ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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エルザス魔法帝国の中で帝都に次ぐ規模を誇り、またキロウス海とテール海を繋ぐ海峡――マーロン海峡の目と鼻の先にあるために人や物が自然と集まり結果、一大交易港としての役割も果たしている副都市グローリア。

 

風土の関係で土と日干しレンガで建てられ壁や屋根を石灰で白く塗った白亜の建物がズラリと並び、その白く美しい街並みで旅の者や寄港した海の男達の目を楽しませる。

 

そして街並みから視線を移し街中を見てみれば日除けの布を纏った大勢の人が行き交い戦時中だと思えないほど活気に溢れていた。

 

だが、それも表通りに限っての話しで一歩裏通りに入れば澱んだ空気が満ち、地方から仕事を求めて出てきたはいいが職にありつけず浮浪者になった者、つらい現実から目を背け薬漬けになった生きる屍がところ構わず横たわり、脛に傷持ち表通りを歩けぬチンピラや冒険者崩れのゴロツキの類い、グローリアの貧困街に暮らす者達等が闊歩していた。

 

そんな裏と表の顔を持つ都市、グローリアの中心には堅牢な壁に守られた巨大な城と豪華絢爛な宮殿が帝国の権威を物語るように建っている。

 

海に面した北側には都市を取り囲み海の中にまで続く防壁があり、そして防壁の合流地点には交易船や漁船が出入り出来る唯一の門――大門が存在した。

 

また大門の外側には岩礁を埋め立てて作った砦が乱立し海からの侵略者を二重に阻む。

 

そんな風に厳重な防衛態勢が敷かれている北側だが、なにも北側だけが厳重に守られているのではない。

 

戦略的にも地理的にも重要な位置にあることに加え帝国の副都市でもあるためにグローリアは都市全体が高度に要塞化され鉄壁の防衛態勢が整えられており、また防衛のために配備されている戦力も生半可な物ではなかった。

 

「来ねぇな……敵」

 

そんなグローリアから30キロ程離れた空を数十機の飛行型魔導兵器が編隊を組んで哨戒飛行を行っていた。

 

『1番機より3番機、黙って仕事をしろ』

 

「……3番機、了解」

 

隊長機である1番機に無駄口を封じられた3番機のパイロットはつまらなそうに返事を返すと飛行型魔導兵器のコックピットの中で外の様子が映るモニターに視線を落とし青い海を眺めていた。

 

『……あ〜暇だ〜。っていうか本当に敵がここに来るんですか?』

 

3番機のパイロットが黙ってから10分後、暇を持て余した他のパイロットが声をあげた。

 

『10番機……黙っていろ』

 

『いーじゃないですか、喋るぐらい。暇なんだし……』

 

『はぁ……。貴様はもう少し緊張感を持て。いいか、敵がゼウロ海の防衛艦隊を壊滅させクナイ海峡を越えたのが1週間前。敵が真っ直ぐここに向かって来ているとしたら今この瞬間にも敵が襲ってくるかもしれんのだぞ?』

 

『アハハハ、隊長……敵もバカじゃないんですよ?いくらなんでもこのグローリアに攻め込んで来る訳がないじゃないですか』

 

『そうですよ、隊長。グローリアには数十万の兵士がいるし数千体の魔導兵器や自動人形、更に新型の大砲を積んだ500隻近い軍艦、しかも300隻以上が新型の両用艦という、そんな規模の防衛戦力が居るんですよ?』

 

『そうそう、それに噂によると渡り人がグローリアの宮殿にいるらしいじゃないですか。渡り人は皆一騎当千の猛者ばかりと聞きますからいざとなれば渡り人が敵を蹴散らしてくれますよ』

 

『貴様らは本当に気楽な奴等だな……何故グローリアにいる全ての兵士が戦闘配置に着かされているか考えてみろ、それに空中艦だって全艦が抜錨して哨戒飛行に出てるんだぞ?敵は必ずここに来るんだよ』

 

