ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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第5章 1

ジズが来襲してから1週間が経過した今なお、激戦を物語る傷痕がそこかしこに色濃く残るパラベラム。

 

特に本土を含む幾つかの島々では対空砲火をくぐり抜けてきた魔物の上陸を許してしまったがために、軽視出来ないレベルでの被害が出ていた。

 

一例として本土を見てみれば道路や鉄道、橋といった交通網の寸断に始まり、水道や電気の不通、飛行場や軍港、砲台、堡塁、トーチカ、掩体壕、陣地などの損壊、戦闘に参加した部隊の全滅(部隊全体の3割の被害)や壊滅(部隊全体の5割の被害)などが挙げられた。

 

最も、それらの被害は戦闘が終結してから48時間で工兵隊の活躍や国民の協力により一通りの応急処置が施されていた。

 

戦闘によりボコボコになってしまい車両の通行に支障をきたしている道路は車体前部に排土板を装備し、また車体上部には揚重機能付きのショベルを格納した施設作業車が整地。

 

様々な要因で線路が歪んでしまったり、切れてしまった鉄道はあらかじめ線路沿いに設置されていた予備の補修パーツや別の場所に備蓄されていた補修パーツを使い修復。

 

魔物に基礎をやられ崩れ落ちたものや、戦闘の煽りを食らって破壊された橋は重量のある戦車等も通行可能な仮設橋を短時間で架橋することが出来る07式機動支援橋や油圧動作により伸縮可能な架柱が取り付けられた導板を繋ぎ合わせる事で迅速に架橋が出来る81式自走架柱橋、橋節と呼ばれるユニットを連結して浮橋や門橋(フェリー)として使用出来る92式浮橋で代用。

 

水道や電気の不通も、揚水ポンプで引き揚げた海水や川等の水を使用し1日に30トン以上の水を洗浄する能力を持つ浄水セット逆浸透2型や発電機を搭載した電源車を不通となっているエリアに配置することで一先ず解決。

 

飛行場や軍港、砲台、堡塁、トーチカ、掩体壕、陣地などの損壊は土木作業用の道具や工作機械を持った兵士、国民による人海戦術と掩体掘削装置、小型ショベルドーザー、装輪式のバケットローダーを動員し復旧。

 

そして本土のいたるところに転がっている要らぬ置き土産――魔物の死骸は大型ドーザや中型ドーザで集積し資材運搬車や79式特大型セミトレーラを牽引する特大型セミトレーラ牽引車、特大型ダンプ等で仮設の処理場へ運搬した後、焼却処分した。

 

そうした工兵隊や国民の奮闘により応急処置が施されていた本土であったが、いよいよもってカズヤのチート能力を主導とした本格的な復興作業が始まったこともあり、徐々に被害を受ける以前の姿を取り戻しつつあった。

 

しかし、ことわざにもあるように『好事魔多し』。

 

良いことには邪魔が入りやすいものなので気を抜いてはいけない。

 

現に復興の進むパラベラムには、招かれざる客達がゆっくりと静かに忍び寄ってきていたりするのだから。

 

「艦長、レーダーに感あり。本艦の正面、12時方向、距離1万メートルの海上に6つの反応を感知しました」

 

先の戦闘によってかなりの数の損傷艦が出たため、通常よりも随分と少ない数で、なおかつ広い範囲の哨戒任務に就いていた1隻の海防艦が何かの反応を捉えた。

 

「1万メートル先の海上に6つだと?見張り員、そちらからは何か見えるか?」

 

『……さっぱり何も見えません、艦長』

 

「ふむ、確かに何も見えんな。……レーダーの故障じゃないのか?」

 

艦橋の上部にある見張り台に立つ見張り員から丸いパイプ――伝音管を通じてもたらされた報告を耳にすると自身も覗いていた双眼鏡から目を離し、艦長はレーダー手の兵士にそう告げた。

 

「いえ、そんな筈は……」

 

「だが現実に何もないんだ。レーダーの故障だろう」

 

「そう……なのでしょうか?」

 

搭載しているレーダーが接近する何かの影を捉えた海防艦の艦橋内では、未だに納得の色を見せないレーダー手に対して艦長がヤレヤレと言わんばかりに首を振っていた。

 

「……6つの反応、本艦より9時方向、8000メートルの地点を通り過ぎました」

 

「やはり何もないぞ。レーダーの故障だな」

 

6つの光点が映る画面をレーダー手の兵士が静かにジッと見詰めている内にレーダーが感知した6つの反応は、何事もなく海防艦の横を通り過ぎていった。

 

「艦長、このことを司令部に報告をしておきますか?

