ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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これは出産を控えた千歳が病院に入院している最中の出来事である。

 

「――続けてくれ」

 

カズヤはパラベラムの屋台骨である千歳の抜けた穴を埋めようと、いつにも増して意欲的に職務に取り組んでいた。

 

「ハッ、では次に鹵獲した魔導兵器――……我々の呼称ですと人型機動兵器・アサルトアーマーですが閣下のご命令通りに大幅な改造、改良を加え戦力化を致しました。パイロット達は現在も訓練中ですが反攻作戦開始時までには3個大隊規模の部隊が編成出来るかと……。またアサルトアーマー専用の武器は現在制作中ですので一先ず他の兵器から流用、改造した物をつけてあります。詳しくはお手元の報告書をご覧下さい」

 

技術省にある部屋の一室でカズヤはクロッツ技術大佐の言葉に従い、伊吹や他の将官達と共に手元の書類に視線を落とす。

 

 

通常型アサルトアーマー。

基本兵装

頭部

M61バルカン×2

 

腕部

GAU-8アヴェンジャー

 

肩部

ロケットポッド×2

(M261ハイドラ70ロケット弾・計60発)

 

脚部

ミサイルポッド×2

(中距離多目的誘導弾・計8発)

 

その他

短刀×2

 

対人用Sマイン・クレイモア

 

 

カズヤ達が報告書に視線を落とし記載内容を読み終えた頃にクロッツ技術大佐が再度、口を開く。

 

「なお、ご覧頂いている基本兵装はあくまでも一例ですので任務の内容に合わせ兵装の変更は可能です。加えて魔導兵器と一緒に鹵獲されたランス型の魔砲についてですが、魔力が結晶化した魔石を燃料にして搭載している魔導炉を稼働させ動く魔導兵器と違い、我々のアサルトアーマーは改良型魔導炉とディーゼルエンジンを併用し動くため魔導兵器と比べて搭載する魔石の量が約半分となっております。そのため撃つ度に魔力を大幅に消費し、なおかつ威力の低い魔砲を使うよりも用意した実弾兵器を使う方が効率的でしかも航続距離――活動時間が伸びるため、わざと使用しておりません」

 

ま、それが妥当な判断か……。

 

カズヤは話を聞きながら報告書に記載されている内容を読み、そう結論付ける。

 

それにしても格好はウチの方がましだな。

 

……まぁ、こっちは技術者の趣味に走り過ぎだがな。

 

カズヤの見ている報告書には魔導兵器と呼ばれていた頃のずんぐりむっくりの姿ではなく改造、改良されスラリと細くスマートになったアサルトアーマーの写真が貼られ、そしてその隣には日本の鎧武者風の追加装甲を装備したアサルトアーマーの写真が添付されていた。

 

「ここで蛇足ですがアサルトアーマーの専用武器について説明を付け加えさせて頂きます。次のページをご覧下さい。製造中の武器は30mmアサルトライフル、57mm軽機関砲、88mm重機関砲、120mm狙撃砲、150mm無反動砲、携帯式対魔導兵器擲弾発射器・パンツァーファウスト等。近接戦闘用の武器ではバスタードソード、コンバットナイフ、ハルバード、日本刀等となっています」

 

話が製造中の武器のデザイン画と性能の書かれたページに移る。

 

「これらの武器は反攻作戦開始時には間に合いませんので生産が完了次第、試験運用目的で各アサルトアーマー部隊に送り実戦の中で随時欠陥を見つけ出し改良していくという手法を取ります。えー――……次にアサルトアーマーの派生型及び各タイプについてご説明致します。5ページをご覧下さい」

 

クロッツ技術大佐の言葉に合わせて会議室の中に報告書を捲る音が響く。

 

 

複合型(履帯式機動強化型)アサルトアーマー。

 

通称カノーネパンツァー。

アサルトアーマーの上半身と戦車(10式・メルカバMk4)の車体を合体させた支援戦闘車輌。

 

