ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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少し時を遡り、カズヤの乗ったプレジデントホークが墜落したという知らせが届き非常事態宣言が発令されたパラベラム本土では伊吹の指揮の元、幾つもの部隊がカズヤの救出作戦に参加するべく出撃準備を進めていた。

 

それに伴い本土全体が騒がしくなっている中で一本の電話が第666部隊――通称ダストバスターズの所に入る。

 

『――構わん。ICBM、SLBMの発射準備を直ちに行え弾頭は核、目標はエルザス魔法帝国全土、発射コード09952158。発射命令を待て』

 

「承知致しました」

 

激情を隠しきれていない千歳の恐ろしい声と核兵器の使用許可が降りたことで、“ある”感情を抱き震える手で受話器を握り締めながら第666部隊の指揮官、ヒルドルブ大佐は千歳に返事を返した。

 

「大佐殿、今の電話は?」

 

「千歳副総統閣下からだ。それより皆、喜びたまえ核の使用許可が出た。しかも目標はエルザス魔法帝国全土だ」

 

部下の問い掛けにヒルドルブ大佐は“喜びに”震えながらさも愉しそうに言った。

 

「ぜ、全土でありますか?」

 

「あぁ、全土だとも。我々の敬愛する総統閣下が殺されたかも知れないのだ。当然じゃないか。まぁ最も、千歳副総統閣下――いや今は総統代理か。……まぁ、何にせよ発射命令待ちだがね。ん?ほらほら各部隊に連絡しないか、それと大陸間弾道ミサイルに核の搭載、戦略爆撃機にもだ。これから忙しいくなるのだからさっさと動け」

 

「「「「「は、はい!!」」」」」

 

ヒルドルブ大佐は凍ったように動かない部下達に気が付き発破をかけた。

 

すると部下達は慌てて事前に準備されていたマニュアルに従って行動を始める。

 

そんな部下達の姿を眺めながらヒルドルブ大佐はポツリと小さな声で呟いた。

 

「……アルマゲドンがこの目で見られることになるとは……私は運がいい」

 

クックックッと笑いながら愉しそうに愉悦の表情を浮かべたヒルドルブ大佐がそう囁いた。

 

しかし翌日になるとカズヤの救出が伝えられアルマゲドンは回避されてしまう。

 

そのことにヒルドルブ大佐は、僅かに肩を落とし落ち込んでいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

時を現在に戻し、核の使用を決定したカズヤから第666部隊に命令が下る。

 

『待たせた。発射コード00000000。目標は超大型魔導兵器――』

 

カズヤから発射コードと目標を伝えられた第666部隊は核の発射体制を整える。

 

「――命令を受諾しました。ミサイルの発射準備完了。発射命令をどうぞ」

 

『……発射』

 

「発射します!!」

 

カズヤの命令が下されると2人の操作要員が機器に差し込んだカギを同時に捻り、最後にヒルドルブ大佐が歪んだ笑みを浮かべながら満身の力を込めた拳を降り下ろし発射ボタンに被さっている安全カバーを叩き割って発射ボタンを押し込んだ。

 

そうしてパラベラム本土にある地下のミサイルサイロから発射された大陸間弾道ミサイル――LGM-30ミニットマンIIIは白い煙を曳きながら空に昇っていく。

 

「第1、第2ブースター、切り離し成功」

 

一段目、二段目のロケットブースターも無事に切り離し大気圏に入ったLGM-30ミニットマンIIIは三段目のW87核弾頭が入ったMk21再突入体のみが慣性制御で飛び続ける。

 

「目標上空に到達――」

 

そして、本来であれば地上に向け落下していくMk21再突入体は落下せず。

 

「起爆します!!」

 

操作要員の手によってジャール平原の遥か上空、高度100キロの高層大気圏内で起爆させられた。

 

直後、300キロトンの威力を持つW87核弾頭が炸裂し網膜を焼くような強烈な閃光が放たれ第2の太陽が出現。

 

その数十秒後、高層大気圏内で起きた核爆発により強力な電磁パルス(EMP)が発生、大気が希薄な事もあり電磁パルスの原因であるガンマ線が遠くまで届き、電磁パルスの影響範囲は最大で約1000キロにまで達した。

 

 

「来るぞ!!」

 

