ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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「イテテ……腰が……」

 

淫魔の館の一室を借りて(事の途中、興味心を刺激されたサキュバス達が覗きに来るというアクシデントが発生、千歳が日本刀片手に追い払う)2日間続いた狂乱の宴が終わり一夜明けた今日、デイルス基地の執務室の椅子に座り見るからにやつれた顔のカズヤはジンジンと鈍い痛みを発している腰を擦っていた。

 

「ご主人様、大丈夫ですか?」

 

「湿布でもお持ち致しましょうか?」

 

カズヤが腰を擦っていると傍に控えていたレイナとライナが心配そうな顔でカズヤに問い掛けた。

 

「あぁ、悪いが頼む」

 

「分かりました。すぐにお持ち致しますね」

 

「痛みますか?ご主人様」

 

姉のレイナが小走りで湿布を取りに行くと妹のライナが湿布が来るまでの間、カズヤの腰をその小さな手で労るように優しく撫でていた。

 

いい子達だなぁ……。

 

つい昨日まで肉欲に溺れ貪欲にカズヤの子種を求めていた人物と同一の人物とは思えないほどおしとやかで清楚な立ち振舞いの2人。

 

そんな昼は淑女で夜は娼婦を体現している自分だけの可愛いメイドに心を癒されながらカズヤは頬を緩めていた。

 

「ふぅー、大分楽になった。ありがとうなレイナ、ライナ」

 

「「エヘへ」」

 

腰に湿布を貼ってもらった後、礼を言って2人の頭を撫でてやると2人は年相応の柔らかい笑みを浮かべ喜んでいた。そんな姿に更に癒されたカズヤは2人にご褒美をあげることにした。

 

「ほら、ご褒美だ」

 

カズヤはそう言って執務机に置いてあったペーパーナイフで人差し指に小さく傷を付け血を出すと2人の目の前に人差し指を差し出した。

 

「「っ!?」」

 

プクッと真っ赤な血がカズヤの人差し指の傷口から流れ出るのを見た瞬間、レイナとライナはさっきまでの穏やかな表情を一変させた。

 

あの狂乱の宴を彷彿とさせる表情――頬を紅潮させ色欲に染まった瞳で、はぁ……はぁ……と熱を孕んだ吐息を吐くと同時に2人はカズヤの前に跪き、競い争うように血の滴る人差し指に小さな舌をねっとりと這わせ溢れ出てくる血を丁寧に舐め始めた。

 

「んちゅ…ふっん、にゅちゅ……ペロッ、んんっ、ん……ぺろっ」

 

「ちゅ……んっんんっ……んふぅ…ペロッ…ちゅ」

 

椅子に座って人差し指を差し出しているカズヤの視線の先ではメイド服を着た2人の美少女が跪き、背中から生えているコウモリの翼によく似た翼をパタパタと子犬の尻尾のように振り上気した顔で、あたかも前戯を行っているかのようにピチャピチャと淫靡な音をたてながら無我夢中で指を舐め、もどかしそうにモジモジと股を擦り合わせていた。

 

そんな2人の淫靡な様子に当てられたカズヤの息子がムクムクと起き上がり臨戦態勢に入ろうとした時だった。

 

――コンコン。

 

『ご主人様?ヘリの準備が整いました』

 

今日、予定されていた油田の視察のために手配したVH-60Nプレジデントホークの準備が終わったことを知らせるために千歳がカズヤの執務室にやって来た。

 

「っ!! あ、あぁ。分かった今行く」

 

ヴァンパイアの2人に血を与えて(吸われて)いたためじんわりとした心地よい快感に浸っていたカズヤだったが、扉の向こうから聞こえて来た千歳の声にハッと我に返り慌てて返事をしたあとレイナとライナに声を掛ける。

 

「もうそんな時間か……。レイナ、ライナ。行くぞ?」

 

「ふぇ?……ふぁい………んッ…はい」

 

「チュプ、ちゅ、んくっ……はぁ……はぁ……分かりました」

 

幸悦とした表情で人差し指に吸い付き血を啜っていた2人はカズヤに声を掛けられた直後、まだ物欲しそうにカズヤの人差し指を見つめていたが何物にも代えがたい主の声と千歳の教育の賜物によって、すぐに血を求めるヴァンパイアの本能を理性で押さえ付けカズヤの呼び掛けに答えた。

 

「ほら、急ぐぞ」

 

……そんなに飲ませていないはずなんだが、飲ませ過ぎたのかな?

