ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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『エリアE−5、ポイント5―2―5にて未確認巨大生物と遭遇、これより自衛戦闘に移る』

 

第7潜水戦隊所属の『ヴィボルグ』からそんな報告が遠征艦隊へと送られて来た直後、第7潜水戦隊との交信が途絶。

 

不思議に思った遠征艦隊の司令部がSHARP――分割偵察ポッドを搭載したF/A-18E/Fスーパーホーネットを現状確認のために偵察に出してみた所、第7潜水戦隊が消息を絶った海域では潜水艦が撃沈された際に生じるオイルだまりが2つと潜水艦の残骸とおぼしき多数の浮遊物が確認された。

 

そして、ただならぬ状況を目の当たりにしたF/A-18E/Fのパイロットが更なる情報収集のために捜索範囲を広げてみれば、まるで島のように巨大な海魔――黒い海竜が長い首と縦3列に並んだ背ビレを空気に晒しつつ、6つの大きなヒレを海中で忙しなく動かしてグローリアを攻略中の遠征艦隊のいる方角に向かって15ノットの速さで泳いでいるのを発見したのであった。

 

「こちらロメオ02。エリアE−5、ポイント5―1―5にて巨大な海魔を……いや、海竜を確認。およそ15ノットで西進中。グローリアへ向かっている模様。遠征艦隊との距離は約90キロ。……………………大きさや細部は違うがまるで首長竜のプレシオサウルスを見ているようだ」

 

偵察に出たF/A-18E/Fからもたらされた信じがたい映像と凶報に遠征艦隊はてんやわんやの騒ぎになった。

 

何故なら、予想外の問題(敵方の渡り人の亡命要請)が発生したとはいえ主力部隊の上陸準備が整わぬまま作戦予定を繰り上げ無理矢理に上陸作戦を決行したツケがまわり、急遽上陸した部隊は敵の激しい抵抗に晒され各所で孤立。それらを助け出した上でグローリアを攻略するために主力である海兵隊の上陸準備を整えている最中であったからだ。

 

最悪のタイミングで、しかも距離にして約90キロという至近距離に現れた怪物に慌てた遠征艦隊はこのままあのバカでかい海竜が上陸準備を整えている最中の脆弱な輸送船団に突っ込み暴れでもしたら未曾有の大損害を被ると判断。

 

先に上陸した部隊を見捨てるような形にはなるが、万が一の事態に備え輸送船団には海兵隊の上陸準備を中断させ、直ちに現海域から離脱するように命じた。

 

その一方でパラベラム本土の司令部本部から海竜――リヴァイアサンの撃滅命令を受けた事もあり戦艦やミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦に搭載されている装甲ボックスランチャー及びMk41 VLSから200発近くの艦対艦ミサイル――BGM-109BトマホークTASMやRGM-84ハープーンを一斉に発射。

 

更に後方にいる空母群からは対潜、対艦兵器を搭載した攻撃隊を発進させ、こちらを挑発するかの如く海面付近を悠々と泳いでいるリヴァイアサンの撃滅を謀った。

 

対策を講じたことでようやく、いくらかの余裕を取り戻した遠征艦隊の司令部の幕僚達が、どれだけ巨大だと言ってもこの圧倒的な物量攻撃でリヴァイアサンは死ぬだろう。わざわざ輸送船団を退避させる必要は無かったか?と考えたのだが、ここからが遠征艦隊にとっての悪夢の始まりであった。

 

 

 

数百隻の戦闘艦から一斉に放たれ海面スレスレを音速に近い速度で飛翔するトマホークやハープーンの群れがリヴァイアサンと付かず離れずの距離を保ち雲に紛れながら飛行するF/A-18E/Fから送られて来る映像の隅に極小の大きさで映り込んだ時のことである。

 

リヴァイアサンが泳ぐのを止め、停止すると長い首を前方に突き出しつつ鋭い牙が生え揃った大きな口をパカッと開く。

 

「あん?奴は一体何を……?」

 