第1機甲大隊の指揮官ヴィットマン大尉との通信が途絶えまた生死不明の為、指揮を受け継いだクルト・クニスペル少佐が事前にHQからの警告はあったもののそう叫び各車に注意を促す。

 

その直後、真上で起爆した核爆発によって発生した電磁パルスが念のため退避した航空隊やその場に留まっている戦車隊に降り注ぐ。

 

だがカズヤの方針でしっかりと対EMP対策が施された航空機や戦車達には全く被害がなかった。

 

「……やったな」

 

しかし対EMP対策が施されて居なかった魔導兵器達はまともに電磁パルスを浴びて完全に機能を停止していた。

 

何故なら初歩的とはいえ電子機器を機体制御の為に使用していた魔導兵器は電磁パルスによって重要な回路を全て焼き切られ行動不能に陥ったからだ。

 

結果、超大型魔導兵器1を含む数千の魔導兵器はその全てがほぼ無傷で無力化され荒涼としたジャール平原に置かれたオブジェと化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「核の起爆を感知、EMP来ます!!」

 

ジャール平原で魔導兵器が行動不能に陥ったのとほぼ時を同じくしてデイルス基地にも電磁パルスは降り注いだ。

 

「映像回復します」

 

だが航空機や戦車同様に対EMP対策の施された基地では一瞬、電気が消えた程度の被害しか無かった。

 

「……この手段は切り札にしようと思っていたんだがな」

 

行動不能になりジャール平原に立ち尽くす魔導兵器が映る巨大モニターに視線を送りつつやれやれといわんばかりにカズヤが呟く。

 

「それに被害の事を考えると頭が痛い」

 

核の高高度核爆発により地上での被害は無かったが、パラベラムの保有する半数以上の人工衛星がダメになった事で人工衛星を介しての長距離無線やインターネット通信が使用不可能になった事を知らせる報告がカズヤの元に届いた。

 

「……ご主人様、後は我々で処理しておきますのでお休み下さい。いくら傷が治ったといえ疲労は残っているはずですから」

 

「そうか?それじゃあ千歳……悪いが後は頼む」

 

「ハッ、承知致しました」

 

疲労が色濃く残るカズヤは千歳の進言を素直に受け入れると席を立ち、伊吹達を連れ添って部屋から出ていった。

 

それを見送った千歳は前に向き直ると部下達にテキパキと指示を出し始めた。

 

「早期警戒管制機を全機空に上げろ、通信網の回復を最優先!!それとバインダーグの――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

第1から第4まで存在する外人部隊(外人部隊といっても兵科変更を志願したパラベラム軍の後方支援要員やカナリア王国からの移民達、カズヤが買い漁った奴隷、そして教官役の正規兵が入り交じった部隊)のうち、ドイツ軍装備の第1外人部隊は教育過程の終了後、魔物や盗賊を相手に実戦を経験するために偶然訪れていたバインダーグで帝国軍の陽動部隊との戦闘に否応なしに巻き込まれていた。

 

「やはり多いな……」

 

川幅500メートル、水深は一番深くても1メートルという広くて浅いイル川をリザードマンやゴーレムといった魔物、自動人形が先陣をきりその後ろに続いて陸戦型魔導兵器や歩兵が次々と渡河しそれを空を舞う飛行型魔導兵器が支援している。

 

その光景を第1外人部隊の隊長、バール・アーダルベルト中佐が煩わしそうに眺めていた。

 

「隊長、民間人の避難及び各部隊の戦闘準備完了しました。ご命令を」

 

そんなバール中佐に急かすように声を掛けたのはカナリア王国からの移民で第1外人部隊の副隊長を務める狐耳族のエルヴィン・ロンメル少佐だった。

 

「ん?……あぁ、そうだな。作戦通りやつらが川を渡りきったら攻撃を開始しろ。後、本部にも連絡を」

 

迫りつつある敵から視線を外し手に持っている自軍の戦力表と睨み合いを始めたバール中佐が言った。

 

「ハッ、了解しました」

 

「……」

 

ロンメル少佐の返事を右から左に流し聞きしながらバール中佐は思案にふけっていた。

 

まぁ、これだけ戦力があれば何とかなるだろう。

 

 

第1外人部隊。

III号戦車(J型の長砲身仕様)×3

 

