甲高い音を立てながら空を飛び交うミサイルの飛翔音や大地を揺らし腹の底に響く砲弾の炸裂音、そして歩兵が撃ち鳴らす小気味良い銃火器の発砲音といった戦場音楽をBGMにしつつ、一方的な殺戮と表するべきその戦いの幕は開いた。
「あの者を!!あの逆徒を!!我らが主と信仰に仇なすあの愚者を!!討ち滅ぼすのです!!」
「往け!!神の御子達よ!!その働きを以て主への信仰を示しなさい!!」
「「「「オオッ!!」」」」
ミカエルとラファエルが発した命に従いアンヘル達が喚声を上げながら得物を振りかざし千歳の元に殺到する。
「多少は間引いたが、まだ邪魔が多いな……まぁいい。何にせよ皆殺しだ」
迫り来るアンヘル。その先陣を切る中位種と下位種のアンヘルには一切の興味を示さず千歳は空でふんぞり返っているミカエル以下の上位種達を静かに見据えた後、面倒くさそうに視線を下げ有象無象の敵を視界に捉える。
「さぁ、来い!!化物共!!一匹残らず駆逐してやる!!」
「ヒッ!!」
千歳専用にあつらえられた超大型回転式拳銃――M500の銃口を向けられ恐れをなした……のではなく。先頭を飛んでいたために千歳の凶悪なワラッタ顔を直視してしまい本能的な恐怖心を掻き立てられたアンヘルが恐れおののき空中でたたらを踏む。
「何をしている馬鹿者め!!邪魔だ!!――ここで滅びよ!!穢らわしい異教徒め!!」
「我らが正義の刃を受けよ!!」
「その首、もらい受ける!!」
恐怖で竦み上がり止まってしまったアンヘルを後続のアンヘル達が避け、追い抜いて前に出ると千歳に肉薄し一斉に剣を降り下ろす。
「貴様ら如き雑魚が姉様の前に立つな」
「な、クソッ!?引け!!」
しかし、アンヘル達が振り下ろした刃が千歳に届く事は無かった。
「グッ、は、離せぇ!!」
「被検体ナンバー6、確保」
「ガハッ……!!」
「被検体ナンバー7、確保」
「ッツ、この紛い物が!!」
「被検体ナンバー8、確保」
攻撃を仕掛けたアンヘル達はその殆どが千歳の露払いのために前に出た千代田達によって返り討ちに合い撃退され、そして運が無かった3体が翼を無惨に引き千切られてから四肢をへし折られ無力化された後、拘束される事となった。
「雑魚の相手は私にお任せ下さい。姉様はあちらを」
「……あぁ、任せた。親衛隊も好きに使え」
「承知」
蹂躙すべき相手を横から奪われる形になった事で多少憮然としつつも、千歳は千代田に雑魚の相手を任せると本命であるミカエル達の元へと歩いて行く。
「……さてと。研究所に運ぶ前に貴女に1つ確認しておきたい事があるのですが、紛い物とはどういう意味です?」
覇気を纏う千歳の後ろ姿を見送りつつ、千代田は足蹴にして拘束しているアンヘルの1人――被検体ナンバー8の再生を始めていた右腕を念入りに踏み砕きながら問い掛けた。
「ギャ!!……こ、この世の全ての万物は、生命はローウェン様がお作りになられたモノ!!だが貴様はその理から外れた紛い物の生命!!だから紛い物と呼んだのだ!!」
「なるほど、貴女方の定義からすれば確かに人工生命体の私は紛い物ですね」
アンヘルの返答に対し納得したように頷きを繰り返しながら千代田は言葉を続ける。
「しかし、私を貴様らの定義で勝手に計るな……!!我々からすればこの世界の存在すべてが紛い物!!我らの神(創造主)たるマスターの恩恵や寵愛を受けていないゴミクズが……!!」
自らの存在を受け入れ、引いては名を与えて自己の存在を確立してくれたカズヤへの侮辱に千代田は激昂し鬼の形相を浮かべる。
「貴様!!神の御子である我々を――」
「あぁ、もう黙ってもらって結構です。……とりあえず先の発言を訂正。被検体ナンバー8は被検体確保定数の上限を越えたため廃棄とします」
「な!?や、やめ――ッ!!」
怒りを込めて振り下ろした拳によって黄金比で整えられた彫刻のような美しい顔がグチャリと歪み、顔面が内側にめり込んでビクンビクンと痙攣を繰り返すアンヘルを無表情で眺めた後、無惨にも歪みきった顔から拳を引き抜いた千代田は腕を振って血や脳漿を振り払うと今度はアンヘルの胸に拳を突き立てる。
