ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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千歳による蹂躙劇の始まり始まり(笑)

ちなみに初めて文字数が1万文字を越えました。


追伸、こちらにも投稿したつもりだったのですが手違いがあったようで投稿していませんでした。

m(__)m

また仕事のシーズンに入った事もありこれからますます忙しくなっていくかと思います。

その為、今回のような事が多発するかもしれません(汗)

ご了承のほどをお願い致します。



17

魔物達が恐れおののき逃げた原因――空から降って来た彼女達――それは修羅と化した千歳とアミラだった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

この場にいる全員が2人の放つ威圧感に気圧されたように息を呑み時間が止まってしまったのではないかと思う程の重苦しい沈黙が辺りを包む。

 

どす黒い瘴気のようなオーラを纏い各種武装を装備し両手に抜き身の日本刀を握っている千歳。

 

戦装束に身を包み総重量数百キロの傍目には鉄塊にしか見えない巨大な大剣を片手で担ぎ、視認出来る程に濃密で禍々しい魔力を体から発するアミラ。

 

そんな2人が着地体勢を解きゆっくり立ち上がるのと同時にカズヤのメイドであるルミナスやウィルヘルム、中隊規模の親衛隊の隊員達が千歳とアミラの後を追うようにパラシュートで降下して来た。

 

更によくよく見てみれば谷の開口部にも親衛隊の隊員達が展開しアデル達に向け銃を構えている。

 

「なっ!?」

 

囲まれただと!?他の部隊は何をやっている!!

 

自分達以外の味方が既に壊滅しているとは知らないアデルは周りを包囲された事に驚く。

 

っ!?……いやそんな事よりも……なんだ……なんなんだコイツはっ!?魔王と同格……いや……それ以上!!不味い、不味いぞ!!この女を相手にするのは――絶対不味い!!

 

思わず包囲された事に気を取られたアデルだっだがそんな事を気にしている事が出来たのは一瞬だけで、すぐに千歳の力量を見て取り千歳が敵に回してはいけない類いの人間だということに気が付く。

 

クッ!?なんていう殺気だ!!

 

千歳とアミラ――特に千歳から発せられるただならぬ殺気を全身に浴び今すぐにでもここから逃げ出したくなるアデル。

 

だがそんな事が出来るはずもなく、これまで勇者として戦ってきたプライドを支えになんとか千歳やアミラと対峙していた。

 

「フィーネ無事かいっ!?」

 

「ご主人様……少し……少しだけお待ちをすぐに片付けますので」

 

青ざめ引きつった表情で聖剣を構えているアデルやその後ろで石化の魔法にでも掛かったように固まっている敵を鬼のような形相で睨み付けていた千歳とアミラが同時に振り返り言った。

 

「母様!!私は無事です!!ですがカズヤが――」

 

「うぐっ……分かった。あぁ、アデル――目の前にいる渡り人は生け捕りにしといてくれ、……っっ!!頼んだぞ……千歳」

 

谷底に降り立つなり駆け寄ってきたルミナスとウィルヘルムによる回復魔法と衛生兵の応急処置を受けながらカズヤが答えた。

 

「ハッ、承知……っ致しました。――全隊に告ぐ、命令あるまで発砲禁止。繰り返す命令あるまで発砲禁止」

 

血と泥まみれの姿で顔を苦痛に歪めているカズヤを見て身を切り裂かれるような思いを抱き、怒りの炎を更に燃え上がらせた千歳は部下達に指示を出したあと前に向き直るとドスの効いた声でアミラに言い放った。

 

「コイツら全員私の獲物だ。手を……出すなよ?」

 

「……まったくしょうがないねぇ、分かった手は出さないよ。と言いたい所だけど……そうもいかない。うちのゴミ共の事もあるんでね、それに……あたしもはらわた煮え繰り返っているんだひと暴れさせてもらうよ」

 

先程の会話の際にフィーネから簡単な事情の説明を受け状況を理解していたアミラは、娘を弄び利用した裏切り者のネルソンやその配下であるエルフ達を視界に捉えると千歳と同じ様に怒りを体にみなぎらせ大剣を構えた。

 

「……好きにしろ。だがゴミを片付けるのに時間は掛けるなよ?」

 