監視を続けるF/A-18E/Fのパイロットがリヴァイアサンのとった不思議な行動に首を傾げていると、リヴァイアサンの開かれた口の前に幾何学的な魔方陣が展開され魔力を持たない者の肉眼でもハッキリと見えるほど膨大な量の魔力が渦を巻きつつ集まり出した。

 

「おい……おいおいおいッ!?何かヤバイぞ!!」

 

リヴァイアサンは大気中や海中に漂う微弱な魔力を収集する器官である背ビレを使い、周囲からかき集めた魔力と自らの魔力と合成し高密度に圧縮した魔力弾を僅か数秒で極大化させる。

 

そして次の瞬間、極大化した魔力弾がギュッとボウリング玉ぐらいの大きさに収縮したかと思うと一転、魔力弾が破壊を撒き散らす一筋の光線となり、リヴァイアサンの頭の動きに合わせて右から左へと黒々とした魔力光線の筋が煌く。

 

直後、水平線の彼方からリヴァイアサンに迫りつつあったトマホークとハープーンの約半数が魔力光線の直撃を受け空中で爆散、搭載していた爆薬が誘爆し100個近い火球が現れた。

 

「……マジかよ」

 

圧倒的な破壊力を目にしたF/A-18E/Fのパイロットは機体を操縦する事さえ忘れ呆然と呆けていたが、そんな間にもリヴァイアサンの攻撃を辛うじて受けなかった100発あまりのトマホークとハープーンがリヴァイアサンを討ち倒さんと迫る。

 

だが、リヴァイアサンは再度口を開き先程とは細部が異なる幾何学的な魔方陣を展開。

 

再び集めた魔力を今度は光線状ではなく魔力弾のまま、小出しにして撃ち出す。

 

まるで機関銃の弾丸のように次々撃ち出される魔力弾は恐るべき命中精度でトマホークとハープーンを撃ち落としていく。

 

「マズイ、マズイ、マズイッ!!このままだと全弾撃墜だぞ!!」

 

肉眼で捉えられる程近くに来たトマホークとハープーンの残存数が最早30発も無いことに気が付いたF/A-18E/Fのパイロットが悲鳴にも似た声を上げた。

 

しかし、幸運の女神はパラベラム側に微笑んだ。

 

リヴァイアサンが集めた魔力を全て使い切り攻撃が途切れたのだ。

 

その絶好のチャンスに最後まで撃ち落とされず残ったトマホークとハープーン計15発がこれまでの鬱憤を晴らすべくリヴァイアサンの体に突っ込み大爆発を引き起こす。

 

「よしっ!!ふぅ……一時はどうなるかと思ったが、何はともあれこれでお仕舞――イッ!?」

 

火炎と爆煙に包まれたリヴァイアサンにホッと胸を撫で下ろしていたパイロットだったが爆煙の中から全くの無傷で姿を現したリヴァイアサンを見て絶句。

 

リヴァイアサンとの戦いはまだ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

最初のミサイル攻撃の後にリヴァイアサンを叩くため接近を試みた攻撃隊がリヴァイアサンの対空迎撃を受けかなりの被害を被った。

 

そのため航空機による攻撃は控えられ代わりにトマホークとハープーンの飽和攻撃が4度行われることとなる。

 

その結果、かなりの命中弾が出たもののリヴァイアサンの強固な燐が障害となり有効弾を与えるまでには至らなかった。

 

それらを踏まえた上で、かなりの防御力を有するリヴァイアサンへの最終的な対応策は水上艦の大火力を直接砲撃で一気に叩き込む作戦に決定。

 

遠征艦隊から選りすぐりの艦が選ばれリヴァイアサンと雌雄を決するための特務艦隊が臨時編成された。

 

「……第7潜水戦隊の消息は掴めたか?」

 

「ハッ、ずっと呼び掛けてはいるのですが……『バージニア』『くろしお』『ヴィボルグ』いずれも応答がありません。また消息を絶った海域にオイルだまりが2つあった事から…………少なくとも3隻中2隻は撃沈されたものと思われます」

 

「そう……か」

 

「……今現在、3隻の潜水艦救難母艦がリヴァイアサンの進路を迂回する形で当該海域に向かっております。何かを見つけたらすぐに連絡を寄越すように言い付けてありますので」

 