 

「構わん、故障程度の問題なんぞ帰ってからの報告で十分だ。よし、哨戒を続けるぞ」

 

「……了解」

 

未だ訝しげな表情を浮かべ何かを言いたそうにしているレーダー手を放置し、奇妙な反応を捉えた海防艦とその船員達は本来の哨戒任務へと戻っていった。

 

後に自分達が取った、この行動を心底悔いレーダー手と艦長が自決してしまう事など知る由もなく。

 

「行ったようだな」

 

先の海防艦が捉えた奇妙な反応の正体、それはレーダーの故障などではなく帝国に与する渡り人、レンヤが拵えた特殊な魔導具を搭載し光学迷彩のように姿を消して航行する6隻の帆船であった。

 

そして、姿を消すことによってパラベラムの哨戒網を奇跡的に潜り抜けてきた、その6隻の帆船に乗り込んでいるのはパラベラムの捕虜となっている者達を救出せんとやって来たローウェン教教会の精鋭達である。

 

「目標の島が見えてきた……いよいよか。しかし、よくここまで厳しい監視の目を潜り抜けられてきたものだ」

 

帆船の船首に立ち波風に揺られ波打つ金髪の長い髪を白魚のような手でかきあげながら、無自覚のまま色気を振り撒き、凛々しい表情を浮かべる美女。

 

あまりにも絵になる構図に、もしここに画家が居たのであれば必死になって彼女の姿をキャンパスに描きこんでいるのは確実である。

 

しかし、歴戦の証が残る白銀の鎧や細かな装飾が施されつつも実用性を重視された剣を手に握っていることから彼女がだだの絵になる美女ではない事が分かる。

 

そんな彼女の正体はローウェン教の私兵組織たる教会騎士団の中で代々受け継がれながら憧憬と敬愛、そして畏怖を込めて『7聖女』と呼ばれている内の1人にして序列第1位、アレクシア・イスラシア。その人である。

 

ちなみに7聖女とは、ローウェン教を守る象徴にして絶対的な守護者として代々受け継がれてきた重要な役職の事である。

 

清らかさの象徴である処女であり、また他を圧倒するような秀でた能力を持っていないとなれないが、聖女になった者にはその者にとって相応しい肩書き(クラス)と聖具と言われる特殊な武器が与えられる。

 

通常、7聖女の世代交代は7人同時だが欠員がでた場合にのみ随時補充が許されている。

 

「えぇ、これぞまさに神のお導き。さ、アレクシア。私と共にローウェン様に感謝の祈りを捧げましょう」

 

「はい、大司教様。もちろんです」

 

黒い祭服を着て顔には気味の悪いぐらい満面の笑みを浮かべ、やって来た男――ローウェン教の大司教という立場で尚且つ7聖女を統括する役目も担っているレベルク・アントノフの言葉にアレクシアは頷くと剣を船の甲板に置いてから両膝をつき手を組んで聖地のある方角に向かって、アントノフ共に祈りを捧げる。

 

「……さて、本隊もそろそろ行動に入る頃合いです。我々も出遅れないよう準備いたしましょう」

 

「はい、大司教様」

 

2人が祈りを捧げ終わってから10分後、6隻の帆船は監獄島に辿り着く。

 

「さて、着きましたね。――これより我々は囚われの身となった同胞達を救いに参ります!!皆に神のご加護があらんことを!!」

 

「「「「オオォォーー!!」」」」

 

大司教アントノフの言葉を聞いて6隻の帆船に分乗していた教会騎士団の騎士達が突撃をかける前に気勢を上げる。

 

こうしてエルザス魔法帝国とパラベラムの間で行われている戦争の一大転換点の原因となる招かれざる客達が、ほぼ同時にパラベラム本土と監獄島への上陸を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

