妄想わーきんぐ。やちよ   作:つば朗ベル。

13 / 17
 着せ替え人形     (13)

 帰り道。この辺りは徒歩ではあまり通ったことが無かったので、結構新鮮です。杏子さんの家自体に入った事は少なくはないですが、昨日みたいに泊まる事は無くて、入った事も久しぶりでした。たまにお邪魔した時もたいてい車で送ってくれるので、帰り道を歩く事はありませんでした。(今日は歩いて返りたい気分だったので自分からそう言ったのです)見慣れない町並みを見ながら、ゆっくり帰ります。途中で最近、開店したらしいデパートを見つけ、興味本位で少し覗いてみる事にしました。

 新しいお店に入るのは少しワクワクします。ワグナリアに初めて入るお客さんの気持ちもこんな感じなのでしょうか? そういえば、見慣れないお客さんで少しそわそわした様子で店内を見る人もたまに居る事を思い出しました。たぶん、その方と今の私は同じ気持ちなんでしょう。なんだか、常連さん以外のお客さんの気持ちも知れた気がして少し嬉しくなりました。エレベーターに乗って4階まであるそのデパートを見回っていると簡単な子供用のゲームセンターや、雑貨屋さんがありました。その雑貨屋さんには色々興味深いものが売っていましたが、結局何も買いませんでした。外国の体に悪そうなお菓子や、ミサンガが売っていました。

 

 少し歩き疲れたので、備え付けのベンチで一休みする事にします。そういえば。と思い私はケータイをポケットから取り出しました。お母さんに外で遊んでいる事を伝えようとメールを打つためです。まだ、メールを打つのは慣れていません。ですが、今はだいぶ慣れてきて、わずか30分でメールを送信することが出来ました。我ながら凄い進歩です!

 まだ、オープンしたばかりとあって、このデパートにはお客さんが多く行き来していました。その往来するお客さん達をベンチに座りながら眺めます。家族連れの人……リュックを背負っている男性……仲の良さそうな男女の兄弟…………ああ、あの兄弟さんは、微笑ましい。真面目そうなお兄さんに着衣の乱れた妹さんが抱き付くように歩いています。ていうか、お兄さんは邪魔そうです……えっと、良く見ると妹さんは背が高いです。もしかしたら姉さんでしょうか? だとしたら弟さんは大変だなぁ、なんて思います。その兄弟さんが私の前のベンチまで来ます。近くまで来たその二人を見て、私は驚きました。

「梢姉さん! いいから離れろ! 歩きづらいだろ! まったく!」

「え~、宗太ぁ、いけずー、お姉ちゃんなんだから、もっと敬え~」

 小鳥遊くんとその姉の……たしか、梢さん、でした。梢さんは私を見つけると指を刺し、

「あっ!? え~っと、なんだっけ? やちろぎちゃん!?」

「違います……」

「とどるぎちゃん?」

「違います!」

「ちよ子ちゃん?」

「違いますっ」

「えーっと、えっと、チーやち……とど……チー」

「違いますよっ、って、わざと言ってません!? 梢さん!」

 つい、ベンチから立ち上がって言ってしまいました。

「すいません、チーフ……ノリ突っ込みさせてしまって……」

 小鳥遊くんが言います。

「いいのよ、小鳥遊くん! 私が振られたんだから!」

「なかなか、やるじゃないの、えっと、お嬢……だよね?」

「さんざん、本名でもじっておいてその呼び方かよ!?」

 小鳥遊くんが突っ込みました。

「えっと、美月さんか誰かに聞いたんですか? ちなみに、私の名前は轟八千代です……」

「あ~、じゃあ、お嬢……ちゃんで、いいかな?」

「人の話し聞けよ! ていうか、なんだよその、おじちゃんみたいな呼び方!?」

「いいのよ、小鳥遊くん、お好きな呼び方で呼んでもらって……」

「じゃあ、今日はお嬢ちゃんで!」

「今日は、ってなんだよ!?」

 そんな感じで、大阪の方がよくなさる……アレです。漫才みたいな事を私の前で繰り広げている小鳥遊くんとそのお姉さん。私の話なのに私そっちのけです。杏子さんの話以外は口下手なので私はぼけーっと見守っているだけです。