「すまん、気を使わせた」

 

「いえ、お気になさらず。……心中お察しします」

 

カズヤによってリヴァイアサンと名付けられた海竜を撃滅するべく会敵予想海域で三日月陣を組み待ち構えている特務艦隊の旗艦――アイオワ級戦艦、3番艦BB-63『ミズーリ』のCICでは『バージニア』の女艦長フラン・メイフィールド中佐を娘にもつダグラス・メイフィールド中将が娘の身を案じつつも任務についていた。

 

あのバカ娘め、心配をかけよって。

 

(結婚)式も近いというのにッ!!……やはり、出撃は止めさせておけばよかった。

 

表面上は平静を保っているもののメイフィールド中将の心中は不安と後悔で埋め尽くされていた。

 

「……――ッ!?潜行し移動している目標を捕捉しました!!距離3万、深度150。本艦隊に向け、なおも接近中!!」

 

しかし、メイフィールド中将の思いをよそに事態は止まることなく目まぐるしく動いていく。

 

遠征艦隊による執拗な攻撃を嫌い海中に潜ってしまったリヴァイアサンを一時的に見失っていた特務艦隊であったが、対潜短魚雷であるMk50魚雷を脇に抱えつつ空を飛んでいる数十機のSH-60シーホークがリヴァイアサンの予想進路上に大量にばらまいたソノブイが効果を発揮。

 

既に布陣を整え終わり戦いの時を今か今かと待っている特務艦隊から距離3万、深度150メートルの位置で再びリヴァイアサンを捕捉した。

 

「来たか……総員作戦通りに動け」

 

「「「「了解!!」」」

 

気持ちを切り替えたメイフィールド中将の命令が下ると特務艦隊はにわかに慌ただしくなる。

 

「シャーク隊、ホエール隊、ドルフィン隊に告ぐ。各隊は直ちに攻撃を開始せよ」

 

「『ひゅうが』及び『いせ』より攻撃隊発進」

 

「全艦対潜戦闘用意」

 

作戦開始が伝達されると同時に空を舞っているSH-60の部隊が編隊を組んでリヴァイアサンの元に向かい、次いでひゅうが型護衛艦の1番艦及び2番艦の『ひゅうが』『いせ』から97式短魚雷やAGM-114MヘルファイアII、航空爆雷等を搭載したSH-60Kが発艦する。

 

『隊長機より『ミズーリ』へ、全隊攻撃位置についた。これより攻撃を開始する』

 

「『ミズーリ』了解」

 

攻撃位置についた3隊がリヴァイアサンに向け一斉にMk50魚雷を投下。

 

直後Mk50魚雷の後部から制動姿勢制御用のドラッグシュートが展開されMk50魚雷は弾頭を真っ直ぐ下に向けたままゆっくりと降下し海に着水する。

 

着水した瞬間、Mk50魚雷はドラッグシュートを切り離しエンジンを始動。音響ホーミングでリヴァイアサンを追尾しつつ40ノットの雷速で疾走を開始した。

 

そしてあっという間にリヴァイアサンとの距離を詰めたMk50魚雷は務めを果たすべく海中で次々と起爆。

 

その衝撃により海面に高々と幾つもの水柱が上がる。

 

『隊長機より『ミズーリ』へ、全弾目標に命中した模様。だが海面上に目標の残骸物を確認出来ず、弾薬補給のためこれより空域を離脱する』

 

全ての魚雷をリヴァイアサンに叩き込んだ3隊が補給のため機首を翻し母艦へと戻っていく。

 

「『ミズーリ』より全部隊へ。作戦は継続、攻撃を続けられたし」

 

3隊が投下した大量のMk50魚雷が海中で起爆したことにより、リヴァイアサンの現在位置が確認出来なくなった特務艦隊であったが、リヴァイアサンの打たれ強さを考慮し攻撃を続行。

 

『ひゅうが』『いせ』から発艦したSH-60Kのヘリ部隊がMk50魚雷の爆発位置を中心に円を描くようにして航空爆雷を無差別に投下する。

それにより海面にはまた幾つもの水柱が天高く吹き上がった。

 