IV号戦車(J型)×5

 

V号戦車パンター×10

 

VI号戦車

(ティーガーI)×5

 

(ティーガーII)×5

 

VIII号戦車マウス×2

 

ヤークトパンター×5

 

フンメル(自走砲)×10

 

III号突撃砲(G型)×10

 

ヴィルベルヴィント(自走式対空砲)×5

 

Sd.Kfz.251 9型(7,5cm自走砲搭載半装軌車)×10

 

 

戦闘工兵中隊。

M1 ABV×2

 

M2ブラッドレー×2

 

ハンヴィー×4

 

クーガー装甲車×2

 

M1126ストライカーICV(兵員輸送車仕様)×4

 

M1132ストライカーESV(工兵車仕様)×4

 

パトロール小隊。

ハンヴィー×2

 

クーガー装甲車×2

 

 

 

うん。これ以外に歩兵も300人程いるし、また我々、外人部隊の兵器は旧式とはいえ改良もされてる。それに行軍訓練、実戦も兼ねていたから武器弾薬燃料も腐るほど持ってきているからそっちの心配も大丈夫。

 

まぁ、練度が低いのが少し心配だが……。

 

「あ、あの……バール中佐」

 

バール中佐が戦力表を眺めながら自分が立案した作戦にどこか不備がないかと思案に暮れているとロンメル少佐がおずおずと声を掛けてきた。

 

「なんだ?」

 

「戦闘が始まる前に1つお聞きしておきたい事が……」

 

「言ってみろ」

 

「ありがとうございます。あの……私が第1外人部隊の副隊長になったのは総統閣下の推薦があったからだという話を耳にしたのですが……本当でしょうか?」

 

ロンメル少佐は第1外人部隊の副隊長に就任してからこの方、ずっと気になっていた事を戦闘が始まる前に思いきってバール中佐に尋ねた。

 

「……本当だが、それがどうかしたのか?」

 

「いえ、ただ会ったこともない私をなぜ総統閣下が部隊の副隊長に推薦したのかが分からず……」

 

少し困惑したような顔でロンメル少佐が呟く。

 

「あぁ、理由が知りたかったのか。んー、強いて言えばお前が“狐耳族の”エルヴィン・ロンメルだったからだな」

 

「は、はぁ……」

 

カズヤがドイツ第3帝国の『砂漠の狐』と呼ばれたエルヴィン・ロンメル元帥の名前と同じでまた狐耳族だからという理由で部隊の副隊長にロンメル少佐を選んだということは言わずにバール中佐は笑って答えた。

 

そんなバール中佐の返答に聞く前よりも謎が深まったロンメル少佐は首をしきりに傾げていた。

 

「ま、なんにせよ総統閣下はお前に期待しているってことだ」

 

「そう……なのでしょうか」

 

ロンメル少佐がバール中佐の説明に無理やり自分を納得させていると、突然1発の砲声がバインダーグに響き渡った。

 

「なんだ?まだ敵は川を越えていないぞ、誰が撃ったんだ?通信兵、問い質せ」

「了解。――CPより各車、発砲したのは誰か?――……了解。隊長、今撃ったのはティーガーIの2号車でした。戦果は飛行型魔導兵器1機撃墜、撃った理由は『撃てば当たるような気がしたから撃った』だそうです」

 

「…………以後、勝手な発砲は控えこちらの命令に従えと伝えておけ」

 

「了解しました」

 

CPを務める通信兵からもたらされた報告に呆れたバール中佐は力なくそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「攻撃開始!!」

 

帝国軍部隊がイル川を越えた瞬間、パラベラム軍から熾烈な攻撃が開始された。

 

まずフンメルやIII号突撃砲、Sd.Kfz.251 9型の榴弾が一斉に降り注ぎついで戦車や装甲車の砲弾、歩兵の持つ対戦車兵器や重機関銃による弾幕が展開された。

 

それにより先陣をきっていた魔物がバタバタと倒れ、流れ出た血がイル川を赤く染め上げていくが後続の魔物はそんな事を気にした様子もなく突撃を継続しバインダーグ市街に肉薄。

 

その後ろからは突撃する魔物を援護するように魔砲を撃ちまくる陸戦型魔導兵器や魔法障壁を展開しながら果敢に前進する魔法使いと魔法使いに続く歩兵がいたが、こちらも先陣を行く魔物と同様に屍を量産しつつあった。