「分かってるよ」

 

「ならいい……行くぞ!!」

 

「応っ!!」

 

アミラとの会話を終えた千歳は鋭い輝きを放つ日本刀の切っ先を敵に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

一方、千歳達がまだ喋っていた頃。2人の視線が逸れたお陰でようやく身動きが出来るようになったネルソン達が恐怖で震えていた。

 

「ま、ま、魔王がなぜここに……」

 

「な、何なんだあの魔王の隣にいる女……ただ者じゃないぞ」

 

「あんな、あんな化物みたいな奴らに……勝てる訳がない」

 

「逃げないと……逃げないと殺されるっ!!」

 

自分達とは次元が違う2人を前に死を覚悟したネルソンやその配下のエルフ、そして帝国の兵士達が無意識の内に後ろに下がり始めた時だった。

 

「狼狽えるな、来るぞっ!!」

 

アデルの注意を促す声が谷底に響き、そして……地獄の釜の蓋が開く。

 

「き、来た!!」

 

「ヒィ!!あ、あいつらを止めろ!!止めるんだ!!」

 

「う、撃ち方用意!!てぇー!!」

 

ドンッ!!という地面を踏み砕いた音をたて凄まじい速さで迫り来る千歳とアミラに向け一斉に魔法や弾丸、矢が放たれる。

 

しかしザアザアと降り注ぐ攻撃を全て見切りなんなく避けて行く千歳とアミラ。

 

「あ、当たらない!?」

 

「もっとよく狙え!!」

 

「魔導兵器と自動人形を前に出すんだ!!力と数で押せ!!」

 

迫ってくる2人をどうにか止めようと魔導兵器と自動人形が投入される。だが。

 

「うおおぉぉぉらああああぁぁぁぁーーー!!」

 

「邪魔だ。鬱陶しい」

 

ランスの形を模しているため取り回しの悪い魔砲を仕舞い、代わりに近接戦闘用の短刀を構えアミラに近付いた魔導兵器3体はアミラの大剣でもって一撃の元に叩き潰され、千歳に群がり多方向から同時に攻撃を仕掛けた自動人形はその全てが首を斬り落とされ機能を停止する。

 

「……はぁ、はぁ、自動人形は足止めに専念!!魔導兵器は敵が足を止めた所を狙え!!」

 

先程まで部外達と同じように魔法を放っていたアデルが大声で指示を飛ばす。

 

「ワラワラ、ワラワラとクソ虫のように……邪魔だ!!」

 

「ホントだねっ!!」

 

襲いくる自動人形を叩き潰し斬り捨てている最中、アデルの指示で攻撃から足止めへと目的を変更し立ち塞がるように布陣し始めた自動人形を見て千歳が苛ついた顔で呟きアミラがそれに同意した時だった。

 

「ならば我々が!!」

 

「道を切り開きます!!」

 

千歳とアミラの背後から現れた2つの黒い影が自動人形の群れに飛び込み楔を穿つ。

 

「……准尉と少佐か、余計な真似を……まぁいい」

 

「お、なかなかやるじゃないか」

 

自動人形をバッサバッサと斬り捨てて千歳とアミラに道を作っているのは軍刀を持った舩坂准尉と背中にロングボウと矢の入った矢筒、バグパイプを背負い手にはクレイモアを握ったジャック・チャーチル少佐だった。

 

 

「ウオオオォォォーー!!」

 

「ハアアアァァァーー!!」

 

「「――そこを……どけぇぇぇ!!」」

 

カズヤを傷付けた怨敵を目の前にしてただ見ていることが出来なかった舩坂准尉とジャック少佐が斬り開いた道を千歳とアミラが矢の如く駆ける。

 

「よくやった」

 

「助かったよ」

 

自動人形の群れの中を駆け抜ける際、千歳とアミラはすれ違い様に2人に労いの声を掛けた。

 

「「なんのこれしき!!」」

 

まだ残っている自動人形を手当たり次第に斬り捨てつつ、ついでに近くにいた2体の魔導兵器にまで襲い掛かりながら2人は笑顔で答えた。

 

「チィ!!次から次へと!!流石のあたしでも5体同時はちとキツイよ!!どうする!?」

 

