ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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「(前進)」

 

……何故、明かりが消えているんだ?

 

見るからに頼り無い木製のエレベーターに乗り古城の地下にある研究施設の最下層に降り立った鳴瀬大尉は壁に設置されている照明器具のような魔法具の光りが消え暗闇に包まれている地下の状況に不安を抱きながらもハンドサインで部下達に進むように指示を出す。

 

そして暗視ゴーグルを装着しホロサイトやサプレッサー、アンダーバレル式グレネードランチャーのGP-30を銃身下に付けたAN-94――通称アバカン。1発目の5.45mm×39弾が発射された反動で銃口がブレる前に2発目が銃口から飛び出すという特異な機構を採用しているため、通常のフルオート射撃よりも命中率が高い銃――を構えると、ツンと鼻を刺激する薬品の匂いが充満している石造りの通路をゆっくりと慎重に進み始めた。

 

その際、エレベーター脇にあった地下全体の案内図を頼りにアルファチームとデルタチームは情報収集のため研究所の中央にある一番大きな研究室に向かいチャーリーチームは通路に設置されている魔法具に明かりを灯すため魔法具に魔力を供給する大元、簡単に言えば発電機のような装置――魔力炉のある部屋へと向かった。

 

そうして二手に別れ不気味な静寂に包まれた通路を、隊列を組んで進んで行くと薬品の匂いに混じって嗅ぎ慣れた血の匂いが漂って来た。そのことに気が付いた鳴瀬大尉達が警戒を強めより一層、慎重に前進を続けて行くと目の前に奇妙な物体が現れた。

 

「(止まれ!!)」

 

先頭を進んでいた隊員が握り拳を掲げハンドサインで後続の隊員に止まるように促す。

 

「大尉、これを見てください」

 

小声でしかし緊張の色を含んだ鋭い口調で“それ”を見つけた隊員が隊列中央にいた鳴瀬大尉を呼ぶ。

 

「なんだ、こいつは!?」

 

隊員に呼ばれた鳴瀬大尉が前に出ると真っ暗な通路の床に敵の兵士が倒れていた。

 

ただ単に兵士が床に倒れていただけであれば、それほど鳴瀬大尉も驚くことは無かったのだが目の前で倒れている兵士の頭には何故か長剣が頭の上から顔の半ばまで深く突き刺さり、頭がパックリと2つに割れてそこからぶよぶよした脳みそが顔を覗かせていた。

 

「これは……噛みちぎられた跡……でしょうか?」

 

死体を調べていた隊員が、死体のいたるところに人間が噛んだような歯形の跡があることに気が付いた。

 

「そのようだな。しかし……ここで一体何が起きているんだ?」

 

鳴瀬大尉が眉を寄せ、小さく呟くもその答えは誰にも分からなかった。

 

「アルファより報告。地下施設内にて敵兵の死体を発見。各員警戒せよ」

 

『了解』

 

『――ザザッ、了解』

 

『――ザッ、了……』

 

電波状態が悪いのか?地上にいるチームとの無線が繋がりにくいな。

 

他のチームに警戒を促し死体を脇に退けると鳴瀬大尉達は前進を続けた。

 

……これは不味いかもしれないな。

 

奥に進んで行くにつれて床や壁に血がベッタリと付着し戦闘の痕跡が残っているのを見て鳴瀬大尉や隊員達の纏う空気がより一層張り詰める。

 

「大尉、着きました」

 

だが、そうこうしているうちに目的地である地下で一番大きな研究室の入り口に辿り着いた。

 

「さっさと任務を終わらせて帰るぞ。行け」

 

研究室の入り口に到着した鳴瀬大尉は部下に突入を命じた。

 

魔力炉が動いていないため船にあるような回し手のある鉄製の頑丈な扉を隊員が3人がかりで無理矢理、抉じ開けると突入態勢を整えていた他の隊員達が素早く研究室内へと雪崩れ込む。

 

「クリア!!」

 

「クリア!!」

 

部屋の中から制圧完了の声が聞こえると通路で待っていた鳴瀬大尉と残りの隊員達は部屋の中へと入った。

 

「ビンゴだな……」

 

真っ暗な部屋の中には人体実験が行われていたことを裏付ける資料が大量に散乱し部屋の片隅には大きなフラスコに人体実験の被験体となった人間や妖魔族が標本としてホルマリン漬けのように何かの液体と共に入れられ飾られていた。

『チャーリーよりアルファ。これより魔力炉を起動させる』

 

鳴瀬大尉が床から拾い上げた資料やフラスコを眺めているとチャーリーチームから通信が入った。

 

その直後、魔法具のライトが眩いばかりの光りを放つ。

 

「眩しいな……」

 

用済みとなった暗視ゴーグルを外し、目をパチパチとしばたたかせ光に目を慣らした鳴瀬大尉はチャーリーチームに命令を伝えた。

 

「アルファよりチャーリーへ。こちらに合流しろ」

 

『チャーリー了解、そちらに向かう』

 

「よし、お前ら――」

 

チャーリーチームに命令を下した後、鳴瀬大尉が周りで映像や写真を撮りながら情報収集を行っている隊員に指示を出そうと口を開いた時だった。

 

――バンバン!!

