――
―
と、無縁塚を探索して数時間が経過した頃。ふと気がつく。
「私じゃ、これが何なのかすら分からんじゃないか」
私にはそんな能力は無いので、手に持っているこの長方形の物体すら何に使うのか分からなかった。
そんなこと来る前に気づけよと思うだろう? そうだろうな、私も今同じ気持ちだ。
「おやおや、こんな所に君が来るなんて珍しいじゃないか」
すると突然、後ろから声が聞こえた。
大人びた男性の声。
ここに来るような物好きで男といえば、あれだ。アイツしかいないだろう。
森近霖之助だ。
「ま、面白いものが無いかなと思ってね」
そこら辺を漁りながら答える、まあここらへん調べ尽くしたからもう見るものなんて無いけど。
「へぇ、君にそんな趣味があったのか」
別に趣味じゃ……とも返そうとしたが、そう返そうものなら『じゃあなんでここに?』ぐらいの返答が返ってくるのだろう……そうすると答えられない。
酒以外の飲み物探しに来ただなんてなんか……私のイメージがぶっ壊れそうで怖いし。もう、そういう趣味があるってことでいいよ。どういう趣味なのか知らんがな!
「まあそんな所だよ」
「そうかい。それじゃあ僕はあっちの方を見に行ってみるよ」
「ああ、そうかい」
正直言ってついてきて欲しかった。
まあ適当に持っていきゃあどれか当たりがあるだろう……そう信じてひたすらガラクタを集める。
ゆったりまったり集めているともう既に霖之助の姿は無かった。
ナンテコッタイ、置いて行かれた……という表記も正しいのか分からないが、ともかく面倒臭いことになった。
「こんな量どうやって持っていけばいいのさ」
目の前に積み上げられたガラクタの山は、とにかく必死に集めた『飲み物らしき物』である。
瓶に入ってるものからなんだかよく分からないものに入ってるもの、沢山集めたのに……どうやって持っていけば――あっ。
そうだそうだ。能力能力。私の密と疎を操る程度の能力で持ってけばいいんだ。最近酒にしか使ってなかったから忘れてた。
「これ全部……かい?」
「全部だ!」
香霖堂への移動を終え、霖之助へ鑑定を頼んだ。なんだか驚いている顔をしていたが決して私の持ってきた量が多くて「面倒臭いなあ」とかは思っていない、ハズだ。
あれだ、珍しい物があったら渡すという事にしているので、なんか、多分、うれしいんじゃないかな? こう、量が多いとさ?
「所で……なんでこう、酒瓶をゴロゴロと持ってきたんだい?」
霖之助は鑑定の途中で口を開く。
私もただひたすら隣で待っているのは暇だったので答えてや……る?
「ちょっと待って」
静止の声をかける。
「酒瓶? え?」
霖之助は話が見えないと言いたそうな顔だ。
私だって現状をきちんと把握している訳ではない。
「それ、酒瓶なの?」
ちょっと話の着地点が分からなかったが、次第に浮き彫りになってくる。
「分かって持ってきててたんじゃ?」
「知らねえよォ!!」
酒瓶と、普通の飲み物の違いも! わかんねえよ!!
迂闊だった、もしかすると。外の世界の飲み物の入れ物は私達の知っている入れ物と違うのかもしれん。
「外の世界から来た飲み物を探してるんだよ!」
八つ当たりしているともとれるような口調で言い返す。
「ハッハッハ、外の世界の飲み物はこれじゃなくて……」
霖之助は机を漁りはじめた。
「こういう物に入ってるんだよ」
そう言って取り出したのが……上から下まで丸い円柱の形をした――瓶ではないような材質の物だった。
「何だこれ、どうやって飲むんだい?」
「さあ?」
「分かんねえのかよ!」
「僕には名前と用途しかわからないからね、ちなみにこれは飲むものだよ」
「知ってるよ!!」
はぁ、無駄な時間を使った気がする……あんなよく分からないものが外の世界の飲み物――あっ!
「待て、さっき私それ見たぞ!?」
確かなんだか中に何か入ってる気がしたから取り敢えず持ってきた物が……あった。
「これどうだ!」
瓶の山を漁り取り出した唯一の外の世界の飲み物(と思われるもの)を霖之助へ差し出す。
「ふん……これは『缶詰』だね」
「かん…………づめ?」
違うのか? そうじゃないのか?
「これは食品を保存しておくための物だから、外の世界の飲み物じゃ無いんじゃないかな?」
「なん…………だと?」
結局、最後の可能性も潰え、私の宴会の時の飲み物を増やすことは失敗に終わった。
しかし、鬼は諦めの悪い種族!(個人の感想です)
あの日から私は幾度となく無縁塚に通い香霖堂へと歩を進めるのを繰り返していた。
「しかし、君も諦めが悪いねぇ」
霖之助はクスクス笑いながら私の持ってきた物体を鑑定している。
「ん、これも違うな……これは『乾電池』だね」
もうここまでくると『当たり』か『外れか』だけで言ってもらいたい。
正直名称とかどうでもいいし!