「これだけの集中攻撃を浴びせれば流石に奴もいくらか傷付くだろう……」

 

CICの中で無数に吹き上がる水柱が映るディスプレイを眺めるメイフィールド中将が言葉を漏らす。

 

「どうでしょうか。依然としてリヴァイアサンの姿は――ん?……ッ!?」

 

「――リヴァイアサン出現!!12時方向、距離2万3000!!」

 

連続して空高く吹き上がる水柱に紛れリヴァイアサンが海上に姿を現した。

 

「まだ無傷か……ではパラベラム海軍の力を存分に見せつけてやれ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

しぶといリヴァイアサンに対し特務艦隊の暴虐の嵐が吹き荒れる事になった。

 

「全艦全兵装使用自由!!」

 

「対水上戦闘開始!!」

 

奇声を発しながら長い首を苛だしげに振り回し巨体を揺らすリヴァイアサンに対し特務艦隊に組み込まれているバージニア級原子力ミサイル巡洋艦の4隻やキーロフ級ミサイル巡洋艦の4隻を筆頭にした数多のミサイル搭載艦より、一斉に艦対艦ミサイルが放たれ更に特務艦隊の主力である20隻の戦艦――

 

日本の『大和』『武蔵』『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』『扶桑』『山城』

 

アメリカの『サウスダコタ』『インディアナ』『マサチューセッツ』『アラバマ』『アイオワ』『ウィスコンシン』『ニュージャージー』『ミズーリ』

 

イギリスの『プリンスオブウェールズ』『キングジョージ5世』

 

ドイツの『ビスマルク』『ティルピッツ』

 

――の主砲、副砲が一斉に火を吹いた。

 

「第5、第6水雷戦隊突撃を開始!!」

 

また海を、大気を震わせる轟砲のオーケストラに続いて第5水雷戦隊の重巡洋艦『最上』『三隈』軽巡洋艦『龍田』駆逐艦『雷』『電』『響』『暁』

 

第6水雷戦隊の重巡洋艦『鈴谷』『熊野』軽巡洋艦『阿武隈』駆逐艦『浦風』『磯風』『谷風』『浜風』

 

で編成された二個水雷戦隊がドガドガと主砲を撃ちまくりながら全速力でリヴァイアサンに肉薄、当たれば儲けものとばかりに搭載している酸素魚雷――大日本帝国海軍が誇った九三式魚雷を魚雷発射管から全て投射。

 

海中に飛び込んだ九三式魚雷は雷跡を残さず、静かにしかし素早くリヴァイアサンに忍び寄っていく。

 

「艦対艦ミサイルの第一波、目標到達まで残り15秒!!」

 

リヴァイアサンの対空迎撃を可能な限り防ぐため、被害を出しつつも搭載しているAGM-114MヘルファイアIIで攻撃を仕掛け囮の役目を担っていた15機程のSH-60Kがトマホークやハープーン、3M24ウランやP-700グラニート等の艦対艦ミサイルの接近を受けて退避行動に移る。

 

ハエのように周りをブンブンと飛び回り、チクチクと小癪な攻撃を行い神経を逆撫でしていたSH-60Kが消えた事でようやくリヴァイアサンは間近にまで迫ったミサイル群に気付くが、最早迎撃の時間は残されていなかった。

 

「目標に……全弾命中ッ!!」

 

発射された数百発の艦対艦ミサイルは1発も欠けることなくリヴァイアサンに殺到し超弩級戦艦『大和』の2倍近くあるその巨体を粉砕するべく次々に体当たりを敢行。

 

爆炎に包まれていくリヴァイアサンが断末魔のような声を絞り出す。

 

「着弾まで3、2、1、0!!」

 

しかし、特務艦隊の攻撃は依然として収まらず艦対艦ミサイルの嵐が終わると今度は戦艦や他の艦艇から放たれた無数の砲弾が降り注ぐ。

 

たちまちリヴァイアサンは槍ぶすまのように乱立する水柱に包囲され、姿が見えなくなるが砲弾が命中した証拠である爆炎がチカチカと瞬き、確かにそこに居ることが分かった。

 