 

部屋の片隅に置かれていた、人が1人スッポリと入れそうな長方形の鉄の箱が中から叩いたような音を立てた。その瞬間、隊員達が一斉に箱に向けて銃を構える。

 

「……」

 

鳴瀬大尉が箱の近くにいた隊員に開けろと目配せすると隊員は頷き構えていた銃を下ろし肩に掛けると恐る恐る箱に近付いて行く。

 

そして箱の縁に手を掛け鍵の部分を蹴破ると隊員は一気に箱を開いた。

 

「――ゲホッゲホッ!!はぁ、はぁ、死ぬかと思ったぞ」

 

そんな言葉と共に箱の中から転がり出てきたのは黒いローブを纏った老人だった。

 

「まったく!!助けに来るのが遅すぎる!!大体貴様――…………」

 

酸欠状態になっていたのか、四つん這いの状態で深呼吸を繰り返しぜぇぜぇと息をしていた老人は悪態を吐いたあと文句を言おうと顔を上げた。そしてそこでようやく自分を助けた黒ずくめの集団が味方ではないと気が付いたのか顔を青くし口を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「た、頼む!!何でも話すから助けてくれ!!」

 

膝立ちで隊員に両手を固められ、まるで処刑を待つ囚人のような哀れな体勢で老人は鳴瀬大尉が言葉を発する前に命乞いを繰り返していた。

 

「何でも話す……か。なら、まずお前の名前。次にここで何が行われていたのか。後、今ここで何が起きているのか答えろ」

 

「わ、分かった……。ワシの名はウルセイス・バーライト。ここの研究所を任されている総責任者じゃ――」

 

よほど目の前にいる鳴瀬大尉達のことが恐ろしいのか、そう素直に語り始めたバーライトの話を聞いていくうちに鳴瀬大尉や隊員達の顔色はみるみるうちに悪くなっていった。

 

「それじゃあ、なにか?お前らはここで不老不死の研究をしていたが、研究途中に偶然出来た薬――生物を強制的にゾンビ化する薬を捕らえられ連行されてきた人間や妖魔族、捕まえた魔物に使ってローウェン教の神話に出てくる『不死の軍団』を再現しようとしていたが失敗。で、今日行われた実験の最中ゾンビ化する薬を投与した実験体が逃げ出し次々と研究員や兵士を襲い結果、襲われた奴等がねずみ算式にゾンビとなっていき今現在この施設内はゾンビで溢れ返っている状態だと?」

 

「そうじゃ……」

 

「だが、ここに来るときにはゾンビになんか出会わなかったぞ」

 

それらしき死体はあったが……。

 

「それは恐らく生き残りの兵士や研究員が研究所の奥の方に逃げたせいじゃろう。ゾンビ共はそやつらに釣られて研究所の奥のエリアに固まっているはずじゃ……。それにワシがこの箱に入る直前に魔力炉が緊急停止したようじゃったからな。突然、魔力の供給が途絶えたせいで研究所の防衛機能が働いて各エリアの通路を封鎖したから逃げた者を追いかけていったゾンビ共は奥のエリアに閉じ込められておるのじゃろう。もっとも魔力炉を再起動させたのなら魔力の供給も再開されて封鎖されたはずの通路も開いたはずじゃからゾンビ共も既にこちらに向かって来ているやも知れぬが……」

 

もはやいろいろと諦めたような表情でバーライトは言った。

 

クソッ!!最悪だ!!