自動人形の群れを抜けたと思いきや壁のように立ち塞がった魔導兵器を見てアミラが千歳に声を掛ける。

 

「足を止めるな、進み続けろ」

 

「?何か考えが有るみたいだね。分かったよ」

 

憎悪の炎が灯った瞳で前しかアデルしか見ていない千歳に何か策があるのだろうと思ったアミラは千歳の言葉通りに進み続ける。

 

「――少尉、殺れ」

 

『了解』

 

そして、あと僅かで魔導兵器が構える短刀の間合いに入ろうかという時、千歳が無線に向かって喋る。すると遠くから連続した爆音が聞こえ直後、5体の魔導兵器にドデカイ穴が空いた。

 

「っ、なんだい!?」

 

突然の出来事に驚いたアミラが首を捻りチラリと音の聞こえた方に視線を向けるとそこには銃口から白煙を立ち上らせたシモノフPTRS1941を構えているヘイへ少尉がいた。

 

「目標沈黙。……撃ち下ろしで風も強いのにこの精度、しかも連続で……痺れますね」

 

「うるさい、黙って次の指示に備えろ」

 

「了解、仰せのままに」

 

尊敬の眼差しを向けてくるクレメンス准尉の軽口を黙らせつつ谷の開口部から見事、狙撃を成功させたヘイへ少尉は弾のなくなったシモノフPTRS1941を脇に退け新たに弾の入っているシモノフPTRS1941を手元に寄せてまたスコープを覗き次の指示に備え始めた。

 

「残すは……雑魚とアイツだけだ」

 

「そうみたいだね。それじゃあ、あたしもゴミを片付けてくるとしようか」

 

立ち塞がる自動人形と魔導兵器を全て突破した千歳は走るのを止め、ゆっくりと焦らすように歩きつつアデルに向かって行き、アミラは千歳と別れてネルソンに向かって行った。

 

「……こうなったら出し惜しみは無しだ」

 

ゆっくりと一歩一歩踏み締めるように歩を進め、近付いて来る千歳を見て覚悟を決めたアデルが小さい声で呟く。

 

「皆、頼みがある」

 

アデルは千歳に聞こえぬように声をひそめて部下達に声を掛けた。

 

「なんでしょうか」

 

「奴を倒すために俺の切り札を使う。だが切り札を使うには魔力を練り上げ溜めないと使うことが出来ない、だから……その間、時間を稼いでくれないか」

 

「っ……了解しました。皆、アデル様を守るんだ!!奴をアデル様に近付けさせるな!!」

 

「「「「「応!!」」」」」

 

心の底から心酔しているアデルの頼みに勝利への希望を抱いた兵士達は自身が抱える恐怖心をなんとか押さえ込み、勝利を得るために一致団結した。

 

そして切り札を使う為に必要な魔力を練り上げ溜めている間、無防備になっているアデルを守ろうと魔法使い達がアデルを取り囲み魔法障壁を展開、銃兵達は腰に着けていたロングソードを抜き放ち千歳に向かって行く。

 

「「「「「ウオオオォォォーー!!」」」」」

 

「……」

 

俺達が相手だ!!とばかりに気勢の入った雄叫びをあげ向かって来る敵兵を冷たい眼差しで眺めながら千歳はアデルに向かって進み続ける。

 

「アデル様の所には行かせん!!」

 

「我が一撃を受けてみよ!!」

 

「ここで死ねっ!!」

 

口々に叫びながらロングソードを振りかざし兵士達が千歳に斬りかかる。

 

殺った!!

 

手に握る日本刀を構えたりせず自然体のまま歩み続ける千歳の体に刃が食い込む寸前、兵士達は勝利を確信した。

 

「……どけ――」

 

しかし、千歳のたった一言で兵士達は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまう。

 

か、体が!?

 

動かない!?

 

何故だ!?