そうして数秒間の間、情け容赦なく砲弾の雨が降り続けた後、そそりたつ水柱が重力に引かれて落ち始めた時だった。

 

海中を進んでいた九三式魚雷がリヴァイアサンの脇腹に食らい付き、ドッドッドッと新たな水柱を作り出す。

 

少なくとも100発以上発射された筈の九三式魚雷であったが、命中したのは僅かに3発。

 

しかし、たった3発と言えど九三式魚雷の威力は抜群であった。

 

しかし――

 

「「「「……」」」」

 

「……目標はどうなった?」

 

攻撃が終わった直後から漂う不気味な静寂を破りメイフィールド中将が確認を取る。

 

「…………も、目標――――――健在……です」

 

レーダー手からもたらされた報告はメイフィールド中将の予想と期待を裏切るものであった。

 

「なん……だと……そんな、そんなバカなっ!!」

 

CICのディスプレイに映るリヴァイアサンは無惨な骸を晒すどころか、全くの無傷で怒りに燃え攻撃態勢を取っていた。

 

「ッ、攻撃を続けろ!!奴に反撃の隙を与えるな!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

メイフィールド中将がリヴァイアサンの反撃を怖れ、攻撃続行を命じるものの僅かに遅かった。

 

「目標から高エネルギー反応ッ!!」

 

「な――」

 

袋叩きにされ怒りに燃えるリヴァイアサンからお返しとばかりに無数の魔力弾が連続発射されたのだ。

 

直後、爆発音が響き『ミズーリ』の船体に凄まじい衝撃が走る。

 

「グワッ!?」

 

「チィ!!――被害報告ッ!!」

 

メイフィールド中将が手近な物に掴まって衝撃をやり過ごしていると『ミズーリ』の艦長が怒鳴りつつ部下に被害確認をとる。

 

「右舷中央第3副砲塔及び第1機銃群に被弾!!死傷者多数!!」

 

「弾薬に引火!!火災発生!!」

 

「クソッ、ダメコン急げ!!」

 

「「了解!!」」

 

命中した魔力弾のせいで第3副砲塔に用意されていた砲弾が誘爆し『ミズーリ』の右舷中央では火災が発生、乗員達が――ダメージコントロール要員が対処のために艦内外を駆けずり回る。

 

また黒煙を立ち上らせる『ミズーリ』の周囲では同じように被害を被った艦艇の悲惨な光景が幾つも広がっていた。

 

「報告!!先程の攻撃で大破17、中破25、小破19、轟沈9の損害!!なお戦艦で無傷なのは『霧島』『山城』『アラバマ』『ニュージャージー』の4隻のみであります!!」

 

リヴァイアサンの反撃による被害は甚大で特務艦隊の約4割に当たる艦艇が損傷を被った。

 

ちなみにリヴァイアサンの魔力弾を食らい大破、轟沈した艦艇は全て駆逐艦・軽巡洋艦クラスの艦であり、戦艦クラスの艦は最悪でも中破に留まっていた。

 

「……化物め……こうなったら“アレ”を使う!!」

 

「ッ!?まさか“アレ”のことですか!?“アレ”はまだ試験運用中です!!」

 

「そんな事は分かっておる!!だが戦況を変えるには“アレ”を使うしかないっ!!」

 

「……了解しました。直ちに『ロングビーチ』と『ベインブリッジ』、『トラクスタン』に命令を送ります」

 

たった一度の反撃で目眩がするような凄まじい被害を被った特務艦隊の惨状にメイフィールド中将は参謀長の反対意見を押し切り、試験運用中のとある兵器を土壇場で実戦投入する事を決断したのだった。

 

 

 

「艦長!!『ミズーリ』から入電!!『ロングビーチ』『ベインブリッジ』『トラクスタン』の3隻にレールガンの使用を命ず、と!!」

「なっ!?嘘だろ!!レールガンはまだ試験運用もロクにやっていないんだぞ、上は何を考えている!!」

 

「……艦長、いかが致しますか?命令はメイフィールド中将直々のモノです。突っぱねるのは……」

 

「分かってる!!……しょうがない。こうなりゃヤケだ、レールガンの砲撃準備!!リヴァイアサンに目に物見せてやれ!!」

 