「よかったですね、これで貴女は貴女の信じる神とやらの元へ行けるでしょう。……本当にそんなモノがいるのかは知りませんが」
顔と胸からビシャビシャと噴き出す血飛沫を浴びて血塗れになりながらアンヘルの心臓――魔力が秘められた核を抉り出した千代田はすがり付くように折れ曲がった腕を伸ばしてくる顔の無いアンヘルにそう言い捨てる。
そして抉り出した核を掲げて他のアンヘルに見せ付けた後、次はお前の番だと言わんばかりにブチッと握り潰した。
「中隊各員へ……全員殺しなさい」
「「「「了解」」」」
返り血に濡れた千代田の号令一下で、その他の千代田達や強化外骨格を纏った親衛隊が遠巻きに様子を伺っていたアンヘル達に襲い掛かかった。
「いつまでそうしてふんぞり返っているつもりだ。さっさと降りてこい!!」
背面や脚部に飛行ユニットを追加する事で飛行を可能にした強化外骨格を装備する親衛隊に追いかけ回され数の差とM214マイクロガンによる弾幕に圧倒されて蜂の巣になり再生能力を発揮する事も出来ずに撃墜死するか、様々なギミックを内包する千代田達の手によって地上へ引きずり下ろされてから憐れにも家畜のように殺され最後にはバラバラ死体と成り果て葬られていくアンヘル達の姿を背景にミカエル達の元へ歩を進めた千歳はこの期に及んで静観の構えを崩さないミカエル達に声を荒げた。
「はぁ……いかにアンヘルと言えど所詮は出来損ないの下位種とそれに近い中位種。この数の差に加えて敵の上級部隊が相手となると自衛どころか逃げる事で精一杯ですか。全くもって情けない。しかし、同胞を見捨てる訳にもいきません。ウリエル、彼女らの援護のために念話で他のアンヘルを1〜2隊ほどここへ」
「えぇ、分かりました」
「フン……無駄な事を」
こちらの事などどこ吹く風と言わんばかりの無視に千歳はイライラを募らせながらそう吐き捨てる。
「無駄な事とはどういう意味です?」
自分達のやり取りを意味深な表情を浮かべながら鼻で笑った千歳に対しミカエルが不快感を示す。
「他の場所にいる貴様の同類は我が軍が総力を上げて駆除している最中だ。貴様らを助けに来る余力などあるはずが無い」
「何を言うかと思えば、そんな戯言を……魔法も使えぬ人間風情がいくら集まろうと烏合の衆である事に変わりはありません。その証拠に我々が出陣して少しばかり遊んだだけで貴女方の軍は総崩れを起こしかけていたではありませんか。そんな者達に我々アンヘルが負ける事など無いのですよ。まぁ、貴女が引き連れている護衛のように全員が精鋭揃いであれば話は別で――」
「ッ!?そんな……ミ、ミカエル。同胞からの返答がほとんどありません……あっても救援要請しか……」
「は?」
アンヘルという種族としての優位性を過信して千歳の言葉を鼻で笑い返したミカエルであったが、その優位性を根本から覆すラファエルの報告に思わず凍り付く。
「だから言っただろう。それにそもそもが800匹程度、統率さえ取り戻せば対処する事にどうという事は無い数だ」
「そんなバカな。アンヘルが人間風情に負けるはずが……一騎当千の上位種が何人居たと思って……」
「一騎当千の上位種?そんなものは関係ない。我々は我が軍はご主人様の前に立ち塞がるありとあらゆるモノを排除するために存在する暴力装置。敵が何であろうとどれほど強かろうと敵は殺す。ただそれだけの事」
「クッ……致し方ありません。ならば我々が直々に相手をしてあげましょう。貴女達は護衛の相手を」
瞳の奥に黒々とした狂信の炎を滾らせて冷酷な微笑を浮かべた千歳から発せられるプレッシャーに気圧され空中で僅かに後ずさってしまったミカエルは自身の行動に気が付くと歯を食い縛り、キッと千歳を睨み付ける。
「「「「了解」」」」
「さて。貴女の首をあげれば戦況も一瞬でひっくり返るはず。これ以上の被害を出す前に決着を付けさせてもらいます」
