Clossing Desires   作:ラディ

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ラディと申します。初投稿となります。
修行中の身であり、またリアルの事情でしばらくは不定期更新となりますが、どうかよろしくお願いいたします。


目覚める力、まだ見ぬ陰謀
始まりは突然に


「ん………朝、か」

 窓から射し込むやわらかな光に、俺は目を覚ます。

 昨夜は昔の夢を、それも、一生思い出したくない類いの夢を見たのだが、不思議と寝覚めは良いようだ。

「あの日の夢を見るのは久しぶりだな……って、ん?」

 窓を開けて朝の風を浴びようと体を起こしたとき、何やら左腕がやけに重く感じた。

 筋肉痛か?とも一瞬考えたが、すぐに違うと結論づけ、意を決してシーツを捲るとーーー

 

ーーーそこには、俺の腕を抱くようにして眠る、一糸纏わぬ美女の姿があった。

 

 金糸のような髪、白磁の肌、人形めいた端整な顔立ち、そして抱きつかれている腕から否応なしに伝わってくる弾力。

 どれをとっても人間離れしているその姿は、まるでお伽噺の妖精のようで、見るもの全てを惹き付ける魅力に溢れていた。

 そんな女性が自身の腕を抱き枕に、幸せそうにすうすうと寝息を立てているという状況に直面した俺は、

「ーーーうわぁぁぁぁぁぁ!?」

と、情けない声を上げながらベッドから転げ落ち、そのまま床を転がって壁に激突した。

「っ、痛って……!」

「ぅ、ん……ふぁぁあ………」

 その音で目が覚めたのか、女性は徐に体を起こし、寝ぼけ眼を擦りながら大きな欠伸を一つ。

 そうしてゆっくりと視線を巡らせ、床に伸びている俺を見つけると、彼女はまだ眠気の残る美しい相貌を綻ばせながら床に降り立とうとする。

「ああ、其処にいたか、弟よ。昨夜はよく眠れたか?」

 ………シーツで体を隠すこともせずに。

「そそそそ、そんな事はいいから、とりあえず服を着ろレイ姉!?いや着てくださいお願いします!」

「む、そんな事とはなんだ、折角姉が心配してやっているというのに、つれないな」

「そういう問題じゃなくて……!」

「ーーーお兄ちゃん、朝からどうしたの?もうすぐ朝ごはんできるから起き……」

(……あっ、マズい)

 遂に女性が俺に近付いてきて、目を逸らし続けるのも限界に達しようとしたその時、突然部屋のドアが開かれ、鈴の音のような澄んだ声が俺を呼んだ。

 同時に俺はこれから飛んでくるであろう言葉を想像して、顔を両手で覆いたくなった。

「……て?な、え、どう………」

「お、おはよう、妹よ。………良い朝だな」

「………お兄ちゃんのバカッ!」

「なんでさっ!?」

俺、ノウル・ヴァンダレイの一日はこうして始まった。

 

 

 

 

 

「私としたことが、面目ない」

 なんやかんやあって食卓につき朝食を摂ったのち、開口一番にそう言ったのはきちんと覚醒して服を着た美貌の女性ーーー俺の義姉、レイエスト・ルクシオンだった。

「わ、わたしも、事情も訊かずに怒鳴ったりしてごめんなさい、お兄ちゃん」

 妹のルミナ・ヴァンダレイが、俺と同じ真紅の瞳を揺らしながら続く。

「いや、気にしてないけど。………それよりレイ姉、どうして俺のベッドに?」

 居たたまれなさから強引に話題を変えた俺の内心を知ってか知らずか、二人はそれ以上謝罪や自責を口にすることはなかった。

 取り敢えず今は、レイ姉が何故あんなことをしたのかをはっきりさせなければ。共に三年暮らして、夢遊病みたいな癖が姉にはないと分かっているだけに、余計不安になる。………それに、こんなことが何度も起こってしまったら、正直俺の理性が保たない。