「「了解!!」」

 

『ミズーリ』に座乗しているメイフィールド中将の命令を受けて電磁投射砲――レールガンを試験搭載している『ロングビーチ』の艦長は戸惑いつつもレールガンの発射準備を進めていた。

 

「1番から4番安全弁解放!!」

 

「電力供給ライン、オールグリーン!!」

 

「電力充填95……96……97……98……99…………100パーセント!!発射準備よし!!」

 

前部甲板にあった38口径127mm単装砲を撤去し代わりにレールガンを搭載した『ロングビーチ』は原子炉で発電された30メガワットの電力をレールガン本体に順次送電し充填、攻撃態勢を整えると射線を確保するため艦隊後列から前列へと移動しリヴァイアサンに対しバチバチと青白い稲光が繰り返し発生しているレールガンの2つに裂けた砲口を向けた。

 

「高エネルギー反応を確認!!第2射来ますッ!!」

 

「チィ!!取り舵一杯、回避急げ!!」

 

「取り舵一杯っ!!――ダ、ダメです、回避が間に合いません!!」

 

「クソッ!!」

 

だが、レールガン搭載艦の『ロングビーチ』や『ベインブリッジ』『トラクスタン』がいざ攻撃を行おうとした瞬間、リヴァイアサンから放たれた魔力弾が再度特務艦隊を襲う。

 

「……?……ッ!?」

 

回避が間に合わない事を知らされ悪態を吐いた艦長は思わず目を瞑り、来るべき衝撃に備えていた。

 

しかし、間近で他の艦が被弾した爆発音が聞こえた後、いつまで経っても『ロングビーチ』が被弾することはなかった。

 

幸運にも敵の攻撃が外れたのか?と考えつつ艦長が恐る恐る目を開くと視線の先には『ロングビーチ』とリヴァイアサンの射線上に無理やり艦を割り込ませ、盾となり業火に包まれる『霧島』の姿があった。

 

「我々を……庇ってくれたのか」

 

「艦長、大変です!!先程の攻撃で『ベインブリッジ』、『トラクスタン』が被弾し戦闘不能に!!そのためレールガン搭載艦で無事なのは本艦のみです!!」

 

「……レールガンの砲手に告ぐ。『霧島』の献身を無駄にするな、リヴァイアサンをブチのめせ!!」

 

『『了解!!』』

 

我が身を挺して『ロングビーチ』を守り抜いた『霧島』の働きに胸を熱くした艦長がレールガンの砲手に檄を飛ばす。

 

そして燃え盛る『霧島』の仇を取るべく『ロングビーチ』が『霧島』の影から進み出てリヴァイアサンを射線に捉えた。

 

「撃て」

 

艦長の命令と同時にレールガンの砲口から溢れる稲光の強さが増した次の瞬間。

 

ローレンツ力によって加速した砲弾がマッハ6のスピードで撃ち出され『ロングビーチ』から1万4000メートル離れた場所にいたリヴァイアサンに凄まじい運動エネルギーを秘めた砲弾が命中した。

 

最も、僅かに狙いが逸れたため胴体の一部、燐と肉をグチャグチャに引き裂いただけに終わったが、今までいくら攻撃を加えても無傷だった事を考えれば十分な戦果であった。

 

「次弾発射用意急げ!!畳み掛けるぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

今までの攻撃をものともしていなかったリヴァイアサンが血を流し、またこれまでとは明らかに違う声を出して痛みに呻いているのを見てドッと沸く部下達を諌めるように艦長が矢継ぎ早に指示を出す。

 

「――なっ!?大変です、レールガンへの送電システムに異常が発生しました!!」

 

「加えて砲口部分にも異常が発生!!砲口の一部が融解した模様!!」

 

「次弾発射は――不可能です!!」

 

「ッ、ここまで来てっ!!」

 

だが、やはりと言うべきか試験運用中の兵器であるレールガンはたった1度の砲撃を行っただけで数十箇所の異常が発生し使い物にならなくなってしまう。

 

「あっ!?目標潜航を開始します!!」

 

