ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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アミラとリーネが妊娠したという事実を知り、次こそは自分の番だと鬼の形相で迫って来たカレンやこの機に便乗して子供だけでなく妻の座さえも頂いてしまおうと画策し押し掛けてきたセリシアとアデルを間一髪の所でかわし、修羅と化した彼女達からどうにか逃げ切る事に成功したカズヤはボーイング747を改造した専用機――VC-25エアフォースワンで旧妖魔連合国領にある最大の軍事施設――デイルス基地へと向かった。

 

何事も無く空の旅を終えデイルス基地に降り立ったカズヤは、基地で待機していた親衛隊の一個連隊や千代田と合流し、妖精の里に一番近い街までキャデラック・プレジデンシャルリムジンで移動。

 

街に到着した後、そこで千代田達と別れメイド衆と武装メイド達に囲まれながら霧深い森の中を徒歩で進み妖精の里を目指していた。

 

とはいえ、総統という高い身分にあるカズヤが自分の足で森の中を歩いている訳では無く。

 

「――悪いな。ケンタウロスは認めた相手しか背に乗せないという慣例があるのに背中に乗せてもらって」

 

武装メイド隊の一員である半人半獣の種族――ケンタウロスのアニエスの背に乗って妖精の里に向かっていた。

 

「いえ、恐れ多くも総統閣下を背に乗せたというのであれば、末代まで誇る栄誉です。それに私は閣下の足となるべくこれまで訓練を積んで参りました。ですので正直に申しますと閣下に騎乗して頂いているのが嬉しくてしょうがありません」

 

今回の場合のように車両の類いが入っていけない場所に行く状況に備えて千歳により育成され、カズヤの身の回りの世話や護衛を行う武装メイド隊に配属されたはいいが、馬の体がネックとなりメイド業が行えず今まで活躍の場が無く日蔭者の存在だったアニエスは、ようやく得た活躍の場に胸を踊らせていた。

 

その心中を現すかのようにアニエスの尾は馬が喜ぶ時と同様に、直角に上がり毛が四方に拡散していた。

 

ちなみに今回の一件に随行しているのは完全武装で身を固めた選りすぐりの武装メイド60名と、その武装メイド60名(6個分隊)を纏め上げる5人の隊長(メイド衆)ライナやレイナ、エル、ルミナス、ウィルヘルム。

 

「フフフッ、母様もリーネも妊娠したのに……私だけ……フフフッ……」

 

そして、所詮レイプ目と言われる虚ろな目で空中を眺めながらブツブツと独り言を漏らし続けるフィーネであった。

 

……なんて声を掛けたらいいんだ?

 

フィーネを乗せているケンタウロスからは助けて下さいと言わんばかりの視線が飛んで来ているし。

 

どんよりとした暗いオーラを漂わせ落ち込んでいるフィーネを横目で伺いつつカズヤは声を掛ける機会を図っていた。

 

しかし、千歳が哀れむ程の落ち込み具合なだけあって、声を掛けることすら憚られる状態であった。

 

「えーと、フィーネ?」

 

「フフフッ……このまま私だけ永遠に妊娠出来ないんだわ……フフフッ……それでカズヤにも捨てられて……1人寂しく死んでいくのね……フフフッ」

 

「フィーネ!!」

 

「フフ――え!?あ、な、何かしらカズヤ?」

 

「いや、何って……大丈夫か?」

 

「え、えぇ、大丈夫。大丈夫よ」

 

見るに見かねたカズヤが遂に声を掛けたが、応じるフィーネの返答はどこか上の空であった。

 

「その……フィーネ?こういう事は運次第なんだし、そんなに気負わずにゆっくり考えて行けばいいんじゃないか?」

 

フィーネの側へとアニエスに寄ってもらったカズヤは、フィーネの心を少しでも落ち着かせようと彼女の手を取り真っ直ぐ瞳を見詰めながらそう告げた。

 

「……そうね……そうよね。時間なんてこれから沢山あるんだし、ゆっくり考えていけばいいのよね」

 

カズヤの想いと言葉が届いたのか、フィーネは先程までとは打って変わって晴れ晴れとした表情を浮かべた。

 

「あぁ“時間はいくらでもある”」

 

暗いオーラが雲散し生来の明るさを取り戻したフィーネに安堵の息を漏らしつつ、カズヤは自身の言葉に皮肉染みた思いを抱きながら、本当の事を言えない負い目を感じていた。

 

「――ご主人様、周囲に複数の気配があります」

 