「笑わないか?」

「勿論」

「………昨日の夜、お前がうなされていたようだったからな。放ってはおけず、しかし私も疲れていたからどうしたものかと考えーーー」

「ーーーそれでベッドに潜り込んだと」

 無言で目を逸らす21歳の義姉。

 おそらく羞恥で、その頬は赤く染まっていた。

「まあ、心配してくれたのは事実なんだろうから、特に俺から言うことはないよ」

 何となく気まずくなり、ポリポリと頬を掻きながら答える。

 するとレイ姉はこちらに向き直り、まだ赤みの残る顔で微笑して一言。

「そうか……ありがとう」

「うんうん、とりあえず問題解決だね!って、お姉ちゃん、そろそろ時間じゃあ?」

「ん、もうそんな時間か。では、行くとしよう」

 どうやら、話しているうちにレイ姉が仕事場に向かう時間になっていたようだ。

 示し合わせたかのように三人同時に席を立ち、レイ姉に続いて俺とルミナも見送りのために戸口へ。

 ドアを開けると、暖かい風とともに春特有の草の香りが広がった。

(もうそんな季節か……俺たちがここに来てから、三年も経つのか)

「お姉ちゃん、気を付けてね!」

「ふふ、分かっているが、そう滅多なことは起きないさ」

 姉と妹の会話を聞いて現実に引き戻され、俺も口を開く。

「それでも、だよ。仕事が仕事だからな、いつ怪我するか分かったもんじゃない」

 レイ姉が勤めているのは、この国、イーグリンズ王国の国防と治安維持を担う正規軍ーーーその第一特記戦力とされているのが眼前の女性であると言う事実を、俺は身をもって知っている。

「それはそうだが、お前も似たようなことをしているじゃないか。人のことは言えんだろう」

「違いない。……じゃあ、行ってらっしゃい」

 苦笑する姉に笑みを返し、送り出す。

「ああ、行ってくる」

 今度は微笑し、くるりと振り返ると、レイ姉は地を蹴った。

 ただその一瞬で、姉の姿は見えなくなった。

「ほえー、相変わらず速いねー……。

 お兄ちゃんもあれくらい速く走れるの?」

「流石にまだ無理だな、レイ姉はもう長いから、経験の差だよ。

……さあ、俺たちも行こうぜ」

 気付けば、俺たちも学校へ向かう時間になっていた。

 王都南西にある一般居住区のはずれに建つこの家から学校まで、徒歩で十五分程。本来なら遅刻してもおかしくないがーーー

「お兄ちゃん、今日もよろしくね!」

「ん、しっかり掴まってろよ」

 ーーー()()()()()()()

 ドアを閉めて鍵をかけ、ルミナの雪のように真っ白な長髪を一撫でしてから、いわゆるお姫様だっこの形で抱きかかえると、俺は軽くジャンプして屋根の上に乗る。

 少し気合を入れて右足を蹴りだし、路地を飛び越えながら屋根づたいに走って大通りへ。そのまま学校がある王都北東ブロックに向かう。

 風を切る音とともに、景色が高速で流れていく。

 通りには人がまばらに歩いていて、疾走する俺たちにぎょっとしたような視線を一瞬だけ向けてくるが、きっと俺たちが通り過ぎた後には皆一様にもう慣れたと言わんばかりの苦笑いを浮かべていることだろう。

 いつもひいきにしている果物屋のおばちゃんに至っては、毎朝店の前を通るたび、何も言わずに笑顔で林檎を投げて寄越すのだから、慣れというものは本当に怖い。

「また今度お礼に行かなくちゃね!」

「そうだな」

 もらった林檎を齧りつつ他愛もない会話をしながら走ること一分弱、この三年ですっかり見慣れてしまった校門の前に辿り着いた。

 生徒たちの好奇の視線を一身に集めながらも気にすることなく、ルミナを下ろしごく自然に手を繋いで構内へ。

 正面には、白亜の校舎がそびえている。

 セイレッド王立学園。

 王都グランディア唯一の学校にして、イーグリンズ最大の教育機関である。

 魔法国家を代表する学校だけあって教育水準は非常に高く、生徒のなかには高等部修了後そのまま各研究機関に就職、というケースも珍しくない。そのため国中から優秀な人材が集い、日々切磋琢磨している。