 

また地上部隊の支援の為、飛行型魔導兵器が魔砲による空爆を行おうとしたが、妨害の為にそこかしこで焚かれている煙による視界不良やヴィルベルヴィントによる対空砲火で地上部隊の支援どころかバインダーグに近付くことすら出来ていなかった。

 

「全部隊後退せよ、予定通り敵をバインダーグ市街に誘い込め」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

数分間の間に雨あられと降り注いだ無数の砲弾と銃弾でほぼ全ての魔物と自動人形を吹き飛ばし蜂の巣にした後、陸戦型魔導兵器が街に接近してきたのを確認したバール中佐から各部隊に命令が伝えられた。

 

各部隊はそれに従いバインダーグ市街に後退、陸戦型魔導兵器や歩兵部隊を市街地に誘い込む。

 

「敵が後退していくぞ!!逃がすな!!」

 

「この機を逃すな、突撃!!」

 

パラベラムの部隊が後退していくのを目にした帝国軍の指揮官らはそれが罠だと気付かぬまま部下達に追撃命令を下した。

 

「クソッ、どこいきやがった!!」

 

波が引くようにあっさりと市街地の中に消えて行ったパラベラム軍の後を追って市街地の中に足を踏み入れた帝国軍の兵士達は、レンガ造りの建物が建ち並ぶバインダーグ市街の中を慎重に進みながら姿の見えないパラベラム軍を必死に探していた。

 

「っ!?鉄の化物が来たぞ、隠れろ!!」

 

帝国軍の兵士達がバインダーグの大通りを進んでいると前方の曲がり角からM1 ABV――略称ブリーチャー(切り開く者)が荒々しいキャタピラの音を響かせながら姿を現した。

それを見た帝国軍の兵士達は攻撃から身を守ろうと咄嗟に地面に伏せたり、物陰に隠れたりしたがいつまでたっても攻撃が始まらなかった。

 

「……ん?おい、あいつ他の鉄の化物みたいに大砲がついてないぞ」

 

恐る恐る顔を上げたとある帝国軍の兵士がM1 ABVの砲塔に大砲が付いていないことに気が付いた。

 

「……本当だ。なら近付いて中にいる奴等を殺しちまえば」

 

「勝てるな」

 

ゴクリと生唾を飲み込み、今まで各地で煮え湯を飲まされてきた鉄の化物――戦車に勝てるかもしれないという希望を抱いた帝国軍の兵士達はそろそろと静かに立ち上がった。

 

「ヘヘヘッ、やっぱり撃ってこねぇ。……行くぞ!!突――っ!?伏せろ!!」

 

帝国軍の兵士達が立ち上がり今まさに突撃を行おうとした瞬間、ブルドーザーが付けているような排土板を車体前面に装備したM1 ABVが砲塔上部に搭載されていた地雷除去爆索を帝国軍兵士に向け射出。

 

ロケットにより打ち出された地雷除去爆索――縄状のC-4爆薬は数秒間の飛行の後、帝国軍兵士達の目の前に落下した。

 

「ひっ!?………………なんだこりゃ?縄?」

 

「ビ、ビビらせやがって!!今に見てろ、今度こそ突撃ィー!!」

 

飛んできたものが地雷除去爆索だとは知らない帝国軍兵士達は虚仮にされたと思い怒りで顔を真っ赤にしM1 ABVに向かって駆け出した。

 

「「「「オオオォォォーーー!!」」」」

 

そして雄叫びを上げ剣や槍を構えて突き進む帝国軍の兵士が後少しでM1 ABVに辿り着こうとした瞬間、ただの縄だと思っていた地雷除去爆索が爆発、帝国軍の兵士達は何が起きたのか分からぬままこの世を去った。

 

「ブリーチャー01よりCPへ。ポイント3で敵歩兵を多数撃破。これより移動する」

 

『CP了解、ポイント2へ移動しブリーチャー02の援護にあたれ』

 

「ブリーチャー01、了解。――おいポイント2に移動だ」

 

戦果報告を終え無線を切ったブリーチャー01の車長は操縦手の部下にポイント2への移動を命じた。

 