『またまた〜。敵の本命は陸路から来てるんでしょ?だったらここに来るのは囮部隊のはずだから本気で殺り合うこともないでしょ。適当にあしらって終わりですって』

 

帝国の上層部による情報規制が行われた結果、耳触りのいい情報しか与えられていない末端の兵士達は帝国が大打撃を受け窮地に陥っていることを全く知らなかった。

 

「ん?なんだ?」

 

3番機のパイロットが他のパイロット達の無駄話を魔導通信機を通じて聞いていると、モニターに一瞬黒い影が映った。

 

『3番機、どうした?』

 

「いえ、モニターに一瞬――」

 

隊長機の問い掛けに3番機のパイロットが答えようとした瞬間、彼は意識を永遠に失った。

 

『ッ!!3番機が殺られたぞ!!』

 

マッハ5という速さで飛んできたミサイルの直撃を食らい瞬く間に火だるまになった3番機はキウロス海に向けて墜ちていく。

 

そして枯れ葉のようにグルグルと回転しつつ墜ちていく最中に機体が爆発、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

『全機散開!!散開し――ぐああああ!!』

 

『く、来るなぁー!!』

 

『う、うわあああぁぁぁーーー!!』

 

『被弾した!!被弾したっ!!墜ちる!!墜ちる!!誰か!!誰か助けてくれ!!熱い!!コックピットに火が、火があああああぁぁぁぁ!!』

 

突然の奇襲攻撃にすぐさま回避行動に移る飛行型魔導兵器だったが、無数のミサイルからは逃れる事が出来ず次々と空の上で爆散していく。

 

「ッ!!3時方向、距離8000!!哨戒飛行中の魔導兵器が攻撃を受けています!!」

 

「敵襲だと!?取り舵一杯!!高度は100まで下げろ!!」

 

「と、取り舵一杯!!高度――ダ、ダメです!!回避、間に合いません!!」

 

「敵弾接近っ!!」

 

「……くそ。こんなところでっ!!」

 

飛行型魔導兵器がバタバタと撃ち落とされるのを確認した哨戒艦が慌てて回避行動に移るものの間に合わず、飛来した数十のミサイルに船体を食い破られ黒煙を吐きながら墜ちていく。

 

そうして空を埋め尽くす程の数で押し寄せたミサイル群によりグローリアの空を守るために飛んでいた全ての飛行型魔導兵器と空中航行艦が撃墜されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

大小様々な艦艇を全て合わせると4000隻近くにもなるパラベラムの大艦隊がグローリアに迫っていた。

 

「第31戦闘攻撃飛行隊、全機残弾ゼロ。これより帰還します」

 

幾つもの群れからなる遠征艦隊の旗艦であるブルーリッジ級揚陸指揮艦『ブルーリッジ』の戦闘指揮所(CIC)では遂に始まったグローリア攻略戦を無事に成功させる為に兵士達がいつにもまして真剣な面持ちで自らの職務に励んでいた。

 

「第一次攻撃隊、グローリア到達まで後10分」

 

グローリア攻略戦の開幕を告げる一撃を任された第31戦闘攻撃飛行隊(F-14トムキャットのみで編成された飛行隊)から発射された数百に上る長射程空対空ミサイルのAIM-54フェニックスによってグローリアの空を守るべく飛んでいた帝国の航空戦力に壊滅的な打撃を与えると、いよいよ本格的な攻撃が開始された。

 

「前衛艦隊より入電。長距離砲及び巡航ミサイル、対地ロケット弾による対地攻撃を開始」

 

敵航空戦力の殲滅を受けて、遠征艦隊の前衛を務める10隻のスプルーアンス級駆逐艦と3隻のズムウォルト級駆逐艦、そして大規模な近代化改装が行われオートメラーラ127mm砲やMLRS――多連装ロケットシステムの発射ランチャーを無理矢理3基から5基搭載した対地攻撃用(上陸支援用)弩級戦艦30隻からなる前衛艦隊よりロケット推進式対地攻撃用誘導砲弾やINS/GPS誘導弾、トマホーク巡航ミサイル、無動力滑空型の誘導子爆弾(ブリリアント対装甲子爆弾)を13発搭載したMGM-140 ATACMS(エイタクムス)地対地ミサイル、ブロックII型が発射された。

