ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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妖魔連合国とエルザス魔法帝国の国境付近にある森の上空を2機のAC-130と3機のF-15Eストライクイーグルが編隊を組んで我が物顔で悠然と飛行していた。

 

「グラトニー01からHQへ、指定空域に到着、指示を乞う。どうぞ」

 

眼下の森の中に密かに作られていた帝国軍の拠点陣地を潰す任務を請け負ったパラベラムの歩兵部隊が苦戦し航空支援を要請したため急遽出撃した2機のAC-130(コールサインはグラトニー01、02)は空対空ミサイルのAIM-9サイドワインダーやAIM-120 AMRAAMを搭載したF-15Eの一個小隊3機(バイガス小隊)に護衛され指定された空域に到着すると指揮官機であるグラトニー01がHQに連絡を取った。

 

『HQ了解。現在地上で帝国軍と交戦中の第8歩兵大隊に無線を繋ぐ。以降支援任務が終了するまでグラトニー01、02の両機は第8歩兵大隊の指示を受け行動せよ。幸運を祈るオーバー』

 

「グラトニー01、了解」

 

『グラトニー02、了解』

 

HQとの通信が切れると今度は銃声が混じった通信がグラトニー01に入った。

 

『こちら第8歩兵大隊のモリソン中佐だ。敵の激しい抵抗を受け死傷者が多数出ている。敵の位置をスモークで指示するから吹き飛ばしてくれ!!』

 

「グラトニー01了解した」

 

森の中に拠点陣地を構築していた帝国軍を攻撃中の第8歩兵大隊から要請を受けたグラトニー01、02は支援体制に入った。

 

そして第8歩兵大隊からの座標指定を待っていると森の中から幾つもの赤や緑、紫色といった目立つ色の煙がモクモクと昇り始めた。

 

「こちらグラトニー01。目標の座標を目視した。これより近接航空支援を開始する。流れ弾に注意せよ」

 

『こちら第8歩兵大隊、既に退避は完了している。思う存分やってくれ!!』

 

第8歩兵大隊の返事の後、けばけばしい色の煙を中心に左旋回を始めた2機のAC-130から3種類の砲弾の雨が地上へと降り注ぐ。

 

AC-130に搭乗している砲手達が赤外線センサーを通し地上の様子を映す白黒の画面に視線を送り、白色もしくは黒色で表示されている敵兵の姿を確認すると砲の向きを操作するジョイスティクを操りそして引き金を引く。

 

ドカンと必殺の105mm榴弾砲が帝国軍の築き上げた陣地のど真ん中に着弾。紅蓮の炎と黒煙が舞い上りそこにいた兵士達を完全にこの世から消し去る。

 

続いてドン!!ドン!!と太鼓を打ち鳴らしたように40mm機関砲から放たれた砲弾が運良く魔導兵器に命中し魔導兵器を爆散させる。

 

独特なモーターの駆動音が辺りに響くと25mmガトリング砲の弾が地上を舐めるように走り先程まで勇敢に戦っていた帝国軍の兵士達を木々諸とも凪ぎ払う。

 

そして2機のAC-130が3回目の旋回を終える頃には第8歩兵大隊が苦戦していた帝国軍の陣地は跡形もなく消滅し細い若木の多かった森は焼け野原のように禿げ上がっていた。

 

その後、森が焼け野原となり敵兵の姿が見えなくなったため近接航空支援を一時中断し第8歩兵大隊による敵の有無の確認が行われた。

 

『こちら第8歩兵大隊、敵及び敵陣地の消滅を確認。グラトニー01、02の支援に感謝する』

 

「グラトニー01了解。近接航空支援を終了。帰投する」

 

消滅してしまった帝国軍の陣地を確認した第8歩兵大隊の報告を受けグラトニー01、02の2機が任務を終えて機首をデイルス基地に向けようと時だった。

 

『うおっ!?な、何が!?』

 

まだ通信が切られていなかった無線機から第8歩兵大隊の兵士の慌てたような声が聞こえてきた。

 

「どうした?」

 

声に反応したグラトニー01の機長が第8歩兵大隊に問い掛けると、その返答は何故か護衛のバイガス小隊から返ってきた。

 