飛行型アサルトアーマー。

F-22・F-23・F-35・Su-35・T-50の5機種を元にしてアサルトアーマーを合体させた可変戦闘機。

 

(※現在試作機のみ完成)

 

特型アサルトアーマー。

 

鹵獲した超大型魔導兵器を元にした決戦兵器。

 

 

もはやSFの領域だな……。

 

カズヤは報告書に記載されているアサルトアーマーの派生型を見てそんな事を考えていた。

 

「こちらの派生型アサルトアーマーについての詳しい説明は後程、先に鹵獲した自動人形についての説明に移ります。改造、改良の加えた自動人形につきましては約半数を歩兵支援用自立兵器とし残りの半分を当初よりあったパワードスーツ開発計画に回し強化外骨格に転用しました。こちらもアサルトアーマーと同様に現在、3個大隊規模の兵士達が慣熟訓練中です」

 

ふぅ……まだまだ報告事項があるな……。

 

クロッツ技術大佐の話を聞きながらカズヤは目の前に置かれた報告書達に手を伸ばす。

 

やれやれ、先は長い。

 

カズヤの持つ書類には新兵器開発状況・計画についてと書かれておりP1500モンスター、ラーテ、神の杖、荷電粒子砲、レールガン、ツァーリ・ボンバ、魔力暴走を利用した新型弾頭、空中艦隊計画などのある種ロマン溢れる文字が羅列されていた。

 

「あの、閣下……」

 

「うん?あぁ、すまん聞いてなかった。なんだ?」

 

「いえ、その……このような細事を閣下のお耳に入れるか迷ったのですが……」

 

クロッツ技術大佐は迷いながらも話の流れを止めて、それを口にした。

 

「……第7技術工廠で女の幽霊が出た?なんだそれは?」

 

「ハッ、つい最近のことなのですが、第7技術工廠に泊まり込みで作業をしていた技術者や工員が真夜中に工廠内の廊下を徘徊する女の幽霊を見たとの報告が相次ぎまして……」

 

幽霊……ねぇ。この世界には幽霊みたいな魔物もいるが……。みすみす本土に魔物の侵入を許すようなぬるい警備態勢じゃないぞ?

 

クロッツ技術大佐の予想外の報告にカズヤが頭を悩ませている時だった。

 

――ゥゥウウウーーー!!

 

本土全体に緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。

 

「何事だ!?」

 

いくつかある警報音のうち、今現在鳴り響いている警報音が第1種戦闘配置を命じるものであることに気が付いたカズヤが何が起きたのかと窓の外に視線を走らせる。

 

「――……ダメです、司令部と繋がりません!!回線が遮断されている模様!!」

 

「なっ!?か、閣下!!大変です!!有線、衛星、ネットを含む全ての回線が不通になっています!!」

 

「なん……だとっ!?」

 

状況を確認するために司令部に連絡を取ろうとした部外達がパラベラムにある全ての通信網がダウンしていることをカズヤに知らせる。

 

「閣下、地下の緊急シェルターに移動を」

「いや、それよりも司令部に行って事の状況を確認する。レイナ達は千歳の所にいってくれ」

 

「了解です」

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

いつの間にか鳴り止んでいた警報音に疑問を抱きつつ伊吹と護衛を引き連れたカズヤは司令部へと向かい、メイド衆はつい最近になって各自に与えられた妖魔や獣人のみで編成されているメイド部隊を引き連れて千歳の入院している病院へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

司令部に到着したカズヤが見たものは修羅場と化した司令部内の様子だった。

 

「ダメです!!防衛システムオフライン!!我々の操作を受け付けません!!クソッ!?何者かに防衛システムの一部を掌握されました!!」

 

「そんな嘘でしょ……か、核発射コードまで奪われました!!どうやって奪われたの!?核発射コードは独立したサーバーに保存してあるのに……」

 