 

「全弾発射、全弾発射!!」

 

「叩き込めるものは全部叩き込め!!後のことなんざ考えるな!!」

 

「「「了解!!」」」

 

グローリアに向かってゆっくりと進む前衛艦隊では搭載している弾薬を全て使い尽くす勢いで攻撃が続けられる。

 

そして前衛艦隊から発射された誘導砲弾やトマホークの雨がグローリアの軍事施設をピンポイントで狙い撃ち、火炎が軍事施設を燃やし噴き上がった黒煙がグローリアの空を漆黒に染め上げる。

 

またグローリアの上空でATACMS本体から分離した誘導子爆弾が音響センサー付きの翼を展開して滑空しつつ地上を走査。

 

赤外線センサーがターゲットである魔導兵器を捕捉すると上空から攻撃を敢行。

 

整然と並んでいる魔導兵器に誘導子爆弾が命中しタンデム型成形炸薬弾が炸裂すると魔導兵器を完全に破壊した。

 

しかし、それだけでは終わらなかった魔導兵器が一体でも吹き飛ぶと周りに駐機されていた魔導兵器がドミノ倒しの如く誘爆し被害を拡大させたのだ。

 

「「「……」」」

 

炎が荒れ狂い誘爆が誘爆を誘うという手のつけられない状況に帝国軍の兵士達は消火作業を行うことも出来ずただ静かに燃えていく魔導兵器を眺めていた。

 

「た、隊長、大変です!!グ、グローリアが、グローリアが攻撃を受けています!!」

 

グローリアの外れにある、とある軍事施設ではグローリアの異変に気が付いた見張り兵が血相を変えて室内に飛び込む。

 

「なっ!!敵襲だと!?なぜ見逃した!!」

 

「え、あ、わ、分かりません!!魔導電探には何も映っていません!!」

 

「そんなバカな事があるかっ!!――ッ!!見ろ!!我々の頭の上を敵が次々と通り過ぎて行っているのだぞ!!」

 

窓から空を見上げ敵の姿を捉えた兵士が部下を怒鳴り付ける。

 

「そ、そう言われましても……。この渡り人が作った魔導電探には何も映っていないんです!!」

 

グローリアの城もしくは宮殿にいるのでは?と噂されている渡り人が作ったという魔導電探に信頼を寄せていた帝国の兵士達は肝心な時に役に立っていない魔導具に戸惑いと苛立ちを隠せなかった。

 

「クソ!!この役立たずのポンコツめ!!敵はどこから来てるんだ!!」

 

遠征艦隊の空母より発艦しグローリアに飛来した第一次攻撃隊がステルス性能を持つF-35CライトニングIIのみで編成されていた事と急造品の魔導電探の性能が低かった為に魔導電探は役立たずの謗りを受けることとなった。

 

「て、敵がこちらに向かって来ます!!」

 

「総員退避!!逃げろー!!」

 

グローリアの外れに設置されていた魔導電探は大型で、しかもレーダー施設だと一目で分かる形だった為にその存在に気が付いたF-35Cの爆撃で破壊されてしまう。

 

その結果、魔導電探は名誉挽回の機会を得る間もなく本当のガラクタと成り果ててしまったのだった。

 

「第一次攻撃隊より入電。敵の反撃は微弱。我、制空権を掌握セリ」

 

200機のF-35Cからなる第一次攻撃隊によりグローリアの航空戦力及び海上戦力は大打撃を被り完全に沈黙。

 

それによりグローリアの周囲一帯の制空権と制海権はパラベラムのものとなった。

 

「第二次攻撃隊、グローリア到達まで後10分」

 