 

主の血というどんな美酒にも勝る至高の物を飲んだせいか、赤い顔で少しふらつく2人を急かしながらカズヤは執務室の扉を開く。

 

開かれた扉の向こう側には千歳を筆頭にメイドのエルとシェイル、キュロットそれに親衛隊の隊員達が居たがそんな中に混ざってフィーネが千歳の横に立っていた。

 

「あれ、ローザングル?帰ってきていたのか」

 

てっきり千歳とメイドと親衛隊の隊員達しか扉の前にいないものだと思っていたカズヤは千歳の隣に佇んでいたフィーネを見て少し驚いたように言った。

 

「……私が居たら何か問題でも?」

 

少しの間カズヤの側を離れパラベラム本国に留学?し、つい先程こちらに帰って来ていたフィーネがカズヤの物言いに傷付いたように、もとい苛ついたように言う。

 

「い、いや……問題はない」

 

「ふんっ」

 

以前の一件(ハーフエルフのベルを助けた日の事)以降、僅かにだがカズヤに対して柔和な態度を取り始めていたフィーネはまるで親に構ってもらえなかったせいで拗ねてしまった幼子のように不貞腐れプイッとカズヤから顔を背けた。

 

…………!? わ、私は何をしているのだ!!こんな態度を取ったらまるで私が拗ねているみたいではないかっ!?

 

「………………ゴホンッ、まぁいい。それより燃える水を加工する施設へ視察に行くと聞いた。私も連れて行ってもらえないだろうか」

 

3秒ほど拗ねたようにカズヤから顔を背けていたフィーネだったが、思わず自分が子供のような態度を取ってしまっていることに気が付くと赤面し取り繕うように言った。

 

「あぁ、別にいいぞ。むしろフィーネみたいな美人――ッ!?……が一緒に来てくれるなら大歓迎だ……」

 

「ふ、ふんっ。そ、そんな見え透いた世辞で私は誤魔化されんぞ」

 

機嫌を直してもらおうとカズヤがフィーネに本音で出来たお世辞を言うとフィーネはわたわたと動揺し口では否定的な事を言うもののまんざらではないのか嬉しそうに口元を歪め顔を赤らめていた。

 

しかし美人と言われたことで上機嫌になった初なフィーネは気付いていなかったが、カズヤがフィーネの事を美人と言って褒めた瞬間、あることが起きていた。

 

『あぁ、いいぞ。むしろフィーネみたいな美人――ッ!?』

 

――ビキビキッ!!

 

やっちまったーーー!!マズイ、マズイ、マズイ!!俺のバカーーー!!

 

『……が一緒に来てくれるなら大歓迎だ……』

 

 

カズヤがフィーネの事を美人と言った瞬間、嫉妬心を刺激された千歳の顔がまるで般若のように歪み、瘴気のようなどす黒いオーラが噴き出す。

 

これはまずい……不味すぎるぞ。千歳は俺が身内(パラベラムの女性兵士やメイド)に手を出す?分には寛容だけど身内以外の女性(イリスやカレン、フィーネ)に手を出す事は許さないってのに!!

 

何で千歳のいる前で俺はフィーネを褒めたりしたんだ!!

 

これじゃまたあの狂乱の宴が…………!!(ガクガク)

 

表面的には平静を装っているカズヤが内心で頭を抱えバタバタと、のたうち回っていると般若と化した千歳と目が合った。

 

えっ!?……なになに『視察から帰って来たら皆でご奉仕しますから……ね♪』

 

ってそれ、ご奉仕じゃないよな……ご奉仕という名のお仕置きだよな……アハハ……。

 

目が合った千歳から口パクで伝えられた言葉にカズヤは愕然となり真っ白に燃え尽きた。

 

そんな一幕があったことなどいざ知らず、すっかりご機嫌なフィーネと悲壮感漂うカズヤ、そしてどこか近寄りがたい恐ろしい空気を纏う千歳、そんな混沌とした3人から気まずげに少し距離を取って後をついていく親衛隊の隊員やメイド達はぞろぞろと列をなしてプレジデントホークの待つヘリポートに向かった。

 