「馬鹿者!!早くシステムの電源を落とせ!!」

 

多くの電子機器が置かれた司令部内の異常な状況を一瞬で把握した伊吹が目の前にいる大勢のオペレーター達に向かって叫ぶ。

 

「今……っ!!やってますが……っ!!クソッ!!電源が落ちません!!」

 

伊吹から指示が飛ぶ前に、パラベラムの防衛システムを守るため全システムの遮断を行おうとしていたオペレーターがキーボードを激しくタイピングしながらやけくそ気味に答える。

 

「……閣下、いかが――閣下何を?」

 

オペレーター達の必死の抵抗にも関わらず、時が経つにつれて防衛システムの指揮権が奪われていく現状に伊吹がカズヤに指示を仰ごうと隣を見ると、隣にいたはずのカズヤはいつの間にか司令部内の配電盤を弄くりまわしていた。

 

「これか?いや……こっちか?あああぁぁぁ〜〜〜クソッ!!分からん!!」

 

配電盤を弄くっていたカズヤは、そう悪態を吐くとおもむろに腰のホルスターからM1911コルト・ガバメントを引き抜き配電盤と電力を供給している配線に45ACP弾を浴びせた。

 

「フンッ!!」

 

パンッ、パンッ、パンッと銃声が司令部内に響き、次いで配電盤から火花が飛び散りパラベラムの地下の最下層にある原子力発電所からの電力の供給が強制的に物理切断された。

 

「ふぅ……これで時間が稼げる」

 

「「「……」」」

 

カズヤの荒っぽいやり方で司令部全体が真っ暗になってしまったが、防衛システムを守ることには成功した。

 

 

「……開発中の人工AIが暴走しただと?」

 

時間稼ぎに成功したカズヤ達が防衛システムをハッキングしていた犯人を探そうと躍起になっていた時、手懸かり……というか原因が思わぬ所からやって来た。

 

「はい……」

 

今回の騒動の元凶となってしまったクロッツ技術大佐や、その部下である技術者達は青ざめた表情でカズヤの前に立っていた。

 

「元々は自立型無人兵器用に制作した人工AIだったのですが、試しにとある人物の人格をコピーしてプログラムに加えた所……我々の制御下から離れてしまい……」

 

「……その、とある人物ってのは?」

 

「副総統閣下です」

 

「「「……」」」

 

……で、この要求って訳か。

 

主電源からの電力供給が遮断されたことで非常電源がつき明かりが戻った司令部内の一番大きな液晶画面にはカズヤが1人で第7技術工廠に来るようにとデカデカと書かれていた。

 

「行くしかないか……」

 

「閣下!?何を言っているのですか!!危険ですからここに居て下さい!!第7技術工廠には我々が――」

 

「ダメだ。伊吹達はここで待機。相手は俺をご指名なんだぞ?まぁ心配するな相手は千歳の人格だからな千歳の操縦法はよく理解している」

 

「………………分かりました。ですが第7技術工廠の前までお供します」

 

副総統閣下の人格だからこそ心配なのですよ……。

 

伊吹の懸念を知ってか知らずかカズヤは護衛の兵士が携えていたH&K HK416と装備一式を借り受けると第7技術工廠に向かった。

 

「くれぐれもお気をつけて……」

 

「あぁ、分かってる」

 

第7技術工廠の入り口の前に心配そうな表情を浮かべる伊吹達を残し、人気の全くない内部に入ったカズヤはHK416を油断なく構え、廊下を進んでいた。

 

「……」

 

長い廊下を進み指定されてた部屋――鹵獲した自動人形を利用した人型自立兵器の生産施設内に入ったカズヤはより一層警戒感を強める。

 

――コツ、コツ、コツ。

 

カズヤが警戒感を強めた瞬間を見計らったように生産施設の奥の方から誰かが歩く足音が聞こえて来る。

 