『直下より戦列艦5、竜騎士多数上昇中!!ブレイク、ブレイク!!』

 

その報告にグラトニー01の機長がハッとして地上に視線を向けると巧妙に施された偽装を解き5隻の戦列艦とその護衛の竜騎士達が空に舞い上がってきた。

 

「チィッ!!この高度はマズイ!!エンジン全開!!ずらかるぞ!!」

 

「エンジン全開!!上昇します!!」

 

「グラトニー01よりHQへ!!我、敵戦列艦及び竜騎士と会敵せり!!至急増援を送られたし!!繰り返す――」

 

通信手がHQに救援要請を行っているのを尻目に機長と副機長はスロットルレバーを押し込み、推進力の増したエンジンを頼りに無理やり上昇を試みる。

 

第8歩兵大隊が近付いたことで発見されAC-130の攻撃を受けると思ったのだろう。拠点陣地の近くに潜んでいた5隻の戦列艦は空に舞い上がると一目散に帝国領に向け逃げの1手を打ち、その護衛の竜騎士達は戦列艦を逃がすためなのか、近接航空支援を行うため低空に降りていたAC-130に執拗に襲い掛かろうとする。

 

「バイガス小隊、全兵装使用自由!!戦列艦は放っておけ竜騎士を最優先で叩け!!」

 

『承知!!バイガス小隊2番機エンゲージ!!』

 

『了解!!バイガス小隊、3番機エンゲージ!!』

 

だがそれをさせじとAC-130の護衛である3機のF-15Eはすぐに外部燃料タンクを投棄し身軽になると機首を竜騎士達に向け攻撃を開始する。

 

しかし突然真下から戦列艦や竜騎士達が現れるという予想外の展開のせいで、なし崩し的に接近戦に陥ったバイガス隊は相対速度の違いなどで苦戦したが、護衛対象AC-130には傷1つ付けさせることなく竜騎士を全て排除することに成功した。

 

「戦闘終了!!集まれ」

 

『『了解』』

 

竜騎士の殲滅を達成したバイガス小隊はトレール編隊を組んでこちらの様子を伺っていた2機のAC-130の元に集合する。

 

「各機残弾知らせ」

 

バイガス隊の隊長が列機に問い掛ける。

 

『こちら2番機、機関砲残弾0、空対空ミサイル0』

 

『3番機同じく、機関砲残弾0、空対空ミサイル0。隊長は残ってますか?』

 

「俺も弾切れだ」

 

しかしAC-130を守ろうと竜騎士を最優先で叩き全てを撃破したまでは良かったが、弾を使い果たしてしまい戦列艦が無傷のまま残存していた。

 

「……逃げて行くな」

 

「えぇ。でもなんとか危機は脱したみたいですね」

 

オープンチャンネルで交わされていたバイガス隊の話を聞きグラトニー01の機長と副機長が逃げて行く戦列艦を眺めながら言った。

 

「救援要請はどうなった?」

 

「はい、戦列艦が出てきたことを伝えたらすぐに救援を寄越すと言っていましたが、恐らく間に合わないでしょう。ここに救援の部隊が到着した頃にはもう戦列艦は帝国領の奥深くです」

 

「……このまま逃がすのも何だか癪だな」

 

通信手の話を聞き憮然とした顔で戦列艦をじっと眺めていたグラトニー01の機長の瞳に妖しげな光りが灯る。

 

「……やめて下さいよ?変なことを言う――」

 

その瞳の光りに気が付いた副機長が機長をたしなめようと声を掛けるが、その声を遮り機長はいい放った。

 

「よぉし、決めた!!これより当機とグラトニー02は敵戦列艦と砲撃戦を交える。各員戦闘準備!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『よぉし!!これより当機とグラトニー02は敵戦列艦と砲撃戦を交える。各員戦闘準備!!』

 

「……はぁ!?空中で砲撃戦をやるっていうのか!!この機体で!?」

 

エンジン音が響き渡る中、各自が被っているヘルメットに付いた無線機を通し通達された機長の言葉に搭乗員達は驚きを隠せなかった。

 

「うちの機長も随分とクレイジーなことをやるもんだ。さすがグラトニー(暴食)敵をもっと食らいたいってか?」

 

「そんなことより空中で砲撃戦なんてやったことねぇぞ」

 

