ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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自ら殿を買って出たカズヤは明確な殺意を帯びて押し寄せる数多の弾丸や砲弾の弾道を展開した重力魔法でねじ曲げ、全て地面に落とす事で部下やアマゾネス達の撤退を支援していた。

 

「うぉおおおおおおおッ!!」

 

弾道がねじ曲げられ地面に着弾した弾丸や砲弾によって、まるで地面が沸騰したお湯のように沸き立ち、舞い上がった土煙が視界を遮る中、カズヤは自分自身に気合いを入れるように吠えていた。

 

そして、いつ止むとも知れない苛烈な弾幕を見事に防ぎ切ったその時、カズヤの魔力はほぼ底をついていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「――長門和也だな?」

 

魔力の枯渇から来る精神的疲労により肩で息をするカズヤの前に、全身黒ずくめの仮面の男が現れる。

 

仮面の奥に隠された口から紡がれるくぐもった声は敵意に満ち、カズヤを睨む瞳には憎悪が宿っていた。

 

「……あぁ、そうだ。で、あんたは誰なんだ?というか、そもそも何者だ?」

 

クソッ、この野郎……途中からやけに弾幕の密度が落ちたと思ったら、ガトリング砲や大砲を扱う砲兵だけ残して歩兵部隊をレイナ達の追撃に向かわせてやがった。

 

お陰で完全に分断されて孤立無援の状態じゃないか、全く。

 

しかし……こいつは何故単身で出てきたんだ?

 

残していた砲兵もレイナ達の方へ向かわせたみたいだし。

 

全部隊で一気に来られたら、さすがに殺られていたんだが。

 

……まさか、タイマンでケリを着けようって腹なのか?

 

大きく深呼吸をした後、カズヤは対峙した男から少しでも有益な情報を引き出そうとする一方で、敵部隊が自身を迂回し後方への攻撃を行っている事や、

 

『ご主人様!?ご無事ですか!?応答してください!!応答を――えぇい!!邪魔!!すぐに、すぐにそちらへ行きますから、どうかご無事で!!』

 

『ルミナス!!ご主人様の様子は!?』

 

『こっちは敵の狙撃手に釘付けにされていて、様子を見る隙も無いわ!!』

 

『ご主人様の元に一番近いのは、誰!?』

 

『私!!けど、こっちは半包囲されていて援護不能!!』

 

無線機から流れるレイナ達の悲痛な叫びを耳にして、己が置かれている危機的な状況をようやく理解していた。

 

「名など、とうの昔に捨てた。そして、何者かと聞かれれば――お前を殺す者だ」

 

「ハハッ、何でそんなに俺の事を憎んでいるのかは知らんが……お前も大分と拗らせているな。全身黒ずくめに台湾の特殊部隊が着けているような仮面――正直言って、似合ってないぞ?」

 

「その言葉……あの世に行ってから後悔しても知らんぞ」

 

「? 何でそんな哀れむような声を出しているんだ、お前……」

 

相手の冷静さを奪い判断力を少しでも鈍らせようと吐いた挑発の言葉に、心底哀れむような声で返されたカズヤはその意味が理解出来ず眉をひそめる。

 

「フン、ここで理解せずともいい、あの世で理解しろ」

 

「そうかい。ま、残念ながらそうそう簡単にはやられてやる訳にはいかんのでな。全力で抵抗させてもらうが」

 

「無駄な事を……大人しく殺されれば余計な苦しみを味わう必要もないというのに。まぁ、どのみち貴様はここで死ぬ。俺が殺すッ!!」

 

「どわっ!?」

 

野郎、いきなりおっ始めやがった!!

 

仮面の男が手にしていたM1873ウィンチェスターライフルを唐突にぶっぱなしてきたため、カズヤは慌てて倒木の影に飛び込み、弾丸をかわす。

 

例に漏れず今度の渡り人も癖があるな……っと!!