「……ああ、すいません、チーフ、なんか勝手に話しまくっちゃって……ほら、そろそろ行くぞ、梢姉さん」

「えーっ、私ちょっと、お嬢ちゃんと話していこうかなぁ、ね? これから忙しいの?」

 笑顔で梢さんが聞いてきます。

「えーっと、私は特には……もう少し見て回ったら帰ろうかと思っていましたけど」

「ちょうど、新しく出来たデパート見つけたから入ってみたーって感じでしょ!?」

「あはは、そうです」

「そしたら、私と一緒に回らない?」

 矢継ぎ早に話す梢さん。

「えっ? えーっと」

 私はそこで、小鳥遊くんの方をチラッと見ました。小鳥遊くんは私の視線に気付くと、

「チーフが迷惑じゃなければ……」

 そう言ったので、

「私は別に良いですけど……」

 そんな風に、気付けば梢さんと一緒に行動する事になっていました。

「ああ、梢姉さん……安売りの酒……買うの忘れるなよ……俺一人じゃ一つしか買えないんだから……」

 最後にそう、梢さんに言うと小鳥遊くんは一人、スーパーになっている一階に下りていきました。

 

「それにしても、開店したてだけあって綺麗な店内だねー」

「そうですねぇ、お客さんも多いですし」

 私は梢さんと一緒に綺麗な店内を見て歩きます。空調が効いていて快適です。梢さんは途中で服屋さんを見ると「ここ、入ろう!」と言って、気が付くともう、お店の商品を物色していました。梢さんは「この服かわいー」と色んな服を見ては言っています。私はといえば、あまりこういうお店で服を買わないので、なんとなく落ち着きませんでした。

「そう言えば、良かったんですか? 小鳥遊くんと別れて」

「えっ? あっ、いーの、いーの、だって、私が暇だから付いてきたってだけなんだから! きっと宗太も一人でゆっくり買い物できて助かったなんて思ってるわよ」

 笑いながら梢さんが言います。小鳥遊くんも大変なのね。

「そーいえばお嬢ちゃん、最近、金髪くん店休んでるんだって?」

 ハンガーにかかった服を一枚ずつ見ながら、梢さんがそう言いました。

「えっ? ……佐藤くんの事ですか? そうですね、3週間位前から……来ていません……」

「そーなんだーまだ来てないんだー」

 そう言いながら、梢さんは一枚の洋服を手に取ります。

「これいい! ほら、お嬢ちゃん! 試着室いこ?」

「えっ? 私は……」

 遠慮しようと思ったのですが、背中を押され、半ば無理やり歩いた先には試着室がありました。その試着室は店内の真ん中に設置してあり、カーテンで区切られていると言え、お店に人がそれなりに居る中、ここで服を脱ぐというのには多少……いえ、かなり抵抗がありました。

「あ、あのっ、梢さん? わたし、こういうお店慣れてませんし、その、試着なんて、し、した事、無いんですよっ!?」

 しどろもどろになりながら私が答えます。

「えー? なに言ってるの~? 誰も見てないって~、それに一度も無いってのはさすがにウソでしょ~?」

「いえ……たしかに、子供の頃はお母さんに連れられてした頃はありますがって……はわわっ!!」

 急に、足が宙に浮いたと思ったら、梢さんに体を持ち上げられていました。ああ、なるほど段差に足を取られない用にですね……って! だからって、強引ですっ!