「了解、それにしても隊長、案外使えますねこの手」

 

「そうだな。この勢いに乗って次も殺るぞ」

 

ブリーチャー01の車内では望外な戦果を得ることが出来たことに喜ぶ声で溢れていた。

 

 

「こちらポータル隊、魔導兵器がポイント4―5を通過これより攻撃を開始する」

 

『CP了解、幸運を祈る』

 

パトロール小隊所属のパラベラム軍の兵士達がバインダーグ市街の細い路地に身を隠し帝国軍を待ち伏せていた。

 

そして魔法使いや歩兵を引き連れ大通りをゆっくりと進む2体の魔導兵器が真横を通過していったことをCPに知らせた後、カールグスタフを担いだ砲手がバッと大通りに躍り出て一瞬の隙を突き対戦車榴弾を魔導兵器に叩き込んだ。

 

コックピットのある魔導兵器の胴体部分に命中した対戦車榴弾は一瞬でパイロットごとコックピットを焼き尽くし、胴体中央部から紅蓮の炎を吹き出した魔導兵器は爆音と共に周りにいた数人の歩兵を押し潰しながら地面に崩れ落ちる。

 

「なっ、よくもカルスをっ!!これでも――な、なんだ!?外が見えない!!」

 

すぐ隣から聞こえてきた爆発音で仲間がやられたことを悟った僚機のパイロットが仇を討つために振り返ろうとした瞬間、魔導兵器の目――コックピットにいるパイロットに外部の映像を送るカメラを別の場所に隠れていたパラベラムの兵士が50口径のアンチマテリアルライフルより高性能で威力の勝る25mm弾を使用するM109重装弾狙撃銃(ペイロードライフル)を使って撃ち抜いた。

 

「今だ、撃て」

 

「発射!!」

 

外部の様子が映る映像が途切れ、慌てる魔導兵器に向け再装填を終えたカールグスタフからまた対戦車榴弾が発射され陸戦型魔導兵器の撃破スコアを更新した。

 

「うん?……隠れたつもりか?ケビン殺れ」

 

「了解」

 

魔導兵器に対する攻撃に乗じて魔法使いや歩兵を射殺していたパラベラムの兵士が魔法を使って自らの四方に岩の壁を作り銃弾から身を守った魔法使いの存在に気が付いた。

 

四方を岩の壁で囲っただけで上は空いていたので手榴弾を投げ込んで終わりにしても良かったが、最近配備されたばかりのM25 IAWS――エアバースト・グレネードランチャーの威力を確かめる絶好の機会だと考えたパトロール小隊の指揮官の兵士がM25 IAWSを持つ兵士に指示を出した。

 

指示を受けた兵士は、M25 IAWSに内蔵されたレーザーレンジファインダーで目標までの距離を測り起爆位置を設定。

 

すると薬室内に装填された25mm弾(高性能爆薬エアバースト弾)に諸元情報が自動的に入力され、それを確認した兵士は迷うことなく引き金を引いた。

 

ボンッという発射音と共に発射された25mm弾は自らが何回、回転したかで飛んだ距離を測りあらかじめ決められたていた距離に到達すると空中で炸裂。

 

それにより岩の壁の中に隠れていた魔法使いは爆風と衝撃波に体を叩きのめされ、穴という穴から血を流し死亡した。

 

 

 

「そろそろ頃合いか……全部隊に通達、敵を川に押し戻せ」

 

帝国軍を市街地に誘い込み、地の利を生かして約半数程度の敵を撃破したことで得た勢いに乗ってバール中佐は揮下の部隊に後退から一転、反撃を命じた。

 

「了解しました。全部隊に――……えっ!?あ、は、はい、了解しました!!た、隊長、本部より緊急通達10分後にジャール平原上空にて核爆発を行うとのことです!!またそれに伴い発生するEMPに注意せよと!!」

 

突然割り込んで来た無線に顔色を変えた通信兵が通信を終えるなり大声を張り上げる。

 

「なっ、核を使うだと!?本当なのか、それは!!」

 

「ま、間違いありません!!直通で来た無線以外でもオープンチャンネルで全周波数に向けて繰り返し警告がなされています!!」

 

本部から伝えられた驚くべき報告にバール中佐は目を剥いていた。

 

 

 