視線の先で笑うフィーネに、引いては妻達に重大な隠し事をしている罪悪感にカズヤが呑まれそうになっていた時であった。

 

周辺警戒に当たっていたウィルヘルムがカズヤの元に駆け寄り、異常を告げた。

 

「魔物か?」

 

「いえ、魔物にしては統率が取れ過ぎています。恐らくは――」

 

「アマゾネスよ」

 

ウィルヘルムの言葉を引き継ぐようにフィーネが確信めいた呟きを漏らす。

 

「止まれ!!」

 

フィーネの呟きが正解であったことを示すかの様に、霧の中から3人の女性――アマゾネスが現れカズヤ達の進路上に立ち塞がった。

 

「これより先は我らがアマゾネスの領地である!!何人たりとも踏み入る事は許さん!!早々に立ち去れ!!さもなくばこの場にて処断する!!」

 

布地の面積が少なく男を挑発するような蠱惑的なデザインが施された民族衣装を身に纏い両刃槍や短弓で武装した3人のアマゾネスの中で一番小柄な女性が声を張り上げる。

 

「我が名はフィーネ・ローザングル!!我らは妖精王の要請を受けここに来た者達だ!!照会を頼む!!」

 

「ローザングル?……少し待て!!」

 

退去を命じるアマゾネスの言葉にフィーネが名乗りをもって応じると、立ち塞がっていた3人の内1人が姿を消した。

 

「なぁ、フィーネ。あちらさんはやけに殺気だっていたようだが……まさか、話が通ってなかったのか?」

 

アマゾネスの威圧的な対応に反応した武装メイド達が手に握る銃のセーフティーを解除しトリガーに指を掛け、即戦態勢に入っている。

 

1つ間違えれば戦闘が開始されそうな雰囲気が漂っているだけに、不安を抱いたカズヤはフィーネに問い掛けた。

 

「いえ、誰であろうとここで誰何を受ける事になっているのよ。侵入者を防ぐために。一種のセキュリティシステムみたいなモノね」

 

「ならいいんだが……」

 

フィーネの返答に引き締めていた表情を和らげたカズヤは待っている間の暇潰しに、周辺に潜むアマゾネスの数を数えていた。

 

「うむ、分かった。――よし、確認が取れた。私に付いて来い」

 

霧に紛れて周辺に潜むアマゾネスをカズヤが15人程見付け出していると、どこかへ姿を消していたアマゾネスが戻って来た。

 

そして、アマゾネスの暮らす村の中を通り、その奥にある妖精の里へと行くことを許されたカズヤ達はアマゾネスの先導を受けながら再び歩み始めた。

 

「霧が晴れ――って、おぉ……凄いな」

 

アマゾネスの村に足を踏み入れた途端、霧がかき消え視界がパッと開ける。

 

見通しが良くなった先に広がる光景を見てカズヤが思わずそう呟いた。

 

カズヤ達の行く先に現れたのは先程までの通常の森とは植生もスケールも異なる巨木の森。

 

カズヤのような人間が、まるで小人のように感じられるその巨木の間間にはキャットウォークのような細い通路や吊り橋が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、巨木を利用して建てられた家屋(ツリーハウス)同士の行き来が出来るようになっていた。

 

「しかし……ものの見事に女しかいないな」

 

頭上のツリーハウスやキャットウォークからこちらを見ているアマゾネスの姿にカズヤが感心したような声を漏らす。

 

「アマゾネスの村なのだから、当然でしょう?」

 

側にいたフィーネは頭上に広がるツリーハウス群やアマゾネスの姿に気を取られているカズヤに若干呆れたように返事を返す。

 

「それもそうか。しかし……聞いていたから予想はしていたが……好意的な視線が1つも無いな」

 

嘲りや侮蔑の視線と微かに聞こえる軽蔑や侮辱に満ちた嘲罵の笑い声。

 

その全てが男の自分に向けられている事を感じ取りながら、カズヤはヤレヤレと首を振った。

 

「アマゾネスは女尊男卑の世界で生きているから、しょうがないわ……でも、カズヤ。彼女達は自分が認めた男には物凄く尽くすのよ?ここで貴方の強さを見せ付けてハーレムの規模でも拡大してみる?」

 

「遠慮しておくよ。俺はそこまでの色欲魔じゃないし、何よりフィーネ達が居てくれたらそれで十分なんだし」

 

からかうようなフィーネの言葉にカズヤは勘弁してくれと言わんばかりに肩を竦める。

 