 

自分達がどういう状況に置かれているのかをハッキリと正しく認識した鳴瀬大尉はすぐに各チームに連絡を取った。

 

「アルファより各チーム、応答せよ!!」

 

『こちらチャーリー。どうした?』

 

『『……』』

 

だが返事が帰って来たのはチャーリーチームだけだった。

 

地下にいることに加え、地下に来た当初より電波状態が悪化したために地上にいるチームと地下にいる鳴瀬大尉達との通信は不可能になっていた。

 

「チイッ!!チャーリーよく聞け、問題が発生した!!直ちにここを出るぞ!!」

 

一先ず連絡の取れるチャーリーチームに指示を飛ばした鳴瀬大尉だったが、時すでに遅し。

『なに?どういうことだ?アルファ詳しく――ちょっと待て……』

 

「どうした?」

 

『なんだ……あいつらは!?』

 

「チャーリー!?どうした!!何があった!?」

 

『撃て、撃て!!撃ちまくれ!!クソッ、マズイ!!マズイ!!マズイっ!!後退しろ、早く!!急げっ!!』

 

「チャーリー!?チャーリー!!応答しろ!!」

 

『こちらチャーリー!!化物共と遭遇、交戦中!!どこから沸いて出たんだクソッ!!数が多い応援を――っ!!や、やめ!!ギャアアアァァァ!!』

 

無線機から聞こえてきた、けたたましい発砲音とチャーリーチームの隊長の断末魔を最後に通信は途切れた。

 

そしてそんな最悪の状況を予感させる音や声を聞き目出し帽に隠された鳴瀬大尉の表情が歪む。

 

「クソッ!!――ジャクソン、アレクセイ、ブラート!!お前らはこのジジイを連れて先に地上に行ってHQにこちらの状況を知らせておけ!!デルタはここからエレベーターまでの通路を何がなんでも確保しておいてくれ!!それ以外は俺について来い!!チャーリーの救援に行くぞ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

矢継ぎ早に鳴瀬大尉の口から飛び出す命令に隊員達はすぐに返事を返し動き始めた。

 

そして指示を出し終え隊員を引き連れ部屋を飛び出した鳴瀬大尉は遠くから聞こえてくる銃声を頼りに通路をひた走る。

 

「こっちだ!!急げ!!」

 

後に続く隊員に急げと発破を掛けた鳴瀬大尉はチャーリーチームに呼び掛けた。

 

「こちらアルファ!!チャーリー応答しろ!!チャーリー!!」

 

『こ、こちらチャーリー!!9名戦死!!隊長も殺られました!!』

 

鳴瀬大尉の必死の呼び掛けにようやくチャーリーチームの隊員が返事を返したが、帰ってきた返事の内容は最悪だった。

 

「今そちらに向かっている!!なんとか持ちこたえろ!!」

 

『りょ、了解!!――なっ!?おい!!右からも来たぞ!!撃て、撃て!!』

 

間に合ってくれよ!!

 

通信がまた途切れ鳴瀬大尉達が必死に走っていると前方から虚ろな白く濁った目で右腕が半ばから千切れた敵兵士がうめき声のような声を出しながらヨロヨロとおぼつかない足取りでこちらに向かって来た。

 

「邪魔だあぁ!!どけぇぇっ!!」

 

ゾンビと化した兵士を目前にした鳴瀬大尉は走りながら雄叫びをあげ拳を振りかぶり、擦れ違い様にゾンビの顔に拳を思いっきり叩き込んだ。

 

頬の骨を砕くほどの、その一撃を受けたゾンビはそのまま5メートルほど吹き飛び通路の床に沈む。

 

しかしもはや動く屍と化しているゾンビがそれだけで死ぬはずもなく、ゾンビは変形した無惨な顔のまま何事も無かったかのようにゆっくりと起き上がってきた。

 

「くたばれ」

 

だがゾンビが起き上がろうとした瞬間、走っていた鳴瀬大尉達がゾンビの体の上を通過、そして最後尾にいた隊員が立ち止まりゾンビの頭を踏みつけホルスターからFive-seveNを抜き発砲、ゾンビに止めを刺した。

 

「居たぞっ!!こっちだ!!」

 

走ること数分、途中で遭遇した5〜6体のゾンビを片手間に片付けた鳴瀬大尉達はT字路の合流地点に、チャーリーチームの生き残りが居るのを見つけた。

 

「助かったっ!!」

 

ゾンビから目を離し鳴瀬大尉達の姿を見るなりチャーリーチームの最後の生き残りの隊員は心の底から安堵したように言った。

 

駆け寄ってくる鳴瀬大尉達の姿を見て気を抜いてしまったのか撃つことを止め、T字路の合流地点から手前のこちらに向かって駆け出そうとした隊員の首にゾンビとは思えない俊敏な動きで、それは噛み付いた。

 

――グチュリ

 

隊員の首の肉を引き裂く音が通路内に響き鳴瀬大尉達の耳にへばりつく。

 