 

そんな事を考えつつカズヤは、倒木の影からM1911コルト・ガバメントだけを出し応戦、すると仮面の男も弾を避けるために物陰へ逃げ込んだのか一瞬銃声が止んだ。

 

しかし、すぐに応射があり、互いに相手の出方を探るような撃ち合いが始まった。

 

「千日手だな……」

 

散発的な様子見の撃ち合いが続く中、カズヤはマガジンを交換しつつそう呟いた。

 

こっちの武器はコンバットナイフが2本と軍刀1本。

 

それにM1911コルト・ガバメントとFN Five-seveNの2丁で、予備マガジンがそれぞれ2つずつ。

 

で、消費した弾丸の分を差し引いて……現在はガバメントが残り7発。

 

Five-seveNはまだ使ってないから、薬室に1発と装填済みのノーマルマガジンの20発。

 

そして予備のロングマガジン2つの60発。

 

総残弾数は88発か……映画みたいにバカスカ撃ったら速攻で無くなるな。

 

1発1発考えて慎重に撃たないと。

 

……にしても、あっちは残弾を気にしていないような感じで豪快に撃ってくるな。

 

全く、羨ましいこって。

 

けど、見た感じそんなに弾を持っている様子は無かったんだが……まさか、俺と同じような武器弾薬の召喚能力を持っているのか?

 

それも戦闘中は召喚能力が封じられてしまう俺と違って常時召喚可能な能力を……。

 

この仮定が正しいとなると不味いな。

 

わざわざレバーアクション式のライフルを――型式は不明だがウィンチェスターライフル使っている点を考慮すると、かつての俺のように召喚可能な兵器の年代に制限があって西部開拓時代前後の武器しか召喚出来ないのかも知れないが……いや、そうやって勝手な考えで断定するのも危険だな。

 

最新の武器や未知の武器も召喚可能という前提で戦うか。

 

「さて、しょうがない……こっちから行くか」

 

残弾数の関係で時間の経過と共に劣勢になってしまう事を考慮したカズヤは、相手の機先を制するためにも自分から仕掛ける事にした。

 

「――3発、2発、1発、今ッ!!」

 

仮面の男が撃った弾数を数え、装填を行うタイミングを見計らっていたカズヤは相手が物陰に引っ込んだ瞬間、倒木の影から飛び出した。

 

あぁ……クソッタレ、心臓が破裂しそうだ!!

 

何気に初めて味方の援護が無い中で単身敵と戦うという事実に新兵のような高揚感を味わう一方、自分の考えが間違っていて次の瞬間銃弾を受け死んでしまうかもしれないという死への恐怖に怯えながら、カズヤは残り僅かな魔力を絞り出し、自身に重力魔法を掛けて機動力を上げ、両手に握ったM1911とFive-seveNで牽制射撃を行いながら仮面の男が潜む物陰へ突貫する。

 

「ッ、俺の勝ちだ!!」

 

「なっ!?」

 

反撃を受けないまま仮面の男が潜む物陰の側面へ回り込んだカズヤは、相手が自分の思惑通りにライフルへ弾を装填している姿を目の当たりにすると勝利を確信しつつ2丁の拳銃の引き金を引いた。

 

そして、2発の銃声が辺りに響く。

 

「……」

 

「……」

 

「ガハッ!?」

 

「……残念だったな」

 

一瞬の静寂の後、地面に膝をついたのは勝利を確信していたはずのカズヤであった。

 

「グッ……ボディアーマーに……しかも、お前も義手かよ……」

 

腹部にM1873ウィンチェスターライフルの銃床の一撃をカウンターで喰らい思わず膝を着いたカズヤは、M1911の威力のある45ACP弾や100メートルの距離があったとしてもNIJ規格レベルIIIA以下のボディアーマーを貫通する程の貫通力があるFive-seveNの5.7x28mm弾を仮面の男が左腕の義手を盾代わりに使って弾丸の威力を殺した上で、着こんでいたボディアーマーで完全に防いでみせた事に我が目を疑う思いを抱きながら目元を苦しげにひくつかせる。

 

「科学主体の現代兵器に頼り、こちらの世界のモノを――ファンタジーを舐めているからこうなる……その慢心が今のような状態を招くんだ」

 

仮面の男はまるで自身に言い聞かせるように呟きながら、カズヤの慢心を咎める。

 

「ッ、現代兵器に頼っているのはお前もだろうが」

 

「……」

 

仮面から覗く瞳で何か言いたそうにカズヤを一瞥しつつも、反論に無言を貫いた仮面の男はカズヤが未だに動けないのを良いことに、ゆっくりとライフルへ弾丸を装填してからカズヤの額に照準を定める。

 

不味いッ!!まだ動けねぇ!!

