ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

127 / 143


繰り返し念入りに行われた爆撃と砲撃によって極一部を除き、家屋の残骸と瓦礫の山だけになった帝都へとパラベラム軍の地上部隊が一斉に雪崩れ込んでいく。

 

『大隊本部より各中隊へ通達。敵の待ち伏せに注意しつつ前進、敵防衛線に接触した場合はこれを殲滅、突破せよ』

 

「第2中隊、了解。――さぁ、楽しい楽しい殲滅戦の始まりだ!!中隊、前進!!」

 

大戦末期のベルリンの街並みを彷彿とさせる帝都へと足を踏み入れ、意気揚々と声を上げるのは第2歩兵中隊を率いるアールネ・エドヴァルド・ユーティライネン大尉。

 

第33機甲師団第1旅団戦闘団に所属する彼の第2歩兵中隊は帝都の外郭に位置する第3地区(市街地)の攻略を行うべく進撃中であった。

 

「〜♪」

 

「「「「……」」」」

 

旧ドイツ軍装備に身を包み、アサルトライフルの始祖であるStG44を構えながら通りの両脇に張り付くようにして歩みを進める第2歩兵中隊の妖魔や獣人の兵士達をよそにユーティライネン大尉はまるでピクニックに行くかのような軽い足取りで中隊の先頭――それも通りのど真ん中を堂々と進んで行いた。

 

「……親父殿は相変わらずだな」

 

「狙撃が怖くないのか?」

 

「あれだけぶっ飛んでいる人間なんぞ、他で見たことがない」

 

その怖いもの知らずな上官の姿に兵士達は畏敬の念を募らせる。

 

「しかし……やけに静かだ」

 

「あぁ、確かに」

 

「これだけ徹底的に叩いたんだ。ほとんどの敵はくたばっているさ」

 

だが、その一方で周囲を包み込む不気味な静寂に堪えかね不安を誤魔化そうと楽観的な言葉を口々に漏らす。

 

「おい、お前達。バカを言っていないで――伏せろ!!お出ましだぞ!!」

 

そんな会話を見咎めたユーティライネン大尉が叱責しようと声を上げた時だった。

 

前方にある半壊した建物の窓や穴から一斉にマズルフラッシュが瞬き、次いで敵弾が飛来する。

 

「グハッ!!」

 

「イッテェッ!!」

 

放たれた銃弾の大半が地面や瓦礫に着弾し土埃を上げる一方、数発の銃弾が不運な兵士の体に命中。

 

銃弾にその身を穿たれた兵士がもんどり打って地面に倒れ、痛みに声を上げる。

 

「第2中隊より大隊本部へ!!敵と接敵、これより交戦を開始する!!」

 

無傷の者が負傷兵を物陰へと引きずり込み、また散発的な反撃に転じている様子を横目にユーティライネン大尉は大隊本部へ交戦開始の一報を入れる。

 

『大隊本部、了解。なお他の部隊からも交戦開始の報告が続々と入っている。敵による包囲分断に留意せよ』

 

「了解した!!中隊、態勢を立て直すぞ!!盾持ちは前に出ろ!!他は援護だ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

大隊本部との交信を終えたユーティライネン大尉の指示が飛ぶと数百キロもある分厚い防弾盾を携行していた筋肉隆々のオーガ達が盾を構えながら前進。

 

仲間の援護を受けつつ、飛来するマスケット銃やミニエー銃の弾丸を弾き、着弾と同時に炸裂する魔銃のエネルギー弾を物ともせず隊の前面へと展開し急造の簡易陣地を構築する。

 

「各ライフル小隊は制圧射撃に移行!!火器小隊は敵を潰せ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

簡易陣地の影で態勢を立て直した中隊から目標に対する制圧射撃が加えられ、半壊した建物が着弾の粉塵に包まれる。

 

また歩兵中隊というカテゴリーでは保有していないはずの兵器――某映画でティーガーⅠに取り付いた米兵を凪ぎ払った2cm Flak38対空機関砲を4門並べた2cm Flakvierling38が台車に載せられた状態で姿を現し、圧倒的な弾幕を形成する。