「――……了解した。さぁ敵を叩き潰すぞ!!全車パンツァーフォー!!」

 

CPからの指示と警告を受け取った第1外人部隊の戦車隊は気合いを入れ突撃を開始した。

 

『て、敵が突っ込んで来る!!――ウ、ウワァアアア!?』

 

『いやだ!!死にたくない!!』

 

『引け!!撤退だ!!引けぇー!!』

 

「なんだ、何が起こっている!?――……おい、なんだあれは!?」

 

そこかしこで第1外人部隊の戦車隊による反撃を受け混乱する帝国軍パイロットの切迫した声や断末魔が入り交じった通信を聞きながら状況が掴めず、立ち往生する3体の陸戦型魔導兵器の前に某銀河帝国の登場曲を流しながら世界最大の超重戦車マウスが現れた。

 

『分からんが敵だ、撃て!!アイツを倒した後、我々も撤退するぞ』

 

「了解!!」

 

まるで壁が迫ってくるような感覚を味わいながらも3体の陸戦型魔導兵器はマウスに向けて魔砲を構え魔力弾を何十発と撃ち込んだ。

 

「やったか?」

 

放たれた魔力弾の爆発によって発生した煙に呑まれ姿を消したマウス。

 

『あれだけ魔力弾を撃ち込んだんだ、いくら鉄の化物でもくたばったはずだ』

 

あまりしっかりとした手応えがなく撃破出来たのかが少し不安だったが、過剰なほど魔力弾をお見舞いしていたこともあり3体の陸戦型魔導兵器はマウスを撃破したかの確認よりも撤退することを優先し踵を返してその場から立ち去ろうとした。

 

直後、砲声が鳴り響き一番後ろにいた陸戦型魔導兵器が爆散する。

 

「な、なんだと!!」

 

『嘘だろ、生きていたのか!?』

 

仲間が殺られ驚き振り返った陸戦型魔導兵器が見たのは55口径 12.8cm KwK44戦車砲から煙を立ち上らせるマウスの姿だった。

 

「前進せよ!!」

 

数十発の魔力弾を食らったはずのマウスだったが砲塔の前面装甲は220〜240mm、車体の前面装甲ですら200mmもあるため、単なる魔力弾では破壊することなど到底不可能であった。

 

「俺達だけでアイツを倒すのは無理だ!!逃げるぞ!!――うわっ!?」

 

マウスを撃破するのを諦めて撤退しようとした陸戦型魔導兵器の脚をマウスの副武装である36.5口径 7.5cm KwK44戦車砲が撃ち抜く。

 

『クソッ!!化物の相手なんかしてられるか!!』

 

「え、あっ、おい!!待ってくれ!!俺を置いて行くな!!」

 

脚をやられ戦闘不能に陥った味方を見捨て残る陸戦型魔導兵器が逃げて行った。

 

「むっ!?一体逃げたぞ、追え!!」

 

逃げた陸戦型魔導兵器を追うべく整地での最高速度20キロを出しつつマウスが追撃を開始した。

 

「なっ!?おい、こっちに来るな!!来るんじゃない!!」

 

脚をやられた為、腕を使いなんとかマウスから遠ざかろうとする陸戦型魔導兵器だったがマウスの進む速さのほうが速かった。

 

「来るな、来るな、やめてくれ、頼む!!い、イヤダァアアア!!」

 

メリメリと音を立てゆっくり機体を押し潰される恐怖を味わいながらパイロットは絶叫し、なんとか機体から脱出しようとしたが脱出用ハッチが壊れ脱出できず、気の狂いそうな恐怖に包まれつつ最後はマウスの188トンの巨体にブチッと潰れてしまったのだった。

 

 

「本部より追撃命令が下りました」

 

「……あまり気乗りしないが、敵を逃がす訳にもいかんしなぁ。行くか」

 

ジャール平原上空で起きた核爆発により発生したEMPで飛行型及び陸戦型魔導兵器が使えなくなった帝国軍は戦況が劣勢に陥っていたこともあり、あっという間に撤退。

 

バインダーグの防衛成功を喜んでいた第1外人部隊だったが、通信が回復した直後に送られてきた帝国軍の追撃命令に勝利の美酒を味わう暇もなくイル川を越えて帝国軍追撃のためアルバム公国の領内に入った。

 


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