「では、ご主人様。くれぐれもお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

2機のプレジデントホークが待つヘリポート到着しヘリにカズヤが乗り込むと、このあとアミラとの会談の予定があるため基地に残る千歳がとてもいい笑顔で言った。

 

「あぁ、行って来る……」

 

そんな千歳の笑顔に気圧されながら言葉を返したカズヤだったが、このまま何の手も打たず油田の視察に行けば、また天国のような地獄?地獄のような天国?の狂乱の宴が開かれてしまう!!と思い現状を打破するべくチラリと後ろを振り返り同乗者であるフィーネやシェイル、キュロットがこちらを見ていない事を確認すると乗り込んだヘリから身を乗り出し不意に千歳の腕を取り強引に引き寄せると唇を奪った。

 

「えっ!? んむっ!?……ちゅ、んっ、んっ…じゅる…んふぅ、ちゅぱっ、ちゅっ、もっとぉ、んんっ…ちゅ、じゅる、んっ……」

 

ヘリが出す騒音で周りに聞こえないことをいい事にカズヤはじゅるじゅると卑猥な音をたてて唾液を絡ませながら舌を蠢かし千歳の口内を蹂躙する。

 

「んちゅ、はぁ、はぁ……ご、ご主人様ぁもっとぉ……」

 

そんな情事を思わせるような濃厚で激しい口付けが終わると腰に力の入らなくなった千歳はくたりとカズヤに寄りかかり切なげな声で続きを求める。

 

「ダメだ、続きは俺が帰って来て“2人っきり”になってからだ。分かったな?」

 

千歳の要求を切って捨てるとカズヤは最後に唇に触れるだけの軽いキスを交わした。

 

「んっ、はぁ、はぁ、分かりましたぁ……ご主人様ぁ」

 

いつもの凛とした表情からは想像も出来ないほど蕩けた顔で千歳は頷き、腰に力を入れて自分の足で立つとカズヤから離れた。そして千歳が十分に離れた事を確認しヘリはヘリポートから離陸した。

 

よし、これで相手にするのが千歳だけになったぞ。狂乱の宴は回避出来たな。ふぅ……。

 

徐々に空に上がっていくヘリの機内でカズヤがこれで狂乱の宴は回避出来たと一息ついていた。

 

「「……」」

 

しかしそんなカズヤを横目にシェイルとキュロットが無言でニッコリと微笑んでいたことをカズヤは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ビュウビュウと強い風が吹き荒び、今にも雨が降ってきそうなどんよりとした曇り空の下を2機のVH-60Nプレジデントホークとその護衛のAH-64Dアパッチロングボウ4機、機内に完全武装の親衛隊の隊員を乗せたMi-24/35Mk.IIIスーパーハインド4機の計10機が編隊を組んでデイルス基地に向け帰路を急いでいた。

 

「……ナガト、何だか顔色が悪い……というよりやつれているが、大丈夫なのか?」

 

援軍を送る見返りに妖魔連合国からパラベラムへと譲渡された油田の視察が終わった帰り道、強風に煽られガタガタと揺れるプレジデントホークの機内でフィーネがカズヤのやつれた顔を見て言った。

 

「……あぁ大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

「しかし……」

 

油田の視察中にフィーネと別行動した際、連れてきていたメイド達――レイラ、ライナ、エル、シェイル、キュロットからの淫らなおねだりを断りきれずに搾り取られたせいでやつれた顔になっているとは口が裂けても言えないカズヤは言葉を濁す。

 

そんなカズヤを見て、何かナガトの身にあったのだろうか?とフィーネは不思議そうに首を捻っていた。

「それよりも天気がヤバイな……」

 

フィーネの心配をよそにカズヤはプレジデントホークの窓から外を覗き見て誤魔化すように言った。

 

「……あぁ、そうだな」

 

カズヤがあからさまに話題を変えようとしたことに気が付いたフィーネは気を効かせてカズヤの話に乗ることにした。

 

「冬が来る直前のこの時期、ここ一帯はよく荒れるからな」

 

「そうなのか……。じゃあここら辺に住む妖魔族は大変だな」

 

「いや、この辺に妖魔族は暮らしていない」

 

「ん? 何でだ?見る限り自然豊かなただの丘陵地帯だが……」

 

「魔物のせいだ」

 

「……あぁ、そういうことか」

 

フィーネの言葉にカズヤがなるほど。と頷く。

 

「この辺の土地はエルフ達の管理下にあるのだが凶悪な魔物が多すぎて管理しているエルフ達さえも滅多に立ち入らない場所と聞く。つまり帰らずの森と一緒だな」

 

ふーん、もったいないな。まぁ手付かずの自然があるってのもいいか。

 

カズヤがフィーネの説明を聞いて何気なく視線を地上に向けた時だった。

 

あれ、なんか動い――ッ!!