そして思わず足を止めてしまった鳴瀬大尉達の目の前で、それは――人体実験の成れの果てなのか、もしくは生物兵器の出来損ないなのか、まるでキメラのような形容し難い姿の生物は隊員の亡骸をただひたすらに貪り喰っていた。

 

「クソッタレがああぁぁぁーー!!」

 

目の前で仲間が殺されしかも貪り喰われていることに鳴瀬大尉達は激昂し銃を構えると未だ食事に夢中なキメラや奥からゾロゾロと現れたキメラとゾンビの集団に対し一斉に銃弾を浴びせる。

 

そして鳴瀬大尉の持つAN-94や隊員達が持っているP90やM240機関銃、VSS等が銃声のオーケストラを奏で上げた。

 

P90は今までにある短機関銃のような拳銃弾を使用せず新規開発のライフル用の弾丸をそのまま縮小したような形で弾頭先端の尖ったボトルネック構造の5.7x28mm弾を使用しているため、ライフル弾並みの貫通力を発揮、隊員を喰らっていたキメラや通路の奥から薄気味悪い唸り声と共に迫りくる多種多様なゾンビ達の体に着弾すると弾頭が体の内部で乱回転し弾は貫通せずに周辺の組織を大きく抉る。

 

M240機関銃は断続的な射撃を継続し7.62x51mm NATO弾でバタバタとゾンビ達を撃ち倒す。

 

そして長距離からの精密射撃ではなく中距離から短距離の狙撃、もしくは近距離での銃撃戦を前提に設計されているVSSは20発入りのマガジンを使ってフルオート射撃と単発射撃――狙撃をうまく使い分けゾンビを確実に1体1体仕止めていく。

 

ちなみにVSSの使用する9×39mm弾はライフル弾でありながら初速が音速を越えないため衝撃波が発生しないためこの弾薬とVSSの消音器を組合せると排莢口の隣にいない限り、ボルトが動作して弾薬を排莢する際の金属音しか聞こえない。

 

「っ!?弾幕をキメラに集中しろ!!これ以上近付けさせるな!!」

 

「了解!!おら!!さっさと死にやがれ!!」

 

鳴瀬大尉達はキメラとゾンビに雨あられと銃弾を浴びせ、動きの鈍い元人間や元妖魔族等のゾンビの頭を潰していくがゾンビ化したキメラは何故か動きが素早くしかも人為的に身体を強靭に作られていたのでなかなか死なず、鳴瀬大尉達の目の前まで銃弾の雨を掻い潜り接近して来ていた。そのため鳴瀬大尉達はゆっくりと迫ってくるゾンビを捨て置いてキメラに火線を集中させるしかなかった。

 

「レイズ!!火の魔法で奴らを焼き払え!!」

 

「了解!!お前ら俺に合わせろ。ネル・カザ・イ――」

 

火線を集中したことで迫りくるキメラは全て倒した鳴瀬大尉はレイズ達に魔法の使用の指示を出し詠唱が終わるまでの間、ゾンビ共を足止めするために銃の銃身が焼きつかんばかりに撃ちまくった。

 

「――ガイス・デルト!!」

 

そしてレイズ達が詠唱を終え杖を振るうと杖の先から灼熱の炎が生み出されゾンビ達に襲い掛かった。

 

『ォオオーー!!』

 

「チイッ!!ダメかっ!!」

 

しかしレイズ達の使用した火の魔法はゾンビを完全に焼き尽くすことが出来なかった。

 

「レイズ!!土の魔法で壁か何か作れないか!?」

 

「ここの壁や床には魔法を無効化する効果が付属されていて無理です!!」

 

「くっ!!なら致し方ない!!こうなったらケツ捲って逃げるぞ!!行け、行け!!」

 

殺しても殺しても通路の奥から地を這うような呻き声と共にまるで雲霞の如く湧き出して来るゾンビを見てチャーリーチームの遺体の回収を諦めた鳴瀬大尉は身に付けているタクティカルベストからMK3手榴弾を外し手に取ると安全ピンを引き抜きゾンビに向かって放り投げた。

 

投げられたMK3手榴弾は瞬く間にゾンビの波の合間に消え、そして爆発。

 

TNT爆薬の爆発により生み出された衝撃波によってゾンビの群れを凪ぎ払う。

 

「こいつはオマケだ!!取っておけ!!」

 

そう叫び鳴瀬大尉はAN-94の銃身下に付けたGP-30の引き金を引き、未だに爆煙に包まれている場所に向かって40mmグレネード弾を撃ち込んだ。

 

すると再び通路内に鉄片を大量に含んだ爆風が吹き荒れMK3手榴弾の爆発で腕や足が吹き飛んでいたゾンビに止めを刺す。

 