 

「では、死――グオッ!?」

未だ動けぬカズヤが万事休すと凍り付く中、仮面の男が引き金を引いてカズヤを殺そうとしたその瞬間、仮面の男は凄まじい勢いで突っ込んできた黒い影によって吹き飛ばされる。

 

咄嗟にM1873ウィンチェスターライフルを盾にしダメージを軽減しつつも、交通事故にあったようにポーンと撥ね飛ばされ森の奥へと消えていく仮面の男の姿を目で追っていたカズヤは、視線を正面に戻してから目を剥いた。

 

「アニエス!?それにフィーネ!?」

 

「フゥ……!!フゥ……!!」

 

「何とか間に合ったわね」

 

間合いを見計らって目標の手前でターンを決め、走っていた勢いを加えた強力な後ろ蹴りで仮面の男を吹き飛ばした張本人であるケンタウロスのアニエスと、その背中に騎乗したフィーネの2人がカズヤの目の前に居た。

 

アニエスは戦場を突っ切った疲れが出たのか一杯一杯の様子で荒い息を吐き、アニエスの背から地面に降り立ちカズヤに駆け寄ったフィーネは夫の命に別状が無いことを確認すると、ただただ安堵の表情を浮かべていた。

 

「何故ここにッ!?」

 

「何故って、夫の危機に妻が駆け付けるのは当然でしょう?まぁ、彼女が居なければそれも無理だったのだけれども」

 

「……」

 

貴女のお陰よ、ありがとう。とアニエスに感謝の言葉を送りながら、肩を支えてくれているフィーネ横顔にあっさりと毒気を抜かれてしまったカズヤは、言い募ろうとした言葉を全て飲み込んだ。

 

「さぁ、行きましょうカズヤ。敵を迂回して味方と合流しないと」

 

「そうだな。……あっちの戦況は?」

 

頼もしい妻の姿に奮い立たされたカズヤは己の体に喝を入れ、フィーネの肩を借りずに自分の足で歩み始める。

 

「大丈夫よ。妖精達が戦闘に参加してくれたお陰で形勢は逆転したから。後は指揮官である貴方が戻れば問題無いわ」

 

「そうか、なら早く戻らないとな」

 

「――そうはさせん」

 

「「ッ!?」」

 

「ご主人様、フィーネ様!!お下がり下さい!!」

 

カズヤとフィーネが味方と合流するためにアニエスの背中に乗ろうとした時、仮面の男が再びカズヤ達の前に現れた。

 

「長門……貴様はここで死ね。いや、死なねばならんのだ」

 

服の所々が汚れたり破れたりしているみすぼらしい格好で現れた仮面の男は、アニエスの一撃を受けた影響で銃身がへし折れてしまったM1873ウィンチェスターライフルを投げ捨て、代わりに革製のホルスターからコルトSAAを2丁引き抜きながらそう言った。

 

「死なねばならん?何を意味不明な事を言ってやがる」

 

「――隊長ッ!!」

 

「クソッ、増援か」

 

もたもたし過ぎたな。

 

挟まれてしまったし、ここでもう一戦やるしかないか。

 

舞い戻ってきた仮面の男の一挙手一投足に警戒を払いつつ、どうにか逃げようとしていた最中。

 

敵陣を突破したフィーネ達を追って来たであろうダークエルフの女の姿にカズヤは撤退を諦め、戦う意思を固めていた。

 

「モンタナか。ちょうどいい、お前はそっちの2人を足止めしろ」

 

「了解です!!」

 

「フィーネ、アニエス。そっちのダークエルフを頼む。俺はこいつを何とかする」

 

「分かったわ」

 

「ご武運を、ご主人様」

 