 三年前、妹のルミナは難関とされる編入試験を難なく突破し、現在は中等部三年に在籍。持ち前の天真爛漫で真面目な性格から、友人も多く教授陣の評価も高いようだ。兄として誇らしい限りである。

一方で、それほど頭の良くない俺が何故ここにいるのかというと、実は俺もこの学園の生徒だからだ。裏口入学などではもちろんない(ただ、レイ姉には口利きをしてもらった)が、正規の手段で入学した訳ではないことは確かだ。

 この学園には、『訳あり』の少年少女を集め育成する特別クラス、通称”特科”が存在し、俺はそこに籍を置く一人である。

 一名の教授と俺含む三名の生徒からなる少数クラスではあるが、本校舎とは別に建つ施設のうち『第三研究棟』を丸々一棟与えられるという好待遇を受けている。

 その理由は簡単で、”特科”という存在がこの国において非常に大きな役割を担っているからだ。

「それじゃあ、また後でね」

「ああ、気をつけてな」

 校舎入口でルミナと別れた俺は、手近な屑かごに林檎の芯を放り込むと、自分も行くべき場所に行こうと校庭のほうへ歩き出した。

「今日の授業は確か、歴史の復習とーーー」

「ーーー()()()()、ですわ」

 独り言に割り込まれ、声のした背後へ振り向くと、一人の少女が堂々とした歩みでこちらに向かってくるところだった。

「ごきげんよう。相変わらず兄妹仲がよろしいようで。羨ましい限りですわ、ノウル」

「よう、リース。もしかしてさっきの、見てたのか?」

「ええ、それはもうばっちりと。というか、二人とも真紅の瞳に白い髪だなんて珍しい見た目ですから、否が応でも目を引きますわ。特にノウルはその制服のこともありますし、もう少し自重してはくださらない? 」

 呆れたような表情で隣に並んできたのは、リースリアンデ・イーグリンズ。ドリルのような派手な形をした金髪のツインテールがトレードマークで、俺と同じ”特科”の仲間だ。

 ファミリーネームが示す通り王族の血を引いており、言葉遣いに違わぬれっきとしたお嬢様である。とはいえ分家筋に近いらしく、本人が言うには王位を継ぐ可能性はほとんどないとのこと。

 ちなみに、”特科”の制服上衣は一般生徒の赤いブレザーとは異なり、形状こそ同じものの、こちらは黒を基調としたものになっている。

つまるところ、容姿を加味しなくとも、すごく目立つ。

「そんなに悪目立ちしてるか? だとすると……いや、でもこの登校スタイルを変えるわけには……」

 俺の呟きの何が気に入らなかったのか、リースは深く溜息をついた。

「自覚なし、と。………ホンット、どうしようもないですわね」

 

 

 

 

 

「ーーーという訳で今から約千年前、魔獣や魔族が蔓延る地上において人間の支配領域はわずかなものでした。それこそこの街と同じくらいに。

 しかしある時、特別な力を持った五人の若者が立ち上がり、魔族を相手に戦いを挑みました。やがて戦火はこのラルド大陸全土に及び、歴史上最大規模の戦争となったこの戦いは人間戦争と呼ばれています。

 人間側の指導者であった若者たち、原初の五人(ファースト・フィフス)の力は、人が魔に抗うために神々から与えられたものとされ、同時に彼らの「人間のために」という願いが力の源であったことから、それらを発現するために振るった武器と併せて形願武装(ディザイアームズ)と呼ばれました。