 

自らの意思に反してピクリとも動かない己の体に兵士達が愕然とする。

 

「――死人ども」

 

動けなくなった兵士達と擦れ違う瞬間に千歳が言った言葉に、は?と思う間もなく兵士達の体がズルリと横にずれ動く。

 

………………あぁ…………そうか……そうだったのか……俺達はもう……死んでいたのか……。

 

兵士達がようやく自身の身に何が起きたのかを理解した瞬間、彼らの体は血飛沫をあげながら真っ二つになり地面に落ちた。

 

「フン、雑魚共が」

 

兵士達の知覚出来ない速さで日本刀を振り抜き、一瞬で屍の山を築き上げた千歳は何事も無かったように進み続け、先程と同様に襲い掛かってくる兵士達を次々と始末していく。

 

「セイッ!!」

 

「……邪魔だ」

 

「ゴハッ!?」

 

ビュン!!と勢いよく振り下ろされたロングソードをかわし兵士の顎から脳天までを切れ味の悪くなってしまった日本刀で串刺しにする千歳。

 

串刺しになった兵士は白目を剥きビクビクと体を痙攣させ膝から崩れ落ちるように倒れた。

 

始末した兵士に刺さったままの日本刀は捨て置き、まだ切れ味の残るもう一本の日本刀は腰に着けていた鞘に仕舞い千歳は素手の状態で懲りずに向かって来る兵士達を迎え撃つ。

 

「「っ!?ウ、ウオオォォォーー!!」」

 

理由は分からないが武器を仕舞い素手の状態になった千歳を見て、好機と思ったのか2人の兵士が千歳に向かって行く。

「今だ!!グランジとバクラが戦っている間に弾を装填しろ!!そしてゼロ距離で奴にお見舞してやれ!!」

 

「「了解!!」」

 

千歳に向かって行った2人の兵士の後ろでは銃兵達が発砲準備に入っていた。

 

「オラァ!!」

 

「ヤアァ!!」

 

「邪魔だ」

 

裂帛の気合いと共に斬りかかってきた2人の攻撃をアッサリとかわして見せた千歳はロングソードを振り抜き体勢を崩した2人に一瞬で肉薄すると2人の首に手を伸ばしガッチリと握った。

 

「グゲッ!?ァ、アガッ……!!」

 

「グエッ!!ガッ……!?」

 

首を万力のような力で締め上げられ苦しさのあまりロングソードを取り落とした2人は首に食い込む千歳の手をどうにかしようと暴れるが千歳の手が緩むことはなかった。

 

「……」

 

呼吸が出来ずにもがき苦しむ敵兵を千歳は虫けらを見るような目で眺めながら、掲げるように持ち上げ更に手に力を込めた。

 

――ミシミシミシッ……バキッ!!

 

「ヒュッ」

 

「キュッ」

 

そして遂に2人の兵士は千歳に首を握り潰され鳥が絞め殺されるような声を出し息絶えた。

 

先程までバタバタともがいていた手足は脱力したように垂れ下がり股からは黄色い液体が流れ落ち始める。

 

「ヒ、ヒィ!!グランジとバクラが殺られたぁぁ!!」

 

「ば、化物だ……っ!!」

 

片手で1人ずつ大の大人を持ち上げそして首を握り潰した千歳を見て兵士達は恐怖で竦み上がる。

 

「――発砲準備完了っ!!」

 

千歳が吊し上げていた2人を投げ捨てた時、ちょうど発砲準備が終わった。

 

「よしっ!!グランジとバクラの死を無駄にするな!!う――ガッ!?」

 

発砲準備が整ったことを確認して一斉射の指示を出そうとした瞬間、指揮官の頭がザクロのように弾け脳漿が辺りに飛び散った。

 

「た、隊長!?」

 

「さっきから……邪魔だと……何度も言っている」

 

見れば、いつの間にか千歳がホルスターから10.5インチモデルのS&W M500(超大型の回転式拳銃)を2丁抜き構えていた。

 

10.5インチモデルのS&W M500はハンターモデルと呼ばれ500S&Wマグナムという50口径のマグナム弾を使用する。この弾丸の威力は44マグナム弾の約3倍の威力を誇り、常人が連続で10発程度撃つと発砲の反動で手が痺れ文字を書くことすらままならなくなることがある。

 

「あ、あ、あああぁぁ……」

 

「い、いやだ……」

 

そんな凶悪な銃の銃口を向けられているとは知らないものの、銃口がこちらを向いているという事実だけで恐慌状態に陥った兵士達に千歳はドカドカと拳銃とは思えない銃声を響かせ情け容赦なく50口径のマグナム弾を撃ち込んでいく。

