ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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エルザス魔法帝国の中で最も繁栄を極め200万人もの人々が暮らす帝都フェニックス。

 

その帝都の中心ある台地の上には建設にあたってどれ程の年月と費用が費やされたのかを考えるだけでも頭が痛くなりそうな豪華絢爛な巨大宮殿が聳え立っていた。

 

「レンヤよ。例の計画はどうなっておる?無論、順調に進んでいるのであろうな?」

 

そんな巨大宮殿の一室、玉座の間では権力の象徴である王冠を被り白髭を蓄えた老人――エルザス魔法帝国の皇帝スレイブ・エルザス・バドワイザーが多くの護衛を侍らせながら玉座に深く腰掛け気だるそうに頬杖つき、そう言って視線の先で頭を垂れ膝を突く男に問い掛ける。

 

「ハッ、勿論でございます。陛下。なんの問題もありません、万事順調に進んでおります」

 

「ならばよい」

 

銀髪で赤と緑のオッドアイの男――エルザス魔法帝国に与する渡り人、牟田口廉也の返答に皇帝は一先ず納得したように頷く。

 

しかし、次の瞬間には鋭い視線を飛ばしレンヤを威圧するように言葉を続ける。

 

「だが、万が一にも例の計画に遅れが出た、もしくは支障が生じたなどという事になれば……いくらお主とは言え容赦はせぬぞ。心しておけ」

 

「ハッ、心得ております」

 

「例の計画を遂行するためならばいくら犠牲を払っても構わぬ。どれ程の領土を失おうが、どれ程の民草を失おうが許そう。例の計画が成就さえすればこの帝都さえも敵にくれてやってもよい。例の計画が成った時、帝国そのものである余と余の一族、そして余に忠誠を誓う真の忠臣達さえ居ればよいのだ」

 

言外にそれ以外はどうでもいいと言いながら皇帝は例の計画という物に妄執じみた執着心を露し、もうレンヤが居ること事など忘れ思考の海に没する。

 

「そうだ。余は初代皇帝だけが成しえ歴代の皇帝達が成しえ無かった偉業を成し比類なき名誉と絶大な力を手に入れるのだ、そうすれば――」

 

「――……では、陛下。失礼致します」

 

こちらの事を忘れ独り言を繰り返す皇帝にレンヤはやれやれ首を振りつつ、いつものようにさっさと玉座の間を後にする。

 

そしてレンヤが立ち去った後も皇帝は狂人のようにいつまでも妄言や戯言をブツブツと繰り返していた。

 

 

 

壁や柱にまで装飾が施され、点々と絵画や骨董品が飾られた宮殿の廊下をレンヤは供も連れず1人で歩いていた。

 

「全く、以前は名君と謳われていたあのクソジジイにも困ったもんだな。……俺様お手製の薬をちょっと盛っただけだったはずなんだが副作用で耄碌しちまった」

 

帝国が行った召喚の儀でこの世界に召喚され、召喚と同時に得ていた強大な力や能力を使ってエルザス魔法帝国の中枢に食い込み皇帝の歓心を得て成り上がったレンヤは自分で調合作製した特製の薬で皇帝や貴族達を都合のいい傀儡として操り、今では帝国そのものを我が物として手中に収め様々な実権を握るまでに力を付けていた。

 

そのため、どこに“耳”があるか分からない権謀渦巻く宮殿で今のような発言さえも可能だった。

 

「ん?誰かいる――……あいつらかよ」

 

皇帝の事を嘲笑いながら私室の前にやって来たレンヤは部屋の中に2つの気配があることに気が付き、その正体に当たりをつけると、あからさまにげんなりとした表情を浮かべた。

 

「やっぱり」

 

げんなりとした表情のまま扉を開き私室に入ったレンヤは視界に写り込んだ光景に肩を落とす。

 

「あら、お帰り。皇帝陛下とのお話はどうだったの?ケプッ、失礼。力を取り戻すためとは言えちょっと食べ過ぎたみたいだわ」

 

ゴスロリ衣装に身を包みソファーに腰掛けたマリー・メイデンは千歳によって投与された細胞分裂の抑制剤――不死殺しの試作品によって失われた力を取り戻すためにレンヤの部屋で見目麗しい女の奴隷を何人も喰らいミイラのように干からびた死体を量産していた。

 

「……はぁ……あの耄碌ジジイとの話だったらいつも通りだよ」

 

頭に手を当て、頭痛を堪えるようにレンヤが答えた。

 

「ふぅーん。それにしても面倒な手を使うのね、貴方。傀儡にするぐらいなら殺して貴方自身が皇帝の座に就けばいいのに」

 