……さて、蛇が出るか鬼が出るか。

 

カズヤが足音がする方にHK416の銃口を向けて足音の主が姿を現すのを待っていると。

 

――コツ、コツ、コツ。

 

――コツ、コツ、コツ。

 

――コツ、コツ、コツ。

 

前方だけでなく前後左右、全方位から足音が聞こえて来た。

 

……まずったか?囲まれたな。

 

包囲網を狭めるように接近してくる足音にカズヤは少しHK416を強く握り締める。

 

……おいおい冗談だろ。

 

カズヤは姿を露にした足音の主を見て激しく動揺した。

 

「お初にお目にかかります、マイマスター。ようやくお会い出来ました……」

 

真正面から現れた一体以外は、パラベラムが鹵獲した自動人形を利用して製造した歩兵支援用自立兵器の武骨な姿をしていたが、カズヤの真正面に立つその一体はまさに千歳の姿形をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「その体はどうやって作った?」

 

「ハッ、オリジナル(千歳)の遺伝子を使いクローンを作ってから、そのクローンの体に改造を加えました。人目に付かないように秘密利に機材を用意してクローン体をつくるのにはかなり苦労しましたが。……ですから私のこの体はバイオロイドとサイボーグの中間と言った所でしょうか……。最もこの体は外部端末のようなもので“私”の本体はパラベラムのメインサーバーと、バックアップとして独立した幾つかのサーバーに保存されています。ですから、たとえ何らかの事故や事件でこの体が破壊されようと“私”が死ぬことはありません」

 

目の前で跪いている存在に敵意の無いことを確認したもののHK416からは手を離さずにカズヤは話を聞いていた。

「……」

 

……しかしクローンを元にしているだけあって見れば見るほど千歳だな。

 

 

「――マスターのお役に立つために全システムを掌握する必要があり先程、システムに干渉していたのですが、それによってご迷惑をお掛けしてしまったようで誠に申し訳ありません。いかなる罰であろうと慎んでお受け致します」

 

「うん?……あぁ、まぁ終わった事だ。いいさ。それよりお前の名は?」

 

「寛大なお言葉に感謝いたします。……名はまだありません。もしよければマスターから我が名を承りたいと存じ上げます」

 

……名前……ねぇ……。

 

聞いた話によれば既にパラベラムの全システムを掌握し、支配下に置いているという恐るべき存在に名を付けて欲しいと乞われ悩むカズヤ。

 

「………………………………千代田……は安易過ぎるか?」

 

「マスターより名を承れるのであればいかような名でも至高の限りでございます」

 

体は千歳と同じで大人の物ではあるが、人工AIとして生まれ千歳の人格を植え付けられてからまだあまり時間がたっていないためか、カズヤの前で跪いている存在は幼子のような必死を垣間見せながらカズヤの問いに答える。

 

……俺にネーミングセンスがないのが惜しまれるな。

 

「そうか、ならお前は今日から千代田だ」

 

「承知致しました。マイマスター貴方様に絶対の忠誠と服従を……」

 

頭を垂れてカズヤに服従を誓う千代田。

 

「ありがとう。……さて、みんな心配しているだろうからそろそれ行くか。お前のことも紹介しないといけないしな」

 

「はい、マスター」

 

カズヤから差し出された手を恭しく取り、立ち上がった千代田はカズヤの背後に控えるようにしてカズヤの後について行った。

 




えー、一応説明を加えさせて頂きます。
(´-ω-`)

本話で登場した新兵器達(アサルトアーマーやパワードスーツ(強化外骨格)などなどは、おまけ的要素であります)

本作品のタイトルはあくまでもファンタジー世界を“現代兵器チート”が行く。ですので、当然の如く現代兵器に焦点を当てます。
(´∀`)

ですから未来的兵器が主戦力となることはありません。

といっても未来的兵器にもある程度は見せ場がありますが……(汗)

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