 

「う、腕がぁぁぁ!?」

 

 

 

「し、死にたくない……だれか……助け……」

 

「ゴフッ……か、母さん……」

 

千歳の前を塞いでいたほとんどの兵士が50口径のマグナム弾により吹き飛ばされ、はらわたを露にし地面をのたうち回る。

 

「も、もう駄目だ……」

 

「あぁ……神様っ」

 

魔法障壁を展開しながらアデルを取り囲んでいる魔法使い達が目の前で死んでいく仲間達を見て、千歳にはどう足掻いても勝てないことを悟り悲嘆に暮れていた時だった。

 

「皆、待たせたな。離れていろ」

 

そう言って濁流のように荒々しく渦巻く風を纏ったアデルが前に進み出てきた。

 

「ア、アデル様!!」

 

「これで……これで我々の勝利は決まった!!」

 

時間稼ぎに成功し歓喜の声を上げた兵士達は千歳と対峙するアデルから離れ距離を取った。

 

「……」

 

「よくも好き勝手にやってくれたな。だが、貴様の命運もここまでだ!!身体強化の魔法を重ね掛けしあらゆる攻撃を弾く風の鎧を纏ったこの俺は無敵――なっ!?グハッ!?」

 

「「「「ア、アデル様!?」」」」

 

風の鎧を纏ったことで余裕を持って喋っていたアデルだったが、一瞬で間合いを詰められ気付いた時には何の抵抗も出来ず千歳が居合いのように抜き放った日本刀で斬り飛ばされていた。

 

風の……鎧を…斬り……裂いた、だと!?そんな……バカな!?……それに……速……すぎる……動きが……見え……なかった……!!

 

吹き飛ばされドゴンッ!!と岩にめり込んだアデルは痛みのお陰で保つことの出来た意識の中で驚いていた。

 

「無敵……?貴様程度が?笑わせるな」

 

たった一撃、たった一撃でアデルがあらゆる攻撃を弾くと言った風の鎧は千歳によって斬り裂かれてしまい、またアデルがダメージを受けた際に意識を乱し魔力の供給を行えなかったため風の鎧は消失していた。

 

「くっ……こ、このぉぉーー!!」

 

風の鎧を失い防御面では丸裸に近い状態に陥ったアデルが流れをこちらに向けようと我武者羅に千歳に向かっていく。

 

「ラアアアァァァーー!!」

 

――ガンッ!!

 

「……」

 

持てる限りの力を込め振り下ろされた聖剣を千歳は日本刀で軽く受け止める。

 

「……この程度か?」

 

「このっ!!馬鹿力め!!――だがこれで!!」

 

鍔迫り合いに持ち込んだアデルがニヤリと笑う。

 

「いいことを教えてやろう!!俺の持つこの聖剣には斬り結んでいる相手の魔力を奪うという能力があるんだ!!」

 

「それがどうした?」

 

「フンッ、そうやって余裕をかましていられるのも今のうちだ!!」

 

千歳が身体強化の魔法を使って恐るべき身体能力を発揮しているのだと考えたアデルは聖剣の能力で千歳の魔力を奪えばアミラを倒した時のように勝てると思い聖剣の能力を発動させた。しかし

 

「……なに…………まさか……貴様………………魔法を使っていない……のか?」

 

聖剣の能力を発動しても一向に千歳から魔力を奪えなかったアデルが、ようやくある事実に気が付く。

 

「そんなまさか……貴様、素の状態で……いや、そんなはずはない!!そんな――」

 

衝撃的な事実にアデルが動揺し狼狽えた瞬間、千歳は先程と同じようにアデルを斬り飛ばした。

 

「グハッ!!……そんな……そんなことが!!」

 

今度は白銀の鎧を斬り裂かれたアデル。もう後に残っているのは鎧の下に着ていた薄い肌着のような服だけだった。

 

「もう終わりか?」

 

アデルの鎧を破壊した際に刃こぼれしまった日本刀を投げ捨て千歳がアデルに近付いていく。

 

「立て」

 

「……うぐっ!!」

 

「ほら、立て」

 

「うがっ!?」

 