 

そして『魔の4連装』と連合国に恐れられた2cm Flakvierling38の砲火は壁を盾にして身を潜めていた敵兵を壁諸とも粉微塵に粉砕した。

 

「……終わってしまったか?まぁいい。火器小隊、やれ」

 

「「了解」」

 

多数の20mm砲弾を撃ち込んだ事により蜂の巣になった目標が完全に沈黙してしまったものの、最後のダメ押しを行うため火器小隊が保有する対戦車ロケット擲弾発射器のパンツァーシュレックに装填されたパラベラム軍謹製のサーモバリック弾が発射された。

 

ドンっという音と共に盛大なバックブラストを発生させながら撃ち出されたサーモバリック弾は窓から部屋の中へと飛び込み室内に着弾すると弾体に仕込まれていた化合物が固体から気体への爆発的な相変化を遂げ、そして次の瞬間には分子間の歪みによる自己分解による爆発が発生、最後には空気中の酸素との爆燃による爆発を引き起こし室内のありとあらゆるモノを爆圧で吹き飛ばす。

 

「ヒュー♪よし、制圧完了だな」

 

その爆圧の衝撃が止めとなって敵兵が立て込もっていた建物が完全に倒壊する様子をユーティライネン大尉は口笛混じりに眺めていた。

 

「さ、次に行くぞ」

 

「了解。……そう言えば親父殿、この対空砲はどっから持って来たんです?」

 

「ん?あぁ、高射砲部隊の連中がポーカーのツケを払えないって言うんでやつらの予備兵器をツケ代わりに頂いて来た」

 

ユーティライネン大尉は側に居た軍曹の問い掛けに悪どい笑みを浮かべながら答える。

 

「またですか?この前も違う部隊から何かの兵器をポーカーのツケ代わりに頂いて来てませんでした?あんまり強引に徴収してると恨まれますよ?」

 

「戦いが始まってから装備が足りないと文句を言っても手遅れだからな。強硬だろうが何だろうが先に集めておくに越した事は無い」

 

「それはそうですが……しかし――」

 

「えぇい、うるさい。無駄口はお仕舞いだ。さっさと次の敵を潰しに行くぞ」

 

「イタッ……了解」

 

小言を続ける部下の尻を蹴飛ばし、前進を促したユーティライネン大尉は負傷者を後送し隊の再編成を行うと更なる敵を求めて進撃を再開したのだった。

 

 

「……ようやく終わったか」

 

中隊本部を設営した建物の一室で持参したロッキングチェアに腰掛けながら敵の魔法使いによる遠距離攻撃――魔力弾を用いた疑似砲撃の嵐を凌ぎきったユーティライネン大尉はそう呟いた。

 

「流石に後が無いとなると敵も必死ですね」

 

「そうだな」

 

砲撃支援や航空支援。

 

使用可能なありとあらゆる支援を受けながら他部隊と協力し第3地区の大半を短時間で制圧する事に成功しつつも、最後に残された第5区画の片隅で頑強に抵抗を続ける敵の存在によって完全制圧寸前で足踏みを余儀なくされている事にユーティライネン大尉は部下と共に頭を悩ませていた。

 

「第1小隊、ただいま戻りました」

 

「おぉ、戻ったか。で、首尾はどうだ?」

 

「ハッ、戦果としては敵の大砲を2門潰して来ましたが……駄目ですね。奴らあの場所で徹底抗戦の構えを取っています。どこもかしこもガチガチに固めていて抜けそうな場所がありません。しかも地下に張り巡らされた下水道を使ってそこかしこから現れるので中々集中して攻勢を掛ける事が出来ません」

 

「チッ、やはり下水道がネックか。はぁ……我々の担当区域であるあの第5区画さえ制圧してしまえばこの地区は制圧完了なんだがな。さて、どうしたものか」

 

帝都攻略戦を行うにあたり、当初より想定されていた障害の1つ。

 