それを見届けると鳴瀬大尉は先に走って行った部下達を追いかけるように一目散にエレベーターに向かって駆け出した。

 

駆け出してすぐに鳴瀬大尉が後退してくるのを待っていた隊員の肩を叩き鳴瀬大尉は後退を促す。

 

肩を叩かれた隊員はマガジンに入っている銃弾をフルオートで適当にばらまくと鳴瀬大尉と同じように後退し後方で待っていた隊員の肩を叩く。

 

そんな風に交互に後退しゾンビに対して遅滞戦闘を行いながらアルファチームの隊員は着実に後退し退路の確保にあたっていたデルタと合流した。

 

「大尉、ご無事で――って!?なんてもの引き連れて来てるんですか!!」

 

デルタチームの隊長が鳴瀬大尉の無事を喜ぼうとしたが、その後ろにいる大量のゾンビを見て絶望したように叫んだ。

「うるさい!!撤退だ!!撤退!!」

 

鳴瀬大尉のその言葉を聞いたデルタチームの隊員達は1も2もなく賛同しエレベーターに向かって走り出した。

 

「大尉、チャーリーチームの奴等は?」

 

エレベーターに向かって走っている途中、デルタチームの隊長が鳴瀬大尉に並走し問い掛けた。

 

「……駄目だった」

 

「そう……ですか。残念です」

 

チャーリーチームが全滅したと聞いてデルタチームの隊長は顔を伏せそう呟いたあとただ黙って走ることに集中した。

 

 

「全員乗ったか!?」

 

「乗りました!!」

 

「じゃあ出せ!!」

 

「了解!!」

 

続々と現れるゾンビの数の多さに弾薬が持たないと判断し遅滞戦闘を行うのを諦め一目散に尻尾を巻いて逃げ出し無事にエレベーターまで辿り着いた鳴瀬大尉達は迫りくるゾンビ達に笑顔で別れを告げ地上に向かった。

 

「大尉!!」

 

命からがら地下から脱出しエレベーターから降りた鳴瀬大尉の元に先に地上へ上がっていたジャクソンが駆け寄る。

 

「なんだ?」

 

「脱出用のヘリがあと10分で到着します」

 

「そうか。なら中庭に移動するぞ。あそこならヘリも降りられるだろう」

 

「了解です」

 

鳴瀬大尉はヘリの到着を見晴らしの効く古城の中庭で待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

15分後。

鳴瀬大尉達は迎えのCH-47F2機に分乗し地獄のような体験をした古城の上空にいた。

 

「大尉、今回は大変でしたね……」

 

CH-47Fの機内の椅子に疲れた様子で腰掛ける鳴瀬大尉に部下の隊員が声を掛けた。

 

「まったくだ。しかしこれから先も今回みたいな任務があるかもしれないと思うと気が重い……」

 

『こりゃ、凄い……。みんな下を見てみろ』

 

想像もしたくない未来の出来事に鳴瀬大尉がげんなりとしているとCH-47Fの機長が機内アナウンスをかけ皆に古城を見るように言った。

 

そして鳴瀬大尉達が窓から古城を覗くとちょうど証拠隠滅が始まったところだった。

 

古城の上空には可変翼を備えた2機種の戦略爆撃機――アメリカのB-1ランサーとロシアのTu-160がそれぞれに編隊を組み、爆弾搭載量ギリギリまでウェポンベイに詰め込んだJDAM装備のグランドスラムやトールボーイを次々と投下していた。

 

そして特別に準備されていたJDAM装備のグランドスラムやトールボーイは高度1万メートルの高さから投下されると徐々に落下速度を増し、慣性誘導とGPS誘導により着弾地点の誤差を修正、最終的には音速を超え音速突破音を出し古城に突き刺ささった。

 

古城を形作るレンガや石を砕き地下の研究所まで貫通したグランドスラムやトールボーイはそこで爆発。地上にまで火柱が吹き上がる。

 

次々と空から音速のスピードで降り注ぎ、そして地下で大爆発を起こすグランドスラムやトールボーイにより地上では小規模な地震が発生し遂には地下全体が崩落。古城は崩れながら凄まじい地響きと共に地中に沈み込んでいった。

 

そうして搭載していたグランドスラムとトールボーイでゾンビもろとも古城を跡形も無く破壊したB-1とTu-160は悠然と基地に帰って行った。

 

「「「「すげぇ……」」」」

 

古城を圧倒的な火力で粉砕した光景をCH-47Fの機内から眺めていた鳴瀬大尉達はただただ感嘆の声をあげていた。

 


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