絶対的な力の差を思い知り戦意を喪失し座り込んでいたアデルを無理やり立たせた千歳は満身の力を込めてアデルを殴り付ける。

 

「ッ!!ァグッ!!ァ、ッ!!」

 

千歳の拳が体に食い込むたびにアデルは声にならないうめき声を出す。

 

「どうした……貴様は無敵なんだろ?あぁ!?」

 

「アガッ!?」

 

頭突きを浴びせたあとアデルの襟元を掴み捩り上げた千歳はアデルを背負い投げのように放り投げた。

 

「グッ!!っ、……ゲホッ!!……ク、クソッ!!」

 

肌着を破られシルクのような白い肌と丸びを帯びた豊かな胸を外気にさらしているアデルが痛みに呻きつつ声を漏らす。

 

「……貴様、女だったのか?」

 

上半身裸になってしまったアデルの目の前に立つ千歳は事実を知って少しだけ驚きに目を細め言った。

 

「ッ!!……貴様には……関係無いっ!!」

 

「そうか、そうか、女か……都合がいい。基地に帰ってから行う拷問の幅が増えた」

 

アデルが女だという事実を知った千歳は悪魔のような笑みを浮かべ一人言のようにそう呟いた。

 

「ひっ……っっ……お、俺は…まだ負け………ガハッ!!」

 

千歳の笑みにうすら寒いものを感じ取ったアデルが、なんとか気合いを入れ直しガタガタと震える足に喝を入れ立ち上がろうとした瞬間、アデルは千歳に頬をぶん殴られ完全に意識を失った。

 

「渡り人と言ってもこの程度か……たわいもない」

 

アデルの生け捕りという任務を達成した千歳は自身の人外的な強さを棚に上げアデルの強さを酷評していた。

 

「あちらも……もう終わりだな」

 

アデルから視線を外した千歳がアミラに視線を向けるとちょうどアミラの方も終わりに差し掛かった所だった。

 

 

 

「死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない」

 

護衛のエルフ達の屍に囲まれてネルソンはただ震えていた。

 

「さて、あと1匹」

 

最後までしぶとく生き残っていたエルフをグチャ!!と潰したアミラがネルソンに近づく。

 

「お、お願い、た、た、助けて、い、命だけは……ぼ、ぼ、僕は、こんなに――」

 

「よいしょっと」

 

ネルソンの命乞いを無視してアミラは大剣を振り下ろした。

 

ブチュッ!!とトマトが潰れるような音が辺りに響く。

 

それを最後に裏切り者のエルフ達は全てアミラの手によって捻り潰された。

 

 

 

「こっちも終わったよ」

 

「そうか」

 

足首を持ちアデルを引き摺って運んでいる千歳の元に返り血を浴びたアミラがやって来た。

 

「アデル様が……やられた」

 

「そんな……」

 

「に、逃げろぉーー!!」

 

「ありゃ?逃げちまうよ、いいのかい?」

 

頼みの綱であるアデルや魔導兵器、自動人形が全て倒されたことで戦意を失った帝国軍の僅かな生き残り達が脇目もふらず逃げていくのを見てアミラが千歳に問い掛ける。

 

「逃がしはしない。――ルーデル喰らい尽くせ」

 

アミラの問い掛けに簡潔に答えた後、千歳が無線機に向かって喋り掛けた。

 

『ヤー(了解)』

 

直後、甲高いエンジン音が聞こえたかと思うと空を覆っている灰色の雲を切り裂き11ヵ所のハードポイントにSUU-23(M61A1バルカンをガス圧駆動に改造したGAU-4を搭載しているガンポッド)を搭載したルーデル少佐専用機のA-10、そのタイプ2が現れた。

 

「総統閣下に仇成す敵は汚物!!汚物は……消毒だああぁぁ!!」

 

自身の最も得意な攻撃方法――急降下を行いつつ照準を定めたルーデル少佐はトリガーを引く。

 

11門の20mmガトリング砲と1門の30mmガトリング砲が同時に火を吹き、まるで南国のスコールのような激しさで敵を撃ち据える。

 

「オオッ!!容赦ないねぇ〜」

 

後方で巻き起こった爆風に驚き振り返ったアミラはニヤニヤと笑っていた。

 