「おっ、これは――」
すると霖之助は目を輝かせ、ごきげんな声をあげる。
しかし知っている、こういう目をする時は霖之助は大体自分の好きなものを掘り当てているのだ。
しかもたちの悪いことに、気に入ったものがあったらそのまま数十分何かを考え込みブツブツ言っている。
「おめでとう。ついに見つけたようだよ!」
はいはい、霖之助が何か見つけたみたいですよ。
「なになに? 『烏龍茶』というのか……しかし、これは僕も見たことあるけど、ここまできちんとした形で見つかるのは珍しい……」
なんか珍しいものらしいですよ……はぁ、もう諦めようかなぁ
「萃香? どうしたんだ?」
「えー? 霖之助こそ、面白い物が見つかったみたいでよかったじゃないかぁ――」
「……何を言っているのか分からないが、とにかく見つかったよ。ほら、外の世界の飲み物だ」
「えー、外の世界の飲み物? それはさぞかし凄いもの――」
外の 世界の 飲み物?
「マジで!?」
覚醒した。
苦節一週間! 今思い返すとそこまでの期間では無かったがとにかくよく頑張った私!
「……これが?」
「烏龍茶らしいよ」
「飲んでみようか……」
「どうぞ。多分大丈夫だと思うから」
多分が引っかかるが、どうせ外の世界の物だから身体にそこまで害をなすことは無いだろう。
思い切って一口飲む。
「……味とか、よく分かんねえ」
いや、水とはまた違った風味ではあるのだけど……?
水の方が美味いんじゃ……?
んんっ……?
「まあ、外の世界だから美味しい物があると思ったら大間違いってことだね」
「うん。まあ……そだね」
なんだか全てに裏切られた気がする。
「所で、なんで外の世界の飲み物だったんだい?」
「え?」
香霖堂で落ち込んでいると霖之助は私に聞いてきた。
……私からすれば愚問だが、みんなからすれば、ってことだろう。
あーもうなんかどうでもよくなってきた。
「私さ、酒苦手なんだよねー」
「また冗談を」
「いやいやほんと」
もうなんか全て吹っ切れ、私は全て話した。酒が苦手なこと、いつもは能力でごまかしていたこと、宴会では隅の方で水を飲んでいること、そしてその水に嫌気がさして外の世界の飲み物を探しに来たこと。
全部話し終えた後、霖之助は少し驚いた顔を見せたと思ったらすぐに笑い顔に変わった。
「はははっ、なんだ、そんなことだったのか」
「そんなこととは何だよ。私は結構悩んでたんだぞ」
言ってしまえばなんともないことも、言うことになるまで苦労した。
「そんなこと、気にする必要無いじゃないか」
「え?」
「あの巫女や、僕の隣人の魔法使いが、そんなこと気にすると思うかい?」
「…………そう、だね」
「久しぶり~」
「あら、萃香久しぶりね」
博麗神社、ここにはいつもの二人がいる。
そして私の見立てではそろそろだ。
「なあ霊夢?」
「何よ?」
「そろそろ宴会がご無沙汰じゃないかなー」
「それもそうね」
私は害とも言える風習を考案したヤツをぶん殴ってやりたい。
それは今でも変わらない。
それと
私のこいつらに対するこの感情も一生変わらないだろう
「二人とも! 私から一つ報告があるんだ!」
「なによ?」
「お、なんだなんだ?」
―完―
―後日談―
「今回は『カルピス』ってやつを持ってきたぞ」
幻想郷の昼下がり、私は人里に来ていた。というのも、宴会に来るような奴等には外の世界の飲み物は合わなかった。
しかし子供とかにはウケたので、私は無縁塚に行くことが日課になった。そして保存状態が良いものを見つけたら人里に試飲会を開きに来ることにしていた。
「あ、これおいしー」
「水で薄めないほうが美味しい気がするよ」
「薄い方が良くない?」
色々な感想が飛び交う中、私も一口飲んで見る。
コップに注ぎ、水で薄めて飲む……うん美味い!
カルピスを半分程飲み、そろそろ子供の戦争(じゃんけん)が起こるだろうと思っていた時、人里には似合わないような人物があらわれた。
「霊夢?」
「あら、萃香。奇遇ね」
奇遇、とはまた違うと思うんだけど……いや、霊夢が人里にいることが奇跡か、そうか。
「霊夢こそ、里に何か用があるのかい?」
「ちょっと買い物にね……」
へー。どうでもいいや!
「そうだ、霊夢も飲んでみるかい?」
「なにそれ?」
「カルピスだよ、外の世界の飲み物。こういうのをジュースって言うんだよ」
霊夢は興味無いようだったが、取り敢えず飲ませようと、私はコップを取り出そうとする――と。
「……普通ねえ」
「ちょっ、霊夢!?」
コイツ直接飲みやがった! しかも全部!!
「どうかしたの?」
「いや、その……全部飲むなよ!」
ありったけの怒りを込めて叫ぶ。
私はどれだけ飲まれようと別にいいんだが、霊夢の後ろに戦争の勝者が物悲しい目をして立っていたので代弁して怒ってやる。
しかし霊夢は「別にいいじゃない」と笑いながら人里の奥へと消えていった。なんてやつだ。
まあ、でも。
「幻想郷は今日も平和であった」