帝都の地下に張り巡らされた下水道の存在。

 

敵兵の安全な移動経路――壕として利用可能なその存在が今まさにユーティライネン大尉の障害となっていた。

 

「それに……もう1つ問題が」

 

「何だ?」

 

「あまりに上手く隠蔽してあったため接近するまで分からなかったのですが、ここから100メートル先の建物の影に一個小隊規模の敵兵と魔導兵器が1体隠れています」

 

「おいおい……また厄介な」

 

強行偵察に出ていた第1小隊の小隊長の報告にユーティライネン大尉は苛立ちを誤魔化すように頭を掻きむしった。

 

「砲兵か空軍に支援要請をしますか?」

 

「いや、そうしたい所だが……止めておこう。既にかなりの量の砲弾や爆弾をあの辺りに撃ち込んでいるんだ。これ以上やれば歩兵が通る事さえ困難になってしまう」

 

副官の進言にユーティライネン大尉は困り顔で答えた。

 

「では独力で?」

 

「いや、魔導兵器単体ならどうとでもなるが敵歩兵と一緒となると独力では少し厳しいだろう。だから……ここは1つ貸しを返してもらうとしよう」

 

またもや悪どい笑みを浮かべたユーティライネン大尉に対し、中隊本部に居た兵士達は困ったように顔を見合わせるのであった。

 

「――準備は?」

 

「完了しました」

 

「なら始めるか。中隊前へ!!」

 

ユーティライネン大尉の言葉と共に第3地区の残敵を掃討するべく第2中隊の兵士達が前進して行く。

 

だが、敵の潜む場所から一定の距離まで近付くと兵士は皆一斉に地面へと伏せた。

 

「よし、やってくれ」

 

「了解」

 

その様子を確認したユーティライネン大尉は隣に居た兵士に声を掛ける。

 

そして、その直後。

 

辺りに耳をつんざくような砲声が轟き、巻き上げられた土埃が辺りに舞い上がった。

 

「〜〜ッ!!凄い音だな……流石は128mm砲」

 

耳を手で塞ぎながらそう言って視線を横にずらしたユーティライネン大尉の視界に映ったのは最大で250mmに達する前面装甲を持ち、55口径128mm戦車砲という大戦中最強の対戦車砲を備えた重駆逐戦車のヤークトティーガーであった。

 

「照準修正……撃て!!」

 

ユーティライネン大尉の個人的コネによって最前線へと送られて来た3輌のヤークトティーガーは目標である魔導兵器を葬るため砲撃を続ける。

 

「目標の破壊を確認。これより前進する」

 

「威力も申し分無いな」

 

「……建物ごと魔導兵器を」

 

建物の反対に隠れたM4シャーマンを破壊した事があるヤークトティーガーは史実同様に建物ごと魔導兵器を撃破してみせると轟々とエンジン音を響かせ瓦礫を踏み潰しながら前進を始める。

 

「よぉし、中隊前進!!ヤークトティーガーを援護しつつ敵を駆逐しろ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

頼もし過ぎる援軍を得て勢い付いた第2中隊は全力を持って敵陣へと突撃を開始した。

 

「……ふぅ。少々手こずったが、とりあえず制圧完了だな」

 

若干の苦戦を強いられつつもヤークトティーガーとの歩戦協同で第3地区を制圧する事に成功したユーティライネン大尉は、ゴロゴロと転がる敵兵の死体の傍らでタバコの煙を燻らせながら達成感を味わっていた。

 

「……ん?」

 

しかし、妙な音を耳に捉えた事を疑問に思い、ふと帝都の中心部方面へ視線を向けた。

 

するとその視界の中にもうもうと立ち昇る土煙が写り込む。

 

「何だあれは……ッ!?総員防御戦闘用意ッッ!!」

 

目を凝らし土埃を上げ接近する無数の影を凝視したユーティライネン大尉は、その正体が異形の化物達だと認識した瞬間、あらんかぎりの声の限り叫ぶのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。