魔族と協定を結び人間の立場を確立することに成功した彼らは、大陸を支配していた四体の大魔獣をそれぞれ討伐し命と引き換えにこれを封印、人々は跡地に国を興しました。

 『魔法国家』イーグリンズ、『永久和国』ユニティア、『工業大国』シナストガンド、『夕闇帝国』ダルキア……ラルド大陸をほぼ四分割し、今日まで発展してきました。

 しかし、魔族との戦いは終わったといえ、人々を脅かす魔獣は健在です。これに対抗し、人々を守護するために存在するのが……はい、じゃあここをジグくん、答えてくれるかな?」

「僕たち”特科”、すなわち原初の五人と同種の力を持つ覚醒者(アウェイカー)です」

「その通り。基本的に魔獣、特に中・大型のものは、一般の兵士一個小隊から場合によっては大隊クラスの人数で討伐にあたるけれど、覚醒者(アウェイカー)は形願武装の力と人間を遥かに超える身体能力をもって、単騎で複数かつ強力な魔獣を相手取ることが出来る。

 その分覚醒者(アウェイカー)の数はとても少ないから、貴重な戦力として丁重に扱われる訳なんだよ、きみたちみたいにね」

そう言ってウインクを飛ばしてくる女性は、俺たち”特科”の担任教授であるミリシエル・クローク。栗色の髪と自身の低い背丈に合わせた改造白衣が特徴で、容姿と愛嬌のある性格から生徒にはミリス先生と呼ばれている。

途中で指名されたジグくんこと”特科”最後の一人、ジグ・フェルニドは、細身で背が高く温和な好青年。左目尻の泣き黒子とこの国では珍しい黒髪のためか、俺ほどではないがよく目立つ。顔立ちも整っていて、恐らく俺たち三人の中で一番ファンが多い。

「ですがミリス先生、確認ですけれど、覚醒者(アウェイカー)になる条件についてはまだほとんど研究が進んでいないんですよね?」

ジグが着席しつつ、愛用の黒縁眼鏡のブリッジを押し上げながら尋ねる。

その問いに対し、あからさまにしょんぼりした顔で答える先生。

「……残念ながらそうなんだよー。ユニティアにも協力してもらって、覚醒者(アウェイカー)のみんなが形願武装(ディザイアームズ)を発現させたときの状況を訊いたり、魔術的に探ってみたりしてはいるんだけど、こういう人には適性がありますよー、みたいな研究成果は今のところ挙がってないんだよ。分かったことと言えば、みんなが()()()()を抱いたときに形願武装(ディザイアームズ)を手にしているって共通点があることくらいかなあ」

「……先生、それってかなり重要な情報じゃ?」

「これがそうでもなくてね、願いの内容は人それぞれだし、そもそも『何を』『どういう風に』『どのくらい強く』願えばいいのかって点が曖昧すぎてどうしようもないのよねー。それならみんなが使えるものでいいじゃん、という訳でどの国も覚醒者(アウェイカー)()()()()()()として見てるふしがあってーーーおっと、時間になっちゃったね。続きはまた今度にして、訓練の準備をしよっか」

 チャイムによって遮られ、結局俺の疑問が氷解することはなかった。

「仕方ないよ。それよりも、早く訓練室に行こう。今日は僕とリースが対人訓練だから、ノウルもしっかり見ててね?」

「今日こそは決着をつけますわよ、ジグ!わたくしたちの後とはいえ、ノウルも対魔獣訓練があるのですから、遅れてはなりませんわ!」 

 拍子抜けして講義室の長机に突っ伏した俺に、ノート類をまとめていたジグと既に片付けを終えてそわそわしていたリースが、それぞれ声をかけてくる。

「ああ、分かってる。すぐに行くから先に準備しててくれ」

 二人は頷き、歩いてはいたが競い合うようにして講義室を後にした。

 俺はゆっくりと立ち上がり、一つ息を吐いてから、片付けに取り掛かる。

(……全く、本当に良い奴らだ)

 手を動かしつつも、頭の中では二人の仲間のことを考えていた。

(俺には勿体ないくらいだ。ーーー()()()の俺には)




諸設定の解説を交えつつ、次回から本格的に物語が動き出します。


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