打つ手無しとなった艦長が地団駄を踏んでいると不利を悟ったリヴァイアサンがゆっくりと海中に潜っていく。

 

「クソォ!!このまま見逃すしかないのかっ!!」

 

魔力弾の攻撃を2度受けた特務艦隊はまさに満身創痍。

 

戦闘能力を辛うじて残す艦艇が散発的な砲撃を繰り返すものの、どの艦も追撃するほどの余力がなくリヴァイアサンが逃げて行くのをただ見ている事しか出来なかった。

 

ところがである。

 

どこからともなく突如飛来したミサイルと砲弾が狙いすましたようにレールガンによって切り開かれたリヴァイアサンの傷口に命中。

 

ミサイルが傷口を押し開け、パックリと開いた傷口から体内へ飛び込んだ砲弾が体内で爆発し大量の血肉が弾け飛びリヴァイアサンはあまりの傷に潜る事を断念せざるを終えなくなった。

 

「なっ!?今の攻撃はどこからだ!!」

 

みすみすリヴァイアサンを見逃さねばならない悔しさにうちひしがれていた『ロングビーチ』の艦長が驚きの声を上げたが、艦長の問いの答えは部下からではなく攻撃を行った張本人達から次弾と一緒に返って来た。

 

『こちらは第1独立遊撃艦隊、本艦隊はこれよりリヴァイアサン撃滅戦に参戦する!!』

 

各地を転戦していた佐藤進少将麾下の第1独立遊撃艦隊がギリギリのタイミングで戦場に到着。

 

戦況は最終局面へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

単陣形を組んで戦場に飛び込んだ僅か12隻の戦闘艦の存在により戦況は一変した。

 

「ここでリヴァイアサンを逃がしたら末代までの恥だぞ!!なんてしても仕留めよ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

最大戦速で海を駆ける『伊勢』の艦橋では佐藤少将が大声で檄を飛ばし部下達も佐藤少将の檄に勇ましく答える。

 

そんな風に士気の高い第1独立遊撃艦隊は被害を恐れる事なくリヴァイアサンに肉薄、超至近距離からの砲撃で片をつけようとしていた。

 

「目標が攻撃態勢をとります!!」

 

第1独立遊撃艦隊がリヴァイアサンに接近するとダメージを受けて動きの鈍くなったリヴァイアサンがノロノロと首をもたげ反撃を試みる。

 

「進路そのまま、機関微速、主砲発射!!」

 

リヴァイアサンの反撃が繰り出されるタイミングを計っていた『伊勢』の艦長が指示を飛ばした直後、『伊勢』は真後ろで航続する『日向』に追突されぬように注意を払いつつ速力を落とし、リヴァイアサンと自艦の射線上の海面に2発の35.6cm砲弾を叩き込んだ。

 

「ヤバい外したぞっ!?」

 

「いや……あれはわざとだ!!」

 

「っ、マジかよ!!」

 

『伊勢』の不可思議な行動を見て特務艦隊の兵士達は首を捻ったが、すぐに『伊勢』の取った行動の意味を理解した。

 

『伊勢』に向かって放たれた魔力弾が35.6cm砲弾の着弾によって出来た水柱に突っ込み、そこで爆発したのだ。

 

「機関最大戦速、取り舵50度!」

 

「さて、これで終わりだ!!」

 

奇策によってリヴァイアサンの反撃をかわし8000メートルの距離まで近付いた『伊勢』が舵を切り、全主砲の照準をリヴァイアサンに定めたのと同時に単陣形を解いて散開した『日向』『青葉』『衣笠』『五十鈴』『こんごう』『きりしま』『秋月』『照月』『涼月』『初月』『新月』の11隻も砲口をリヴァイアサンに向け攻撃を開始。

 

12隻の集中砲火がリヴァイアサンの傷を更に拡大し、内臓を吹き飛ばす。

 

そして第1独立遊撃艦隊の猛攻が終わった後、そこにあったのは砲弾の雨を浴びて力尽き息絶えたリヴァイアサンの死骸であった。

 

こうしてパラベラム――遠征艦隊にとって予想外の被害を被ったリヴァイアサン撃滅戦にようやく終止符が打たれた。

 


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