ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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ちょっとした野球場ほどの広さがあり、碁盤の目状に無数の檻や生体ポッドが並ぶ被検体保管庫の暗闇の中でガサガサ、ゴソゴソと無数の蠢く音が妙に大きく響いた。

 

「あららら……やっぱりここに保管されていた被検体の魔物は全部脱走してしまったみたいだな……しかし、奴ら一向に襲って来ないな」

 

視界に入る全ての檻や生体ポッドの円柱フラスコが内側から破壊されているのを確認したカズヤが暗闇の中から殺気に満ちた眼差しでこちらを見詰める存在に注意を払いながらそう呟くと、その呟きに得物を構え臨戦態勢を取るセリシアとアデルが答える。

 

「はい。それにライトの光に照らされた魔物が直情的に襲って来ず、機械的に暗闇へ逃げる辺りを見ると統率が取れています」

 

「もしかするとリーダーやボスのような存在でもいるのかもしれないな」

 

「さぁ、どうだろうな。だが、襲って来ないのなら好都合だ。生存者を救出してさっさと脱出しよう。この数を正面から相手にするのは流石に骨が折れる」

 

「そうですね」

 

「そうだな」

 

セリシアやアデルと小声で言葉を交わしながらカズヤは被検体保管庫の奥へと歩みを進めた。

 

「閣下。この障害物の向こう側、15メートル先にある中央制御室に生存者の反応が固まっています」

 

「よし。魔物共の気が変わらないうちに生存者を救い出すぞ」

 

「「「「了解」」」」

 

護衛部隊の隊長の言葉に頷いたカズヤは障害物を乗り越え、檻と檻との間にある細い通路を足早に通り抜ける。

 

すると、カズヤ達の移動に合わせるように暗闇の中で魔物の蠢く音が数を増しながら一緒に付いて来た。

 

……包囲網を固めている?これは知恵の回る奴がいるな。

 

はぁ……この様子だとどのみち一戦は交えないと駄目そうだな。

 

移動している最中、暗闇を利用し機会を伺う魔物の群れとの戦闘が回避出来そうに無い事をカズヤは早々に悟っていた。

 

「あれか、生存者がいる中央制御室は」

 

無数の檻を並べて形作られた碁盤の目状の通路を抜けた先に広がる広場。

 

その中心には被検体保管庫の管理を行う中央制御室があった。

 

「なぁ、カズヤ。これは罠の匂いがプンプンしないか?」

 

「分かってる。だが、それでも行くしかないだろ。生存者を見捨てるという選択肢は無いんだから……前進」

 

電気の消えた中央制御室に灯る懐中電灯の光源を確認したカズヤはアデルの進言を切って捨てると、マイクロ・タボールを構え警戒を怠る事なくゆっくりと前進する。

 

だが、アデルの言葉が正しかった事を示すようにカズヤ達が一歩進む度に魔物達が発する不気味な吐息や耳障りな足音の音量が増していく。

 

「――っ!?」

 

そして、プレッシャーを掛けてくる魔物に対し神経を尖らせるカズヤが中央制御室まで残り5メートルの位置にまで近付いた時だった。

 

バンッ!!と中央制御室の窓の内側に血塗れの手が叩き付けられたかと思うと窓の下から壮絶な表情を浮かべた科学者が現れた。

 

「く……るな……罠…だ……逃…げろッ!!」

 

『マスター!!お下がり下さい!!』

 

科学者が震える手で窓を開け力の限り叫んだ直後、千代田の警告を発する声と同時に中央制御室がまるで紙細工のように押し潰された。

 

「こンのッ!!よくもやってくれたなクソ野郎ッ!!」

 

あと少しで助けられたはずの生存者を目の前で圧殺されたカズヤはギリリッと歯を食いしばりながら、生存者を圧殺した下手人へ怨みの籠った視線を向ける。

 

顔のパーツが無いのっぺりとした頭部を持つ人型で体長が約2メートルほどあり、筋肉質の体が濃紺の皮膚に覆われ、背中から無数の触手を生やした生物。

 

それが中央制御室を押し潰し被検体保管庫にいた生存者を圧殺した下手人の姿であった。

 

「閣下!!全生存者のバイタルが消失しました!!』

 

「全方位より敵接近!!」

 