第一次攻撃隊が未だにグローリア上空で暴れまわっている最中、対地攻撃用の兵装で身を固めたF-14やF/A-18E/Fスーパーホーネット、AV-8BハリアーII、Su-33からなる300機の第二次攻撃隊がグローリアに接近していた。

 

「第三次攻撃隊、発艦開始」

更にカズヤが空母を召喚した際に一緒に召喚されたのはいいが機種転換の訓練時間が足らず、また乗る航空機自体も足りなかったため自分達と一緒に召喚され改修を受けた愛機―零式艦上戦闘機六二型、艦上爆撃機彗星、艦上攻撃機流星、F6Fヘルキャット、SB2Cヘルダイバー、TBFアヴェンジャー等の旧式機1500機で戦爆連合部隊を組んで出撃することとなった第三次攻撃隊が重い爆弾を吊り下げながらも次々と飛行甲板を蹴って空に飛び出して行く。

 

「第四次攻撃隊、発艦準備に入れ」

 

また2隻のニミッツ級原子力空母の飛行甲板にズラリとひしめき合う80機の無人戦闘攻撃機――X-47Bペガサスが初陣前の最終チェックに入る。

 

 

「第五次攻撃隊のパイロットは出撃準備に取り掛かれ」

 

第五次攻撃隊となるヘリ部隊――AH-1Zヴァイパーやハイドラ70ロケット弾、GAU-17ミニガンで武装したUH-1Yヴェノムのパイロット達が召集を受けていた。

 

そうして夕暮れまでに都合5回に及んだ大空襲により遠征艦隊がグローリアに到着する前に、グローリアの防衛態勢は完全に崩壊し全く機能しなくなっていた。

 

それもそのはず、前衛艦隊と第一次攻撃隊による攻撃の時点で既に帝国軍の反撃手段――飛行型魔導兵器と空中航行艦は失われており。

 

続く第二次攻撃隊の誘導爆弾や対地ミサイルのピンポイト爆撃でグローリアの防衛設備の大半が吹っ飛び。

 

雲霞の如くグローリアに群がった第三次攻撃隊による水平爆撃、急降下爆撃、機銃掃射の三拍子によりグローリアの軍事施設は瓦礫の山と化し。

 

また第四次攻撃隊の爆撃ではグローリアをぐるりと何重にも取り囲む強固な街壁と城や宮殿を守る城壁に大穴が開けられ。

 

そして時間差をおいて発進した第五次攻撃隊が仲間の亡骸の回収や瓦礫の撤去を行い防衛機能を少しでも回復させようと出てきた帝国軍の兵士を機銃とロケット弾、BGM-114ヘルファイアでしらみ潰しに消し去っていったのだから。

 

「いよいよ、明日か……」

 

「えぇ。明日は忙しくなりますな」

 

最後の仕上げに艦上輸送機のC-2グレイハウンドが翌日に控えたグローリア上陸戦の巻き添えを受けないように市民に対する避難勧告のビラをグローリアの市街地全体にばらまいた事でその日のパラベラム軍の軍事活動は終了し、全ては翌日に持ち越された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……なんだよあれ」

 

「嘘……だろ?」

 

「あぁ、神様……」

 

「なんて……大きい船なんだ……」

 

未知の兵器群による空襲を受けるという激動の1日をなんとか乗り切り、生きたまま朝日を浴びることの出来た兵士達が海を茫然と眺めていた。

 

兵士達が茫然と眺める先、海の上には何十もの黒鋼の城が浮かんでいる。

 

「戦日和だな」

 

グローリアの街並みが朝日に照らされ白く輝いているのを大和型戦艦、一番艦『大和』の艦橋から艦長の有賀大佐が見つめていた。

 

「えぇ、雲1つなく風も穏やかです。天候には恵まれましたな」

 

「うむ。……して敵の様子は?」

 

有賀艦長は副艦長の返答に頷きグローリアから視線を外すと振り返り、情報端末を手に持ち控えていた情報参謀に問い掛けた。

 

「ハッ、グローリアに潜入している密偵の報告によりますと敵は徹底抗戦の構えを取っているそうです」

 