そう言って取り巻きの上位種を親衛隊や千代田達の元へと派遣し、顕現させた直剣を構えたミカエルは隣で同じ様に曲剣を構えるラファエルと共に改めて千歳と対峙する。
「やれるものならやってみろ」
ようやく自分の手で戦う意思を見せたミカエルとラファエルに千歳は不敵な笑みを溢し、自身の首を掻き斬るジェスチャーを見せて挑発する。
「どこまでも舐めた真似を……ラファエル。最初から全力やります」
「えぇ、分かっています。あのような異教徒にかける慈悲などありません」
「アルへ、ルラ――」
「ルド、ミリア――」
千歳の挑発行動に口元をひくつかせ額に青筋を浮かべたミカエルとラファエルは互いに視線を交わし、頷き合うと詠唱を始める。
すると千歳の足元に魔方陣が浮き上がり、次いで千歳の周りで風がビュウビュウと吹き荒れ渦を巻き始めた。
「さて、どんな魔法が出てくるか」
徐々に風速が上がり、遂には風に巻き上げられ飛んでくるようになった石礫をM500のグリップ底部で叩き落としながら、また鎌鼬のように飛んでくる風の刃を避けながら千歳は自身の周りで起こる現象を悠然と眺めていた。
「その余裕が命取りです」
詠唱を唱え終えたミカエルの言葉と同時に千歳の周りで渦巻いていた風が竜巻と言っても差し支えない規模にまで一気に成長。
更には風が突然火を帯びて火災旋風と化し千歳の姿は完全に風と炎で出来た超高温の炉の中に消えてしまう。
「副総統閣下!!」
「千歳副総統!!」
ミカエルとラファエルの融合魔方によって作り出され、ごうごう燃え盛る火災旋風を目の当たりにして親衛隊の兵士達が千歳を救い出さんと慌てて駆け付けようとするが火災旋風が放つ高温の輻射熱で前進する事さえ叶わなかった。
「フフッ、フフフッ、あれだけ大口を叩いておいてこうも簡単に死ぬなんて拍子抜けもいい所です。……あぁ、首を上げるとは言いましたが残念ですね。この魔法を受けた以上は骨1つ塵1つ残っていないでしょう」
「アハハハッ!!やはり所詮は魔方も使えぬ野蛮な異教徒。我らの魔法の前には手も足も出ませんでしたか」
過ぎ行く時間と比例してますます勢力を拡大し、大きくなっていく火災旋風を前にミカエルとラファエルの2人は勝利を確信して笑みを溢す。
「さてと、次は貴女方の番です」
「……」
「我らの魔法で跡形も無く消し去ってあげましょう」
「……はぁ、姉様。そろそろ出てきたらどうです?」
「何を言って――そんなバカな!?」
「ッ!?」
千歳を殺したと思い込み次のターゲットを千代田や親衛隊に絞ったミカエルとラファエルであったが、千代田の言葉と共に突如として火災旋風が真っ二つに両断され霧散する光景を見てギョッと目を剥いた。
「もう少し何かあるかと思ったが……まさか、これだけで終わりか?」
全くの無傷で皆の前に姿を現した千歳は右手に握った軍刀を鞘に戻すと期待外れだと言わんばかりの表情でミカエルとラファエルに問うた。
「な、何故……何故貴女は生きているのですか!!」
「さぁ、何故だろうな?そうだ……お前達の魔法が失敗したんじゃないのか?」
教えるつもりは無いとばかりにクツクツと含み笑いを漏らしつつ、左手の中にあった平たい六角形の宝石――魔力障壁の発生装置を軍服のポケットに隠す千歳。
「ッ、ならもう一度!!」
「今度こそ塵にして上げましょう!!」
帝国においては絶対的な権威の象徴であり、また個としても誇りを抱く魔法を貶された事でミカエルとラファエルは感情の赴くまま再び魔力を集め詠唱を始める。
「……」
しかし、棒立ちになっていた先程とは違い今度は千歳が無言でM500の銃口を2人に向けた。
「――ロエ、マルス!!先の攻撃ならまだしも、そんな武器で我々に傷を――っ、な……に!?」
「ガハッ!?」
詠唱を終え、魔力障壁を張った事で攻撃を受ける事は無いと高を括っていたミカエルとラファエルであったが、千歳が構えるM500が一際大きな銃声を連続して轟かせ撃ち出した複数の弾丸が魔力障壁を貫通し、我が身を貫くに至って自分達の認識が誤りであることを思い知る事となった。