 

地上の森の中に動く物を見つけたカズヤは息を飲み凍り付く。

 

「緊急回避!!右旋回!!」

 

「っ!?」

 

「キャア!?」

 

カズヤの突然の叫びにも関わらずプレジデントホークのパイロットは素早く反応して指示通りに操縦桿を右に捻りエンジンペダルを思いっきり踏み込んだ。

 

それによりプレジデントホークが暴れ馬のように跳ね上がり機体が大きく揺さぶられる。

 

その直後、今さっきまでカズヤ達が乗るプレジデントホークのいた場所を大量の魔力弾が通り過ぎた。

 

「敵だっ!!クソッ――」

 

急な右旋回により大きく揺れている機内でカズヤが敵を睨み付けながら叫んだ。

 

「――なんでこんな所に魔導兵器がいるんだ!!」

 

カズヤ達を襲った正体は“羽”のような物を背中に取り付けた無数の魔導兵器だった。

 

改良が施され空を飛べるようになった魔導兵器達は獲物であるカズヤが乗ったプレジデントホークが真上に来た瞬間、潜んでいた森の中から魔力弾を一斉に放ち奇襲が失敗したのを見るや否やすぐさま空に舞い上がり護衛機はおろかレイナやライナ、エルが乗るもう1機の全く同じ機体であるはずのプレジデントホークにも目もくれず“カズヤ達の乗る”プレジデントホークにだけ執拗なまでの攻撃を仕掛ける。

 

「アーミー1よりHQへ!!敵の奇襲を受けた!!」

 

『……』

 

「HQ!?応答しろ!!」

 

『……』

 

「駄目です!!応答なし!!」

 

「チクショウ!!こんな時に!!」

 

アーミー1のパイロットや他の機体のパイロットが盛んにHQに連絡を取ろうとしたが電波障害のせいなのか繋がらなかった。

 

増援の要請を諦め、集中攻撃を受けるプレジデントホークを守ろうと地上から湧き出てくる魔導兵器に対し護衛のAH-64DとMi-24/35Mk.IIIスーパーハインドから機関砲や対空ミサイルが放たれ数機の魔導兵器を撃破するものの、その程度では敵の勢いは止まらない。

 

そうしている間にもカズヤの咄嗟の判断で初撃を辛うじて避け続々と空に上がってくる魔導兵器の集中攻撃もなんとか回避していたプレジデントホークだったが遂に被弾。機体尾部にある小型の回転翼――テイルローターに魔力弾が命中しテイルローターが吹き飛んだ。

 

『っ!!アーミー1が被弾した!!』

 

『嘘だろ!!』

 

『そんな!!あの機体には総統が乗っているのよっ!!』

 

カズヤ達のプレジデントホークが被弾した直後、護衛機のパイロット達の悲鳴にも似た声が飛び交う。

 

「クソッタレ!!」

 

「メーデー、メーデー、メーデー!!こちらアーミー1!!敵の奇襲を受けテイルローターに被弾!!墜落する!!繰り返す!!アーミー1被弾!!墜落する!!」

 

テイルローターをやられ黒煙を噴きながらクルクルとコマのように回転し地上に落下していくプレジデントホークの機内では機体の異常を知らせる耳障りな警報音が鳴り響き2人のパイロットが必死に機体を安定させようと機器を睨み、操縦桿にしがみつきながら叫んでいた。

 

「衝撃に備えろ!!」

 

強烈な横Gが襲い掛かってくる機内でどんどん近付いてくる地面を見ていたカズヤはフィーネ達にそう叫ぶ。

 

よし!!このまま行けば森の中に落ちる!!

 

手摺にしがみつきながらカズヤが機体の落下地点を冷静に見極めている時だった。機体が突然見えない力に押されたように向きを変えあろうことかポッカリと細長い口を開けている地面の割れ目――奈落の底へ通じていそうな黒々とした谷に向かって落下し始めた。

 

何でだ!?