何故ならルーデル少佐の攻撃――幅20メートル程しかない谷の細長い開口部を針穴に糸を通すような正確さで通り抜けた無数の砲弾が逃げていく兵士達を20mmと30mmの砲弾によって爆砕したからだ。

 

数秒間の短い攻撃だったにも関わらず逃げようとした兵士達は皆、例外なくミンチとなり谷底を赤く染め上げるのに貢献していた。

 

「撤収するぞ!!」

 

アデルを生け捕りにし敵を殲滅した千歳の掛け声に部隊が撤収の準備に入る。

 

「貴様らは遺体の回収と墜落した機体の完全破壊をやっておけ」

 

「「「ハッ、了解しました」」」

 

一部の兵士を墜落したプレジデントホークに向かわせ遺体の回収を命じた千歳は上空でホバリングしているMV-22オスプレイから下ろされたカーゴにカズヤと共に乗り、ウィンチで引き上げられ機内に乗り込むとデイルス基地に向け帰路を急いだ。

 

 

 

なんとか助かったな……そう言えば千歳って今どれくらいのレベルなんだろう。

 

オスプレイの機内で衛生兵と軍医による傷の応急処置、そして魔法が得意なルミナスとウィルヘルムに回復魔法をかけてもらっている時、圧倒的な強さでアデルを倒した千歳の姿をふと思いだし気になったカズヤは能力を発動させた。

 

 

[神の試練・第二]

魔物達の棲まう谷底から生還せよ!!

 

完了しました。

 

 

これじゃない……。

 

[ヘルプ]

・お知らせ。

アデル・ザクセンを捕縛したことで得られる特典・能力はありません。

 

そうなのか……いや、これが知りたかった訳じゃない……これだ。

 

何度か操作を間違えたカズヤはようやく目的の場所を開く事が出来た。

 

 

名前

片山 千歳

 

レベル

 

称号

断罪者・狂信者

 

性格

狂信・狂愛・献身・狂依存

 

 

………………………………………………………………レベル∞ってなに?……えっ?……最強なの?えっ?称号ってなに?断罪者・狂信者ってなに?……えっ?……。

 

カズヤの右手を両手で包み込みようにギュッと握り心配そうな顔でカズヤを見つめている千歳。

 

そんな千歳と視線を合わせているカズヤの頭の中では?マークがグルグルと回っていた。

 

カズヤの疑問はさておき、こうして救出作戦は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「閣下は第1手術室に!!他の者は処置室に廻せ!!」

 

「急げ!!」

 

デイルス基地に帰還するとすぐにカズヤ、ミーシャ、フィーネ、ライナ、レイナ、エルが病院に運び込まれた。

 

重症のカズヤはすぐさま手術室に運ばれ比較的軽症のミーシャ、フィーネ、ライナ、レイナ、エルは処置室に送られた。

 

「……ご主人様」

 

カズヤの手術が行われている手術室の前でうろうろと落ち着かない様子で歩き回っている千歳がカズヤの事を心配し想っている時だった。

 

「た、大変です!!千歳副総統!!」

 

基地に緊急事態を知らせる警報が鳴り響き、同時に慌てた様子で走ってきた兵士が千歳に信じがたい事実を告げた。

 

「こんな時に敵の二方面同時侵攻だと!?」

 

デイルス基地の司令部へ急ぎながら千歳は知らせを持ってきた兵士を問いただす。

 

「は、はい!!ポイント2―3と4―5にて敵の侵攻を確認しました!!」

 

「敵の戦力と現在の状況は?」

 

「ハッ、ポイント2―3より超大型魔導兵器1体を含む大部隊が突如出現し国境の要塞群を破壊、突破。首都に向け進撃中。30分後ジャール平原にて第1、第2機甲大隊が会敵予定。ポイント4―5からは陸戦型、飛行型魔導兵器を中核とした中規模の部隊がアルバム公国の領内を通り、妖魔連合国とアルバム公国の国境を流れるイル川の手前に集結中。現在、イル川の側にある街――バインダーグに偶然居合わせた戦闘工兵中隊とパトロール小隊、ドイツ軍装備の義勇――外人部隊が迎撃態勢を整えております」

 

「なんだと……」

 

事の事態は千歳の予想を上回る早さで動き始めていた。

 


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