「っ!!各自発砲自由!!各個に応戦しつつ後退せよ!!ここから脱出するぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

中央制御室を押し潰した後、こちらを伺うように佇む顔無しに対し、怒りに任せて発砲しようとしていたカズヤだが、救出すべき生存者を失った事や辺りを取り囲んでいた魔物の動きが顔無しの登場を皮切りに一変した状況を鑑み、報復を諦めて撤退を決断し即座に行動に移った。

 

しかし、逃げ出すカズヤ達を逃がすまいと魔物の群れが一気に押し寄せる。

 

「千代田は退路のナビゲーションを!!セリシアとアデルは7聖女と一緒に殿を頼む!!」

 

『ハッ、了解しました』

 

マイクロ・タボールで戦闘に参加しつつ指揮を行うカズヤの命を受け、千代田が操作する強行偵察用ロボットのハウンドドッグが先頭に立ち、搭載する次世代機関銃のLWMMGから338ノルママグナム弾をばらまいて、有象無象の魔物を引き裂き退路を強引に切り開く。

 

「承知致しました。後ろはお任せを」

 

「了解だ」

 

また美しい薔薇と一緒で可憐な姿に似合わず恐ろしい棘を持つセリシアやアデル、そして7聖女の面々が各々の得物を振るい追い縋る魔物を悉く解体し肉塊へと処理していく。

 

そして一個小隊程度の人数しか居ないにも関わらず、そんじょそこらの一個大隊よりも強力で苛烈な戦力を保有するカズヤの一行は津波のように攻め来る魔物の群れを易々と退けつつ、被検体保管庫の出口へと急いだ。

 

「閣下!!出口が魔物の死骸で埋め尽くされていきます!!このままでは!!」

 

向かって来る魔物を撃滅し被検体保管庫の出口にカズヤ達が辿り着いた時だった。

 

被検体保管庫の出口で待ち伏せていた魔物の壁を排除すべく、M16用の100発入りドラムマガジンを装填したタボールTAR-21で5.56x45mm NATO弾を撃ちまくっていた護衛部隊の隊長が、殺した魔物の死骸で逆に出口が封鎖されていく事に気が付き慌ててカズヤに指示を求めた。

 

「えぇい、少々危険だがしょうがない!!GTAR-21の40mm擲弾で纏めて凪ぎ払え!!」

 

あと少し、出口を目前にして手間取り密集状態での戦闘を強いられていたカズヤはGTAR-21(グレネードランチャー・タボール)M203グレネードランチャーを取り付けたTAR-21による40mm擲弾の攻撃で死骸を吹き飛ばせという指示を出した。

 

「「了解!!」」

 

命令を受け、直ぐ様GTAR-21を装備する数名の兵士がM203の引き金を引く。

 

ポンッという軽い発射音と共に打ち出された40mm擲弾は着弾と同時に出口に積み重なっていた魔物の死骸や生きている魔物を火炎と爆風の嵐で纏めて吹き飛ばし、退路をあっさりと切り開いた。

 

「退路の確保完了!!」

 

「よし、全員撤退す――」

 

爆風の余波を浴びつつも退路の確保に成功した事でカズヤ達の警戒心が僅かに薄れた瞬間を狙い、それは起きた。

 

「危ないッ!!」

 

撤退指示を遮るかのように発せられたアレクシアの鋭い声と同時にドスドスドスッという重い音が響き、次いでカズヤの顔に滑りのある液体が付着する。

 

「――……ッ!?」

 

反射的に目を瞑ってしまったカズヤは顔に付着した液体を手で拭い、その妙に鉄臭く暖かい謎の液体が血液だと認識すると驚愕して視線を前に向ける。

 

「ゴプッ、ご無事……ですか?」

 

そこにはまるで杭のような骨に全身を串刺しにされ、口から血を溢すアレクシアがいた。

 

しかも視界を左右に振るとアレクシア以外の7聖女も皆、カズヤを庇う形で骨に串刺しにされていた。

 

「お前……達?」

 

「……良かった……貴方様が……ご無事……で」

 

その身を骨で串刺しにされているにも関わらず、カズヤが無事だと分かると7聖女は満足気な笑みを浮かべる。

 

そして次の瞬間、皆が示し合わせたかのように一斉に力尽き床に崩れ落ちた。

 