「そうもいかないんだよ。あのジジイには何かあった時に全ての罪を背負ってもらう重要な役割があるんだから。それよりメイデン、1ついいか?」

 

「何かしら?」

 

「吸魂鬼のお前に人間を喰うなとは言わないが、せめて自分の部屋で喰ってくれ。何でわざわざ俺の部屋で人を喰うんだよ」

 

積み上げられた大量の死体を横目で見つつレンヤが苦言を呈する。

 

「うーん。嫌がらせかしら?」

 

「い、嫌がらせって……。というか新入り、お前も見てたんなら止めろよ」

 

満面の笑みで返された返事にレンヤはヒクヒクと頬を引き吊らせながら、部屋の中にいたもう1人の人物を話の輪の中に引きずり込む。

 

「俺には関係のない事だ」

 

仮面を被り、だらんと垂れ下がっている左腕の袖を風に靡かせながら我関せずとばかりに窓の外を眺めていた謎の男はレンヤの言葉を切って捨てる。

 

「テ、テメェ……はぁ……もういい、好きにしてくれ」

 

つい最近仲間となった我の強すぎる同僚達にレンヤは怒る気力を失い白旗を上げると、近くに置いてあった椅子に腰掛けた。

 

「さて、気を取り直して。こっからは真面目な話だ。メイデンの協力の元完成させたリスポーン兵器お陰でパラベラムの進軍はかなり速度が落ちている。その間に例の計画を完遂するぞ」

 

「頑張ってね」

 

「……」

 

手をヒラヒラと振るメイデンと無言を貫く謎の男。

 

協力する気など全く感じられない2人の態度にレンヤの堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にしやがれ!!俺ばっかり働かせるんじゃねぇ!!アデルのクソ野郎は寝返るし、大田のクソは勝手に死ぬし!!人手が足りねぇんだよ!!魔導炉を改良して空中要塞を作ったのも、高火力の魔導砲を作ったのも、大量の生け贄を用意してからクッソめんどくさい術式を構築して召喚した三獣も、その三獣の強化も、いろんな魔武器や魔導具の作製も、長門和也の暗殺計画の立案も全部俺がやったんだぞ!!その上、例の計画まで俺にやらせるつもりか!!」

 

「と言われてもねぇ……私が貴方に協力出来る事なんてもうないし〜」

 

「俺がここに居るのは奴を……長門和也を抹殺するためだ。それ以外の目的のために貴様らと馴れ合うつもりはない」

 

「……分かった。ならメイデンはもう一回長門を殺しに行け。今度はミスるなよ?あぁ、新入りもメイデンに付いて行け」

 

方や無気力に溢れ、方や禍々しい憎悪を発する同僚の相手を務める事に面倒臭くなったレンヤは適当に指示を出す。

 

「今はその時ではない」

 

「分かったわ、と言いたい所だけど。この男と2人でっていうのは御免蒙るわ」

 

謎の男はレンヤの指示をバッサリと切り捨てる。

 

またメイデンもレンヤの指示に反意を示しつつ謎の男を親の仇のように睨み付ける。

 

「今はその時ではないって、お前……だったら何時ならいいんだよ。というかメイデンもどうした?」

 

いつもは飄々として捉え所がないメイデンがヤケに謎の男を目の敵にしている事にレンヤが首を捻る。

 

「別に……ただ理――チッ、腐り果てた汚物とは一緒に居たくないの。だから、こいつと行動を共にするのは嫌よ。今こうしているだけでも八つ裂きにしたくてたまらないぐらいなのに」

 

メイデンは何かを言い掛けながらも、その言葉を信じたくないとでもいうかのように口にするのを止め、舌打ちをすると謎の男への敵意を剥き出しにする。

 

「それはこちらとて同じこと。貴様の顔を見ているだけで吐き気がする」

 

「あら、そう……なら吐き気なんて感じなくてもいいように殺してあげるわッ!!」

 

「望む所だ、化物。返り討ちにしてやる」

 

「まてまて!!俺の部屋で暴れるんじゃ――」

 

レンヤの制止の声は2人に届くどころか2人が戦闘を開始した音で遮られてしまう。

 

「……もういい、好きにしてくれ」

 

2人の戦いの余波で破壊され飛んできた調度品の破片を魔力障壁で防ぎながらレンヤは2人を止める事を諦めた。

 

「最近、こんなんばっかだ……はぁ。俺の桃源郷はどこにあるんだ……」

 

帝国を支配した後、召喚される前であれば絶対に構築不可能だったハーレムを作って酒池肉林の贅沢三昧を決め込もうとしていたレンヤは多忙な現実に絶望の声を漏らした。

 

しかし、レンヤにとっての受難の日々はまだまだ始まったばかりであった。

 


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