互いが互いの戦う相手を決め、自分達の目的を果たすために武器を構える。

 

「「行くぞッ!!」」

 

そして新たな戦いの幕が開かれた。

 

 

 

「こンのッ!!」

 

「遅いッ!!」

 

カズヤと仮面の男は互いに森の中を走り回りながら隙を見て弾丸を浴びせ合い、機会があれば接近戦を行い拳と刃を交わしていた。

 

「これで……どうだッ!!」

 

「効かんッ!!」

 

一見して2人の戦いは拮抗しているかのように思われたが、仮面の男がカズヤの攻めの手を全て先読みし無効化する事で戦いの流れは一方的なモノになっていた。

 

この野郎!!

 

読心術でも使えるのか!?

 

仮面の男の間合いに飛び込んで放った顎への一撃――右フックを易々とかわされ、追撃に撃った弾丸さえも来ることが分かっていたかのような挙動で避けられたカズヤは口惜しさに歯を食い縛りながら、態勢を整えるために仮面の男との距離を取り岩影に隠れた。

 

やりずらいったらありゃしねぇッ!!

 

千歳が独自に編み出した格闘術を使っているのに、全部先読みして防ぎやがる!!

 

得体の知れない化物の相手をしているかのような、薄気味悪い感覚に襲われ鳥肌を浮かばせるカズヤ。

 

「殺し合いの最中に考え事か?」

 

「ッ!?」

 

ヤベッ!!

 

真上から聞こえて来た仮面の男の声に、思わず総毛立ったカズヤは恥も外見もなく体を前方に投げ出した。

 

直後、岩の上に立つ仮面の男が放ったコルトSAAの44-40弾が先程までカズヤがいた場所に弾痕を穿つ。

 

「俺とお前の力量差は理解しただろうに、なのにこの期に及んで余計な事を考えている余裕があるとは……目出度いヤツだ」

 

「うるせぇ!!」

 

体を投げ出した後、ゴロゴロと転がり追い撃ちの弾丸を回避しきったカズヤは木の影に身を潜めながら叫ぶ。

 

クソッ、悔しいがこのままじゃ負けちまう。

 

ヤツの意表を突いて有効打を叩き込めれば。

 

だが接近戦の途中でナイフも軍刀も使い潰してしまっているし……まぁ、奴の拳銃も1丁潰しているから互角かもしれんが……残っている武器で使えるのはもうこのFive-seveNしか――。

 

「ッ!!」

 

どうにか勝利を手にしようと思考を巡らせていたカズヤは一気に距離を詰めてくる敵の足音に気が付いた瞬間、その方向にFive-seveNを構えていた。

 

「チッ、そのまま余計な事を考えていれば、貴様のその空っぽの頭をぶち抜いてやったものを」

 

「ほざけ。こんな所で死んでたまるか」

 

カズヤと仮面の男は互いの鼻先に銃口を突き付け、牽制の言葉を吐きながら睨み合っていた。

 

「……おいおい。お前、弾切れだろ?」

 

しかし、それも一瞬の事で仮面の男の撃った弾数を頭の中でよくよく数え直してみたカズヤは相手の拳銃に残弾が無いことに気が付き、嘲りの笑みを浮かべた。

 

「バカめ、それはお前もだ」

 

「へ?」

 

仮面の男に返答にカズヤはすっとんきょうな声を漏らした。

 

ひーふーみー……あ、ホントだ。

 

ヤベェ。残弾数を教えないためにタクティカルリロードしてたから数え間違えた。

 

って、こいつは何でそれを知っている?

 

「……慌てさせるな。薬室に1発残っているんだよ、こっちは」

 

自身のミスに気が付いたカズヤだったが、有利な立場を得るために咄嗟に口から出任せを吐いた。

 

「フン、嘘を付くのが下手な奴だ」

 

「嘘かどうか……試してみるか?」

 

「やれるものならやってみろ。あぁ、それと何を勘違いしているのかは知らんが、俺の弾は尽きていないぞ」

 

「なに?」

 

「――召喚。これで俺の残弾はフルだ」

 

「なッ!?」

 

仮面の男の意味深な言葉に眉をひそめたカズヤは、直後に自身の目の前で起きた光景に目を剥く事になった。

 

この野郎、回転式弾倉の中に直接弾丸を召喚して再装填を済ませやがった!!そんなのありかよ!?