「なんだい、つれないねぇ……私達の肢体はお気に召さないかい?それとも……私達に挑んでコテンパンにされるのが怖いのかい?あ、そりゃそうか。そんな貧弱な体じゃ勝てる訳ないか。アハハハッ!!」

 

嘲笑に顔を歪め、敵意を隠そうともしないアマゾネスがカズヤ達の前に現れる。

 

ぞろぞろと供を引き連れ、他とは明らかに一線を画した風格を纏い、上物の衣装に身を包む美女。

 

体のいたるところに戦いの古傷と思われる傷跡が刻まれ、歴戦の戦士という言葉を彷彿とさせる彼女はカズヤを挑発する。

 

「誰かは知らんが……まぁ、そう言う事にしといてくれ。先を急いでいるんでな」

 

売られた喧嘩を買うのが面倒くさかったのと、自分を侮辱されたせいでキレかかっている部下達を押さえ込むためカズヤは柳に風と立ち塞がるアマゾネスの言葉を飄々と流した。

 

しかし、その対応がバカにしていると取られたのか、立ち塞がるアマゾネスの額に青筋が浮かぶ。

 

「あ゛?このアレキサンドラ様が男のお前にワザワザ声を掛けてやっているっていうのに、その態度はなんだい?」

 

背後の供に預けていた両刃槍を奪い取るようにひっ掴み、ズイッと身を前に出すアマゾネス。

 

そっちから勝手にケンカを売ってきた癖に厄介な奴だな。

 

そこらのチンピラのように凄んでくるアマゾネスにカズヤは内心でため息を吐き出した。

 

「おい、貴様。我々は妖精王の頼みでわざわざここまで足を運んでいるのだ。いわば客人だぞ?その客人に対してこの非礼はどういう訳だ!!」

 

今まで我慢し黙っていたフィーネが相手方の非礼極まる対応に、遂に怒りを露にする。

 

「なんだいオーガの小娘。ん?よくよく見たらべっぴんの顔にいい体をしているじゃないか。そんな男の側に居ないでこっちに来なよ。私が閨で可愛がってやるからさ」

 

「ッ!!ふざけるのも――」

 

閨へと誘うアマゾネスの言葉と舐め回すような視線に晒されたフィーネが羞恥心と怒りで顔を真っ赤にしながら反射的に怒号を上げようとした時だった

 

パシンッ!!とフィーネの背後で何かを叩くような音が響く。

 

「俺の女に触れるな……次は撃つ」

 

音に反応して振り返ったフィーネが見たのは、いつの間にか背後に忍び寄っていた全裸のアマゾネスを地面に組伏せるカズヤの姿だった。

 

こいつ……上にあるツリーハウスから飛び降りて来やがった。

 

あそこからここまで30メートルはあるぞ……まるで忍者だな。

 

というか、何でこいつは真っ裸なんだ?

 

周囲を固めていたメイド衆と武装メイド達が警戒網を抜かれた事に騒然とする中、カズヤは拘束に成功したアマゾネスの格好に疑問を抱いていた。

 

「あり……わたし……つかまってる。おまえ、つよい?」

 

「知るか、さっさと消えろ」

 

「きゃん!!」

 

「よっと」

 

舌っ足らずなアマゾネスを蹴り飛ばすように自分の前から排除したカズヤは、アニエスの背に飛び乗る。

 

「さて、これ以上の挑発行動は当方への敵対行動と見なし、厳正に対処させて頂く。そちらもそのつもりで行動してくれ」

 

自分の言葉が原因で茹で蛸のようになって俯いているフィーネの姿を横目で伺いつつ、カズヤは淡々とアマゾネス達に最後通牒を叩き付けた。

 

「ハンッ、アマゾネスの中でも特に秀でた身体能力を誇るシュシュリを捕まえたんだ。多少は見直してやるよ。だけどね、その態度が気に食わないんだよ。男が偉っそうに……いくら妖精王に招かれた客人だからって調子に乗っているとここでぶっ殺――」

 

「ま、待ったーー!!そこまでー!!」

 

絡んできたアマゾネスがカズヤの言葉を単なる脅しと取り、軽率にも開戦を告げる言葉を口から漏らそうとした時だった。

頭上から慌てた声で仲裁が入る。

 

おいおい……またファンタジーな奴が……。

 

その声に導かれカズヤが頭上を見上げると、そこには背中から半透明の翅を生やした小学生ぐらいの女の子が空中に浮かんでいたのだった。


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