力なく床に横たわる7聖女の身体からは赤い血が池のように広がり始めていた。

 

「セリシア!!アデル!!」

 

自身の盾となり負傷した7聖女を救うため、カズヤは完全治癒能力を発動しつつ叫んだ。

 

「分かっております!!」

 

「了解!!」

 

呼び掛けに込められたカズヤの意思を汲み取ったセリシアとアデルは邪魔な魔物の群れを片手間に潰し、7聖女を串刺しにした骨を触手の先から射出した顔無しに向け猛然と駆け出す。

 

「もっと撃ってご覧なさいな!!」

 

「遅い!!」

 

接近前に撃ち殺してしまえと言わんばかりに機関銃のような早さで次々と骨を射出する顔無しに対し、セリシアは魔力障壁を張って飛んでくる骨を弾き、アデルはその身体能力を生かして骨を避けつつ肉薄する。

 

「ハラワタを――」

 

「ぶちまけろッ!!」

 

顔無しの攻撃を凌ぎ切ったセリシアとアデルはタイミングを合わせ、杖の打撃と剣の斬撃を左右から同時に人型の体へ叩き込む。

 

『クケェッ!?』

 

のっぺりとした顔に隠されていた不気味な口をガバッと開き、まるで屠殺された鶏のような悲鳴を上げ顔無しが吹っ飛んでいく。

 

「……浅い」

 

「あぁ、急所は外したな」

 

「でも、アデル。深追いはせずにカズヤ様の元へすぐ戻りましょう」

 

「そうだな。……被検体保管庫の壁に穴を開けてしまった事だしな」

 

吹き飛んだ顔無しが被検体保管庫の壁にぶつかり穴を開けた事で大量の海水が保管庫内へと流入し始めているのを冷や汗を流しながら眺めていたセリシアとアデルは顔を見合わせると踵を返してカズヤの元に急いだ。

 

「……しかし、妙です。あんな人型の魔物……あんな被検体は居なかったはず」

 

カズヤの元に急ぐ途中、セリシアは隣で走るアデルに聞こえないほど小さな声で、そう呟いたのだった。

 

 

 

「……やれやれ、どうにかなったな」

 

下層第3ブロックのA−1フロアから逃げ出す事に成功したカズヤはそう呟くと、下層ブロックの海没処分により封鎖されたエレベーターを何となく眺めていた。

 

事後処理を行うためセリシアやアデルは側を離れており、また完全治癒能力で回復したものの念のため医療設備の整った本土の病院へ搬送された7聖女もおらず、そして護衛部隊も帰りの手筈を整えるため姿を消していたため、カズヤの周りにいるのはメイド衆だけであった。

 

「帰るか……っと」

 

「どうぞ、私の肩をお使い下さい。ご主人様」

 

「悪い」

 

感傷に浸るのを止めて帰ろうとし、足元がふらついたカズヤをメイド衆のルミナスがすかさず支える。

 

即座に動いたルミナスの働きにより、その場にいた他のメイド衆がカズヤの変調に気が付く事は無かった。

 

「ご主人様。今のご気分や体調はいかがですか?」

 

ルミナスの小声に対し、カズヤも小さな声で答える。

 

「軽い頭痛と倦怠感があるな」

 

イリスの負の魔力に侵されているにも関わらず、医師やルミナスが取り決めた使用回数を超過して魔力を多用する完全治癒能力を使った事でカズヤの身体には軽い異常が現れていた。

 

「やはり……能力の使い過ぎによる異常かと。ご主人様、このままではお身体が……」

 

「しかしな、使い惜しみをする訳にもいかんだろ。何せ人の命が掛かっているんだから」

 

「ご自愛下さいませ。ご主人様の代わりなど居ないのですから」

 

「それを言ったら皆の代わりも居ないだろ」

 

「……」

 

「分かった、分かった。そう怖い顔で睨むな。綺麗な顔が台無しだ」

 

話を堂々巡りにして煙に巻こうとしたカズヤは、怒った顔で睨んでくるルミナスに降伏した。

 

「……さてと、これから本土に帰って明日の会議の準備やら色々な根回しやらをしないとな」

 

カズヤはそう溢すと英気を養うためルミナスの肩に少しだけ寄り掛かる強さを強めたのだった。


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