「ちょっと、梢さん!?」

 シャーー、っと、カーテンの閉まる音がして、気が付けば密室状態、私の背後に梢さん。それにしても試着室は狭いです……。二人で居るのだから尚さらです。

「ささ、お嬢ちゃん? この服着てみよー!」

 ウインクなんかしてノリノリで、私に服を渡す梢さん。ああ、小鳥遊くんは、普段からこんなお姉さんの相手をしてあげているのね……偉いわ。

 私はこの速い展開に、ついていけませんでしたが、差し出されるままに服を受け取ってしまったので、まあ、試着しようと思いました。

「え? あの、梢さん? 試着するんで、お外に出て……」

「えぇ? 着た後にすぐに見て似合わなかったら別の着るんだよ? いちいち面倒だよ~」

 どうやら、出る気は無いようでした。

「あっ、でも……脱ぐ時に腕とか当たっちゃうし……」

「大丈夫、そんなの気にしないから……ていうか、私が手伝ってあげよっか? 脱ぐの」

 そう言うやいなや、私の服を脱がせにかかる梢さん。ちなみに私はお願いしますとか何も言っていません! アタフタしているだけの私がなんて言おうか考えている数秒の間に気付けば、下着姿になっている私が目の前の鏡に!?

「秘儀! 早脱がせの術!!」

 それは、護身術の技ですか!?

「いつのまに!? 恥ずかしいです……」

 つい、胸の辺りを腕で隠す私。

「なに言ってるのよ、お風呂入ればその中だって見られてるじゃない」

「えっ!? ……それはそうですけど、これはこれで恥ずかしいものなんです!」

 って、何を私は男性への言い訳みたいな事を言っているのでしょうか?

「そんなに恥ずかしがってたら、裸見せられないじゃないの」

「今は、そんな必要ないじゃないですか!!」

「えっ? だって、ほら、ブラジャーも持ってきたんだけど」

 ――いつの間に!?

「それはいいですから! 梢さん!」

 真っ赤になって私が言うと、

「え~? だって、聞いたよ? お嬢ちゃん、下着通販で買ってるんでしょ? 多分、満足に数もってないよね? 今買って置いた方が良くない?」

 どこからその事を……!? ま、まあ、いいわ、それは。そうなんです。実はそうなんです。通販って、そんなに頻繁に利用するのは何かと面倒ですし、でも、買ったけど思ったより気に入らなかったりしてあまり着なかったり、ゴムがダメになったり、サイズが上がって合わなくなったりで、実は今、数があんまり無いんです。梢さんの言う通りなんです。

「あ、あの……でも、やっぱり、女性とはいえ、こんなに近くで見られるのは……」

「恥ずかしい?」

 コクコク、私が頷きます。

「はははっ、私に見られて恥ずかしいだなんて、そんな事じゃ男の子とエッチも出来ないぞ?」

 しれっとトンデモナイ事を言う梢さん。

「な、何を言ってるんですかっ!?」

 そんな、ウインクした目からお星様を出すかのようなノリでっ! って、私も何を言ってるんですか!?

「ああ、ゴメンゴメン。まだ、昼間だったね!」

 時間の問題じゃないっ……ですっ!

「こ……声は、外に漏れるんですから……梢さんっ!」

 梢さんの耳元に小声で叱咤する私。ちなみにこの間ずっと下着姿なのです。

「はは、ごめんごめん」

「もうっ、公共の場で言ってはいけない台詞がこぼれ過ぎですよ! 梢さん」

「なにお~、こぼれてるのは、お嬢ちゃんのこの胸でしょ~」

「上手い事言ってないで……」

 私が言っている途中、指で私の胸を押す梢さん。

「あんっ!? ……も、もうっ! 梢さんっっっ!!」

「お、お客様……もう少し、お静かに……」

 カーテンの外から店員の方がっ!

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 

 ――嵐のような時間でした。まるで、テニスみたいな激しいスポーツの後みたいな気分です。たぶん、30分程度の時間だったのですが、何時間もの事だったように感じられます。あの後、素直に試着室から出て行った梢さんが待つ中、梢さんに渡された服とブラジャーを急いで試着しました。その服はどれもデザインも可愛くピッタリで、なおかつお値段もリーズナブルでした。適当に選んだだけに私には見えたのですが、私は素直にこの人は凄いな、なんて思ってしまいました。

 まあ、服に関してはなぜか、大きめでずれ下がってくるのですけど……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。