 

「さっきは邪魔が入ったが、今度こそ死ねッ!!」

 

「ッ!!」

 

予想外の出来事のせいで反応が遅れ、反撃に出る機会を失ってしまったカズヤ。

 

そんなカズヤをよそに仮面の男は愉悦に満ちた声を仮面越しに漏しつつコルトSAAの引き金に掛けた指に力を込める。

 

そして、1発の銃声が鳴り響いた。

 

「――グッ!?また邪魔を!!」

 

だが、放たれた弾丸はカズヤに命中していなかった。

 

どこからか飛来した直刀が、仮面の男の義手に突き刺さり男の体勢を崩したためである。

 

「カズヤは殺らせない!!」

 

「隊長の邪魔をするなッ!!」

 

「ッ!!グッ!?」

 

直刀を投げた張本人。

 

カズヤの危機を救ったフィーネは自分の相手を放置し、更には自身の得物である直刀を投げたせいで背後からナイフで斬りかかってきたモンタナの一撃を防ぐ事が出来ず、袈裟斬りに体を斬られ地面に崩れ落ちてしまう。

 

「フィーネッ!?」

 

アニエスは!?ッ、ダメか!!

 

最悪の光景を目の当たりにしたカズヤはフィーネと共に居たはずのアニエスにフィーネの援護を命じようとしたが、頭から血を流しぐったりとした様子で地面に横たわっているアニエスの姿を見て、それは叶わぬ事だと理解した。

 

「油断し過ぎだ!!」

 

「グハッ!!」

 

アニエスが無理であるならば自分が。とフィーネの元に駆け付けようとしたカズヤは仮面の男に殴られ転倒。

 

しかもその際、不幸な事にFive-seveNが手から溢れ落ちてしまいカズヤは丸腰の状態になってしまった。

 

「死ね!!死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ねぇええええッ!!」

 

「ゴッ……ガッ!?」

 

馬乗りになった仮面の男に首を絞められ、必死に抵抗するカズヤだが、ガッチリ握り込まれた男の右手はカズヤの首を捉えて離そうとはしなかった。

 

クソッ、息が……!!

 

呼吸が出来ず苦しむカズヤは抵抗を続ける一方で、止めを刺そうとフィーネに近付くモンタナの姿を視界に捉えていた。

 

チクショウ……!!

 

離れやがれ!!フィーネを!!フィーネを助けないとッ!!

 

フィーネをここで死なせたら……俺は何のためにあいつらを見殺しにしたんだ!!

 

酸素の欠乏により混濁していく意識の中で、カズヤは自身の命では無くフィーネを救う方法だけを考えていた。

 

そんな時であった。

 

『カズヤ!!聞こえる!?私の眷属となる誓いを唱えなさい!!そうすればそんな男、瞬殺出来る力を得る事が出来るわ!!』

 

この声……まさか、メイデンか……。

 

カズヤの頭の中に怨敵であるマリー・メイデンの声が響く。

 

『早くなさい!!そこで死ぬつもり!?貴方の魂を愛でるのも良いけれど、肉体の方も愛でてみたいのよ!!だから、今死んではダメよ!!それに貴方を殺す楽しみを失うのは嫌!!だから早く!!』

 

勝手な事を……。

 

自身を助けるためなどでは無く自身の欲望のため語り掛けて来たメイデンの身勝手な言葉に刺激され、カズヤの心の内で小さな炎が灯った。

 

……誰がこんな所で死ぬか!!

 

これから生まれて来る子供の顔を見てないんだ!!

 

それに何より、ここで俺が死んだらフィーネはどうなる!?

 

国は、レイナ達は、千歳達は!!

 

こんな所で死んでいられないんだよォオオオオッ!!

 

最初は小さな炎だったモノが、業火となってカズヤの心を覆い尽くす。

 

そして、その業火がカズヤの能力の制限を解き放つ事となった。


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