「よかったな初体験だ」

 

「嬉しくねぇよ!!そんな初体験!!」

 

AC-130の機内では搭乗員達がぶつぶつと文句を言っているのがちらほらと見えたものの皆、機長の命令通りに戦闘準備を整えていた。

 

「機長……本当にやるんですか?」

 

「やるったらやる!!」

 

副機長の言葉に耳を貸す様子もなく、いや貸すどころか逆に意固地になりながら機長は言った。

 

「はぁ〜分かりました。やりましょう。……敵前方11時の方向、距離4000、単縦陣で逃走中」

 

機長の気が変わらないことを悟った副機長はやれやれと首を振り、頭を入れ替え冷静に戦列艦の位置を知らせる。

 

「よし、同航戦で一撃加えてから左旋回。反航戦で仕留める」

 

「了解」

 

都合のいいことに真っ直ぐきれいな単縦陣を敷き逃げている5隻の戦列艦を見据えながら機長がいいことを思い付いたといわんばかりに悪ガキのような笑みを浮かべて言った。

 

「……おい、フレアを発射しろ」

 

「は? 何故ですか?」

 

「こけおどしだよ」

 

「……あぁ、確かにこけおどしには最適ですね」

 

「グラトニー02にも伝えろ」

 

「了解」

 

最初、機長の思惑が理解出来なかった副機長が機長にフレア放出の理由を聞くと単純明快な返事が帰ってきた。

 

そしてタイミングを合わせてグラトニー01、02が同時にフレアを放出するとある種の神々しさすら感じさせる光景に驚いたのか敵の戦列艦の陣形が少し崩れた。

 

「やっぱりビビったな」

 

ニヤニヤと笑いながら機長が言った。

 

「敵との距離残り500メートル!!並びます!!」

 

「おっと、総員戦闘用意!!これより当機は砲撃戦を行う!!気合い入れろ!!」

 

『『『『応!!』』』』

 

副機長の報告に我に帰った機長が搭乗員に発破を掛ける。そしてAC-130による前代未聞の空中での砲撃戦が始まった

 

「左砲撃戦用意!!……撃てぇーー!!」

 

機長の号令の下、2機のAC-130から次々と砲弾が戦列艦に向かって放たれた。

 

「クッソ当たらねぇ!!」

 

最初のターゲットになった最後尾の戦列艦にはまず2発の105mm榴弾が300メートルの距離から放たれたが、これは風に流されて外れた。

 

「あれだけ弾が流されたから……これぐらい……か?」

 

「オラ、オラ、オラ!!墜ちろや!!」

 

しかし続けざまに下手な鉄砲数打ちゃ当たるとばかりにばらまかれた40mm機関砲と25mmガトリング砲の弾が船体側面の砲列甲板とマストに命中、不幸な事にマストの根元には40mm機関砲の砲弾が直撃したためマストは根本からへし折れてしまい推進力を失った戦列艦は航行不能に陥った。

 

しかも25mmガトリング砲の焼夷弾により船体のいたる所で火災が発生するという被害を被っていた。

 

そして前を航行していた戦列艦にも同じような熾烈な攻撃が加えられ2機のAC-130が通りすぎた後の帝国軍艦隊はズタボロになっていた。

 

最後尾にいた戦列艦(5番艦)はマストを失い航行不能で炎上しながら空中をさ迷い前方にいた2、4番艦にはまぐれ当たりながら105mm榴弾が命中し両艦は空中で火球と化し爆散、消滅。3番艦は40mm機関砲の滅多打ちを食らい船体が穴だらけになり各所で断裂が発生し最後は船体がバラバラに千切れ墜落。先頭を航行していた1番艦は25mmガトリング砲の弾が運悪く火薬庫に命中、誘爆を繰り返しながら炎上中で徐々に地上に向け落下していた。

 

「反転の必要性なしだな」

 

「えぇ」

 

AC-130による史上初の空中での砲撃戦はワンサイドゲームに終わり帝国軍艦隊の惨状をみて反転することを止めたグラトニー01、02は意気揚々とF-15Eと共に基地に帰った。

 

そしてこの戦いを最後に妖魔連合国内にいた帝国軍(組織的な行動が取れる部隊)は全滅した。


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