「ッ……対魔力障壁弾……もう作っていましたか」
「あぁ、そうだ。貴様らのような化物を殺すために作った対魔力障壁用特殊AM弾。その先行量産品だ」
まぁ、強度が桁違いの設置型の魔力障壁はまだ貫けんがな。そう内心で呟きながら千歳は地面の上で受けた傷を急ぎ再生させながら傷の原因となった弾丸の事を言い当てて見せたミカエルに不敵な笑みを返す。
「さて、残るはお前達2人だけ……さっさと片付けるとしようか」
千歳の言葉にハッとしてミカエルとラファエルが辺りを見渡せば、確かに他のアンヘル達は皆、千代田や親衛隊の手によって――一部は舩坂少尉や他の部隊によって始末され、この場に残るアンヘルは自分達だけとなっていた。
「これは分が悪すぎます。……こんな時にウリエルの魔法があれば」
「……認めません」
自分達の置かれている状況を把握し冷や汗を流すミカエルの隣で俯いているラファエルがボソリと呟く。
「ラファエル?」
「アンヘルである我々が人間風情に敗北するなど……認めてなるものですか!!あの異教徒に魔法が通じないのであればこの刃を直接突き立てるまで!!」
「待ちなさいラファエル!!不用意に近付いてはいけません!!」
受け入れがたい現実を打破しようとラファエルがミカエルの制止を振り切り、地を這うような低空飛行で破れかぶれの突撃を敢行する。
「奴の言う通りだ、愚か者」
美しい美貌を怒りに歪め、形容し難い形相で迫るラファエルに千歳はM500を腰のホルスターに仕舞うとショルダーホルスターから新たにグロック18を2丁引き抜き構える。
そして間髪入れず引き金を引き、フルオートでマガジン内部の弾丸を全てラファエルの肉体に撃ち込んだ。
「グハッ!?」
グロック18から発射された弾丸は通常の9mm弾ではなく、着弾時に弾頭が8つに分裂して約15センチの範囲の細胞組織を切り裂く効果があるG2R RIP ホローポイント弾と弾底部に仕込まれたワイヤーが発砲と同時に3方に開き分離する事で加害範囲の拡大と肉体への重大な損傷をもたらすMIB弾であったためにラファエルは空中で体を抉られ切り裂かれ、ズタボロになり四肢を失った状態で千歳の足元に転がる事となった。
「こんな……こんな所で!!」
「ふむ。この弾薬はどちらも使える。それにしてもMIB弾に通常のワイヤーではなく火山地帯に住まうドラゴンの髭を使ったのは正解だったな。お陰でスパスパ斬れる」
体勢を立て直そうと手足の無い体をじたばたさせながら足元でもがくラファエルをよそに千歳は初めて使用した弾薬の威力に目を見張っていた。
「クソ!!人間風情にやられてたまるものか!!」
「うるさい奴だ……さっさと死ね」
再生が始まった事で威勢を取り戻し、ガヤガヤと口煩く喚き始めたラファエルに眉をひそめた千歳は弾が切れたグロックを捨て、再びホルスターからM500を抜くとその銃口をラファエルの胸――核に向ける。
「はぁああああッ!!」
しかし、千歳が引き金を引く寸前。
いつの間にか肉薄していたミカエルがラファエルを救うため、千歳に斬り掛かった。
「邪魔だ」
「そん……な!?」
だが、その結果は散々たるものであった。
ミカエルが振り下ろした刃が空を斬ったのに対し、千歳が逆手で抜き放った軍刀の刃がミカエルの体を真っ二つに両断したからである。
「そこで大人しくしていろ」
両手を含む胸から下を失い不様に地面の上に転がる事となったミカエルにそう告げ、千歳は改めてラファエルにM500を向ける。
「私がこんな所で……嘘だ」
「やめろぉおお!!」
ミカエルの制止虚しくパンッと乾いた銃声が響き、発射された対魔力障壁弾がラファエルの核を粉々に砕く。
そして、千歳が振るう軍刀の刃によってラファエルの体は再生が出来ぬ様に細かく切り刻まれた後、ゴミのように蹴り飛ばされた。
「……次はお前の番だ」
ラファエルを始末し鮮血を浴びた千歳がミカエルに向き直り、ツカツカとミカエルに近付く。
「クッ……」