「そうか……手っ取り早く降伏してはくれんか。……続けてくれ」

 

「ハッ、後は……我々の避難勧告を受けグローリアから逃げようとする市民を帝国軍が逃がさないようにしているとの報告が」

 

「なに?では市街地にはまだ市民がいるのか?」

 

「その通りです。そのため市街地への砲撃は原則禁止となっております」

 

「……肉の壁のつもりか?なんにせよ厄介だな」

 

ふむ……グローリアに上陸した部隊が最重要制圧目標である城や宮殿を占領するには市街地を必ず通らねばならん。

 

となるとその間――市街地を通過中に敵の攻撃を受け、支援要請をされても民間人が障害となって支援砲撃、近接航空支援がまともに出来んぞ。

 

……何事も起きなければいいのだが。

 

「……艦長、そろそろ作戦開始時刻です」

 

情報参謀の報告に有賀艦長が顔をしかめていると作戦開始の時間が迫ってきていることに気が付いた副艦長が有賀艦長に声を掛ける。

 

「うん?もうそんな時間か……。では戦闘指揮所へ行こうか」

 

「「「ハッ」」」

 

最後にグローリアの美しい街並みを目に焼き付けた有賀艦長は部下達を引き連れ艦内の戦闘指揮所へ向かった。

 

「全艦所定の配置につきました」

 

「砲撃開始まで後5分」

 

「警告、甲板員は総員艦内へ退避せよ。繰り返す甲板員は総員艦内へ退避せよ」

 

グローリアの沖合い15キロの海域には『大和』を含めた70隻近い戦艦が支援砲撃を行うために集結していた。

 

「しかし……壮観だな」

 

「えぇ、これほどまでに多くの戦艦が一堂に会したことなど今まで無かったですから。本当に……」

 

戦闘指揮所の中で船外映像が流れる液晶画面を眺めながら有賀艦長と副艦長は感慨深げに話をしていた。

 

そうして2人が会話を交わしている間にも作戦開始時刻は刻一刻と迫り、作戦開始2分前になると全艦が一斉に主砲や副砲を右90度に旋回させ高角を取り砲口を目標に向け発射態勢を整えた。

 

ちなみにグローリア攻略作戦の砲撃支援のために集結した戦艦は年代から国籍まで多種多様で、見るものが見れば感涙の涙を流すこと間違いなしの光景であった。

 

「砲撃開始まで5、4、3、2、1、0」

 

オペレーターのカウントダウンが始まり、そして時計の針が午前7時を指し示した瞬間。

 

グローリア攻略の為の下準備である盛大な艦砲射撃がいよいよ始まる。

 

「主砲一斉撃ち方始め!!」

 

砲雷長の掛け声と共に右舷方向の海の上に突き出た『大和』の45口径46cm3連装砲3基9門がピカッと目の眩むような眩い閃光を放ち一斉に爆炎を吐き出した。

 

瞬間、辺りには耳をつんざき腹の底を揺さぶる雷鳴の如き轟音と凄まじい衝撃波が放たれ、波打っていた海面は衝撃波によって一瞬凹み、砲煙がモウモウと立ち上ぼり艦そのものが一斉射の反動で大きく揺れ動く。

 

また『大和』の周りに展開している他の戦艦も『大和』と同じように主砲を放ったため黒々とした砲煙に包まれユラユラと揺れていた。

 

「着弾まで……3、2、1、今っ!!」

 

数百発の砲弾が一斉に空を飛び、ヒュルヒュルという砲弾の飛翔音がまるでオーケストラのように死の曲を奏でる。

 

そして死の曲――帝国軍兵士に死を告げる曲が終演を迎え、最後に死神が鎌を振り落としたようなヒュンという音が聞こえたと同時にグローリアが爆ぜた。

 

地響きのような炸裂音がグローリアを満たし衝撃波が駆け巡り、キノコの形をした灼熱の火柱と黒煙が天高く上がり爆発で吹き飛ばされた石がチュンチュンと撥ね飛び、巻き上げられた土砂がザアザアと雨のように地上へ降り注ぐ。