断崖絶壁の切り立った崖に囲まれた島の上部、僅かばかりの平地に建てられた捕虜収用施設の周囲をコンクリートの高い壁と有刺鉄線付きのフェンスが取り囲む監獄島。

 

その監獄島の唯一の出入口である埠頭前のゲートで突如爆発が発生。

 

次いで幾つもの銃声が響く。

 

「な、なんだッ!?」

 

「何事ですか!?」

 

カズヤを神と崇め崇拝するカル――宗教集団の、長門教の教祖を務めるセリシア・フィットロークと、そのナンバー2に勝手にされてしまったアデル・ザクセンは信徒達と礼拝を行うべく訪れていた監獄島の一室で突然の爆発に驚きの声を上げた。

 

だが、2人の疑問に答えるものは居ない。

 

居るのはセリシアとアデルと同じように困惑している長門教の信徒達と慌ただしく動き始めた看守達だけである。

 

「……とにかく、まずは状況を確かめましょう。私とアデルは警備室に向かいます。セルフィス、貴女は信徒の中で戦えるものに武器を配りなさい、そしてその内の半数を私の所に、もう半数を収用施設内に配置し看守達と共に警戒に当たらせなさい。施設内に配置した信徒の指揮は貴女が執るように」

 

「ハッ、承知いたしました。カズヤ様の加護があらんことを」

 

セリシアの指示を受けたセルフィスという童顔で細身の修道女は祈りを捧げつつ返事を返すと、黒地の修道服のスカートを僅かにつまみ上げ駆け足で部屋を飛び出し、頭に被る白いベールを風に靡かせながら消えて行った。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、セリシア殿!?いくら貴女でも今の命令は罷り通りません!!すぐに取り消して下さい!!」

 

「取り消す訳にはまいりません、それに問題が起きたのなら全責任は私の命で償いますから、お気になさらず」

 

「問題の責任などという事を言っているのではありません!!いくら総統閣下を崇拝する敬虔な信徒と言っても彼、彼女らは元囚人と現囚人の集まり、そんな者に対し武器を配るなど!!」

 

「お黙りなさい、事は緊急を要するのです。それとも貴方には今も響く銃声が聞こえないのですか?」

 

「聞こえています!!ですが!!」

 

「ならば分かるでしょう、既に先手を取られている状況なのですから、すぐにでも動かなければ後の先が取れないことを」

 

「そうは言っても!!」

 

「もうっ!!ゴチャゴチャとうるさいですよ。今は警備室に向かいます、アデル行きましょう」

 

「ん?あ、あぁ、そうだな」

 

看守の言葉を切り捨てセリシアはアデルと共に監獄島の全システムを統括している警備室に向かう。

 

そして辿り着いた先で、監視カメラに映る映像を見てセリシアとアデルは絶句した。

 

埠頭前のゲートで応戦を続ける警備兵達が因縁浅からぬ者達によって蹂躙され無惨な骸を晒していく光景に。

 

「……なぜ……何故、彼女達がここにッ!?」

 

「……セリシア、これはとてつもなく不味い状況なんじゃないのか?」

 

「え、えぇ……一般の兵や看守では彼女達の相手は出来ません。少なくともカズヤ様の親衛隊クラスでないと――本土への応援要請はどうなっているのですか?」

 

「駄目です。応援要請はしましたが、本土にも敵襲があったらしく今すぐ応援を送る余裕はないと」

 

「……」

 

通信手の言葉にセリシアは苦々しい顔で爪を噛む。

 

「アデル」

 

「なんだ?」

 

「かなり厳しい戦いになりますが、一緒に来てくれますか?」

 

「愚問だな。来るなと言われてもついていくさ」

 

「そう……それはなんとも心強いことです。ではアデル。参りましょう」

 

アデルの言葉に勇気付けられたように微笑むとセリシアは真っ白なローブをバサッと靡かせながら踵を返す。

 

「あぁ、行こう」

 

覚悟を決めたセリシアとアデルは自らの因縁にケリをつけるべく撃って出る。

 

そして捕虜収用施設の入り口にある運動場で布陣を整え、敵がやって来るのを待ち構えた。

 


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