身動きが取れないミカエルに対し、千歳はラファエルを殺した時のようにM500を構える。
「では、貴様も死ね」
端的にそう言って千歳が引き金に掛けた人差し指に力を加える。
しかし、千歳の人差し指が引き金を引き切る直前、辺りで突然爆発が起きた。
咄嗟に爆発を回避し危機を脱した千歳は爆煙に目を細めながら爆発を引き起こした張本人を睨む。
「ミカエル!!無事か!?」
「ウリ……エル。貴女でしたか。ゴホッ!!」
「すまん、少し巻き込んだ。……ラファエルや他の者はどうした?」
「皆……やられました」
「ッ!?分かった。ここで休んでいろ。――よくも仲間を」
仲間が皆殺られたと聞き、憤怒に燃えるウリエルは回収したミカエルをソッと地面に横たえると千歳に向き直り魔力を集め始める。
「……ふむ。お手並み拝見といくか」
ミカエルがどの様な魔法を使うかを見極めようと、千歳はミカエルとラファエルの時の様に傍観の構えを取った。
「ヘル、ラダ、ゴウル――」
「召喚系の魔法か……面倒だな」
しかし、ウリエルの詠唱が進むにつれて地面がボコボコと盛り上がり人の形や魔物の形を形成し始めると千歳は傍観の構えを解き、そう言って握っていたM500を腰のホルスターに収めると、今度はレッグホルスターに手を伸ばしそこに収まっていたモノを手に取った。
そして詠唱を続けるウリエルに向け手で握ったあるモノを指向し、その引き金を引くと数秒間その状態を維持してから、それをホルスターへと戻した。
「ウリエル!!気を付けなさい!!あの者が何かするつもりです!!それから魔力障壁は役に立ちません!!」
「――モルス!!問題ない、もう奴は終わりだ」
詠唱を終えたウリエルは勝ち誇った笑みを浮かべミカエルの警告に答える。
「神々の時代を生きた者達や魔物を依り代に憑依させ、現世に呼び起こしたんだからな。後少しすれば覚醒して動き出し奴を……って!?おい!!どこに行くつ――」
唐突に背を向けてスタスタと歩み去って行く千歳に驚きウリエルが声を上げるが、その声が最後まで紡がれる事は無かった。
何故なら千歳が先ほど手にしたモノが拳銃型のLA-16u/PEQレーザー目標指示装置であり、直後に帝都郊外に展開しているPzH2000自走榴弾砲から放たれ降り注いだ誘導砲弾――M982エクスカリバーによって途中で強制的に中断させられてしまったからである。
「……無様だな」
弾着誤差2メートル以内という恐るべき精度で目標を捉え、一切合切を徹底的に跡形残さず吹き飛ばした砲撃が終わり、戦場を包んでいた静寂が千歳の言葉で破られる。
千歳の視線の先にはM982エクスカリバーの直撃によって悲惨な姿になったウリエルがいた。
「た、助けてくれ……何でもするから……死にたく無い……!!」
顔の半分と体の大半を失い心臓となる核を露出した状態で地面の上に転がるウリエルは千歳の姿を見るなり恥も外見もなく命乞いを始めた。
「フン……容姿の事を考えれば使い道もあるか」
その命乞いに眉をひそめながら、値踏みするようにウリエルを眺めた千歳は思案顔でそう呟く。
「そ、そうだろ!?慰み者でいいから!!この顔ならお前の主も気に――え?」
千歳の呟きに一縷の希望を見出だしたウリエルが更に自分を売り込もうと言葉を紡ぐがその瞬間、ウリエルの核を千歳の軍刀が貫き両断する。
「な、何で……」
「ふざけるな。貴様のような汚物がご主人様の寵愛を受ける事が出来る訳がないだろう。思い上がりも甚だしい」
その言葉を最後にザンッと首を飛ばされたウリエルは永遠の眠りにつく事となった。
「さて、残すは貴様だけだ」
「……覚悟は出来ています」
砲撃の余波を受けせっかく再生した体を再び失い、抵抗する術を失ったミカエルは達観した表情を浮かべ天を仰ぐ。
「そうか。では死ね、化物」
「化物?フフッ、貴女の方がよっぽど――」
言葉を最後まで言い切る事が出来ぬままミカエルは千歳の手で始末され、そしてアンヘルという種族は誕生から極僅かな期間で絶滅したのであった。