 

突然機体の落下していく向きが変わったことにカズヤが驚いている間にも機体はまるで何かに操られているかのように谷へ向かって墜ちていき遂に機体は谷の中に吸い込まれた。

 

クソッこんな所でっ!!

 

細く深い谷の切り立った断崖絶壁に何度も何度もぶつかり上下左右関係なくグルグルと回転しながら谷底に落ちていく機内でカズヤは最後に迫り来る谷底を目にした所で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「アーミーワン墜落!!墜落した!!」

 

アーミー1を撃墜し次はお前達だとばかりに襲い来る魔導兵器の攻撃を避けながらアーミー0の機長が叫んだ。

 

『そんな、まさかっ!?』

 

『ッ!!……クソがぁーー!!』

 

『そんな……いやぁ、いやぁーー!!』

 

命に代えてでも守るべき人が乗った機体を目の前で落とされパイロット達の憤怒に燃える声や悲鳴が無線を通して響き渡った。

 

「……クソッ!!アーミーゼロより各機、直ちに現空域を離脱するぞ!!」

 

この場に残っている中で最上級の階級を持つアーミーゼロの機長が苦虫を大量に噛み潰したような顔で苦渋の決断を下し生き残ったヘリのパイロット達に指示を出す。

 

『離脱するだと!?総統を見捨てるつもりか!!』

 

『ふざけないで!!閣下を見捨てて逃げ帰れというの!?』

 

アーミーゼロの機長の指示に他のパイロット達から一斉に反論の声が飛ぶ。

 

「黙れっ!!」

 

『『『『っ!?』』』』

 

機長の一喝にパイロット達が息を飲む。

 

「状況を考えろ!!俺達がここに居てもどうにもならん、ただ敵の数に押されて落とされるだけだ!!」

 

機長の言うようにアーミーワンを撃墜した直後から攻撃対象を護衛機に変更した魔導兵器達によって既にAH-64Dが1機、Mi-24/35Mk.IIIが2機落とされていた。

 

さらに機長の判断が正しいことを指し示すように、こうしてパイロット達が会話している間も各機は反撃もままならずハエのようにたかってくる魔導兵器から必死に逃げ惑い回避運動を行っているだけだった。

 

『ならせめて離脱する前に俺達を降下させてくれ!!』

 

突然、Mi-24/35Mk.IIIに乗っている親衛隊の隊員が無線に割り込んだ。

 

「駄目だ!!」

 

『何故だ!!』

 

「だから状況を考えろと言っている!!お前達がパラシュート降下をするには高度が低すぎる!!」

 

『なら直接!!』

 

「バカかお前!!お前達を降ろすために機体を低空でホバリングさせてみろ確実に機体は落とされるぞ!!俺達に今出来る事は一刻も早く増援を呼びにデイルス基地に戻る事なんだ!!分かったか!!」

 

『……クソッ!!了解した!!』

 

『……了解……』

 

機長の問い掛けにパイロット達は様々な思いを抱きつつも従った。

 

「よし、これより全機離脱する!!」

 

機長がそう言って魔導兵器の追撃を振り切りデイルス基地に向かおうとした時だった。

 

――ガラッ!!

 

突然、後ろから機体の扉を開く音が聞こえた。

 

それに驚いた機長が後ろを振り返ると同時に乗っていたレイナとライナ、エルがなんとプレジデントホークから飛び降りてしまった。

 

「まっ――クソ!!」

 

『嘘だろ!?アーミー0から誰か飛び降りたぞ!!』

 

『なんですって!?』

 

「こちらアーミー0!!乗っていた総統のメイド達が飛び降りた!!」

 

『『『はぁ!?』』』

 

『ど、どうするんだ!?』

 

「どうするもこうするもない!!もう回収は不可能だ!!」

 

機長が呼び止める間もなく空に飛び出して行った3人は自力で飛ぶことが出来ないエルをレイナとライナが支えながら地上に向かって飛んでいってしまった。

 

「クソッ!!」

 

危険を省みず飛び出して行った3人とは対象的に自分達は、ただ逃げ出す事しか出来ないという事実に言い様のない無力感と苛立ちを感じながらも機長は救援を呼ぶために必死にデイルス基地に向け飛行を続けた。


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