 

「ぅ……ぐっ…っ…ごほっ、ごほっ…た…た…すかっ……た?」

 

数十秒間、降り注いだ砲弾の豪雨から幸運にも生き残った帝国の兵士が土埃にむせながら土砂に埋もれていた体を起こし立ち上がった。

 

「…ごほっ…そんな……なんだよ……これ……」

 

辺りを包み込む爆煙が風に流され、視界が開けると同時に兵士の目に飛び込んできたのは、思わず目を覆いたくなるようなグローリアの惨状だった。

 

何百年もの間、幾度となく外敵の侵入を拒んできた大門と岩礁の砦は土台そのものから綺麗さっぱりと消えて無くなり。

 

岩山から削り出し整形した岩やレンガを積み上げ形作られた沿岸砲台やグローリアの城と宮殿、市街地を除いた要塞エリア――昨日の空襲により大部分が瓦礫の山と化していた場所に鉢状の巨大なクレーターが幾つも刻まれ一切合切何もかもが消し飛んでいた。

「…ぅ…みんなは……みんなはどこ――」

 

風景が一変し自分がどこにいるのかも分からないまま、ヨロヨロと覚束ない足取りで仲間を探していると次弾の装填を終えた戦艦群から再度の砲撃が行われ着弾。

 

仲間を探していた兵士は閃光に飲み込まれ、そして探していた仲間との再開を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

それはグローリアに撃ち込む予定の砲弾を3分の1程消費し、多くの帝国軍兵士を砲弾神経症(シェルショック)――心的外傷後ストレス障害(PTSD)によって戦闘不能に追い込んだ時だった。

 

 

「――ッ!!『ブルーリッジ』より緊急入電!!直ちに砲撃を中止せよ。繰り返す、直ちに砲撃を中止せよ」

 

『大和』の戦闘指揮所に通信兵の声が響く。

 

「砲撃を中止……?どうした何かあったのか?」

 

「ハッ、それが……詳細は分かりませんが、なんでもグローリアの城に潜入している工作員が偶然にも渡り人を確保……したらしいのですが、その渡り人が我が国への亡命を希望しているらしく……」

 

「亡命……だと?」

 

通信兵の言葉に有賀艦長は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていた。

 

「そうです。……つきましては現刻をもって艦砲射撃は中止、上陸部隊を急遽揚陸しグローリア制圧に移ると」

 

「そんなバカな!!まだ砲撃で叩ききれていないエリアもあるんだぞ!!それに上陸部隊の揚陸は昼からだったはず、まだ上陸準備が出来ていないだろう!!」

 

「それが……準備の出来た部隊から順次上陸させるという話で……。とにかく現時点で出撃可能なデルタフォースと第75レンジャー連隊が直ちに出撃するそうです。またデルタフォースはヘリで先行し第75レンジャー連隊は陸路で市街地を突っ切り城へ向かう予定です。そして先行するデルタフォースがグローリアの城を制圧し占拠した後、可能であればヘリで渡り人をこちらに移送。無理であれば後続の第75レンジャー連隊が陸路で移送します。加えて準備が出来次第、主力の海兵隊第1、第2、第3師団及び、その他の部隊の上陸を開始。グローリアの全面制圧に移ります」

 

「兵力の逐次投入……だと?ガ島の戦訓を忘れたかっ!!万が一の事が起きたら最悪、各個撃破されるぞ!!」

 

「ッ!!……」

 

有賀艦長の一喝に何も悪くない通信兵がビクッと身を震わせる。

 

「クソッ、艦隊司令部に直接抗議してやる」

 

そう悪態を吐き『ブルーリッジ』の艦隊司令部に抗議の声を送った有賀艦長だったが、決定は覆らず上陸は開始されてしまう。

 

そしてここがグローリアを巡る戦いの大きなターニングポイントとなる。

 

また不運にも有賀艦長の危惧は現実のものとなるのであった。

 


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